弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人桃井銈次の上告理由第一点について。
 論旨(一)は上告人が被上告会社に支払うべき差損金の額につき原判決は計数上
明瞭な誤算をしていると主張するが、原判決の引用する第一審判決挙示の各証拠を
綜合すれば本件株式取引の差損金が被上告人主張の金額であること明らかである。
所論は原判決を正解せずその適法にした証拠の取捨判断、事実認定を非難するもの
で採用できない。
 同(二)は原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実認定の非難にすぎず上告適
法の理由とならない。
 同第二点について。
 論旨は証拠理由不備、受託契約準則の解釈の誤および違憲を主張する。
 受託契約準則は証券取引法一三〇条に基き証券取引所が設立に際し制定する取引
所会員と受託者間の委託売買取引に関する細則を定めたもので〔その制定には大蔵
大臣の免許、その変更にはその認可を要する〕あつて、いわゆる普通契約約款の一
種に属するものと解すべく、普通契約約款の支配する取引においては当事者間に別
段の特約のないかぎり当事者がたとえ約款内容を具体的に了知しなくとも当該約款
によつて契約したものと認められるべき効力を生ずるものであり、本件受託契約準
則(甲三号証の一〇二頁以下)もまた同様のものと解すべきである。それゆえ原判
決が「特段の反証なき限り証券業者と顧客との間の株式売買委託の信用取引につい
ては……受託契約準則による意思を有していたと認めるべきであり……」と判示し
たのは相当である。尤も、原判決挙示の証人Dの証言にも上告人(控訴人)本人尋
問の結果にも右準則に準拠する意思の有無については何ら触れたところがないのに
原判決がDの証言ならびに控訴人本人尋問の結果によつてもまたこれを認め得る旨
を判示した点は失当ではあるが、準則はこれに準拠する積極的意思が認められない
場合でも原則として当事者問に効力を生ずること前示の通りであるから右の点は「
特段の反証なき限り委託取引について当事者双方は準則による意思を有していたと
認むべき」ものとした原判示には影響を及ぼさずこの判示は結局正当である。
 論旨のうち憲法二九条一項違反をいう点は実質は右に関する単なる法令違反の主
張にすぎない。
 次に論旨は、準則一三条の八の適用要件が備わつているかどうかを明らかにしな
いままこれを適用したのは審理不尽、理由不備であると主張する。
 信用取引において業者が顧客の委託に基き売買をした場合、顧客は原則として業
者のなした売買成立の日から起算して五日目の日までに、買付代金又は売付証券の
弁済をしなければならない(本件準則の七条一項、一三条の四第一項)が、その弁
済期限の一定時日前(本件では準則一三条の四により、四日前の日の正午)までに
弁済の申出がない場合は、逐日弁済期限を繰延べるので、この場合当事者間の信用
取引関係は未決済のまま継続するのであるが、業者がさらに別の売付又は買付をな
すには顧客からの指定(場合により適当に売買をなすべきことの包括的委託)がな
ければならない。そして本件準則一三条の八は、既に弁済期限に達しても顧客が弁
済しない場合は取引の決済をつけるために、客のために保有する証券を任意売却し
その代金を損失に充当するようなことができるという趣旨のものである。従つて論
旨末段に引用する原判示(第一項)に関する部分は失当というほかない。けれども、
「手仕舞を再三請求したのに被上告人がこれに応ぜず売買取引を継続したために損
失となつた」という上告人の主張に対し原判決は、「上告人が手仕舞の請求をした
のに被上告人が勝手に取引を続けたとの事実は認められない」としているので、右
上告人の主張は事実認定の点で排斥されるほかないから、「一三条の八によれば売
付又は買付契約を締結し得る」との旨の判示は違法であつても右は判決に影響を及
ぼさないこと明らかである。原判決には所論の理由不備もしくは審理不尽の違法は
ない。論旨が違憲をいう点は実質は単なる法令違反の主張にすぎず採用できない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐

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