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平成22年9月17日判決言渡東京簡易裁判所
平成22年(少コ)第1647号損害賠償請求事件(交通(通常手続移行))
口頭弁論終結日平成22年8月27日
判決
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,原告に対し,金24万2586円及びこれに対する平成22年6月2
1日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
2訴訟費用は,被告の負担とする。
3仮執行宣言
第2事案の概要
1請求の原因の要旨
()交通事故の発生(以下「本件事故」という)1。
事故発生の日時平成22年4月12日午前9時16分ころ
事故発生の場所柏市丁目番号地先路上abcd
原告車原告所有,訴外A(以下「A」という)運転の自家用普。
通乗用自動車(efgh−さ−ijkl)
被告車被告運転の自家用普通乗用自動車(mnop−そ−qr
st(以上については,当事者間に争いはない))。
事故の態様Aが原告車を運転し,上記日時場所において,道路脇に停
車していたところ,原告車の右前方を被告車が接触した。
()損害2
原告車の修理代金14万2586円
弁護士費用10万円
,,,,()よって原告は被告に対し民法709条に基づく損害賠償請求として3
金24万2586円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成22年6
月21日から支払済みまで年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を求
める。
2争点及びこれに関する当事者の主張
本件事故当時原告車は既に経済的全損状態にあったか
(被告)
,(「」。),本件事故は本件に先立つ交通事故以下先行事故というにおいて
,,訴外車両により追突され停止していた原告車に被告車が接触した事故であり
被告車が原告車に接触した時点において,既に原告車に経済的価値は存在しな
かった。
すなわち,原告車の初度登録年度年月は平成11年6月,通称型式はのB
「」,()車種であるが乗用車の法定耐用年数初度登録年月より6年以上経過C
を超過しており,その現在における時価は新車価格の1割として算定されるべ
きものであるから,15万3200円(153万2000円×0.1)と算定
され,時価に買換諸費用を加えた市場調達価格としても,原告車の価値は18
万9000円である。
一方,先行事故における原告車の損害見積もりは19万9920円(乙4)
であり,修理費が時価ないし市場調達価格を上回っていることから,原告車は
本件事故時点においては既に経済的全損状態であった。
(原告)
先行事故は,柏市丁目番地先の立体交差の下り坂途中で停車中に訴外abc
車両により追突されたものであり,本件事故はその後原告車が警察の到着を待
っていたときに原告車の脇を通り過ぎる被告車が原告車の右前方と接触した事
故である。損傷部位も先行事故と異なるものであり,同時事故と同視できるも
のではない。
被告の主張によれば,一方で,原告は先行事故の修理をすることはできても
本件事故の修理ができないことになり,他方,被告は,原告の車両が被告の車
両と接触する前に他の車両と接触していたという偶然の事情により損害賠償責
任を免れるという著しい不公平を生むもので,損害の公平な分担という不法行
為制度の趣旨に反するものである。
また,原告にとっては,車両の使用価値・利用価値を回復するための経済的
負担は当然に法的損害として評価されるべきであり,その損害の填補の費用は
法的保護の対象とされるべきである。
(被告)
本件事故が先行事故と同時事故でないことは認める。
そもそも損害賠償制度の目的が,被害車両の経済状態を被害前の状態に回復
,,,する原状回復にある以上経済的全損の場合にはその時価額が賠償されれば
被害者が同一の車両を手に入れることができ,被害前の経済状態が回復される
という意味で,加害者が時価額の限度で被害者に対し,原状回復義務を負って
いることは明らかである。
しかし,本件事故については,先行事故により既に原告車が経済的に無価値
となっている以上,被害車両である原告車の経済状態を先行事故後本件事故前
の状態に回復したところで,回復の対象が無価値であるために意味がなく,そ
もそも原状回復義務を観念し得ないことは明白である。
なお,原告の全損であっても法的保護の対象となるとの主張は,原状回復義
務以上の負担を加害者に課すべきであるとの主張に他ならず,損害の公平な分
担という不法行為制度の趣旨に悖ること明らかであり主張自体失当である。
第3理由
1証拠によれば次の事実が認められる。
()本件事故による原告車の損傷部位は,右側前輪附近フロントバンパーカバ1
ー,フロントフェンダー等である(甲9,乙1。)
()原告車の初度登録年月は平成11年6月であり,車名D,型式はBである2
(甲2。)
()原告車の発売当時の価格は153万2000円であり,自家用乗用車の法3
定耐用年数は6年,最終残価率は10パーセントである(乙2。)
()原告車の先行事故に基づく車両損害の概算見積は19万9920円(税込4
み(乙4)であり,本件事故による同概算見積は14万2586円(甲3))
ないし12万2735円である(乙5。)
2上記認定事実及び他の証拠並びに弁論の全趣旨から次のとおり判断する。
先行事故と本件事故との関係については,損傷部位も第1事故と異なるもので
あり,同一機会に生じた同時事故とは同視し得ないことについては当事者間に争
いはない。
問題は,先行事故による損傷による原告車の損害見積は19万9920円であ
り,この金額は原告車の市場価格を上回っていることである。
すなわち原告車は先行事故により経済的全損となっているものであり,その後
の本件事故による損害は新たな価値的損害としては発生していないこととなる。
,,,これはわが国の損害賠償制度は金銭賠償が原則であり車両損害については
修理が可能である場合も含めて時価額を基準として評価されるべきもので,時価
額は市場における交換価値においてのみ把握され,その限りにおいて使用価値概
念は考慮されないものであり,被害車両を修理して原状回復する費用が時価額を
超える場合には経済的全損となり,経済的全損状態の車両に対し更に毀損行為が
あったとしても新たな価値的損害は発生しないと理解せざるを得ないことによ
る。
この考え方が損害賠償の公平負担の原則に反する等の主張は経済的全損の概念
を根底から否定するものであり失当であるといわざるを得ない。
3よって,本件事故による損害が発生していない以上,不法行為の成立もなく,
原告の請求は理由がないことになる。
東京簡易裁判所民事第9室
裁判官野中利次

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