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平成28年7月28日判決言渡
平成27年(行ケ)第10128号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成28年6月30日
判決
原告住友金属鉱山株式会社
訴訟代理人弁護士中川康生
同川添大資
同村井隼
同山本卓典
同中川康生復代理人弁護士綿秀斗
訴訟代理人弁理士伊東忠彦
同伊東忠重
同大貫進介
同鶴谷裕二
同佐々木定雄
同加藤隆夫
被告シャープ株式会社
訴訟代理人弁護士永島孝明
同安國忠彦
同朝吹英太
同安友雄一郎
同野中信宏
訴訟代理人弁理士若山俊輔
同磯田志郎
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2014-800096号事件について平成27年5月25日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要(認定の根拠を掲げない事実は争いがないか弁論の全趣旨により
容易に認定できる事実である。)
1特許庁における手続の経緯等
被告は,平成19年3月26日,発明の名称を「半導体装置および液晶モジュー
ル」とする発明につき特許出願(特願2003-188854号(平成15年6月
30日(以下「原出願日」という。)にした特許出願の一部を分割した特許出願))
をし,平成22年7月16日,特許第4550080号(請求項の数は6である。)
として特許権の設定登録を受けた(甲A。以下,この特許を「本件特許」という。)。
原告は,平成23年11月21日,本件特許の請求項1ないし請求項6に係る発
明(以下,各請求項記載の発明を請求項1ないし6の区分に応じて「本件発明1」
ないし「本件発明6」といい,これらを併せて「本件発明」という。)を無効とする
ことを求めて無効審判(無効2011-800241号。以下「第1無効審判」と
いう。)を請求し,また,平成24年1月30日,本件発明を無効とすることを求め
て更に無効審判を請求した(無効2012-800006号。以下「第2無効審判」
という。)。
特許庁は,第1無効審判に係る手続を中止し,まず第2無効審判を審理し,平成
24年9月19日付けで本件発明についての特許を無効とする旨の審決をした。
これに対し,被告は,上記審決に対し,審決取消訴訟(平成24年(行ケ)10
373号。以下「別件審決取消訴訟」という。)を提起したところ,知的財産高等裁
判所は,平成25年9月30日,当該審決を取り消す旨の判決(甲30)を言い渡
し,その後当該判決は確定した。特許庁は,第2無効審判につき再度審理し,平成
26年6月26日,審判請求は成り立たない旨の審決をし,当該審決は出訴される
ことなく確定した。
さらに,原告は,平成26年6月10日,本件発明を無効とすることを求めて無
効審判(無効2014-800096号。以下「本件審判」という。)を請求した。
これに対し,特許庁は,平成27年5月25日,本件審判につき,審判請求は成り
立たない旨の審決をしたことから,原告は,平成27年7月3日,本件審決取消訴
訟を提起した。
なお,特許庁は,上記のとおり中止した第1無効審判の審理を再開し,平成27
年8月11日,審判請求は成り立たない旨の審決をした。これに対し,原告は,平
成27年9月17日,審決取消訴訟(平成27年(行ケ)第10191号)を提起
し,当該事件は知財高裁に係属している。
2特許請求の範囲の記載(甲A)
本件特許の請求項1ないし6に係る特許請求の範囲の記載は,次のとおりである
(請求項1の分説及びアルファベットの表示は裁判所による。また,本件特許の明
細書及び図面を併せて「本件明細書」という。)。
「【請求項1】
A絶縁性を有するベースフィルム,該ベースフィルム上に形成されたニッケル
-クロム合金からなり厚みが7nm以上のバリア層,および該バリア層の上に形成
された銅を含んだ導電物からなると共に表面にスズメッキが施された配線層を有す
る半導体キャリア用フィルムと,前記配線層に接続された突起電極を有する半導体
素子とを備える半導体装置であって,
B前記バリア層と前記配線層とを所定パターンに形成した半導体素子接合用配
線が複数あり,そのうちの少なくとも隣り合う二つの前記半導体素子接合用配線の
間において,配線間距離及び出力により定まる電界強度が3×105
~2.7×1
06
V/mであり,
C前記半導体素子接合用配線の配線間距離が50μm以下となる箇所を有し,
D前記バリア層におけるクロム含有率を15~50重量%とすることにより,
前記バリア層の溶出によるマイグレーションを抑制することを特徴とする
E半導体装置。
【請求項2】
前記半導体素子接合用配線の端子間ピッチが100μm以下となる箇所を有する
ものであることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記バリア層のクロム含有率が15~30重量%であることを特徴とする請求項
1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記バリア層の厚みが10~35nmであることを特徴とする請求項1から3の
何れか一項に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記ベースフィルムの厚みが25~50μmであることを特徴とする請求項1か
ら4の何れか一項に記載の半導体装置。
【請求項6】
請求項1から5の何れか一項に記載の半導体装置を備えたことを特徴とする液晶
モジュール。」
3審決の理由
審決の理由は,別紙審決書(写し)に記載のとおりである。その要旨は,次のと
おりである。以下,審決が引用する刊行物のうち,特開2002-252257号
公報(甲1)は,「甲1公報」と,特開平6-120630号公報(甲2)は,「甲
2公報」と,平成15(2003)年5月20日に技術情報協会により頒布された
テキスト「セミナーテキストNO.1」(甲3)は,「甲3刊行物」と,2001(平成
13)年12月に(株)工業調査会により発行された雑誌「M&E」2001年12
月号第94~99頁(甲5)は,「甲5刊行物」と,2003(平成15)年5月1
5日に日本材料学会により発行された学会誌「材料」VOL.52NO.5MAY2003の第
529~534頁に掲載された論文「プリント配線板の耐イオンマイグレーション
性に関する研究」(甲6)は,「甲6刊行物」と,1985年に歯科材料・機械学会
から発行された学会誌歯科材料・器械Vol.4No.5p.455~480「歯科鋳造用Ni-Cr
系合金のNi溶出と電気化学的腐食挙動について」(甲21)は,「甲21刊行物」と,
2002年11月に溶接構造シンポジウムで発行された講演論文集の論文「プリン
ト配線板の耐イオンマイグレーション性に関する研究」(甲24)は,「甲24刊行
物」という。
本件発明は,①甲1公報に記載された発明(以下「甲1発明」という。)に対して,
甲6刊行物,甲2公報,甲18,甲22の各刊行物に記載された事項又は甲2公報,
甲3刊行物,甲5刊行物,甲6刊行物,甲21刊行物,甲24刊行物及び甲4,甲
7ないし20,甲22,甲25ないし29の各刊行物に記載された周知技術を適用
することによって当業者が容易に発明することができたものとはいえず,また,②
甲2公報に記載された発明(以下「甲2発明」という。)に対して,甲1公報及び甲
6刊行物に記載された事項又は甲1公報,甲3刊行物,甲5刊行物,甲6刊行物,
甲21刊行物,甲24刊行物及び甲4,甲7ないし20,甲22,甲25ないし2
9の各刊行物に記載された周知技術を適用することによって当業者が容易に発明す
ることができたものとはいえないから,特許法29条2項の規定に違反するもので
はなく,無効とすべきものではない。
審決が認定した甲1発明及び甲2発明の内容,本件発明1と甲1発明及び甲2発
明の一致点及び相違点は,次のとおりである。
(1)甲1発明の内容
「ポリイミド系フィルム1と,前記ポリイミド系フィルム1の表面に設けられた
厚さが70~500Åであるニッケル-クロム合金のスパッタ層3と,前記ニッケ
ル-クロム合金のスパッタ層3の上に設けられる銅のメッキ層4及び厚付け銅メッ
キ層である銅層2とからなり,前記スパッタ層3,前記銅のメッキ層4及び前記銅
層2とをエッチングして櫛形電極パターンを形成した後に無電解スズメッキを行っ
た半導体キャリア用フィルムと,
前記半導体キャリア用フィルムに形成され前記無電解スズメッキが行われた前記
櫛形電極パターンの適所に半導体チップが実装された半導体チップと,
を備える半導体装置であって,
前記櫛形電極パターンは50μmピッチであり,その上の無電解スズメッキ層は
0.5μm厚であり,
前記スパッタ層3のニッケル-クロム合金中のクロム含有量は,3重量%未満で
は耐マイグレーション性の向上効果がなく,10重量%を超えても耐マイグレーシ
ョン性の向上効果はほぼ同一で,かえってパターン形成時の銅の足残りが多くなる
ことから,3~10重量%であることが望ましいことを特徴とする半導体装置。」
(2)本件発明1と甲1発明の一致点
「絶縁性を有するベースフィルム,該ベースフィルム上に形成されたニッケル-
クロム合金からなり厚みが7nm以上のバリア層,および該バリア層の上に形成さ
れた銅を含んだ導電物からなると共に表面にスズメッキが施された配線層を有する
半導体キャリア用フィルムと,前記配線層に接続された電極を有する半導体素子と
を備える半導体装置であって,
前記バリア層と前記配線層とを所定パターンに形成した半導体素子接合用配線が
複数あり,そのうちの少なくとも隣り合う二つの前記半導体素子接合用配線を備え,
前記半導体素子接合用配線の配線間距離が50μm以下となる箇所を有すること
を特徴とする半導体装置。」
(3)本件発明1と甲1発明の相違点
ア相違点A1
本件発明1の「半導体素子」は前記配線層に接続された「突起電極」を有するの
に対して,甲1発明の前記櫛形電極パターンの適所に接続される「半導体チップ」
の電極が「突起電極」であるかどうかは不明である点。
イ相違点A2
本件発明1は「隣り合う二つの前記半導体素子接合用配線の間において,配線間
距離及び出力により定まる電界強度が3×105
~2.7×106
V/m」であるが,
甲1発明は,この点が不明である点。
ウ相違点A3
本件発明1においては「前記バリア層におけるクロム含有率を15~50重量%
とすることにより,前記バリア層の溶出によるマイグレーションを抑制する」が,
甲1発明においては「前記スパッタ層3のニッケル-クロム合金中のクロム含有量
は,3重量%未満では耐マイグレーション性の向上効果がなく,10重量%を超え
ても耐マイグレーション性の向上効果はほぼ同一で,かえってパターン形成時の銅
の足残りが多くなることから,3~10重量%であることが望ましい」点。
(4)甲2発明の内容
「厚さ50μmのポリイミドから成る支持基板1,前記支持基板1の上に形成さ
れた厚さ200Å(20nm)のNi-Cr合金層2,前記Ni-Cr合金層2の上
に形成された銅層3,4を有するプリント配線基板を備え,前記Ni-Cr合金層2
と前記銅層3,4をエッチング処理により所定の配線パターンに形成した複数の配
線に半導体素子を接続した半導体装置であって,
前記複数の配線は,配線幅及び配線間距離がいずれも20μmの配線パターンを
有し,前記Ni-Cr合金層2におけるCr含有率が18~94重量%である半導体
装置。」
(5)本件発明1と甲2発明の一致点
「絶縁性を有するベースフィルム,該ベースフィルム上に形成されたニッケル-
クロム合金からなり厚みが7nm以上のバリア層,および該バリア層の上に形成さ
れた銅を含んだ導電物からなる配線層を有する半導体キャリア用フィルムと,前記
配線層に接続された半導体素子とを備える半導体装置であって,前記バリア層と前
記配線層とを所定パターンに形成した半導体素子接合用配線が複数あり,前記半導
体素子接合用配線の配線間距離が50μm以下となる箇所を有する半導体装置。」
(6)本件発明1と甲2発明の相違点
ア相違点B1
本件発明1は,「配線層」の表面に「スズメッキ」が施されるのに対して,甲2発
明は,「銅層3,4」の表面にスズメッキが施されていない点。
イ相違点B2
本件発明1は,「半導体素子」が「配線層」に接続された「突起電極」を有するの
に対して,甲2発明は,「半導体素子」が「銅層3,4」に接続される突起電極を有
するか否か不明である点。
ウ相違点B3
本件発明1は,「隣り合う二つの前記半導体素子接合用配線の間において,配線間
距離及び出力により定まる電界強度が3×105
~2.7×106
V/m」であるの
に対して,甲2発明は,隣り合う二つの「配線」の間における電界強度が不明であ
る点。
エ相違点B4
本件発明1は,「前記バリア層におけるクロム含有率を15~50重量%であると
することにより,前記バリア層の溶出によるマイグレーションを抑制する」もので
あるのに対して,甲2発明は,「Ni-Cr合金層2におけるCr含有率が18~9
4重量%である」が,バリア層の溶出によるマイグレーションを抑制するものであ
るか否か特定されていない点。
第3取消事由に関する当事者の主張
取消事由に関する当事者の主張は,次のとおりである(第1回弁論準備手続調書
参照)。なお,各取消事由に関する原告の主張のうち,相違点A1及びA2に関する
主張並びに相違点B1ないしB3に関する主張は,取消事由としてではなく事情と
して主張されたものであるから(第2回弁論準備手続調書参照),取消事由に関する
原告の主張のうち,本件で問題となる相違点は,相違点A3及び相違点B4に限ら
れる。
1原告の主張
審決には,甲1発明の認定及び相違点A3の認定の誤り(取消事由1-1),相違
点A3に係る容易想到性の判断の誤り(取消事由1-2),甲2発明の認定及び相違
点B4の認定の誤り(取消事由2-1),相違点B4に係る容易想到性の判断の誤り
があり(取消事由2-2),その誤りは審決の結論に影響を及ぼすから,審決は違法
であり取り消されるべきである。
(1)取消事由1-1(甲1発明の認定及び相違点A3の認定の誤り)
ア甲1公報には,「10重量%を超えても耐マイグレーション性の向上効果はほ
ぼ同一」であるとして,スパッタ層のクロム含有量が10重量%を超えた場合にお
ける耐マイグレーション性の向上効果が記載されているのであるから,甲1発明は,
クロム含有量が10重量%を超えたスパッタ層を含むものである。したがって,甲
1公報にクロム含有量10重量%を超えたスパッタ層が記載されていないとした審
決の認定には誤りがある。
イ甲1公報には,スパッタ層のクロム含有量が「10重量%を超えても耐マイ
グレーション性の向上効果はほぼ同一で,かえってパターン形成時の銅の足残りが
多くなる問題がある」として,「銅の足残り」の問題を指摘する記載がある。しかし,
この問題は,主たる課題である耐マイグレーション性の向上に関するものではなく,
エッチング性に関する問題であり,この問題はエッチング液を調整することによっ
て容易に解決できるものであるから,耐マイグレーション性の向上という観点から
すれば,甲1発明はクロム含有量10重量%を上限とするものではない。したがっ
て,甲1公報にクロム含有量10重量%を超えたスパッタ層が記載されていないと
した審決の認定には誤りがある。
(2)取消事由1-2(相違点A3に係る容易想到性の判断の誤り)
ア甲1公報には,耐マイグレーション性の向上効果のために,スパッタ層に1
0重量%を超えたクロム含有量を使用することが示唆されているから,甲1公報に
接した当業者がクロム含有量を耐マイグレーション性の向上効果がある10重量%
を超えた範囲に設定することは,単なる設計事項である。これに対し,審決は,甲
1発明に基づき本件発明の進歩性を否定するためには,クロム含有量を15%ない
し50重量%にした場合における耐マイグレーション性が,クロム含有量が10重
量%であるときのものよりも更に向上することを裏付ける証拠が必要であるとする。
しかし,甲1公報には「前記スパッタ層3のニッケル-クロム合金中のクロム含有
量が10重量%を超えた値においてもマイグレーションを抑制すること」が阻害事
由なく記載されているのであるから,甲1発明から出発して,スパッタ層のクロム
含有量が10重量%を超える構成を想到するための強い動機付けは不要である。そ
うすると,マイグレーションがバリア層(ニッケル)の溶出によるものであるとい
う技術常識を踏まえて,甲1発明に対し,クロム含有量を18重量%とすることが
開示されている甲2発明を組み合わせて,バリア層の溶出によるマイグレーション
を抑制するために,クロム含有量10重量%のスパッタ層を15~50重量%の範
囲内に設定することは,当業者が容易に想到することができる。
イ甲3刊行物及び甲5刊行物によれば,平成13年から平成15年頃に製品の
端子間距離が変動し,急激にファインピッチ化が進んだことが認められるところ,
甲6刊行物及び甲24刊行物には,電極金属からニッケルが溶出することによりマ
イグレーションが発生することが記載されているといえるから,ファインピッチ化
によるマイグレーションの発生を抑制するには,ニッケル-クロム電極金属からの
ニッケル溶出を抑制すれば良いことは自明の理であり,ニッケル溶出を抑制するに
はニッケル-クロム層のニッケル含有量を減らしクロム含有量を増やせば良いこと
は当然の理である。そうすると,甲1発明に接した当業者が,甲6刊行物及び甲2
4刊行物に示された技術常識を踏まえ,ニッケル-クロム合金中のクロム含有量を
増やしてニッケルの溶出を抑制することにより耐マイグレーション性を向上させる
ため,クロム含有量10重量%のスパッタ層を15~50重量%の範囲内に設定す
ることは,当業者が容易に想到することができる。
(3)取消事由2-1(甲2発明の認定及び相違点B4の認定の誤り)
甲2公報には,「Ni-Cr合金層におけるCr含有率が18~94重量%である
半導体装置」が開示されているものの,本件発明1と対比すべき主引用発明として
は,進歩性を否定する論理付けをするために最も適した発明を選択すべきである。
そうすると,甲2公報【0032】において実施例として開示されている「Ni-
Cr合金層におけるCr含有率が18重量%である半導体装置」を選択し,これを
甲2発明として認定すべきである。したがって,本件発明1と甲2発明との相違点
B4は,「本件発明2は,『Ni-Cr合金層におけるCr含有率が18重量%であ
る』が,バリア層の溶出によるマイグレーションを抑制するものであるか否かが明
記されていない点」ということになる。
(4)取消事由2-2(相違点B4に係る容易想到性の判断の誤り)
ア甲1公報には,「10重量%を超えても耐マイグレーション性の向上効果はほ
ぼ同一」であると記載されているから,クロム含有率10重量%を超えたバリア層
で構成される甲2発明がマイグレーションを抑制する効果を奏することにつき,当
業者は容易に予測することができる。
イ甲21刊行物には,ニッケル-クロム合金におけるクロム含有率を増加させ
ることによりニッケル溶出量を減少させることが記載されており,甲6刊行物及び
甲24刊行物によれば,当業者は,ニッケル-クロム合金のスパッタ層を有する電
極のマイグレーションは陽極金属からのニッケル溶出で始まることが理解できるか
ら,クロム含有率18重量%のバリア層で構成される甲2発明がマイグレーション
を抑制する効果があることを容易に予測することができる。
2被告の反論
(1)取消事由1-1(甲1発明の認定及び相違点A3の認定の誤り)
甲1公報【0015】には,「ニッケル-クロム合金中のクロム含有量は,3~1
0重量%であることが望ましい。クロム含有量が3重量%未満では耐マイグレーシ
ョン性の向上効果がなく,10重量%を超えても耐マイグレーション性の向上効果
はほぼ同一で,かえってパターン形成時の銅の足残りが多くなる問題がある。」と記
載されており,また,実施例及び比較例においても,クロム含有量5重量%の場合
が実施されるにとどまり【表1】,3重量%未満の場合及び10重量%を超えた場合
について実施されておらず,実際にクロム含有量が10重量%を超えた構成は開示
されていない。そうすると,甲1公報の記載から,「バリア層におけるクロム含有率
が10重量%を超えた値」とすることが,当業者に自明である又は記載されている
に等しいとは認められない。
(2)取消事由1-2(相違点A3に係る容易想到性の判断の誤り)
甲1発明は,ニッケル-クロム合金のクロム含有量について,3~10重量%と
することにより,配線回路パターンのエッチング性やメッキ耐性を低下させること
なく,耐マイグレーション特性を著しく向上させることができることを目的とする
ものである。そして,甲1発明では,クロム含有量を「3~10重量%」としたこ
とにより,耐マイグレーション性を著しく向上させているところ,甲1公報には,
クロム含有量は3~10重量%が望ましく,10重量%を超える範囲としても耐マ
イグレーション性の向上効果は3~10重量%とほぼ同一であると記載されている
のであるから,甲1発明において,敢えてクロム含有量を10重量%を超える範囲
とする動機付けが存在しない。のみならず,甲1公報では,クロム含有量が10重
量%を超える範囲ではパターン形成時の銅の足残りが多くなる問題があり,配線回
路パターンのエッチング性が低下することを指摘していることから,クロム含有量
が10重量%を超える範囲とすることは,甲1発明の上記目的に反することになる。
そうすると,甲1発明においてクロム含有量を10重量%を超える範囲とする動機
付けがなく,かえって阻害要因があるから,進歩性を肯定した審決の判断に誤りは
ない。
(3)取消事由2-1(甲2発明の認定及び相違点B4の認定の誤り)
甲2発明のクロム含有率について「18~94重量%」と認定したとしても,「1
8重量%」と認定したとしても,別件審決取消訴訟で判断されたように,本件発明
1は甲2発明から予測できない効果が認められるのであるから,そもそも本件審決
の結論を左右するものではなく,原告の主張は失当である。
(4)取消事由2-2(相違点B4に係る容易想到性の判断の誤り)
ア甲1公報には,「従来のメタライジング法で形成された半導体キャリア用フィ
ルムでは,端子間距離を小さくした場合又は端子間電圧を大きくした場合に,高温
高湿環境下で,端子間にマイグレーションが発生するという問題が生じ易かった」
という本件発明の課題が記載されておらず,しかも,甲1公報には,クロム含有量
が10重量%を超える範囲としても,耐マイグレーション性の向上効果はほぼ同一
であると明記されている。したがって,当業者は,甲1公報から,ニッケル-クロ
ム合金からなるバリア層におけるクロム含有率を15~50重量%とすることによ
ってマイグレーションの発生を抑制するという効果を予測することはできない。
イ甲21刊行物は,歯科鋳造用ニッケル-クロム系合金について37℃のリン
ゲル液及び1%乳酸溶液に浸漬した場合のニッケル溶出量及びリンゲル液中におけ
る電気化学的腐食挙動を測定した結果が示されている。しかし,甲21刊行物は,
そもそも半導体キャリア用フィルムと半導体素子とを備える半導体装置に関するも
のではなく,歯科鋳造用ニッケル-クロム系合金に関するものであり,甲21刊行
物には,半導体キャリア用フィルムにおけるマイグレーションの発生防止方法に関
する記載はなく,また,ニッケル-クロム合金からなるバリア層におけるクロム含
有率を15~50重量%とすることにより,マイグレーションの発生を抑制するこ
とができることにつき,記載も示唆もない。したがって,ニッケル-クロム合金か
らなるバリア層におけるクロム含有率を15~50重量%とすることによってマイ
グレーションの発生を抑制するという効果につき,当業者が予測できないことは明
白である。
第4当裁判所の判断
当裁判所は,原告が主張する各取消事由はいずれも理由がないから,審決にはこ
れを取り消すべき違法はないものと判断する。その理由は,次のとおりである。
1取消事由1-1(甲1発明の認定及び相違点A3の認定の誤り)
(1)本件発明の要旨
本件明細書によれば,本件発明1の内容は,次のとおりであると認められる(甲
A)。
ア本件発明は,例えば液晶表示装置を駆動させる半導体チップや受動部品など
を搭載するための半導体キャリア用フィルムを用いた半導体装置に関するものであ
る(【0001】)。近年,液晶ドライバを搭載するキャリアテープは多機能及び高性
能化が進む液晶ドライバの多出力に伴い,ファインピッチ化が急速に進んでおり,
現在,キャリアテープとしては,液晶ドライバを実装するTCP(TapeCarrier
Package)よりファインピッチ化が可能な半導体キャリア用フィルムであるCOF
(ChipOnFilm)が主流を占めつつある(【0002】)。
イこのCOFを用いた半導体装置の一般的な組立方法(製造方法)は次のとお
りである。ポリイミドからなるベースフィルム上に銅からなる配線をエッチングに
てパターニングし,その配線の上にスズメッキを施すことによって形成された半導
体キャリア用フィルムに,突起電極を形成した半導体チップを熱圧着により接合す
る(この接合する工程をインナーリードボンディング(ILB)という。)。ILB
後に保護材としてのアンダーフィル樹脂を半導体チップと半導体キャリア用フィル
ムの間に充填した後,アンダーフィル樹脂を硬化させる。その後,ファイナルテス
トを行って,COFを用いた半導体装置の組立てが完了する。このとき,ベースフ
ィルムとなる半導体キャリア用フィルムは主に下記のフィルム基材から作製される。
一つは,(中略)キャスティング法である。もう一つは,ポリイミド基材の上にスパ
ッタ法で金属バリア層を形成し,銅メッキにて配線となる銅の膜(層)を形成する
メタライジング法がある。ファインピッチ化に対しては,配線となる銅の膜厚を薄
くすることが必要であり,薄い銅箔を制御することが困難なキャスティング法より
も,メッキ厚の制御のみで薄膜を形成する事が可能なメタライジング法が適してい
る。(【0003】及び【0004】)
ウメタライジング法によって形成された一般的な半導体キャリア用フィルムの
断面構造図を図8に示す。
メタライジング法では,ベースとなるポリイミド基材110の上にスパッタにて
クロム7重量%,ニッケル93重量%の組成比を持つニッケル-クロム合金のバリ
ア層が50~100Å(5~10nm)程度の厚みにて形成される。その後,10
00~2000Åのスパッタ銅をつけた後,電解又は無電解の銅メッキを行い配線
パターンとなる銅の配線層が厚さ8μm程度にて形成されるのが一般的である。次
に,フィルム基材に所望の配線パターンを形成するため,フォトレジストを銅の配
線層の上に塗布して硬化させ,所定のパターンにてマスクした後,露光・現像・銅
エッチング・フォトレジスト剥離を行う。これにより,図8に示されるように,所
定の幅を有するバリア層102及び銅の配線層103が形成される。フォトレジス
ト剥離後に,図示しないスズメッキ,若しくはスズメッキ及び金メッキが形成され
る。また,必要な部分の配線上にソルダーレジスト111が被覆されることによっ
て,フィルム半導体キャリア用フィルムが作製される。(【0005】)
エしかしながら,上述のような従来のメタライジング法で形成された半導体キ
ャリア用フィルムでは,電位差の生じる配線(端子)間の距離を小さくし,ファイ
ンピッチ化した場合や,高出力によって端子間に生じる電位差が大きくなった場合
に,高温高湿環境下で電位差の生じた隣り合う端子間にマイグレーションが発生し
て,当該端子間の絶縁抵抗が劣化しやすかった。特に,配線に金メッキを施してい
る場合には,メッキ液としてシアン系の溶剤を使用しているため,微量に残る当該
溶剤のため,より顕著にマイグレーションが発生していた。これにより,更なるフ
ァインピッチ化や高出力化を図ることができないという問題があった。
オここで,マイグレーションの発生の機構(メカニズム)について検討したと
ころ,以下のような知見を得たので,図9を用いて説明する。図9は,従来例の半
導体キャリア用フィルムの断面図である。ポリイミドからなるベースフィルム11
0の上にバリア層102及び銅の配線層103a,103bが形成されている。バ
リア層102及び配線層103a,103bの表面には,スズメッキ104が形成
され,さらに,その上層には金メッキ105が形成されている。ここで,バリア層
102は,クロム含有率が7重量%であり,ニッケル含有率が93重量%であるニ
ッケル-クロム合金からなり,その厚みは7nmである。また,配線層103aと
配線層103bとの間には電位差が生じており,配線層103aは正電位,配線層
103bは負電位若しくはGND電位を帯びている。(【0006】ないし【000
8】)
このような従来の半導体キャリア用フィルムが高温高湿のような環境下におかれ
ると,水分106が半導体キャリア用フィルム上に付着する。水分106は塩素等
の不純物を含んでおり,正電位を帯びた配線層103a側のバリア層102に存在
するポーラス部分から当該水分106が浸入する。これによりバリア層102の一
部が水分中にイオンとして溶出し,負電位若しくはGND電位を帯びている配線層
103bに向けて移動する。当該バリア層溶出部分107を通じて配線となる銅が
腐食し,腐食部109が発生する。さらに,配線層103aを形成している銅も,
負電位若しくはGND電位を帯びた配線層103bに向けて溶出する。特に,金メ
ッキ105が施されるときに,通常シアン系の溶剤が使用されるが,洗浄しきれず
に残存している当該シアン系の溶剤により銅の腐食や,配線層103aの成分であ
る銅及びバリア層102の成分の溶出が発生しやすくなっている。このようにして,
上記銅溶出部分108やバリア層溶出部分107によって,マイグレーションが発
生し,端子間の絶縁抵抗が劣化する。(【0009】)
カ本件発明は,上記の問題点に鑑みてなされたものであり,その目的は,ファ
インピッチ化や高出力化に適用できるように,高温高湿環境下であっても,従来よ
りも端子間の絶縁抵抗が劣化しにくい半導体装置,液晶モジュールを提供すること
にある(【0010】)。本件発明の半導体キャリア用フィルムは,上記の課題を解決
するために,絶縁性を有するベースフィルムと,ベースフィルムの上に形成された
クロム合金からなるバリア層と,バリア層の上に形成された銅を含んだ導電物から
なる配線層とを有する半導体キャリア用フィルムであって,前記バリア層における
クロム含有率が15~50重量%であることを特徴としている(【0011】)。
キ以上のとおり,本件発明の半導体キャリア用フィルムは,絶縁性を有するベ
ースフィルムと,ベースフィルムの上に形成されたクロム合金からなるバリア層と,
バリア層の上に形成された銅を含んだ導電物からなる配線層とを有する半導体キャ
リア用フィルムであって,前記バリア層におけるクロム含有率が15~50重量%
である構成である(【0024】)。そのため,バリア層の表面抵抗率・体積抵抗率が
向上するため,バリア層を流れる電流が小さくなり,配線層を形成する銅の腐食を
抑制することができ,また,バリア層の表面電位が標準電位に近くなるため,バリ
ア層を形成している成分の水分中への溶出を抑制することができ,端子間のマイグ
レーションの発生がなくなる(【0025】)。
したがって,ファインピッチ化や高出力化に適用でき,高温高湿環境下であって
も,従来よりも端子間の絶縁抵抗が劣化しにくい半導体装置を提供することができ
るといった効果を奏する(【0026】)。
(2)甲1発明の要旨
甲1公報によれば,甲1発明の内容は,次のとおりであると認められる(甲1)。
アLSI等からなる半導体チップ(電子部品)の実装技術には,チップオンフ
ィルム(COF;ChiponFilm)等があり,チップオンフィルム基板は,ベースフ
ィルムであるポリイミド系フィルム上にシード層を形成後,銅メッキして得られる
2層基材を用いる(【0002】,【0003】)。従来,銅メッキ法では,成形された
ポリイミドフィルム上の密着強化層(シード層)として金属のスパッタ層を形成し,
銅メッキ後,電解銅を厚付けメッキして銅を析出させ厚さ8μm程度の銅メッキ層
を形成し,2層基材を作成し,このスパッタ層は,金属としてニッケル単体が使用
されており,その厚さは30~70Åであったところ(【0004】),このような回
路基板の電気特性を評価すると,短時間で配線回路パターン間に銅のマイグレーシ
ョンが生じるという問題があった(【0006】)。
イ甲1発明は,半導体キャリア用フィルム及びその製造方法に関し,配線回路
パターンのエッチング性やメッキ耐性を低下させることなく,耐マイグレーション
特性を著しく向上させた半導体キャリア用フィルム及びその製造方法を提供するた
めに,ベースフィルムであるポリイミド系フィルムと銅層との間に,一定厚のニッ
ケル-クロム合金のスパッタ層(シード層)を設けることによって,耐マイグレー
ション性を向上させ,上記問題を解決するものである(【0001】,【0007】)。
ウ甲1発明の半導体キャリア用フィルムは,ポリイミド系フィルム1と銅層2
の間に,ニッケル-クロム合金のスパッタ層3と銅のスパッタ層4とが設けられて
いる(【0012】)。ポリイミド系フィルム1の表面に設けられたニッケル-クロム
合金のスパッタ層3は,その厚さが70~500Å,好ましくは100~500Å,
さらに好ましくは150~400Åである。ニッケル-クロム合金のスパッタ層3
の厚さが70Å未満では,耐マイグレーション性が充分でなく,500Åを超える
と回路基板に施される無電解スズメッキの異常析出が著しくなる(【0014】)。ま
た,ニッケル-クロム合金中のクロム含有量は,3~10重量%であることが望ま
しい。クロム含有量が3重量%未満では耐マイグレーション性の向上効果がなく,
10重量%を超えても耐マイグレーション性の向上効果はほぼ同一で,かえってパ
ターン形成時の銅の足残りが多くなる問題がある(【0015】)。
エ以上のとおり,甲1発明の半導体キャリア用フィルムによれば,配線回路パ
ターンのエッチング性やメッキ耐性を低下させることなく,耐マイグレーション特
性を著しく向上させることができる(【0034】)。
(3)甲1発明の認定及び相違点A3の認定の誤りについて
前記認定事実(2)によれば,甲1発明は,半導体キャリア用フィルム及びその製造
方法につき,エッチング性等を低下させることなく耐マイグレーション性を向上さ
せることを課題とするところ,甲1公報【0015】には,スパッタ層のニッケル
-クロム合金中のクロム含有量は3~10重量%であることが望ましく,クロム含
有量が3重量%未満では耐マイグレーション性の向上効果がなく,10重量%を超
えても耐マイグレーション性の向上効果はほぼ同一で,かえってパターン形成時の
銅の足残りが多くなる問題があると記載されている。そうすると,甲1発明におい
てスパッタ層のクロム含有量が10重量%を超える場合には,銅の足残りが多くな
ることからエッチング性が低下して,甲1発明の上記課題に反する結果が生ずるも
のと認められる。
したがって,甲1発明をスパッタ層のニッケル-クロム合金中のクロム含有量が
「3~10重量%であることが望ましいことを特徴とする半導体装置」であると認
定して,10重量%を超えるものは開示されていないと判断した審決の認定に誤り
はないものと認められる。
これに対し,原告は,甲1公報にはスパッタ層の含有量が,「10重量%を超えて
も耐マイグレーション性の向上効果はほぼ同一」であるとして,クロム含有量が1
0重量%を超えた場合であっても耐マイグレーション性の向上効果を奏することが
記載されており,また,上記にいう「銅の足残り」の問題は,主たる課題である耐
マイグレーション性の向上に関するものではなくエッチング性に関する問題であっ
て,当該問題はエッチング条件を調整することによって容易に解決できるのである
から,甲1発明は,クロム含有率が10重量%を超えたスパッタ層を含むものであ
るなどと主張する。しかしながら,上記のとおり,甲1発明の課題は,専ら耐マイ
グレーション性を向上させることにあるのではなく,甲1公報に具体的に開示され
たエッチング条件におけるエッチング性等を低下させることなく耐マイグレーショ
ン性を向上させることにあり,かえって,甲1公報にはスパッタ層のクロム含有率
が10重量%を超える場合にはエッチング性を低下させる結果になると記載されて
おり,しかも,その場合にエッチング条件を調整することは記載も示唆もない。そ
うすると,甲1発明のエッチング性を低下させることなく耐マイグレーション性を
向上させるとの上記課題に照らせば,甲1公報にこの課題に反する構成まで開示さ
れていると認めるのは相当ではないから,甲1発明を「スパッタ層のニッケル-ク
ロム合金中のクロム含有量が3~10重量%であることが望ましいことを特徴とす
る半導体装置」であるとした審決の認定には誤りはないというべきである。原告の
上記主張は,甲1発明の課題を正解せずに,上記課題と異なる前提に立って審決の
誤りをいうものであり,採用することはできない。
2取消事由1-2(相違点A3に係る容易想到性の判断の誤り)
(1)ア前記認定事実1(2)によれば,甲1発明は,半導体キャリア用フィルム及び
その製造方法につき,エッチング性等を低下させることなく耐マイグレーション性
を向上させることを課題とするものと認められる。そして,甲1公報【0015】,
【0026】,【0031】,【0032】には,櫛形電極の端子間距離が50μm,
スパッタ層の厚みが70Åから300Åのものにおいて,スパッタ層のニッケル-
クロム合金中のクロム含有量は3~10重量%であることが望ましく,クロム含有
量が3重量%未満では耐マイグレーション性の向上効果がなく,10重量%を超え
ても耐マイグレーション性の向上効果はほぼ同一であって,かえってエッチングに
よるパターン形成時の銅の足残りが多くなるという問題があることが記載されてい
る。そうすると,甲1公報には,櫛形電極の端子間距離が50μm,スパッタ層の
厚みが70Åから300Åのものについては,上記スパッタ層のクロム含有量が1
0重量%を超えた場合には,耐マイグレーション性の向上効果はほぼ同一であるの
みならず,かえって,エッチング性等を低下させることなくマイグレーション性を
向上させるという甲1公報自体の上記課題に反する結果が生ずることが記載されて
いると認められる。
したがって,甲1公報に接した当業者は,少なくとも上記のような端子間距離及
びスパッタ層の厚みの半導体キャリア用フィルムについて,甲1公報それ自体の課
題に反してまでスパッタ層のクロム含有量を10重量%以上のものにしようとする
動機付けを認めることはできない。
イもっとも,甲1公報が掲載された時点から本件発明の出願時までにはプリン
ト配線基板用の銅箔に係る製品のファインピッチ化が進展し,甲1発明の櫛形電極
の端子間距離が50μmピッチであるのに対し,端子間距離が30μmピッチであ
る製品が主流となっていたことから,本件発明の出願時には耐マイグレーション性
を更に向上させようとする課題が生じていたことが一応認められる(甲3及び甲5)。
しかしながら,原告が提出する甲2公報,甲3刊行物,甲5刊行物,甲6刊行物,
甲21刊行物,甲24刊行物及び甲4,甲7ないし20,甲22,甲25ないし2
9の各刊行物をみても,ニッケル-クロム合金からなるバリア層(スパッタ層)の
クロム含有率を増加させることによりバリア層の溶出によるマイグレーションを抑
制するという解決手段を記載するものは認められない。
すなわち,甲6刊行物及び甲24刊行物によれば,マイグレーションの原因が電
解質を介した二つの電極間に直流電圧が印可されることによって陽極から金属のイ
オンが溶出しこれが電界の作用により電解質中を陰極に向かって移行することによ
って生ずるものであると指摘されているものの,上記マイグレーションの抑制手段
としては,実務上幾つかの方策が考えられる中で,吸湿防止のための樹脂塗膜が有
効であるとして,櫛形銅電極に樹脂コーティングを施し,そのコーティングによる
影響の評価を行うものであって,バリア層のクロム含有率については具体的数値す
ら記載されず,単に狭ピッチにおいてはニッケル-クロム層等の界面処理にも注意
が必要である旨記載されるにとどまるものである。
また,甲21刊行物によれば,ニッケル-クロム合金のクロム含有率を5.5wt%
から10.8~21.0wt%に増加させることによりニッケル溶出量が減少したな
どとして,ニッケル-クロム合金におけるクロム含有率を増加させることによりニ
ッケル溶出量が減少した旨記載されている。しかしながら,上記にいうニッケル-
クロム合金は,歯科用合金であって,プリント配線基板用の銅箔において支持基盤
と銅層との間に設けられたニッケル-クロム合金とは,技術分野を異にするもので
あるから,甲21刊行物に接した半導体分野の当業者がプリント配線基板用の銅箔
に甲21刊行物の記載事項を適用することを想到するということはできない。のみ
ならず,甲6刊行物及び甲24刊行物にいうマイグレーションは,電界の作用によ
り生ずるものであるのに対し,甲21刊行物にいうニッケルの溶出は口腔内で生ず
るものであるから,当該溶出は上記にいうマイグレーションの原因となるものでは
なく,結局のところ,甲21刊行物にはそもそも甲1公報にいうマイグレーション
が記載されていないものと認められる。
さらに,原告が提出するそのほかの前記各刊行物によっても,ニッケル-クロム
合金からなるバリア層のクロム含有率を増加させることによりバリア層の溶出によ
るマイグレーションを抑制するという解決手段を記載するものは認められない。
そうすると,本件発明の出願時までにはプリント配線基板用の銅箔に係る製品の
ファインピッチ化が進展し,耐マイグレーション性を更に向上させようとする課題
が生じていたとしても,当該課題を解決するために,甲1発明に接した当業者がマ
イグレーションを抑制するためにニッケル-クロム合金からなるバリア層のクロム
含有率を増加させるという解決手段を容易に想到するということはできない。
ウ以上によれば,甲1公報と原告が主張する前記各刊行物に接した当業者は,
甲1公報記載の端子間距離,スパッタ層の厚さのものについて,エッチング性を低
下させることなく耐マイグレーション性を向上させるという甲1発明の課題に反し
てまで,バリア層のクロム含有率を増加させることを想到するに至る動機付けはな
く,また,端子間距離のファインピッチ化がより進んだものについても,バリア層
のニッケル-クロム合金のクロム含有率を増加させることによりバリア層の溶出に
よるマイグレーションを抑制するとの解決手段を記載する適切な公知刊行物がない
ことからすれば,上記解決手段を容易に想到するものということはできない。
(2)ア原告は,甲1公報には10重量%を超えたクロム含有量を有するバリア層
(スパッタ層)も耐マイグレーション性を向上させる効果がある旨示唆されている
から,甲1公報に接した当業者において,バリア層のクロム含有量を耐マイグレー
ション性の向上効果がある10重量%を超えた範囲に設定することは,単なる設計
事項である旨主張する。
しかしながら,上記(1)のとおり,甲1公報には,スパッタ層のクロム含有量が1
0重量%を超えても耐マイグレーション性の向上効果はほぼ同一であると記載され
ているのみならず,かえってエッチングによるパターン形成時の銅の足残りが多く
なるという問題が記載されているのであるから,甲1公報に接した当業者において
上記課題に反してまでバリア層のクロム含有量を10重量%を超える範囲にするま
での動機付けが生ずるものとは認められない。
イまた,原告は,平成13年から平成15年頃にプリント配線基板用の銅箔に
係る製品の端子間距離が変動し急激にファインピッチ化が進んでいたことを前提と
して(甲3及び甲5),甲6刊行物及び甲24刊行物には,電極金属からニッケルが
溶出することによりマイグレーションが発生することが記載されているから,甲1
発明に対し,クロム含有率を18重量%とするバリア層が開示されている甲2発明
を組み合わせて,バリア層の溶出によるマイグレーションを抑制するために,当業
者がクロム含有率10重量%のバリア層を15~50重量%の範囲内に設定するこ
とを容易に想到することができるなどと主張する。
しかしながら,上記アのとおり,甲1発明に接した当業者において甲1発明自体
の課題に反してまでクロム含有率を10重量%を超える範囲にする動機付けが生ず
るものとはいえない上,甲2発明は,従来技術のクロム単体の中間層につき,支持
基盤と銅層との密着強度を維持しつつ1種類のエッチング溶液で配線パターンを形
成するためにクロム含有率を低下させるものであって,耐マイグレーション性につ
いての記載が一切ないのであるから,耐マイグレーション性を向上させるという課
題を解決するために,甲1発明に接した当業者において耐マイグレーション性に関
する解決手段が一切記載されていない甲2発明を組み合わせようとする動機付けが
生ずるものとは認められない。また,甲6刊行物及び甲24刊行物によれば,マイ
グレーションの原因が電解質を介した二つの電極間に直流電圧が印可されることに
よって陽極から金属のイオンが溶出しこれが電界の作用により電解質中を陰極に向
かって移行することによって生ずるものであると指摘されているものの,上記マイ
グレーションの抑制手段としては,実務上幾つかの方策が考えられる中で,吸湿防
止のための樹脂塗膜が有効であるとして,櫛形銅電極に樹脂コーティングを施し,
そのコーティングによる影響の評価を行うものであって,バリア層のクロム含有率
については具体的数値すら記載されず,単に狭ピッチにおいてはニッケル-クロム
層等の界面処理にも注意が必要である旨記載されるにとどまるものであり,耐マイ
グレーション性を向上させるために,バリア層のニッケル-クロム合金のクロム含
有量を増加させるとの記載はないのであるから,甲1発明に甲2発明の構成を組み
合わせようとする動機付けがあると認めることもできない。
(3)以上によれば,原告の上記各主張はいずれも理由がなく,相違点A3に係る
容易想到性についての審決の判断には誤りはない。
3取消事由2-1(甲2発明の認定及び相違点B4の認定の誤り)
(1)甲2発明の要旨について
甲2公報によれば,甲2発明の内容は,次のとおりであると認められる。
ア甲2発明は,プリント配線基板用の銅箔につき,配線パターンを形成するた
めのエッチング処理を容易に行うことができ,支持基板に対して優れた密着性を有
するプリント配線基板用の銅箔に関するものである(【0001】)。機器の小型化に
伴い,配線パターンのファイン化に対応するため,従来の貼り合せ銅箔の代わりに,
より薄膜化が可能なスパッタ法とメッキ法を組み合わせて支持基板上に成膜した銅
箔が,主流の位置を占めつつある(【0003】【0004】)。また,支持基板と銅
層との密着性(密着強度1000g/cm)を維持するために,通常,支持基板と
銅層との間に中間層としてクロム層を設けていた(【0005】)。
イその構成の1例(【図4】)は,ポリイミド等の支持基板a上に,厚さ200
Å程度のクロム層bがスパッタ法で形成され,厚さ2000Å程度の下地銅層cが
スパッタ法で形成され,メッキ浴中で電解メッキ法により厚さ20μm前後のメッ
キ銅層dが形成されているものである。銅層c,dを所望の配線パターンに形成す
るために,銅層c,d上にレジスト材の塗布と,露光処理と,エッチング溶液中で
のエッチング処理と,洗浄処理を行って,当該銅層c,dをプリント配線基板用の
配線膜として使用する。エッチング処理を施す場合は,最初に塩化第2鉄液で銅層
c,dのエッチング処理を行い,続いて塩化第2鉄と塩酸の混合液でクロム層bの
エッチング処理を行う(【0008】ないし【0010】)。
【図4】
ウ銅層c,dは,塩化第2鉄系のエッチング溶液で容易に配線パターンを形成
することができるが,クロムは耐食性に優れているから,銅層と同じエッチング溶
液ではパターンを形成することができず,塩化第2鉄と塩酸との混合液で行うよう
にしているので,1種類のエッチング溶液で銅箔とクロム層のエッチング処理を連
続的に行えず,エッチング処理が2工程となる。しかも,クロム層へのエッチング
処理は,短時間で行わなければならないから,エッチング処理は複雑となるばかり
ではなく,全体のエッチング処理が長時間となるため,クロム層bへのエッチング
処理時に既にエッチングされている銅層c,dの側壁にオーバーエッチングが進行
して,配線パターンに欠陥部が生じて断線に至るという問題がある。また,支持基
板と銅層との密着性を確保するために,中間層としてクロム層を介在させることが
必要不可欠なことから,製品の歩留まりの低下と,コストアップの原因となってい
た(【0011】ないし【0013】)。
エ甲2発明は,このような問題点を解消し,1種類のエッチング溶液で配線パ
ターンを形成することができ,中間層としてクロム層を介在させた場合と同等の密
着強度を有するプリント配線基板用の銅箔を提供することを目的とする。甲2発明
は,支持基板と銅層との中間層としてクロム層の代わりにクロムにニッケルを添加
したニッケル-クロム合金層を用いることにより,1種類のエッチング溶液で銅層
とニッケル-クロム合金層を連続してエッチング処理することができ,従来のクロ
ム層を中間層とした場合と同等の密着性を有するとの知見に基づいてなされたもの
であり,プリント配線基板用の銅箔において,支持基板と銅層との間に中間層とし
てニッケルが5at%~80at%のニッケル-クロム合金層を設けたことを特徴とす
る。(【0014】ないし【0016】)
オ具体的には,図2から明らかなように,ニッケル-クロム合金層中のニッケ
ルが1at%~80at%の範囲で,ニッケルを全く含まないクロム層のみの場合と同
等の密着強度が得られることが確認された。また,図3から明らかなように,ニッ
ケル-クロム合金層中のニッケルが4at%の場合,ニッケルを全く含まないクロム
層の場合は,エッチング処理時に

中間層であるクロム層またはニッケルが4at%のニッケル-クロム合金層がエッチ
ングされることなくそのまま残渣として残存するが,ニッケルが5at%,80at%
のニッケル-クロム合金層はエッチング時に,その上に形成されている銅層と一緒
に除去されて配線パターンが確実に形成出来ることが確認された(【0032】)。
【図2】
カ以上のとおり,甲2発明は,1種類のエッチング溶液で配線パターンを形成
することができ,中間層としてクロム層を介在させた場合と同等の密着強度を有す
るプリント配線基板用の銅箔を提供することを目的とするものであって(【001
4】),支持基板と銅層との間に,中間層として,従来のクロム層の代わりに,ニッ
ケルが5at%~80at%のニッケル-クロム合金層を設けるものである。これ
により,支持基板と銅層との密着強度は1000g/cmと高く,従来のクロム層
を中間層とした場合と同等の密着性を有し,また,1種類のエッチング溶液で銅層
とニッケル-クロム合金層を連続してエッチング処理することができるため,配線
パターンを形成する際,工程の簡略化,製品の歩留まりアップ,コスト削減に寄与
することができるという効果を奏するものである(【0015】【0034】)。
(2)甲2発明の認定及び相違点B4の認定について
原告は,本件発明1と対比すべき主引用発明としては,甲2発明を「Ni-Cr
合金層におけるクロム含有率が18重量%である半導体装置」と認定すべきである
のに,「Ni-Cr合金層におけるCr含有率が18~94重量%である半導体装置」
であるとした審決の認定には誤りがあると主張する。
上記(1)によれば,甲2発明は,支持基盤と銅層との密着強度を維持しつつ1種類
のエッチング溶液で配線パターンを形成するために,ニッケル-クロム合金層のク
ロム含有率を18~94重量%とすることを特徴とするものであり,実施例におい
ても,クロム含有率を18重量%とするもののほかに,78重量%とするもの又は
【図3】
94重量%とするものも具体的に開示されているのであるから,甲2発明を「Ni
-Cr合金層におけるCr含有率が18~94重量%である半導体装置」とした審
決の認定が直ちに誤りとなるわけではない。
しかし,甲2公報には,クロム含有率が18重量%とするものが実施例として記
載されているのであるから,本件発明1と対比すべきものとしては,クロム含有率
が18重量%の実施例だけで十分である。
したがって,甲2発明の実施例におけるクロム含有率が18重量%との構成は,
本件発明1の「前記バリア層におけるクロム含有率を15~50重量%とする」と
の構成との一致点であり,本件発明1においては,これが「前記バリア層の溶出に
よるマイグレーションを抑制する」ものであるのに対し,甲2発明は,クロム含有
率が18重量%であることが「バリア層の溶出によるマイグレーションを抑制する」
ものであるか否か特定されていない点が相違点B4と認定されるべきである。
次にこの相違点B4の容易想到性について判断する。
4取消事由2-2(相違点B4に係る容易想到性の判断の誤り)
(1)原告は,甲1公報には,クロム含有率10重量%を超えるバリア層がマイグ
レーションを抑制する効果を奏することが記載されているから,甲2発明のクロム
含有率18重量%のバリア層にマイグレーションの抑制効果があることは,当業者
が容易に予測することができる旨主張する。
そこで検討するに,前記1(1)によれば,本件発明1は,従来技術のニッケル単独
のバリア層につき,クロム含有率を増加させることによって端子間のマイグレーシ
ョンを抑制するものであるのに対し,前記3(1)によれば,甲2発明は,従来技術の
クロム単体の中間層につき,支持基盤と銅層との密着強度を維持しつつ1種類のエ
ッチング溶液で配線パターンを形成するためにクロム含有率を低下させるものであ
る。そうすると,本件発明1と甲2発明は,同じくバリア層又は中間層のクロム含
有率を調整するものではあるが,その課題及び効果を全く異にするものである。そ
うすると,甲2発明に接した当業者はもとより本件発明の課題を認識することはな
く,甲2発明からは,中間層が端子間のマイグレーションを抑制するという本件発
明の効果を奏することも認識することはできない。
そして,甲1発明を検討するに,前記1(2)によれば,甲1公報の【0015】,
【0026】,【0031】,【0032】には,櫛形電極の端子間距離が50μm,
スパッタ層の厚みが70Åから300Åのものにおいて,スパッタ層のニッケル-
クロム合金中のクロム含有量は3~10重量%であることが望ましく,10重量%
を超えても耐マイグレーション性の向上効果はほぼ同一であると記載されているこ
とからすれば,確かに,甲1公報に接した当業者においてクロム含有量が10重量%
を超えた場合に一定の耐マイグレーション性の向上効果があると認識することがで
きる。しかしながら,甲1公報には,上記向上効果があるとされるマイグレーショ
ンの原因につき電界,湿度,温度,材質,不純物その他の多種多様なものが想定し
得る中で(甲6),当該原因がバリア層の溶出によるものであることが記載も示唆も
されていないのであるから,甲1公報に接した当業者がクロム含有率を上げること
によって,バリア層の溶出を原因とするマイグレーションを抑制することができる
ものと予測することはできない。
そうすると,甲1公報には,ニッケル-クロム合金のバリア層におけるクロム含
有率を調整することによりバリア層溶出によるマイグレーションの発生を抑制する
ことが記載又は示唆されていないから,これと異なる前提に立つ原告の主張は,採
用することができない。
(2)また,原告は,甲21刊行物にはニッケル-クロム合金におけるクロム含有
率を増加させることによりニッケル溶出量を減少させることが記載されるとともに,
甲6刊行物及び甲24刊行物によれば当業者においてニッケル-クロム合金のスパ
ッタ層を有する電極のマイグレーションは陽極金属からのニッケル溶出で始まるこ
とが理解できるから,甲2発明のクロム含有率18重量%のバリア層にマイグレー
ションの抑制効果があることは,当業者が予測することができる旨主張する。
そこで検討するに,甲21刊行物には,ニッケル-クロム合金のクロム含有量を5.
5wt%から10.8~21.0wt%に増加させることによりニッケル溶出量が減少
したなどとして,ニッケル-クロム合金におけるクロム含有率を増加させることに
よりニッケル溶出量が減少した旨記載されているものの(甲21),上記にいうニッ
ケル-クロム合金は,歯科用合金であって,プリント配線基板用の銅箔において支
持基盤と同層との間に設けられたニッケル-クロム合金とは,技術分野を異にする
ものである。しかも,甲6刊行物及び甲24刊行物によれば,マイグレーションの
原因は,電解質を介した二つの電極間に直流電圧が印可されることによって陽極か
ら金属のイオンが溶出しこれが電界の作用により電解質中を陰極に向かって移行す
ることによって生ずるものであると一応理解できるところ(甲6,甲24),当該溶
出に係る機序と,甲21刊行物にいう口腔内で生ずる溶出の機序は全く異なるもの
であり,甲21刊行物には上記にいうマイグレーションは記載されていないものと
認められる。そうすると,甲21刊行物にいう溶出の事実は,上記にいうマイグレ
ーションが生ずる機序とは異なるものであるから,上記溶出の事実から出発してマ
イグレーションの抑制という課題を解決することはできない。そもそも上記のとお
りマイグレーションの原因を説明した甲6刊行物及び甲24刊行物においてすら,
その解決手段として樹脂コーティングを施すものとするにとどまり,クロム含有率
に着目するものではないのであるから,上記原因が一応説明し得たとしても,その
原因を生じさせる要因としては,電界,湿度,温度,材質,不純物その他多種多様
なものが想定される以上(甲6),上記原因の解明が直ちにクロム含有率に着目する
という着想に想到し得ないことは明らかである。
(3)以上によれば,甲1公報,甲21刊行物その他原告主張に係る各刊行物には,
ニッケル-クロム合金のバリア層におけるクロム含有率を調整することによりバリ
ア層溶出によるマイグレーションの発生を抑制することを記載又は示唆するもので
はないから,甲2発明に接した当業者においてクロム含有率18重量%のバリア層
にバリア層溶出によるマイグレーション効果を奏することを予測し得なかったとい
うべきである。原告の主張の実質は,結局のところ,別件審決取消訴訟において排
斥された甲2発明を主引用例として進歩性を否定する主張を蒸し返すものであり,
採用することができない。
第5結論
以上のとおり,原告が主張する各取消事由はいずれも理由がなく,原告の本訴請
求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官設樂一
裁判官中島基至
裁判官岡田慎吾

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