弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成11年(行ケ)第88号審決取消請求事件(平成12年4月19日口頭弁論終
結)
         判     決
    原      告   三菱レイヨン株式会社
    代表者代表取締役   【A】
    訴訟代理人弁護士   生 田 哲 郎
    同          山 田 基 司
    被      告   特許庁長官 【B】
    指定代理人   【C】
同【D】
    同          【E】
         主     文
     原告の請求を棄却する。
     訴訟費用は原告の負担とする。
         事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
 1 原告
   特許庁が、平成8年審判第18770号事件について、平成11年1月19
日にした審決を取り消す。
   訴訟費用は被告の負担とする。
 2 被告
   主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告は、平成2年6月20日、名称を「プラスチック光ファイバ」とする発
明(以下「本願発明」という。)につき特許出願をした(特願平2-159919
号)が、平成8年10月8日に拒絶査定を受けたので、同年11月6日、これに対
する不服の審判の請求をした。
   特許庁は、同請求を平成8年審判第18770号事件として審理したうえ、
平成11年1月19日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、そ
の謄本は同年2月24日、原告に送達された。
 2 本願発明の要旨
  (1) 本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本願発
明1」という。)の要旨
    芯層/鞘層/保護層の三層構造を基本構成とするオールプラスチック光フ
ァイバにおいて、各層形成用重合体が230℃、5kg荷重におけるメルトインデ
ックス値(M.I)が
    芯形成用重合体のM.I<鞘形成用重合体のM.I×5/9‥‥(1)
    鞘形成用重合体のM.I<保護層形成用重合体のM.I×7/9‥‥(2)
   なる条件を満足する重合体にて構成されており、保護層の厚みが10μm以
下であることを特徴とするプラスチック光ファイバ。
  (2) 本願明細書の特許請求の範囲の請求項2に記載された発明(以下「本願発
明2」という。)の要旨
    芯層/鞘層/保護層の三層構造を基本構成とするオールプラスチック光フ
ァイバにおいて、各層形成用重合体が230℃、5kg荷重におけるメルトインデ
ックス値(M.I)が
    芯形成用重合体のM.I<鞘形成用重合体のM.I×5/9‥‥(1)
    鞘形成用重合体のM.I<保護層形成用重合体のM.I×7/9‥‥(2)
   なる条件を満足する重合体にて構成されており、鞘層の厚みと保護層の厚み
との比が1:1~1:2であることを特徴とするプラスチック光ファイバ。
  (以下、本願発明1、2の要旨で規定された、230℃、5kg荷重における
メルトインデックス値(M.I)に関する各条件式(1)に係る条件を第1条件とい
い、各条件式(2)に係る条件を第2条件という。)
 3 審決の理由の要点
   審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明1及び本願発明2が、特開
昭61-240205号公報(以下「第1引用例」という。)に基づいて、当業者
が容易に発明をすることができたものと認められるので、特許法29条2項の規定
により特許を受けることができないとした。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
   審決の理由中、本願発明1及び本願発明2の要旨の認定、第1引用例の記載
事項の認定、本願発明1と第1引用例記載の発明との相違点(1)の認定、本願発明
2と第1引用例記載の発明との相違点(ⅰ)の認定は認める。
   審決は、本願発明1と第1引用例記載の発明との一致点の認定及び本願発明
2と第1引用例記載の発明との一致点の認定を誤り(取消事由1)、本願発明1と
第1引用例記載の発明との相違点(1)についての判断及び本願発明2と第1引用例
記載の発明との相違点(ⅰ)についての判断を誤った(取消事由2)結果、本願発明
1及び本願発明2が第1引用例に基づいて当業者が容易に発明をすることができた
との誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならな
い。
 1 取消事由1(一致点の認定の誤り)
   審決は、本願発明1と第1引用例記載の発明とが、「(1)保護層の厚みが、
本件請求項1に係る発明(注、本願発明1)では、10μm以下であるのに対し
て、第1引用例記載のものでは、144μmである点で相違し、その余の点では一
致している。」(審決書6頁12~16行)として、また、本願発明2と第1引用
例記載の発明とが、「(ⅰ)鞘層の厚みと保護層の厚みとの比が、本件請求項2に係
る発明(注、本願発明2)では、1:1~1:2であるのに対して、第1引用例記
載のものでは、1:24である点で相違し、その余の点では一致している。」(同
7頁4~8行)として、本願発明1及び本願発明2と第1引用例記載の発明とが、
それぞれ第1、第2条件を満足する重合体にて構成されている点で一致すると認定
した。
   該一致点の認定のうち、第1引用例記載の発明において、芯形成用重合体の
M.I(第1引用例の記載はMFR(メルトフローレート値)だが、本件の限りで
は、M.Iと同じものと考えてよい。)と鞘形成用重合体のM.Iとの比が第1条件
を充足すること、及び第1引用例中の審決の認定に係る実施例1において、鞘形成
用重合体のM.Iと保護層形成用重合体のM.Iとの比が第2条件を充足することは
認める。
   しかしながら、本願発明1は、芯層/鞘層/保護層の三層構造を基本構成と
するオールプラスチック光ファイバにおいて、「芯形成用重合体のM.Iと鞘形成用
重合体のM.Iとを特定の比とすること」(第1条件)、「鞘形成用重合体のM.I
と保護層形成用重合体のM.Iとを特定の比とすること」(第2条件)、及び「保護
層の厚みを10μm以下とすること」(以下「第3条件(1)」という。)の3条件
を併有することにより、また、本願発明2は、第1、第2条件及び「鞘層の厚みと
保護層の厚みとの比を1:1~1:2とすること」(以下「第3条件(ⅰ)」とい
う。)の3条件を併有することにより、それぞれ光ファイバの伝送損失を低減させ
ることを見い出し、これを発明の要旨としたものである。従前は、鞘層と保護層と
の界面の構造不整は、光伝送損失に関係しないと考えられていたから、第2条件及
び第3条件(1)又は第3条件(ⅰ)は、当業者にとって意外な結果であった。
   これに対し、第1引用例には、鞘形成用重合体のM.Iと保護層形成用重合体
のM.Iとをある特定の比にして、光伝送損失の低減を図るという第2条件の技術的
意義は開示も示唆もされていない。
   第1引用例においても、光伝送損失低減の効果が記載されているが、その光
伝送損失は、第1図に表示された芯層及び鞘層からなる2層構造の光ファイバにつ
いて測定されており、第2図に表示された芯層、鞘層及び保護層からなる3層構造
の光ファイバについては、保護層の耐熱性を検証するために、115℃、500時
間加熱後のものの伝送損失を測定し、これに対応する2層構造の光ファイバの伝送
損失と比較しているのみであるから、第1引用例の光伝送損失低減の効果は、あく
まで芯層及び鞘層からなる2層構造の光ファイバについて問題とされているにすぎ
ない。
   なお、被告は、115℃、500時間加熱の前後の伝送損失が測定されてい
ると主張するが、それは誤りである。また、第1引用例記載の実施例及び比較例に
おける保護層のM.Iの値は全部同一値とされている。さらに、第1引用例記載の実
施例中に、第2条件を充足するものと、しないものとがあり、また、その比較例に
おいても、第2条件を充足するものと、しないものとがある。
   これらのことから、第1引用例においては、保護層のM.Iを要素とする第2
条件は全く念頭に置かれていないことが明らかであって、第2条件が技術的意義を
有するものとして記載されていたものではなく、第1引用例中に、第2条件を充足
する実施例があることは、単なる偶然であるにすぎない。
   しかして、発明に進歩性がないとするためには、単に公知技術として、当該
構成自体が開示・示唆されているというだけでは足りず、当該構成の技術的意義が
周知であるとか、あるいは公知技術における当該構成の技術的意義が開示・示唆さ
れていることが必要であると解されるところ、上記第1引用例に、鞘形成用重合体
のM.Iと保護層形成用重合体のM.Iとの比をある一定の値とするという技術的思
想が開示・示唆されていると解することは到底できず、したがって、第1引用例に
第2条件が記載されていると見ることはできない。
   そうすると、審決が、本願発明1及び本願発明2と第1引用例記載の発明と
が、それぞれ第2条件を満足する重合体にて構成されている点で一致すると認定し
たことは誤りである。
   被告は、第1引用例の実施例1の光ファイバが第1、第2条件を満たす素材
を使用しているのであるから、本願発明1及び本願発明2における第1条件、第2
条件を満たす場合の効果は、該実施例1の光ファイバでも生じているはずであり、
伝送損失の低減したものが得られていると主張するが、本願発明1及び本願発明2
においては、上記のとおり、第1、第2条件及び第3条件(1)又は第3条件(ⅰ)が
すべて充足される場合に、初めて伝送損失の低減したものが得られるのであり、被
告の該主張は誤りである。
 2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)
  (1) 本願発明1について
    審決は、本願発明1と第1引用例記載の発明との相違点(1)である「保護
層の厚みが、本件請求項1に係る発明(注、本願発明1)では、10μm以下であ
るのに対して、第1引用例記載のものでは、144μmである点」(審決書6頁1
2~15行)につき、「一般に、保護層の厚みをどの程度の値とするかは、保護層
の材料等によって、当業者が適宜決定できる設計的な手段に過ぎず」(同7頁9~
12行)としたうえ、特開平2-25812号公報(保護層の厚み25μm、以下
「周知例1」という。)、特開平2-93502号公報(同36μm、以下「周知
例2」という。)、特開平1-235905号公報(同40μm、以下「周知例
3」という。)、特開昭64-84205号公報(同40μm、以下「周知例4」
という。)、特開昭63-113511号公報(同50μm、以下「周知例5」と
いう。)を引用し、さらに、本願明細書(平成10年11月9日付手続補正書(甲
第4号証)による補正後のもの、以下、単に「本願明細書」という。)に記載され
た実施例1及び比較例7、8に係る保護厚みと伝送損失との下記の関係を摘示した
うえ、「保護厚みが増えるにつれて伝送損失が滑らかに増えているから、保護層の
厚みを『10μm以下』にすることに格別の臨界的な意義が在るとは認め難い。」
(同8頁10~13行)と判断した。
              実施例1 比較例7 比較例8
   保護厚み(μm)       5   15   20
   伝送損失(dB/Km)
    660nmの赤色LEDを発
    光入力源としたとき198  231  236
    650nmでのN.A.=0.65
    入射光としたとき128  150  169
    650nmでのN.A.=0.1
    入射光としたとき120  125  132
    しかしながら、周知例1~5に、各掲記の厚みのある保護層を有する光フ
ァイバが記載されていること、本願明細書に記載された実施例1及び比較例7、8
に係る保護厚みと伝送損失との関係が上記のとおりであることは認めるが、第1引
用例記載の発明において、保護層の厚みを10μm以下にすること(第3条件
(1))が、当業者が適宜決定できる設計的な手段にすぎないとすること、第3条件
(1)に臨界的な意義がないとすることはいずれも誤りである。
    すなわち、第1引用例に開示された光ファイバの保護層は、光ファイバの
耐熱性の向上を目的とするものであり、そのために耐熱性樹脂である弗化ビニリデ
ンを144μmもの厚みにしてこれを採用しているのである。そして、光ファイバ
の耐熱性(高温下で長時間静置後の光伝送損失の増加量)に、耐熱性樹脂である弗
化ビニリデンの厚みが密接に関係することは技術常識であるから、当業者が、弗化
ビニリデンの厚みを第1引用例に記載された144μmから極端に薄くし、10μ
m以下とすることはあり得ない。特に、第1引用例には、保護層の厚みを10μm
以下にすることによって、伝送損失が改善されるという知見が全くないのであるか
ら、耐熱性が極端に悪くなると考えられる方向に保護層の厚みを変更する試行を当
業者が行うことは考えられない。また、周知例1~5には、第2条件の開示・示唆
がないことはもとより、第3条件(1)に係る保護層の厚みを10μm以下にするこ
とにより、光ファイバの伝送損失の低減を図ることができるという点の開示もな
い。したがって、第2条件及び第3条件(1)を併せ有することに対する契機ないし
動機付けは何ら存在しないのであり、第1引用例記載の発明と周知例1~5の記載
とを組み合わせることにより、本願発明1を容易に推考することは、いかなる意味
においてもできるものではない。
    さらに、本願明細書記載の実施例1(保護厚み5μm)と、比較例7(同1
5μm)との間には、光伝送損失の明らかな低下が見られる。したがって、第3条
件(1)に臨界的な意義が認められるのであり、臨界的な意義がないとする審決の判
断も誤りである。
    加えて、審決は、保護層の厚みをどの程度の値とするかは当業者が適宜決
定できるとして、第3条件(1)のみを、第1条件及び第2条件と切り離し、独立し
て判断しているが、上記のとおり、本願発明1は、芯層/鞘層/保護層の三層構造
を基本構成とするオールプラスチック光ファイバにおいて、第1条件、第2条件及
び第3条件(1)を併有することに、光伝送損失の低減を図る技術的意義を有するも
のであるから、審決の上記相違点(1)についての判断の手法自体が誤りである。
    この点につき、被告は、本願明細書の記載を根拠として、本願発明1が、
第1、第2条件の組合せによって伝送損失低減をもたらした点にその技術的意義な
いし特徴を有するものであるとし、さらに、審決が本願発明1の構成の技術的意義
についてのこのような理解に基づき、第1引用例に記載された第1、第2条件を備
える光ファイバに、第3条件(1)を付加することが当業者にとって容易であるか否
かを検討して、本願発明の進歩性の判断をしたものであると主張するが、審決は、
本願発明の要旨を、本願明細書記載の特許請求の範囲と同一文言によって認定し、
また、本願明細書の発明の詳細な説明の記載から、第3条件(1)に技術的意義がな
いとするような判断はしていないから、本願発明1が、第1、第2条件のみの組合
せによって伝送損失低減をもたらしたというような理解に拠っているものでないこ
とは明らかである。
    確かに、本願明細書の記載上、第3条件(1)を第1、第2条件と併有する
ことによる技術的意義や目的が明確には記載されていないが、だからといって、第
3条件の技術的意義が存在しないことにはならない。発明は、その構成が示されて
いれば、技術的意義や目的が明確に記載されていなくても、発明として完成するの
であるし、明細書の技術的意義や目的に関する記載は、発明者の主観的な認識であ
るにすぎず、これによって、特許性の判断に際し、発明の構成についての判断が左
右されることはないのである。なお、第3条件(1)を併有させることがもたらす技
術的なメカニズムについては、必ずしも明らかではないが、保護層の厚みを少なく
する、つまり保護層樹脂量をより少なくすることにより、同一のM.I条件関係の下
においても、保護層の存在による鞘層の紡糸の際の流動性の阻害要件、ひいては鞘
層による芯層の流動性の阻害要件が緩和されて、結果として、伝送損失に影響する
芯層と鞘層界面の構造不整を改善することになるのではないかと考えられる。
  (2) 本願発明2について
    審決は、本願発明2と第1引用例記載の発明との相違点(ⅰ)である「鞘層
の厚みと保護層の厚みとの比が、本件請求項2に係る発明(注、本願発明2)で
は、1:1~1:2であるのに対して、第1引用例記載のものでは1:24である
点」(審決書7頁4~7行)につき、「一般に、鞘層の厚みと保護層の厚みとの比
をどの程度の値とするかは、鞘層や保護層の材料等によって、当業者が適宜決定で
きる設計的な手段に過ぎず」(同8頁14~17行)としたうえ、周知例2(鞘層
の厚みと保護層の厚みとの比1:9)、周知例3(同1:4)、周知例4(同1:
8)、周知例5(同1:6.3)を引用し、さらに、本願明細書に記載された実施
例1及び比較例7、8に係る鞘層の厚みと保護層の厚みとの比と伝送損失との下記
の関係を摘示したうえ、「当該比が増えるにつれて伝送損失が滑らかに増えている
から、当該比を『1:1~1:2』にすることに格別の臨界的な意義が在るとは認
め難い。」(同9頁16~19行)と判断した。
              実施例1 比較例7 比較例8
   鞘層の厚みと保護層の
   厚みとの比       1:1  1:3  1:4
   伝送損失(dB/Km)
    660nmの赤色LEDを発
    光入力源としたとき198  231  236
    650nmでのN.A.=0.65
    入射光としたとき128  150  169
    650nmでのN.A.=0.1
    入射光としたとき120  125  132
    しかしながら、このような審決の相違点(ⅰ)についての判断が誤りである
ことは、上記(1)の相違点(1)についての判断が誤りであることと全く同様である。
第4 被告の反論の要点
   審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
 1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
   原告は、本願発明1が第1、第2条件及び第3条件(1)の3条件を、本願発
明2が第1、第2条件及び第3条件(ⅰ)の3条件を、それぞれ併有することによ
り、光ファイバの伝送損失を低減させることを見い出し、これを発明の要旨とした
と主張するが、本願明細書は、専ら第1条件と第2条件を満足させることで、界面
での構造不整を著しく低減し、光伝送特性を改良する本願発明の目的が達成される
とし(甲第2号証8頁7行~9頁9行)、そのメカニズムについても説明している
(同9頁10行~10頁11行)のであり、第3条件(1)については、光ファイバ
の保護厚みが実施例1~4において5μm、実施例5において10μmであること
が記載されているが、その厚みと構造不整の低減や伝送特性との関係は本願明細書
には全く記載がないのみならず、比較例7に、保護層の厚みを15μmに変更する
ほかは実施例1と同様の方法で得た光ファイバが、比較例8に、保護層の厚みを2
0μmに変更するほかは実施例4と同様の方法で得た光ファイバの伝送損失の値が
示されているものの、第1、第2条件を満たさない光ファイバについて、保護層の
厚みにより伝送損失の低減が起こるかどうかはこれらの比較例では判断できず、第
3条件(1)又は第3条件(ⅰ)と第1、第2条件との関連は明らかにはされていると
はいえない。結局、本願発明1及び本願発明2は、ともに、第1、第2条件の組合
せによって伝送損失低減をもたらした点にその技術的意義ないし特徴を有するもの
といわざるを得ない。
   他方、第1引用例に関しては、そもそも、芯と鞘(場合により保護材)とか
ら構成され、芯と鞘との境界面で光を反射させながら光を搬送する機能を有する光
ファイバにおいて、光伝送損失の低減を図ることは、そのような記載の有無にかか
わらず、常に考慮すべき周知の課題というべきところ、第1引用例の「本発明
は、・・・低光伝送損失であるプラスチック光ファイバを製造することのできる方
法を提供する」(甲第5号証2頁右上欄16行~左下欄2行)との記載により、そ
こに記載された発明が光伝送損失の低減を課題としていることは明らかであり、さ
らに、「保護層3及び被覆層4等を構成する有機重合体は、本発明により改善する
ことを目的としている特性のほか、プラスチック光ファイバの諸特性を改善するこ
とを企図して、所望により任意に選択することができる。」(同号証4頁右上欄1
~5行)との記載からみて、保護層を有する態様についても、同様に光伝送損失の
低減を課題としていることが示唆されている。
   そして、第1引用例には、「ファイバ特性評価方法」として、「耐熱性」に
関し、「弗化ビニリデン(メルトフローレート20g/10分)をコア・クラッド
に被覆したファイバを115℃、500時間加熱した後の光伝送損失の増加量(d
B/km)。」(同号証5頁左下欄3~6行)と記載されたうえ、第1表に及び第
2表に、実施例1~8につき耐熱性の値が示されているから、実施例1~8は、メ
ルトフローレート値(MFR)すなわちM.Iを同一(20g/10分)とする樹脂
を保護層とする、芯層(コア)-鞘層(クラッド)-保護層の三層構造からなる光
ファイバであって、各光ファイバの115℃、500時間加熱の前後の伝送損失が
測定されていることが、上記の記載上明らかである。しかるところ、実施例1~8
につき、各層のM.Iを、本願発明1及び本願発明2の第1、第2条件に係る各条件
式に当てはめると、実施例1~5、8が、第1条件及び第2条件のいずれをも満た
しているものである。
   そうすると、第1引用例には、第2条件についての直接的な記載はないもの
の、その実施例1の光ファイバは、第1、第2条件を満たす素材を使用しているの
であるから、本願発明1及び本願発明2における第1条件、第2条件を満たす場合
の上記の効果は、記載の有無にかかわらず、第1引用例の実施例1の光ファイバで
も生じているはずであり、伝送損失の低減したものが得られているのである(な
お、審決は、効果の最も大きい実施例1について認定しているが、実施例2~5、
8についても、上記のとおり同様である。)。
   なお、第1引用例の「〔MFR〕2が〔MFR1〕の値未満であると、ノズル内で
のポリマーの流れが乱れ易くなり、芯と鞘の界面不整、即ち構造不整による光伝送
損失が増加するので好ましくない。」(甲第5号証4頁左上欄8~11行。ただ
し、〔MFR〕2は、鞘層重合体のメルトフローレート値(すなわちM.I)であ
り、〔MFR1〕は〔MFR〕1の誤記であって、芯層重合体のメルトフローレート値
(すなわちM.I)である。同号証1頁特許請求の範囲)との記載は、プラスチック
光ファイバにおいて、外側の重合体層のM.Iが内側の重合体層のM.I未満である
と、光伝送損失が増加することを示唆しており、これに加えて、保護層の形成の仕
方によって、光ファイバの光伝送損失を低下させたり、上昇させたりすることが、
本願出願当時、既に当業者に広く認識されていたから、当業者であれば、保護層重
合体のM.Iが鞘層重合体のM.I未満であると、光伝送損失が増加することに容易
に想到し得るものである。
   以上のとおりであるから、原告の主張は失当であり、審決がした本願発明1
及び本願発明2と第1引用例記載の発明との一致点の認定に誤りはない。
 2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について
  (1) 本願発明1について
    原告は、第1引用例に開示された光ファイバの保護層が、光ファイバの耐
熱性の向上を目的とするものであり、これを極端に薄くすることはその目的に反す
るものであるから、当業者が、第1引用例に記載された保護層の厚み144μmを
10μm以下とすることはあり得ないと主張する。しかしながら、第1引用例の
「保護層3及び被覆層4等を構成する有機重合体は、本発明により改善することを
目的としている特性のほか、プラスチック光ファイバの諸特性を改善することを企
図して、所望により任意に選択することができる。例えば、光ファイバの耐熱性、
耐熱収縮性、機械的特性を改善する目的で保護層3を、熱変形温度100℃以上の
有機重合体で構成することができる。」(甲第5号証4頁右上欄1~9行)との記
載から見て、当該保護層の厚みは、耐熱性のみならず、耐熱収縮性、機械的特性の
向上をも目的として、採用されたものであり、その厚みが耐熱性の向上と密接に関
係することは記載されていない。のみならず、これらの特性が他の手段によって担
保できる状況、例えば、他にカバーがある場合などでは、保護層の厚みを必ず
144μmにしなければならない必然性はなく、厚みを最小限度に薄くする
ことは可能である。したがって、原告の該主張は失当である。
    また、原告は、第1引用例記載の発明と周知例1~5の記載とを組み合わ
せて本願発明1を容易に推考することはできないと主張するが、審決が周知例1~
5を引用したのは、保護層の厚みを様々に設計した各周知例の具体的数値を示すこ
とにより(因みに、周知例3には光ファイバの保護層の厚みを10μmとすること
も記載されている)、「一般に、保護層の厚みをどの程度の値とするかは、保護層
の材料等によって、当業者が適宜決定できる設計的な手段に過ぎ」(審決書7頁9
~12行)ないことを明らかにするためである。そして、周知例1~5のほか、特
開昭61-65209号公報(保護層の厚み90μm)、特開昭61-16980
5号公報(同8μm)、特開昭61-252507号公報(同10~100μ
m)、特開昭59-116702号公報(同10μm以下)、特開昭61-251
807号公報(同3~500μm)、特開昭61-217009号公報(同250
μm以下)、特開昭58-18608号公報(同50μm)、特開昭61-223
707号公報(同2μm)、特開昭61-6604号公報(同250μm)、特開
昭60-260005号公報(同117μm)、特開昭60-260004号公報
(同250μm)、特開昭60-32004号公報(同1~30μm)、特開昭5
9-202403号公報(同250μm)、特開昭58-93003号公報(同5
0μm)には、各括弧書きの厚みの保護層がそれぞれ開示されており、10μm以
下値も特別なものではなく、審決の上記判断に誤りはない。
    原告は、さらに、本願明細書記載の実施例1(保護厚み5μm)と、比較
例7(同15μm)との間に、光伝送損失の明らかな低下が見られるから、第3条
件(1)に臨界的な意義が認められると主張するが、保護厚み5μmと15μmのそ
のような比較によって、第3条件(1)(保護層の厚みを10μm以下とすること)
の臨界的意義が認められたといい得ないことは明らかであるから、審決が、保護層
の厚みを10μm以下にすることに格別の臨界的な意義が認められないとした判断
にも誤りはない。
    しかるところ、本願発明1が、第1、第2条件の組合せによって伝送損失
低減をもたらした点に、その技術的意義ないし特徴を有するものであることは上記
のとおりであり、審決は、本願発明1の構成の技術的意義についてのこのような理
解に基づき、第1引用例に記載された第1、第2条件を備える光ファイバに、第3
条件(1)を付加することが当業者にとって容易であるか否かを検討して、本願発明
の進歩性の判断をしたものである。
    しかして、このような判断手法は従前から行われているものであり、本願
発明1について適切なものである。また、このような手法に基づく審決の相違点
(1)についての判断にも、上記のとおり誤りはない。
  (2) 本願発明2について
    審決が、相違点(ⅰ)についての判断に当たって、周知例2~5を引用した
のは、鞘層の厚みと保護層の厚みとの比を様々に設計した各周知例の具体的数値を
示すことにより、「一般に、鞘層の厚みと保護層の厚みとの比をどの程度の値とす
るかは、鞘層や保護層の材料等によって、当業者が適宜決定できる設計的な手段に
過ぎ」(同8頁14~17行)ないことを明らかにするためである。因みに、特開
昭61-169805号公報及び特開昭59-116702号公報には、鞘層の厚
みと保護層の厚みとの比が1:1~1:2の範囲内である光ファイバが記載されて
おり、当該比が1:1~1:2の範囲内であることも特別なものではなく、審決の
上記判断に誤りはない。
    本願発明2は、本願発明1の第3条件(1)を第3条件(ⅰ)に置き換えたも
のであり、上記の点のほか、相違点(ⅰ)についての判断に誤りがないことは、上
記(1)の相違点(1)についての判断に誤りがないことと全く同様である。
第5 当裁判所の判断
   最初に、本願発明1について判断する。
 1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
  (1) 第1引用例記載の発明において、芯形成用重合体のM.Iと鞘形成用重合
体のM.Iとの比が第1条件を充足すること、第1引用例の実施例1における鞘形成
用重合体のM.Iと保護層形成用重合体のM.Iとの比が第2条件を充足することは
当事者間に争いがない。
    しかるところ、本願明細書には、「本発明のオールプラスチック光ファイ
バは従来開発されてきたプラスチック光ファイバに比べ構造不整を著しく低減し得
ており、光伝送特性が更に改良されたものとなっている。芯の溶融粘度に対し鞘の
溶融粘度を式(1)(注、第1条件に係る条件式)を満足するようにしたことに加え
さらにその外層に形成する保護層を鞘の溶融粘度に対し保護材の溶融粘度を式(2)
(注、第2条件に係る条件式)の関係を満足せしめることによりその目的を達成さ
せたものである。保護材の溶融粘度を鞘に対して式(1)(注、「式(2)」の誤記と
認められる。)を満足するように低くすることにより複合溶融ノズル内壁面から鞘
材/保護材界面までの溶融賦形時における重合体流速勾配を大きくし、鞘材/保護
材界面での溶融重合体流速を一致させることが容易となるため、鞘-保護材界面で
の構造不整を低減せしめたものとすることができるのである。保護材が流速を持っ
ているため芯-鞘界面でのポリマー流速差は大きく低減されそれにより界面不完全
が大幅に低減されるものと考えられる。・・・構造不整を著しく低減し得ているた
め、その光伝送特性が一層改良されたものとなっている。」(甲第2号証8頁7行
~9頁9行)との記載があり、前示第1引用例記載の実施例1は、その構成上、芯
形成用重合体のM.Iと鞘形成用重合体のM.Iとの比が第1条件を充足するのみな
らず、鞘形成用重合体のM.Iと保護層形成用重合体のM.Iとの比が第2条件を充
足するのであるから、第1引用例には、前示本願明細書に記載された発明と同様、
「構造不整を著しく低減し得ているため、その光伝送特性が一層改良されたものと
なっている」プラスチック光ファイバの発明が記載されているものと認めることが
できる。
    そうすると、本願発明1と第1引用例記載の発明とを対比する際に、両者
が第1条件を満足する重合体で構成されている点のみならず、第2条件を満足する
重合体で構成されている点も含めて、一致点として認定することは、当然のことで
あるといわざるを得ない。
  (2) 原告は、本願発明1において、第1条件、第2条件及び第3条件(1)がす
べて充足される場合に、初めて伝送損失の低減したものが得られると主張するが、
本願明細書には、前示のとおり、第1、第2条件が充足されることにより、構造不
整を著しく低減し、光伝送特性が一層改良されることが記載されている反面、本願
明細書(甲第2~4号証)上、第3条件(1)については、各実施例が同条件の範囲
内にあること、及び保護層の厚みを同条件の範囲外とした以外は実施例と同じ比較
例よりも、該実施例の方が伝送特性がよいことが示されているものの、第3条件
(1)が光伝送損失の低減に繋がる技術的意義を有する旨の記載はなく、前示実施例
及び比較例の記載のみによって、この点が直ちに首肯されるものでもない。そうす
ると、原告の該主張は、本願明細書の記載に基づかないものであって、採用するこ
とができない。
    なお、この点に関して、原告は、審決の発明の要旨の認定や判断に照らし
て、審決が、本願発明1について、第1、第2条件のみの組合せによって伝送損失
低減をもたらしたというような理解に拠っているものでないとか、発明の構成が示
されていれば、発明者の主観的な認識である技術的意義や目的が明確に記載されて
いなくても、発明としては完成し、特許性の判断に際し、発明の構成についての判
断が左右されることはない等と主張するが、審決が、本願発明の要旨を本願明細書
記載の特許請求の範囲と同一文言によって認定したからといって、当該発明の要旨
によって規定される各構成についての技術的意義を、本願明細書の記載に基づかな
いで主張し得ることにはなり得ず、また、発明の構成が示されていれば、その各構
成の技術的意義や目的が示されていなくても、発明として完成していること自体は
そのとおりであるとしても、そのことと、当該完成した発明の特許性の判断に当た
って、その各構成についての技術的意義を認定する必要がある場合に、明細書の記
載に基づいてその認定をすべきこととは別問題であるから、原告の該主張も失当で
ある。
  (3) また、原告は、第1引用例には、第2条件の技術的意義の開示も示唆もな
く、第2条件が技術的意義を有するものとして記載されておらず、第2条件を充足
する実施例があることは、単なる偶然であって、第1引用例に第2条件が記載され
ていると見ることはできないと主張する。そして、第1引用例に、第2条件につい
ての直接的な記載がないことは、被告も認めるところである。
    しかしながら、そもそも、発明の進歩性の判断のため、当該発明と公知文
献に記載された発明とが一致する限度(一致点)を認定するに当たって、両者に、
特定の構成上の一致点が認められる場合であっても、当該発明におけるその一致点
に係る構成の技術的意義と同内容の技術的意義について該公知文献に記載されてい
なければ、両者がその点で一致すると認められないというものではない。
    のみならず、第1引用例に「前記コア成分、クラッド成分に加え、保護成
分としてポリ弗化ビニリデン(・・・メルトフローレート20g/10分)を用
い、同様に3成分複合紡糸して、芯材層径700μm、鞘材層径(注、「厚み」の
誤記と認められる。)6μm、保護層厚み144μmのプラスチック光ファイバ心
線を得た。」(審決書4頁8~14行)との記載があることは当事者間に争いがな
いところ、第1引用例(甲第5号証)には、さらに、該記載(同号証5頁右上欄5
~10行)が「実施例1」に関するものであり、実施例1についての「耐熱性」に
関する「ファイバ特性評価方法」が、「弗化ビニリデン(メルトフローレート20
g/10分)をコア・クラッドに被覆したファイバを115℃、500時間加熱し
た後の光伝送損失の増加量(dB/km)。」(同号証5頁左下欄3~6行)であ
ることの記載があるほか、実施例2~4として、「紡糸温度又は鞘成分の組成を第
1表に示したとおりに変えた以外は、実施例1と同じプラスチック光ファイバを得
た。これらのファイバの特性を実施例1と同じ方法で評価し、結果を第1表に示し
た。」(同欄8~12行)との、実施例5~8として、「鞘材層重合体として用い
た共重合体のメルトフローレートを第2表に示したとおりに変えた以外は実施例2
(紡糸温度220℃)と同じプラスチック光ファイバを得た。これらのファイバの
特性を実施例2と同じ方法で評価し、結果を第2表に示した。」(同号証6頁左上
欄2~7行)との各記載があり、かつ、第1表(同5頁右下欄)及び第2表(同6
頁左上欄)に、実施例1~8につき耐熱性の値が示されている。これらの記載によ
れば、第1引用例には、実施例1のみならず、実施例2~8においても、メルトフ
ローレート値(MFR)、すなわちM.Iが20g/10分である弗化ビニリデンを
保護層とする、芯層(コア)-鞘層(クラッド)-保護層の三層構造からなる光フ
ァイバが記載されており、第1、第2表に基づいて、各実施例の各層重合体のM.I
を、本願発明1の第1、第2条件に係る各条件式に当てはめると、実施例1のほ
か、実施例2~5、8における各三層構造の光ファイバも、第1、第2条件を満た
していることが認められる。
    そして、第1引用例(甲第5号証)の特許出願と、発明者(【F】外5
名)及び出願人(原告)を同じくし、かつ、その特許出願の2週間後に特許出願さ
れたプラスチック光ファイバの発明に係る特開昭61-252507号公報(乙第
5号証)には、従来技術に関し「芯-鞘-保護層の3層を溶融複合紡糸により一体
に賦形する場合、各層構成材料の流動性を最適化しないと、賦形されるファイバに
糸班等の構造欠陥を生じ、光伝送特性に悪影響を及ぼしたり・・・といった問題点
を生じた。」(同号証2頁右上欄14~19行)との記載があり、さらに「本発明
のプラスチック光ファイバにおいては、保護層ポリカーボネートのメルトフローレ
ート〔MFR〕3が、〔MFR〕2と同じかあるいはより大きいことが必要である。即
ち〔MFR〕2>〔MFR〕3であると、ノズル内のポリマーの流れが乱れ、糸斑に著し
く悪影響を与えるので好ましくない。」(同号証4頁右下欄1~6行、なお〔MFR〕
2は、鞘材層重合体のメルトフローレート値、すなわちM.Iである。同号証1頁特
許請求の範囲)との記載があるところ、この各記載を併せ考えれば、前示第1引用
例の特許出願(昭和60年4月18日)当時、芯層-鞘層-保護層の三層構造から
なるプラスチック光ファイバにおいて、各層構成材料の流動性の相対関係が光伝送
特性に影響を与えることが既に当業者に知られており、第1引用例には、明示の記
載がないものの、前示のとおり、その実施例1~5、8の各三層構造の光ファイバ
が第2条件を満たしていることは、かかる知見を前提とするものと推認することが
でき、また、少なくとも、本願出願(平成2年6月20日)当時において、当業者
は、第1引用例の実施例1~5、8の各三層構造の光ファイバが第2条件を満たし
ていることによる、光伝送特性上の技術的意義を理解し得るものというべきであ
る。【F】の陳述記載(甲第11号証)中、前示認定に齟齬する部分は、前掲特開
昭61-252507号公報(乙第5号証)の記載に照らして、措信することがで
きない。
    よって、第1引用例に第2条件が記載されていると見ることはできないと
の原告の前示主張も採用し難い。
  (4) したがって、審決の本願発明1と第1引用例記載の発明との一致点の認定
に、原告主張の誤りはない。
 2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について
  (1) 周知例1~5に、それぞれ審決が掲記した厚みのある保護層を有する光フ
ァイバが記載されていることは、当事者間に争いがない。また、特開昭61-65
209号公報(乙第3号証)には、保護層の厚み90μm(同号証5頁左下欄末
行)の3層構造の光プラスチック系光伝送性繊維が、特開昭61-169805号
公報(乙第4号証)には、保護層の厚み8μm(同号証5頁左下欄5行)のプラス
チック光ファイバが、特開昭61-252507号公報(乙第5号証)には、保護
層厚みが10~250μm(同号証1頁特許請求の範囲請求項2)である3層構造
のプラスチック光ファイバが、特開昭59-116702号公報(乙第6号証)に
は、最外被覆層厚さ8μm(同号証5頁右下欄11行)である3層構造の光伝送性
繊維が、特開昭61-251807号公報(乙第7号証)には、第1次被覆層(中
心層から数えて第3層目)厚み3~500μm(同号証6頁右上欄9行)である4
層構造のプラスチック光ファイバが、特開昭61-217009号公報(乙第8号
証)には、保護層(中心層から数えて第3層目)厚みが250μm以下(同号証1
頁特許請求の範囲)である5層構造のプラスチック光ファイバが、特開昭58-1
8608号公報(乙第9号証)には、最外被覆層厚さが50μm(同号証5頁右上
欄19~20行)である3層構造の光伝送性繊維が、特開昭61-223707号
公報(乙10第号証)には、保護層厚みが2μm又は5μm(同号証5頁左上欄1
2~13行)である3層構造のプラスチック光ファイバが、特開昭61-6604
号公報(乙第12号証)には、保護層厚みが250μm(同号証5頁右下欄18~
19行)である3層構造のプラスチック系光伝送性繊維が、特開昭60-2600
05号公報(乙第13号証)には、保護層厚みが117μm(同号証5頁左上欄1
9行)である3層構造の光伝送性繊維が、特開昭60-260004号公報(乙第
14号証)には、保護層厚さが250μm(同号証4頁右下欄8行)である3層構
造のプラスチック系光伝送性繊維が、特開昭59-202403号公報(乙第16
号証)には、最外被覆層厚さが250μm(同号証6頁左上欄9~10行)である
3層構造の光伝送性繊維が、特開昭58-93003号公報(乙第17号証)に
は、保護層厚さが50μm(同号証6頁左上欄11行)である3層構造の光伝送性
繊維が、それぞれ記載されており、さらに、前掲特開昭59-116702号公報
(乙第6号証)には、3層構造の光伝送性繊維の各層の「構成比厚さ及び太さは光
伝送性繊維の使用目的に応じて自由に設定され」(同号証5頁左上欄6~8行)と
の記載があり、特開昭60-32004号公報(乙第15号証)には、3層構造の
プラスチック系光伝送性繊維の発明において、「本発明の光伝送性繊維の保護層の
厚さは、1~30μmの非常に薄い保護層であっても本発明の目的とする耐熱性の
向上効果は充分に発揮される」(同号証3頁右下欄2~5行)との記載がある。
    これらの記載によれば、プラスチック光ファイバの保護層(中心層から数
えて第3層目)の厚みは、1μmから500μmまで千差万別であり、10μm以
下のものも多くあることが周知の事項であり、かつ、その厚みは、結局、使用目的
等に応じて当業者が適宜決定できるものであることが認められる。
    したがって、審決が、「一般に、保護層の厚みをどの程度の値とするか
は、保護層の材料等によって、当業者が適宜決定できる設計的な手段に過ぎ」(同
7頁9~12行)ないとしたことに誤りはない。
    なお、原告は、第1引用例記載の発明と周知例1~5の記載とを組み合わ
せることにより、本願発明1を容易に推考することはできないと主張するが、審決
が、周知例1~5を引用した趣旨が、前示判断のために、保護層の厚みを様々に設
計した具体例を示した点にあり、第1引用例記載の発明に、周知例1~5の記載に
係る保護層の厚みを直接適用したものでないことは明らかである。
  (2) また、本願明細書に記載された実施例1及び比較例7、8に係る保護厚み
と伝送損失との関係が審決の認定したとおりであることは当事者間に争いがないと
ころ、この実施例1及び比較例7、8についての記載を含め、本願明細書(甲第2
~4号証)の記載上、本願発明1につき、第3条件(1)に係る限界値である保護層
厚み10μmの前後において、保護層厚みの僅かな変化に応じて、伝送特性に急激
な変化があるようなことを窺うことは全くできず、そうすると、審決が、「保護層
の厚みを『10μm以下』にすることに格別の臨界的な意義が在るとは認め難
い。」としたことにも誤りはない。
  (3) 原告は、第1引用例に開示された光ファイバの保護層が耐熱性の向上を目
的とするものであり、光ファイバの耐熱性に、保護層を形成する耐熱性樹脂である
弗化ビニリデンの厚みが密接に関係することは技術常識であるから、当業者が、弗
化ビニリデンの厚みを第1引用例に記載された144μmから10μm以下とする
ことはあり得ないと主張するが、仮に、保護層形成樹脂の厚みと耐熱性が関連する
としても、前示(1)で認定したとおり、保護層の厚みは使用目的に応じて適宜決めら
れるのであり、かつ、耐熱性を目的とした場合でも保護層厚みが1~30μmであ
る公知例が存在するのであるから、当業者が、第1引用例に開示された光ファイバ
の保護層を10μm以下とすることはあり得ないと断定することはできない。
    また、原告は、本願発明1が、第1条件、第2条件及び第3条件(1)を併
有することに、光伝送損失の低減の技術的意義を有するものであるとし、これを前
提として、周知例1~5の記載には、第2条件及び第3条件(1)を併せ有すること
に対する契機ないし動機付けが存在しないとか、審決が、第3条件(1)のみを、第
1条件及び第2条件と切り離し、独立して判断している手法自体が誤りである等と
主張する。しかしながら、本願明細書に、第1、第2条件が充足されることによ
り、構造不整を著しく低減し、光伝送特性が一層改良されることが記載されている
反面、第3条件(1)が光伝送損失の低減に繋がる技術的意義を有する旨の記載がな
いことは、前示のとおりであるから、原告の該主張は、明細書の記載に基づかない
事実を前提とするものであって、その前提自体が失当といわざるを得ない。
    なお、このように、第3条件(1)が第1条件、第2条件との組合せにおい
て技術的意義を有するとはいえないものとすれば、審決が、本願発明1と第1引用
例記載の発明との相違点(1)に対し、保護層の厚みをどの程度の値とするかは、当
業者が適宜決定できる設計的な手段であることを挙げて、該相違点につき、進歩性
を否定する判断としたことに、判断手法の誤りがあるということもできない。
  (4) したがって、審決の本願発明1と第1引用例記載の発明との相違点(1)に
ついての判断に、原告主張の誤りはない。
 3 以上によれば、本願発明1について、原告主張の審決取消事由は理由がな
く、その他審決の本願発明1に関する認定判断に、これを取り消すべき瑕疵は見当
たらない。
   そうすると、原告の請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由が
ないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7
条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第13民事部
裁判長裁判官 田中康久
裁判官   石原直樹
裁判官   長沢幸男

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛