弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

            主      文
    1 原告らの本件各訴えのうち、第一事件に係る被告Gに対する訴えを却
下する。
    2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
    3 訴訟費用(参加に係る費用を含む。)は、原告らの負担とする。
            事実及び理由
第1 請求
 1 第1事件
  1)被告Fは、東京都に対し、金133億1400万円及びこれに対する平成
10年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  2)被告G及び同Hは、連帯して東京都に対し、金13億3140万円及びこ
れに対する平成10年5月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
 2 第2、第3事件(第2事件、第3事件は、訴えの内容が一部重複していたた
め、以下のとおり整理し直されたものである。)
 1)被告F、同G、同Hは、東京都に対し、連帯して金4620万円、及びこれ
に対する被告F及び同Gについては平成13年3月4日から、同Hについては平成
13年3月27日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  2)被告F、同I、同G、同Kは、東京都に対し、連帯して金1億7850万
円及びこれに対する平成12年7月24日から支払済みまで年5分の割合による金
員を支払え。
  3)被告F、同I、同J、同Kは、東京都に対し、連帯して金3150万円及
びこれに対する平成12年7月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を
支払え。
  4)被告F、同I、同J、同Kは、東京都に対し、連帯して金735万円及び
これに対する平成12年7月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支
払え。
  5)被告F、同I、同J、同Kは、東京都に対し、連帯して金735万円及び
これに対する平成12年7月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支
払え。
  6)被告Fは、東京都に対し、金5985万円及びこれに対する平成13年3
月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
 1 事案の概要
 本件は、東京都民である原告らが、「東京都が、①平成9年11月11日の都市
計画決定に基づいて行った東京都市計画ごみ焼却場(第20号渋谷地区清掃工場)
の建設工事(以下、上記清掃工場を「本件清掃工場」といい、その建設工事を「本
件建設工事」という。)、及び②本件建設工事に関連して行った本件清掃工場に隣
接する東急電鉄の東横線高架線の補強工事(以下「本件補強工事」という。)は、
いずれも違法である。」と主張して、東京都に代位して、被告らに対し、上記工事
費用の全部又は一部について損害賠償を求める事案である。
2 前提事実
 以下の事実は、当事者間に争いがないか、証拠上容易に認めることができる(証
拠によって認定した事実は、認定事実の後に認定の根拠となった証拠をかっこ書す
る。)。
1)当事者
 (1)原告らは東京都民である(なお、以下においては、原告E8を「原告E
8」、原告E9を「原告E9」といい、その余の原告らは、それぞれの姓を用いて
「原告E1」などということとする。)。
 (2)被告F(以下「被告F」という。)は、平成7年4月23日から平成11年
4月22日まで都知事の職にあった者であり、被告I(以下「被告I」という。)
は、同月23日以降、都知事の職にある者である。
 (3)被告G(以下「被告G」という。)は、平成10年7月16日から平成11
年6月15日まで東京都清掃局総務部経理課長の職にあった者であり、被告J(以
下「被告J」という。)は、同月16日以降同課長の職にある者である(なお、原
告らは、「被告Gは、平成10年4月1日以降同課長の職にあった。」と主張して
いるが、この主張を認めるに足りる証拠はなく、かえって乙イ第21号証によれ
ば、平成10年5月22日当時は、被告Gとは別の人物が同課長の職にあったこと
が認められるので、被告らの主張に基づき、被告Gは、平成10年7月16日以降
同課長の職にあったものと認めた。)。
 (4)被告H(以下「被告H」という。)は、平成10年4月1日から平成11年
5月11日まで東京都出納長の職にあった者であり、被告K(以下「被告K」とい
う。)は、同月12日以降東京都出納長の職にある者である。
2)本件建設工事とこれに関する財務会計行為(第1事件関係)
 (1)東京都は、東京都市計画地方審議会の議と都知事の承認を得た上で、平成9
年11月11日、本件清掃工場に係る都市計画(以下「本件都市計画」又は「本件
都市計画決定」という。)を決定した(乙イ16、弁論の全趣旨。なお、原告は、
「本件清掃工場の建設が決定されたのは平成9年10月29日である。」と主張し
ているが、決定の日は、被告らが主張するとおり同年11月11日であることは、
乙イ第16号証により明らかである。)。
(2)本件清掃工場建設工事の概要は、次のとおりであった(乙イ13、14)。
 所在地東京都渋谷区ab丁目地内
 面積約9150平方メートル
 工事期間平成10年度(予定)から平成13年度(予定)
 工場稼働年度平成13年度(予定)
 処理能力可燃ごみ200トン/日
       (焼却炉200トン/日・炉×1基)
 工場棟鉄筋鉄骨コンクリート造、高さ約44・5メートル
 煙突外筒鉄筋コンクリート造、高さ約150メートル
(3)都知事代理(副知事)は、同月12日、本件清掃工場の建設工事について、制
限付き一般競争入札に付する旨の入札公告を行い(乙イ26)、平成10年1月2
6日、入札が行われた結果(以下、この入札を「本件入札」という。)、株式会社
荏原製作所、東急建設株式会社、株式会社竹中工務店の3社による建設共同企業体
(以下「荏原・東急・竹中建設共同企業体」という。)」が落札者となった。
 そこで、東京都は、東京都議会における議決を経た上で、同年4月1日、荏原・
東急・竹中建設共同企業体との間で、請負代金額を133億1400万円とする工
事請負契約(以下「本件請負契約」という。)を締結した。本件請負契約は、当時
都知事であった被告Fが、東京都を代表して締結したものである(乙イ1)。
(4)東京都は、同年5月22日、本件請負契約に基づき、荏原・東急・竹中建設共
同企業体に対し、請負代金の前払金13億3140万円を支払った。
 上記支払は、東京都清掃局総務部経理課長(東京都会計事務規則6条により、支
出命令についての権限の委任を受けている。以下、同じ。)が、同月12日に支出
命令を行い、同月22日、出納長が支出を行ったものである(乙イ21)(以下、
上記支出命令を「本件前払金支出命令」、上記支出を「本件前払金支出」とい
う。)。
3)本件補強工事とこれに関する財務会計行為(第2、第3事件関係)
(1)東京都は、平成10年11月26日、東京急行電鉄株式会社(以下「東急電
鉄」という。)との間で、「渋谷地区清掃工場建設工事に伴う東京急行電鉄東横線
高架橋防護工事等の施行に関する協定書」(乙イ29。以下「本件協定書」又は
「本件協定」という。)を作成し、本件清掃工場建設現場の近くに位置する東急電
鉄東横線(以下「東横線」という。)高架橋が、本件清掃工場建設工事に伴う掘削
工事によって生じる地盤変位の影響を受けることを防止するため、連続地中壁工法
による高架橋防護工事(本件補強工事)を行うこと、本件補強工事は、東急電鉄に
おいて実施し、その費用(総額概算3億3075万円)は、東京都において負担す
ることを内容とする合意を成立させた。
(2)東京都は、同年12月4日、東急電鉄との間で「渋谷地区清掃工場建設工事に
伴う東京急行電鉄東横線高架橋防護工事等の施行に関する平成10年度協定書」
(乙イ34。以下「平成10年度協定書」又は「平成10年度協定」という。)を
作成し、平成10年度分の本件補強工事の工事費の総額概算を4620万円とする
旨を合意し、同月28日、東急電鉄に対し、概算払の方法によって上記金員を支払
った。
 なお、上記支払は、東京都清掃局総務部経理課長が、同月11日に支出命令を行
い、同月28日、出納長が支出を行ったものである(乙イ35の1)(以下、上記
支出命令を「平成10年度支出命令」、上記支出を「平成10年度支出」とい
う。)。
(3)東京都は、平成11年4月1日、東急電鉄との間で「渋谷地区清掃工場建設工
事に伴う東京急行電鉄東横線高架橋防護工事等の施工に関する平成11年度協定
書」(乙イ36。以下「平成11年度協定書」又は「平成11年度協定」とい
う。)を作成し、平成11年度分の本件補強工事の工事費の総額概算を2億247
0万円とする旨を合意し、東急電鉄に対し、次のとおり、これを概算払の方法で支
払った。
  ①平成11年5月25日1億7850万円
  ②同年8月31日  3150万円
  ③同年12月17日   735万円
  ④平成12年1月25日   735万円
 なお、上記支払は、東京都清掃局総務部経理課長が、①については平成11年5
月21日、②については同年8月16日、③については同年12月8日、④につい
ては平成12年1月17日にそれぞれ支出命令を行い、出納長が、上記支払の日に
支出を行ったものである(乙イ37の1ないし4)(以下、上記支出命令をまとめ
て「平成11年度支出命令」という。)。
(4)平成12年4月1日、地方自治法等の一部を改正する法律(平成10年法律第
54号)が施行された結果、それまで東京都の事務とされていた一般廃棄物処理計
画の策定、一般廃棄物の収集、運搬及び処分等に関する事務が特別区(具体的に
は、特別区によって構成された東京二十三区清掃一部事務組合)に移管されること
となった。これに伴い、本件建設工事(本件補強工事を含む。)に関する事務も、
東京都から東京二十三区清掃一部事務組合(以下「清掃事務組合」という。)に引
き継がれることとなった。
(5)清掃事務組合は、平成12年4月1日、東急電鉄との間で「渋谷地区清掃工場
建設工事に伴う東京急行電鉄東横線高架橋防護工事等の施行に関する平成12年度
協定書」(乙イ38。以下「平成12年度協定書」又は「平成12年度協定」とい
う。)を作成し、平成12年度分の本件補強工事の工事費の総額概算を5985万
円とする旨を合意し、同年4月26日、東急電鉄に対し、上記金員のうち2000
万円を支払った(乙イ39)。
  その後、同月30日、東急電鉄から清掃事務組合に対し、本件補強工事は同日
に完了したとして工事完了届が提出され(乙イ40)、最終的な精算の結果、未払
残額は530万5000円であるとして同額の請求がされ、同年7月24日、その
支払が行われた(乙イ41の1、2)。
 以上の結果、平成12年度分の本件補強工事費は、概算額5985万円のうち、
実際に支払われたのは2530万5000円であり、概算額との差額である345
4万5000円は、最終的な精算の結果、支払を要しないものとされたことになる
(乙イ41の3、4)。
4)監査請求
(1)原告E2、同E5、同E1、同E4、同E6、同E3、同E7は、平成10年
6月17日、本件建設工事について監査請求(以下「本件第1監査請求」とい
う。)を行ったが、「本件第1監査請求は理由がない。」とする裁決を受け、同年
8月7日、その通知を受けたため、同年9月4日、第1事件に係る訴えを提起し
た。
(2)原告E1は、平成11年11月26日、本件補強工事について監査請求(以下
「本件第2監査請求」という。)を行ったが、「監査を実施しない。」とする裁決
を受け、同年12月24日、その通知を受けたため、平成12年1月18日、第2
事件に係る訴えを提起した。
(3)原告E2、同E5、同E1、同E4、同E6、同E3、同E7、同E8、同E
9、同E10、同E11、同E12は、平成12年10月23日、本件補強工事に
ついて監査請求(以下「本件第3監査請求」という。)を行ったが、「監査を実施
しない。」とする裁決を受け、同年11月25日、その通知を受けたため、同年1
2月21日、第3事件に係る訴えを提起した。
第3 争点及び争点に関する当事者双方の主張
 本件の争点は、①第1事件について、被告Gに被告適格があるかどうか、②本件
第3監査請求の適否、③本件建設工事とこれに関する財務会計行為の違法性の有
無、④本件補強工事とこれに関する財務会計行為の違法性の有無の4点であり、こ
れらの争点に関する当事者双方の主張の概略は、次のとおりである。
1 被告Gの被告適格(第1事件)について
 1)被告ら
 原告らは、被告Gが本件前払金支出命令を行ったことを前提として、同被告に損
害賠償を求めている。しかしながら、被告Gが東京都清掃局総務部経理課長の地位
に就いたのは平成10年7月16日であって、本件前払金支出命令が行われた同年
5月12日の時点では、未だ同課長の地位に就いていないし、その他、本件前払金
支出命令に関する権限は何ら有していなかった。
 したがって、被告Gに対する訴え(第1事件関係)は、財務会計行為について何
ら権限を有しない者に対する訴えであって不適法というべきである。
2)原告ら
 被告らの主張は争う。
2 本件第3監査請求の適否
1)被告ら
 本件第3監査請求は、その対象となる財務会計行為を個別的、具体的に摘示して
いないから、監査請求の対象の特定を欠くものであって不適法である。
2)原告ら
 被告らの主張は争う。本件第3監査請求は、本件補強工事に係る財務会計行為
(その内容は、第2、2、3)に記載のとおり。)を対象とするものであることが
明らかであって、監査請求の対象の特定を欠くものではない。
3 本件建設工事とこれに関する財務会計行為の違法性の有無
 1)原告ら
 本件建設工事の実施(そのための支出)は、次のとおり違法である。
(1)本件建設工事計画(本件都市計画)の違法性について
 本件建設工事計画(本件都市計画)は、次のとおり違法であり、これに基づく本
件請負契約やその履行としての支出命令、支出も違法というべきである。
ア)本件清掃工場の建設予定地は、既に存在し、稼働している目黒区の清掃工場
(目黒区cd丁目e番f号所在。以下「目黒区清掃工場」という。)からわずか
1・7キロメートルしか離れていない。その結果、目黒区清掃工場からの工場排煙
と本件清掃工場の工場排煙による複合汚染が発生する危険は極めて高いのであるか
ら、このような場所に清掃工場を建設することは、「都市計画は、当該公害防止計
画に適合したものでなければならない。」と定める都市計画法13条1項に違反す
る。
 被告らは、「本件清掃工場の建設によって複合汚染が発生する危険はない。」と
主張するが、例えば、目黒区清掃工場におけるダイオキシンの排出濃度は、1・7
ng-TEQ/Nm3であり、この排出濃度自体が、厚生省が定める新設清掃工場の
ダイオキシン排出濃度基準(0・1ng-TEQ/Nm3)を17倍に達するものと
なっており、本件清掃工場から排出されるダイオキシンを加えれば、その排出濃度
がさらに高まることは明らかなのであって、この一事をもってしても、複合汚染の
危険が存することは明らかである。
イ)本件清掃工場の可燃ごみの焼却能力は、1日約200トン程度にすぎないとこ
ろ、渋谷区内で発生する可燃ごみは、その2倍を超える1日約440トン程度に達
する。すなわち、本件清掃工場のごみ処理能力は、とても渋谷区内で発生するごみ
のすべてを処理するには足りないものなのであるから、このような処理能力の低い
清掃工場を建築することは、自区内のごみは自区内で処理するという「自区内処理
の原則(負担公平原則)」に違反し、違法というべきである。
ウ)渋谷区内の清掃工場の建設場所については、渋谷区長及び渋谷区議会議長が、
都知事に対し、昭和49年5月10日、住民に対する説明会や意向調査等を踏まえ
た上で、代々木公園B地区の一部に建設するのが相当であるという回答をし、これ
によって同地区を建設予定地とすることが決定されていた。その後、都知事は、同
地区の代替地として予定されていた東京工業試験場跡地が第二国立劇場用地として
使用されることとなり、代替地の確保が困難になったとして代々木公園B地区案を
廃棄し、その代わりに渋谷区ab丁目内に清掃工場を建設することとしたものであ
るが、①代々木公園B地区の代替地としては、東京工業試験場跡地以外にも様々な
候補地が考えられたのであるから、代替地の確保困難を理由に代々木公園B地区案
を廃棄するのは合理
性を欠いており、また、②代々木公園B地区に清掃工場を建設すること自体が不相
当であるという被告らの主張も根拠を欠くものというべきであるから、清掃工場の
建設場所を代々木公園B地区から渋谷区ab丁目に変更したことは、合理性を欠く
違法な決定であったといわざるを得ない。被告らは、代替地の確保ができなかった
事情や、代々木公園B地区に清掃工場を建設することによって生ずる問題点につい
て種々主張しているが、これらの主張は、十分な根拠に基づかないものであってす
べて失当である。
 そして、代々木公園B地区は、目黒区清掃工場から約3・3キロメートル離れて
いて複合汚染が生ずる危険は低いこと、敷地面積も3・3ヘクタールあって渋谷区
内で発生する可燃ごみを全て焼却する能力を持つ清掃工場を建設することも可能で
あること、同地区は国有地であって住民を立ち退かせる必要がないこと、幹線道路
(放射23号)に面している上に、渋谷区のほぼ中心に位置しているなど優れた立
地条件を有していることなどに照らしてみれば、同地区における清掃工場の建設を
断念し、遙かに条件が劣る渋谷区ab丁目を清掃工場建設用地として選択したこと
には重大な誤りがあったものというべきであり、建設用地の選択について都知事に
裁量権が認められるとしても、その裁量判断に逸脱、濫用があり違法であることは
明らかである。
エ)また、この建設場所変更の決定は、住民らに対し、十分な説明を行わないまま
行われたという点においても重大な手続上の瑕疵があり、違法というべきである。
(2)本件請負契約の違法性について
ア)本件建設工事の受注者を決定するための入札手続を行うためには、本件清掃工
場の建設費の見積をしなければならず、そのためには詳細設計図が必要であるとこ
ろ、本件入札は、詳細設計図が提出されないまま行われている。しかしながら、詳
細設計図のない見積は、根拠のない見積といわざるを得ず、根拠のない見積に基づ
く入札手続には重大な瑕疵があるものというべきであるから、このような入札手続
に基づく落札者の決定も、これに基づく本件請負契約の締結も違法であり、このよ
うな違法な請負契約に基づく支出命令、支出も違法というべきである。
イ)本件入札においては、入札に参加した業者間で談合が行われ、この談合に基づ
き、荏原・東急・竹中建設共同企業体が落札した疑いが高い。
 すなわち、公正取引委員会は、平成10年9月17日、地方自治体のごみ処理場
建設工事に関し、焼却炉の大手プラントメーカーが談合を繰り返していた疑いがあ
るとして、本件の落札業者の1つである荏原製作所を含めた十数社に対して立入検
査を行い、その結果、荏原製作所を含めた大手7社が「7社会」と呼ばれる会合を
繰り返して開き、ごみ焼却場建設工事について談合を繰り返していた疑いが高まっ
た。このような入札談合の特徴の1つは、落札率(入札予定価格に対する落札価格
の割合)が異常に高いという点にあるところ、本件建設工事の入札予定価格は13
2億6000万円であったのに対し、落札価格は126億8000万円であって落
札率は95・62パーセントとなり、異常に高い落札率を示している。
 以上の事情を考慮すれば、本件入札についても談合が行われていたものと推認す
べきであり、入札談合という違法行為に基づく落札や、これに基づく本件請負契約
の締結、その履行のための支出命令、支出はいずれも違法というべきである。
2)被告ら及び参加人
(1)本件建設工事計画(本件都市計画)の違法性に関する主張について
 原告らの主張は、すべて争う。本件建設工事は、都市計画決定に基づいて行われ
たものであるところ、都市計画決定において、具体的に都市施設をどのような位置
に配置するかは、当該都市施設の諸機能、必要性の有無・程度、道路等の既存の都
市施設への影響の有無・程度、財政負担の多寡等の様々な利益を比較衡量し、これ
らを総合して、政策的、技術的な裁量によって決定せざるを得ないものであり、そ
の判断は、都市計画を決定する行政庁の広範な裁量に委ねられているものというべ
きところ、原告らの主張は、次に述べるとおりいずれも失当であり、本件において
裁量権行使の逸脱、濫用があったといえないことは明らかである。
 ア)原告らは、「本件清掃工場は、目黒区清掃工場から約1・7キロメートルと
いう近接した場所に建設されるため、両工場からの排煙によって複合汚染が生じる
危険性が高い。」と主張するが、本件清掃工場の建設場所を決定するに当たって
は、東京都環境影響評価条例(以下「環境評価条例」という。)に基づく環境影響
評価を行い、大気汚染を初めとする各予測・評価項目については、周辺環境に著し
い影響を及ぼすものではないとの結論を得ているのであって、上記主張は失当であ
る。
 また、東京都においては、環境基本法17条の規定に基づき、内閣総理大臣から
指示された基本方針に従い、内閣総理大臣の承認を受けて、「東京都地域公害防止
計画」を定めているところ、本件清掃工場においても、上記計画に沿う大気汚染防
止対策、騒音・振動防止対策が講じられており、大気汚染についていえば、ろ過式
集じん設備、洗煙設備及び触媒塔等の公害防止設備を設置し、これを適切に運転管
理することによって大気汚染物質の排出量を極力抑えることとされているのであ
り、この結果、原告らが主張するような複合汚染が生じるおそれはないものといっ
てよい。したがって、原告らの上記主張は、この点からしても失当というべきであ
る。
 イ)本件清掃工場の可燃ごみの焼却能力は、1日約200トンであって、渋谷区
内で発生する可燃ごみをすべて焼却できるものではないことは事実であるが、「自
区内処理の原則(負担公平原則)」は、自区内において発生する可燃ごみは、でき
るだけ自区内で処理することを求めるものであって、自区内において発生する可燃
ごみをすべて焼却する能力を持たない清掃工場を建設することを禁止するものでは
ない。したがって、本件清掃工場の建設が、自区内処理の原則に違反するとの主張
は失当である。
 ウ)都知事は、昭和47年2月3日渋谷区等の13区長に、同月17日同13区
議会議長に、それぞれ清掃工場建設用地の選定について協力を要請し、昭和49年
5月10日、渋谷区長及び渋谷区議会議長から、代々木公園B地区の一部(面積3
万3000平方メートル)を清掃工場予定地とする選定結果の報告を受け、また、
同月21日、同地区の代替地を国が所有する東京工業試験所移転跡地とするとの回
答、報告を受けた。
 東京都は、渋谷区長らの上記報告を受けて、国に対し、東京工業試験所跡地の払
下げを受けるべく働きかけを行ったが、国は、昭和55年5月、同跡地を第二国立
劇場用地とすることを決定したため、同跡地を代替地として取得することを断念せ
ざるを得なくなった。そのような状況の下で、あくまでも代々木公園B地区の一部
を清掃工場建設用地とすることについては、①代々木公園の果たしている公園とし
ての機能や利用状況に照らし、その一部を公園区域からはずすことは公園利用者に
与える影響が大きく、そもそも問題があるものといわざるを得ず、また、公園区域
の一部を清掃工場建設用地とした場合には、残った公園区域について施設の配置の
再検討や再整備をしなければならないところ、再整備には多額の費用を要すること
が予想されたこと、
②代々木公園は、渋谷区住民の避難場所に指定されているため、その一部を公園区
域からはずす場合には、避難場所として適切な広さを確保する必要があるが、東京
工業試験所移転跡地に匹敵する適地はなかったことなどの問題があった。
 他方、東京都清掃審議会は、平成2年11月17日、都知事に対し、清掃事業の
今後のあり方について答申をしたが、その中で、昭和60年ころからごみ量が急増
し、最終処分場が逼迫してきたため、可燃ごみの全量焼却と安定的な焼却を目指し
た清掃工場を早急に整備する必要が高まっていることから、「清掃工場を有しない
区については、規模の小さな用地であっても、建設の可能性のある場合には、小規
模の清掃工場を建設するなどの努力をすべきである。」との指摘がされるに至っ
た。
 東京都は、平成3年10月、上記答申を受けて、渋谷区におけるごみ焼却工場の
建設を推進する観点から、渋谷区ab丁目に清掃工場を建設することを内容とする
「清掃工場建設計画」を策定し、次いで、同年11月、本件清掃工場ほか5工場の
新設について、その事業化計画を明らかにした「東京都総合実施計画」を策定し、
それぞれ公表した上、所定の手続を経た上で、本件建設工事計画を決定したもので
ある。
 以上の次第であって、清掃工場の建設予定地を当初予定されていた代々木公園B
地区から渋谷区ab丁目に変更したのは、やむを得ない事情に基づくものであっ
て、この判断に裁量権の逸脱、濫用はない。
エ)また、東京都清掃局は、代々木公園B地区に清掃工場を建設できなくなった事
情や、清掃工場を渋谷区ab丁目に建設することを決定するに至った経緯等につい
て、これらを記載したリーフレットを作成配布し、また、平成7年7月27日から
平成9年7月27日までの間、延べ20回にわたる住民説明会を開催するなど住民
に対する説明を行っているのであるから、手続上の瑕疵があるともいえない。
(2)本件請負契約の違法性に関する主張について
 ア)原告らの主張ア)(詳細設計図に基づかない入札)は争う。
 東京都では、清掃工場建設工事の発注に際しては、本件入札前から「図面発注」
方式ではなく、設計・施工を一括して契約の対象とする契約形態である「性能発
注」方式を採用している。
 この性能発注方式が採用されたのは、①受注者に対し、工事施工上の瑕疵にとど
まらず、設計に起因する瑕疵についても責任を負わせることができ、契約対象プラ
ント・施設等の性能がより確実に担保されること、②民間企業の優れた最新の技術
力を設計段階から活用できること、③ごみ焼却施設の焼却プラント建設において
は、受注者となるプラントメーカーが各社独自の特許やノウハウを蓄積しているた
め、東京都が一律の図面によって技術的内容を特定することは、その時点で、特定
のプラントメーカーを指定するのに等しい結果となり、競争入札に付する意味がな
くなることなどによるものであって、合理的な理由がある。そして、性能発注方式
を採用したとしても、各建設業者に対して工事概要を説明した上で、各建設業者か
ら見積設計図書を提出
させ、提出された各見積設計図書に基づき、焼却炉本体設備、公害防止設備容量を
平均化した上で、東京都の既設清掃工場建設工事の実績単価を勘案した積算方法を
用いれば、起工額(入札予定価格を決定するための基礎となる価格)を決定するこ
とが可能であり、本件入札においても、入札予定業者から見積設計図書の提出を受
け、これを清掃工場建設工事技術能力確認委員会が十分に比較、検討した上で、既
設清掃工場の建設実績単価等を勘案して起工額を確定しているのである。
 以上のとおり、性能発注方式を採用したことには合理的な理由があり、また、こ
の方式を採用したとしても、入札予定価格を合理的に算定することは可能なのであ
るから、本件入札手続に違法はないものというべきである。
 イ)原告らの主張イ)(入札談合)は争う。
 また、仮に入札談合の疑いがあったとしても、入札談合に基づいて締結された契
約が当然に無効とされるものではないのであるから、同契約に基づいて支出を行っ
たことが違法となるものではない。
4 本件補強工事とこれに関する財務会計行為の違法性の有無
 1)原告ら
 被告らの主張によれば、本件建設工事に当たっては、本件清掃工場の煙突を建設
するため、東横線の高架橋(以下「東横線高架橋」という。)から近接した位置
に、深さ6メートルの掘削工事(以下「本件掘削工事」という。)を行う予定にな
っていたところ、東急電鉄側から、本件掘削工事によって高架橋の変位が生じるの
で、その変位を許容範囲内にとどめるための防護工事を行う必要があるとの申入れ
があり、東京都においてもこれに応じることとした結果、本件補強工事が行われた
というのである。
 しかしながら、本件補強工事は、有害無益の工事というべきものであって、行う
必要はないどころか、行うべきではなかったにもかかわらず、十分な検討もしない
まま東急電鉄の主張を鵜呑みにして行われたものであって違法であり、これに基づ
く支出も違法である。その理由は、次のとおりである。
(1)FEM解析の結果のみに基づく検討は不合理である
  東急電鉄が補強工事を要求する際、その根拠としたのは、有限要素法(FEM
解析)による解析の結果、東横線高架橋に許容範囲を超える変位が生じるという点
であったが、FEM解析による変位量は、あくまでも近似値にすぎないのであるか
ら、その結果を絶対視すべきではない。現に、本件掘削工事よりも大規模、あるい
は大深度の掘削工事が行われ、FEM解析による変位量も本件掘削工事よりも大き
かったと予想されるにもかかわらず、直ちに防護工事を行う必要はなく、工事中の
変位量の観測を行えば足りる(問題が生じた場合には、その段階で対応策を講じ
る。)として工事が実施された例は、少なからず存在するのであり、本件程度の掘
削工事であれば、防護工事は必要ないというのがむしろ工事関係者の常識ともいえ
る事柄なのである(被
告らは、本件掘削工事によってリバウンドが生じ、これが東横線高架橋に悪影響を
与えることが予想されたと主張するが、本件程度の掘削工事では防護工事を必要と
するほどのリバウンドが生じるおそれはないというのがむしろ工事関係者の常識で
ある。)。
 したがって、防護工事を行う必要があるかどうかは、FEM解析の結果ばかりで
はなく、他の要素も考慮した上で、総合的かつ慎重に判断すべきであるにもかかわ
らず、本件においては、FEM解析の結果のみに基づいて、必要性に関する十分な
検討も行わないまま補強工事を行うことが決定されているのであるから、本件補強
工事は、十分な根拠もなく行われたものといわざるを得ない。
(2)他に適切で安価な工法が存在した
  仮に防護工事の必要があったとしても、その方法としては、連続地中壁以外に
①掘削工事の際に設ける土留壁の剛性を上げる、②梁にプレロードを架ける、③プ
レロードに加えて上載荷重を考慮するといった方法も考えられるところであり、本
件においては、これらの方法によって、より少ない費用で、十分な安全性を確保し
た対応策を講じることが可能であったと考えられるにもかかわらず、これらの対応
策の当否については全く検討されておらず、この点においても検討が不十分であっ
たといわざるを得ない。
 また、地盤の垂直方向の挙動を抑制する必要があった(被告らの主張)として
も、その目的を達成するためには、ソイルセメント杭柱列壁工法(SMW工法)を
採用すれば足りたものであり、その場合の費用は、連続地中壁工法の場合には、1
平方メートル当たり8万2313円であるのに対し、SMW工法の場合には、1平
方メートル当たり3万5700円であって、約43パーセント程度の費用で目的を
達成することができたことになる。
 このように本件補強工事は、他の工法との比較を十分に行わず、不相当に多額の
費用を要する工法を採用したという点においても極めて不適切なものであったとい
わざるを得ない。
(3)連続地中壁工法はむしろ有害であった
  連続地中壁の設置は、それ自体が地盤に変位を起こす可能性のあるものであ
り、現に、本件掘削工事が終了した平成11年6月26日以降に行われた地盤の計
測結果によれば、沈下及び傾斜のいずれについても顕著な変化が見られるのであ
る。このことからすれば、本件補強工事は、不要な工事であるどころか有害な工事
であったといわなければならない。
 2)被告ら
(1)本件補強工事を実施するに至った経緯は次のとおりであった。
 ア)東京都は、平成7年3月にまとめられた「渋谷清掃工場建設計画調査報告
書」(乙イ42)によれば、本件清掃工場の煙突部分建設のため、本件高架橋から
約9メートルの場所で深さ8メートルの基礎掘削工事を行うこととされ、本件高架
橋に何らかの影響を与えるおそれがあったところ、建設工事公衆災害防止対策要綱
(平成5年1月12日建設省経建発第1号建設事務次官通知)によれば、起業者
は、鉄道に近接して工事を行う場合には、予め鉄道経営者と協議を行うことが義務
づけられていたため(同要綱28条、32条。乙イ31)、東急電鉄との間で協議
を開始した。
 イ)東京都は、同年7月17日、東急電鉄に対し、上記掘削工事が本件高架橋に
与える影響の程度、防護工事の必要性及び防護方法等について調査を委託し、同年
11月30日、東急電鉄から報告書(甲40)の提出を受けた。同報告書によれ
ば、東急電鉄の構造物に対する許容変位量は、鉛直変位の絶対沈下量が3ミリメー
トル、相対沈下量が1・8ミリメートル、水平変化では5ミリメートルであるのに
対し、深さ8メートルの掘削工事を行った場合に予想される発生変位量は、二次元
FEM弾性解析手法を用いて解析した結果、変位量が、それぞれ6・9ミリメート
ル、8・3ミリメートル、7・23ミリメートルであって、いずれも許容変位量を
超えるため、防護工事が必要であり、防護方法としては、アンダーピニング工法が
適当であるとされてい
た。
 ウ)東京都は、東急電鉄と交渉した結果、平成9年12月19日、アンダーピニ
ング工法による防護工事を行う旨の協定(丙1、乙イ28)を締結したが、その後
の平成10年8月4日、工事を受注した荏原・東急・竹中共同企業体から、掘削深
度は6メートルで十分であるとの報告を受けたため、東急電鉄に対して改めて調査
を依頼したところ、同年11月15日、改めて二次元FEM弾性解析手法を用いて
解析した結果、予想される変位量は、鉛直変位の絶対沈下量が3・97ミリメート
ル、相対沈下量が2・53ミリメートル、水平変位では0・62ミリメートルであ
り、水平変位を除いては許容変位量を超える変位が生じることになるが、連続地中
壁を設置すれば、変位量がそれぞれ2・7ミリメートル、1・68ミリメートル、
0・35ミリメート
ルとなり、いずれも許容変位量の範囲内におさまるとの報告を受けた(乙イ4
5)。
 エ)そこで、東京都は、同月26日、従前の協定を失効させた上で本件協定を締
結し、連続地中壁工法による防護工事を行う旨を約束したのである。
(2)原告らは、本件補強工事は、不必要であるどころか有害な工事であって、行う
べきではなかったと主張するが、その主張は、いずれも失当である。すなわち、
 ア)FEM解析のみに基づく検討は不合理であるとの主張について
   まず、原告らは、「FEM解析結果のみに基づいて、補強工事が必要である
と判断したのは誤りである。」という趣旨の主張をする。しかしながら、FEM解
析は、数値計算手法の中で最も汎用性や柔軟性が高い解析手法として、土木工学や
地盤工学の分野に導入されているものであり、原告側証人であるL(以下「L」と
いう。)証人でさえ、「地盤工学の分野で、FEM解析よりも信頼性のある解析法
は、現段階では存在しない。」、「FEM解析を使えば、少なくとも安全側、超安
全側に数値が出る。」と認めているものである。他方、東横線は、年間平均110
万人もの乗客を輸送する重要な鉄道路線であり、その安全確保のためには最大限の
配慮をする必要があることは当然であるし、掘削工事の結果、高架橋に万一にも影
響が生じた場合には
、最悪の場合、東横線の運行を中止して対応策を講じなければならないことにもな
りかねず、乗客に対して生じる影響には計り知れないものがある。東急電鉄は、以
上のような事情を踏まえ、FEM解析の結果、許容範囲を超える変位が生ずる可能
性が生じた以上、万一の事態をも回避するという観点から防護工事の施工を要求し
たものであり、その要求はもっともなものといわざるを得ないし、東京都として
も、乗客の安全確保について責任を持つ東急電鉄から要求を受けた以上、これに応
じざるを得ない。
   原告らは、「本件程度の掘削工事によって重大なリバウンドが生じることは
ないというのが工事関係者の常識である。」とか、「本件程度の掘削工事において
防護工事が行われた例はない。」などといった主張をしているが、前者の主張は、
L証人の経験のみに基づくものであって十分な根拠に基づく主張とはいえないし、
掘削工事によって影響を受ける可能性のある関係者から防護工事の実施を要求され
ているかどうかを区別しないまま、防護工事の要否を論じることはできないものと
いうべきであるから、後者の主張にも十分な根拠はないものというべきであり、い
ずれの主張も失当である。
イ)他の工法によるべきであったとの主張について
  東急電鉄は、FEM解析の結果に基づき、連続地中壁工法を採用すれば変位を
許容範囲に抑えることができるとして同工法の採用を求め、東京都としても、東急
電鉄の主張には合理的な根拠があるものと認め、同工法の採用に応じることとした
ものである。そして、連続地中壁工法を採用した結果、許容範囲を超える変位が生
じることはなかったのであるから、同工法を採用したことは正当であったというべ
きである。
 原告らは、防護工事を行う必要はなかったとか、他の安価な工法を採用しても同
様の結果が得られたという趣旨の主張をしているが、その主張は、具体的な根拠に
基づいたものとはいえない。むしろ、防護工事の方法を検討する過程においては、
原告らが主張する土留壁の剛性を上げる方法や、プレロードを架ける方法等では、
十分な効果が上がらないという結果が出ていたのである。
 したがって、連続地中壁工法の採用が不合理であるとの主張は失当である。
ウ)連続地中壁工法の有害性に関する主張について
  本件補強工事が終了した後に行われた地盤の計測の結果、若干の変位が認めら
れたことは事実であるが、それが連続地中壁工事によるものであるとはいえないし
(同工事によって変位が生じたのであれば、工事の開始直後から変位が現れるのが
通常であるのに、変位は工事の終了後に現れており、このことは、変位の原因は他
にあることを示唆している。)、変位は許容範囲内に止まっており、このことは、
むしろ、本件補強工事がその目的を達したことを示すものというべきなのであり、
このような許容範囲内にとどまる変位が生じたからといって、本件補強工事が有害
な工事であったと主張するのは誤りである。したがって、原告らの主張は、いずれ
にせよ失当である。
第4 争点に対する判断
 1 被告Gの被告適格(第1事件)について(争点①)
 原告らは、本件前払金支出命令を行ったのが被告Gであることを前提として、同
被告に対する損害賠償請求(第1事件)をしているが、乙イ第21号証によれば、
本件前払金支出命令が行われた平成10年5月12日当時の東京都清掃局総務部経
理課長(支出命令に関する専決権者)はM某(以下「M」という。)であって被告
Gではなく、本件前払金支出命令をしたのもMであることが認められる。
 したがって、被告Gは、本件前払金支出命令を専決した者ではなく、他に同被告
が本件前払金支出命令について何らかの財務会計行為権限を有していたことを認め
るに足りる証拠もないのであるから、原告らの第1事件に関する訴えのうち、被告
Gに対する訴えに係る部分は、被告適格を欠く者に対する訴えであって不適法とい
わざるを得ない。
2 本件第3監査請求の適否について(争点②)
 甲第27号証の1、2によれば、東京都監査委員は、本件第3監査請求につい
て、「住民監査請求が適法となるためには、財務会計上の行為(これと密接不可分
の原因行為を含む)の違法性・不当性が具体的かつ客観的に示されることが要件と
なるものである」ところ、本件第3監査請求において、「請求人は、東急電鉄の高
架線は、すでに補強措置がされているなどとして、当該高架線補強工事は必要のな
いものであるとし、これに係る公金支出を違法・不当と主張している」が、「補強
工事が必要か否かは、渋谷地区清掃工場の建設による当該高架橋への影響を考慮
し、電車の安全走行の見地から行う都の行政施策上の判断にかかわる問題であり、
請求人の主張は主観的見解を言うものにすぎず、財務会計上の行為の違法性・不当
性を具体的かつ客観的に
示したものとは認められない。」から、本件第3監査請求は不適法であるという判
断を示したことが認められる。
 以上のとおり、上記監査結果は、対象となる財務会計行為が不特定であることを
理由として第3監査請求を不適法としたものではなく、財務会計行為の違法性、不
当性に関する主張が具体的かつ客観的に示されてはいないことを理由として、これ
を不適法としたものであるところ、監査請求においては、その対象となる財務会計
行為を特定することが、その適法要件であるとはいえても(最高裁判所第3小法廷
平成2年6月5日判決、民集44巻4号719頁)、上記監査結果がいうような、
財務会計行為(これと密接不可分の原因行為を含む)の違法性、不当性を具体的か
つ客観的に示すことが適法要件となるものではないのであって、上記監査結果は、
独自の見解に基づく誤った判断というほかはない(なお、高架橋補強工事は不要で
あるとの主張は、具
体的かつ客観的な主張ということができ、これが違法事由となり得るかどうかは、
本案上の判断の問題というべきなのであるから、上記監査結果は、監査請求の適法
要件の問題と、違法事由の有無という本案上の判断の問題とを混同するものであっ
て、この点においても判断を誤っているというほかはない。)。
 したがって、本件第3監査請求は不適法であるとの上記監査結果は誤りであり、
これに依拠した被告らの主張も失当といわざるを得ない(なお、本件第2監査請求
についても、前記のとおり「監査をしない。」との結論が出されているところ、本
件第2監査請求は本件第3監査請求とほぼ同旨のものと考えられること、及び被告
らが同監査請求については不適法である旨の主張をしないことからすると、弁論の
全趣旨により、適法な監査請求が経由されたものと認めるのが相当である。)。
3 本件建設工事計画(本件都市計画)の違法性の有無について(争点③)
1)この点につき、原告らは、①複合汚染の危険、②自区内処理原則違反、③清掃
工場建設用地選択の誤り、④手続違反(住民に対する説明義務違反)を主張する
が、このうち、①の複合汚染の危険については、後記のとおり、本件清掃工場の建
設が絶対に不相当であるといえるような複合汚染が生ずることを具体的に根拠付け
るに足りる証拠が存するものとはいえず(したがって、都市計画法13条1項違反
の事実を認めることもできない。)、また、②の自区内処理原則違反については、
同原則は、自区内で発生したごみはできるだけ自区内で処理すべきであるというも
のなのであるから、自区内で発生したごみのすべてを処理できる清掃工場が建設で
きない場合には、次善の策として、より小規模な清掃工場の建設をも容認している
ことは明らかである(
自区内で発生したごみのすべてを処理できる清掃工場が建設できない場合には、清
掃工場を建設すべきではなく、むしろ、他区に迷惑をかけてでも他区での処理に委
ねるべきであるというのは無責任な主張といわざるを得ず、原告らもこのような主
張をするものではない。)。結局、①、②の主張は、清掃工場の建設用地として
は、できるだけ複合汚染の可能性が低い場所を選択すべきであるとか、できるだけ
処理能力の高い清掃工場を建設できる場所を選択すべきであるといった工場建設用
地選択の適否を判断するための要素として位置付けられるべきものであって、独立
した違法事由になり得るものとはいい難い。
 そこで、以下においては、まず、①、②の点も考慮した上で③、④の点について
検討をすることとする。
2)建設用地選択の誤り及び手続違反の主張について
 (1)証拠(甲5、21の1ないし19、甲22、乙イ4ないし14、49、53
ないし55)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。
ア)昭和46年9月28日、都知事は、東京都内におけるごみ処理の状況が危機的
状況に陥りつつあり、清掃工場と埋立処理場の建設を強力に推進していく必要があ
るとする「ごみ戦争」宣言を行い、同年10月には東京都ごみ対策専門委員を、同
年11月には東京都ごみ対策本部を、それぞれ設置して検討を進め、昭和47年1
月には、「東京都中期計画1971年補遺」において、昭和50年度までに可燃ご
みの全量焼却を達成することとし、そのために、自区内で発生した可燃ごみは自区
内で処理するという「自区内処理の原則」に基づき、清掃工場を持たないか、清掃
工場を持ってはいるが、自区内で発生する可燃ごみの全量を焼却する能力がない1
3区(渋谷区を含む。)に清掃工場を建設するとの目標を掲げた。
イ)同年2月3日、都知事は、上記13区の区長に対し、工場用地選定についての
協力要請を行い、同月17日には、区議会議長に対しても、同様の協力要請を行っ
た。
ウ)渋谷区及び同区議会は、上記協力要請を受けて検討を進め、翌昭和48年6月
20日には、区都市対策特別委員会の全員協議会において自区内処理の原則を了承
して清掃工場用地を自主的に選定することを決定し、次いで、同月23日の同委員
会において用地選定を住民組織を作って行うことを決定した。そして、同年7月1
0日、区町会連合会等区内の11団体代表と都市対策特別委員会との懇談会におい
て、住民組織結成を目的とする「ゴミ処理対策準備委員会」の設立が決定され、さ
らに、同月13日には、都市対策特別委員会と都(代表者都清掃局長)との間で、
区が清掃工場の建設用地を選定した場所は、最大限尊重すること、用地が公共施設
に決まった場合、代替地は区が探すが、これに対しても最大限尊重すること、清掃
工場の規模は処理能
力600トン、敷地1万坪を考えることなどを内容とする確認事項が交わされた。
エ)ゴミ処理対策準備委員会は、清掃工場用地選定のための住民組織として「ゴミ
処理対策区民の会」を結成すること、及び会を結成するに当たっては、まず支部を
結成した上で、その上部組織として区民の会を結成することを決定した。そして、
上記方針に基づき、同年8月17日から同月24日までの間に、渋谷区内の11出
張所管内別に地区別区民集会が開催されて11の支部が結成され、同年9月20
日、「渋谷区ゴミ処理対策区民の会」(以下「区民の会」という。)の結成大会が
行われ、自区内処理の原則に立って、1日も早く区内に清掃工場を建設するため、
用地の選定に全力をあげていくことを表明するとの宣言が採択された。
  区民の会が結成された後、同会においては、住民による既存の清掃工場や埋立
地の視察や、視察結果に関する住民に対するアンケート調査、PR活動等に勤める
一方、区議会都市対策特別委員会においても、小委員会を設けて清掃工場建設に当
たっての区独自のマスタープラン作成についての検討を進めた。そして、区民の会
は、同年12月19日、小委員会が作成した案に基づき、工場建設に当たっての各
種設備についての技術的要請や運営上の問題、還元施設の問題等について検討した
結果をまとめた渋谷区清掃工場建設案(マスタープラン)を決定した。
オ)区都市対策特別委員会は、区内の公有地4か所を想定してマスタープランに基
づく工場の想像概念図を作成し、以下のモデルA案ないしD案を区民の会に提示し
た。
   モデルA案本町工業試験所跡
   モデルB案代々木公園A地区
   モデルC案西原教育大跡
   モデルD案代々木公園B地区サッカー場周辺
 区民の会においては、上記4案を検討し、昭和49年2月15日の常任幹事会に
おいて、モデルD案を候補地として内定することに決定した。モデルD案は、代々
木公園施設のうち、陸上競技場(織田フィールド)の東側、NHK放送文化センタ
ーの北側に位置し、サッカー・ホッケー場、イベント広場、野外ステージ等が設け
られている部分9万4102・19平方メートル(代々木公園B地区)の一部を清
掃工場建設用地とするというものであった(代々木公園B地区の状況については、
乙イ53ないし55参照。)。
カ)同案については、清掃工場が建設された際、搬入路にあたる地区の町会(富ヶ
谷一丁目町会、神山町会、宇田川神南・宇田川親睦会)や、隣接地の所有者である
NHK、明治神宮、既存競技施設に影響を受けるおそれがある陸上競技連盟、日本
蹴球協会等が反対の意思を表明し、話合いや説得工作が続けられたものの、難航し
た。同年3月19日、区民の会総会が開催されたが、その段階でも一部町会からの
賛成が得られなかったため、あくまでも候補地という条件付きで、モデルD案を賛
成多数により採択するにとどまった。
 同総会において最終決定を一任された区民の会幹事会は、その後も反対する町会
との話合いを続けた結果、反対派であった富ヶ谷一丁目、神山町会から条件付き賛
成を得られたため、同年5月7日、モデルD案を採用し、代替地の選定は区議会に
一任することを決定するに至った。
キ)渋谷区長、区議会議長、区民の会代表は、同月10日、都知事に対し、清掃工
場建設用地は代々木公園B地区の一部(モデルD案)とする旨決定したことを報告
した。その後、区都市対策特別委員会において、代々木公園B地区の代替地を東京
工業試験所跡地とする旨を決定し、区民の会もこれを了承したため、同月23日に
は、代替地の案も都知事に報告されるに至った。
 これを受けた東京都は、国に対し、東京工業試験所跡地の払下げを受けるべく働
きかけを始める一方、同年9月5日には、東京都清掃局の方針として清掃工場を代
々木公園B地区、その代替地を東京工業試験所跡地とする旨を決定し、大蔵省(当
時)、国有財産中央審議会筑波移転跡地小委員会、建設省(当時)等に対し、説明
や陳情を続けた。
ク)同年12月18日、東京都副知事、清掃局長らが区民の会幹事会に出席し、挨
拶を行い、難しい問題点もあるが、区民の会の決定を最大限に尊重し、その実現に
全力を傾けるとの意向を表明した。
 その際、清掃局長から、代々木公園B地区案の問題点として指摘されたのは、①
都市公園に清掃工場を設置することはできないため、公園の一部廃止が必要となる
が、それには困難が予想され、特に、代々木公園については、もともと、都の要望
に基づき、ワシントンハイツ地区(代々木公園地区)は、森林公園として他の用途
には供しない旨の閣議決定(昭和36年10月24日)がされ、さらに、代々木公
園の一部をNHK放送センター用地に提供する際にも、今後は、森林公園以外の用
には供しないとの申入れを行い、内閣官房長官から了承の回答を得る(昭和38年
3月12日)など、都の側が、公園機能の維持を強く主張してきた経緯があり、従
前からの主張に反する決定をしにくいという事情もあること、②今後の検討事項と
しては、明治神宮や
日本蹴球協会からの異議表明に対する対応、各種集会の場としての代替地問題など
も考えられるといった点であった。
 なお、上記B地区を含む代々木公園全体は国有地であるところ、国と東京都との
間の国有財産無償貸付契約に基づき、都市公園の用途に供することを条件として東
京都に無償で貸し付けられているものであるから、これを他の用途に用いるために
は、都市公園法16条に基づき公園管理者である東京都が用途廃止の決定をするに
先立って、貸主である国(所管局は大蔵省(当時)関東財務局)の了解を得ること
が不可欠であったが、この点は、都から区民の会などに説明された形跡はない。
ケ)その後も、都は関東財務局との交渉を行い、区、区民の会による代替地確保の
ための働きかけも続けられたが、結局、昭和55年5月19日、国有財産中央審議
会において、東京工業試験所跡地は第二国立劇場用地とする旨の答申がされ、同跡
地を代替地として確保することは断念せざるを得ないこととなり、以後、渋谷区清
掃工場建設については、進展を見ないまま長期間が経過することとなった。
コ)平成2年11月、東京都清掃審議会は、「清掃事業の今後のあり方について
(答申)」(乙イ4)を発表し、その中で、自区内処理の原則について、広く都民
の合意を得ていく必要がある旨を改めて指摘するとともに、「清掃工場を有しない
区については、地元区、住民の理解と協力を得て用地の優先確保に努めるととも
に、規模の小さな用地であっても、建設の可能性がある場合には、小規模の清掃工
場を建設するなどの努力をするべきである。」との見解を明らかにした。
サ)東京都は、平成3年10月29日、清掃工場建設計画(乙イ5)を公表し、こ
の中で、渋谷区清掃工場の建設予定地を渋谷区ab丁目とし、可燃ごみの焼却能力
を1日200トンとするごみ焼却工場を平成6年度から平成9年度にかけて建設す
る計画であることを公表し、同年11月28日には、「東京都総合実施計画」(乙
イ6)において、本件清掃工場ほか5工場の新設計画を具体化し、翌平成4年1月
7日、渋谷区長及び渋谷区議会議長に対し、同所における清掃工場建設推進への協
力を依頼した。
 これに対し、渋谷区議会議長は、同年5月18日付けで、都知事に対し、当初の
計画(代々木公園B地区への建設計画)の経過がどうなったのか、世田谷区清掃工
場は、駒沢公園に建築する計画となっていることとの整合性はどうなっているの
か、公有地ではなく民有地に清掃工場を建設する理由は何か、渋谷区ab丁目案に
ついては、地元に反対の声が強まっているが、それに対してはどのように対応する
のかなどの点について都の見解を示すよう要請し(甲21の9)、都知事は、同月
30日付けで、代々木公園B地区案は、都市計画公園である制約等から断念せざる
をえなかったこと、世田谷区の場合には、隣接する都立大学移転跡地利用の一環と
して、公園との景観の調和はもちろん、公園機能、利便性の向上が図れることか
ら、駒沢公園内清掃工場
建設を計画したものであること、公有地の可能性を第一に探ったが、適地を求める
に至らなかったことや、今回の候補地については関係者の理解と協力が得られると
の判断から民有地取得に至ったこと、地元区、地域住民の理解と協力を得ながら清
掃工場の整備をするつもりであることなどを回答した(甲21の10)。
シ)東京都は、平成6年3月4日、株式会社東急百貨店等との間で、本件清掃工場
の建設予定地の一部について用地売買契約を締結した。
ス)東京都清掃局担当者は、平成7年7月27日、渋谷区氷川区民会館において開
催された住民主催の説明会に出席し、代々木公園B地区案を断念した事情や本件清
掃工場の建設予定地を渋谷区ab丁目に決定した経緯等について説明し、その後、
平成9年7月27日までの間に、合計20回にわたる住民説明会を行ったほか、リ
ーフレット(乙イ9)の配布、渋谷区及び同区議会に対する説明等を行った。
 東京都において作成した説明資料のうち、代々木公園B地区案断念の理由を詳し
く説明しているのは、清掃局工場建設推進室作成に係る平成7年12月26日付け
の「渋谷地区清掃工場を代々木公園内に設置することを断念した理由について」と
題する文書であり、これによれば、①代々木公園B地区に清掃工場を建設するため
には、公園計画及び都市計画の変更が必要となり、変更の必要性を合理的に説明す
る必要があること、②代々木公園は、都の代表的な公園であり、道路(放射23号
線)北側の森林公園地区(A地区)と陸上競技場、野外ステージ等を備えた広場地
区(B地区)とがあいまって公園としての機能を果たしており、また、B地区のス
ポーツ施設は、同種の施設が都市公園では少ない上、施設のグレードも高いことか
ら他の施設では代替
できないものがあり、具体的には、サッカー場は、年間利用者が1万6500人、
年間平均利用申込み倍率が28・5倍という人気の高い施設であり、織田フィール
ドは、全天候型、夜間照明付きの日本陸上連盟公認施設であって、国立霞ヶ丘陸上
競技場と連携したものとして利用されており、野外ステージのあるイベント広場
も、都内有数のイベント会場として利用頻度が極めて高く、B地区の一部でも公園
の区域からはずすことは、代々木公園の機能を損なうことになり、公園利用者に与
える影響が大きいこと、③B地区の一部でも公園の区域からはずすには、代替施設
の設置等の措置が必要となるところ、公園の機能の維持・増進のためには、代々木
公園の隣接地にはずす面積以上の代替地を確保することが必要となり、清掃工場が
建設された場合、現在
の公園施設の利用にも影響があることから、施設の配置の再検討や再整備をしなけ
ればならなくなるが、再整備には、施設のグレードが高いことから多額の費用を要
すること、公園行政の推進は、清掃行政の推進と同様に都政の最重要課題の一つで
あり、公園の削除はできないことなどが指摘されている。
 しかしながら、住民側からは、法律上公園の一部廃止が不可能なはずはないなど
として、東京都の説明には納得できないとする意見が強く出され、渋谷区や同区議
会からも、東京都の説明を疑問視する声や、住民の理解を得られるよう努力するこ
とを求める声が出された。そして、住民の同意が得られたとはいえない状態のま
ま、後記の都市計画決定に至ることとなった。
セ)都知事は、平成8年10月24日、本件清掃工場の位置を渋谷区ab丁目とす
る都市計画案を都議会(都市環境委員会)に報告し、平成9年3月3日、都市計画
法17条1項に基づき、本件清掃工場に係る都市計画案を公示し、縦覧に供した。
その後、本件清掃工場に係る都市計画(本件都市計画)は、東京都市計画地方審議
会の議を経て決定され、都知事は、同年11月11日、これを告示するとともに、
関係図面を縦覧に供した。
ソ)一方、東京都は、平成8年10月24日、東京都環境影響評価条例(昭和55
年都条例第96号。以下「環境影響評価条例」という。)9条の規定に基づき、本
件清掃工場建設事業に係る環境影響評価書案を都知事に提出した。都知事は、平成
9年3月3日、環境影響評価条例16条の規定に基づきこれを告示し、縦覧に供し
た上、同条例に基づく関係地域の住民に対する説明会の開催等を行った。
 その後、東京都は、平成9年6月、見解書(乙イ13)を作成し、同年7月3
日、環境影響評価条例21条に基づき、これを縦覧に供した上、同年10月、同条
例23条の規定に基づき、本件清掃工場建設事業に係る環境影響評価書及びその概
要(乙イ14)を作成して都知事に提出した。都知事は、同年11月10日、同条
例24条に基づき、本件清掃工場建設事業に係る環境影響評価書の概要を告示し、
翌11日から評価書を縦覧に供した。
 そして、環境影響評価書の概要(乙イ14)によれば、本件清掃工場の建設によ
る環境への影響は、目黒区清掃工場との複合的影響を考慮しても法規制の範囲内に
あるものとされている。原告らが問題としているダイオキシンについていえば、本
件清掃工場から排出されるダイオキシン類の排出濃度は0・1ng-TEQ/Nm
3であって、これが拡散して地表に到達した場合における標準人の最大摂取量は、
0・000043pg-TEQ/kg/日となる一方、目黒区清掃工場から排出さ
れるダイオキシン類の排出濃度は、1・7ng-TEQ/Nm3であって、標準人
の最大摂取量は、0・00082pg-TEQ/kg/日となり、両工場からの拡
散分を併せても、標準人の最大摂取量は、0・00086pg-TEQ/kg/日
であって、厚生省(
当時)評価指針値(10pg-TEQ/kg/日)、環境庁(当時)健康リスク評
価指針値(5pg-TEQ/kg/日)のいずれをも大幅に下回ることなどが指摘
されている(76-77頁等)ところ、これらの数値に誤りがあるなど、評価に問
題があることを具体的に認めるに足りる証拠はない。
 また、東京都においては、本件清掃工場について、「東京都地域公害防止計画」
に基づき、大気汚染防止対策、騒音・振動防止対策を講じることとし、大気汚染に
ついていえば、ろ過式集じん設備、洗煙設備及び触媒塔等の公害防止設備を設置し
た。
(2)以上の認定事実に基づいて、本件清掃工場の建設予定地を渋谷区ab丁目に決
定したことの適否について検討する。
 本件建設工事は、都市計画決定に基づいて行われたものであるところ、都市計画
決定において、具体的に都市施設をどのような位置に配置するかについては、被告
らが主張するとおり、当該都市施設の諸機能、必要性の有無・程度、道路等の既存
の都市施設への影響の有無・程度、財政負担の多寡等の様々な利益を比較衡量し、
これらを総合して、政策的、技術的な裁量によって決定せざるを得ないものであ
り、その判断は、都市計画を決定する行政庁の広範な裁量に委ねられているものと
いうべきである。もっとも、本件においては、都知事が、渋谷区長及び渋谷区議会
議長に対し、本件清掃工場の建設予定地の選定を依頼した上、その選定結果を最大
限尊重する旨を表明し、この依頼に基づいて住民参加による建設予定地の選定手続
が行われ、その結果代
々木公園B地区の一部が建設予定地として選定され、この結論が出された後におい
ても、東京都側が、住民による選定結果を実現すべく最大限努力する旨を表明した
という経緯があるのであるから、都市計画の決定権者である都知事が、このような
経緯を無視することは許されず、代々木公園B地区案に十分な配慮を与えた上で、
建設予定地を決定すべき義務があるものというべきである。ただし、都市計画を最
終的に決定するのは都知事であり、その判断については、裁量権が認められるべき
ことは上記のとおりである上に、東京都ないし都知事が約束したのは、渋谷区住民
による決定を「最大限に尊重」することにとどまることを考慮すると、都知事とし
ては、代々木公園B地区における清掃工場の建設が法律上可能な限り、万難を排し
てでもこれを実現す
べき義務までを負うものということはできず、たとえ同地区における清掃工場の建
設が法律上は可能であるといえる場合であっても、諸般の事情を考慮した結果、そ
の計画が合理性を欠くものと認められる場合等には、他の地域を建設予定地として
選択することも許されるのであり、このような判断に当たっても、なお裁量の余地
が残されているものといわざるを得ない。
 この観点から考えた場合、代々木公園B地区の一部について、公園計画及び都市
計画を変更し、清掃工場を建設することについて、法律上不可能とまではいえない
ものの、代々木公園は、都内はもとよりわが国を代表する都市公園の一つであって
首都機能の重要な構成要素となっているのであるから、その公園機能をできるだけ
維持していくことが広く国民全体の利益に合致するところであり、単なる渋谷区内
における必要を満たすためにこれを廃止することは到底許されないとする見解にも
相応の根拠があるものといわざるを得ず、特に、従前から代々木公園の意義や公園
機能の維持、強化を主張し、国等にその主張を認めさせてきた東京都としては、上
記の渋谷区住民の決定につき、関係諸機関の理解と協力を得ようとすることは、交
渉に入る以前にその
見識を問われかねないものであったと考えられる。その上、代々木公園は元々国有
地であり、公園としての用途を廃止する場合には本来国に返還すべきものであるか
ら、これを引き続き清掃工場として使用することを希望するのであれば、公園の代
替地として国有地以外の区有地や民有地の手当をして差し出すのが筋合いであるの
に、区側の案は代替地を国有地の払下げによって得ようとするものであった。この
ような区側の提案は、当事者の主観はともかくとして、客観的にみると、都にとっ
て無理難題と言っても過言ではなく、これを十分尊重すべき提案と評価すべきか否
かには大いに疑問がある。東京都においては、これをあえて尊重すべきものとし
て、上記のように所管官庁との交渉を行ったものと評価すべきであり、その結果が
不奏功に終わったとし
ても、それは提案の内容自体に問題があったことによるものであって、都の努力不
足によるものとはいい難い。
 また、代々木公園B地区は、A地区と一体のものとして公園機能を果たしてきた
ものである上、競技場施設や野外ステージ等のイベント施設が存在する地区である
ため、ここに清掃工場が建設されることになれば、上記各施設を廃止するか、存続
させるとしても、施設の再配置や見直し等を行わざるを得ないものと考えられると
ころ、これらの施設は、利用者が多く、関連競技団体等からは、重要な競技場等と
見られているものである(このため、代々木公園B地区案に対しては、各種競技団
体等から反対意見が寄せられたものである。)ことからすると、公園利用者に対す
る利便の提供という観点に立つ限り、これらの施設を存続させることをむしろ優先
させるべきであるという判断もあり得るものといわざるを得ないし、仮に清掃工場
の建設を優先させ、
これらの施設の廃止や見直しを行わざるを得ないこととなった場合には、公園利用
者への影響を最小限に止め、その納得を得るべく、できるだけ近隣の地域に、従前
と同等、あるいはそれ以上の施設を整備する必要があると判断することにも相応の
根拠があったものといわざるを得ない。
 このように考えていくと、代々木公園B地区案については、案自体に問題があっ
たと考えられるし、その点を措くとしても、渋谷区住民の意向を最大限に尊重しつ
つ清掃工場の建設を行うという清掃行政の観点と、代々木公園の公園機能を維持
し、公園利用者に利便を提供していくという公園行政の観点とで、いわば二律背反
的な要素があり、そのいずれを優先させるべきであるかには、にわかに決し難いと
ころがあるものといわざるを得ない。そうだとすると、渋谷区側から、代々木公園
B地区の代替地として提案され、東京都においてもこれに納得した東京工業試験所
跡地の確保が可能となり、当初の計画がすべて実現可能な状態になったのであれば
ともかく、同跡地が第二国立劇場用地とされることが決定されてその確保が不可能
となり、当初の計画を
そのまま実現することは不可能となった以上、改めて清掃行政の観点と公園行政の
観点を踏まえて検討をし直し、代々木公園についてはむしろ公園機能の維持を重視
すべきであるとの結論に至ったとしても、それには相応の理由があるものといわざ
るを得ないのであって、このような判断に裁量権の逸脱、濫用があるとまでいうこ
とはできない。
 なお、甲第22、第30号証の報告書等によると、原告らは、代々木公園B地区
案の問題点に関する被告らの主張は、後になって考え出されたこじつけであると受
け止めている節がうかがわれるが、(1)、ク)において認定したとおり、昭和49年
12月18日に東京都副知事、清掃局長が、区民の会幹事会に出席した際には、既
に、清掃局長から、上記の問題点の存在が指摘されているのであって、問題は、代
々木公園B地区案が決定された当初から存在していたものと理解すべきである。ま
た、原告E1本人尋問の結果によると、原告らは、代々木公園B地区案が実現しな
かったのは建設省(当時)の反対によるものであるにもかかわらず、東京都は建設
省と交渉すらしていないと理解していることが認められ、原告らは、この理解に基
づいて東京都が十分
な交渉をしなかったと主張するようであるが、建設大臣は清掃工場設置に関しては
その都市計画を認可する際に関与するにすぎず、代々木公園内に清掃工場を設置す
るには、まず関東財務局の了解を得ることが必要であって、それを得ないまま都市
計画の手続を進めても同じ国の機関である建設大臣の認可を受ける見込みはないと
考えられるのであるから、東京都が関東財務局と交渉したのは相当であり、それが
不奏功に終わったために代々木公園B地区案が実現しなかったものと理解すべきで
ある。したがって、原告らの理解は、その前提において客観的事実に合致せず、東
京都の交渉に不適切な面があったとは認め難い。
 もっとも、東京都は、代々木公園B地区案それ自体に上記のような問題点がある
ことを十分に説明したとは認め難く、そのために、渋谷区やその住民の立場からす
れば、清掃行政に協力するという観点から対話を重ね、多大な労力をかけて代々木
公園B地区案を決定した努力をないがしろにするものであって納得ができないと受
け止めることにも無理からぬところがあると思われる。その上、東京都は、東京工
業試験所跡地が第二国立劇場用地と決定された昭和55年から、渋谷区ab丁目地
内が新たな清掃工場建設用地として決定された平成3年までの間、地域住民等に対
して十分な経過報告等をしていたのか否かには疑問の余地があり、この点において
努力不足の感を否めないところがあるものといわざるを得ない。しかしながら、既
に検討した点に照ら
してみれば、これらの点も当不当の問題にとどまり、客観的な事実関係をみる限
り、本件都市計画決定が、裁量権を逸脱、濫用するものであって違法と断定するの
には足りないものといわざるを得ないのである。
(3)原告らは、本件都市計画決定には、①複合汚染の危険、②自区内処理の原則違
反、③決定手続違反の点においても違法があると主張する。
 しかしながら、①の複合汚染の点については、予想される大気汚染、特に、原告
らが主張するダイオキシン汚染の程度は、(1)、セ)に認定したとおりであって、本
件工場と目黒区清掃工場の双方から排出されるダイオキシンの濃度を複合的に考慮
したとしても、厚生省(当時)評価指針値、環境庁(当時)健康リスク評価指針値
を遙かに下回るのであるから、この点を根拠として、代々木公園B地区ではなく、
渋谷区ab丁目地内を清掃工場用地として選択したことが違法であるということは
できない。
 また、②の自区内処理の原則からすれば、処理能力の高い清掃工場を建設できる
用地を選択することがより望ましいとはいえても、この原則自体が東京都の定めた
ものにすぎないのであるから、国の機関に対して公園行政の観点よりも清掃行政の
観点を優先させ、あくまでも代々木公園B地区に清掃工場を建設すべきであると主
張することはできないし、他に自区内処理が可能な代替案も見当たらないのである
から、都が次善の策として本件都市計画を定めたことも無理からぬことというべき
である。
 さらに、③についてみると、本件都市計画は、法律に定める手続を経て行われて
いる上、地域住民に対しても、20回にわたる説明会が開催され、それなりに説明
が行われていることは既に認定したとおりなのであるから、本件都市計画決定の違
法をもたらすような手続違反があったものということはできない(なお、原告ら
は、地域住民に対して虚偽の説明が行われたという趣旨の主張をし、甲第22、第
30号証の報告書にも、これに沿う部分が存するが、(1)項の認定に供した各証拠に
よると、住民説明会においては、代々木公園B地区に清掃工場を建設することにつ
いて、法律上の障害はない以上、当初の予定どおり、同地区に清掃工場を建設すべ
きであると主張する地域住民側の主張と、法律上の障害があるかどうかだけではな
く、公園行政上の観点
も踏まえた上で、同地区に清掃工場を建設することは相当かどうかを判断すべきで
あるとする東京都側の説明とがかみ合わず、平行線をたどっていたことがうかがわ
れ、原告らが主張する「虚偽説明」も、このような認識の違いによるものであっ
て、ことさら虚偽の説明をしたと認めることはできないところである。)。
(4)以上の次第で、この点に関する原告らの主張は、すべて失当であり、採用する
ことはできないものといわざるを得ない
4 本件請負契約の違法性の有無について(争点③)
 1)詳細設計図面に基づかない入札であるとの主張について
 本件入札については、詳細設計図面に基づく「図面発注」方式が採用されていな
いことは当事者間に争いがないところ、乙イ第24号証及び弁論の全趣旨によれ
ば、これは、東京都が従前から「図面発注」方式ではなく、設計・施工を一括して
契約の対象とする契約形態である「性能発注」方式を採用していたためであるこ
と、この「性能発注」方式が採用されたのは、被告らが主張するとおり、①受注者
に対し、工事施工上の瑕疵にとどまらず、設計に起因する瑕疵についても責任を負
わせることができ、契約対象プラント・施設等の性能がより確実に担保されるこ
と、②民間企業の優れた最新の技術力を設計段階から活用できること、③ごみ焼却
施設の焼却プラント建設においては、受注者となるプラントメーカーが各社独自の
特許やノウハウを蓄積して
いるため、東京都が一律の図面によって技術的内容を特定することは、その時点
で、特定のプラントメーカーを指定するのに等しい結果となり、競争入札に付する
意味がなくなることなどによるものであること、そして、性能発注方式を採用した
としても、各建設業者に対して工事概要を説明した上で、各建設業者から見積設計
図書を提出させ、提出された各見積設計図書に基づき、焼却炉本体設備、公害防止
設備容量を平均化した上で、東京都の既設清掃工場建設工事の実績単価を勘案した
積算方法を用いれば、起工額(入札予定価格を決定するための基礎となる価格)を
決定することが可能であり、本件入札においても、入札予定業者から見積設計図書
の提出を受け、これを清掃工場建設工事技術能力確認委員会が比較、検討した上
で、既設清掃工場の建設
実績単価等を勘案して起工額を確定していること、以上のような「性能発注」方式
は、厚生省(当時)においても、一般廃棄物処理施設整備事業のための入札を行う
際に採用されるべき方式の1つとして認められており、近年の政令指定都市におけ
るごみ焼却施設建設のための入札においては、すべてこの方式が採用されているこ
とが認められる。
 以上によれば、「性能発注」方式は、合理的な根拠に基づく入札方式であり、ま
た、この方式を採用したとしても、入札予定価格を合理的に算定することは可能で
あるというべきであるから、この方式を採用したことに違法はないものというべき
であって、原告らの主張は失当である。
 2)入札談合があったとの主張について
   また、原告らは、「本件請負契約は、入札談合によって受注者が決まったも
のであるから違法である。」という趣旨の主張をする。しかしながら、証拠(甲2
0)によれば、公正取引委員会は、平成11年8月13日、ストーカ炉の製造業者
5社、及び流動床炉の製造業者5社に対し、少なくとも平成6年4月から平成10
年9月までの間、地方自治体が行うごみ処理施設建築工事に関する入札において談
合行為を行っていたとして、排除勧告をしたこと、勧告を受けた業者の中には、本
件請負契約の受注業者の1つである荏原製作所が含まれていたことが認められるも
のの、上記勧告は、本件入札において談合行為が行われたことを認定しているわけ
ではないし、この点を裏付けるような他の証拠が存在するわけでもない(原告らが
主張する「受注率」
から、談合の存在を推認することは困難である。)のであるから、上記の事実から
本件入札において談合が行われたと断定することは困難である。したがって、この
点に関する原告らの主張は失当である。
5 本件補強工事の違法性の有無について(争点④)
 1)前提的判断
 原告らは、本件補強工事は不要な工事であったから、そのための支出を行ったの
は違法であるとして、被告らに対し、総額3億3075万円の損害賠償を求めてい
る。この金額は、東急電鉄との間で締結された本件協定における工事費用の概算額
に当たるが、前提事実(第2、2、3)、(5))において認定したとおり、最終的な
精算の結果、上記金額のうち3454万5000円は、支払を要しないものとされ
ているのであるから、最終的に確定された工事費用の額は、上記概算額から支払を
要しないものとされた金額を控除した2億9620万5000円となることが明ら
かである。したがって、支払が行われなかった3454万5000円に関する損害
賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がなく、棄却されるべき
ものであるところ、
これは、平成12年度分の工事費用に関する損害賠償請求の一部に当たるものと認
められる。したがって、上記請求に相当する第1、2、6)記載の被告Fに対する
5985万円の損害賠償請求のうち、2530万5000円(請求額である598
5万円から3454万5000円を控除した残額)を超える部分は、その余の主張
事実について判断するまでもなく棄却されるべきものである。
 また、本件補強工事は、平成10年度から平成12年度にかけて行われたもので
あり、具体的には、本件協定及び平成10年度協定に基づいて平成10年度分の工
事が開始され、その後、平成11年度協定、平成12年度協定に基づいて平成11
年度、平成12年度分の工事が行われ、完成に至ったものである。そして、原告ら
は、上記各協定及びこれに基づく支出命令、支出のすべてが違法であると主張する
のであるが、東京都としては、いったん補強工事を行う旨の契約を締結した以上、
特段の理由がない限り、これを履行すべき契約上の義務を負うことや、高架橋の防
護工事という工事の性質上、いったん開始した工事を途中で中止したり、工法の変
更を行ったりすることは極めて困難であり、場合によっては、かえって危険性を増
すことさえあり得る
ことは容易に想像できるところなのであるから、財務会計行為担当職員としても、
いったん工事が開始された後においては、工事が行われることを前提とした対応を
するほかはなかったものというべきである。そうすると、工事開始前(あるいは、
遅くともその直後)に行われたと認められる、本件協定及び平成10年度協定の締
結、及びこれに基づく支出命令、支出はともかく、その後の各財務会計行為(平成
11年度、平成12年度各協定の締結及びこれに基づく支出命令、支出)について
は、もはやこれを行うことについて選択の余地はなく、その違法性を問うことはで
きないものというべきである。したがって、原告らの第2、第3事件に関する請求
のうち、被告I、同J、同Kに対する各請求は、いずれも工事開始後の財務会計行
為に関与したことを
理由とするものであって、その違法性を問うことはできないものというべきである
から、その余の点について判断するまでもなく、理由がないものとして棄却すべき
ものである。
 以上によれば、本件補強工事の関係で問題となり得る請求は、被告Fに対する各
請求(ただし、上記のとおり、第1、2、6)記載の5985万円の請求のうち、
2530万5000円を超える部分を除く。)と、被告G及び被告Hに対する第
1、2、1)記載の4620万円の各損害賠償請求のみということになるから、以
下においては、これらの請求に限定して判断を示すこととする。
2)事実関係について
  証拠(甲25、26、40、43、乙イ28ないし34、44ないし48、丙
1)によれば、東京都が東急電鉄との間で本件協定を締結するに至った経緯は、被
告らが主張するとおりであり、具体的には、
(1)東京都は、平成7年3月にまとめられた「渋谷清掃工場建設計画調査報告書」
(乙イ42)によれば、本件清掃工場の煙突部分建設のため、本件高架橋から約9
メートルの場所で深さ8メートルの基礎掘削工事(本件掘削工事)を行うこととさ
れていたところ、建設工事公衆災害防止対策要綱(平成5年1月12日建設省経建
発第1号建設事務次官通知)によれば、起業者は、鉄道に近接して工事を行う場合
には、予め鉄道経営者と協議を行うことが義務づけられていたため(同要綱28
条、32条。乙イ31)、東急電鉄との間で協議を開始したこと、
(2)東京都は、同年7月17日、東急電鉄に対し、本件掘削工事が本件高架橋に与
える影響の程度、防護工事の必要性及び防護方法等について調査を委託し、同年1
1月30日、東急電鉄から報告書(甲40)の提出を受けたが、同報告書によれ
ば、東急電鉄の構造物に対する許容変位量は、鉛直変位の絶対沈下量が3ミリメー
トル、相対沈下量が1・8ミリメートル、水平変化では5ミリメートルであるのに
対し、深さ8メートルの掘削工事を行った場合に予想される発生変位量は、二次元
FEM弾性解析手法を用いて解析した結果、変位量が、それぞれ6・9ミリメート
ル、8・3ミリメートル、7・23ミリメートルであって、いずれも許容変位量を
超えるため、防護工事が必要であり、防護方法としては、アンダーピニング工法が
適当であるとされてい
たこと、
(3)東京都は、東急電鉄に対し、アンダーピニング工法を採用した場合、本件高架
橋下に居住している住民の立退きを求める必要が生じ、その交渉の成り行き次第で
は、本件清掃工場の建設工事にも遅れを来すおそれがあるところから、連続地中壁
工法等、他の工法を採用することができないかと申入れをしたが、東急電鉄がアン
ダーピニング工法の採用にこだわったため、結局、平成9年12月19日、アンダ
ーピニング工法による防護工事を行う旨の協定(丙1、乙イ28)を締結したこ
と、
(4)その後の平成10年8月4日、工事を受注した荏原・東急・竹中共同企業体か
ら、掘削深度は6メートルで十分であるとの報告を受けたため、東急電鉄に対して
改めて調査を依頼したところ、同年11月15日、改めて二次元FEM弾性解析手
法を用いて解析した結果、予想される変位量は、鉛直変位の絶対沈下量が3・97
ミリメートル、相対沈下量が2・53ミリメートル、水平変位では0・62ミリメ
ートルであり、水平変位を除いては許容変位量を超える変位が生じることになる
が、連続地中壁を設置すれば、変位量がそれぞれ2・7ミリメートル、1・68ミ
リメートル、0・35ミリメートルであっていずれも許容変位量の範囲内におさま
るとの報告を受けた(乙イ45)こと、
(5)そこで、東京都は、同月26日、従前の協定を失効させた上で本件協定を締結
し、連続地中壁工法による防護工事を行う旨を約束したこと、
以上の事実が認められる。
3)判断
 そこで、以上の事実に基づき、本件補強工事の適否について判断する。
(1)原告は、まず、「FEM解析の結果のみに基づいて、補強工事の必要があると
判断したことには根拠がなく、この点において既に判断の誤りがある。」という趣
旨の主張をし、証人Lの証言及び同人作成の報告書(甲29の1、36、37ない
し39、45、46、48。以下、これらをまとめて「L報告書」という。)に
も、FEM解析は、あくまでも近似値を求めるものであって、その結果を絶対視す
るのは不当であり、同人の経験及び同人が収集した工事例に基づいて検討してみて
も、本件程度の掘削工事を行ったからといって近接工作物のために防護工事をする
必要は認められないなどという上記主張に沿う部分がある。そして、L証言及び同
報告書に証拠(丙2ないし7、9)を併せれば、FEM解析は、「解析対象物とな
る有限領域を有限個の
要素に分解して解く手法」(有限要素法)であり、厳密解(真実の値)を求めるも
のではなく、近似解を求める方法であることが認められ、また、甲第45号証のL
報告書及び丙第6号証によれば、鉄道高架橋から1・5メートルから20メートル
程度離れた地点において、深度6メートル以上の掘削工事を行った工事例の中に
は、防護工事として山留め壁を設けたのにとどまる例や、防護工事は一切行われ
ず、変位の計測のみが行われたのにとどまる例も数多く存在することが認められる
こと(ただし、これらの工事例が、すべての工事例を網羅したものであるとは考え
られない。)などからすれば、本件補強工事がどうしても必要な工事であったのか
どうかについては疑問の余地もないではない。
 しかしながら、他方、証拠(丙3ないし7、9)によれば、工学の分野において
は、厳密解を得ることが著しく困難である一方、ある程度の精度が保障された近似
解を求めることによって、問題に対処できる場合が多いところ、FEM解析は、こ
のような近似解を求める方式の中では最も汎用性や柔軟性が高い手法の一つである
と評価されており、東急電鉄のほか、東京都下水道局、東日本旅客鉄道株式会社等
においても、近接工事が既存工作物に与える影響を評価する際に、FEM解析が用
いられていることが認められるのであるから、FEM解析の結果が、本件補強工事
の要否を判断する際に、重要な要素の一つとされるべきものであることは否定し難
いものというべきである。そして、本件高架橋は、多数の旅客が利用している東急
電鉄東横線の高架橋
であり、旅客を安全に運送するという観点からは万が一の危険をも避ける必要があ
るとの見解や、高架橋に変位が発生した後になって対応策を考えるというのでは、
最悪の場合、鉄道の運行をストップさせなければならないことになりかねず、旅客
に多大な迷惑をかけるおそれも生じるのであるから、このような事態が生じること
も避けなければならないとする見解にもそれなりの根拠があるものといわざるを得
ないのであるから、東横線の運行について責任を負う東急電鉄側から、FEM解析
の結果という根拠に基づき、上記のような事態を避けるためには防護工事の必要が
あるとの主張がされた以上、東京都としては、その必要性がないことを具体的なデ
ータ等の根拠に基づいて説明できない限り、これを拒否することは、事実上不可能
であったといわざる
を得ない。原告らは、東急電鉄の要求は過剰な要求であって応じる必要はなかった
と主張するのであるが、本件全証拠に照らしてみても、FEM解析の結果そのもの
に問題があったことを認めるに足りる証拠はなく、また、それ以外に東急電鉄の要
求を拒否する根拠として挙げられているのは、本件掘削工事は、その一部が財団法
人鉄道総合技術研究所による「近接施工の設計施工指針」(丙2)にいう「要注意
範囲」(設計に特別の考慮は要しないが施工時には既設構造物の変状観測などの注
意を要し、変状するときには対策を考慮する。)に含まれるのにすぎず、「制限範
囲」(設計、施工とも特別の考慮を要し、何らかの対策工、防護工を当初より計画
する。)には含まれていないことや、防護工事を行わないまま工事が施工された例
が少なくないことな
どにすぎない。そして、前者(上記指針における区分)は、あくまでも目安にすぎ
ず(丙2、6頁)、また、後者の工事例も、FEM解析の結果や、既設構造物の所
有者の意見、その他の諸条件に照らしてみても、本件掘削工事に当たって防護工事
が必要ないことを具体的に示すに足りるだけの情報を提供するものとはいえないの
であるから、東急電鉄の要求を拒否するに足りる十分な根拠になり得るものという
ことはできない。
 このように検討していくと、本件補強工事が是非とも必要な工事であったといえ
るかどうかについては疑問の余地があるとしても、本件高架橋の所有者である東急
電鉄が、その必要性を主張したことについてはそれなりの根拠があるのであるか
ら、近接工事の施工者である東京都が、東急電鉄から要求された以上、補強工事の
実施に応じざるを得ないと判断したのはやむを得ない事柄であって、これを違法と
いうことはできないものというべきである。
(2)また、原告らは、「仮に補強工事が必要であるとしても、他に、より少ない費
用で、十分な安全性を確保した対応策を講じることが可能であったのであるから、
連続地中壁工法を採用する必要はなかった。」という趣旨の主張をする。
 しかしながら、上記の主張は、当初の工事予定(掘削深度8メートル)を前提と
したFEM解析を行った際に、①土留壁の剛性を上げる、②切梁にプレロードを架
ける、③プレロードに加え上載荷重を考慮する、④プレロードに加え遮断壁を設け
るという4つの防護工事を想定して、変位量をどの程度に抑えられるのかの分析が
されているところ(甲40)、これらの工法、特に③と④とでは、その効果がほと
んど変わらないのであるから、連続地中壁工法以外にも、有効な対応策が存在した
とするものであるが、甲第40号証において予定されていた遮断壁工法と、実際に
行われた連続地中壁工法とでは、その内容が異なるのであるから(甲40、4
4)、上記分析結果を基にして、上記①ないし③の工法でも防護工事として十分で
あったと断定することは
できず、上記主張は失当である。
 そのほか、原告は、「SMW工法を採用すれば、連続地中壁工法の半額に満たな
い費用で、これと同様の効果を得ることができたはずである。」とも主張するが、
上記主張は、可能性の指摘にとどまり(その根拠となっている甲第48号証の記載
も、「主として重量によってリバウンドを抑えるというのであれば、連続地中壁で
はなくともSMW工法で十分であったはずである。」という程度にとどまってい
る。)、FEM解析の結果等、具体的な根拠に基づくものとはいえないのであるか
ら、これをそのまま採用することには疑問が残るものといわざるを得ない。
(3)さらに、原告らは、「連続地中壁工法は、本件高架橋の防護工事としての意味
はなく、むしろ有害なものである。」と主張し、L報告書(甲46)中にも、東急
電鉄が作成した「渋谷地区清掃工場建設に伴う東横線高架橋防護工事に於ける変状
計測工事」と題する書面中の「経時変化図、経時数表」(以下「本件計測図」とい
う。)によると、連続地中壁工事が施工された後である平成11年6月26日以降
において、鉛直変位(沈下)、傾斜変位(傾き:X方向)、傾斜変位(傾き:Y方
向)に顕著な変化がみられることからすると、連続地中壁工事によって変位が生じ
ているのであって、むしろ、適切な山留め壁を設置していれば、変位が生じなかっ
た可能性が高い。」とする部分がある。
 しかしながら、本件計測図に基づいて検討をしてみても、連続地中壁工事及びそ
の後行われた掘削工事によって許容値を超える変位が生じた事実はなく、本件防護
工事が失敗に終わったということはできないことは明らかなのであるから、連続地
中壁工事を有害な工事であったと断定することはできない。また、本件計測図によ
れば、発生した変位は、連続地中壁工事中やその直後よりも、掘削工事が開始され
た後の方が大きい傾向にあることが認められることからすれば、変位の原因は、む
しろ掘削工事等にあったとみる余地も十分にあるものといわざるを得ず、この点か
らしても上記主張を採用することはできない。さらに、「山留め壁を設置していれ
ば変位は生じなかった」とする部分も、可能性の指摘にとどまり、具体的な根拠に
基づく指摘であると
いうことはできないのであるから、やはり、そのまま採用することは困難である。
 結局、現実に生じた変位の状況から、連続地中壁工事が有害な工事であったと
か、必要のない工事であったと断定することはできないのであり、原告らの主張は
失当といわざるを得ない。
第4 結論
 以上の次第で、原告らの請求のうち、第1事件の被告Gに対する訴えを却下し、
その余の請求は、いずれも理由がないものとして棄却することとし、訴訟費用の負
担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、65条、66条を適用して、
主文のとおり判決する。
  東京地方裁判所民事第3部
        裁判長裁判官       藤   山   雅   行
           裁判官       鶴   岡   稔   彦
           裁判官       菊   池       章

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛