弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を禁錮六月に処する。
     本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人井上正泰が差し出した控訴趣意書に記載してあるとお
りであるから、これを引用し、これに対して当裁判所は、次のように判断をする。
 論旨第一点について。
 記録によれば、本件については、佐倉簡易裁判所に対して略式命令の請求があつ
たが、同裁判所裁判官Aは略式命令をすることが相当でないと認め、通常の公判手
続に従つて審判をすることとし、その旨を検察官に通知し、関係記録を検察官に返
還した上、同裁判官が本件に対する同裁判所における公判審理に当り、その第一回
公判期日は弁護人が出頭しなかつたため変更になつたが、第二回公判期日において
は刑事訴訟法第二九一条の手続を終つた後、証拠書類の証拠調をした上被告人に質
問してその供述を求め、第三回公判期日には本件は地方裁判所において審判するの
が相当であると認めてこれを管轄地方裁判所である千葉地方裁判所佐倉支部に移送
する旨の決定をしたが、その後も右支部裁判官を兼ねていた同裁判官が同支部裁判
官として本件に対する同支部における公判審理に当り、公判期日を二回開廷し、且
つその間一回検証をして本件の審理及び判決<要旨>をしていることが明らかであ
る。しかし、憲法第三七条第一項にいわゆる公平な裁判所の裁判とは、その組 旨>織、構成において偏頗でない裁判所の裁判を指すものであり、個々の事件につい
て担当裁判官に不公平な裁判をするおそれがあると思われるときは訴訟関係人はそ
の裁判官を職務の執行から排除するため忌避の申立てをすることができるものであ
つて、たまたま被告人に不利益な裁判がなされたからといつて、この一事によつて
ただちにその裁判が憲法第三七条第一項に違反しているとすることはできない。そ
してA裁判官は法律上佐倉簡易裁判所又は千葉地方裁判所佐倉支部の裁判官として
の職務の執行から除斥されるべき事由はなく、且つ佐倉のように一人の裁判官が簡
易裁判所の裁判官と地方裁判所支部の裁判官とを兼任している裁判所においては本
件のような経過で簡易裁判所及び地方裁判所支部を通じて同一の裁判官が事件の審
理及び裁判をすることも訴訟法上やむを得ないところであつて、この一事をもつて
ただちに右審判を違法であるとすることもできないし、又記録を精査しても被告人
及び弁護人からこれを理由としてA裁判官に対して忌避の申立てをした事跡も認め
られず、なお前記審判の経過に徴すれば同裁判官が予断を抱いて本件の審判に当つ
たとは認められず、又記録を精査しても同裁判官が不公平な裁判をするおそれがあ
つたと認めるに足りる証左もない。
 従つて本件の裁判を目して憲法第三七条第一項に違反してなされた不公平な裁判
であるとすることはできないし、又原裁判所の訴訟手続に判決に影響を及ぼすこと
の明らかな訴訟手続の法令違反があつたとすることもできないから、論旨は理由が
ない。
 (その余の判決理由は省略する)
 (裁判長判事 加納駿平 判事 河本文夫 判事 清水春三)

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