弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は、控訴人の負担とする。
         事    実
 一 控訴人は、「原判決を取消す。控訴人と被控訴人との間の函館簡易裁判所昭
和四七年(ト)第一七号土地立入妨害禁止仮処分申請事件について、同裁判所が同
年四月一〇日になした仮処分決定を認可する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴
人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、「本件控訴を棄却する。控訴費
用は、控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
 二 当事者双方の主張は、左記のとおり付加訂正するほか、原判決の事実中、当
事者の主張として摘示されているとおりであるから、これを引用する。
 (一) 控訴人は、次のとおり陳述した。
 1 本件農地の時効取得の主張は、控訴人が昭和三七年二月一六日と昭和四七年
二月一六日の両時点において、本件農地を占有していたので、その間、所有、の意
思をもつて善意、平穏かつ公然に占有していたとの推定規定を援用するものであ
る。
 2 農地の所有権の移転についての知事の許可は、所有権移転の効力の発生要件
であり、従つて知事の許可がない限り農地所有権移転の効力は発生しないものであ
るから、仮に、被控訴人が控訴人に対し、その主張のごとく、本件農地について、
知事に対する許可申請手続をなし、その許可を条件に所有権移転登記手続をなすべ
き旨の反訴を提起し、それを認容する確定判決を得たとしても、そのことによつて
被控訴人が本件農地について所有権を取得したことが公に確認せられたとはいい得
ないから、被控訴人の反訴の提起によつて控訴人の取得時効が中断されることには
ならない。
 (二) 被控訴人は、次のとおり陳述した。
 1 控訴人が昭和三七年二月一六日から昭和四七年二月一六日までの間、本件農
地を所有の意思をもつて占有していたことは認める。
 2 知事の許可を条件に農地の売買がなされた場合、その許可がない限り、農地
の所有地が買主に移転しないことはいうまでもないが、この場合にあつても、買主
は、売主に対し、農地法所定の許可申請手続をなすことを求める請求権を取得する
とともに、農地法所定の許可を停止条件として所有権を取得すべき条件付所有権を
取得しているものである。
 従つて、買主は、売主に対し、農地法所定の許可を条件として所有権移転登記手
続をなすことを求める訴を提起することができ、時効の中断は、適法な訴の提起に
伴う付随的効果であるから、農地法所定の許可を条件とする所有権移転登記手続請
求の訴の提起によつて、農地についての取得時効の中断を認めても農地法の規制に
違反するものではない。
 三 証拠関係(省略)
         理    由
 一 控訴人は、本件農地の所有権を時効により取得したものである旨主張する。
よつて案ずるに、
 (一) 控訴人が昭和三七年二月一六日から昭和四七年二月二六日までの間、本
件農地を所有の意思をもつて占有していたことは当事者間に争いなく、これによれ
ば、控訴人が右の期間中、本件農地を善意、平穏かつ公然と占有していたことが法
律上推定される。
 (二) しかしながら、
 1 成立に争いない甲第一号証の一、二、原本の存在及び成立に争いない甲第一
一、第一二、第一八号証、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認める甲第
五、第六号証、成立に争いない乙第一、二号証の各記載に弁論の全趣旨を総合する
と、左記(1)ないし(3)の事実を認めることができる。右認定に反する証拠は
ない。なお、左記(4)の事実は、本件記録によつて認められる本件訴訟の経過と
して明らかである。
 (1) 控訴人は、昭和三四年四月一八日頃、訴外Aから、本件農地を、代金九
〇万円で買受け、昭和三七年二月一六日、本件農地の所有権の移転につき北海道知
事から農地法所定の許可を経たうえ、同年二月二〇日本件農地について控訴人への
所有権移転登記を経由した(知事の許可と登記の経由については当事者間に争いが
ない。)。
 (2) ところで、被控訴人は、本件農地の所有権を訴外河村沢治から交換によ
つて取得したと主張し、控訴人に対し、昭和三六年九月頃本件農地の引渡を求めて
きたので、控訴人は、昭和三七年一月一一日、函館簡易裁判所に対し、被控訴人を
相手として、本件農地は控訴人の所有であることの確認を求める旨の訴を提起した
ところ(同裁判所昭和三七年(ハ)第一三号事件)、これに対し、被控訴人は、本
件農地を昭和三六年二月九日に控訴人から代金二八万円で買受けたことを理由とし
て、控訴人に対し、本件農地の所有権を被控訴人に移転するための農地法所定の許
可申請手続とこれを条件として被控訴人に所有権移転登記手続を求める反訴を提起
した(同裁判所昭和三九年(ハ)第一三号事件)。その結果、第一審では双方とも
請求を棄却されたため、双方控訴したが、審理の途中、本件農地の所有権が控訴人
に帰属することを被控訴人が認め、確認の利益を失つた関係上、控訴人は本訴を取
下げた。その結果、被控訴人の反訴についての控訴についてのみ審理が進められた
が、控訴審では、第一審判決を取消したうえ、被控訴人の反訴請求を認容する旨の
判決がなされた。そこで、控訴人は、右控訴審判決に対し上告の申立をしたが、昭
和四三年七月二九日上告棄却の判決があり、右控訴審判決は同日確定した(右訴訟
の提起及び結果については当事者間に争いない。)。
 (3) そこで、被控訴人は、昭和四五年六月二五日頃までの間に、他に農地を
買求めるなどして健全な農家の実績をつくりあげたうえ、同年九月二九日本件農地
の所有権の移転につき北海道知事から農地法所定の許可を受け、同年一〇月一四日
本件農地について被控訴人への所有権移転登記を経由した。なお、昭和四五年九月
二九日に右知事の許可があつたときまで、本件農地が控訴人の所有であつたことを
被控訴人は認めてきており、これを争つてはいない。
 (4) しかるに、控訴人は、その後も被控訴人の本件農地についての所有権を
否認して、本件農地の占有を継続し、控訴人が本件農地の移転について知事の許可
を得た昭和三七年二月一六日から満一〇年を経過したので、時効により本件農地の
所有権を取得したと主張して、函館簡易裁判所に対し、被控訴人を相手として、本
件土地立入禁止・耕作妨害禁止の仮処分を申請(同裁判所昭和四七年(ト)第一七
号事件)した。同裁判所は控訴人の右申請を許容して昭和四七年四月一〇日に決定
によつて仮処分命令(以下「本件仮処分決定」という。)を発令した。これに対し
被控訴人が異議を申立てたが、函館簡易裁判所は、仮処分異議訴訟の係属中に、本
件を函館地方裁判所に移送したので、同裁判所は、審理のうえ、昭和五一年二月二
七日に本件仮処分決定を取消して控訴人の本件仮処分申請を却下する旨の判決を言
渡した。
 2 ところで、取得時効は、当該物件を永続して占有するという事実状態を、一
定の要件が具備する場合に、権利関係にまで高めようとする制度であるから、不動
産の所有者が他人に対しその不動産を売却した場合であつても、その売主が買主に
対して当該不動産を引渡さず、自ら所有の意思をもつて占有を継続し、民法一六二
条所定の期間を経過したときは、買主に対する関係においても、時効による所有権
の取得を援用することができるのはいうまでもないが、その場合、売主と買主との
間に当該不動産の所有権移転の有無についての対立の関係が生ずるやも知れない事
由(原則として売買契約の締結がこれにあたる。)が存するに至つた時までは、売
主は、買主との関係上民法一六二条にいう「他人ノ不動産ヲ占有シタル者」にはあ
たらない者というべく、従つて売主のための取得時効は進行を始めることがないも
のと解するのが相当である。蓋し、売主所有の不動産が買主に譲渡されるまでは、
買主との関係では該不動産が売主の所有に帰属したものであることは明らかであつ
て、当該不動産について、売主と買主との間に蔚ける真の所有者と所有らしき外観
を有する占有者としての対立関係はなく、従つて売主が自己の所有する不動産につ
いて取得時効を援用することは全く無意味であるのみならず、仮に、かかる場合に
おいても、当該不動産の所有者たる売主について、占有をはじめた時から取得時効
が進行することを認めることにすると、例えば、二〇年近くに亘つて不動産を占有
してきた所有者が該不動産を他に売却した場合に、買主にこれを引渡すことなく、
引き続き所有の意思をもつてこれを占有したときは、占有継続か二〇年に達するま
でのあと僅かの期間その占有を継続するだけで取得時効が完成し、買主に売却した
不動産の所有権を再び取得してしまうことになり、その反面、買主はその所有権を
失つてしまうというような、極めて不合理な結果を招来することがありうるからで
ある。因みに、右と同様の関係は、不動産の所有者が他人のために抵当権を設定し
た場合に、その実行による該不動産の競落人との関係における抵当権設定者のため
の取得時効は、抵当権設定行為があつたときまでは進行しないという形で妥当する
こととなろう。
 <要旨>3 そこで以上のような観点に立つて本件をみるに、前判示のとおり、本
件係争地は農地であり、農地の売買にあつては、農地法所定の許可がない限
り、所有権移転の効力が生じないものであるから、被控訴人が昭和三六年二月九日
に控訴人から本件農地を買受けたとしても、被控訴人が本件農地の所有権移転につ
いて農地法所定の許可を得た昭和四五年九月二九日までは本件農地が控訴人の所有
の土地であつたことは明らかであつて、これは被控訴人も現に認めて争わないとこ
ろであり、従つて同日までは控訴人と被控訴人との間に本件農地の所有権移転の有
無についての対立関係はなかつたものというべきである。
 そうだとすると、本件においては、本件農地についての売主たる控訴人のための
取得時効は、昭和四五年九月二九日以前においては進行を始めることがなかつたも
のといわなければならない。而して、本件農地につき、例え同年同月三〇日から控
訴人のための取得時効が進行したとしても、控訴人は、同日以降いまだ民法一六二
条一項所定の十年の期間に亘つて本件農地を占有していないことは明らかであるか
ら、控訴人の本件農地についての取得時効が完成したものと認める余地は全くない
ものといわざるを得ない。なお、最高裁判所第二小法廷判決・昭和四〇年(オ)第
一二六五号・同四二年七月二一日民集二一巻六号一六四三頁及び同裁判所第一小法
廷判決・昭和四〇年(オ)第三五三号・同四四年一二月一八日民集二三巻一二号二
四六七頁は、いずれも本件の場合と事案を異にし、本件に適切な判例ではない。
 (三) してみると、本件農地を時効に因つて取得した旨の控訴人の前記主張は
失当であり、結局、控訴人が本件農地について所有権を有することについては疎明
はないことになる。
 二 以上のとおりであつて、かつ、本件においては、控訴人に保証を立てさせて
仮処分申請を許容するを相当とするような事情は疎明資料上窺われないから、本件
仮処分申請は理由がないものとして却下を免れないものである。
 三 よつて、控訴人の本件仮処分申請を許容した函館簡易裁判所の本件仮処分決
定は相当でなく、原審がこれを取消したうえ控訴人の本件仮処分申請を却下したの
は相当であるから、民訴法三八四条一項に則つて本件控訴を棄却することとし、控
訴費用の負担につき、同法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 宮崎富哉 裁判官 塩崎勤 裁判官 村田達生)

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