弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成21年11月10日判決言渡
平成21年(行ケ)第10063号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成21年10月29日
判決
原告株式会社日立製作所
訴訟代理人弁護士飯田秀郷
同隈部泰正
訴訟代理人弁理士沼形義彰
同西川正俊
被告株式会社安川電機
訴訟代理人弁護士松尾和子
訴訟代理人弁理士大塚文昭
同竹内英人
同近藤直樹
訴訟代理人弁護士高石秀樹
同奥村直樹
訴訟代理人弁理士那須威夫
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2005−80360号事件について平成21年2月6日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
1原告は,後記特許(特許第2580101号,発明の名称「誘導電動機制御
システムの制御演算定数設定方法,出願日昭和59年3月2日,登録日平」
成8年11月21日,発明の数1)の特許権者であるところ,被告から平成1
7年12月20日付けで上記発明につき特許無効審判請求がなされた。
本件は,下記経緯を辿った上記請求に関し,特許庁が平成21年2月6日付
(,)けでなした第3次審決訂正を認め特許を無効とすることを内容とするもの
につき,原告がその取消しを求めた事案である。

・平成18年6月8日第1次審決(無効成立)
・同18年11月17日特許法181条2項による審決取消決定(知
財高裁平成18年(行ケ)第10326号)
・同18年12月18日訂正請求(第1次訂正)
・同19年6月12日第2次審決(無効不成立)
(()・同20年4月28日審決取消し判決知財高裁平成19年行ケ
第10261号,第1次判決〔確定)〕
・同20年6月18日訂正請求(本件訂正)
・同21年2月6日第3次審決(無効成立)
2争点は,本件訂正後の本件特許発明が下記文献との関係で,進歩性を有する
か(特許法29条2項,である。)
(「,文献:特開昭57−79469号公報発明の名称非同期機の固定子抵抗
主インダクタンス漏れインダクタンスに対するパラメータ値検出装
置,出願人シーメンス・アクチエンゲゼルシャフト,公開日昭和」
,。,「」57年5月18日甲3以下そこに記載された発明を甲3発明
という)。
第3当事者の主張
1請求原因
()特許庁等における手続の経緯1
ア原告は,昭和59年3月2日の特許出願(特願昭59−38582号)
に基づき,平成8年11月21日,特許第2580101号として設定登
録を受けた(発明の名称「誘導電動機制御システムの制御演算定数設定方
法,発明の数1〔ただし,請求項1ないし6に分説されている,特許公」〕
報は甲1。以下「本件特許」という。。)
イその後平成17年12月20日に至り,被告から上記発明につき特許無
効審判請求がされたので,特許庁は,同請求を無効2005−80360
号事件として審理した上,平成18年6月8日「特許第2580101,
号発明についての特許を無効とする」旨の審決(第1次審決)をした。。
これに不服の原告は,その取消しを求める訴訟を提起した(当庁平成1
8年(行ケ)第10326号)ところ,知的財産高等裁判所は,平成18年
11月17日,特許法181条2項に基づき第1次審決を取り消す旨の決
定をした。
ウ上記決定により,特許庁において再び無効2005−80360号事件
が審理されるところとなり,その中で原告は平成18年12月18日付け
で訂正請求(以下「第1次訂正」という)をしたところ,特許庁は,平成
19年6月12日「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない」,。
旨の審決(第2次審決,甲11)をした。
これに不服の被告は,その取消しを求める訴訟を提起した(当庁平成1
9年(行ケ)第10261号)ところ,知的財産高等裁判所は,平成20
年4月28日「特許庁が無効2005−80360号事件について平成,
19年6月12日にした審決を取り消す」旨の判決をし(第1次判決,。)
この判決は確定した。
エ上記判決により,再び特許庁において無効2005−80360号事件
が審理されるところとなり,その中で原告は平成20年6月18日付けで
訂正請求(以下「本件訂正」という。乙9)をしたところ,特許庁は,平
成21年2月6日「訂正を認める。特許第2580101号の特許請求,
の範囲に記載された発明についての特許を無効とする」旨の審決(第3。
次審決)をし,同審決は平成21年2月18日に原告に送達された。
()発明の内容2
本件特許の登録時の発明の数は1であり,これが請求項1ないし6に分説
されているが,そのうち請求項1として記載されている内容は,次のとおり
である。
ア設定登録時(平成8年11月21日)のもの
「誘導電動機に可変電圧可変周波数の交流を出力する変換器と,該変換器
の出力量を制御して前記電動機を駆動する制御装置を備えた誘導電動機制
御システムにおいて,
前記制御装置に前記電動機の電動機定数を測定演算する電動機定数演算手
段を含み,
実運転前に,前記演算手段から前記制御装置に前記電動機の一つの定数の
測定条件に応じた指令信号を出力し,該指令信号に従い前記制御装置によ
,,り前記変換器の出力量を制御し前記電動機に交流あるいは直流を供給し
その際における前記変換器の出力量を前記演算手段に入力し,該入力した
出力量に基づいて前記演算手段により前記電動機の電動機定数を測定演算
し,
この演算された電動機定数に基づいて前記制御装置の制御演算定数を設定
。」することを特徴とする誘導電動機制御システムの制御演算定数設定方法
イ第1次訂正時(平成18年12月18日)のもの(下線は訂正部分)
「誘導電動機に可変電圧可変周波数の交流を出力する変換器と,該変換器
の出力量を制御して前記電動機をベクトル制御する制御装置を備えた誘
導電動機制御システムにおいて,
前記制御装置に前記電動機の電動機定数を測定演算する電動機定数演算
手段を含み,
前記電動機をベクトル制御する前に,前記演算手段から前記制御装置に
前記電動機の一つの定数の測定条件に応じた回転停止となる指令信号を
出力し,該指令信号に従い前記制御装置により前記変換器の出力量を制
御し,前記電動機に交流あるいは直流を供給し,その際における前記変
換器の前記測定条件下における出力量を前記演算手段に入力し,該入力
した前記出力量に基づいて前記演算手段により前記電動機の電動機定数
を測定演算し,
この演算された電動機定数に基づいて前記制御装置の制御演算定数を設
定することを特徴とする誘導電動機制御システムの制御演算定数設定方
法」。
ウ本件訂正(下線部は設定登録時からの訂正部分。以下「本件特許発明」
という。。)
「誘導電動機に可変電圧可変周波数の交流を出力する変換器と,該変換器
の出力量を制御して前記電動機をベクトル制御する制御装置を備えた誘導
電動機制御システムにおいて,
前記制御装置に,前記電動機をベクトル制御する前にベクトル制御の指令
信号に代えて複数の電動機定数の測定条件にそれぞれ制御するために予め
定めた指令信号を出力して,前記電動機の電動機定数を測定演算する電動
機定数演算手段を含み,
前記電動機をベクトル制御する前に,前記演算手段から前記制御装置に前
記電動機の前記複数の電動機定数の一つの定数の測定条件に応じた回転停
止となる前記予め定めた指令信号を前記測定条件毎に出力し,該指令信号
に従い前記制御装置により前記変換器の出力量を制御し,前記電動機に交
流あるいは直流を供給し,その際における前記変換器の前記測定条件下に
おける出力量を前記演算手段に入力し,該入力した前記出力量に基づいて
前記演算手段により前記電動機の電動機定数をそれぞれ測定演算し,
この演算された電動機定数に基づいて前記制御装置の制御演算定数を設定
。」することを特徴とする誘導電動機制御システムの制御演算定数設定方法
(3)審決の内容
ア審決の内容は別添審決写し記載のとおりである。その理由の要点は,本
件訂正は適法であるとした上,本件特許発明は,甲3発明に基づき当業者
が容易に発明をすることができたから特許法29条2項により特許を受け
ることができない,とするものである。
イなお審決は,上記判断をするに当たり,甲3発明の内容,同発明と本件
特許発明との一致点及び相違点を,次のとおり認定した。
〈甲3発明の内容〉
「非同期機に給電するインバータと,該インバータを制御して前記非
同期機を磁界オリエンテーション制御するインバータの制御装置を備
えた装置において,
前記非同期機の通常運転を開始する前に固定子抵抗,主インダクタン
ス,漏れインダクタンスのうち決定すべきパラメータ値に対応してそ
れぞれ運転すると共に,前記非同期機のパラメータ値を測定演算する
測定演算手段を備え,
前記非同期機の通常運転を開始する前に,固定子抵抗,漏れインダク
タンスのうち決定すべきパラメータ値を検出するために固定子周波数
が静止,もしくは回転子が拘束されるように決定すべきパラメータ値
に対応して制御し,前記測定演算手段の出力端に出力される指令信号
,,により前記インバータを制御し前記非同期機の固定子周波数が静止
もしくは回転子が拘束されているときで固定子周波数が高いときに,
その際における前記インバータの前記決定すべきパラメータ値に対応
する固定子電圧及び固定子電流を前記測定演算手段に入力し,該入力
した前記固定子電圧及び固定子電流に基づいて前記測定演算手段によ
り前記非同期機のパラメータをそれぞれ測定演算する,
非同期機のパラメータ測定方法」。
〈一致点〉
本件特許発明と甲3発明は,いずれも
「誘導電動機に可変電圧可変周波数の交流を出力する変換器と,該変
換器の出力量を制御して前記電動機をベクトル制御する制御装置を備
えた誘導電動機制御システムにおいて,
前記電動機をベクトル制御する前に複数の電動機定数の測定条件にそ
れぞれ制御するために指令信号を出力して,前記電動機の電動機定数
を測定演算する電動機定数演算手段を有し,
前記電動機をベクトル制御する前に,前記電動機の前記複数の電動機
定数の一つの定数の測定条件に応じた回転停止となる指令信号を前記
,,測定条件毎に出力し該指令信号に従い前記変換器の出力量を制御し
前記電動機に交流あるいは直流を供給し,その際における前記変換器
の前記測定条件下における出力量を前記測定演算手段に入力し,該入
力した前記出力量に基づいて前記演算手段により前記電動機の電動機
定数をそれぞれ測定演算する,
電動機定数測定方法」である点で一致する。。
〈相違点1〉
本件特許発明ではベクトル制御する「制御装置に,電動機をベクト」
ル制御する前に「ベクトル制御の指令信号に代えて」複数の電動機定
数の測定条件にそれぞれ制御するために「予め定めた」指令信号を出
力して,前記電動機の電動機定数を測定演算する電動機定数演算手段
を「含み」と特定されているのに対し,甲3発明ではかかる特定はな
されていない点。
〈相違点2〉
回転停止となるように測定条件毎に行う制御に関し,本件特許発明
では「電動機定数)演算手段から(ベクトル制御する)制御装置に」(
指令信号を出力し,該指令信号に従い「前記制御装置により」変換器
の出力量を制御しているのに対し,甲3発明ではかかる特定はなされ
ていない点。
〈相違点3〉
本件特許発明では「この演算された電動機定数に基づいて制御装置
の制御演算定数を設定する誘導電動機制御システムの制御演算定数設
定」方法であるのに対し,甲3発明ではかかる特定はなされていない
点。
()審決の取消事由4
しかしながら,審決には以下に述べるような誤りがあるから,審決は違法
として取り消されるべきである。
ア取消事由1(甲3発明認定の誤り)
(ア)甲3の第6図の出力端の出力は,指令信号に何らの影響を与えない
ものであること
a甲3発明のオフラインチューニングにおいて,回転子が回転停止の
状態で固定子抵抗を測定演算する際に,回転停止となる条件設定は想
定されるものの,少なくともこの条件設定のための指令信号は(ベ,
クトル制御する)制御装置から出力されて誘導電動機に直流を供給す
るようにすることができるのであって,甲3の第6図(FIG6)の
出力端26及び27の信号i'及びi'は,たとえ正確に磁束φφ12
の方向(γ軸)とd軸が一致して正確な電流検出値であるとしても,
それはあくまでも電流値(大きさ)であって,周波数指令(直流電流
出力指令)ではない。つまり,電流検出値(大きさの信号)であるi
。'及びi'をもって回転停止の指令信号とすることはできないφφ12
このときの甲3の第6図の出力端26及び27の信号i'及びφ1
i'が回転停止の指令信号の一部になるかを検討すると,甲3の第φ2
6図の出力端26及び27の信号i'及びi'が磁界オリエンφφ12
テーションのための電流フィードバック信号としてフィードバックさ
れると,指令信号(周波数指令信号ωと周波数フィードバック信号r

),とから発生されるトルク電流指令i及び磁化電流指令iとTM
**
この電流フィードバック信号との差分がなくなるように電圧指令(V
,V)が出力されることになる。TM
甲3の第6図の出力端26及び27の信号i'及びi'は,φφ12
設定されたパラメータ値(r)が順次”真の”回転子パラメータrs



に補正されていくため,この補正に応じて順次”真の”信号iφ
及びiに修正されるが,このことは,当初の設定されたパラメーφ2
タ値(r)に基づく信号i'及びi'が不正確であることをs
’φφ12
意味する。このため,不正確な電流フィードバック信号をフィードバ
,,ックしてしまうと誘導電動機に流れる電流・電圧・周波数・位相は
この不正確な電流フィードバック信号に基づいて制御されてしまい,
甲3発明の動作の前提が崩壊し,その意図した正確な固定子抵抗を測
定演算できなくなってしまう。
さらに,甲3の第6図において,ベクトルe’=0となった場合,
このベクトルe’を入力とするベクトルアナライザ13の出力は不定
となり(両軸ベクトル成分がそれぞれ0であるとき,そのベクトルの
角度は定義できない,変換回路14の出力i',i'も不定と)φφ12
12なる。そして,この不定となった変換回路14の出力i',i'φφ
,。をフィードバック信号として生成されるベクトルuiも不定となる
したがって,不定であるベクトルu,iによって調整される固定子抵
抗は不正確なものとなってしまい,正確な固定子抵抗の測定演算はで
きなくなってしまう。
つまり,甲3発明において,磁界オリエンテーション制御(ベクト
ル制御)をする前に,固定子抵抗を測定する場合,その出力端26及
び27の信号i'及びi'を電流フィードバック信号として制φφ12
御装置に対して出力して指令信号の一部とすることはできない。
b甲3発明のオフラインチューニングにおいて,漏れインダクタンス
を測定演算する際については,平成20年4月28日になされた第1
次判決は何も審理判断していないから,行訴法33条の規定により同
判決が特許庁(審判合議体)を何ら拘束するものではない。
オフラインチューニングにより漏れインダクタンスを測定演算する
ときの甲3の第6図の出力端26及び27の出力は,回転子が拘束装
。,置により物理的に拘束されている結果としての出力にすぎないまた
その出力は電流の大きさに関する出力であって,周波数の情報を含ま
ないものである。甲3発明のオフラインチューニングによる漏れイン
ダクタンスの測定条件は,高速で回転子が回転するような指令信号(
変換器の出力電流の大きさ,周波数及び位相等を制御するための情報
からなる)が発生し,かつ,回転子を物理的に回転しないように拘束
することであるから,甲3の第6図の出力端26及び27の出力によ
って,このような条件を設定することは不可能である。
では,甲3発明のオフラインチューニングによる漏れインダクタン
スの測定の際,甲3の第6図の出力端26及び27の出力をもって,
指令信号の一部になるか検討する。
前記オフラインチューニングによる固定子抵抗の測定演算の場合と
同様に,設定したパラメータ値x’は”真の”パラメータ値xとσσ

は異なり,甲3発明の動作により順次補正されて”真の”パラメータ
値xに近づき,これに伴い甲3の第6図の出力端26及び27の出σ
力も順次”真の”信号i及びiに修正される。しかし,このφφ12
出力端26及び27の出力は当初不正確であるから,この不正確な電
流フィードバック信号が制御装置に入力されると,制御装置はこの不
正確な電流フィードバック信号に基づいて制御をしようとするから,
甲3発明の動作の前提が崩壊し,その意図した正確な漏れインダクタ
ンスを測定演算できなくなってしまう。
つまり,甲3発明において磁界オリエンテーション制御(ベクトル
制御)をする前に漏れインダクタンスを測定する場合,その出力端2
6及び27の信号i'及びi'を電流フィードバック信号としφφ12
て制御装置に対して出力して指令信号の一部とすることはできない。
cそうすると,甲3発明は,審決が認定した「前記非同期機の通常運
転を開始する前に,…前記測定演算手段の出力端に出力される指令信
」()号により前記インバータを制御する上記(3)イの甲3発明の内容
ものではない。
(イ)甲3における短絡試験とは,回転子を物理的に拘束する拘束試験で
あること
誘導電動機に固定子電流として高い周波数の三相交流が供給される
と,回転子は回転状態となるため,短絡試験をするためには,上記のよ
うに,別途用意する拘束装置によって,回転子を物理的に拘束する必要
がある。この場合に,仮に制御装置からインバータへ何らかの指令信号
を発するとしても,誘導電動機が回転する指令信号としての高周波数の
交流指令信号である。拘束装置による拘束をしなければ回転子は回転す
る。
このため,甲3発明について,回転子が拘束されるように指令信号に
より前記インバータを制御するものであるとした審決の認定,具体的に
は「…回転子が拘束されるように決定すべきパラメータ値に対応して,
制御し,…もしくは回転子が拘束されているときで固定子周波数が高い
ときに,その際における前記インバータの前記決定すべきパラメータ値
」(に対応する固定子電圧及び固定子電流を前記測定演算手段に入力し…
20頁32行∼末行)とした認定は,拘束装置による拘束である旨が記
載されておらず,誤りである。
(ウ)認定されるべき甲3発明
上記(ア),(イ)によれば,甲3発明の内容は,次のように認定される
べきである。
「非同期機に給電するインバータと,該インバータを制御して前
記非同期機を磁界オリエンテーション制御するインバータの制御
装置を備えた装置において,
前記非同期機の通常運転を開始する前に固定子抵抗,漏れインダ
クタンスのうち決定すべきパラメータ値に対応してそれぞれ運転
すると共に,前記非同期機のパラメータ値を測定演算する測定演
算手段を備え,
前記非同期機の通常運転を開始する前に,固定子抵抗,漏れイン
ダクタンスのうち決定すべきパラメータ値を検出するために当該
パラメータ値に対応して前記非同期機の固定子周波数が静止した
とき,もしくは回転子が拘束装置により拘束されているときで固
定子周波数が高いときに,その際における前記インバータの前記
決定すべきパラメータ値に対応する固定子電圧及び固定子電流を
前記測定演算手段に入力し,該入力した前記固定子電圧及び固定
子電流に基づいて前記測定演算手段により前記非同期機のパラメ
ータをそれぞれ測定演算する,
非同期機のパラメータ測定方法」。
(エ)認定されるべき本件特許発明と甲3発明との一致点と相違点
以上を踏まえると,本件特許発明と甲3発明との一致点と相違点は,
次のように認定されるべきである。
〈一致点〉
「誘導電動機に可変電圧可変周波数の交流を出力する変換器と,該変
換器の出力量を制御して前記電動機をベクトル制御する制御装置を備
えた誘導電動機制御システムにおいて,
前記電動機をベクトル制御する前に複数の電動機定数である固定子抵
抗及び漏れインダクタンスの測定条件を設定する装置と,前記電動機
の電動機定数を測定演算する電動機定数演算手段を有し,
前記電動機をベクトル制御する前に,前記電動機の前記複数の電動機
定数の一つの定数の測定条件に応じた回転停止となるようにし,
前記電動機に交流あるいは直流を供給し,その際における前記変換器
の前記測定条件下における出力量を前記測定演算手段に入力し,該入
力した前記出力量に基づいて前記演算手段により前記電動機の電動機
定数をそれぞれ測定演算する,
電動機定数測定方法」。
〈相違点1〉
制御装置と電動機定数演算手段との関係について,本件特許発明で
はベクトル制御する「制御装置に,電動機をベクトル制御する前に」
「ベクトル制御の指令信号に代えて」複数の電動機定数の測定条件に
それぞれ制御するために「予め定めた」指令信号を出力して,前記電
動機の電動機定数を測定演算する電動機定数演算手段を「含み」と特
,。定されているのに対し甲3発明ではかかる特定はなされていない点
〈相違点2〉
測定条件の設定に関し,本件特許発明では「電動機定数)演算手(
段から(ベクトル制御する)制御装置に」複数の電動機定数の一つの
定数の測定条件に応じた回転停止となる予め定めた「指令信号を測定
条件毎に出力し,該指令信号に従い制御装置により変換器の出力量を
制御」するのに対し,甲3発明では,固定子抵抗の測定条件の設定に
関しては回転停止となる条件設定は想定されるものの,少なくともこ
の条件設定のための指令信号は(ベクトル制御する)制御装置から変
換器に出力していて「電動機定数)演算手段」から出力されておら(
ず,漏れインダクタンスの測定条件の設定に関しては,回転子を高速
回転させる適宜の指令信号が制御装置から変換器に出力されるととも
に,回転子の回転を物理的に拘束する拘束手段によって回転子の回転
を停止させている点。
〈相違点3〉
本件特許発明では「この演算された電動機定数に基づいて制御装置
の制御演算定数を設定する誘導電動機制御システムの制御演算定数設
定」方法であるのに対し,甲3発明ではかかる特定はなされていない
点。
(オ)甲3発明認定の誤り(一致点と相違点の認定の誤り)が進歩性判断
に影響すること
上記のとおり相違点2を認定すべきことを前提とすると,甲3発明か
ら本件特許発明に至るためには,甲3発明のオフラインチューニングに
おける拘束装置を用いた漏れインダクタンスの測定演算に代えて,ベク
トル制御装置(磁界オリエンテーションシステム)から,回転停止とな
る指令信号を出力して誘導電動機を回転停止するように制御し,その際
における変換器(インバータ)の出力量を演算装置に入力して演算する
ようにしなければならない。
しかし,かかる構成とすることは,当業者の単なる設計事項として自
明であるとすることは到底できず,このような内容を記載したり示唆し
たりする証拠はないから,上記のとおり認定すべき相違点2の存在にも
かかわらず,甲3発明から当業者が容易に想到できたとすることはでき
ない。
したがって,審決が甲3発明の認定を誤り,ひいては本件特許発明と
の一致点及び相違点の認定を誤ったことが,本件特許発明についての進
歩性判断に影響することは明らかであり,審決は取り消されるべきであ
る。
イ取消事由2(相違点1・2に関する判断の誤り)
(ア)審決が認定した相違点1は,ベクトル制御する制御装置に電動機定
数演算手段を含ませるか否かというものであるが,ベクトル制御する制
御装置に電動機定数演算手段を含ませるということは,電動機定数演算
手段からの出力信号(甲3の第6図の出力端子26,27からの出力信
号)が,ベクトル制御する制御装置の指令信号の一部になる,というこ
とと同義である。また,相違点2は,指令信号が演算手段から制御装置
に対して出力されているか否かというものであるから,結局,両者とも
同じ相違点を別の観点からいっていることになる。
(イ)オフラインチューニング(回転停止)による固定子抵抗又は漏れイ
ンダクタンスの測定演算時の,甲3の第6図の出力端子26,27から
の出力信号は,電流フィードバック信号として制御装置にフィードバッ
クされる。磁界オリエンテーションのシステムに電流フィードバック信
号がフィードバックされると,指令信号(周波数指令信号ωと周波数r

フィードバック信号とから発生されるトルク電流指令i及び磁化電流T

指令i)と,この電流フィードバック信号との差分がなくなるM

ように電圧指令(V,V)が出力される。TM
不正確な電流フィードバック信号をフィードバックしてしまうと,誘
導電動機に流れる電流・電圧・周波数・位相は,この不正確な電流フィ
ードバック信号に基づいて制御されてしまい,甲3発明の動作の前提が
崩壊し,その意図した正確な固定子抵抗・漏れインダクタンスを測定演
算できなくなってしまう。
当業者は,オフラインチューニングにおいて固定子抵抗・漏れインダ
クタンスの測定演算の際には,甲3の第6図の出力端26及び27の信
号i'及びi'を指令信号の一部とすることは避けざるを得ないφφ12
のであり,適用の阻害要因がある。
(ウ)審決は「…実運転前とは電動機をベクトル制御する前であり,か,
つ,その指令信号はベクトル制御の指令信号に代えて複数の電動機定数
の測定条件にそれぞれ制御するために予め定めた指令信号となることは
『2(2』で述べたとおり自明の事項にすぎない(24頁13行.)。」
∼16行)としたが,甲3発明においてこれを自明とする論拠はない。
また第1次判決では,甲3の第6図に記載された端子26,27から
のi及びiという信号が,ベクトル制御においてはインバータの''φ1φ2
指令信号の一部となることが認定されているところ,ベクトル制御にお
いてはインバータの指令信号の一部となるとしても,ベクトル制御中の
第6図の端子26,27からのi及びiという信号は,誘導電動''φ1φ2
機の磁化電流iおよびトルク電流iに相当するから,この信号自体をMT
インバータの指令信号そのものにすることはできない。
(エ)以上のとおり審決が認定した相違点1及び相違点2は,甲3発明に
おいて,甲3の第6図の出力端26,27の出力信号(演算装置からの
出力信号)を,固定子抵抗および漏れインダクタンスの測定条件である
回転停止の指令信号とするため,制御装置にフィードバックするように
構成することができるか否かに関するものであるところ,甲3発明にお
いてこのようにフィードバックする構成とすると,オフラインチューニ
ングにおいて固定子抵抗,漏れインダクタンスの測定演算ができなくな
る不都合があり,このような構成とすることには技術的な阻害要因があ
る。
審決は,このような阻害要因を考慮せず,甲3のオンラインチューニ
ング時における磁界オリエンテーション制御においてフィードバック信
号とすることができる旨の記載に基づき,当業者の設計事項であるとし
て容易想到であるとした判断は違法であり,審決の結論に影響を及ぼす
ものである。
ウ被告の主張に対する反論
被告は,審決が被告の主張に係る無効理由1(要旨変更補正に基づく無
効理由)を否定したのは誤りであり,この点は第1次判決の拘束力に触れ
るものではなく,無効理由1は理由があるから,結局原告の請求は棄却さ
れるべきものである旨主張する。
しかし,審決は無効理由2である甲3発明との対比により本件特許発明
は進歩性欠如であると判断したものであるから,無効理由1の適否は,無
効理由2の判断の違法にも,また,無効理由2に基づく「無効」という結
論についても何らの影響がないことは明らかである。
すなわち被告は,平成5年8月10日付け手続補正(甲2の2)により
出力電圧を直接的に制御して測定する態様を含むことになり,それが要旨
変更に当たると主張したものであるところ,先の第1次判決は,被告が要
旨変更の理由である「出力電圧を直接的に制御して測定する態様を含むこ
とになる」との認識が誤りである,つまり,被告主張の理由によっては要
旨変更にならないことを明確に判断しているものであるから,要旨変更の
有無について第1次判決が判断していないとすることはできない。
被告の主張は,第1次判決が採用することができないとした「補正後の
『変換器の出力量』を制御装置が直接に制御する対象とすることを前提と
する」主張にほかならず,失当であるとともに,内容的にも誤りである。
2請求原因に対する認否
請求の原因()ないし()の各事実はいずれも認めるが,()は争う。134
3被告の反論・主張
()本件特許発明には独立特許要件がないこと。1
ア本件訂正において新たに追加された構成要件は,前記第3,1()イの2
とおり,誘導電動機制御システムにおいて「前記制御装置に,…ベクト,
ル制御の指令信号に代えて複数の電動機定数の測定条件にそれぞれ制御す
るために予め定めた指令信号を出力し…回転停止となる前記予め定めた指
令信号を前記測定条件毎に出力し,…電動機定数をそれぞれ測定演算し…
を特徴とする…制御演算定数設定方法」ということである。しかし,上記
の構成において「複数の」及び「それぞれ」を除く記載によって規定さ,
れる方法は,第1次判決において甲3の記載に基づき容易に発明できたも
のであると認定された方法に他ならない(第1次判決〔乙1〕67頁下6
行,80頁5行∼81頁2行。)
すなわち,本件訂正後の本件特許発明は,平成20年4月28日になさ
れた第1次判決において甲3に基づき容易想到であると認定した訂正発明
に対し,測定する電動機定数が「複数」であるという要件を追加したにす
ぎない。すなわち,本件特許発明は,上記訂正発明に対して,演算測定さ
れる電動機定数が複数であると規定しただけであり,測定される電動機定
数は具体的に特定されておらず,回転停止且つ測定可能な指令信号の特徴
も何ら特定されていない。つまり本件特許発明は,上記訂正発明において
演算測定される「電動機定数」に関し,単に「複数」という用語を付加し
て「複数の電動機定数」としたにすぎない。
しかし,甲3には,1次抵抗の測定の他に漏れインダクタンスの測定も
記載されており,かつ,漏れインダクタンスの測定が回転停止条件のもと
で行われることも記載されている。さらに,ベクトル制御インバータ装置
においては複数の電動機定数を制御定数として設定する必要のあることは
当業者には技術常識であり(甲2の1,当初明細書〔公開特許公報〕1頁
左欄末行∼右欄8行,そのためには複数の電動機定数を測定する必要の)
あることも自明である(甲3,15頁右下欄4行∼16頁右下欄5行,甲
5)から,これらを考慮すると,これだけの限定事項の付加で,発明の容
易推考性が否定されることになるとは考えられない。すなわち,本件訂正
において追加された要件は,当業者がその技術常識から容易に想到できる
当たり前の事項にすぎない。
以上の通り,本件訂正における追加訂正事項は,甲3に基づき当業者が
容易に想到し得た事項である。
イこれを詳細に説明すると,まず「1次抵抗r」の測定条件に,それぞ1
れ制御するために予め定めた…回転停止となる前記予め定めた指令信号を
前記測定条件毎に出力することに関し,この要件が当業者にとって容易に
,(想到できた事項であることは第1次判決が認定・判断したとおりである
乙1,80頁5行∼16行。すなわち,甲3には,固定子抵抗rの測定)S
,,条件として固定子周波数が静止している条件を予め設定することつまり
予め定めた「固定子周波数が静止(本件特許発明におけるω=0)とい」1
う「回転停止」となる条件設定を行うことが記載されている(甲3,16
頁右上欄16行∼左下欄5行)とともに,ω=0の条件に近接する予め1
「,’定めた下部周波数領域において固定子抵抗を予め設定するためにはe
=0となるまで,パラメータ値r’が変わらねばならない」こともj1S。
記載されている(甲3,15頁右下欄11行∼19行)から「回転停止,
となる予め定めた指令信号を出力」する手段が開示されている。
また,甲3には,1次抵抗の測定の他に漏れインダクタンスの測定に関
する記載もある。そして,漏れインダクタンスの測定を停止条件のもとで
行うことも記載されている。この測定条件にそれぞれ制御するために予め
定めた…回転停止となる前記予め定めた指令信号を前記測定条件毎に出力
することは,甲3に記載された範囲であり,仮にそうでないとしても,当
業者が容易に想到し得る事項である。以下その理由を説明する。
甲3の16頁左上欄には「漏れインダクタンス」の演算測定を「非同,,
期機の通常運転を開始する前に短絡試験により検出する」ことが記載され
ており(8,9行,固定子電流が予め定めた「高い周波数(特に定格周)
波数の50%以上」で運転している間,回転子は拘束されると記載され)
ている(10行∼12行。)
ここで,甲3記載の漏れインダクタンスの測定が回転停止の状態で行わ
れていることに疑問の余地はない。そして,甲3では,この回転停止状態
に関し「回転子は,固定子電流が高い周波数(特に定格周波数の50%,
以上)で運転している間拘束される」と記載されている。この記載にお。
いて「高い周波数(特に定格周波数の50%以上」は,回転停止の条件,)
を作り出す指令信号の一種と理解することができ「拘束」は,少なくと,
も固定子電流の周波数に追随した回転ができない条件になっていることを
示唆するものであると理解できる。甲3に記載されているように「磁化,
電流成分i’φが殆ど零である間(16頁左上欄12行∼13行)とい」
う条件のもとでは,磁束も殆ど零であり誘導電動機のトルクが殆ど零とな
ることは当業者には自明であるため,この指令信号のみによって回転停止
が実現されると解釈できる。また,仮に,上記の記載において「拘束」,
が外部からの機械的な拘束(拘束試験)を意味するものであるとしても,
1次抵抗の測定に関して回転停止となる指令信号を出力する記載を参考
に,漏れインダクタンスの演算測定においても,その測定に応じた回転停
止となる指令信号を出力することは,当業者にとって容易に想到できる技
術的事項に過ぎない。
また,甲3に記載された漏れインダクタンスの測定が拘束試験によるも
のであると解釈されるとしても,それを回転停止となる信号として与える
ように構成することは,当業者に容易であった。それは,具体的には,印
加電圧を低く(固定子電流を小さく)すれば良いだけのことであり,拘束
試験においては等価回路で二次側が短絡されたものとなるため,電流を定
格値以下に制限するために低い電圧を印加することが技術常識であった。
ここで,回転停止となるようにさせるためには,印加電圧をより低くし,
電流を小さくして電動機のトルクをより小さくすれば良いことは,当業者
には技術常識であった(乙6〔坪島茂彦著「図解誘導電動機−基礎から制
」,〕,御まで−昭和58年8月20日第1版第5刷発行東京電機大学出版局
乙7〔中村元和著「基礎電気機器学」昭和53年5月15日初版発行,株
式会社コロナ社,乙8〔高田勇次郎著「電験二種受験講座電気機器Ⅱ」〕
昭和46年5月31日第1版第1刷発行,株式会社オーム社書店。また〕)
甲3に記載された漏れインダクタンスの測定方法(16頁左上欄)におい
ては,測定の際の固定子電流の大きさに制約はなく,電流が小さい場合で
も測定可能である。審決も,特許明細書の記載の解釈に当たり「してみ,
ると,すべりωが0以外で存在しているときには,トルク分電流は零でS
はあり得ず,回転トルクは存在するが,設定値としてω=ωとすること1S
とは,すなわち,回転磁界は回転させていながら,回転子を停止させたま
まとするべく,電流指令値を小さな値にすることであると認めることがで
きる(31頁25行∼29行)として,同様な判断を示しており,回転」
トルクを0とするような指令についての開示が特許明細書になくとも,電
流指令値を小さな値にすることによって回転停止させることができると認
めている。したがって,甲3記載の漏れインダクタンスの測定が機械的拘
束によるものであったとした場合でも,機械的拘束によらないで測定を行
うために(この試みを行うこと自体は,通常用いられる設計選択事項にす
ぎない,予め定めた高い周波数で印加する際の印加電圧を小さくし,回)
転停止となる指令信号にすることによって測定演算を行うことは,当業者
にとってきわめて容易であった。
甲3に記載された前記固定子抵抗及び漏れインダクタンスについての予
めの測定は,どちらもベクトル制御(磁界オリエンテーション制御)によ
る通常運転をする前(甲3,15頁右下欄17行,16頁左上欄8行,1
6頁右上欄16行)に行われている。そして,この2つの電動機定数はど
ちらも,ベクトル制御(磁界オリエンテーション制御)において使用され
るものであり,どちらも,ベクトル制御による通常運転をする前に予めそ
の値を測定するものとして記載されているから,ベクトル制御する前に,
2つの電動機定数のどちらもがその値を測定されることになることは,当
業者において自明である。
したがって「前記測定条件毎に出力し,…電動機定数をそれぞれ測定演
算」することも,当業者において甲3の記載から自明な事項にすぎないの
であり,本件訂正後の本件特許発明も,甲3に基づいて,当業者が容易に
想到し得たものである。
()取消事由1に対し2
ア原告は,審決の甲3発明の認定には誤りがあるとし,その理由の一つと
して,甲3記載の漏れインダクタンスの測定方法(16頁左上欄4行∼右
上欄2行)は,別途備えられた拘束装置が回転子を物理的に拘束するもの
であると主張する。
しかし,甲3には,原告が主張する「別途備えられた拘束装置」につい
,「」。,ての記載はなく物理的に拘束するという記載もない上記のように
甲3記載の回転停止の状態で行われる漏れインダクタンスの測定方法にお
いては,回転停止状態が,指令信号である「高い周波数(特に定格周波数
の50%以上」によって実現され,拘束は,外部からの機械的拘束を意)
味するものではない,と解釈できる。すなわち「磁化電流成分i’φが,
殆ど零である間(甲3,16頁左上欄12∼13行)は磁束も殆ど零で」
あり,誘導電動機のトルクが殆ど零となることは当業者には自明であるた
め,指令信号のみによって実現されると解し得る。また,回転停止を確実
にするためには,印加電圧をより低くし,電流を小さくして電動機のトル
クをより小さくすればいいことは,当業者には技術常識であった(乙6∼
8。このような事情を考えると,漏れインダクタンスの測定方法に関す)
る甲3の記載を「別途備えられた拘束装置」による「物理的」な拘束と,
理解することはできない。
イまた原告は,審決の認定した「前記測定演算手段の出力端に出力される
指令信号により前記インバータを制御し(20頁33行∼34行)との,」
点は誤りであり,これを削除すべきであると主張する。
この点について審決は,演算手段から制御装置に指令信号を出力すると
の認定をしているが,のちに相違点1及び2として「甲3発明ではかかる
」(,)特定はなされていない22頁下3行∼23頁2行23頁4行∼7行
と指摘し,結果として該認定は修正されている。このため,審決の甲3発
明の該認定の当否を争う意味はない。
以上のとおりであるから,審決の甲3発明に関する認定(20頁23行
∼21頁2行)に誤りはない。
ウ原告は,本件特許発明と甲3発明との一致点につき,原告主張(1()4
ア(エ))のように認定されるべきであると主張するが,上記のとおり審決
の認定に誤りはない。
また原告は,本件特許発明と甲3発明との相違点2につき,原告主張の
ように認定されるべきであると主張し,甲3(16頁左上欄4行∼右上欄
2行)の漏れインダクタンスの測定条件の設定に関しては「回転子を高,
速回転させる適宜の指令信号が制御装置から変換器に出力されるととも
に,回転子の回転を物理的に拘束する拘束手段によって回転子の回転を停
止させている」点で相違するとして,これを相違点として追加すべきであ
ると主張する。
しかし,甲3記載の漏れインダクタンスの測定条件の設定に関して,か
かる相違のないことは上記のとおりである。また原告は「指令信号が制御
装置から変換器に出力される」とも述べているが,甲3を精査しても,そ
のように解する根拠は存在しない。
以上のとおりであるから,相違点2に関する審決の認定に誤りはない。
()取消事由2に対し3
ア原告は,仮に,ベクトル制御のオフラインチューニングにおいて,甲3
記載の出力端子26,27からの出力信号を電流フィードバック信号とし
てフィードバックして指令信号の一部とすると仮定すると,甲3記載の演
算装置が正常に動作する保証がなくなってしまうという適用阻害要因があ
る旨主張し,相違点1・2に関する審決の判断は誤りである旨主張する。
しかし,この主張は,原告がベクトル制御する制御装置に電動機定数演
算手段を含ませるということは,電動機定数演算手段からの出力信号(出
力端子26,27からの出力)が,制御装置の指令信号の一部になる,と
いうことと同義であるとすることから明らかなように「ベクトル制御す,
る制御装置に電動機定数演算手段を含ませる」ことには適用阻害要因があ
ると主張しているに等しく,これは第1次判決の認定(乙1,80頁17
行∼末行)を直接否定するものであるから,取消判決(第1次判決)の拘
束力により認められないというべきである。
なお,第1次判決(乙1,80頁10行∼16行)においては,固定子
周波数が静止している条件(すなわちω=0とすること,乙1,79頁1
5行∼6行)が「インバータを駆動する制御装置に対しては回転停止の指
令信号として与えられるものであること」は自明な技術事項として推認で
きると認定し,その指令信号を「測定演算手段から出力させるようにする
ことについても格別の創意工夫を必要とする技術事項とは認められず,当
業者が適宜に採用し得る設定的事項である」と認定したのであるから,出
力端子26,27からの出力信号を「回転停止の指令信号」と解していな
いことは明らかである。
なお,第1次判決における「…上記⑧のとおりベクトル制御に相当する
磁界オリエンテーション制御において,…(乙1,80頁5行∼6行)」
とは,請求項の記載「該変換器の出力量を制御して前記電動機をべクトル
制御する制御装置を備えた誘導電動機制御システムにおいて(構成要件」
1−A−2)との対比として述べたものであり,固定子周波数が静止して
いる条件(すなわちω=0とすること)による測定が磁界オリエンテー1
ション制御によって行われると認定したものではない。
したがって,原告の主張は,当該判決の認定そのものを否定するもので
あって,到底許されるべきではない。
以上のことは,甲3記載の漏れインダクタンスの測定方法においても同
様である。
イ第1次判決においては,漏れインダクタンスの測定に関して「固定子,
電流が高い周波数(特に定格周波数の50%以上」にすることが「回転)
停止となる指令信号」に当たるかについての審理判断はしていない。
しかしながら,漏れインダクタンスの測定においても,固定子抵抗につ
いて上記で述べたことがそのまま妥当する。すなわち,オフラインチュー
ニングにより漏れインダクタンスを測定する際にも,当業者において自明
な技術事項として,固定子電流が高い周波数(特に定格周波数の50%以
上)で運転している条件がインバータを駆動する制御装置に対しては指令
信号として与えられることを推認でき,その指令信号を測定演算手段から
出力させるようにすることは当業者が適宜に採用し得る設計的事項である
ことが認められる。また,測定演算手段をインバータの制御装置に含ませ
る点に関しては,当業者が適宜に採用し得る設計的事項といえるものであ
る。
したがって,高い周波数(特に定格周波数の50%以上)で運転してい
,(る条件においてはインバータを駆動する制御装置に対しては高い周波数
特に定格周波数の50%以上)となる指令信号として与えられるものであ
る点,その指令信号を測定演算手段から出力させるようにすることについ
ても格別の創意工夫を必要とする技術事項とは認められず当業者が適宜に
採用し得る設計的事項であると認められる点,及び測定演算手段をインバ
ータの制御装置に含ませることは当業者が適宜に採用し得る設計的事項と
,(,)いえる点については固定子抵抗の測定の場合乙180頁5行∼末行
とまったく同様であるから,これらの点に関しては実質的には第1次判決
において審理判断されたものと解される。
()被告の主張4
仮に上記()∼()の被告の反論を措くとしても,審決が無効審判請求人で13
ある被告の主張した無効理由1(要旨変更に基づく出願日の繰り下がりによ
る無効理由〔新規性なし)を否定した点は誤りであり,審決が本件特許発〕
,。明を無効とした結論に誤りはないから原告の請求は棄却されるべきである
ア第1次判決では,無効理由1に関する取消事由2については理由がない
とされ,審決(本件審決)も,無効理由1には理由がないとした。
しかし,第1次判決は被告主張の無効理由1に関する取消事由1につい
て,被告主張に現れる「変換器の出力量」との用語は無効理由1に無関係
であると判示したのみであって,無効理由1につき実質的な判断を行なっ
ていない。したがって,審決(本件審決)で示された無効理由1に関する
判断は取消判決(第1次判決)の拘束力を受けたものではないから,その
当否をここで問うことは,第1次判決の拘束力によって制限されるもので
はない。
イ第1次判決は,被告(請求人)が「出願当初の『出力電流』が…『変換
器の出力量へと補正された旨を主張したことに対して補正後の変』」,「『
換器の出力量』は制御装置が直接制御する対象ではなく,交流電動機の駆
,」動に供されるものであるから原告の上記主張は採用することができない
として(乙1,65頁3∼14行,結局のところ「原告の上記主張は,),
『変換器の出力量』につき誤った認識に基づくものであるから採用の限り
でない」として「変換器の出力電圧」を直接的に制御する態様を含む点,
が要旨変更に当たるか否かについては何も判断しないまま「原告主張の取
」(,)。消事由2は理由がないと結論付けたものである乙167頁20行
これを言い換えると,要旨変更であることを否定せずに,この点は「変
換器の出力量」にかかる問題ではないと認定したにすぎないものである。
したがって,第1次判決では要旨変更の有無に関する判断はなされていな
い。
よって,手続補正(平成5年8月10日付けの手続補正〔甲2の2)〕
をしたことで出力電圧を直接的に制御して測定する態様を含むことにな
り,それが要旨変更に当たるとの被告の主張については,第1次判決が何
ら判断していない事項であるため,行訴法33条の拘束力は及ばない。
ウ第1次判決の認定及び判断から分かるように,本件特許の願書に最初に
添付された明細書又は図面(甲2の1〔公開公報,以下「当初明細書」〕,
という場合がある)においては制御装置が直接に制御する対象は「出力。
電流」であったところ,同判決は,平成5年8月10日付け手続補正(甲
2の2)後は制御装置が直接に制御する対象は「出力量」ではなく「電動
」,(機定数の測定条件に応じた指令信号にかかる物理量であるとして被告
請求人)とは異なるように用語の認定を行なった上で,被告の主張を退け
たものである。要するに,第1次判決では,要旨変更に関する実質的な判
断を避けている。
しかしながら,直接に制御する対象を「電動機定数の測定条件に応じた
指令信号にかかる物理量」であると解しても,文言上「指令信号」には電
圧指令信号も含まれるから,電圧指令信号にかかる物理量すなわち出力電
圧を直接的に制御する態様も含まれるように拡張したことに変わりはな
い。
そして,被告(請求人)の「出願当初の『出力電流』が,…変換器の出
『』」(力電圧のみ…の3つの態様を包含する変換器の出力量へと補正された
乙1,65頁3∼5行)という従前の主張は「制御装置が直接に制御す,
る対象」を「変換器の出力量」としてとらえ,それが出願当初に開示のな
い「変換器の出力電圧」を直接的に制御する態様を含むものになったとい
うものであって,まさに同じことを指摘していたものである。
したがって,被告(請求人)は,本件訴訟において,第1次判決で示さ
れた用語の認定に合わせて要旨変更の主張の表現を変えることとし「電,
動機定数の測定条件に応じた指令信号にかかる物理量」が,当初明細書に
開示された電流指令信号にかかる「変換器の出力電流」に限られず,開示
のない電圧指令信号にかかる「変換器の出力電圧」を含むように拡張され
たことをもって,平成5年8月10日付け手続補正によって要旨変更が行
われたことを引き続き主張する。具体的には,出願当初の「変換器の出力
電流」が「変換器の出力量」へと補正された点を要旨変更とする従前の主
張に代えて「測定条件に応じた指令信号を出力し,該指令信号に従い前,
記制御装置により…制御し」へと補正された点において,文言上「指令信
号」には電圧指令信号が含まれ,出願当初に開示のない電圧指令信号にか
かる「変換器の出力電圧」という物理量を直接的に制御する態様を含むも
のになったことを理由として,発明の要旨が変更されたことを主張する。
これは「出力量」に関する主張を,第1次判決で「制御装置が直接に制,
御する対象」に関して行われた認定に従い,実質的主張を何ら変更するこ
となく,表現のみを変えるものである。
なお「指令信号」については本件訂正において「複数の電動機定数の,,
測定条件にそれぞれ制御するために予め定めた指令信号」に変更されてい
る。すなわち,出力電圧を直接的に制御し且つ2以上の電動機定数を測定
する態様を含むものへと変更されており,さらには,出力電圧を直接的に
,,制御し且つ直流を供給して2以上の電動機定数を測定する態様あるいは
出力電圧を直接的に制御し且つ交流を供給して2以上の電動機定数を測定
する態様を含むものに変更されたのであるから,この点においても,本件
とは異なる請求項の記載を前提とした第1次判決の影響を受けるものでは
ない。
なお,当該訂正によって,当初の発明の要旨が変更されたことは一層明
らかになった。すなわち「複数の電動機定数」は文言的に1次抵抗以外,
の電動機定数を必ず含むものであるところ,1次抵抗以外の電動機定数に
ついて「出力電圧」を直接的に制御して電動機定数を測定する態様は,当
初明細書に記載も示唆もされていないからである。
エそうすると,本件特許発明は,平成5年8月10日付け手続補正(甲2
の2)によりなされた補正において,当初明細書には開示のない「出力電
圧」を直接的に制御して電動機定数を測定する態様を含むものとなったの
で,これは,当初明細書の要旨を変更するものであり,特に1次抵抗以外
も含まれる「電動機定数」を測定する態様のもとで拡大補正をしており,
その要旨変更は明らかであるから(乙2,平成5年法律第26号改正附)
則第2条第2項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特
許法40条の規定により,出願日が当該手続補正書を提出した時である平
,,()成5年8月10日とみなされその結果本件特許の公開公報甲2の1
に記載された発明と同一であるといえるから,特許法29条1項3号の規
定により,特許を受けることができないものであり,特許法123条1項
2号に該当し,無効とされるべきである。
オ被告は,本件審決の手続において,出願当初の「変換器の出力電流」が
「変換器の出力量」へと補正された点を要旨変更とする従前の主張に代え
て「測定条件に応じた指令信号を出力し,該指令信号に従い前記制御装,
置により…制御し」へと補正された点において,文言上「指令信号」には
電圧指令信号も含まれるので,該電圧指令信号に従い,出願当初に開示の
ない「変換器の出力電圧」という物理量を直接的に制御して測定する態様
を含むものになったことを理由として,発明の要旨が変更されたことを主
張した(乙3。)
被告の上記主張に対し,本件審決は「…当初明細書等には,誘導電動,
機のベクトル制御に用いられる一般式を変形した,定常時に成立する演算
式…を用い,式(5)と式(6)から,変換器の出力から得ることのでき
ない2次電流を消去し,ω=0且つω=0,あるいはω=ωである回1s1s
転停止条件を設定することにより,式(8)等の,v,i,すなわち11
dd
測定演算可能な値のみで電動機定数を演算できる式を求めることが記載さ
れていたと解される。ここで,v,及びiは,変換器の出力量である11
dd
ので,当初明細書等には,少なくとも,回転停止状態における変換器の出
力量(電流,電圧,周波数,位相)から電動機定数を測定演算しようとす
る技術思想が記載されていたことが明らかである…(14頁17行∼2」
6行)とし「…『変換器の出力量』と補正することが,要旨変更である,
とはいえない」と認定した(14頁29行∼30行。。)
審決が,このように判断したのは,行き過ぎた上位概念化を行い,発明
の実施に必須となる要件のうちその一部のみを取り上げたものでありなが
,。らそれを技術思想であると認定する過ちを犯したことによるものである
審決は,その結果,回転停止でありさえすれば何を制御するかは要件では
ないと判断して,当初特許明細書等に開示された技術思想の範囲を不当に
拡大解釈し,要旨変更の判断を誤ったものである。
本件特許発明は電動機定数の測定方法に関するものであるが,当初明細
書等に記載された電動機定数の測定方法は,1次抵抗以外の電動機定数に
ついてはいずれも「ω=0且つω=0,あるいはω=ωである回転停1s1s
止条件を設定すること」だけでは足りず,出力電流を所定の値(あるいは
)。,所定の形状に制御することが必須の条件設定になっているしたがって
「回転停止状態における変換器の出力量(電流,電圧,周波数,位相)か
ら電動機定数を測定演算しようとする技術思想が記載されていた」とする
認定は,行き過ぎた上位概念化であり,当初明細書等に開示された本件技
術思想の認定を誤っている。
そうすると,審決に無効理由1についての第1次判決の拘束力は及ばな
いところ,審決の無効理由1についての判断は誤りであり,本件特許発明
には要旨変更補正に基づく上記無効理由があり,本件特許発明は無効とさ
れるべきであるとした審決は結論として維持されるべきであるから,原告
の請求は棄却されるべきである。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁等における手続の経緯,(2)(発明の内容,(3)(審))
決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
上記によれば,平成17年12月20日付けで被告からなされた本件特許の
特許無効審判請求に関し,原告からなされた第1次訂正請求(平成18年12
月18日付け)を前提として「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たな
い」とした第2次審決(平成19年6月12日付け)を取り消す旨の第1次。
判決(平成20年4月28日付け)が確定し,その後再び審理された特許庁の
審判手続において更に原告が平成20年6月18日付けで第2次訂正請求(本
件訂正)をしたところ,平成21年2月6日付けでなされた本件審決において
「訂正を認める。特許第2580101号の特許請求の範囲に記載された発明
についての特許を無効とする」等の判断が示されたことが認められる。。
ところで,行訴法33条1項は「処分又は裁決を取り消す判決は,その事件
について,処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束する」と定め
ているので,審決取消しを内容として平成20年4月28日になされた第1次
判決の内容は,その判決主文が導き出されるに必要な事実認定及び法律判断に
つき,更に審理・審決をすることになる特許庁を拘束することになる(最高裁
平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁参照。もっと)
も,行訴法33条1項にいう拘束力の生ずる第1次判決は,第1次訂正後の本
件特許の有効性についての判示であって,その後原告はいわば第2次訂正とし
ての本件訂正を行っているから,再度の審理・審決をする特許庁としては,本
件訂正を前提として本件特許の有効性を判断する場合,第1次判決と事実関係
が同一である部分については上記拘束力が生じ,一方,事実関係が異なる部分
については拘束力が生じない,と解するのが相当である。
そこで,以上の見解に立って,原告主張の取消事由について検討する。
2取消事由1(甲3発明の認定の誤り)について
(1)原告は,①甲3の第6図の出力端の出力は指令信号に何ら影響を与えな
いから,甲3発明は出力端に出力される指令信号によりインバータを制御せ
ず,審決が,甲3発明の内容(前記第3,1(3)イ)として「…非同期機の,
通常運転を開始する前に…出力端に出力される指令信号により前記インバー
タを制御(20頁30行∼34行)するとしたのは誤りである,②甲3発」
明では拘束装置により拘束しなければ回転子は回転するから,審決が回転子
が拘束されるように指令信号によりインバータを制御するとしたのは誤りで
あり「…回転子が拘束されるように決定すべきパラメータ値に対応して制,
,,御し…もしくは回転子が拘束されているときで固定子周波数が高いときに
その際における前記インバータの前記決定すべきパラメータ値に対応する固
定子電圧及び固定子電流を前記測定演算手段に入力し…(20頁32行∼」
末行)とした審決の認定には,拘束装置による拘束である旨が記載されてい
,。ないから誤りであるとして審決の甲3発明の内容の認定の誤りを主張する
ア(ア)甲3には,磁界オリエンテーション制御運転に関し,以下の記載が
ある。
・「第6図は3つすべてのパラメータ値を検出するための完全な装
置を概略的に示している。本装置は,起電力形成器1,演算装置
2,演算モデル回路3および調節器回路4から成っている。三相
非同期機5の入力端子においては,固定子電圧および固定子電流
が取出されるが,それらはそれぞれの固定子巻線の方向に向けら
れたベクトル値として相当する座標変換器6,7においてベクト
ルuまたはiに合成される。…αα
非同期機の磁界オリエンテーション制御に対しては同様の装置
が非同期機の磁界の方向を検出するための磁束検出器として必要
。」(。()である11頁左上欄11行∼左下欄2行第1次判決乙1
の第4,4(2)における摘記⑦)
・「磁界オリエンテーション制御の本質は,磁束とモーメントとが
固定子電流の磁界に平行な成分と,磁界に直角な成分とに対する
関係しない目標値により制御されることにある。従って固定子電
流の相当する実際値は,パラメータ値x'およびr'が回転機パσS
ラメータの真の値に等しい調整された状態においては,出力端2
6および27において,演算装置2から導き出されて,磁束ベク
トルの方向に関する必要な情報を得るようにして得られる。…こ
れにより制御のための固有の起電力検出器は節約される(12。」
頁左上欄11行∼右上欄4行。第1次判決(乙1)の第4,4(2)
における摘記⑧)
上記記載によれば,甲3においては,磁界オリエンテーション制御(
ベクトル制御)運転時において,甲3の第6図の出力端26,27から
出力される信号が,インバータのベクトル制御に当たって,磁束ベクト
ルの方向に関する情報として利用可能であることを示唆しているに過ぎ
ない。
,,,(イ)また甲3には非同期機の通常運転を開始する前に行う短絡試験
()及び固定子周波数が静止しているときのパラメータ値r固定子抵抗s
の調節に関し,以下の記載がある。
σ
・「さらに,第10図による回路において漏れインダクタンスx
の補償は電流に直角なベクトルe'およびe"の成分の補償により
使用されると有利である。このことは,パラメータ値xをrにσS
対する値に関係なく非同期機の通常運転を開始する前に短絡試験
により検出することを可能にする。
このためには回転子は,固定子電流が高い周波数(特に定格周
波数の50%以上)で運転している間拘束される。これにより,
磁化電流成分i'が殆んど零である間は負荷角度は殆んど90゚φ,
となる。従つて起電力ベクトルeは実際には,固定子電流ベクト
ルiに平行し,パラメータ値x'は,第10図において出力端2σ
9aから取出されている評価された起電力ベクトルe'の電流に直
角な成分e'が零となるように調節されるだけでよい。パラメj2
ータ値r'は,電流に平行な固定子抵抗を介して成分e'の中S
j1
だけへ入り,従つてxのこの決定には影響しない。σ
物理的にこれと同じ意味で,第6図による装置においても,パ
ラメータ値x'は,出力端29a,29bにおいて取出された起σ
電力形成器1により固定子基準系において検出された起電力ベク
トルe'の2つの成分e',e'が両方最小となるまで変えらα1α2
れる。何故ならばx'の調整が正確でないときに生じるe'の無α
効成分は常に,有効成分だけを持つ起電力ベクトルに比してベク
トルe'の増幅を意味するからである。同様に,短絡試験において
は磁化電流成分が最小であるという事実も,x'検出に使用するσ
ことができる。何故ならばx'は,出力端27においてiのσ
φ1
最小値が生じるまで,変えられるからである(16頁左上欄4。」
行∼右上欄15行。第1次判決(乙1)の第4,4(2)における摘
記⑪)
・「一般の場合には,固定子抵抗rの予めの設定は,測定器によS
り回転機端子におけるオーム抵抗が測定され,基本設定として起
電力形成器と,対応する調節器(例えば,第6図における20,
または第10図における50)とに付与されることにより行われ
る。しかしながら,固定子周波数が静止しているときにも,固定
子電流を記憶させ,e'=0となるようにパラメータrを調節しS
てもよい。同様に低い固定子周波数においてxとxとに対するσh
任意の評価値から装置の固定子抵抗を検出させ,調節器に記憶さ
せることができ,この場合にはxおよびxの誤設定は殆んど影σh
響がない。
σ
上述の短絡試験によつて漏れインダクタンスパラメータ値x
に対する出発値が検出されなければ,このパラメータの検出に対
する出発値として評価された値を記憶し,パラメータ値rおよS
びxに対する予めの調整が行われている限り,通常運転の回転h
における真のパラメータを装置により検出する。xの予めの調h
整は高い回転数および無負荷運転において行うと有利である。
場合によつては予めの調整を何回も繰返した後に,非同期機の
通常運転においてそれぞれ第5図に与えられた動作領域において
個々のパラメータが検出され,最後に検出された値が記憶される
と,記憶装置にはそれぞれ1組のパラメータ値が利用され,これ
により非同期機のパラメータは良い精度を以て与えられる(1。」
6頁右上欄16行∼右下欄5行第1次判決乙1の第44(2)。(),
における摘記⑫)
上記摘記のとおり,甲3には,非同期機の通常運転を開始する前に行
う短絡試験の際,又は,固定子周波数が静止しているときのパラメータ
値rの調節をする際に,出力端26及び27から出力される信号をイs
ンバータを制御する指令信号とすることは記載されていない。
(ウ)一方,第1次判決(乙1)の判示内容をみると,第1次判決は,甲
3発明の内容につき,以下のとおり判示している。
・「…上記出力端26及び27の信号i'及びi'が,上記磁界φ1φ2
オリエンテーション制御のために,インバータの制御装置に対して
指令信号の一部となるものであることは,当業者であれば容易に認
識し得る技術事項であると認められる(78頁17行∼20行)。」
・「…甲3には,測定演算手段(前記⑤の(a)∼(d)から構成)から取
り出される出力端26及び27の信号i'及びi'がインバーφ1φ2
タの制御装置に対して指令信号の一部となるものであるから,測定
演算手段とインバータの制御装置との関係は示唆されているとみる
のが相当である。…(80頁17行∼21行)」
上記記載によれば,第1次判決は,磁界オリエンテーション制御,す
なわち,ベクトル制御運転時において,出力端26及び27から出力さ
れる信号がインバータの制御装置にフィードバックされ,インバータを
制御する指令信号の一部となることを指摘しているに過ぎず,審決が認
定した「前記非同期機の通常運転を開始する前に,…前記測定演算手段
の出力端に出力される指令信号により前記インバータを制御」すること
を認定するものではない。
(エ)そうすると,審決の甲3発明の認定には,上記のとおり「…非同期
機の通常運転を開始する前に…出力端に出力される指令信号により前記
インバータを制御」とする部分があるが,そのうち「前記測定演算手段
の出力端」につき,これが第6図に記載された「出力端26及び27」
であるとの特定はされていない。また,上記(イ)の甲3摘記⑪(第1次
判決の第4,4(2))には「出力端29a,29b」と記載されている
とおり,甲3発明においては,信号を伝送する信号線の端部は,いずれ
も「出力端」と認識されている。そうすると,甲3発明の「前記測定演
算手段の出力端」を原告の主張する「出力端26及び27」であると限
定的に解することはできない。
加えて,甲3発明のパラメータ値の測定方法では,測定演算装置の制
御(パラメータ値の調整等)は,インバータ制御装置に与えられる予め
定めた指令信号による運転条件に対応して行われるものであるから,指
令信号の制御と測定演算手段の制御は一体不可分である。そして,第1
次判決の判示するところである「…回転停止の条件としての固定子周,
波数が静止している条件がインバータを駆動する制御装置に対しては回
転停止となる指令信号として与えられるものであることは,当業者にお
いては自明な技術事項にすぎない。また,その指令信号を測定演算手段
から出力させるようにすることについても格別の創意工夫を必要とする
技術事項とは認められず,当業者が適宜に採用し得る設定的事項である
と認められる(審決〔23頁22行∼28行〕の「判示事項A)と。」」
の内容によれば,審決は,具体的回路構成が明示されていなくとも,イ
ンバータを制御するための指令信号を,測定演算手段の図示されていな
い出力端から出力させることが,甲3発明に実質的に開示されていると
したものと解される。
以上によれば,審決が,甲3発明の内容として「前記非同期機の通常
運転を開始する前に,…前記測定演算手段の出力端に出力される指令信
号により前記インバータを制御」するとしたことを誤りということはで
きない。
(オ)以上の検討によれば,審決が,甲3発明として「前記非同期機の通
常運転を開始する前に,…前記測定演算手段の出力端に出力される指令
信号により前記インバータを制御」するとの構成を認定したことに誤り
はない。
イ次に,原告が,甲3発明では拘束装置により拘束しなければ回転子は回
転するから,審決が回転子が拘束されるように指令信号によりインバータ
を制御するとしたのは誤りであるとする点(上記原告の主張②)につき検
討する。
(ア)甲3には,上記ア(イ)で摘記したとおり「…漏れインダクタンス,
xの補償は電流に直角なベクトルe'およびe"の成分の補償により使σ
用されると有利である。このことは,パラメータ値xをrに対するσS
値に関係なく非同期機の通常運転を開始する前に短絡試験により検出す
。,(ることを可能にするこのためには回転子は固定子電流が高い周波数
特に定格周波数の50%以上)で運転している間拘束される。これによ
り,磁化電流成分i'が殆んど零である間は,負荷角度は殆んど90゚φ
となる。…(16頁左上欄4行∼14行。下線は判決で付記)と記載」
されている。
この記載によれば,上記「拘束」は,少なくとも固定子電流の周波数
に追随した回転ができない条件のもとで,回転子が回転停止状態になっ
ていることを意味するものと理解できる。また,甲3には,原告が回転
子を拘束するために必要であるとする,別途備えられるべき拘束装置に
関する明示的な記載は一切なく,これを用いた場合の電動機への印加電
圧やトルク電流成分の大きさについての言及もない。
そうすると,甲3の上記「磁化電流成分i'が殆んど零である間(φ」
16頁左上欄12行∼13行)は磁束もほとんど零であり,起電力ベク
トルeと固定子電流ベクトルiはほぼ平行となっており(16頁左上欄
14行∼15行,回転停止であるから,このとき誘導電動機には,す)
べりs=1であるときの回転力が生じているものと認められる(なお,
これは下記(イ)摘記の乙7記載の「起動回転力T」に相当する。st。)
そして,回転停止状態が維持されることは,このときの誘導電動機が発
生する回転力が,回転に対する抗力(誘導電動機に付随する回転を妨げ
ようとする力)よりも小さい状態となっていることが明らかである。
(イ)また,文献(乙6∼8)には以下の記載がある。
・乙6(坪島茂彦著「図解誘導電動機−基礎から制御まで−」昭和5
8年8月20日第1版第5刷発行,東京電機大学出版局)
「7.3電圧とトルクおよび電流との関係
式(6.18)をみると,トルクは電圧Vの2乗に比例することがわ1
かる。…電圧が低下すると始動しなくなったり,運転が続けられず停止
してしまうことがおこる。…(124頁)」
・乙7(中村元和著「基礎電気機器学」昭和53年5月15日初版発
行,株式会社コロナ社)
「a)起動回転力T〔Nm〕電動機が起動時に,どのくらいの(st
回転力を出すかを計算する。…
同一電動機については,T∝V,電圧の2乗に比例して起動時のst1

回転力が低下することがわかる。…Tはs=1の回転力である(7st。」
2頁)
・乙8(高田勇次郎著「電験二種受験講座電気機器Ⅱ」昭和46年
5月31日第1版第1刷発行,株式会社オーム社書店)
「例題10.多層誘導電動機の始動トルクは,供給電圧および周波数に
よりいかに変化するかを述べ,その理由を説明せよ.
〔解〕始動トルクは供給電圧の2乗に比例し,周波数に反比例して
変化する.…(144頁)」
,()(ウ)上記(イ)の文献の記載内容によれば誘導電動機のトルク回転力
が,電圧の2乗に比例することは技術常識といえるから,印加電圧をよ
り低くして誘導電動機が発生するトルクをより小さくすれば,上記乙6
に「電圧が低下すると始動しなくなったり,運転が続けられず停止して
しまうことがおこる(124頁)との記載があるように,格別の拘束。」
装置を用いなくとも,電動機の静止摩擦等の回転に対する抗力が,電動
機の回転力よりも大きくなる状態が生じ,電動機が回転停止,すなわち
始動しない状態となることは,当業者(その発明の属する技術の分野に
おける通常の知識を有する者)には自明であるということができる。
(エ)以上の検討によれば,甲3記載の非同期機の通常運転を開始する前
に行う短絡試験は,拘束装置を用いることなく,印加電圧を低くして,
電動機に付随する回転に対する抗力よりも電動機が発生するトルクが小
さい状態を生じさせ,電動機の静止摩擦等により回転停止状態として試
験を行うものも含むということができる。
(オ)そして,前記ア(イ)で摘記のとおり,甲3には「従つて起電力ベ,
クトルeは実際には,固定子電流ベクトルiに平行し,パラメータ値x
'は,第10図において出力端29aから取出されている評価されたσ
起電力ベクトルe'の電流に直角な成分e'が零となるように調節されj2
るだけでよい。…(16頁左上欄14∼19行。第1次判決〔乙1〕」
の第4,4(2)における摘記⑪)とあるように,甲3の短絡試験は,電
動機の回転停止状態において,演算された起電力ベクトルe'の電流に
直角な成分e'が零となるようにパラメータ値x'を調節することをj2
σ
漏れインダクタンスxの測定原理とするものであって,電動機に供給σ
される高い周波数の固定子電流及び固定子電圧を測定演算手段に入力し
て演算するものであるから,回転子が拘束されるように指令信号により
インバータを制御し,これにより「…電動機に交流…を供給し,その際
における変換器の測定条件下における出力量を前記測定演算手段に入力
し,該入力した前記出力量に基づいて前記演算手段により前記電動機の
電動機定数をそれぞれ測定演算する…(審決22頁26行∼29行,」
本件特許発明と甲3発明との一致点)ものであることも明らかである。
(カ)以上の検討によれば,審決が,甲3発明につき,回転子が拘束され
るように指令信号によりインバータを制御するとし,甲3発明の内容と
して「…回転子が拘束されるように決定すべきパラメータ値に対応して
制御し,…もしくは回転子が拘束されているときで固定子周波数が高い
ときに,その際における前記インバータの前記決定すべきパラメータ値
」(に対応する固定子電圧及び固定子電流を前記測定演算手段に入力し…
)()。20頁32行∼末行とした審決の認定原告の主張②に誤りはない
ウそうすると,審決の甲3発明の認定に誤りはない。
()原告の主張に対する補足的判断2
原告は,審決の甲3発明の認定には原告主張の誤り(原告の主張①,②)
,,があることを前提として本件特許発明と甲3発明との一致点及び相違点は
原告の主張のとおり認定されるべきであると主張する。
審決が認定した相違点1∼3と原告が認定すべきと主張する各相違点(相
違点1∼3)とを比較すると,審決が認定した相違点1・3と,原告が認定
すべきとする相違点1・3とは内容的に同一である。
そして原告は,原告が認定すべきとする「相違点2」の内容として,甲3
発明では「固定子抵抗の測定条件の設定に関しては回転停止となる条件設,
定は想定されるものの,少なくともこの条件設定のための指令信号は(ベク
トル制御する)制御装置から変換器に出力していて『電動機定数)演算手(
段』から出力されておらず,漏れインダクタンスの測定条件の設定に関して
は,回転子を高速回転させる適宜の指令信号が制御装置から変換器に出力さ
れるとともに,回転子の回転を物理的に拘束する拘束手段によって回転子の
回転を停止させている」とし,この点を本件特許発明との相違点(原告主張
の相違点2)とすべきと主張するものである。
上記のうち,甲3発明における漏れインダクタンスの測定条件の設定(上
記後段)に関しては,上記()で検討したとおり,拘束手段によって回転子1
を拘束するとの点は甲3発明の内容となってはいないから,この点を本件特
許発明と甲3発明との相違点とすることはできないというべきである。
また,固定子抵抗の測定条件の設定(上記前段)に関しては,審決も甲3
発明と本件特許発明との相違点(相違点2)として「回転停止となるよう,
に測定条件毎に行う制御に関し,本件特許発明では『電動機定数)演算手(
段から(ベクトル制御する)制御装置に』指令信号を出力し,該指令信号に
従い『前記制御装置により』変換器の出力量を制御しているのに対し,甲3
発明ではかかる特定はなされていない点」として認定され,検討されている
ものである(相違点2に関する審決の判断に誤りがないことは下記3で検討
するとおりである。原告の上記主張は採用することができない。。)
3取消事由2(相違点1・2に関する判断の誤り)について
(1)原告は,審決が認定した相違点1・2は,いずれも甲3の第6図の出力
端26,27からの出力信号がベクトル制御する制御装置の指令信号の一部
になるとの同じ内容を別の観点からいうものであるとして,甲3の第6図の
,,出力端2627の出力信号を制御装置にフィードバックする構成とすると
オフラインチューニングにおいて固定子抵抗,漏れインダクタンスの測定演
算ができなくなる不都合があり,阻害要因があるから,この相違点1・2の
構成は当業者の設計事項であり容易想到であるとした審決の判断は誤りであ
る旨主張するので,以下検討する。
(2)審決の認定した相違点1・2の内容は,上記第3,1(3)イ記載のとおり
であるところ,上記2(1)ア(ウ)で検討したとおり,甲3の第6図の出力端
26,27からの出力信号について,第1次判決は,測定演算手段から取り
出される出力端26及び27の信号i'及びi'がインバータの制御装φ1φ2
置に対して指令信号の一部となることを挙げているにすぎないものである。
そして,甲3発明において,測定演算手段の出力端26及び27の信号が
インバータの制御装置に対して指令信号の一部となるのは,磁界オリエンテ
ーション制御,すなわち,ベクトル制御運転を行っているときを前提とする
ものであるのに対し,相違点2の指令信号が演算手段から制御装置に対して
出力されていることは,ベクトル制御運転前のいわゆるオフラインチューニ
ング,すなわち回転停止状態を前提とするものであるから,相違点1と相違
点2では,まず前提となる場面を異にするものである。
さらに,第1次判決(80頁10行∼16行,乙1)において,固定子周
波数が静止している条件が「インバータを駆動する制御装置に対しては回転
停止の指令信号として与えられるものであること」は自明な技術事項である
とし,その指令信号を「測定演算手段から出力させるようにすることについ
ても格別の創意工夫を必要とする技術事項とは認められず,当業者が適宜に
採用し得る設定的事項である」としたのは,磁界オリエンテーション制御(
ベクトル制御)を行う前の制御であるから,測定演算手段から出力される上
記回転停止の指令信号は,出力端26,27からの出力を指したものではな
い。
このことは,甲3発明における「固定子抵抗rの予めの設定(16頁右s

,),,’上欄16行甲3においては駆動装置を静止周波数において運転しe
=0となるようにパラメータrを調節して測定する方法(16頁左下欄2s
行∼5行「漏れインダクタンスxの補償(漏れインダクタンスの予め),」σ
の測定,16頁左上欄4行∼5行)においては,駆動装置を高い周波数(特
に定格周波数の50%以上)かつ回転停止において運転し,e’が零となj2
’(るように漏れインダクタンスのパラメータ値xを調節して測定する方法σ
16頁左上欄4行∼右上欄2行)が示されているところ,いずれの設定ない
し補償(測定)においても,出力端26及び27の信号i’及びi’(φ1φ2
磁界ベクトルの方向に関する必要な情報)を使用することは一切記載されて
いないことからも明らかである。
よって,相違点2の,指令信号が演算手段から制御装置に対して出力され
,,,ているか否かということと相違点1の出力端2627からの出力信号が
ベクトル制御する制御装置の指令信号の一部になる,ということとは,同義
であると解することは到底できない。
そうすると,相違点1・2が,両者とも同じ相違点を別の観点からいうも
のであるとする原告の主張は,その前提に誤りがあることになる。
(3)相違点1につき
ア原告は,相違点1について,審決が「甲3発明においてベクトル制御,
する制御装置に電動機定数演算装置を含ませること自体は,当業者が適宜
に採用し得る設計的事項といわざるをえない(24頁10行∼12行)。」
として,相違点1について容易想到と判断したのは誤りである旨主張する
ので,以下検討する。
イ第1次判決(乙1)は,甲3発明からの容易想到性の判断に関し,第2
次審決(甲11)が「…甲第3号証に『変換器の出力量を制御して電動,
機をベクトル制御する制御装置を備えた誘導電動機制御システムにおい
て,前記制御装置に前記電動機の電動機定数を測定演算する電動機定数演
算手段を含』む構成を備えた本件特許発明が記載され,あるいは示唆され
ているものと認めることができない(16頁30行∼34行,甲11)。」
としたのに対し「…甲3には,測定演算手段(前記⑤の(a)∼(d)から構,
成)から取り出される出力端26及び27の信号i'及びi'がインφ1φ2
バータの制御装置に対して指令信号の一部となるものであるから,測定演
算手段とインバータの制御装置との関係は示唆されているとみるのが相当
である。また,測定演算手段をインバータの制御装置に含ませる点に関し
ては,インバータの制御装置は,測定演算手段により得られた電動機定数
を使用するものであることから,電動機定数を測定演算手段から受け取れ
る形態であるならば,測定演算手段をインバータの制御装置に含ませるか
否かは格別の問題とならず,当業者が適宜に採用し得る設計的事項といえ
るものである(80頁17行∼末行,乙1)として,第2次審決の甲3。」
発明の認定及び甲3発明からの容易想到性の判断に誤りがあるとして,審
決を取り消したものである。
そして,本件審決(第3次審決)は,第1次判決(乙1)の上記箇所(
80頁17行∼末行)を判示事項Bとし「上記判示事項Bには『測定演,,
算手段をインバータの制御装置に含ませるか否かは格別の問題とならず,
当業者が適宜に採用し得る設計的事項といえるものである』と判示され。
ており,当審の判断は上記判示内容に拘束されるものである…(24頁」
5行∼8行)として「甲3発明においてベクトル制御する制御装置に電,
動機定数演算手段を含ませること自体は,当業者が適宜に採用し得る設計
的事項といわざるをえない(24頁10行∼12行)との判断をしたも。」
のである。
そうすると,原告が争うと主張する上記相違点1に関する事項は,第1
次判決の上記認定判断そのものであるから,第1次判決(取消判決)の拘
束力により,これを本件訴訟において争うことが許されないものである。
ウ原告は,審決が,相違点1についての検討において「…実運転前とは,
電動機をベクトル制御する前であり,かつ,その指令信号はベクトル制御
の指令信号に代えて複数の電動機定数の測定条件にそれぞれ制御するため
に予め定めた指令信号となることは『2(2』で述べたとおり自明の事.)
項にすぎない(24頁13行∼16行)としたが,甲3にはその根拠を。」
欠くとも主張する。
審決の上記「2(2」の該当箇所は「訂正の可否に対する当審の判.),
断」において,本件訂正前の特許明細書(甲1〔特許公報)の8頁左欄〕
16行∼右欄3行に「本発明による電動機定数の測定は,電動機の実運,
転前に,電動機定数演算手段から出力する電動機定数の測定条件に応じた
指令信号を用いることによって,電動機の実運転時に使用する制御システ
ム変換器制御装置を共用して行なうのでとある記載に基づき…(,)」,「
実運転前とは電動機をベクトル制御する前であり,かつ,その指令信号は
ベクトル制御の指令信号に代えて複数の電動機定数の測定条件にそれぞれ
制御するために予め定めた指令信号となることは自明の事項である(。」
7頁2行∼4行)としたものである。
この点は,甲3発明においても同様に,非同期機の通常運転を開始する
前であって,固定子抵抗,漏れインダクタンス等のパラメータ値を検出し
ているときは「電動機をベクトル制御する前」であり,また,そのとき,
各パラメータ値を検出するための条件に適した指令信号に基づいて制御が
行われることは明らかである。審決の認定に誤りはなく,原告の上記主張
は採用することができない。
()相違点2につき4
,,,ア原告は審決が認定した相違点2について甲3の第6図の出力端26
27の出力信号(演算装置からの出力信号)を,固定子抵抗及び漏れイン
ダクタンスの測定条件である回転停止の指令信号とするため,制御装置に
フィードバックするように構成すると,オフラインチューニングにおいて
固定子抵抗,漏れインダクタンスの測定演算ができなくなる不都合がある
から,相違点2に係る構成とすることには技術的な阻害要因があり,審決
はこれを看過し相違点2についての判断を誤った旨主張する。
イ第1次判決(乙1)は,第2次審決(甲11)の「…『ベクトル制御“
する制御装置に含まれて,電動機定数を測定演算する”演算手段から“ベ
クトル制御する”制御装置に一つの定数の測定条件に応じた回転停止と
なる指令信号を出力』する構成について記載も示唆もない」との記載(。
)「」(,),16頁18行∼21行を<ア>として乙179頁16行∼21行
これにつき「そこで検討すると,まず上記<ア>については,上記⑧のと,
おりベクトル制御に相当する磁界オリエンテーション制御において,甲3
では回転停止の条件として,固定子周波数が静止している条件を設定(上
記⑫に示されている)して,非同期機に直流を供給し,その状態下の固定
子電圧及び固定子電流(上記のとおり,訂正発明における変換器の出力量
に相当する)を測定演算手段により測定演算することが示されているとこ
ろ,回転停止の条件としての固定子周波数が静止している条件がインバー
タを駆動する制御装置に対しては回転停止となる指令信号として与えられ
,。,るものであることは当業者においては自明な技術事項にすぎないまた
その指令信号を測定演算手段から出力させるようにすることについても格
別の創意工夫を必要とする技術事項とは認められず,当業者が適宜に採用
し得る設定的事項であると認められる(80頁5行∼16行)として,。」
第2次審決の認定判断を誤りとしたものである。
そして,上記第1次判決の認定判断は,制御装置に対して回転停止とな
(,「」る指令信号なおこの指令信号を本件訂正に係る予め定めた指令信号
としても同様である)を,測定演算手段から出力させるようにすること。
について,当業者が適宜に採用し得る設定的事項であると認定判断したも
のと認められる。
本件審決は,相違点2に関し,第1次判決の上記判示事項を判示事項A
とし,これに拘束されるものとして「…甲3発明において電動機定数演,
算手段からベクトル制御する制御装置に指令信号を出力させること自体
は,当業者が適宜に採用し得る設計的事項であるといわざるをえない(。」
24頁25行∼27行)と判断したものである。
ウ上記によれば,審決の上記判断は,第1次判決の拘束力に従ってしたも
のであり,この点は,相違点2に関する構成につき,当業者が適宜採用し
得る設計的事項であり,阻害要因が存しないとの点にも及ぶものであるか
ら,本件訴訟においてこれを誤りであると主張することは許されない。
エ原告は,第1次判決(乙1)が「…上記⑧のとおりベクトル制御に相当
する磁界オリエンテーション制御において,甲3では回転停止の条件とし
て,固定子周波数が静止している条件を設定(上記⑫に示されている)し
て,非同期機に直流を供給し,その状態下の固定子電圧及び固定子電流(
上記のとおり,訂正発明における変換器の出力量に相当する)を測定演算
手段により測定演算することが示されている…(80頁5行∼10行)」
としたのは,甲3における固定子抵抗rの測定は,ベクトル制御に相当s
する磁界オリエンテーション制御において行われることを認定したもので
あると主張する。
しかし,第1次判決における「ベクトル制御に相当する磁界オリエンテ
ーション制御において」とは,第1次訂正に係る発明(前記第3,1(2)
イのとおり)の「該変換器の出力量を制御して前記電動機をベクトル制御
する制御装置を備えた誘導電動機制御システムにおいて」の構成(この点
),は本件訂正後でも同じとの対比として記載したものと認められるところ
固定子周波数が静止している条件による固定子抵抗の測定が,磁界オリエ
ンテーション制御によって行われると認定したものでないことは明らかで
ある。
,,以上の検討によれば審決の相違点1及び2に関する判断に誤りはなく
原告の主張する取消事由2は理由がない。
4結語
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告主張の取消事
由は全て理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官森義之
裁判官今井弘晃

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛