弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由
第1 請求
 被告が中労委平成14年(不再)第53号事件(初審兵庫県地労委平成12(不)第2号事件)について平成16年
7月7日付けで発した命令のうち、別紙記載の主文Ⅰ項1及び2を取り消す。
第2 事案の概要
 本件は、原告が被告補助参加人ジェーアール西日本労働組合(以下「JR西労」という。)及び同JR西日本労働組
合近畿地方本部(以下「近畿地本」といい、JR西労と併せて「参加人組合」という。)に所属する組合員への脱退慫
慂は不当労働行為に該当するとして発令された救済命令について、原告が、被告に対し、不当労働行為に該当する脱退
慫慂の事実はないとして、その取消しを求めた事案である。
1 前提事実(争いのない事実及び各項に記載した証拠等により容易に認められる事実)
(1) 原告は旅客鉄道事業等を目的とする株式会社である。
 JR西労は、原告の従業員をもって組織された労働組合である西日本旅客鉄道労働組合(以下「西労組」という。)
を脱退した組合員によって組織された労働組合であり、近畿地本は、その下部組織である。
 aは、原告神戸支社加古川鉄道部に勤務する近畿地本姫路支部加古川鉄道部分会所属の組合員で、平成10年12
月、運転士から交番担当(乗務員の勤務操配・勤務指定の補助、指令業務補助、運行表示装置操作の補助、収入金管理
の補助、乗務点呼等の内勤業務を行う。)に担当業務変更となり、平成11年10月当時も交番担当として業務に従事
していた。
 b(以下「b科長」という。)は、加古川鉄道部の総務科長兼助役であり、西労組所属の組合員であった。
(2) aは、平成11年10月20日に開催された原告神戸支社主催の「マイオピニオン」明石地区予選(以下「本
件大会」という。)に参加し、自己研鑽に励み、助役を目指して頑張りたいなどと意見を発表した。
 b科長は、本件大会終了後、aを昼食に誘い、その席上、平成12年4月から実施の昇進・賃金に係る新人事制度(
職務階層を、実務担当層、実務リーダー層、管理監督層に区分し、各層をさらに数個の資格級に区分した上で、昇進
を、上位の職務階層に移る昇職と、同一職務階層内の上位の資格級に移る進級に分けることなどを内容とするもの。以
下「新人事制度」という。)について会話をし、新人事制度下でのaの賃金の試算表を今度渡すことを約束した。当
時、aは、B昇格試験と呼ばれる昇格試験を受験し、その合否発表を控えていた。(甲7、8、乙95、弁論の全趣
旨)
(3) b科長は、aが新人事制度の暫定昇職試験あるいは進級試験に合格したことを前提とする賃金試算表(以下「
本件試算表」という。)を作成し、平成11年10月26日、交付した。その後、aは、昇格試験に不合格となり、平
成12年4月1日付けで、交番担当から加古川鉄道部の運転士に担当業務変更となった。(甲7、8、乙31、95、
弁論の全趣旨)
(4) 参加人組合は、平成12年3月1日、兵庫県地方労働委員会(以下「兵庫県地労委」という。)に対し、b科
長が、aに対し、転勤や担当業務の変更などの不利益を示唆する一方、本件試算表を交付して利益の誘導を行い、ま
た、JR西労青年部によってあっせん販売されているオリジナルネクタイを勤務中に着用しないように求めたなどとし
て、支配介入の禁止等を求める救済命令の申立てをした(兵庫県地労委平成12年(不)第2号)。
 これに対し、兵庫県地労委は、b科長が転勤や担当業務の変更などの不利益を示唆する発言をした等の事実はなく、
オリジナルネクタイの不着用を求めたことや本件試算表の交付は、参加人組合からの脱退を慫慂するものではないとし
て、平成14年10月15日付けで申立てを棄却した。
(5) 参加人組合は、これを不服として、平成14年11月11日、被告に対し、再審査の申立てをしたところ、被
告は、オリジナルネクタイの不着用を求めたことは脱退慫慂に当たらないとしたものの、b科長の平成11年10月2
0日の言動及び本件試算表の交付に関して、以下のとおり事実認定した。「意見発表終了後、b総務科長はa組合員を
昼食に誘った。昼食の席で、b総務科長はa組合員に対し、組合のことをどう思っているのか問いかけ、これに返答し
なかったa組合員に対し、同人を転勤させようと思えばできるとの趣旨の発言を行い、また、同人に替わる交番担当は
どこからでも持ってくることができるとの趣旨の発言を行った後、新人事制度の話をする中で、a組合員の賃金を試算
して今度渡すと述べた。a組合員は、その席では反論することなくb総務科長の発言を聞いていたものの、同総務科長
を一人店に残して帰宅した。
 同月(平成11年10月)26日、加古川鉄道部本所事務所において、勤務を終えたb総務科長は、泊まり勤務中の
a組合員に対して、誰にも見せるなと言って、会社のパソコンで打ち出した新人事制度のもとでの賃金試算表を手渡し
た。」
その上で、被告は、b科長の同月20日の昼食の席における言動及び同月26日に本件試算表を手渡した行為は参加人
組合からの脱退を慫慂するものであるとして、初審命令を変更し、別紙記載の主文Ⅰ項1及び2のとおり、支配介入の
禁止及び同別紙記載の文書の手交を命じる救済命令を平成16年7月7日付けで発令した(以下「本件命令」という。
)。
 原告は、同年9月16日、本件命令を不服として、取消しを求めて本訴を提起した。
2 争点
b科長は、aに対して、参加人組合からの脱退を求める趣旨の発言をしたか。b科長の発言及び本件試算表の交付は、
不当労働行為(支配介入)に該当するか。
(原告の主張)
(1) b科長が、平成11年10月20日(以下、記載がない限り平成11年である。)の昼食の際に、aに対し、
「組合のことをどう思っている」、「君を転勤させようと思えばできる」、「交番担当はどこからでも持ってこれる」
などと発言した事実はない。
 被告は、本件命令において、上記発言があったとする初審手続及び再審査手続におけるaの証言の信用性が高いとし
て、上記発言があったと認定するが、同証言によれば、aは、以前、b科長から組合の話はしないなどと約束されてい
たというのに、組合からの脱退を迫ったb科長に対し、その場で抗議や反論すらしていないというのであるから、aの
証言は不自然であり信用できない。
 b科長は助役にすぎず、aの昇級や昇進に対する決定権限はもとより、いかなる意味でも人事に対する影響力を有し
ていない。人事上の権限が全くないb科長が、転勤させようと思えばできるなどと発言することは考えられない。人事
権のないb科長がこのような発言をしてもaにとって具体的な不利益の示唆となるものではないから、b科長がこのよ
うな無意味な発言をするはずはない。
 また、aは、運転士の資格を有しており、給与面での待遇が劣る交番担当から運転士へ戻りたいと考えていた。交番
担当はどこからでも持ってこれると発言したとしても、それが、aにとって不利益の示唆となることはないから、b科
長がそのような発言をするはずはない。
(2) b科長が本件試算表をaに手渡したのは、本件大会で助役を目指して頑張ると発言していたaが新人事制度に
関心を示したため、交番担当を引き続き行うことを前提としての賃金を、参加人組合にも既に開示されていた新賃金体
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系に基づいて試算して、激励の意味を込めて手渡したものにすぎず、何らaに利益を誘導するものではない。
(被告及び参加人組合の主張)
(1) b科長は、aに対し、「組合のことをどう思っている」、「君を転勤させようと思えばできる」、「交番担当
はどこからでも持ってこれる」などと発言した。被告の事実認定及び判断に誤りはない。
 原告は、aが運転士への担当業務変更を希望していたと主張するが、aは、本件大会での「助役を目指して頑張る」
との発表のとおり、交番担当に意欲を有していた上、運転士に担当業務変更となった場合、転勤の可能性があると考
え、これを懸念していたのであって、転勤をしてまで運転士に戻りたいと考えていたわけではない。また、原告は、b
科長に人事に関する決定権限はないと主張するが、同科長は、鉄道部長を補佐又は代理して、加古川鉄道部における人
事管理・労務管理上の措置を担っており、実質的にはその人事について影響力を有している。
(2) b科長は、aに対し、参加人組合を脱退しなければ、担当業務の変更等の不利益を行うことを示唆しつつ、そ
の一方で昇職等を前提に賃金の試算を行い、「誰にも見せるな」と断った上で本件試算表を交付し、利益誘導を行っ
た。このようなb科長の行為は総務科長としての地位を利用して参加人組合からの脱退を慫慂したものであり、労働組
合法7条3号に規定する支配介入に該当する。
第3 争点に対する判断
1 b科長の10月20日の言動について
(1) aは、初審手続における審問において、b科長から、本件大会終了後、昼食に誘われた際、「君を転勤させよ
うと思えばできる」、「交番はどこからでも持ってこれる」と言われたと供述し(乙51、甲7)、再審査手続におけ
る審問でも、b科長から、「組合のことはどう思ってる」、「君を転勤させようと思えばいつでもできる。交番担当は
どこからでも持ってこれる」などと言われたと供述する(乙95、甲8)。aが平成12年12月20日付けで作成し
た陳述書にも、同旨の記載がある(乙31)。
 これに対して、b科長は、陳述書において、本件大会終了後に食事をした際、「これからも仕事をがんばってほし
い。」と激励し、あとは他の発表者の発表内容についての感想などを話した、aから新人事制度の問いかけがあり、昇
進制度が変わるという話はした、「君を転勤させようと思えばできる」、「交番はどこからでも持ってこれる」などと
言うはずはないなどと述べる(甲1)。
 そこで、aの供述等の信用性について検討する。
(2) 証拠(乙27、28、31、51)及び弁論の全趣旨によれば、①10月27日、aは、同期の組合員らに、
同月20日の本件大会終了後の食事の際に、b科長から脱退を慫慂され、新人事制度での賃金試算表を手渡されたこと
や、直接の上司であるc当直助役からも脱退の慫慂を受けていることなどを話したこと、②この報告を受け、同月28
日、JR西労加古川鉄道部分会の執行委員長らは、b科長やc助役に抗議をしたこと、③aは、同月末ころ、b科長が
aに対して、同月20日の本件大会終了後の昼食時に、「君を転勤させようと思えば出来る(飲酒の上)」、「交番は
ほかから持ってくることは出来る」などと述べた旨を記載した文書を作成し、加古川鉄道部分会に交付したことが認め
られる(本件命令の認定事実で、本件訴訟で争いがないものを含む。)。
 以上のとおり、aは、b科長と昼食時に会話をした10月20日から間もない10月27日に同期の組合員らに対し
てb科長らから脱退慫慂されたことを話し、その後まもなく文書を作成して参加人組合に報告している。その内容は、
b科長が「君を転勤させようと思えばできる」、「交番はほかから持ってくることはできる」などと述べたというもの
であり、aの供述は、初審手続、再審査手続に至るまで一貫し、曖昧なところがない。また、aが脱退慫慂されたこと
を同期の組合員に話をしたということは、その前提となる何らかの出来事があったことを推認させる。仮にb科長が1
0月20日に脱退慫慂の話をしていなかったとすれば、aの話の内容は事実と全く異なることになるが、aが、故意に
事実と異なる内容の話をし、文書を作成する理由、動機は認められず、aの話の内容が全くの虚偽、架空、創作である
とは、考えにくい。aが話をし、文書を作成したのは、b科長の発言があってから間もない時期であるから、aの記憶
が薄れ、あるいは混乱して、事実と異なる内容になったとも考え難い。
 他方、同月20日の昼食後、aは、食事に誘ってくれたb科長一人を店に残して帰宅する(本件命令の認定事実であ
り、争いがない。)という不自然な行動をとっているのであって、このことは、昼食の際に何らかの出来事があったこ
とを窺わせるといえる。
 また、証拠(乙27、48、49)及び弁論の全趣旨によれば、aは平成10年12月に運転及び列車車掌の業務を
解かれ、交番担当業務の見習いを終えて、平成11年1月から交番担当となったが、加古川鉄道部では、交番担当に業
務変更した者は、JR西労を脱退し、西労組に加入する例が続いていたという事実が認められる。b科長は、本件大会
当日、助役を目指して頑張るというaの発表を聞き、aが内勤を続け、昇進を目指す決意であることを確認できたこと
に加え、交番勤務に担当業務が変更された者はJR西労を脱退する例が続いていたという状況を踏まえ、aに対して、
参加人組合からの脱退を慫慂するような発言をし、さらに本件賃金表を手渡す旨告げたという一連の経過は、自然な会
話の進行として理解することができる。
 以上によると、aの初審手続、再審査手続における供述、上記陳述書の記載は、信用性が高いということができる。
(3) これに対し、原告は、b科長には人事に関する権限も影響力もないし、他方、aは交番担当から運転士に戻る
ことを希望していたのだから、b科長が転勤や交番担当の変更をaに対する不利益な話としてするはずはないと主張
し、その他、aがb科長に対して直ちに抗議、反論をしていないことなどaの供述には不自然な点があるとして、b科
長は脱退慫慂する発言をしていないと主張する。
 そこで、これらの原告の主張を検討する。
ア 原告の職制上、総務科長兼助役であるb科長に、aら加古川鉄道部の職員の人事に関する決定権限はない(争いが
ない。)。
 しかし、当時、b科長は、加古川鉄道部の助役(鉄道部における助役は、列車区、電車区、運転区、運転所における
助役と異なり、指揮命令系統上、最上位に位置づけられていた。)として、同一勤務地内における担当業務指定の権限
を有する鉄道部長を補佐又は代理し、その委任を受けた業務を直接指揮する権限を有していた上(乙17、24、9
8)、職員の希望や家族の状況のほか、その執務態度、知識、技能、適格性等を確認した上、鉄道部長に報告し、同部
長の所見は、昇格試験(新人事制度においては昇職試験と進級試験に分けられる。乙13)の際に参考とされていた(
乙98)というのであるから、b科長が、人事に関し、事実上の影響力を有していることは明らかである。原告は、助
役の鉄道部長に対する報告は事実の報告にすぎないし、転勤を決定するのは支社であって鉄道部長にも転勤に関する権
限や影響力はないと主張するが、人事考課や転勤の人選が、助役や鉄道部長の把握する事実を考慮することなく行われ
るとは考えられない。原告の従業員も、総務科長が当然に人事に関する事実上の影響力を持っていると認識していたと
推認される。
 したがって、総務科長が従業員に対して人事上の不利な話を示唆することは、従業員に対する強い効果を持つことは
明らかであり、人事上の話を告げて脱退慫慂をするはずがないとは、到底いえない。
イ また、証拠(甲1、7、8、乙31、51、95、97)によれば、交番担当者には乗務員手当の支給がなく、そ
の待遇は賃金面において運転士より劣ること、そのため、新人事制度の実施以前は、交番担当を希望する者は必ずしも
多くはなく、a自身、交番担当への担当業務変更を約2年にわたり拒否し、本件当時も、できるのであれば運転士に戻
りたいとの思いを抱いていたことは認められる。
 しかし、証拠(乙13、14)及び弁論の全趣旨によれば、もともと管理職に準ずる職員の担当業務とされていた交
ページ(2)
番担当が、新人事制度の実施後は、より明確に実務リーダー層の係長の担当業務とされたことが認められ、当初、交番
担当への業務変更に難色を示していたaが、新人事制度の公表を受けて、交番担当に対する意欲を持ったとしても不思
議はないし(現に、aは、本件大会において「助役を目指して頑張る」と内勤の継続を前提とした発言をしている。
)、aは、加古川鉄道部の乗務員の配置状況やJR西労所属の職員3名が加古川鉄道部から姫路鉄道部へ転勤となった
こと(甲7、8、乙51、95)から、運転士に戻った場合、他の電車区へ転勤となることを懸念していたのであっ
て、aが、転勤をしても運転士に戻りたいとまで考えていたとは認められない。
 したがって、aに対して交番担当の変更を告げることは不利益の示唆というべきであって、b科長が脱退慫慂として
交番担当の変更などを告げるはずがないとはいえない。
ウ aが、b科長の話を聴いたその場で面と向かってb科長に抗議や反論をできなかったとしても、それだけでは不自
然とはいえないし、実際に、aは、b科長の発言を受けて、b科長を一人残して先に店を出、その後、参加人組合を通
じて本件発言等に対する抗議を行っているのだから、不自然な点はなく、その他、b科長がaに対して「組合のことは
どう思ってる」、「君を転勤させようと思えばいつでもできる。」、「交番担当はどこからでも持ってこれる」と述べ
たというaの供述に不自然なところはない。
(4) 以上によれば、aの初審手続、再審査手続における供述等は信用することができるというべきである。よっ
て、本件命令が認定したとおり、b科長は、10月20日、本件大会終了後、aを昼食に誘い、その席上、「組合のこ
とはどう思ってる」、「君を転勤させようと思えばいつでもできる。」、「交番担当はどこからでも持ってこれる」と
の趣旨の発言をしたと認められる。
2 不当労働行為該当性について
(1) b科長がaに対して10月20日「組合のことはどう思ってる」、「君を転勤させようと思えばいつでもでき
る。」、「交番担当はどこからでも持ってこれる」との趣旨の発言をしたことは、1(3)のとおり、参加人組合を脱
退しない場合の不利益を示唆したものというべきであり、脱退慫慂に当たることは明らかである。
(2) b科長がaに本件試算表を交付したことについては、b科長が、新人事制度下においては、実務リーダー層に
昇職しない限り,交番担当になれないことになるaに対して、同人が本件大会において「助役を目指して頑張る」と発
表した直後、本件試算表の交付を約束し、B昇格試験の合否判定前に、わざわざ「誰にも見せるな」と断った上、当時
の資格級が5等級(新人事制度下では実務担当層の資格級C3に位置づけられる。)であるにもかかわらず、新人事制
度における暫定昇職試験等に合格した場合の資格級(実務リーダー層の資格級L2、実務担当層の資格級C2)を前提
に、その賃金を具体的に試算し、これをaに対してだけ交付していること(甲1、7、乙13、30、31、42、5
1、55、85、86)に照らすと、b科長には、aに昇進等の可能性を示唆することで、同人の参加人組合からの脱
退を迫る意図があったというべきである。
 原告は、aが、本件大会において、交番担当への意欲を示した後、新人事制度における賃金の話になったことから、
激励の意味を込め、昇職して交番担当に引き続き従事することを前提に賃金を試算したにすぎず、その経緯に何ら不自
然な点はないし、新人事制度実施後の賃金体系は、既に参加人組合にも公表されていたと主張し、b科長は陳述書(甲
1)に同旨の記載をしている。しかしながら、b科長が、aに対し、「組合のことをどう思っている」、「君を転勤さ
せようと思えばできる」、「交番担当はどこからでももってこれる」などと発言していることに照らすと、上記のとお
り、b科長が激励の意味を込めて本件試算表を交付したとは考えられない。b科長は、新人事制度における賃金体系に
基づき、aが昇職や進級した場合を想定して、具体的にその賃金を示しているのであって、参加人組合を脱退した場合
の利益を示し、これを慫慂するものというべきである。
(3) なお、b科長は西労組の組合員であったが、特段組合活動をしていたとは認められない。10月20日の発言
は本件大会に引き続いて行われたものあり、本件試算表の作成は明らかに職務に関連して行われている。そして、前記
2(3)アのとおり、b科長は組合員資格を有する助役であるけれども、加古川鉄道部の筆頭助役で部長に次ぐ地位で
ある総務科長の職にあり、人事労務に関わる事項について部長を補佐する重要な職務を担当し、事実上、人事に関して
一定の影響力を与えうる地位にあったということができ、従業員もそのように認識していた。他方、JR西労は、原告
と協力的でスト権確立に消極的な西労組を批判して分裂して発足した労働組合であり、その経緯からいっても、原告と
JR西労との間には緊張関係が続き、従来からJR西労のオリジナルネクタイ着用問題や、JR労組組合員の配転等を
めぐって紛争があった(本件命令の認定事実で、争いがない。)。
 以上のような事実を総合すれば、b科長がaに対して脱退を慫慂するような発言をし、また、本件試算表を交付した
のは、原告の意を体して行ったものということができる。
(4) 以上のとおり、b科長の交番担当の変更や転勤を示唆する発言や本件試算表の交付は、労働組合法7条3号に
規定する支配介入に該当するというべきであり、本件命令に違法はないから、その取消しを求める原告の請求は理由が
ない。
第4 結論
 よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用(補助参加費用を含む。)の負担につき、行政事件訴訟法7条、
民事訴訟法61条、66条を適用して、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第19部
裁判長裁判官 中西茂
裁判官 森冨義明
裁判官 本多幸嗣
(別紙)
       主   文
Ⅰ 初審命令主文を次のとおり変更する。
1 再審査被申立人は、再審査申立人ジェーアール西日本労働組合近畿地方本部の姫路支部加古川鉄道部分会の組合員
に対し、人事異動における不利益を示唆すること、又は、昇進後における賃金を示して利益誘導することによって、再
審査申立人らからの脱退を慫慂するなどして、再審査申立人らの運営に支配介入してはならない。
2 再審査被申立人は、再審査申立人らに対し、本命令受領後、速やかに下記の文書を手交しなければならない。
       記
平成 年 月 日
ジェーアール西日本労働組合
中央執行委員長 d殿
ジェーアール西日本労働組合近畿地方本部
執行委員長 e殿
西日本旅客鉄道株式会社
代表取締役社長 f 印
 当社加古川鉄道部の総務科長が、ジェーアール西日本労働組合近畿地方本部姫路支部加古川鉄道部分会の組合員に対
し、平成11年10月20日の昼食の席において、交番担当を外すことや転勤させることを示唆した行為及び同月26
日に新たな昇進・賃金制度の下で昇進した場合の賃金試算表を手渡した行為は、中央労働委員会によって、貴組合から
ページ(3)
の脱退を慫慂する行為であり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると認定されました。当社は、今
後このような行為を繰り返さないようにします。
3 その余の本件救済申立てを棄却する。
Ⅱ その余の本件再審査申立てを棄却する。
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