弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人安部萬太郎の上告理由(一)第一点ないし第三点及び同安部萬年の上告
理由第一点について。
 原審の認定するところによれば、従前のD労働組合大分地方本部(以下、元大分
地方本部という。)は、法人格を有する単一組合であるD労働組合(以下、D労組
という。)の下部機関の一つであつて、F管理局に勤務するD労組の組合員をもつ
て組織され、D労組の規約や大会決議によつて拘束を受けるものの、自己固有の代
表者、決議及び執行の機関を有し、地方本部規約、会計規則等を具え、D労組の方
針に反しない範囲内で自主的に活動することを承認され、その財政的基礎は、D労
組本部からの交付金のほか、地方本部が所属の組合員から独自に徴収したものによ
つて形成され、これを自らの責任においてその活動の用に供し、対外的にも自己の
名で財産上の取引等を行なつていた、というのであり、右認定は、原判決(その引
用する第一審判決を含む。以下同じ。)挙示の証拠に照らして肯認することができ
る。これによれば、元大分地方本部は、D労組の統制下にあるとはいえ、それ自体
独立の団体としての組織を有し、代表の方法、財産の管理等団体としての主要な点
についての定めがあり、かつ、構成員の変動にかかわらず団体として同一性を保持
するものであつて、D労組とは別個の存在を有する権利能力なき社団としての実体
を具えていたものと認められる。そして、このような権利能力なき社団の資産がそ
の構成員に総有的に帰属するものと解すべきことは、当裁判所の判例とするところ
である(昭和二七年(オ)第九六号同三二年一一月一四日第一小法廷判決・民集一
一巻一二号一九四三頁、昭和三五年(オ)第一〇二九号同三九年一〇月一五日第一
小法廷判決・民集一八巻八号一六七一頁)。したがつて、右と同趣旨において原判
示の預金を元大分地方本部の固有の資産であるとした原審の判断は正当であつて、
原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 また、原審は、所論のいう昭和三九年一〇月八日の元大分地方本部の組合大会な
るものについて、当時同地方本部内において表面化しつつあつたD労組脱退の動き
に対し後記のようにD労組本部から統制権が発動されることとなつたため、右脱退
賛成派の一部の者が対策を協議するために集合した非公式の会合にすぎず、規約に
従つて開かれた正規の組合大会ではなかつたとの事実を認定したうえ、右大会の決
議により元大分地方本部が組織をあげてD労組から離脱したとする上告人組合の主
張を排斥しているのであつて、右認定判断もまた、原判決挙示の証拠に照らし相当
として是認することができる。この点に関する論旨は、ひつきよう、原審の認定と
異なる事実を前提として原判決の違憲、違法をいうものにすぎず、採用することが
できない。
 上告代理人安部萬太郎の上告理由(一)第四点について。
 原判決の判文に徴すれば、所論の点に関する原審の認定判断に所論の違法のない
ことは明らかである。論旨は、原判決を正解しないものというほかなく、採用する
ことができない。
 同第五点について。
 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠によつて肯認しえないも
のではなく、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。
 上告代理人安部萬太郎の上告理由(二)及び同安部萬年の上告理由第二点について。
 按ずるに、元大分地方本部は、それ自体独立の社団ではあるが、単一組合である
D労組の構成分子として存在する一地方組織であり、その目的、機能も限定され、
D労組の方針に反しないかぎりで自治を承認されていたにすぎないことは、先に判
示したとおりである。全国的な規模を有するD労組においては、組合本部が直接各
組合員を把握し、内部統制を維持することが困難であるところから、地域別に地方
本部等の下部組織を設け、これらの組織を通じて末端の組合員を把握し、組合活動
及び内部統制を円滑かつ実効的ならしめるとともに、その組合活動にできるだけ末
端組合員の意思を反映させるため、地方本部に前記の限度の自治を認めているので
あつて、D労組の組織上、地方本部の社団としての独立性も本来D労組の内部的構
成分子としての制約を免れることはできないものと解される。この点において、も
ともと独立して成立した企業別組合が単一組織の上部組合を結成し、企業別ごとに
支部と称している場合のように、下部組織の上部組合に対する独自性が強く、上部
組合は各支部の連合体のごとき実体しかもたない組織とは、異質のものと認められ
る。そして、右のように地方本部がD労組の規約によつて存在を認められた下部組
織である以上、その構成員が全くなくなつたために自然消滅する場合のほかは、D
労組の規約の変更によつて当該地方本部を廃止することが決定された場合でなけれ
ば、地方本部そのものが消滅するということはありえず、地方本部の組合員の多数
がD労組の方針に反対して集団的に離脱したため、地方本部が事実上二分されたよ
うな場合においても、従前の地方本部にD労組の方針に従う組合員がなお残留し、
引き続き地方本部としての団体活動を継続しているかぎりは、右残留組合員の組織
する地方本部が従前の地方本部と同一性を有するものとみなければならない。
 ところで、労働組合において、運動方針等をめぐる組合員間の対立から、組合内
部に相拮抗する異質集団が成立し、その対立抗争が激しく、そのために組合が統一
的組織体として存続し活動することが不可能若しくは著しく困難となり、遂にその
異質集団に属する組合員が組合を離脱して新たな組合(以下、新組合という。)を
結成し、旧組合の残留者による組合(以下、残存組合という。)と対峙するに至る
という事実上の分裂現象は、しばしばみられるところである。所論は、右のような
組合の事実上の分裂を単なる集団脱退と区別し、この場合には新組合も残存組合も
旧組合と同一性を有しないから、公平の観念上、双方の組合に旧組合の資産に対す
る持分を認めるべきであるとの見解を前提として、本件において元大分地方本部は
後記のような内部的対立により上告人組合と被上告人地方本部とに分裂したもので
あるから、元大分地方本部の資産であつた本件預金については、上告人組合も権利
を有する旨を主張する。
 しかし、前記のようなD労組地方本部の下部組織としての特殊な性格からすれば、
地方本部における組合員の集団的離脱が、当該地方本部の資産の帰属を問題とする
関係において、所論のいう分裂にあたるものか、あるいは単なる集団脱退にとどま
るものかについては、D労組の組織全体との関係からこれをみるべきであつて、そ
の資産が地方本部に属することのゆえに、D労組全体と切り離し地方本部だけに局
限してこれを論ずるのは、下部組織としての制約を軽視するものといわなければな
らない。すなわち、地方本部においてD労組の方針に反対する組合員の集団的離脱
があり、地方本部を独立の組合としてみれば事実上の分裂を生じたかのごとき観を
呈するとしても、D労組そのものが統一的組織体としての機能を保持するかぎり、
それは一部組合員のD労組からの集団脱退にほかならず、そうである以上、右離脱
組合員又はその結成した新組合は、D労組本部の資産についてはもちろん、地方本
部の資産についても、持分ないし分割請求権を有するものということはできない。
地方本部の資産についてまで、離脱者集団の権利を認めないことは一見公平を失す
るかのごとくであるが、もともと、地方本部の資産は、その地方本部がD労組の下
部組織として同労組の方針に従つた自治活動を認められ、かかる活動のための物的
基礎をなすものとして形成されてきたものであるから、D労組から脱退しこれとの
関係を断つて独立の活動をしようとする離脱者集団が右資産について権利を主張す
ることのできないことは、やむをえないところであつて、これをもつて、あながち
不合理不公平であるということはできないのである。
 ところで、本件において原審の確定した事実関係は、おおむね次のとおりである。
 D労組は、その基本的な運動方針として社会党支持を明らかにし、下部機関に対
してはE評議会への加盟を要求していたが、元大分地方本部内においては、かねて
から右方針の支持派と反対派とが対立し、久しく抗争を続けた結果、昭和三九年二
月の大会において遂に反対派が多数を占め、民社党支持、E評議会からの脱退、同
盟加入を決議し、同年九月の大会においても再びこれを承認し、執行部を反対派で
固めるに至つた。これに対し、D労組本部は右決議の撤回を求めたが、同地方本部
の執行部がこれに応じなかつたので、同年一〇月八日、D労組本部は、規約に基づ
く統制処分として、右地方本部執行部役員の執行権等を停止し、その代行機関を設
置した。ここに至つて、同地方本部内の前記反対派は、D労組と袂を分かつて独自
の行動に出るほかないとし、同月一六日、旧執行部役員を含む約二六〇〇名(同地
方本部の当時の組合員総数の約三分の二)が参加して新たに上告人組合を結成する
とともに、D労組本部に対して同人らの脱退届を一括提出した。しかし、元大分地
方本部にはD労組支持派に属する組合員一二〇〇名がそのまま残留し、旧構成員及
び役員の多数を失つたことによる解体の危機を克服して組織を立て直し、従前から
のD労組規約及び同地方本部規約に基づきD労組の地方下部組織としてこれを組織
運営しており、これが被上告人たる現在のD労組大分地方本部である。
 以上の事実関係に徴すれば、元大分地方本部は、D労組の方針に従うかどうかを
めぐつて事実上二派に分かれ、これに同労組本部からの介入も加わり、地方本部と
しての統一的活動が困難になつていたことは否定できないけれども、D労組の組織
全体との関係からみれば、同労組の下部組織として同一性を保持しているのは被上
告人地方本部であつて、前記反対派の離脱は、ひつきよう、D労組の方針に服する
ことを好まない組合員が集団的に同労組を脱退したにすぎないものと認めるほかは
ない。してみると、右脱退者によつて結成された上告人組合には元大分地方本部の
資産であつた本件預金に対する権利を認めることができないことは、先に説示した
とおりであり、これと結論を同じくする原審の判断は、正当として是認すべきであ
る。原判決に所論の違法はなく、右違法のあることを前提とする所論違憲の主張は、
その前提を欠く。論旨は、独自の見解に立脚して原判決を非難するに帰し、すべて
採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岸       盛   一
            裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸   上   康   夫

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛