弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 一 上告代理人山口広、同鬼束忠則、同東澤靖の上告理由書(一)記載の上告理由
第一章第一について
 原審の適法に確定した事実関係の下においては、上告人は、本件処分当時、出入
国管理及び難民認定法(平成元年法律第七九号による改正前のもの)四条一項一六
号、同法施行規則(平成二年法務省令第一五号による改正前のもの)二条三号に基
づく在留資格をもって本邦に在留する者に当たるというべきである。右のような在
留資格で本邦に在留する外国人については、当然に一定期間本邦に在留する権利が
保障されているものということはできないから、その在留期間の更新申請に対し、
在留期間を一年と指定してこれを許可した本件処分が、上告人の権利ないし法律上
保護された利益を侵害するものであると解することはできない。したがって、本件
処分の取消しを求める訴えは、その利益を欠くから、これを不適法として却下すべ
きものとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法
はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を非難するものにすぎず、採用するこ
とができない。
 二 同第一章第四について
 在留期間を三年と指定して在留期間の更新を許可することを求める訴えを不適法
として却下すべきものとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判
決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を非難するものにすぎ
ず、採用することができない。
 三 上告代理人山口広、同鬼束忠則、同東澤靖の上告理由書(一)記載のその余の
上告理由及び上告理由書(二)記載の上告理由について
 我が国に在留する外国人について、外国人登録法(昭和六二年法律第一〇二号に
よる改正前のもの。以下同じ。)一四条は、同法一条の「本邦に在留する外国人の
登録を実施することによって外国人の居住関係及び身分関係を明確ならしめ、もっ
て在留外国人の公正な管理に資する」という目的を達成するため、戸籍制度のない
外国人の人物特定につき最も確実な制度として、指紋押なつ制度を採用したもので
あって、その立法目的には十分な合理性があり、かつ、必要性も肯定することがで
きる。そして、上告人が指紋押なつを拒否した昭和六〇年六月二七日当時における
制度の内容は、押なつ義務が五年に一度で、押なつ対象指紋も一指のみであり、加
えて、その強制も罰則による間接強制にとどまるものであって、精神的、肉体的に
過度の苦痛を伴うものとまではいえず、方法としても、一般的に許容される限度を
超えない相当なものであったと認められる。したがって、外国人登録法一四条は、
憲法一三条に違反するものではない。
 また、在留外国人を対象とする指紋押なつ制度には、右のような目的の合理性、
必要性、相当性が認められ、戸籍制度のない外国人については、日本人とは社会的
事実関係上の差異があって、その取扱いに差異を設けることには合理的根拠がある
ので、外国人登録法一四条は、憲法一四条に違反するものでもない。
 以上のように解すべきことは、当裁判所大法廷判決(昭和四〇年(あ)第一一八
七号同四四年一二月二四日判決・刑集二三巻一二号一六二五頁、同五〇年(行ツ)
第一二〇号同五三年一〇月四日判決・民集三二巻七号一二二三頁、同二九年(あ)
第二七七七号同三一年一二月二六日判決・刑集一〇巻一二号一七六九頁、同二六年
(あ)第三九一一号同三〇年一二月一四日判決・刑集九巻一三号二七五六頁、同三
七年(あ)第九二七号同三九年一一月一八日判決・刑集一八巻九号五七九頁)の趣
旨に徴して明らかであり(最高裁平成二年(あ)第八四八号同七年一二月一五日第
三小法廷判決参照)、右に説示したところによれば、外国人登録法一四条が、市民
的及び政治的権利に関する国際規約(昭和五四年条約第七号)七条、二六条に違反
すると解することもできない。これと同旨の原審の判断は、正当として是認するこ
とができる。
 そして、原審の適法に確定した事実関係の下においては、所論のその余の点に関
する原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。
 論旨はいずれも採用することができない。
 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官
全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    高   橋   久   子
            裁判官    小   野   幹   雄
            裁判官    遠   藤   光   男
            裁判官    井   嶋   一   友
            裁判官    藤   井   正   雄

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