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平成23年(あ)第1517号現住建造物等放火,殺人,殺人未遂被告事件
平成26年3月6日第一小法廷判決
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人宮田桂子,同実野現の上告趣意のうち,死刑制度に関して憲法13条,1
9条,21条,31条,36条違反をいう点は,死刑制度がその執行方法を含め憲
法のこれらの規定に違反しないことは当裁判所の判例(最高裁昭和22年(れ)第
119号同23年3月12日大法廷判決・刑集2巻3号191頁,最高裁昭和26
年(れ)第2518号同30年4月6日大法廷判決・刑集9巻4号663頁,最高
裁昭和32年(あ)第2247号同36年7月19日大法廷判決・刑集15巻7号
1106頁)及びその趣旨に照らして明らかであるから,理由がなく,公判前整理
手続における証拠開示に関する規定について憲法違反をいう点は,原審で何ら主
張,判断を経ておらず,その余は,憲法違反,判例違反をいう点を含め,実質は単
なる法令違反,事実誤認,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に
当たらない。
なお,所論に鑑み記録を調査しても,刑訴法411条を適用すべきものとは認め
られない。
付言すると,本件は,いわゆる個室ビデオ店において,客として入店した被告人
が,深夜,自殺を図ろうとして,他の客が死亡するであろうことを認識しながら,
個室内に持ち込んだキャリーバッグ内の衣類等に火を付け,その火を個室の側壁等
に燃え移らせて同店舗を全焼させ,同店の客16名を急性一酸化炭素中毒等により
死亡させるとともに,他の客7名は死亡させるに至らなかった(うち4名は,全治
約1週間ないし1か月間を要する気道熱傷等の傷害を負った。)という現住建造物
等放火,殺人,殺人未遂の事案である。
本件は,大阪市内の有数の繁華街にあった本件店舗を全焼させ,極めて多数の死
傷者を出したもので,その結果の重大性は甚だしく,社会に与えた衝撃や不安も大
きい。被告人は,本件店舗の個室内で,過去を振り返り,現在の自分を惨めに思
い,衝動的に自殺しようと決意して犯行に及んだものであるが,そのような動機や
経緯に酌量すべき事情は認められない。本件店舗は,通路が狭く,出入口が限られ
るなど,客が避難しにくい構造であったところ,被告人は,犯行前に店舗内を歩き
回るなどした際に,そのような店舗の構造を認識するとともに,個室内でヘッドホ
ンを使用したり,就寝したりしている客がいるであろうことも認識しながら,他の
者の安全を顧みることなく放火行為に及んだのであって,その犯行は,人の生命を
軽視した極めて危険で悪質なものである。被告人は,捜査段階の終盤からは,自ら
放火したことを全面的に否認し続けており,真摯な反省の態度はうかがわれない。
以上のような事情に照らすと,多数の死者が出ることを確定的に認識していたわ
けではないこと,前科がないことなど,被告人のために酌むべき事情を十分考慮し
ても,被告人の刑事責任は極めて重大であり,原判決が維持した第1審判決の死刑
の科刑は,やむを得ないものとして当裁判所もこれを是認せざるを得ない。
よって,刑訴法414条,396条,181条1項ただし書により,裁判官全員
一致の意見で,主文のとおり判決する。
検察官水野美鈴公判出席
(裁判長裁判官横田尤孝裁判官櫻井龍子裁判官金築誠志裁判官
白木勇裁判官山浦善樹)

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