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主        文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 当事者の求める裁判
1 控訴人ら
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人の請求を棄却する。
(3) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
 主文と同旨
第2 事実関係
1 本件は,被控訴人が訴外Dに対し,合計1億2000万円を貸し付けるととも
に,訴外亡Eがその保証をしたところ,Dが上記債務を返済しなかったため,E
と被控訴人との間において,被控訴人がEの所有する不動産を買い受けるこ
ととし,その売買代金債務とEの被控訴人に対する保証債務とを相殺したとし
て,Eの相続人である控訴人らに対し,所有権に基づき,既に所有権移転請
求権仮登記を経由している原判決別紙物件目録3記載の土地(以下「本件土
地」という。)について,農地法5条の規定による所有権移転の許可申請手続
をすること及び同許可があったことを条件とする所有権移転登記本登記手続
を求め,原審が被控訴人の請求を認容したため,控訴人らが控訴した事案で
ある。
2 請求原因
(1) 被控訴人は,平成6年8月12日,Eから原判決別紙物件目録1記載の土
地を売買代金1億2000万円で買い受けるため,Eを売主,被控訴人を買
主とする売買予約を締結し,名古屋法務局津島支局平成6年8月15日受
付第15585号所有権移転請求権仮登記を経由した。
(2) 被控訴人は,平成7年4月14日,Eに対し,上記売買予約完結の意思表
示をした。
(3) Eは,原判決別紙物件目録1記載の土地のうち,農地法所定の許可を得
ることの可能な同目録2記載の土地につき,分筆及び地目変更をしたうえ,
被控訴人に対し,名古屋法務局津島支局平成8年2月22日受付第4117
号所有権移転登記手続を経由した。
(4) Eは,平成10年2月17日死亡した。
(5) 控訴人AはEの子であり,同BはEの妻であって,他にEの相続人はいな
い。
(6) よって,被控訴人は控訴人らに対し,所有権に基づき,上記目録1記載の
土地から上記目録2記載の土地を除いた原判決別紙物件目録3記載の土
地につき,愛知県知事に対する農地法5条の規定による所有権移転の許
可申請手続をし,愛知県知事により同許可があったときは,名古屋法務局
津島支局平成6年8月15日受付第15585号売買予約による所有権移転
請求権仮登記に基づく上記許可の日の売買を原因とする所有権移転本登
記手続をすることを求める。
3 請求原因に対する認否
 請求原因(1)及び(2)は不知,同(3)ないし(5)は認める。
4 抗弁
 控訴人らは,被控訴人が請求原因(1)の売買代金を支払うまで,原判決別紙
物件目録3記載の土地につき,愛知県知事に対する農地法5条の規定による
所有権移転の許可申請手続及び名古屋法務局津島支局平成6年8月15日
受付第15585号売買予約による所有権移転請求権仮登記に基づく上記許
可の日の売買を原因とする所有権移転本登記手続をすることを拒絶する。
5 抗弁に対する認否
 争う。
6 再抗弁
(1) Fは,Eを連帯保証人として,Dに対し,平成5年5月24日に3000万円,
同年8月24日に3000万円,平成5年11月12日に3000万円を貸し付
け,平成6年8月12日,被控訴人がFに替わり,Eを連帯保証人としてDに
対しさらに3000万円を貸し付けた。被控訴人は,平成7年4月12日,Fか
ら同人のDに対する債権合計9000万円を譲り受けた。
(2) 被控訴人は,平成7年4月14日,Eと合意の上,上記連帯保証債権1億
2000万円と請求原因(1)の売買代金1億2000万円を対当額において相
殺した。
7 再抗弁に対する認否
 いずれも不知。
8 再々抗弁
(1) 亡Eは,被控訴人とDとの取引の詳細や経過を全く知らずに連帯保証契
約を締結したものであって,同契約は錯誤により無効である。
(2) Dには借金の返済ができるような資力はなく,被控訴人はそのことを当然
知っていたはずであり,被控訴人はDからの返済のないことを前提とした上
で,Eに責任を負わせることを当初から予定してDに貸付をしたのであるか
ら,被控訴人の行為は,人的担保を悪用したもので公序良俗に反し無効で
ある。
9 再々抗弁に対する認否
 再々抗弁(1)は否認,同(2)は争う。
第3 当裁判所の判断
1 請求原因
(1) 請求原因(3)ないし(5)は当事者間に争いがない。
(2) 同(1)及び(2)について
 甲1によれば,原判決別紙物件目録1記載の土地には,①平成5年5月2
4日,極度額4000万円,債務者をD,債権者をFとし,同月22日設定を原
因とする根抵当権設定登記,②同月24日,代物弁済予約を原因とし,Fを
権利者とする所有権移転請求権仮登記,③同年8月26日,極度額4000
万円,債務者をD,債権者をFとする同月24日設定を原因とする根抵当権
設定登記,④同年11月15日,極度額3000万円,債務者をD,債権者をF
とする同月12日設定を原因とする根抵当権設定登記,⑤平成6年8月15
日,極度額3000万円,債務者をD,債権者を被控訴人とする同月12日設
定を原因とする根抵当権設定登記,⑥同月12日売買予約を原因とし,被
控訴人を権利者とする所有権移転請求権仮登記,⑦平成7年4月13日,
同月12日譲渡を原因とする被控訴人に対する上記①,③,④の各根抵当
権移転の各登記が経由されていることが認められる。
 しかるところ,甲28(土地売買予約契約書)には,平成6年8月12日,E
を売主とし,買主を被控訴人として,原判決別紙物件目録1記載の土地に
ついて,売買価格を1億2000万円とする売買予約をした旨の記載があり,
甲4(土地売買完結確認書)には,平成7年4月14日,平成6年8月12日
付土地売買予約契約書に基づく売買予約完結権について,被控訴人が同
予約完結の意思表示を受け,上記目録1記載の土地について売買代金1
億2000万円とする売買契約が成立したことを確認する旨の記載がある。
そして,乙2の17(印鑑登録証明書)によれば,同号証中のEの印影は同
人の印章によるものであることが認められ,これと甲28,甲4の各Eの印章
を対比するとこれらは同一であることが認められ,反証のない限り,甲28,
甲4のEの印影は同人の意思に基づいて顕出されたものと推定される。こ
の点,控訴人らは,特段の反証をしていないので,甲28,甲4のE作成部
分が真正に成立したものと推定される。
 そうして,上記認定の事実及び甲4,甲11,甲28及び被控訴人本人尋
問の結果によれば,請求原因(1)及び(2)が認められる。
2 抗弁及び再抗弁
 控訴人らは被控訴人の請求に対し,同時履行の抗弁を主張するところ,被
控訴人は再抗弁として相殺の主張をするので,以下,判断する。
(1) 甲3(保証契約書)には,平成6年8月12日,Dの被控訴人に対する手形
貸付取引契約又は基本取引契約に基づく平成5年5月24日から平成6年
11月20日までの間のすべての取引及び平成6年8月12日現在負担する
債務について,Eが極度額1億2000万円の限度で連帯保証人となる旨,
甲4(土地売買完結確認書)には,原判決別紙物件目録1記載の土地につ
いて上記目録2記載のほか,被控訴人に所有権を移転するため農地法所
定の手続を経て所有権移転登記手続をし,同登記手続が完了すると同時
に,上記保証債務と売買代金債務とを対当額で相殺することに異議がない
旨,甲5(領収証)には,平成7年4月14日,Eが被控訴人から相殺により1
億2000万円を受領した旨の記載があり,いずれもEの署名押印があると
ころ,乙2の17(印鑑登録証明書)によれば,同号証中のEの印影は同人
の印章によるものであると認められ,これと甲3,甲5(甲4については上記
2のとおり成立が認められる。)の各Eの印影とを対照するとこれらは同一
であることが認められ,反証のない限り,甲3,甲5のEの印影は同人の意
思に基づくものと推定されるところ,控訴人らは,特段の反証をしていない
ので,甲3,甲5のE作成部分の成立が認められる。
 この点,控訴人らは,被控訴人が上記1億2000万円に至るまでの経過
に関する具体的な金員の出所や現実に貸し渡したことの詳細な資料の提
出がないこと,被控訴人が控訴審で提出した甲15以下の書証(領収証,借
用証書等)の信用性がないことを指摘する。
 まず,甲28と甲2(土地売買予約契約書)について,原審における被控訴
人の本人尋問の結果によれば,その尋問に際し,被控訴人代理人が甲2
を示して売主E,買主Cのそれぞれが署名押印している旨を尋ね,被控訴
人が間違いない旨供述していることが認められ,甲2の写しには,売主欄
にはEの署名押印があるが,買主欄に被控訴人の署名押印がないことが
認められるものの,既に説示のとおりE作成部分の成立が認められる甲2
8,及び甲29並びに弁論の全趣旨によれば,被控訴人代理人が受任した
当時,甲2の原本が名古屋国税局査察部に差し押さえられていたため,同
代理人が被控訴人の手元にあったその写しを提出し,その後,原本が還付
されたため,被控訴人において署名押印した上,被控訴人代理人が原本を
示して尋問したことが認められるので,甲28と甲2が不合理で信用できな
いものとはいえない。
 次に,甲15(領収証)のDの氏名と甲16,甲18,甲21(各借用証書),甲
19(保証契約書),甲22(根抵当権譲渡承諾書)のDの氏名は筆跡が異な
ることが認められ,その各成立に争いがあるところ,被控訴人は甲15のD
の氏名が同人の署名であることを証明しないので,同号証の成立は認めら
れない。しかし,甲16,甲18,甲19,甲21,甲22のDの各氏名について
みるに,甲3のDの氏名については,被控訴人本人尋問の結果によって,
これがDの自署によるものであることを認めることができるから,甲3は真
正に成立したものと推定すべきであり,これと甲16,甲18,甲19,甲21,
甲22のDの各氏名とを対照すると,それらの筆跡は同一であることが認め
られるので,甲16,甲18,甲19,甲21,甲22のD作成部分の各成立が
認められる。(この点,控訴人らは,甲16,甲18,甲21には収入印紙が貼
付されておらず,EやDの捨て印が多数押印されているものがある旨指摘
するが,これらの事実のみをもっては同各号証の成立を覆すに足りない。)
 これらの書証及び甲3ないし甲5,甲11,乙2の11,乙2の12,被控訴
人本人尋問の結果によれば,Fは,Eを連帯保証人として,Dに対し,平成5
年5月24日に3000万円,同年8月24日に3000万円,平成5年11月12
日に3000万円を貸し付け,平成6年8月12日,被控訴人がFに替わり,E
を連帯保証人としてDに対しさらに3000万円を貸し付けたこと,被控訴人
は,平成7年4月12日,Fから同人のDに対する債権合計9000万円を譲
り受けたこと,被控訴人は,平成7年4月14日,Eと合意の上,上記連帯保
証債権1億2000万円と請求原因(1),(2)の売買代金1億2000万円を対
当額において相殺したことがそれぞれ認められる。
 控訴人らは,甲19(保証契約書)と甲20(確認証)の作成日付が同じ平
成5年11月12日であるのに,甲19の宛先が被控訴人であるのに対し,甲
20はF代理の被控訴人となっているから,記載内容が信用できない旨指摘
するが,甲11及び被控訴人本人尋問の結果によれば,被控訴人はFのい
わゆる金主であることが認められるので,上記のとおり宛名が異なっていた
としても直ちに不自然であるとまではいえない。また,控訴人らは,甲21と
乙2の8(借用証書)を対比すると甲21には,第1条④「各回の支払金額」
のうちの1.に○が付され,金額欄に12000万」と記載されているのに対
し,乙2の8にはその記載がないから不自然である旨指摘する。しかし,乙
2の8は甲21の写しであって,その他の主要な部分の記載は同一であるこ
とを考慮すると,被控訴人が後日上記部分に加筆したものと窺われるが,
これをもって甲21の内容が不自然であるとまではいえない。
 その他,控訴人らは,上記各書証が不自然であるとしてるる指摘し,これ
らの書証がEの意思に基づいて作成されたものか疑わしい旨指摘するが,
上記各書証の成立を覆すに足りる証拠がないばかりか,上記第3の1(2)で
認定の事実,及び上記争いのない請求原因(3)のとおり,Eは,被控訴人の
求めに応じて,原判決別紙物件目録1記載の土地を同目録2及び3記載の
土地に分筆する手続をし,同目録2記載の土地について農地法所定の手
続を経て被控訴人に対し,所有権移転登記を経由していることに照らすと,
上記各書証に若干不整合な部分があるとしても主要な部分については不
自然な部分はないから,控訴人らの上記指摘は採用できない。
 なお,乙11(G司法書士の回答書)には,被控訴人,D,Eの3人がG司法
書士事務所で何度か根抵当権設定のために書類を交わし,その意思確認
をしたことは間違いないが,同司法書士において,何千万円もの現金がこ
の事務所内で動いたとは認識しておらず,同事務所は2室だけであるの
で,何千万円もの現金の授受を見落としたとは考えられない旨の記載部分
がある。しかしながら,他方,同司法書士は担保が金銭消費貸借と切り離
された根抵当権と思い,金銭授受に立ち会わなくてもよいと考えていた旨
の記載部分があることを考慮すると,同司法書士は現金授受の場面に立
会することを予定していなかったものであるから,上記記載部分のみでは
現金授受がなかったものと認めることはできない。また,控訴人AもEが現
金を見ていないと話していた旨供述するが,同供述を裏付ける証拠がない
ので,採用し難い。また,控訴人Aは,Dが1億2000万円も借りていない旨
話していた旨供述するが,乙4の3の記載中には,Dは確実な金額が分か
らないと述べつつ,他方で毎月240万円の利子を支払っていると述べるな
どあいまいな供述をしているので,控訴人Aの上記供述部分も採用できな
い。
 以上のとおり,抗弁は正当な主張であるが,さらに再抗弁が認められる。
3 再々抗弁
(1) 錯誤について
 控訴人らは,上記第2の8(1)のとおり,本件連帯保証契約はEの錯誤によ
り無効である旨主張する。
 しかしながら,同人の錯誤を認めるに足りる証拠はないので,上記主張は
採用できない。
(2) 公序良俗違反について
 控訴人らは,上記第2の8(2)のとおり,被控訴人の行為は公序良俗に反
する旨主張するが,原判決5頁15行目「人的物的担保制度」から17行目
「主張,立証はない。」までのとおり,控訴人らの主張は理由がないので,こ
れを引用する。
したがって,再々抗弁は認めることができない。
第4 結論
 よって,被控訴人の請求を認容した原判決は相当であり,本件控訴は理由
がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第2部
裁判長裁判官    熊  田  士  朗
 
裁判官    川  添  利  賢
裁判官    玉  越  義  雄

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