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判決 平成14年7月25日  神戸地方裁判所 平成13年(わ)第1265号
窃盗被告事件
           主       文
    被告人を懲役2年に処する。
    未決勾留日数中170日をその刑に算入する。
           理       由
(罪となるべき事実)
 被告人は,平成13年10月27日午後9時30分ころから同日午後10時ころ
までの間,神戸市a区bc丁目d番e号先路上において,同所に駐車中のA所有に
係る普通乗用自動車1台(時価約10万円相当)及び現金約1,000円在中の小
銭入れ財布等6点(時価合計約10万3300円相当)を窃取したものである。
(証拠)
(省略)
(事実認定の補足説明)
 1 弁護人は,本件自動車について被告人が友人に紹介されて乗っていた自動車
が盗難自動車であっただけであり,本件犯行日時に被告人にはアリバイがあるか
ら,被告人が本件自動車や現金約1000円在中の小銭入れ財布等6点を窃取した
事実はなく,被告人は無罪である旨主張し,被告人もこれに沿う供述をするので,
以下補足して説明する。
 2 関係各証拠によれば次の事実が認められる。
 ・被告人はB商店街のフリーマーケットに出店しているところ,平成13年10
月27日土曜日の同フリーマーケットの出店が認められている時間は概ね午前10
時から午後9時ころまでの間であり,フリーマーケットから本件犯行現場は約20
メートルの距離にある。本件犯行場所と後記Cの距離は約2.31キロメートル,
Cから後記Dまでの距離は約88.5メートルである。
 ・平成13年10月27日午後7時40分ころ,被告人は残代金15万円を支払
えなかったため,購入して引渡を受けてフリーマーケットの商品運搬のために使用
していた普通乗用自動車バンをレッカー移動された。
 ・平成13年10月27日午後9時30分ころから同日午後10時ころまでの間
に,本件自動車並びに同車内にあった発電機1台,現金約1000円在中の小銭入
れ財布1個,鍵束1個,印鑑1個,預金通帳(F銀行B支店,口座番号35694
63)1冊及び国民健康保険証1冊が,神戸市a区bc丁目d番e号先路上に駐車
中,盗難被害にあった。
 ・上記被害現場は被告人の住居のマンションの真下である。
 ・前記被害品のうち,本件自動車内にあった預金通帳1冊及び国民健康保険証1
冊について,平成13年10月30日午前11時50分ころ,神戸市a区gh駅東
口付近において,拾得された。
 ・本件被害の12日後の平成13年11月8日午後2時ころ,神戸市i区j町k
丁目l番m号先路上に駐車していた本件自動車に被告人が近寄り,エンジンキーで
本件自動車左側ドアを開け荷物を積み込み始めた。
 ・被告人は,平成13年11月12日,前記被害品のうち小銭入れ財布1個及び
鍵束1個を自己の部屋に所持していた。
 ・被告人は,電気製品卸売の会社を経営し,月約40万円の収入を得ていた旨の
被告人の供述(警察官調書,乙2)部分もあるが信用することができない。被告人
は,平成12年12月20日ころ,賃借していた店舗の1週間分の家賃(5万25
00円)のうち3日分しか支払うことができず,その店舗を貸主に明け渡したこ
と,被告人は,本件犯行の約半年前の平成13年5月11日から,生活保護を受給
していたこと,被告人は,平成13年9月分からの携帯電話通話料金を滞納し,本
件犯行の約2週間後の平成13年11月13日にその利用が停止されていることが
認められるからである。
 3 被告人の弁解について。
 被告人は終始自己が窃盗犯人であることを否定し続けているので,被告人の弁解
について検討する。
 (1) 平成13年11月8日,現認状況報告書(甲34)によれば,警察官から職
務質問を受けた際に,被告人は警察官から本件自動車が盗難車であることを告げら
れたが,本件自動車について友達から借りたものであるが,誰から借りたものであ
るかは言えない,また,盗難車であるとは知らなかった旨弁解した。
 (2) 被告人の同年11月8日付け警察官調書(乙1)では,被告人は,本件自動
車について,息子から車が欲しいと頼まれていたことから友人らに手頃の車の斡旋
を依頼していたところ,小学校時代からの友人で神戸市内の会社社長から連絡があ
り,同年10月末に,神戸市a区n町o丁目所在のG店前で,本件自動車を紹介さ
れた。同人から代金については10万円と言われたが,とりあえず借りることにな
った。ただ,社長の住所・名前等については,社長が地区の代表世話人等もしてお
り迷惑がかかるので,申し上げることはできない旨弁解した。
 (3) 被告人の同年11月10日付け弁解録取書(乙19)では,被告人は,本件
自動車について知人から借りた車であって,その知人の名前は知らない旨弁解し
た。
 (4) 被告人の同年11月13日付け警察官調書(乙3),同月14日付け警察官
調書(乙4)では,本件自動車は「H」なる人物に紹介され,同年11月2日,前
記G店前で「H」から頼まれた者から受けとった旨弁解した。すなわち,被告人
は,同年10月中旬ころ,B商店街で,以前スナックで客同士として知り合った
「H」なる人物と久しぶりに出会った。路上で同人と立ち話をする中で,同人に対
し「安くていい車があれば教えて欲しい。」旨告げて,乗用自動車の斡旋を依頼し
た。その後,被告人は,同月末ころに,B商店街で再び「H」なる人物と偶然出会
った。その際同人から本件自動車を紹介され,同年11月2日午後2時ころ,前記
G店前で,同人の知り合いから本件自動車の引渡しを受ける旨約束した。代金につ
いては10万円ということであったが,「H」なる人物が,同年11月10日また
は11日ころ,被告人の出店するフリーマーケットに会いに来るので,被告人が本
件自動車に乗って気に入ればその際支払ってくれればよいということであった。同
年11月2日午後2時ころ,約束のとおり前記G店前で被告人が待っていると,
「H」なる人物に頼まれて持ってきたという50歳くらいの男が本件自動車を運転
してやって来て,被告人に対し「頼まれただけですから」と述べて,名前も名乗ら
ずエンジンキーの付いた本件自動車を引渡した。引渡しを受けた際に本件自動車内
を確認したが,車内には何もなかった旨弁解した。
 (5) 被告人の同年11月16日付け検察官調書(乙12)では,被告人は前記E
を1台所有しているので,他の自動車を盗む必要や理由はない。ただ,Eについて
は,同年10月27日より後の日に,タイヤ交換のため購入先の「I」に預けた。
したがって,「H」なる人物の紹介で本件自動車の引渡を受けた際に,Eはなかっ
た。なお,本件自動車の引渡を受けた際に車内を確認したところ,同車内に発電器
や小銭入れ財布など何1つなく,発電器や小銭入れ財布などをどこかに保管してい
ることはない旨弁解した。
 (6) 被告人の同年11月22日付け警察官調書(乙9)では,被告人の知り合い
の中に,「H」という名前やあだ名の者は本件自動車を紹介してくれた「H」なる
人物以外にはおらず,同人は,携帯電話は持っているものの,被告人に架かってき
たことはないし,教えてくれたということもないと弁解した。
 (7) 被告人の同年11月22日付け警察官調書(乙10)では,被告人方で押収
された携帯電話番号が記載されたメモについて,今回本件自動車を紹介してくれた
「H」なる人物から,被告人の自宅の留守番電話に,「Hですけど,今から言う電
話番号に電話下さい。」との伝言が録音されていたため,同年11月6日にその電
話番号をそのメモに記載した。メモに記載されている番号は,本件自動車を紹介し
てくれた「H」なる人物の電話番号である旨弁解した。
 (8) 被告人の同年11月26日付け警察官調書(乙11)では,同年11月12
日に被告人方を捜索差押した際押収した本件被害品の小銭入れ及び鍵束について,
これまで言い忘れていたが,同品は本件自動車を預かった日に車内を点検した際に
発見したが,前に使用していた人の持ち物で大事な物であると思い,家に持ち帰っ
て保管していた,被告人が使用していたEについては,購入残代金15万円を支払
うことができず,同年10月27日午後4時ころ,購入先に返した旨弁解した。
 (9) 被告人の同年11月28日付け検察官調書(乙13)では,前記メモに記載
された番号の携帯電話使用者であるJという人物が,車の世話をしたことはない旨
述べていることを捜査官より指摘されると,Jが本件自動車を被告人に紹介してく
れた「H」なる人物と同一人かどうかわからない,ないしは,違う旨弁解した。
 (10) そして,公判では,捜査段階の当初に本件自動車を紹介してくれた「H」
なる人物について捜査官に述べなかったのは,「H」なる人物が自分に窃盗被害品
の自動車を貸したとは信じられず同人をかばったからであって,職務質問を受けた
翌日(11月9日)には,それについて納得して,同人をかばう気持ちはなくなっ
たので,それから同人の名前を捜査官に告げた旨弁解している。
 4 そこで,前記3の被告人の弁解を検討する。
 ・初期には(前記3の(1)ないし(3))では,本件自動車の譲渡人について,小学
校時代からの友人で会社の社長ないしは知人であるがその名前は言えない,ないし
は,知らない旨弁解していたものの,その後,以前スナックで知り合った「H」な
る人物である旨弁解し,その弁解を大きく変遷させている。被告人は,その所持す
る本件自動車が盗難車であることを告げられ窃盗犯人の嫌疑を持たれているにもか
かわらず,本件自動車の譲渡人について捜査段階の当初から明らかにせず,しか
も,被告人から,前記のように譲渡人についての供述を変遷させた理由について合
理的な説明がなされていないのである。この点,被告人は公判において前記3
の(10)のとおり弁解するが,職務質問を受けた2日後(11月10日)に作成され
た弁解録取書における弁解と矛盾するものであって,合理的な説明がなされている
と到底いうことはできない。
 ・被告人の留守番電話に携帯電話の番号の伝言を残してくれた「H」なる人物が
本件自動車の紹介者である旨明確に弁解していたものの(前記3の(6),(7)),そ
の弁解に基づいて特定されたJが被告人に対して本件自動車を紹介しておらず,そ
の弁解が明らかに虚偽であることが判明すると,Jが本件自動車を被告人に紹介し
てくれた「H」なる人物と同一人かどうかわからない旨弁解を変遷させている。
 ・被告人は,「H」なる人物とは震災前にスナックで互いに客として来ていたこ
とから知り合ったのであって,その者は身長160センチメートルくらい,丸顔の
小太り,年齢45歳ないしは50歳くらい,色白,頭髪5分刈りなどの特徴を有し
ていると供述するものの,その氏名,住所,連絡先は全く不詳なのであって,その
者の存在自体が疑わしいといわざるを得ない。仮に「H」なる人物が存在していた
としても,かつてスナックで知り合い,路上で数年ぶりに再会したというほどに疎
遠の間柄であるところ,連絡先はもちろん氏名さえきちんと分からない男に対し,
被告人が再会した際に自動車の紹介を依頼していたところ,その後路上で偶然再会
した際にその男から本件自動車の紹介を受け,代金については被告人の出店するフ
リーマーケットにその「H」なる人物が後日受け取りに来るという不確かな約束を
し,本件自動車については「H」なる人物の指定するところにしたがって,後日
「H」に頼まれた者から本件自動車の引渡を受けたというような内容自体不自然で
ある。
 ・被告人の引渡を受けたとされる際の本件自動車内の状況の弁解ついても,前記
小銭入れ財布及び鍵束に関する当初の弁解内容は不自然に変遷している。すなわ
ち,小銭入れ財布を大事なものであると思い被告人方で保管していたにもかかわら
ず,捜索により発見され指摘されるまで言い忘れていたというのは不自然である。
 ・以上の検討からすると,被告人のこの弁解は,信用することができない。
 5 被告人は本件犯行日時にアリバイがある旨主張しているから,被告人の主張
するアリバイについて検討する。
 ・被告人が主張するアリバイは概ね以下のとおりである。すなわち,被告人は本
件犯行日の平成13年10月27日午後5時ないしは午後5時30分ころ,B商店
街のフリーマーケットの店を閉めた。そして,午後7時ないしは8時ころ,神戸市
i区pq丁目r番地所在の「C」に飲みに行った。その後,同店近くの神戸市i区
j町k丁目s番t号所在のバー「D」に行き,被告人は,酒を飲みながら同店のマ
スターKと会話をし,同店を出て再度前記「C」に戻った。被告人は,同所におい
て,L,Mと飲食し,翌午前零時ころ,1人でタクシーで帰宅した。本件犯行当時
は前記飲食店内ないしは前記飲食店の間を移動中であった旨弁解する。
 ・そこで,被告人のアリバイの信用性について検討すると,L,Mの各公判供述
によれば,Lは,本件犯行日の平成13年10月27日の夜,N公会堂で行われた
友人の結婚式の2次会に出席した後,午後9時30分ころに会場を後にしたこと,
その後,Lは,午後9時ころに美容院の仕事が終わったMと落ち合って,午後11
時ころに居酒屋「C」に入店したこと,L,Mが「C」で飲食していたところ,被
告人が午後11時30分ころ来店したが,同店が満席だったので被告人はすぐに同
店を出たこと,したがって,L,Mが本件犯行日に被告人と一緒に飲食したことは
ないことが認められる。即ち,L,Mの供述は一致していること,Lにとっては友
人の結婚式2次会という記憶に残りやすい日であったこと,2次会の終わった日時
については,会場の裏付け資料があることから,両名の供述は信用できる。
 ・したがって,被告人の主張するアリバイは信用することができない。
 6 以上によれば,本件罪となるべき事実は優に認定できる。
(法令の適用)
罰条        刑法235条
未決勾留日数の算入 刑法21条
訴訟費用の不負担  刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
 本件は,被告人が普通乗用自動車1台及び同車内にあった現金約1,000円在
中の小銭入れ財布等6点を窃取した事案であるが,被害金額は少額とは言えないこ
と,被告人は,平成13年5月9日,窃盗(万引き及び自動車盗)罪で懲役1年6
月,3年間刑執行猶予の判決を受けておきながら,その判決のわずか約5か月後に
同種の本件犯行を敢行したものであって,被告人のこの種事犯に対する規範意識は
欠如していることからすれば,本件自動車ほか被害品の一部は被害者に還付されて
いること,被告人が本件で8か月余り身柄拘束されていること,前刑の執行猶予の
取り消しの点などの事情を考慮しても,本件は,被告人に対して,再度の刑執行猶
予の言渡しをなすべき情状に特に酌量すべきものがある事案とは認められず,主文
の刑期の実刑はやむを得ないところである。
(検察官の求刑・懲役2年6月)
 よって,主文のとおり判決する。
  平成14年7月25日
    神戸地方裁判所第12刑事部乙
           裁判官   前   田   昌   宏

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