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平成13年(ワ)第5737号 意匠権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結の日 平成13年10月2日
    判      決
          原       告     タキゲン製造株式会社
          訴訟代理人弁護士     浅田千秋
同水谷高司
          補佐人弁理士       増田 守
       被       告     日本ボデー・パーツ工業株式
会社
          訴訟代理人弁護士      河内 保
          同小林裕明
          同 山之内   桂
 補佐人弁理士       藤本 昇
          同鈴木活人
同薬丸誠一
           主      文
     1 原告の請求をいずれも棄却する。
     2 訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由
第1 請求
 1 被告は,別紙図面(1)ないし(4)記載の貨物トラックの荷台扉用開閉ハンドル
掛金を製造及び販売してはならない。
 2 被告は,原告に対し,金546万円及びこれに対する平成13年2月1日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
 1 争いのない事実等
  (1) 原告は,配電盤,冷凍冷蔵庫用ハンドル,トラックその他輸送車の扉開閉
用ハンドル掛金,蝶番等を製造販売する株式会社である。
    被告は,自動車ボデー材料及び用品の製造,加工,販売等を目的とする株
式会社である。
  (2) 原告は,次の意匠権(以下,「本件意匠権」といい,その登録意匠を「本
件意匠」という。)を有している。
    【出願日】      平成3年12月28日
    【登録日】      平成8年4月8日
    【登録番号】     第957117号
    【意匠に係る物品】  貨物トラックの荷台扉開閉用ハンドルの掛金
    【登録意匠】     別紙「意匠公報」記載のとおり
(3) 被告は,平成6年ころより,別紙「被告製品一覧表」記載の貨物トラック
の荷台扉開閉用ハンドル掛金(以下「被告製品(1)」等といい,これらをまとめて
「被告製品」という。)を販売している(なお,原告は,被告が被告製品を製造し
ている旨主張するが,被告はこれを争っている。)。
(4) 本件意匠に係る物品及び被告製品の使用態様
 本件意匠に係る物品及び被告製品は,いずれも貨物トラックの荷台後部に
装備され,観音開き式扉の開閉用ハンドルを,扉閉鎖時に扉に対して係止固定する
ために使用されるものである。  
2 事案の概要
  本件は,本件意匠権を有している原告が,被告に対し,被告製品の意匠が本
件意匠と類似しているから,被告による被告製品の製造販売行為は,本件意匠権の
侵害であると主張して,被告製品の製造販売の差止め及び損害の賠償を求める事案
である。
 3 本件の争点
  (1) 被告が製造販売している被告製品の意匠が本件意匠と類似しているかどう

  (2) 本件意匠権に明らかな無効理由が存在するかどうか
(3) 原告の損害等
第3 争点に関する当事者の主張
 1 争点(1)について
  【原告の主張】
(1) 本件意匠に係る物品は,貨物トラックの荷台扉の開閉ハンドルを荷台扉に
係止固定するための掛金で,荷台扉表面に設置され,需要者(使用者)に対し,意
匠正面図の形状が正対するように設置し使用されている。したがって,本件意匠
は,扉表面から容易に視認できる正面図が要部となる。
  (2) 本件意匠は,やや縦長の長方形状の掛金レバーと,扉に掛金全体を固定す
るための固定台座(以下「本体基台」という。)からなり,本体基台は,以下の特
徴を持つ形状をしている。
ア この掛金レバーを起伏自在に嵌合するための割り溝を正面中央部上下方
向に設け,
イ 上辺が下辺に比較して明らかに長く,各角にやや丸みを持たせ,尻すぼ
みした印象を強く受ける下方に凸形をした六角形状で,
ウ 上部4分の1ほどには,上下方向に,ケース幅に対してかなり細い3本
の直線状の凸部を設けてアクセントを付け,
エ 掛金レバーが,ケース中央部に設置され,意匠全体が左右対称に形成さ
れている。
  (3) 被告製品は,貨物トラックの荷台扉の開閉ハンドルと荷台扉に係止固定す
るための掛金で,荷台扉表面に設置され,需要者(使用者)に対し,正面図の形状
が正対するように設置し使用されている。したがって,被告製品は,扉表面から容
易に視認できる正面図が要部となる。
(4) 被告製品の意匠の構成は,やや縦長の長方形状の掛金レバーと,扉に掛金全
体を固定するための固定台座(本体基台)からなり,本体基台は,以下の特徴を持
つ形状をしている。
ア この掛金レバーを起伏自在に嵌合するための割り溝を正面中央部上下方
向に設け,
イ 上辺が下辺に比較して明らかに長く,各角にやや丸みを持たせ,尻すぼ
みした印象を強く受ける下方に凸形をした六角形状で,
ウ 上部4分の1ほどには,上下方向に,ケース幅に対してかなり細い3本
の直線状の凸部を設けてアクセントを付け,
エ 掛金レバーが,ケース中央部に設置され,意匠全体が左右対称に形成さ
れている。
(5) したがって,被告製品の意匠と本件意匠とは類似している。
  本件意匠については,別紙「類似意匠公報」記載の類似意匠(以下「本件
類似意匠」という。)が登録されているところ,本件類似意匠は,被告製品(1)の意
匠と同じものである。このことは,被告製品の意匠が本件意匠と類似していること
を示している。
(6) 被告が主張する公知意匠と本件意匠の正面図を比較すると,公知意匠は,
正面視した時の本体基台上辺が下辺に比べて明らかに短く,かつ,その長さの違う
上辺と下辺をつなぐために左右側辺を対称に角づけした形状で,先細りの印象を与
えるのに対し,本件意匠は,正面視した時の本体基台下辺が上辺に比べて明らかに
短く,かつ,その長さの違う上辺と下辺をつなぐために左右側辺を対称に角づけし
た形状で,尻すぼみの印象を与える。
  被告製品の正面視の形状を,本件意匠の正面視の形状と比較すると,本体
基台の下辺が上辺に比べて短い形状は同じで,それをつなぐ左右側辺の形状がやや
異なるだけである。そして,やや異なる部分は,左右側辺の角づけ角度が,被告製
品の方がやや鈍角であるのに対し,本件意匠はやや直角というだけである。
  そうすると,上記公知意匠の存在を考慮しても,被告製品の意匠と本件意
匠とは類似している。
  【被告の主張】
  (1) 日本フルハーフ株式会社(以下「日本フルハーフ」という。)出願に係る
別紙「公開特許公報」(平成3年2月25日公開)記載の図面(第1ないし第4
図,第6図,第10図,第13図)で図示された形状,平成3年6月10日発行の
雑誌に別紙「雑誌掲載写真」のとおり掲載された日本フルハーフのドアロック装置
「ナイスキー」の形状,日本フルハーフが平成2年ころから販売している別紙「出
願前製品目録」記載の製品の形状及びフランスのポエミ社のカタログに記載された
別紙「カタログ図面」の形状からすると,本件意匠は,これらの形状の限度におい
て公知ないし周知であるから,上記形状と同一部分に関しては何ら新規な創作ポイ
ントではない。
(2) 上記公知意匠を斟酌すると,本件意匠の要部は,正面視における全体の形
状が略T字状を基調としている点にある。これに対し,被告製品の意匠は,いずれ
も正面視における全体の形状が縦長の略逆台形状を基調としている。そうすると,
本件意匠と被告製品の意匠とは,要部の形状が異なるというべきであるから,類似
しない。
(3) 本件類似意匠には,略T字状を基調にした正面視の形状が全く表れていな
いから,本件意匠と非類似である。したがって,本件類似意匠が本件意匠の類似意
匠として登録されたことは誤りであるというべきである。
 2 争点(2)について
【被告の主張】
 本件意匠は,特許庁において,意匠法3条1項3号違反に基づいて,同法4
8条1項1号の無効理由があると判断されたところ,この判断は正当なものであ
る。そうすると,原告の本件請求は,無効な意匠権に基づくものであるから,権利
の濫用である。
【原告の主張】
 被告は,本件意匠権を無効であるとした特許庁の審決に対して,審決取消訴
訟を提起した。特許庁の判断は,誤っており,取り消されるべきである。また,本
件意匠権について無効であるとの判断が確定するまでは,原告が本件意匠権に基づ
いて権利行使ができることは法制度上明白である。
 3 争点(3)について
【原告の主張】
  (1) 原告は,株式会社パブコに対し,平成11年11月まで毎月本件意匠権を
実施した製品を販売し,その売上げは,少なくとも毎月156万円であった。
  (2) 原告製品の粗利益率は,25%であり,この売上減少による損害は,14
か月分の売上相当額2184万円の25%である546万円となる。
  【被告の主張】
   原告の主張はすべて争う。
第4 争点に対する当裁判所の判断
 1 争点(1)について
(1) 本件意匠の構成
 ア 証拠(甲1)及び弁論の全趣旨によると,本件意匠の構成は,以下のと
おりであると認められる(数字及びアルファベットの表記は,別紙「対比表」記載
のものである。)。
   (ア) 基本的構成態様
      本件意匠は,別紙「対比表」記載のとおり,底部に開口部1を有する
本体基台2上に平面視又は底面視略台形状の起立台3が設けられ,起立台3の上面
には正面視上向きの略コの字状の開口部4が開設され,開口部4には背面側のスプ
リング5に付勢され支点Aを中心に回動自在の掛金レバー6が本体基台2の中央長
手方向に沿って設けられていると共に,その先端部に下向きのフック部6aが形成
されており,本体基台2は,その正面視の形状が起立台3を立設した縦長の本体2
a側については両側が平行な直線状部7,7に形成され,平行な直線状部7,7か
ら上方へは外向き傾斜部2b,2bを介して上方側2cが大きな幅広部2dとして
形成されることで,全体として略T字状を基調としてなる構成を,その基本的構成
態様とする。
(イ) 具体的構成態様
     本件意匠は,本体基台2において,外向き傾斜部2b,2b内に1対
のネジ孔9,9が穿設され,上方側2cの両隅が平坦面となっており,さらに幅広
部2dの上面には縦長状に3条の縦リブ8が突設されており,略コの字状の開口部
4には掛金レバー6の根元部6bの両側に開口部より幅広な切欠部10が形成さ
れ,起立台3の上面には掛金レバー6の下方にシリンダ錠取付孔11とネジ孔12
が設けられ,掛金レバー6はその先端部に設けたフック部6aが垂直部6cと傾斜
部6dから形成され,その先端が本体基台2の上端部よりやや下方に位置してなる
構成を,その具体的構成態様とする。
   イ この点,原告は,本件意匠の基本的構成態様のうち,本体基台が全体と
して「略T字状を基調としてなるもの」(上記下線部分)ではない旨主張する。
     しかし,上記ア認定のとおり,本体基台は,その正面視の形状が起立台
3を立設した縦長の本体2a側については両側が平行な直線状部7,7に形成さ
れ,平行な直線状部7,7から上方へは外向き傾斜部2b,2bを介して上方2c
側が大きな幅広部2dに形成されているから,本体基台は,「略T字状を基調とし
てなるもの」であると認められる。
     したがって,原告の上記主張は採用することができない。
  (2) 被告製品の意匠構成
    証拠(検甲1ないし4)及び弁論の全趣旨によると,被告製品(1)ない
し(4)の意匠の構成は,次のとおりであると認められる(数字及びアルファベットの
表記は別紙「対比表」記載のものである。)。
 ア 被告製品(1)について
    (ア) 基本的構成態様
      被告製品(1)は,底部に開口部1を有する本体基台2上に平面視又は
底面視略台形状の起立台3が設けられ,起立台3の上面には正面視上向きの略コの
字状の開口部4が開設され,開口部4には背面側のスプリング5に付勢され支点A
を中心に回動自在の掛金レバー6が本体基台2の中央長手方向に沿って設けられて
いると共に,その先端部に下向きのフック部6aが形成されており,本体基台2
は,その正面視の形状が,起立台3を立設した本体2a側の両側2e,2eについ
ては,手前側から上方へ順次外向きに幅広傾斜したテーパ状に形成され,その上方
で起点Fを介して上方側2cの両側が直線状部2f,2fとして形成されること
で,全体として縦長の略逆台形状を基調としてなる構成を,その基本的構成態様と
する。
    (イ) 具体的構成態様
      被告製品(1)は,本体基台2の上方側2cの両側下端部には1対のネ
ジ孔7,7が,さらにその上方には1対の横長孔8,8がそれぞれ穿設されると共
に,上方側2cの上方両隅部には,隅方向へ傾斜するカット面Dが形成され,上方
側2cの上面には縦長状に3条の縦リブが突設され,略コの字状の開口部4におい
ては,掛金レバー6の根元部6bの上面に略小判状の凹状部9が形成されると共
に,根元部の両側に開口部4より幅広な切欠部10が形成され,起立台3の上面に
は掛金レバー6の下方にシリンダ錠取付孔11とネジ孔12が設けられ,掛金レバ
ー6は,その先端が本体基台の上端部2gと略同面に位置すると共に,先端のフッ
ク部6aが嘴状の尖鋭な形状からなり,その両側面に1対の長孔13が貫通されて
いる構成を,その具体的構成態様とする。
 イ 被告製品(2)について
  (ア) 被告製品(2)の基本的構成態様は,被告製品(1)の構成態様と同様であ
る。
  (イ) 被告製品(2)と被告製品(1)との相違点は,具体的構成態様において,
掛金レバーの根元部の上面に形成された凹部が略D字状を呈しており,掛金レバー
の先端が本体基台の上端部よりやや下方に位置しているという点である。  
 ウ 被告製品(3)について
  (ア) 被告製品(3)の基本的構成態様は,被告製品(1)の構成態様と同様であ
る。
  (イ) 被告製品(3)と被告製品(1)との相違点は,具体的構成態様において,
掛金レバーの根元部の上面に形成された凹状部が略D字状を呈しており,掛金レバ
ーの先端が本体基台の上端部より下方(被告製品(2)よりもやや下方)に位置してい
るという点である。
 エ 被告製品(4)について
  (ア) 被告製品(4)の基本的構成態様は,被告製品(1)の構成態様と同様であ
る。
  (イ) 被告製品(4)と被告製品(1)との相違点は,具体的構成態様において,
掛金レバーの根元部の上面に横5列縦6列の小突起群が形成されており,掛金レバ
ーの先端は本体基台の上端部よりやや突出しているという点である。
 オ この点,原告は,被告製品の意匠の基本的構成態様のうち,本体基台が
全体として「縦長の略逆台形状を基調としてなるもの」(上記下線部分)ではない
旨主張する。
     しかし,上記アないしエ認定のとおり,被告製品においては,本体基台
2は,その正面視の形状が,起立台3を立設した本体2a側の両側2e,2eにつ
いては,手前側から上方へ順次外向きに幅広傾斜したテーパ状に形成され,その上
方で起点Fを介して上方側2cの両側が直線状部2f,2fとして形成されている
から,「縦長の略逆台形状を基調としてなるもの」と認められる。
     したがって,原告の上記主張は採用することができない。
 カ また,被告は,被告製品の上方側2cの上面に縦長状に3条の縦リブが明
確に突設されている(上記下線部分)とはいえないと主張するが,証拠(検甲1な
いし4)と弁論の全趣旨によると,上記縦リブが明確に突設されていることが認め
られる。
  (3) 本件意匠と被告製品の共通点
    本件意匠の構成と被告製品の意匠の構成は,以下の点で共通している。
ア 基本的構成態様
    底部に開口部を有する本体基台上に平面視又は底面視略台形状の起立台
が設けられ,起立台の上面に略コの字状の開口部が開設され,開口部には背面側の
スプリングに付勢され支点を中心に回動自在の掛金レバーが本体基台の長手方向中
央に設けられると共に,レバーの先端部には下向きのフック部が形成されている構

イ 具体的構成態様
  起立台の上方側の両側下端部にネジ孔が設けられ,本体基台の上方側の
上面には縦長状に3条の縦リブが突設され,掛金レバーの根元部の両側に開口部よ
り幅広な切欠部が形成され,掛金レバーの下方部にはシリンダ錠取付孔とネジ孔が
設けられている構成
  掛金レバーのフック部の先端が本体基台の上端部よりやや下方に位置し
ている構成(被告製品(2)及び(3))
  (4) 本件意匠と被告製品の相違点
    上記本件意匠の構成と被告製品の意匠の構成は,以下の点で相違してい
る。
ア 基本的構成態様
 本体基台の正面視の形状に関し,本件意匠は,縦長な本体の両側が平行
な直線状部として形成されており,平行な直線状部から上方へ,両側の外向き傾斜
部を介して上方部分が幅広部として形成されているため,全体が略T字状を基調と
した形状となっているのに対し,被告製品においては,本体の両側が手前側から上
方に向けて順次外向きに幅広な傾斜状のテーパ部として形成されており,テーパ部
から上方へ,両側の起点を介して略平行な直線状部として形成されているため,全
体が縦長の略逆台形状を基調とした形状となっている。
   イ 具体的構成態様
 (ア) 本件意匠においては,1対のネジ孔は,幅広部の両側下端部の傾斜部
内に設けられているが,被告製品においては,1対のネジ孔が,テーパ部から直線
状部への起点の両側に設けられている。
 (イ) 本件意匠の掛金レバーの先端に設けられたフック部は,垂直部と傾斜
部から形成されているが,被告製品においては,掛金レバーのフック部は嘴状の尖
鋭な形状からなり,先端部側面には長孔が形成されている。
 (ウ) 被告製品においては,掛金レバーの根元部の上面に凹部又は小突起群
が形成されているが,本件意匠には,このような凹部又は小突起群が存在しない。
 (エ) 本件意匠においては,本体基台の上方両隅が平坦面となっているのに
対し,被告製品においては,本体基台の上方両隅部を隅方向へ傾斜するカット面が
形成されている。
 (オ) 被告製品においては,本体基台の上端部に1対の長孔が形成されてい
るが,本件意匠には,このような長孔が存在しない。
 (カ) 本件意匠においては,掛金レバーのフック部の先端が本体基台の上端
部よりやや下方に位置しているが,被告製品(1)においては,掛金レバーの先端が本
体基台の上端部と略同面に位置し,被告製品(4)においては,掛金レバーの先端は本
体基台の上端部よりやや突出している。
  (5) 公知意匠の構成等
    証拠(乙3,乙4の1,2,乙5)及び弁論の全趣旨によると,以下の事
実が認められる。
   ア 日本フルハーフは,遅くとも平成3年6月ころには,別紙「出願前製
品」目録記載の製品を販売していた。
   イ 日本フルハーフ出願に係る別紙「公開特許公報」(平成3年2月25日
公開)には,同図面第1ないし第4図,第6図,第10ないし第13図のとおり,
扉開閉用ハンドルの掛金が図示されている。
ウ 上記ア記載の商品の意匠及び上記イ記載の図面の意匠は,いずれも,
「底部に開口部を有する本体基台上に平面視又は底面視略台形状の起立台が設けら
れ,起立台の上面に略コの字状の開口部が開設され,開口部には背面側のスプリン
グに付勢され支点を中心に回動自在の掛金レバーが本体基台の長手方向中央に設け
られると共に,レバーの先端部には下向きのフック部が形成されている構成」を有
している。
エ 上記ア記載の商品の意匠及び上記イ記載の図面の意匠は,いずれも,
「本体基台の上端部の左右両肩部分が斜めに欠除されることによって,上に向かう
ほど横幅寸法が減少していく先細り形になっており,本体基台の正面視における全
体形状は,下辺が上辺と比較して明らかに長く,上向きに凸のイメージを有する形
状」である。
  (6) 本件意匠と被告製品の意匠との対比
   ア 上記(5)で認定した事実によると,本件意匠の基本的構成態様のうち,
「底部に開口部1を有する本体基台2上に平面視又は底面視略台形状の起立台3が
設けられ,起立台3の上面には正面視上向きの略コの字状の開口部4が開設され,
開口部4には背面側のスプリング5に付勢され支点Aを中心に回動自在の掛金レバ
ー6が本体基台2の中央長手方向に沿って設けられていると共に,その先端部に下
向きのフック部6aが形成されている構成」は,本件意匠の出願前において公知で
あったと認められるから,本件意匠の基本的構成態様のうち,この部分は,看者の
注意を引く部分ということはできない。本件意匠の基本的構成態様のうち,看者の
注意を引く部分は,「本体基台2は,その正面視の形状が起立台3を立設した縦長
の本体2a側については両側が平行な直線状部7,7に形成され,平行な直線状部
7,7から上方へは外向き傾斜部2b,2bを介して上方側2cが大きな幅広部2
dとして形成されることで,全体として略T字状を基調としてなる構成」にあるも
のというべきである。
   イ しかるところ,被告製品の意匠は,前記(4)認定のとおり,上記認定に係
る本件意匠の基本的構成態様のうち,看者の注意を引く部分の構成が異なってい
る。
     また,被告製品の意匠は,前記(4)認定のとおり,具体的構成態様におい
ても,本件意匠とは,多くの点で相違している。
   ウ したがって,被告製品の意匠は,本件意匠と類似しているとは認められ
ない。
   エ 原告は,本件意匠と被告製品の意匠との基本的構成態様の相違につい
て,張り出した部分の角度が,多少鈍角か鋭角かの微妙な違いがあるにすぎない旨
主張する。
     しかし,すでに認定したとおり,本体基台の正面視の形状に関し,本件
意匠は,全体が略T字状を基調とした形状となっているのに対し,被告製品におい
ては,全体が縦長の略逆台形状を基調とした形状となっているのであるから,その
違いは,原告が主張するような微妙な違いにすぎないとは到底認められない。
   オ また,証拠(甲4)及び弁論の全趣旨によると,別紙「類似意匠公報」
記載の類似意匠(本件類似意匠)が登録されているところ,本件類似意匠は,被告
製品(1)の意匠と同じものであることが認められる。
     しかし,意匠の類否は,本件意匠との対比によって決せられるべきであ
るうえ,被告製品(1)の意匠は,すでに認定したとおり,本件意匠とは類似しないの
であるから,本件類似意匠登録は,本件意匠と類似しない意匠についてされたもの
というべきである。
 2 以上の次第で,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく理由
がないから,主文のとおり判決する。
 
東京地方裁判所民事第47部
  裁判長裁判官森 義之
  裁判官内藤裕之
  裁判官上田洋幸
(別紙)
図面(1)ないし(4)(訴状の添付図面)
被告製品一覧表(乙2) 
雑誌掲載写真(乙4の2)
出願前製品目録(乙5) 
カタログ図面(乙10の3)
対比表(乙1)

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