弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     当審における未決勾留日数中六〇日を原判決の本刑に算入する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人池田清治および被告人がそれぞれ差し出した各控訴趣
意書に記載してあるとおりであるので、いずれもこれを引用し、これらに対し当裁
判所は、次のように判断をする。
 被告人の論旨について。
 所論は、
 原判示第二の事実につき。―私は飲酒のうえ、黒人兵と喧嘩をして殴られたこと
から、その報復として殴り返してやろうと思い、石を掴んで追いかけ、黒人兵がA
ビル内に逃げ込んだように思つたので、そのビルのBに対して、「憲兵隊のCだ」
と詐称はしたが、同人の同意を得て、二階まで行つたものであるから、建造物侵入
罪は成立しないのに原判決が、右事実を建造物侵入罪と認定、擬律したのは、判決
に影響<要旨>を及ぼすことが明らかなる事実の誤認をし、また法令の適用を誤つた
ものであるというのであるが、建造物侵入罪における侵入とは看守者の意に
反して建造物内に立ち入ることを意味するから、その真意に出た承諾を得て入るの
はもとより侵入ではなく、従つて建造物侵入罪を構成しないが、その承諾が錯誤に
基く場合には建造物侵入罪を構成するものと認むべきである。(最高裁判所判決昭
二三、五、二〇、集二、五、四八九参照)、本件についてこれをみるに、所論は被
告人は、暴行を受けた黒人兵に対し、報復として暴行を加える目的をもつて、Bに
対し、憲兵隊のCなる旨詐称して、その承諾を得、本件Aビル内に入つたというの
であり、そして、原判決にかかげてある関係証拠によれば、右所論の事実および右
Bが真実米国憲兵隊の者が犯人逮捕のためビル内に立ち入ることについて承諾を求
められたものと信じたことは十分これを認められ、更に、被告人が暴行を受けた黒
人兵に対する報復として暴行を加える目的であつたという真の事態を知れば、必ず
や被告人の申出を拒否したであろうという事情も十分窺われるのであつて、(な
お、右Bは同ビル内に所在するD株式会社の従業員で、同会社の寮が他所に建築完
了されるまで同ビル内一階の一部屋を仮寝室として宿泊していたに過ぎない者であ
つて、承諾権限のある看守者とするについても疑がある。)右Bは、被告人の申出
に承諾を与えたものの、右承諾は被告人の言動によつて、当時の事態について錯誤
に陥つたためなされたもので、真意に出でたものとなすことはできない。従つて、
原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認の疑かなく、また法令の
適用に誤がないことも明らかであるから、論旨は理由がない。
 (その余の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 加納駿平 判事 河本文夫 判事 清水春三)

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