弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を左の通り変更する。
     控訴人両名は被控訴人に対し名古屋市a区b町c丁目d番境内地三百四
十二坪一合の内(1)原判決添付図面中赤線で囲んだ部分(以下単に(1)の土地
と称する。)及(2)同青線で囲んだ土地の部分(以下単に(2)の土地と称す
る。)を、控訴人Aはその地上に在る別紙第一目録記載の建物及その附属設置物を
収去し別紙第二目録記載の建物から退去して、控訴人合資会社B(以下単に控訴人
Bと称する。)はその地上に在る別紙第二目録記載の建物及その附属設置物を収去
し別紙第一目録記載の建物から退去して明渡せ。
     被控訴人に対し控訴人Aは金二万九千九十七円を、控訴人両名は各自三
十万三干九百八十四円及昭和三十三年七月一日以降右(1)(2)の土地明渡済に
至るまで月五千六百七十八円の割合による金員を支払え。
     被控訴人の其の余の請求は之を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審共控訴人両名の負担とする。
     本判決は金員支払を命ずる部分に限り之を執行することが出来る。
         事    実
 第一、当事者双方の申立
 控訴人等代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求は之を棄却する。訴訟費用
は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄
却の判決並仮執行の宣言を求め、尚請求の趣旨を「主文第二項同旨並被控訴人に対
し控訴人Aは金四萬二千六十六円を、控訴人両名は各自金三十萬四千八百八十四円
及昭和三十年七月一日より主文掲記の(1)及(2)の土地明渡済に至るまで月金
五千六百七十八円の割合による金員の支払をせよ。訴訟費用は第一、二審共控訴人
両名の負担とする。」と訂正した。
 第二、当事者双方の事実上の陳述証拠の提出援用書証の認否は左記に訂正又は補
充する外原判決事実摘示と同一であるからここに之を引用する。
 (一) 被控訴代理人は控訴人Aは昭和二十二年三月頃主文掲記の(1)及
(2)の土地上に建物を建築し昭和二十八年九月一日から控訴人Bが之を借受け料
理業を営んで来たのであるがその后控訴人両名は右建物に増改築を加えて別紙第
一、二目録記載の建物等とし第一目録記載の建物等は控訴人Aの、第二目録記載の
建物等は控訴人Bの所有名義とし且控訴人両名は共同して右各建物を使用しその敷
地たる前記の(1)及(2)の土地を不法に占有しているものである。而して、右
不法占拠によつて控訴人等は被控訴人に対し相当賃料の割合による損害を加えてい
るものであるが、その損害額は次の通りである。即ち、控訴人Aは単独で昭和二十
五年四月一日から昭和二十八年八月末日まで月千二十六円の割合による合計四萬二
千六十六円を、控訴人両名は昭和二十八年九月一日以降昭和三十三年六月末日まで
別紙計算書の通り三十萬四千八百八十四円及同年七月一日以降土地明渡済に至るま
で月五千六百七十八円の割合による損害金を各自支払うべき義務があると述べた。
 (二) 控訴人等代理人は
 (1) 右被控訴人主張事実中控訴人Aが(1)及(2)の土地上に建物を建築
し被控訴人主張の如く控訴人Bが之を借受け料理屋業を営んで来たこと、被控訴人
主張の建物等の所有名義がその主張の通りになつていること、並右建物を被控訴人
主張の如く控訴人等が使用してその敷地たる本件(1)及(2)の土地を占有して
いることは之を認めるがその余の事実は之を争う。
 (2) 控訴人Aは右(2)の土地も(1)の土地と同時に旧光勝院から借受け
たものである。
 (3) 旧光勝院(被控訴人の前身)は昭和十七年六月十八日宗教団体法に基い
て宗教法人として登記をなして居りその后昭和二十年十二月二十八日宗教法人令が
施行せられたにも拘らず同令による登記は全然なされておらず、昭和二十六年四月
三日宗教法人法が施行されるや同法に依拠して昭和二十八年五月一日に至つて漸く
その登記をなしているに過ぎない。従つて、被控訴人の前身たる旧光勝院は宗教法
人令により保護される関係、即ち旧光勝院と善意の第三者間に生じ得べき若くは生
じたすべての法律関係において保護されないのである。のみならず本件賃貸借成立
当時即ち昭和二十一年頃は戦災直后であつて本件土地一帯は焼野原であつて寺院の
形態は全然存在せず、いずれの部分が境内地でいずれの部分が墓地であつたかその
境界すら不分明の状態であつた。換言すれば、宗教の目的を達成すべき境内地なる
観念も存在せず、即ち宗教の目的を達成すべきものは何一つ存在しないのであるか
ら旧光勝院が保護を求むべき対策が存在しなかつたというべきである。結局宗教法
人令施行当時は旧光勝院はその登記をなさず、且保護の実体を有せず被控訴人が本
堂再建を実現し得たのは宗教法人法施行后たる昭和二十八年末のことに属するから
本件は宗教法人法によつて律すべきである。
 (4) 仮に然らずとするも、本件賃貸借当時右の如く旧光勝院は寺院たる実体
を有しなかつたのであるから本件土地は境内地と目すべきではなく、従つてその処
分は寺院住職の自由である。仮に然らずとするも、賃貸借の如きは管理行為と認む
べきであつて処分行為ではないからいずれにせよ寺院住職が自由になし得る。
 (5) 仮に然らずとするも被控訴人が本堂再建当時工事従業員檀徒総代と覚し
き人物が控訴人等方に出入して工事用の水をくみ湯茶の用を足していたのであり、
此の間控訴人等方の建物の存在について何等の異議を述べなかつたのであるから檀
徒総代において本件賃貸借の締結を暗黙の内に承認していたものというべきであり
且本山においても之を承認していたものである。
 (6) 仮に然らずとするも名古屋市特に大須一帯の多数の寺院は戦前戦后を問
わず、檀徒総代等の同意を得ずして商人に境内地を賃貸し寺院経済の一財源となす
慣習が存していたのであり旧光勝院及控訴人Aも右慣習による意思を以つて本件賃
貸借を締結したのであるから控訴人Aは右慣習に基き正当に賃借権を取得したもの
である。
 (7) 仮に然らずとするも、控訴人Aが本件土地を賃借した昭和二十一年十二
月以前頃は戦災直后でありC自身食を求めるに困窮していた際であり仮に形式的に
檀徒総代が存在していたとしてもその同意を得ることは不可能の状態であつたから
その同意なくして賃貸借を締結しその窮境を打開するのはむしろ当然のことという
べきである。而して、控訴人Aは昭和二十四年頃には既に現在の規模の家屋を建築
していたものでありその后控訴人A等の本件土地使用に対し何等の異議を述べるこ
となく長日月を経た后も被告人代表者Cは控訴人Aより食事の提供を受ける等格段
の救済的恩義を受けておりながら之を仇で返し本訴請求をなすのは背徳行為という
べく宗教の本義にももとるものというべきである。而も、被控訴人としては広大な
る堂宇を建築すべき必要なく被控訴寺院の分相応の堂宇を建築すべき余地は十分に
存在する。従つて本訴請求は権利の濫用というべきであると述べた。
 (三) 被控訴代理人は右に対し旧光勝院は宗教団体法により宗教法人として登
記をなしたる以上宗教法人令が施行せられても同令附則により新にその登記を要せ
ざること明である。而して被控訴人は宗教法人法施行と共に同法附則第五項第十八
項により旧光勝院の権利義務を承認したものである。その余の控訴人等の右主張事
実はすべて之を争うと述べた。
 (四) 立証として、被控訴代理人は当審において甲第十三、十四号証、同第十
五号証の一、二、同第十六号証の一乃至三、同第十七乃至十九号証同第二十号証の
一乃至三、同第二十一号証の一、二を提出し証人D同Eの尋問を求め当審における
検証の結果を援用して第三号証同第九号証同第十二号証は不知、同七号証同第十号
証、同第十一号訂の一、二同第十三号証の成立を認め同第八号証中F、Cの署名捺
印は否認するかその余は成立を認めると述べた。控訴人等代理人は当審において乙
第八乃至十号証同第十一号証の一、二同第十二、十三号証を提出し証人G(二回)
同H、同Iの尋問を求め当審における検証の結果を援用し甲第十六号証の一乃至
三、同第十七号乃至十九号証、同第二十号証の一乃至三、同第二十一号証の一、二
の成立を認め同第十三、十四号証同十五号証の一、二の成立は不知と述べた。
         理    由
 被控訴人主張の日旧光勝院が宗教法人法の規定に従い設立の登記をなすことによ
り被控訴人となり被控訴人が旧光勝院の権利義務を承継したこと、控訴人Aが
(1)及(2)の土地上に建物を建築し被控訴人主張の如く昭和二十八年九月一日
から控訴人Bが之を借受け料理屋を営んでいたこと、被控訴人主張の別紙第一目録
記載の建物等が控訴人Aが同第二目録記載の建物等が控訴人Bの所有名義となつて
いること、右第一、二目録記載の建物を控訴人等が夫々被控訴人主張の如く使用し
その敷地たる本件(1)及(2)の土地を占有していることは当事者間に争がなく
成立に争のない甲第十七号証同第二乃至六号証原審における被控訴人代表者Cの供
述によれば控訴人等が控訴人Aが建築した右建物に増改築を加えて右第一、第二目
録記載の建物となしたことを認めることが出来る。
 控訴人等は控訴人Aは旧光勝院から本件土地を借受けた旨抗争するので此の点に
ついて判断する。控訴人Aが本件(1)の土地を旧光勝院から賃借したことは当事
者間に争がなく成立に争のない乙第一、二号証甲第八号証原審並当審における被控
訴人代表者の供述、原審における同供述によつて成立を是認すべき乙第三号証、
F、Cの署名捺印部分は当審における控訴本人Aの供述により成立を是認すべくそ
の余の部分は成立に争のない乙第八号証によれば旧光勝院の住職Cは昭和二十一年
末頃訴外Jの仲介で控訴人Aから戦災で焼失した旧寺の復興に協力して本堂の建築
をなし且都市計画のため旧光勝院がその所有権を喪失することとなるべき旧墓地の
回復を計るから寺院境内地の一部を借受けたい旨申込を受けたのでその条件の下に
之を承諾し、おそくとも昭和二十一年十二月二十六日までに境内地の一部なる前記
(1)の土地を同控訴人に対し期間の定なく建物所有の目的を以て賃料は月八百十
円(昭和二十四年二月以降は月千二百十五円)の約にて賃貸したことを認めること
が出来る。右認定に反する原審証人Gの証言原審における控訴本人Aの供述は各措
信しがたく他に右認定を左右するに足る証拠はない。然しながら控訴人Aが(2)
の土地を借受けたとの控訴人等主張事実については之に副う当審証人G(第一、二
回)の各供述は措信しがたく成立に争のない乙第四号証同第七号証当審における控
訴本人Aの供述当審証人Hの証言同証言により成立を是認すべき甲第七号証による
も前記Cは右(2)の土地を一且訴外Hに売却したが昭和二十二年七月頃右契約を
解除し既に受取つていた代金の内金二万円を返還するに当り旧光勝院が控訴人Aか
ら寄附を受けることとなつていた三万円の内金二万円を之に振向け控訴人Aに金二
万円を出捐せしめた事実を認め得るに止まり右(2)土地を控訴人Aが賃借した事
実を認めるに足らず他に右事実を認めるに足る証拠がない。
 被控訴人は右(1)の土地賃貸借につき檀徒総代等の同意を得ないから宗教法人
令第十一条に違反する旨主張し原審並当審証人K原審証人L、当審における被控訴
人代表者Cの供述によれば本件(1)の土地の賃貸借については当時檀徒総代三名
の内一名は死亡し他は疎開中で住所も明でなかつた関係上前記Cはその同意は勿
論、所属宗派の主管者の承認をも得ることなく締結したものなることを認めること
が出来る。右認定に反する当審証人G(第一回)の供述は措信しがたく他に右認定
を左右するに足る証拠がない。而して、宗教法人令は昭和二十年十二月二十八日施
行されたものであるがその后昭和二十六年四月三日現行宗教法人法によつて廃止せ
られるに至つたことは控訴人等主張の通りであるが本件賃貸借契約締結当時はあた
かも宗教法人令施行当時のことに属するから本件は宗教法人令によつて律すべきで
あつて控訴人等主張の如<要旨>く宗教法人法によつて律すべきものではない。而し
て、右の如く檀徒総代等の同意を得ずして寺院住職が単独でなした賃貸借は
処分の権限を有せざる管理人のなした賃貸借として民法第六百二条の期間を超えざ
る期間内に限り有効と認むべきであるが、之を超ゆる部分は無効と解すべきであ
る。けだし、賃貸借は長期のものに非ざる限り宗教法人令第十一条に所謂処分とは
認めがたいからである。本件賃貸借は前記認定の如く建物所有を目的とし期間の定
のない賃貸借であるけれども期間については借地法第二条の規定の適用はなく民法
第六百二条の適用の結果五年間に限り有効に存続することとなる。即ち、本件賃貸
借が締結せられた前記昭和二十一年十二月二十六日から五年間即ち、昭和二十六年
十二月二十六日まで本件賃貸借は存続することとなるわけであるが右期間満了に先
立ち被控訴人の前身たる旧光勝院が昭和二十五年十一月十三日本訴を提起したこと
は記録上明であるから被控訴人は右期間の更新を拒絶したものと認むべきであり月
右賃貸借が前記の如く檀徒総代の同意等を得ずして締結されたものなること、並後
記認定の如く被控訴人が本堂再建のため本件土地を必要とする事情に鑑みれば右更
新拒絶は正当の事由に基くものといわねばならない。されば、右賃貸借は昭和二十
六年十二月二十六日の満了を以て終了したものといわねばならない。
 控訴人等は旧光勝院は宗教法人令により登記していないから同令により保護され
ないというが、旧光勝院は控訴人等も認める如く宗教団体法によりその登記をなし
ている以上宗教法人令による登記をなす必要のないこと同令附則によつて明である
から控訴人等の主張はその理由がない。又控訴人等は旧光勝院は本件賃貸借締結当
時堂宇を有せず之を有するに至つたのは宗教法人法施行後である旨抗争するが寺院
が堂宇を有しなかつたとしても本件土地が旧光勝院の境内地なること前記の通りな
る以上その処分につき宗教法人令を適用するにつき何等の差支がないものというべ
きであるから控訴人等の主張はその理由がない。
 以上説明した如く本件賃貸借の締結につき宗教法人法を適用すべきでないこと明
であるから同法第二十四条の適用を前提とする控訴人等の主張の理由のないこと又
多言を要しないところである。
 控訴人等は更に或は旧光勝院は寺院たる実体を有せずとし或は賃貸借は管理行為
であるから住職が本件土地を自由に賃貸し得るものなる旨抗争するがその理由なき
こと上来説明するところによつて明である。成立に争のない乙第十一号証の一、二
により本件賃貸借が檀徒総代及宗派主管者の同意を要せざるものと認むべからざる
こと当審証人Dの証言同証言により成立を是認すべき甲第十三、十四号証同第十五
号証の一、二と対比して明である。
 控訴人等は本件賃貸借についてその后檀徒総代等の追認或は黙示の承認を得た旨
主張するが控訴人等の全立証によるも之を認めるに足る証拠がない。
 控訴人等は更に檀徒総代等の同意又は承認を得ずして賃貸借を締結する旨の慣習
が存し本件賃貸借は之に基き締結された旨抗争しているが右の如き慣習を肯認する
に足る証拠がないのみならず仮に右の如き慣習が存したとしても右は強行法規たる
宗教法人令第十一条に違反するものであるから控訴人等の主張はその理由がない。
 控訴人等は本訴請求は権利の濫用であると主張する。成程旧光勝院はその境内地
の一部を写真屋等五名のものに賃貸していたことその後同人等に右土地を売却した
ことは当審における被控訴代表者Cの供述により明であるが同供述及原審並当審に
おける検証の結果によれば右土地部分は被控訴寺院境内の要部ではなく且右賃貸及
売却については、爾後に檀徒総代の同意を得ていることが認められる。のみならず
成立に争のない甲第十六号証の一乃至三同第二乃至六号証当審における被控訴代表
者の供述原審並当審における検証の結果によれば控訴人Aが本件土地を賃借するに
当つては前記の如く控訴人Aが旧光勝院のため本堂を建設し墓地を確保すべき旨の
条件が附せられていたにも拘らずその条件はいずれも果されなかつたこと、本件土
地が境内地の要部に位しその返還を受けなければ本堂を建設することが出来ないこ
と、被控訴寺院の前身旧光勝院から控訴人Aに対し明渡の通告を発した後も控訴人
Aは敢て増築又は造作を施していることを認めることが出来るから被控訴人が本件
請求をなしたとしても之を以て権利濫用となすことが出来ない。その他の控訴人等
主張事実が認められたとしても右認定の如き被控訴人側の事情と対比しそれのみを
以ては本訴請求を権利濫用として拒否する理由となすことが出来ないから控訴人等
の主張はその理由がない。
 されば控訴人Aは前記(1)の土地を昭和二十六年十二月二十七日以降不法に占
拠しているものというの外なく原審並当審における控訴人Aの供述前掲甲第七号証
によれば控訴人Aは(2)の土地をおそくとも昭和二十二年七月頃から占有使用し
ていることを認めることが出来控訴人Bが昭和二十八年九月一日以降右(1)
(2)の地上家屋を借受け料理屋業を営んでいたこと、その後右家屋の増改築を加
え別紙第一、二目録記載の建物となし控訴人等が之を使用して右(1)(2)の土
地を占有していることは前記の通りである。而して、本件土地の使用権原につき何
等の主張立証をなさない控訴人Bも亦之を不法占拠しているものといわねばならな
い。ところで被控訴人は控訴人Aに対し昭和二十五年四月一日以降の損害金の請求
をなしているが前記の如く(1)の土地については昭和二十六年十二月二十六日ま
で有効な賃貸借が存続していたわけであるから昭和二十五年四月一日以降昭和二十
六年十二月二十六日までの間は(1)の土地については地代の請求ならばともかく
損害金の請求は出来ないものといわねばならない。従つて、控訴人Aは(1)の土
地については昭和二十六年十二月二十七日以降(2)の土地については昭和二十五
年四月一日以降控訴人Bは占拠の日たる昭和二十八年九月一日以降土地明渡済に至
るまで各自被控訴人に対し右各土地に対する相当賃料に相当する損害金を支払うべ
き義務があるものというべきである。而して相当賃料は公定賃料相当額と解すべき
ところ、成立に争のない甲第二十号証の一、二に弁論の全趣旨を綜合すれば本件土
地は境内地であるため昭和二十七年度までは非課税地として賃貸価格が定められな
かつたことが認められるから昭和二十七年度以前においては地代家賃統制令第五条
による停止統制額又は認可統制額に代るべき地代がなかつたものと認めねばならな
い。然しながら、前記甲第二十号証の一、二によれば被控訴人主張の月千二十六円
賃料は当時としては相当であつたと認められるから昭和二十五年四月一日から昭和
二十七年十二月末日までの損害金は月千二十六円と算定するを相当とする。次に、
昭和二十八年度の本件土地の固定資産評価額は前記甲第二十号証の一、二によれば
八十五万六千七百六十六円であることが認められるが、同号証によれば右は本件土
地を七十九坪九合七勺として評価したものであることが認められる。
 而して原審における検証の結果によれば本件土地の範囲が約百四十坪なることが
認められるから此の坪数によつて計算するときは固定資産評価額は被控訴人主張の
百十万七千二百円をはるかに上廻ることは算数上明白である。そこで固定資産評価
額を被控訴人主張の通りとして公定賃料を算出すると月三千三百二十一円となる。
(但し被控訴人は昭和二十八年八月末日までは月千二十六円として計算請求してい
るから同日までは之による。)又昭和二十九年度以降の公定賃料については前記甲
第二十号証の一乃至三同第二十一号証ノ一、二によれば被控訴人主張の通りの固定
資産評価額及都市計画税が認められるから昭和二十七年十二月四日建設省告示第千
百十八号(昭和三十一年六月十九日建設省告示第一〇〇六号)によつて計算する
と、昭和二十九年度は月四千七百九十八円、昭和三十年度は月五千三百八十一円、
昭和三十一年度は月五千五百二十九円、昭和三十二年度以降は月五千六百七十八円
であることが認められる。(尚昭和三十一年度分については固定資産評価額の千分
の三に都市計画税の九分の一を加算すべきに拘らず被控訴人は都市計画税の十二分
の一を加算しているが、加算額が法定のものより少額であるから被控訴人主張の通
りの金額とする。)尚昭和二十五年四月一日以降昭和二十六年十二月二十六日まで
の間は前記の如く(1)の土地については損害金を請求し得ないわけであるから此
の期間は前記月千二十六円を原審検証の結果によつて認められる(1)の土地の坪
数八十六坪と(2)の土地の坪数五十六坪(原審検証調書に付約五十四坪とあるも
その記載の間口及奥行によれば計算上五十六坪の誤記であることが分る。尚坪以下
は切捨の計算である。)の坪数に従つて(2)の土地の損害金を算出すると(2)
の土地の損害金は月四百四円(円以下切捨。)となる。
 そこで以上の基準に従つて計算すると控訴人Aは昭和二十五年四月一日から昭和
二十八年八月末日まで合計二万九千九十七円(昭和二十六年十二月分は同月二十六
日までの分とその以後の分を日割計算し円以下切捨の計算。)、控訴人両名は各自
昭和二十八年九月一日以降昭和三十三年六月末日まで三十万三千九百八十四円(被
控訴人の主張には計算上の誤算がある。)及昭和三十三年七月一日以降右(1)
(2)の土地明渡済に至るまで月五千六百七十八円の損害金を支払うべきこととな
る。結局被控訴人に対し控訴人Aは第一目録記載の建物等を収去し第二目録記載の
建物から退去して、控訴人Bは第二目録記載の建物等を収去し第一目録記載の建物
から退去して本件(1)及(2)の土地を明渡し且控訴人等は夫々右損害金を支払
うべき義務があるものというべきである。
 以上の理由により被控訴人の本訴請求は右認定の限度において正当であるから之
を許容しその余は失当として棄却し、之と異る原判決は之を変更し、且被控訴人が
仮執行の宣言を求めているが金員支払を求めている部分についてのみ之を許容しそ
の余は却下し、民事訴訟法第三百八十六条第八十九条第九十六条第百九十六条を適
用し主文の如く判決する。
 (裁判長裁判官 県宏 裁判官 奥村義雄 裁判官 夏目仲次)
 (第一、第二目録、地代統制額計算書省略)

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