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平成19年9月26日判決言渡
平成18年(行ケ)第10351号審決取消請求事件
平成19年7月25日口頭弁論終結
判決
原告株式会社ワコー
同訴訟代理人弁護士鮫島正洋
同内田公志
同吉原政幸
同中原敏雄
同岩永利彦
同訴訟代理人弁理士志村浩
被告アナログデバイシーズ,イ
ンコーポレイテッド
同訴訟代理人弁理士山本秀策
同大塩竹志
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2005−80222号事件について平成18年6月19日に
した審決を取り消す。
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「力・加速度・磁気の検出装置」とする特許第314
5979号(平成2年10月12日出願の特願平2−274299号の一部を
平成10年7月9日に分割出願,平成13年1月5日設定登録。以下「本件特
許」という。)の特許権者である。
被告は,平成17年7月14日に,本件特許の請求項1及び6に係る発明に
つき,無効審判請求をしたところ,特許庁は,この審判請求を無効2005−
80222号事件として審理し,平成18年6月19日,「特許第31459
79号の請求項1及び6に係る発明についての特許を無効とする。」との審決
をした。
2特許請求の範囲
本件明細書(甲2)の請求項1及び6(請求項の数は全部で7項である。)
は,以下のとおりである。
【請求項1】
互いに直交する第1の軸および第2の軸を定義し,前記第1の軸方向に作用
した力および前記第2の軸方向に作用した力をそれぞれ独立して検出する機能
をもった力検出装置であって,
装置筐体に対して変位が生じないように固定された固定要素と,
前記固定要素に可撓性部分を介して接続され,外部から作用した前記第1の
軸方向の力もしくは前記第2の軸方向の力に基いて,前記可撓性部分が撓みを
生じることにより,前記固定要素に対して前記第1の軸方向もしくは前記第2
の軸方向に変位を生じる変位要素と,
前記変位要素の変位にかかわらず固定状態を維持するように前記固定要素上
に形成された第1の固定電極,第2の固定電極,第3の固定電極,第4の固定
電極と,
前記変位要素の変位とともに変位するように前記変位要素上に形成された第
1の変位電極,第2の変位電極,第3の変位電極,第4の変位電極と,
を備え,
前記第1の固定電極と前記第1の変位電極とは互いに対向する位置に配置さ
れ,前記第1の固定電極と前記第1の変位電極とによって第1の容量素子が形
成され,
前記第2の固定電極と前記第2の変位電極とは互いに対向する位置に配置さ
れ,前記第2の固定電極と前記第2の変位電極とによって第2の容量素子が形
成され,
前記第3の固定電極と前記第3の変位電極とは互いに対向する位置に配置さ
れ,前記第3の固定電極と前記第3の変位電極とによって第3の容量素子が形
成され,
前記第4の固定電極と前記第4の変位電極とは互いに対向する位置に配置さ
れ,前記第4の固定電極と前記第4の変位電極とによって第4の容量素子が形
成され,
かつ,前記変位要素が前記第1の軸の正方向に変位した場合,前記第1の容
量素子の電極間距離が減少するとともに前記第2の容量素子の電極間距離が増
加し,前記変位要素が前記第1の軸の負方向に変位した場合,前記第1の容量
素子の電極間距離が増加するとともに前記第2の容量素子の電極間距離が減少
し,前記変位要素が前記第2の軸の正方向に変位した場合,前記第3の容量素
子の電極間距離が減少するとともに前記第4の容量素子の電極間距離が増加し,
前記変位要素が前記第2の軸の負方向に変位した場合,前記第3の容量素子の
電極間距離が増加するとともに前記第4の容量素子の電極間距離が減少するよ
うに,前記各固定電極および前記各変位電極が配置されており,
前記第1の容量素子の容量値と前記第2の容量素子の容量値との差によって,
前記第1の軸方向に作用した力を検出し,前記第3の容量素子の容量値と前記
第4の容量素子の容量値との差によって,前記第2の軸方向に作用した力を検
出するように構成したことを特徴とする力検出装置(以下「本件発明1」とい
う。)。
【請求項6】
請求項1∼5のいずれかに記載の検出装置において,変位要素に作用する加
速度に基づいて発生する力を検出することにより,加速度の検出を行ない得る
ようにしたことを特徴とする加速度検出装置(以下「本件発明6」といい,本
件発明1と併せて「本件各発明」という。)。
3審決の内容
別紙審決書の写しのとおりである。要するに,審決は,本件各発明は,原出
願当初明細書又は図面(以下「本件原出願当初明細書」という。)に記載され
たものではないから,特許法44条1項に規定する分割要件を満たさず,その
出願日は,現実の出願日である平成10年7月9日であると認められるとした
上で,本件各発明は,特開平4−148833号公報(以下「刊行物1」とい
う。)記載の発明(以下「刊行物1発明」という。)と同一の発明であるから,
特許法29条1項3号の規定に該当するものであって,特許法123条1項2
号に該当し,無効とすべきものであると判断した。
第3取消事由に関する原告の主張
審決には,①特許法44条1項柱書きの充足性の有無に関する判断の誤り
(取消事由1),②本件各発明の新規性の判断の誤り(取消事由2)があるか
ら,取り消されるべきである。
1取消事由1(特許法44条1項柱書きの充足性の有無に関する判断の誤り)
について
審決は,以下に要約した理由により,本件各発明は特許法44条1項の分割
要件を満たさないと判断した(審決書11頁22行∼12頁9行)が,その判
断は誤りである(以下,原告が要約した審決の①ないし⑤の各判断部分を,
「審決の判断1」などという場合がある。)。
①「変位要素」という用語は,本件原出願当初明細書に記載されていない。
②「固定された部分に対して『可撓性部分を介して接続され』・・る変位
要素」は,本件原出願当初明細書に記載されていない。
③変位要素が,「第1の軸方向,第2の軸方向に変位を生じること」は,
本件原出願当初明細書には記載されていない。
④本件原出願当初明細書には,「可撓基板」が記載されており,同基板は
撓むことによって変位を生じるものであるといえるが,それは可撓基板が
変位を生じることを意味するにとどまり,可撓基板以外の変位を生じる要
素を用いることを意味するものではない。
⑤変位要素が前記第1の軸方向又は前記第2の軸方向のみに変位し,電極
間距離が増加又は減少して容量値が変化する力検出装置の発明は本件原出
願明細書に記載されていない。
(1)審決の判断1,2の誤り
ア本件原出願当初明細書に記載されていない「変位要素」を,請求項に記
載したからといって,発明の変更となるものではない。
本件明細書における,「固定された部分に対して『可撓性部分を介して
接続され』・・る変位要素」との記載は,本件原出願当初明細書の記載か
らみて,自明な事項を書き換えたものといえる。すなわち,本件原出願当
初明細書において,「装置筐体40」,「可撓基板20+作用体30」と
記載されている部分について,「装置筐体」を「固定された部分」に,
「可撓基板の中心部分+作用体」を「変位要素」に,それぞれ書き換える
ことは,発明の変更に当たらない。本件原出願当初明細書からみて,「固
定された部分」と「変位要素」が可撓性部分によって接続していることは
明らかである。
イ「固定された部分に対して『可撓性部分を介して接続され』・・る変位
要素」は,本件各発明の本質ないしは実体に実質的な変動を生じさせるも
のではない。すなわち,本件各発明は,温度補償が不要でかつ安価に供給
し得る検出装置を提供するという課題を解決するために,①一方が固定さ
れ,他方が変位する一対の対向電極からなる容量素子を2組設ける,②検
出対象となる所定方向の力が作用したときに,上記2組の容量素子の電極
間隔が相補的な変化を生じるような構成とする(一方の電極間隔が狭くな
ったら,他方の電極間隔が広くなるような構成とする),③2組の容量素
子の静電容量値の差を電気的に検出し,検出対象となる力の大きさとして
出力する,という構成を採用した点に発明の本質的な特徴がある。この技
術的思想を前提とすると,「装置筐体40」,「可撓基板20+作用体3
0」と記載した部分について,「装置筐体40」を「固定された部分」と
書き換え,「可撓基板の中心部分+作用体」を「変位要素」と書き換え,
これによって「固定された部分に対して可撓性部分を介して接続され・・
る変位要素」に書き換えたとしても,発明の本質ないし実体を変更したこ
とにならない。
(2)審決の判断3の誤り
変位要素が,「第1の軸方向,第2の軸方向に変位を生じること」は,本
件原出願当初明細書の記載からみて自明であり,原出願に記載されているに
等しい。すなわち,本件原出願当初明細書の第1図及び第4図を検討すれば,
変位要素が第1の軸方向若しくは第2の軸方向に変位することは当業者にと
って自明である。
(3)審決の判断4の誤り
本件原出願当初明細書には,①可撓基板以外の可撓性を有しない「変位要
素」,②可撓する「可撓性部分」は,いずれも開示されている。すなわち,
本件原出願当初明細書の第4図及び第5図によると,「作用体30」は,
「可撓基板」に比べて厚みがあり,それ自体は可撓性を有しない。しかし,
当該部分は,可撓基板20に結合しているために可撓基板20の変位と共に
変位するから,「可撓基板」以外の可撓性を有しない「変位要素」に該当す
る。
また,本件原出願当初明細書の第9図には,「可撓基板20b」と「作用
体30b」とが「一体に形成されているもの」が開示されている(甲3の7
頁左下欄3∼4行)。この「一体に形成された作用体と可撓基板」は,「作
用体」にも「可撓基板」にも該当するものではなく,「可撓基板以外の変位
要素」に該当する。
(4)審決の判断5の誤り
変位要素が前記第1の軸方向又は前記第2の軸方向のみに変位し,電極間
距離が増加又は減少して容量値が変化する力検出装置の発明は,本件原出願
当初明細書に記載されているといえる。すなわち,上記(3)のとおり,変位
要素が第1の軸方向若しくは第2の軸方向に変位することが本件原出願当初
明細書に記載されているから,変位要素が前記第1の軸方向又は前記第2の
軸方向に変位し,電極間距離が増加又は減少して容量値が変化する力検出装
置の発明が,本件原出願当初明細書に記載されていると理解されるべきであ
る。そして,本件原出願当初明細書には,変位電極と固定電極の配置関係に
ついて,単に「対向面に形成された」と記載され,また変位電極が形成され
た可撓基板と固定電極が形成された固定基板の配置関係についても,単に
「対向する」と記載されているだけであって,その変位方向には何ら限定は
付されていない。
2取消事由2(本件各発明の新規性の判断の誤り)について
上記のとおり,本件各発明は,特許法44条1項の要件を満たすから,原出
願の出願日である平成2年10月12日である。
したがって,審決が,「本件出願は特許法44条1項に規定する2以上の発
明を包含する特許出願の一部を新たな特許出願としたものには該当せず,分割
は不適法であるから,本件出願の出願日は,現実の出願日である平成10年7
月9日であり,本件特許の請求項1及び6に係る発明は,原出願の公開公報に
記載された発明であり,特許法第29条第1項の規定に該当する」とした認定
判断は誤りである。
第4被告の反論
審決の判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1取消事由1(特許法44条1項柱書きの充足性の有無に関する判断の誤り)
について
(1)審決の判断1について
審決は,「変位要素」という語が本件原出願当初明細書に記載されていな
いという形式的な点を根拠として,本件原出願当初明細書に「変位要素」を
用いる技術思想が記載されていないと認定したのではない。審決は,本件原
出願当初明細書に一貫して可撓基板を用いることのみが記載されていたこと
から,本件原出願当初明細書には,「固定された部分に対して『可撓性部分
を介して接続され』,第1の軸方向,第2の軸方向に変位を生じる『変位要
素』を用いる」との技術思想は記載されていないと認定した。原告の主張は,
審決の趣旨を理解しないもので,主張自体失当である。
(2)審決の判断2,3に対し
本件原出願当初明細書には「可撓基板20に撓みが生じる」ことが記載さ
れているにすぎない。また,本件原出願当初明細書の第1図及び第4図には,
「可撓基板20」が撓むことによって変位が生じるという事項が示されてい
るにすぎない。
したがって,本件原出願当初明細書には,「可撓基板」が撓むことによっ
て変位を生じることは記載されているが,それは可撓基板が変位を生じるこ
とを意味するにとどまるのであって,可撓基板以外の変位を生じる要素を用
いることを意味するものではない。
(3)審決の判断4に対し
ア本件原出願当初明細書の第1図及び第4図に記載されている事項は,
「可撓基板20」が撓むことによって変位が生じるということに限られる。
したがって,審決が認定するように,本件原出願当初明細書記載の「可撓
基板」は撓むことによって変位を生じるものであるといえるが,それは可
撓基板が変位を生じることを意味するにとどまり,可撓基板以外の変位を
生じる要素を用いる技術が記載されていることを意味しないというべきで
ある。
イ原告は,「可撓基板20の一部及び作用体30」が「可撓基板」以外の
「変位要素」に該当すると主張する。しかし,本件原出願当初明細書には
それが「変位要素」として機能し得るとの記載はない。
原告が主張する「変位要素」の変位は,可撓基板20が撓むことによっ
て生じ,可撓基板20が撓むこと以外の要因によって生じることはない。
したがって,上記「変位要素」の変位する範囲及び方向は,可撓基板20
が撓む範囲及び方向に制限される。その意味で,上記「変位要素」は,
「可撓基板」の域を出ないというべきである。また,上記「変位要素」は,
可撓基板20の一部を含む以上,可撓基板以外の要素であるともいえない。
(4)審決の判断5に対し
「変位要素が前記第1の軸方向又は第2の軸方向のみに変位し,電極間距
離が増加又は減少して容量値が変化する力検出装置」との構成は,本件原出
願当初明細書に記載されていない。
2取消事由2(本件各発明の新規性の判断の誤り)について
本件出願が,特許法44条1項に規定する分割出願の要件を満たさないとの
審決の判断に誤りがないことは上記1のとおりであるから,原告の主張する取
消事由2も理由がない。
第5当裁判所の判断
当裁判所は,本件各発明は本件原出願当初明細書に記載された発明ではなく,
本件出願は,特許法44条1項所定の「二以上の発明を包含する特許出願の一
部を一又は二以上の新たな特許出願」としたものに該当しないから,同条2項
所定の出願日の遡及は認められず,したがって,本件各発明は刊行物1発明と
同一の発明を含むことになり,特許法29条1項3号に該当し,同法123条
1項2号に該当し,無効とすべきであると判断する。その理由は,以下のとお
りである。
1本件原出願当初明細書の記載
(1)本件原出願当初明細書(甲3)の特許請求の範囲には,以下の記載があ
る。
「(1)装置筐体に固定される固定部と,外部からの力が伝達される作用部
と,前記固定部と前記作用部との間に形成され可撓性をもった可撓部と,を
有する可撓基板と,前記可撓基板に対向するように,装置筐体に固定された
固定基板と,外部からの力を受け,この力を前記可撓基板の前記作用部に伝
達する作用体と,前記可撓基板の前記固定基板に対する対向面に形成された
変位電極と,前記固定基板の前記可撓基板に対する対向面に形成された固定
電極と,を備え,前記変位電極と前記固定電極との間に生じる静電容量の変
化に基づいて,前記作用体に作用した力を険出することを特徴とする力検出
装置。・・・
(4)請求項1∼3のいずれかに記載の力検出装置において,固定基板,可
撓基板,補助基板,の順にそれぞれが対向して並ぶように,更に補助基板を
設け,前記可撓基板の前記補助基板に対する対向面に第1補助電極を形成し,
前記補助基板の前記可撓基板に対する対向面に第2補助電極を形成し,前記
第1補助電極と前記第2補助電極との間あるいは変位電極と固定電極との間
に所定の電圧を印加し,両者間に作用するクーロン力によって前記可撓基板
に変位を生じさせ,外部から力が作用したのと等価な状態におくことができ
るようにしたことを特徴とする力検出装置。
(5)請求項4に記載の力検出装置において,可撓基板を導電性材料で構成
し,第1補助電極と変位電極とが,この導電性の可撓基板の一部分により形
成されていることを特徴とする力検出装置。
(6)装置筐体に固定される固定部と,外部からの力が伝達される作用部と,
前記固定部と前記作用部との間に形成され可撓性をもった可撓部と,を有す
る可撓基板と,前記可撓基板に対向するように,装置筐体に固定された固定
基板と,外部からの力を受け,この力を前記可撓基板の前記作用部に伝達す
る作用体と,前記可撓基板の前記固定基板に対する対向面に形成された変位
電極と,前記固定基板の前記可撓基板に対する対向面に形成された固定電極
と,前記変位電極と前記固定電極との間に挟まれるように形成され,前記両
電極によって加わる圧力を電気信号に変換して前記両電極に出力する圧電素
子と,を備え,前記作用体に作用した力を前記圧電素子から出力される電気
信号によって検出することを特徴とする力検出装置。」
(2)本件原出願当初明細書(甲3)の発明の詳細な説明欄には,以下の記載
がある。
ア「〔発明が解決しようとする課題〕一般に,ゲージ抵抗やピエゾ抵抗係
数には温度依存性があるため,上述した検出装置では,使用する環境の温
度に変動が生じると検出値が誤差を含むようになる。したがって,正確な
測定を行うためには,温度補償を行う必要がある。特に,自動車などの分
野で用いる場合,−40℃∼+120℃というかなり広い動作温度範囲に
ついて温度補償が必要になる。
また,上述した検出装置を製造するには,半導体基板を処理する高度な
プロセスが必要になり,イオン注入装置などの高価な装置も必要になる。
このため,製造コストか高くなるという問題がある。
そこで本発明は,温度補償を行うことなく,力,加速度,磁気などの物
理量を検出することができ,しかも安価に供給しうる検出装置を提供する
ことを目的とする。」(3頁左上欄3∼20行)
イ「(1)本願第1の発明による力検出装置では,外部からの力が作用体
に加わると,可撓基板が撓み,変位電極と固定電極との間の距離が変わる
ことになる。したがって,両電極間の静電容量が変化する。この静電容量
の変化は,外部から加えられた力に依存したものであり,静電容量の変化
を検出することにより力の検出が可能になる。・・・(4)本願第4の発
明による力検出装置では,各電極の間に所定の電圧を印加すると,両者間
に作用するクーロン力によって可撓基板に変位を生じさせることができる。
すなわち,外部からの力が作用したのと等価な状態におくことができる。
このような状態をつくり出すことができれば,装置が正常に動作するか否
がを試験することが容易になる。(5)本願第5の発明による力検出装置
では,第1補助電極と変位電極とが,可撓基板の一部により形成される。
したがって,可撓基板上には,特にあらためて電極を形成する工程は必要
はなく,構造が単純になるとともに製造コストを低下させることができる。
(6)本願第6の発明による力検出装置では,外部からの力が作用体に加
わると,可撓基板が撓み,変位電極と固定電極とによって挾まれた圧電素
子に圧力が加わることになる。この圧力は電気信号として出力されるので,
外方をそのまま電気信号として検出することが可能になる。」(4頁右上
欄12行∼5頁左上欄2行)
ウ「この装置の主たる構成要素は,固定基板10,可撓基板20,作用体
30,そして装置筐体40である。・・・第3図に,可撓基板20の上面
図を示す。第3図の可撓基板20をX軸に沿って切断した断面が第1図に
示されている。可撓基板20も,図示のとおり円盤状の基板であり,周囲
は装置筐体40に固定されている。この上面には,四分円盤状の変位電極
21∼24が形成されている。作用体30は,その上面が第3図に破線で
示されているように,円柱状をしており,可撓基板20の下面に,同軸接
合されている。装置筐体40は,円筒状をしており,固定基板10および
可撓基板20の周囲を固着支持している。
固定基板10および可撓基板20は,互いに平行な位置に所定間隔をお
いて配設されている。いずれも円盤状の基板であるが,固定基板10は剛
性が高く撓みを生じにくい基板であるのに対し,可撓基板20は可撓性を
もち,力が加わると撓みを生じる基板となっている。いま,第1図に示す
ように,作用体30の重心に作用点Pを定義し,この作用点Pを原点とす
るXYZ三次元座標系を図のように定義する。すなわち,第1図の右方向
にX軸,上方向にZ軸,紙面に対して垂直に紙面裏側へ向かう方向にY軸,
をそれぞれ定義する。
ここで,この装置全体をたとえば自動車に搭載したとすると,自動車の
走行に基づき作用体30に加速度が加わることになる。この加速度により,
作用点Pに外力が作用する。作用点Pに力が作用していない状態では,第
1図に示すように,固定電極11と変位電極21∼24とは所定間隔をお
いて平行な状態を保っている。ところが,たとえば,作用点PにX軸方向
の力Fxが作用すると,この力Fxは可撓基板20に対してモーメント力
を生じさせ,第4図に示すように,可撓基板20に撓みが生じることにな
る。この撓みにより,変位電極21と固定電極11との間隔は大きくなる
が,変位電極23と固定電極11との間隔は小さくなる。作用点Pに作用
した力が逆向きの−Fxであったとすると,これと逆の関係の撓みか生じ
ることになる。一方,Y方向の力Fyまたは−Fyが作用した場合は,変
位電極22と固定電極11との間隔,および変位電極24と固定電極11
との間隔,について同様の変化が生じる。また,Z軸方向の力Fzが作用
した場合は,第5図に示すように,変位電極21∼24のすべてが固定電
極11に接近することになり,逆向きの力−Fzが作用した場合は,変位
電極21∼24のすべてが固定電極11から遠ざかるようになる。」(5
頁左上欄19行∼右下欄13行)
エ「各部の材質を示す実施例続いて,上述した力検出装置を構成する各
部の材質について説明する。上述した原理による検出を行うために,材質
の面では次のような条件を満たせばよい。
(1)各電極が導電性の材質からなること。
(2)各局在電極は電気的に互いに絶縁されていること。
(3)可撓基板は可撓性をもった材質からなること。
このような条件を満足する限り,どのような材質を用いてもかまわない
が,ここでは,実用的な材質を用いた好ましい実施例をいくつか述べるこ
とにする。」(7頁右上欄7∼20行)
オ「第8図に示す実施例は,固定基板10a,可撓基板20a,作用体3
0a,のすべてに金属を使用した例である。可撓基板20aと作用体30
aとは一体に形成されている。もちろん,これらを別々に作った後,互い
に接合するようにしてもよい。装置筐体40は,たとえば,金属やプラス
チックなどで形成され,内面に形成された支持溝41に各基板の周囲を嵌
合させて固着支持している。固定基板10a自身がそのまま固定電極11
として機能するため,固定電極11を別個に形成する必要はない。変位電
極21a∼24aは,可撓基板20aが金属であるため,その上に直接形
成することはできない。そこで,ガラスやセラミックといった材質による
絶縁層25aを介して,変位電極21a∼24aを可撓基板20a上に形
成している。なお,可撓基板20aに可撓性をもたせるためには,その厚
みを小さくしたり,波状にして変形しやすくすればよい。」(7頁左下欄
1∼18行)
カ「第9図に示す実施例は,固定基板10b,可撓基板20b,作用体3
0b,のすべてにガラスやセラミックといった絶縁体を使用した例である。
可撓基板20bと作用体30bとは一体に形成されている。装置筐体40
は,金属またはプラスチックで形成され,内面に形成された支持溝41に
各基板の周囲を嵌合させて固着支持している。固定基板10bの下面には,
金属からなる固定電極11bが形成され,可撓基板20bの上面には,金
属からなる変位電極21b∼24bが形成されている。可撓基板20bに
可撓性をもたせるためには,その厚みを小さくしてもよいし,ガラスやセ
ラミックの代わりに可撓性をもった合成樹脂を用いるようにすればよい。
あるいは,部分的に貫通孔を設けることにより変形しやすくしてもよ
い。」(7頁左下欄19行∼右下欄13行)
キ「第10図に示す実施例は,固定基板10c,可撓基板20c,作用体
30c,のすべてにシリコンなどの半導体を使用した例である。可撓基板
20cと作用体30cとは一体に形成されている。装置筐体40は,金属
またはプラスチックで形成され,内面に形成された支持溝41に各基板の
周囲を嵌合させて固着支持している。固定基板10cの下面内部に位置す
る固定電極11c,および可撓基板20cの上面内部に位置する変位電極
21c∼24cは,不純物を高濃度で拡散することにより形成されたもの
である。可撓基板20cに可撓性をもたせるためには,やはりその厚みを
小さくしたり部分的に貫通孔を設ければよい。」(7頁右下欄14行∼8
頁左上欄7行)
ク「ここで述べる実施例では,三軸方向成分を,全く独立した専用電極に
よって検出している。第11図に,この実施例で用いる可撓基板20dの
上面図を示す。第3図に示す基本的な実施例における可撓基板20と比べ,
局在電極の形成パターンかやや複雑であり,合計で8枚の局在電極が形成
されている。この8枚の局在電極は,基本的にはやはり4つのグループに
分類される。第1のグループに属する局在電極は,X軸の負方向に配され
た電極21dと21eであり,第2のグループに属する局在電極は,Y軸
の正方向に配された電極22dと22eであり,第3のグループに属する
局在電極は,X軸の正方向に配された電極23dと23eであり,第4の
グループに属する局在電極は,Y軸の負方向に配された電極24dと24
eである。」(8頁左上欄18行∼右上欄13行)
ケ「第14図は,このテスト機能をもった実施例に係る加速度検出装置の
構造を示す側断面図である。この装置の主たる構成要素は,固定基板60,
可撓基板70,作用体75,補助基板80,そして装置筐体40である。
・・・可撓基板70は,可撓性をもった金属製の円盤であり,周囲はやは
り装置筐体40に固定されている。この可撓基板70の下面には,円柱状
をした作用体75が同軸接合されている。可撓基板70の上面は,固定電
極61∼64に対向する1枚の変位電極を構成している。・・・このよう
に,可撓基板70は,作用体75と一体に形成された金属塊であるが,そ
の上面は,固定電極61∼64に対向する1枚の変位電極として作用し,
その下面は,補助電極81∼84に対向する1枚の補助電極として作用す
る。」(9頁右上欄16行∼9頁右下欄10行)
コ「第18図に示す実施例は,圧電素子を利用することにより,このよう
な処理回路を不要にしたものである。この実施例の装置の基本的構成は,
前述した種々の実施例と共通している。すなわち,固定基板10fと可撓
基板20fとが対向して装置筐体40内に取り付けられている。この実施
例では,両基板とも絶縁体となっているが,金属や半導体で構成してもよ
い。作用体30fに外力が作用すると,可撓基板2Ofが撓むことになり,
この結果,固定電極11f,12fとこれに対向する変動電極21f,2
2fとの距離が変化する。前述の実施例では,両電極間距離の変化を静電
容量の変化として検出していたが,本実施例ではこれを電圧値として検出
できる。そのために,固定電極11f,12fと変動電極21f,22f
との間に挟むように,圧電素子101,102を形成している。両電極間
距離が縮めば圧縮力が,伸びれば引張力が,それぞれ圧電素子101,1
02に作用するので,圧電効果によってそれぞれに応じた電圧が発生され
る。この電圧は,画電極からそのまま取り出すことができるので,結局,
作用した外力を直接電圧値として出力することが可能になる。」(10頁
左下欄18行∼10頁右下欄20行)
2本件明細書の記載
(1)これに対して,本件明細書(甲2)の特許請求の範囲(請求項1)は,
第2のとおりである。このうち,以下の記載部分がある。
「【請求項1】互いに直交する第1の軸および第2の軸を定義し,前記第1
の軸方向に作用した力および前記第2の軸方向に作用した力をそれぞれ独立
して検出する機能をもった力検出装置であって,
装置筐体に対して変位が生じないように固定された固定要素と,
前記固定要素に可撓性部分を介して接続され,外部から作用した前記第1
の軸方向の力もしくは前記第2の軸方向の力に基いて,前記可撓性部分が撓
みを生じることにより,前記固定要素に対して前記第1の軸方向もしくは前
記第2の軸方向に変位を生じる変位要素と,・・・」
(2)また,本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明欄には,以下の記載があ
る。
ア「【0008】【課題を解決するための手段】(1)本発明の第1の態様は,
互いに直交する第1の軸および第2の軸を定義し,第1の軸方向に作用し
た力および第2の軸方向に作用した力をそれぞれ独立して検出する機能を
もった力検出装置において,装置筐体に対して変位が生じないように固定
された固定要素と,この固定要素に可撓性部分を介して接続され,外部か
ら作用した第1の軸方向の力もしくは第2の軸方向の力に基いて,可撓性
部分が撓みを生じることにより,固定要素に対して第1の軸方向もしくは
第2の軸方向に変位を生じる変位要素と,・・・」
イ「【0016】§1.本発明の基本的な実施形態図1は,本発明に係
る力検出装置を,加速度検出装置として用いた基本的な実施形態の構造を
示す側断面図である。この装置の主たる構成要素は,固定基板10,変位
基板20,作用体30,そして装置筐体40である。・・・一方,図2
(b)に,変位基板20の上面図を示す。図2(b)の変位基板20をX軸に沿
って切断した断面が図1に示されている。変位基板20も,図示のとおり
円盤状の基板であり,周囲は装置筐体40に固定されている。この上面に
は,四分円盤状の変位電極21∼24が形成されている。作用体30は,
その上面が図2(b)に破線で示されているように,円柱状をしており,変
位基板20の下面に,同軸接合されている。装置筐体40は,円筒状をし
ており,固定基板10および変位基板20の周囲を固着支持している。」
ウ「【0017】固定基板10および変位基板20は,互いに平行な位置
に所定間隔をおいて配設されている。いずれも円盤状の基板であるが,固
定基板10は剛性が高く撓みを生じにくい基板であるのに対し,変位基板
20は可撓性をもち,力が加わると撓みを生じる基板となっている。結局,
固定基板10は装置筐体40に固定された固定要素として機能するのに対
し,変位基板20はこの固定要素に対して可撓性部分を介して接続されて
おり,変位基板20の中央部分は作用体30とともに変位要素(固定要素
に対して相対的な変位を生じる要素)として機能することになる。いま,
図1に示すように,作用体30の重心に作用点Pを定義し,この作用点P
を原点とするXYZ三次元座標系を図のように定義する。すなわち,図1
の右方向にX軸,上方向にZ軸,紙面に対して垂直に紙面裏側へ向かう方
向にY軸,をそれぞれ定義する。すると,変位要素は,X,Y,Zの各軸
方向に変位可能な状態で,固定要素に対して接続されていることにな
る。」
エ「【0018】ここで,この装置全体をたとえば自動車に搭載したとす
ると,自動車の走行に基づき作用体30に加速度が加わることになる。こ
の加速度により,作用点Pに外力が作用する。作用点Pに力が作用してい
ない状態では,図1に示すように,固定電極11と変位電極21∼24と
は所定間隔をおいて平行な状態を保っている。ところが,たとえば,作用
点PにX軸方向の力Fxが作用すると,この力Fxは変位基板20に対し
てモーメント力を生じさせ,図3に示すように,変位基板20に撓みが生
じることになる。この撓みにより,変位電極21と固定電極11との間隔
は大きくなるが,変位電極23と固定電極11との間隔は小さくなる。作
用点Pに作用した力が逆向きの−Fxであったとすると,これと逆の関係
の撓みが生じることになる。一方,Y方向の力Fyまたは−Fyが作用し
た場合は,変位電極22と固定電極11との間隔,および変位電極24と
固定電極11との間隔,について同様の変化が生じる。また,Z軸方向の
力Fzが作用した場合は,図4に示すように,変位電極21∼24のすべ
てが固定電極11に接近することになり,逆向きの力−Fzが作用した場
合は,変位電極21∼24のすべてが固定電極11から遠ざかるようにな
る。」
オ「【0025】§2.各部の材質を示す実施形態続いて,上述した加
速度検出装置を構成する各部の材質について説明する。上述した原理によ
る検出を行うために,材質の面では次のような条件を満たせばよい。
(1)各電極が導電性の材質からなること。
(2)各局在電極は電気的に互いに絶縁されていること。
(3)変位基板が作用体に作用した外力に基づいて変位しうること。」
カ「【0027】図7に示す実施形態は,固定基板10a,変位基板20
a,作用体30a,のすべてに金属を使用した例である。変位基板20a
と作用体30aとは一体に形成されている。もちろん,これらを別々に
作った後,互いに接合するようにしてもよい。装置筐体40は,たとえば,
金属やプラスチックなどで形成され,内面に形成された支持溝41に各基
板の周囲を嵌合させて固着支持している。固定基板10a自身がそのまま
固定電極11として機能するため,固定電極11を別個に形成する必要は
ない。変位電極21a∼24aは,変位基板20aが金属であるため,そ
の上に直接形成することはできない。そこで,ガラスやセラミックといっ
た材質による絶縁層25aを介して,変位電極21a∼24aを変位基板
20a上に形成している。なお,変位基板20aに可撓性をもたせるため
には,その厚みを小さくしたり,波状にして変形しやすくすればよい。」
キ「【0028】図8に示す実施形態は,固定基板10b,変位基板20
b,作用体30b,のすべてにガラスやセラミックといった絶縁体を使用
した例である。変位基板20bと作用体30bとは一体に形成されている。
装置筐体40は,金属またはプラスチックで形成され,内面に形成された
支持溝41に各基板の周囲を嵌合させて固着支持している。固定基板10
bの下面には,金属からなる固定電極11bが形成され,変位基板20b
の上面には,金属からなる変位電極21b∼24bが形成されている。変
位基板20bに可撓性をもたせるためには,その厚みを小さくしてもよい
し,ガラスやセラミックの代わりに可撓性をもった合成樹脂を用いるよう
にすればよい。あるいは,部分的に貫通孔を設けることにより変形しやす
くしてもよい。」
ク「【0029】図9に示す実施形態は,固定基板10c,変位基板20
c,作用体30c,のすべてにシリコンなどの半導体を使用した例である。
変位基板20cと作用体30cとは一体に形成されている。装置筐体40
は,金属またはプラスチックで形成され,内面に形成された支持溝41に
各基板の周囲を嵌合させて固着支持している。固定基板10cの下面内部
に位置する固定電極11c,および変位基板20cの上面内部に位置する
変位電極21c∼24cは,不純物を高濃度で拡散することにより形成さ
れたものである。変位基板20cに可撓性をもたせるためには,やはりそ
の厚みを小さくしたり部分的に貫通孔を設ければよい。」
ケ「【0031】§3.三軸方向成分を独立した電極で検出する実施形態
・・・ここで述べる実施形態では,三軸方向成分を,全く独立した専用電
極によって検出している。図10に,この実施形態で用いる変位基板20
dの上面図を示す。図2(b)に示す基本的な実施形態における変位基板2
0と比べ,局在電極の形成パターンがやや複雑であり,合計で8枚の局在
電極が形成されている。この8枚の局在電極は,基本的にはやはり4つの
グループに分類される。第1のグループに属する局在電極は,X軸の負方
向に配された電極21dと21eであり,第2のグループに属する局在電
極は,Y軸の正方向に配された電極22dと22eであり,第3のグルー
プに属する局在電極は,X軸の正方向に配された電極23dと23eであ
り,第4のグループに属する局在電極は,Y軸の負方向に配された電極2
4dと24eである。」
コ「【0033】以上,説明の便宜上,電極21e∼24eをそれぞれ独
立した電極で構成した例を示したが,実際には図11の回路図から明らか
なように,電極21e∼24eで構成される容量素子は並列接続される。
したがって,これら4枚の電極は可撓基盤20d上で一体形成してもよ
い。」
3取消事由1(特許法44条1項柱書きの充足性の有無に関する判断の誤り)
について
以上の各明細書の記載を前提として,本件各発明が,特許法44条1項所定
の「二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出
願」としたものに該当するか否かについて検討する。
(1)審決の判断1,2について
ア前記2で認定した本件明細書によれば,本件各発明の「変位要素」は,
①固定要素に対して可撓性部分を介して接続されていること,②固定要素
に対して相対的な変位を生じるものであること,③X,Y,Zの各軸方向
に変位可能なものであること,④発明の詳細な説明中の「変位基板20の
中央部分と作用体30」が「変位要素」の実施例の1つに当たることが記
載されている。そうすると,本件各発明の「変位要素」とは,「変位基板
20の中央部分と作用体30」に限定されるものではなく,「固定要素に
対して相対的な変位を生じるもの」一般を指すものと理解するのが相当で
ある。
これに対して,前記1で認定した本件原出願当初明細書の記載によると,
「変位要素」という用語は記載がないのみならず,固定要素に対して相対
的な変位を生じるものについて,何ら開示がないというべきである。
したがって,本件各発明の「変位要素」は,本件原出願当初明細書に記
載されているということはできず,本件原出願当初明細書に記載された事
項から自明であるということもできない。
イこの点について,原告は,本件各発明の「変位要素」とは,本件原出願
当初明細書においては「可撓基板の中心部分+作用体」を書き換えたもの
であり,本件原出願当初明細書の記載によれば,「固定された部分」と
「変位要素」が,「撓んでいる部分」によって接続されていることは自明
であるから,本件各発明における「固定された部分に対して可撓性部分を
介して接続される変位要素」は,本件原出願当初明細書の記載からみて自
明な事項であると主張する。
しかし,①本件原出願当初明細書の第4図によれば,「固定基板」に対
して変位を生じる部分は,「作用体及び可撓基板の中心部」だけではなく,
変位電極が形成されている部分全体であって,可撓性部分を含むことは,
明らかであること,また,②本件原出願当初明細書の記載全体をみても,
「作用体及び可撓基板の中心部」のみが変位することを窺わせる記載はな
い。したがって,本件原出願当初明細書における「作用体及び可撓基板の
中心部」が,「固定基板」に対して「可撓性部分」を介して接続される
「変位要素」であると,当業者であれば認識できるほどに自明であるとは
いえない(のみならず,正しい認識であるともいえない。)。
(2)審決の判断3,5について
ア前記1で認定した本件原出願当初明細書の記載によると,「可撓基板」
は,「装置筐体40」に固定されているから,固定基板に対して,X方向
又はY方向に変位することはないのであって,Fx方向の力が作用したと
きには,第4図に記載のように,可撓基板に撓みが生じることで「可撓基
板」及び「作用体」は,固定基板に対して変位するものの,原告が,「変
位要素」であると主張する「可撓基板の中心部分と作用体」は,全体とし
て,Fx方向に変位しているものとは認められない。
イこの点について,原告は,本件原出願当初明細書の第1図及び第4図を
比較すれば,作用体上の各点がX方向に変位していると主張する。
しかし,原告の主張は採用できない。本件各発明の特許請求の範囲には,
「外部から作用した前記第1の軸方向の力もしくは第2の軸方向の力に基
づいて,前記可撓性部分が撓みを生じることにより,前記固定要素に対し
て,前記第1の軸方向もしくは前記第2の軸方向に変位を生じる変位要
素」と規定されていることに照らすならば,「第1または第2の軸方向に
作用した力により固定要素に対して「第1または第2の軸方向変位する」
部分は,「変位要素」の各点を指すのではなく,「変位要素」全体を指す
と理解すべきである。しかるに「変位要素」全体が,Fx方向の力が作用
したときにFx方向に変位するとはいえないから,原告の主張は,前提に
おいて失当である。
したがって,本件原出願当初明細書には,「第1の軸方向または第2の
軸方向に変位する変位要素」が記載されているとはいえない。
(3)審決の判断4について
ア仮に,本件原出願当初明細書の「作用体30」及び「作用体30が結合
している可撓基板の部分」が,可撓基板が撓むことにより変位するとして
も,可撓基板が撓むことによって変位を生じる部位は,「可撓基板の作用
体30が結合している部分」に限定されるわけではなく,可撓性部分も含
むのであるから,「可撓基板の作用体30が結合している部分」のみを取
り出して,当該部分に「作用体」を併せた部分を「変位要素」と捉えるこ
とは妥当でないというべきである。
イこの点について,原告は,本件原出願当初明細書の第9図には,「可撓
基板20b」と「作用体30b」とが「一体に形成されているもの」が開
示されており,この「一体に形成された作用体と可撓基板」部分は,可撓
基板以外の変位を生じる要素であると主張する。
しかし,「可撓基板」と「作用体」が一体に形成されたものは,原告の
いう「可撓性部分」を含むことになるのであるから,固定された部分に対
して「可撓性部分」を介して接続されている「変位要素」であるとするこ
とと矛盾する。また,仮に「可撓基板」と「作用体」が一体に形成された
ものを「変位要素」であると解釈する余地があるとしても,「変位要素」
は,「固定要素」である「固定基板」に対して,「変位するもの」すべて
を含む構成として示されているのであるから,そのような構成が,本件原
出願当初明細書に記載から自明なものとして開示されていたとすることは
できない。
以上のとおりであって,審決の判断1ないし5には誤りはない。
4取消事由2(本件各発明の新規性の判断の誤り)について
原告は,本件各発明が特許法44条1項所定の「二以上の発明を包含する特
許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願」としたものに該当しないとし
た審決の判断が誤りであることを前提として,本件出願の出願日は,原出願の
出願日である平成2年10月12日であり,本件各発明に対して,刊行物1発
明をもって特許法29条1項の規定が適用されることはないと主張する。しか
し,審決のこの点の判断に誤りがないことは上記のとおりであるから,これを
前提とする原告の主張は失当であり,原告の取消事由2は理由がない。
5なお,原告は,平成18年9月12日付け訂正審判請求書(甲9)により訂
正審判請求を行い,同審判請求は認められるので本件審決は取り消されるべき
とも主張する。しかし,この点については,同訂正審判請求に係る審決の取消
訴訟(当庁平成19年(行ケ)第10076号)において,平成19年9月26
日に,審判請求は成り立たないとした審決を維持すべきものとして,知的財産
高等裁判所において原告の請求を棄却する旨の判決がされた(当裁判所に顕著
な事実)。
6結論
以上のとおり,原告主張の取消事由にはいずれも誤りがなく,その他,審決
の結論に影響を及ぼす誤りは認められない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決
する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官三村量一
裁判官上田洋幸

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