弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人金岡昭、同木藤静夫、同牧野紀一、同茂木稔の上告理由第一点につい

一 原審が確定した事実関係は、おおむね、次のとおりである。
 1 H(昭和三〇年九月二九日生)及び被上告人B(昭和三〇年一一月三〇日生)
は、昭和四四年六月二九日午後三時四〇分ころ、東京都a村のb海岸砂防堤付近に
おいて、Iとともに、J外三名の中学生からその所在を教えられた焚火で暖をとつ
ていたところ、右中学生がその焚火の中に投入していた砲弾が突然爆発し、この爆
発によつてHは死亡し、被上告人Bは右眼球破裂、左網膜剥離等の傷害を負うに至
つた。
 2 第二次世界大戦の終結に伴い、当時新島に駐屯していた日本国陸軍の武装解
除が連合国軍の指令に基づいて実施されることになり、その一環として、同陸軍の
装備にかかる大量の砲弾類がすべて海中に投棄されることになつた。そして、右砲
弾類は、昭和二〇年一〇・一一月ころ、連合国軍の担当官の指揮・監督のもとに、
一たんb海岸沿いの道路上に集積されたのち、島民により、伝馬船等を利用して、
予め指示されたb海岸沖の海中に投棄されることになつたが、右投棄作業に従事し
た島民らは、ほとんど指示された投棄場所まで行かずに、b海岸から数十メートル
しか離れていない海中に砲弾類を投棄してしまつた。なお、その際右砲弾類は、信
管を除去することなく、直ちに使用可能な状態で投棄されたものもすくなくなかつ
た。
 3 ところが、右投棄後間もなく、投棄された砲弾類のうち銃弾等の小さなもの
がb海岸に打ち上げられ、その後本件事故の発生した昭和四四年六月に至るまでの
間、台風の後やしけのときなどには、かなり大きい砲弾類が毎年のようにb海岸一
帯に打ち上げられるようになつた。その間昭和四一年六月に台風が新島を襲つた際
には、風や波浪の影響でb海岸に大量の砲弾類が打ち上げられたので、警視庁新島
警察署では、危険を認めて可能な範囲でb海岸の砲弾類を回収してこれを同警察署
に保管するとともに、その処理につき防衛庁技術研究本部新島試験場長等に相談を
もちかけたところ、同年八月二五日陸上自衛隊が来島して同警察署に保管中の砲弾
類を持ち去つたほか、同年九月には陸上自衛隊の弾薬処理班らも来島してb海岸(
海中・海底を含まない。)を捜索し、同警察署に保管中の砲弾類とともに海上自衛
隊の艦船に積込んで持ち去つたこともあつた。
 4 新島のb海岸は、有名な海水浴場として、島民のみならず観光客によつても
広く利用されていた場所であるところ、新島では早くも六月ころから海水浴が行わ
れることもあつて、b海岸では暖をとるための焚火が一般に行われていたうえ、子
供達の中には、海岸で拾得した砲弾類の火薬を抜き取り、これに点火して花火のよ
うにして遊ぶ者がいたし、また、砲弾類が海岸付近の海底にあることが船上からも
容易に見ることができたため、島民の中には、海中に潜つて砲弾類を拾つてこれを
鉄屑として古物回収業者に売却する者もあらわれ、漁師の中にも、砲弾類の火薬を
焚火の火付けに使用している者があつた。
 5 陸上自衛隊は、本件事故発生直後の昭和四四年七月八日から同月一二日まで
の間、b海岸一帯(ただし、海中を除く。)を捜索して、砲弾三六発、小銃弾四五
三〇発及び薬莢一三〇個を発見し、これを回収したが、海上自衛隊は、昭和四五年
から昭和四八年までの間に、毎年一回以上b海岸付近の海中に投棄されていた砲弾
類の回収作業を実施し、その結果、昭和四五年に四五五八発(約八三〇三キログラ
ム)、昭和四六年には六九五五発(約二万〇六九六キログラム)、昭和四七年には
三五一発(約六〇一五キログラム)、昭和四八年には二七八発(約一〇九五キログ
ラム)にのぼる多数の砲弾類を回収した。そして、右砲弾類の大部分は、b海岸か
ら五〇メートル内外で水深二メートル前後にすぎない海底から発見され、回収され
たことなどからすれば、本件事故発生当時、b海岸の海浜及び付近の海中には、右
に回収された数量以上の大量の砲弾類が存在していたものということができるし、
本件事故にかかる砲弾も、第二次大戦中新島駐屯の陸軍が装備していた砲弾であつ
て、右海中投棄後b海岸に打ち上げられたものであると推認される。
 6 本件事故発生後に回収された前記砲弾類は、海中に投棄されたのち二〇年以
上も経過していたため、錆び付きかつ腐蝕していて、砲弾としての機能を失つてい
たが、しかし、その大部分は、熱又は衝撃等が加えられると依然爆発する可能性が
あつたため、b海岸一帯においては、前記砲弾類の海中投棄が実施された直後から
本件事故の発生に至るまでの間、本件のように砲弾類が焚火の中に投入された場合
はもちろん、砂中に隠れて存在する砲弾類の上で焚火がされるなど、一定の条件が
具備した場合には、その砲弾類の爆発によつて人身事故等の惨事の発生する危険性
が充分あつた。
 7 Kは、昭和四一年三月から昭和四三年三月までの間、新島警察署の次長とし
て勤務していたものであるが、同人が同署に着任した当時、同署の裏庭に回収され
た小銃弾五〇発ないし六〇発が保管されていたし、昭和四一年ないし四二年六月こ
ろには、小銃弾約二箱半(一箱約二八〇〇発)、直径七センチメートルぐらいの榴
弾二十数個及びこれより大きい砲弾二、三個が一度にb海岸に打ち上げられ、これ
を回収したことがあつたので、新島警察署は、島民からそれまでのいきさつを聞く
などして、第二次大戦の終結直後に大量の砲弾類がb海岸沖の海中に投棄され、そ
の一部がその後台風などの際などにしばしばb海岸に打ち上げられていることを知
り、これを放置すれば人身事故等の発生する危険性のあることを察知するとともに、
b海岸沖を掃海して砲弾類を回収する必要性のあることを認めた。そこで、新島警
察署は、その後、島民に対して、砲弾額を発見した場合にはこれを警察に届け出る
よう呼びかけるとともに、警視庁に対しては、正規の報告文書である「島状報告」
に砲弾類が右のようにb海岸に打ち上げられる事情を記載して報告し、更に、警視
庁防犯部保安一課を通じて右砲弾類の処理を自衛隊に依頼するよう上申したが、警
視庁から自衛隊に対する右のような依頼が現実にされたという形跡はない。また、
右Kの後任として新島署に着任したLも、その事務引継ぎの際、右Kから前記のよ
うに砲弾類がしばしばb海岸に打ち上げられていることの説明を受けたほか、同署
の裏庭に海岸等から回収された砲弾類が保管されていることを現認し、更にその後
本件事故発生に至るまでの間、島民からb海岸に砲弾類が打ち上げられていること
の届出を数回受理し、その砲弾類の回収にあたつたこともあつた。
  以上の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして肯認するに足り、その過
程に所論の違法はない。
二 ところで、警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮
圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当たるこ
とをもつてその責務とするものであるから(警察法二条参照)、警察官は、人の生
命若しくは身体に危険を及ぼし、又は財産に重大な損害を及ぼす虞れのある天災、
事変、危険物の爆発等危険な事態があつて特に急を要する場合においては、その危
険物の管理者その他の関係者に対し、危険防止のため通常必要と認められる措置を
とることを命じ、又は自らその措置をとることができるものとされている(警察官
職務執行法四条一項参照)。もとより、これは、警察の前記のような責務を達成す
るために警察官に与えられた権限であると解されるが、島民が居住している地区か
らさほど遠からず、かつ、海水浴場として一般公衆に利用されている海浜やその付
近の海底に砲弾類が投棄されたまま放置され、その海底にある砲弾類が毎年のよう
に海浜に打ち上げられ、島民等が砲弾類の危険性についての知識の欠如から不用意
に取り扱うことによつてこれが爆発して人身事故等の発生する危険があり、しかも、
このような危険は毎年のように海浜に打ち上げられることにより継続して存在し、
島民等は絶えずかかる危険に曝されているが、島民等としてはこの危険を通常の手
段では除去することができないため、これを放置するときは、島民等の生命、身体
の安全が確保されないことが相当の蓋然性をもつて予測されうる状況のもとにおい
て、かかる状況を警察官が容易に知りうる場合には、警察官において右権限を適切
に行使し、自ら又はこれを処分する権限・能力を有する機関に要請するなどして積
極的に砲弾類を回収するなどの措置を講じ、もつて砲弾類の爆発による人身事故等
の発生を未然に防止することは、その職務上の義務でもあると解するのが相当であ
る。
 してみれば、原審の確定した前記一の事実関係のもとでは、新島警察署の警察官
を含む警視庁の警察官は、遅くとも昭和四一、二年ころ以降は、単に島民等に対し
て砲弾類の危険性についての警告や砲弾類を発見した場合における届出の催告等の
措置をとるだけでは足りず、更に進んで自ら又は他の機関に依頼して砲弾類を積極
的に回収するなどの措置を講ずべき職務上の義務があつたものと解するのが相当で
あつて、前記警察官が、かかる措置をとらなかつたことは、その職務上の義務に違
背し、違法であるといわなければならない。これと同旨の原審の判断は、正当とし
て是認することができ、原判決に所論の違法はない。
 論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難す
るか、又は原審の認定にそわない事実若しくは右と異なる見解に立つて原判決を論
難するものにすぎず、採用することができない。
 同第二点について
 原審が適法に確定した事実関係のもとにおいては、所論警察官の職務上の義務違
背と本件事故による損害との間に相当因果関係があるとした原審の判断は、肯認す
るに足り、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    鹽   野   宜   慶
            裁判官    木   下   忠   良
            裁判官    宮   崎   梧   一
            裁判官    大   橋       進
            裁判官    牧       圭   次

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