弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被上告人Bの請求に関する部分及び同被上告人を除くその余の
被上告人らの請求に関する上告人ら敗訴部分を破棄する。
     被上告人Bを除くその余の被上告人らの請求に関する右部分につき、本
件を東京高等裁判所に差し戻す。
     本件訴訟のうち被上告人Bの請求に関する部分は、昭和五一年八月二四
日同被上告人の死亡により終了した。
         理    由
 上告人A1製紙株式会社代理人荻野定一郎名義、同満園勝美、同満園武尚の上告
理由第一ないし第三点、上告人A2製紙株式会社代理人河野富一、同河野光男の上
告理由第一点、上告人A3工業株式会社代理人井口賢明の上告理由第一点、上告人
A4製紙株式会社代理人山根篤名義、同下飯坂常世、同海老原元彦、同廣田寿徳、
同竹内洋、同馬瀬隆之の上告理由第一点について
 論旨は、要するに、住民訴訟においては、訴訟の対象となるべき具体的事項につ
き地方自治法(以下「法」という。)二四二条の住民監査請求を経由した旨の主張
をしなければならないのであつて、これを本件についていえば、被上告人らの本件
監査請求の要旨3(3)に記載された内容の住民監査請求を経由したという主張だけ
では足りず、本件監査請求は、静岡県知事が上告会社四社に対してヘドロ浚渫に関
する不法行為による損害賠償請求権を行使しなかつたことが違法に財産の管理を怠
る事実に該ることの請求を含む旨の主張をしなければ、静岡県に代位して上告会社
四社に損害賠償の請求をすることはできない、というのである。
 しかしながら、法二四二条一項は、同項にいう当該行為又は怠る事実によつて普
通地方公共団体(以下「地方公共団体」という。)の被つた損害を補填するために
必要な措置を講ずべきことにつき住民監査請求をすることができる旨規定するにと
どまるのであつて、同規定を解釈して、住民監査請求においては、所論のように、
より具体的に損害賠償請求権の不行使が怠る事実に当たるとまで主張しなければな
らないと解することはできない。記録によれば、本件監査請求における請求の要旨
3(3)には、「A1製紙株式会社等の大製紙企業に浚渫費用を負担せしめること」
という記載があり、これと同(1)に記載されている「Dが違法不当に支出した昭和
四四年度のa港の浚渫費一億五〇〇〇万円」とあるのとをあわせ考えると、右請求
の要旨3(3)には、静岡県が昭和四四年度に支出したヘドロ浚渫費一億五〇〇〇万
円について、これを原因者に何らかの形で負担させるべきであるという主張が含ま
れているものと解するのを相当とし、その限りにおいて、右監査請求の趣旨は明確
であり、法二四二条の二所定の住民訴訟の前提としての法二四二条所定の住民監査
請求の要件を充足しているものと見るべきである。右と同旨の原判決は正当であり、
論旨は理由がない。
 上告人A1製紙株式会社代理人荻野定一郎名義、同満園勝美、同満園武尚の上告
理由第六ないし第八、第一〇、第一五点、上告人A2製紙株式会社代理人河野富一、
同河野光男の上告理由第二、第四、第五点、上告人A3工業株式会社代理人井口賢
明の上告理由第二、第三、第五点、上告人A4製紙株式会社代理人山根篤名義、同
下飯坂常世、同海老原元彦、同廣田寿徳、同竹内洋、同馬瀬隆之の上告理由第三、
第四、第六点について
 論旨は、要するに、本件ヘドロ浚渫費は静岡県の被つた損害に当たらず、したが
つてこれを上告会社四社に負担させなかつたことは、違法に怠る事実とならない、
というのである。
 ところで、法二四二条の二第一項四号の規定に基づくいわゆる代位請求に係る住
民訴訟は、法二四二条一項所定の地方公共団体の執行機関又は職員による同項所定
の一定の財務会計上の違法な行為又は怠る事実によつて地方公共団体が被つた損害
の回復又は被るおそれのある損害の予防を目的とするものであり、地方公共団体が、
右目的のため、当該職員又は当該違法な行為若しくは怠る事実に係る相手方に対し、
法二四二条の二第一項四号に掲げられた請求権を実体法上有するにもかかわらず、
これを積極的に行使しようとしない場合に、住民が地方公共団体に代位し右請求権
に基づいて提起するものである(最高裁昭和四六年(行ツ)第九〇号同五〇年五月
二七日第三小法廷判決・裁判集民事一一五号一五頁、同昭和五二年(行ツ)第八四
号同五三年六月二三日第三小法廷判決・裁判集民事一二四号一四五頁参照)。
 これを本件のような損害賠償請求の場合についてみると、地方公共団体の有する
損害賠償請求権は、法二三七条一項及び二四〇条一項にいう地方公共団体の財産な
いし債権に当たるものとみるべきであるが、右請求権の不行使につき必要な措置を
講ずべきことを法二四二条の二所定の住民訴訟の方式により求めることができるの
は、当該地方公共団体が右請求権の行使を違法に怠る事実により当該地方公共団体
の被つた損害を補填することを目的とする場合に限られるものと解すべきである。
 ところで一般に、河川港湾等いわゆる自然公物に対する汚水の排出は、社会通念
上一定の限度までは許容されているものと解され、右限度を超えない汚水排出の結
果生じた汚染ないしヘドロ堆積等は、当該自然公物の管理権者である地方公共団体
の行政作用により処理されるべきものである。また、右汚水の排出が社会通念上右
一定の限度を超えた結果汚染ないしヘドロ堆積等が生じた場合であつても、そのよ
うな状態に至つた原因の中に行政上の対策の不備等があつて、汚水排出者にすべて
の責任を負わせることが必ずしも適当でない場合もありうるのであるから、右汚染
ないしヘドロ堆積等の除去又は予防のために講ずべき浚渫作業又は施設の設置・改
善等の措置、そのために支出すべき費用及びその分担についてはなお公物管理権者
の合理的かつ合目的的な行政裁量に委ねられている部分があるものというべく、し
たがつて、汚染ないしヘドロ堆積等の除去に要する費用の支出中に、本来的には当
該地方公共団体の負担すべきものとされない部分がある場合であつても、公物管理
権者において、行政上の見地から、諸般の具体的事情を検討し、行政裁量により特
別の支出措置を講ずることが許されることもあると解するのが相当である。
 このように見てくると、汚染ないしヘドロ堆積等の除去に要する費用の支出につ
いても、(一) 当該地方公共団体が行政上当然に支出すべき部分、(二) 当該地方
公共団体がその行政裁量により特別の支出措置を講ずるのを相当とする部分、(三)
 汚水排出者の不法行為等による損害の填補に該当し終局的には当該汚水排出者に
負担させるのを相当とする部分、に区分して考えなければならない。そして、住民
が当該地方公共団体に代位して汚水排出者に対し損害賠償請求権を行使しうるのは、
右(三)の部分に限られるものというべきである。これを、本件についてみると、法
二四二条の二第一項四号の規定に基づく被上告人らの損害賠償請求の裁判において
は、本件ヘドロ浚渫費のうち右(三)の部分の有無及びその金額について認定判断を
しなければならないのであつて、ヘドロ浚渫費支出の原因に汚水排出者の不法行為
が存するという一事のみで、右浚渫費の全額を、当然に、被上告人が静岡県に代位
して汚水排出者に請求することのできる金額と認めることはできないものといわな
ければならない。右の次第であるから、原審が、工場廃水による本件河川の汚染が
極めて著しく、そのためa港に堆積したヘドロの浚渫を余儀なくされた静岡県が、
港湾管理者として上告会社四社ほか工場廃水を違法に排出した者に対し損害賠償請
求権を有するにかかわらずこれを行使しないのは違法である、とのみ判示して、た
やすく、昭和四四年度のヘドロ浚渫費一億二一八〇万三〇〇〇円の全部を共同不法
行為による損害と認めたことは、たとえ本訴における認容額がそのうち一〇〇〇万
円の限度にとどまるとしても、法二四二条及び二四二条の二の解釈適用を誤り、ひ
いて理由不備の違法をおかしたものといわざるをえない。論旨は理由があり、原判
決中上告会社四社敗訴部分は、その余の論旨に判断を加えるまでもなく破棄を免れ
ず、更に審理を尽くさせるため、右部分を東京高等裁判所に差し戻すこととする。
 職権をもつて調査するに、記録によれば、被上告人Bは昭和五一年八月二四日死
亡していることが明らかである。地方自治法二四二条の二に規定する住民訴訟は、
原告が死亡した場合においては、その訴訟を承継するに由なく、当然に終了するも
のと解すべきであるから、本件訴訟中同被上告人の請求に関する部分は、その死亡
により当然に終了しており、原判決は破棄を免れない。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員一致の意見で
主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    伊   藤   正   己
            裁判官    横   井   大   三
            裁判官    寺   田   治   郎

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