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平成22年9月8日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成21年(行ウ)第8号損害賠償行為請求事件
主文
1被告は,A,B及びCに対し,それぞれ4万8700円及びこれに対する平
成21年7月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請
求せよ。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第1当事者の求めた裁判
1請求の趣旨
(1)被告は,A,B及びCに対し,それぞれ5万3800円及びこれに対す
る平成20年5月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払う
よう請求せよ。
(2)訴訟費用は被告の負担とする。
2請求の趣旨に対する答弁
(1)原告の請求をいずれも棄却する。
(2)訴訟費用は原告の負担とする。
第2当事者の主張
1請求原因
(1)ア原告は,関市の住民である。
イ被告は,関市長の職にある者である。
ウAは,平成20年5月ころ(以下,断りがない限り,平成20年のこと
とする。)の時点で,関市議会議長の職にあった者であり,B及びCは,
同時期に関市議会議員の職にあった者である。
(2)支出負担行為又は支出命令の違法性について
ア関市議会は,4月10日,会派代表者会議において,ブラジル岐阜県人
会式典及びモジ市親善訪問等(以下「本件派遣旅行」という。)のため
A,B及びC(以下,3人併せて「相手方ら」という。)を派遣すること
を議決した(以下「派遣決定」という。)。
イ被告は,5月15日,相手方らに対し,本件派遣旅行の旅費73万41
00円(但し,Aに対しては,143万4100円),支度料4万312
0円及び日当4万5900円を支出する旨の支出負担行為をした。
ウ相手方らは,5月15日,被告に対し,上記金額の概算払を請求し,関
市議会事務局次長Dは,上記金額をそれぞれ相手方らに支払うよう支出命
令を専決した。
エ関市会計職員は,5月20日,資金前渡職員Aを介し,相手方らに対し
上記金額を支払った。
オ相手方らに対して支出された上記金員のうち,1万8700円分はサン
バショーの代金及びコルコバードの丘等リオデジャネイロ市の観光施設の
入場料であるところ,派遣決定添付の日程表(以下「本件派遣日程表」と
いう。)には,これらの観光予定は記載されておらず,相手方らは,本件
派遣旅行期間中5月26日には,これらの観光に興じていたのであるか
ら,同日分の日当5100円を併せた2万3800円分の支出負担行為及
び支出命令は,法的根拠を欠き違法である。
カ上記違法な支出負担行為及び支出命令により,相手方らは,上記同額の
利得を不当に利得している。
(3)精算手続の違法性について
ア前記(2)ウで相手方らが概算払を請求した金額のうち3万円は,本件派
遣旅行のうち,リオデジャネイロ市における日本人学校及び日伯協会への
訪問のための専用車使用料及び専用車運転手兼随行ガイド料(以下「専用
車使用料等」という。)として請求されたものである。
イ相手方らは,使用予定日前日に専用車をキャンセルしたため,上記金額
全額分のキャンセル料が発生した。
ウ相手方らは,専用車を使用せず,上記キャンセルにより,専用車使用料
等全額のキャンセル料が発生したにもかかわらず,概算払精算明細書や概
算払精算書提出時にこれらの事実を申告しなかった。
エ資金前渡職員Aは,5月30日,被告に対し,概算払額と精算額とが同
額であるという同人作成にかかる概算払精算書と相手方ら作成にかかる概
算払精算明細書を提出し,Dは,同日,概算払の債務の確定を専決した。
オ上記イの事実が報告されないまま概算払精算書が提出されたから,債務
確定の専決は違法であり,相手方らは,それぞれ,専用車使用料等3万円
を不当に利得している。
(4)ア原告は,平成21年3月17日,上記と同旨の主張をして,被告に対
し,相手方らにそれぞれ5万3800円,合計16万1400円を返還さ
せる措置を講じるよう監査請求をした。
イ関市監査委員は上記監査請求に基づき監査の上,原告に対し,平成21
年4月28日付けで,同監査請求に係る措置請求は理由がないものと認め
る旨通知した。
ウ原告は,平成21年5月25日,本件訴訟を提起した。
(5)よって,原告は,被告に対し,地方自治法242条の2第1項4号に基
づき,相手方らに対し,それぞれ5万3800円及びこれに対する平成20
年5月21日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払うよう
請求することを求める。
2請求原因に対する認否
(1)請求原因(1)は認める。
(2)請求原因(2)アないしエは認め,その余は否認ないし争う。
サンバショー鑑賞やコルコバードの丘等の観光施設訪問は,海外行政視察
調査として派遣決定時の行動計画として予定されていたものであり,これに
対する費用を含めた支出負担行為及び支出決定は何ら違法ではない。
(3)請求原因(3)アないしウは認め,その余は否認ないし争う。
ア相手方ら自身は,概算払精算書や概算払精算明細書提出にあたり,専用
車のキャンセルの経緯及び専用車使用料等全額分のキャンセル料が発生し
たことを報告していないが,本件派遣旅行に随行した日本通運株式会社岐
阜旅行センター(以下「日本通運」という。)係長Eから,帰国後直ちに
これらの事実につき報告がなされているから,Dの概算払の債務確定の専
決に何ら違法はない。
イ相手方らが使用日前日に専用車をキャンセルしたのは,Eから,前日に
なってはじめて他の自治体からの親善訪問団も日本人学校や日伯協会を視
察したいと申し出ているとして,安全性と効率性の観点から専用車のキャ
ンセルを勧められたためであり,当該キャンセルには合理的な理由があ
る。また,日本通運との契約上,専用車使用料等全額分のキャンセル料が
発生することはやむを得なかったのであるから,専用車を使用しなかった
ことや,キャンセル料が発生したことについて何ら報告がなくとも,Dの
概算払の債務確定の専決に違法はない。
ウ相手方らは,日本通運に対し,専用車使用料等と同額のキャンセル料を
支払っているのであるから,相手方らに不当な利得は存しない。
(4)請求原因(4)は認める。
理由
1請求原因(1),同(2)アないしエ,同(3)アないしウ,同(4)は当事者間に争い
がない。
2請求原因(2)オ,カ及び同(3)エ,オについて
(1)争いのない事実に証拠(甲1,7,8,乙1ないし13,証人E,証人
D)及び弁論の全趣旨を併せると,次のとおりの事実が認められる。
ア関連法令等
(ア)平成20年6月18日法律第69号による改正前の地方自治法(以
下「法」という。)
a100条12項
議会は,議案の審査又は当該普通地方公共団体の事務に関する調査
のためその他議会において必要があると認めるときは,会議規則の定
めるところにより,議員を派遣することができる。
b203条
1項普通地方公共団体は,その議会の議員,委員会の委員,非常
勤の監査委員その他の委員,自治紛争処理委員,審査会,審議
会及び調査会等の委員その他の構成員,専門委員,投票管理
者,開票管理者,選挙長,投票立会人,開票立会人及び選挙立
会人その他普通地方公共団体の非常勤の職員(短時間勤務職員
を除く。)に対し,報酬を支給しなければならない。
2項略
3項第1項の者は,職務を行うため要する費用の弁償を受けるこ
とができる。
4項略
5項報酬,費用弁償及び期末手当の額並びにその支給方法は,条
例でこれを定めなければならない。
(イ)海外行政視察調査議員派遣要綱(平成15年12月8日付関市議会
会派代表者会議(以下「会派代表者会議」という。)決定,以下「派遣
要綱」という。)(甲8)
a派遣決定
会派代表者会議において行政視察調査事項,対象都市及び目的地の
決定並びに派遣議員の人選を行い,議会の議決により派遣を決定す
る。
b事務手続
派遣する議員は,概ね出発2か月前までに議長に行政視察調査計画
書を提出し,承認を受ける。また,帰国した後は,速やかに行政視察
調査報告書を提出し,議会に報告するものとする。
(ウ)関市会計規則
a60条
1項概算払を受けた者は,その用件終了後7日以内に第58条第
1項及び第3項の例によって精算しなければならない。
2項精算の結果不足金があるときは,証書類を添えて不足額の支
出の手続をしなければならない。
b58条
1項資金前渡を受けた者は,その資金の目的とした支払を完了し
たときは,7日以内に精算しなければならない。ただし,その
支払が資金を受けた日から1月を経過して精算できないものが
あるときは,会計管理者に申し出て,承認を受けなければなら
ない。
2項略
3項第1項の精算は,前渡金・概算払精算書(別記様式第25
号)に証拠書類を添えて行い,精算残金があるときは,戻入命
令書(別記様式第26号)により戻入通知し,返納通知書によ
り速やかに指定金融機関に払い込まなければならない。
4項略
イ本件派遣旅行に至る経緯
(ア)日本通運は,平成19年,岐阜新聞及び岐阜放送の企画,岐阜県,
県市長会,県町村会,財団法人岐阜県国際交流センター,岐阜市(カン
ピーナス市),関市(モジダスクルーゼス市),中津川市(レジストロ
市)及び下呂市(サレゼポリス市)の後援で,「日本人ブラジル移住1
00年ブラジル岐阜県人会創立70周年親善訪問団」という旅行(以下
「親善訪問団旅行」という。)を主催した。
企画当初に作成されたパンフレット(甲7)には,旅行期間は5月2
0日から29日の6泊10日で,旅行代金は,1人当たり54万200
0円,訪問都市は,サンパウロ,リオデジャネイロ,ブエノスアイレス
及びモンテビデオと記載され,5月25日の夜は,ホテル到着後の予定
はなく,26日は終日専用車による市内観光(コルコバードの丘,カテ
ドラル,ポンデアスカル等),27日は残りの市内観光と記載されてい
た。
Eは,平成19年11月ころ,岐阜新聞従業員とともに,上記パンフ
レットを持参して関市議会事務局を訪れ,関市議会議員の親善訪問団旅
行への参加を呼びかけた。(以上,甲7,乙12,証人E)
(イ)岐阜新聞及び岐阜放送の事業局長Fは,平成20年3月25日こ
ろ,関市に対し,他の自治体からの親善訪問団旅行参加者の希望によ
り,同旅行の出発日を5月20日から同月21日に変更して,サンパウ
ロでの宿泊日数を4泊から3泊に減らす代わりに,当初の企画では旅行
代金の中に一部の食事代は含まれていなかったのを,すべての食事を旅
行代金に含めた上,5月25日の夜に観光視察を追加することで旅行代
金を据え置きたい旨連絡した。(甲14)
(ウ)関市議会事務局は,3月下旬ころ,Eに対し,リオデジャネイロの
日系企業や日本人学校等の施設の視察訪問ができないかと問い合わせを
したところ,Eは,4月初めころ,関市議会事務局に対し,現地企業は
難しいが,日本人学校と日伯協会であれば可能であると返答をした。こ
れにより,親善訪問団旅行に参加する関市議会議員は,専用車を利用し
て5月26日に日本人学校,翌27日に日伯協会を視察訪問する予定と
なった。(乙12,証人E,証人D)
(エ)Eは,4月7日ころ,関市議会事務局に対し,親善訪問の費用見積
書及びエクセルファイルで作成された日程表(以下「日程表ファイル」
という。)を電子メールで送信した。(証人E)
上記見積書には,入場料として,1人2万円が計上され,日程表の2
5日夜の行には,「観光視察」と記載され,26日の行には,交通機関
欄に「専用車」,摘要欄には,「市内視察(コルコバードの丘,カテド
ラル,ポンデアスカルなど)」,27日の行には,交通機関欄に「専用
車」,摘要欄には,「残りの半日市内視察」と記載されていた。(乙1
の5ないし7丁)
(オ)4月10日に開催された会派代表者会議では,「ブラジル岐阜県人
会創立70周年(日本移住100周年)・姉妹都市モジ・ダス・クルー
ゼス市親善訪問」と題する本件派遣日程表が資料として配付され,同会
議は,同日程表について承認をした上,相手方らを本件派遣旅行に派遣
することを決定した。関市議会は,これを受けて,同日,相手方らを本
件派遣旅行に派遣することを議決した(派遣決定)。
派遣決定と一体となる本件派遣日程表は,関市議会事務局員が日程表
ファイルを加工して作成したものであり,同日程表に記載されたブラジ
ル連邦共和国入国後から同国出国までの日程の概要は次のとおりであ
る。(甲1,証人E,証人D)
a5月22日
サンパウロに到着後,入国手続を行い,昼食後,専用バスにてホテ
ルへ向かい,早めにチェックインして部屋にて休憩する。
b5月23日
(a)専用車にてホテルから空港へ向かい,被告と合流し,姉妹都市
モジダスクルーゼス市へ向かう。
(b)モジ市長表敬訪問し,国旗掲揚式,歓迎式典等に出席する。
(c)モジ市内随一のショッピングセンターにて,モジ市,関市及び
県人会が共催する「移民百周年記念絵画展」オープン式に出席す
る。
(d)絵画展オープン記念パーティ「名誉市民権受賞式」に出席す
る。
(e)モジ市文化協会スポーツセンターにて文化協会野球部主催夕食
会に参加する。
c5月24日
(a)専用車にて,イタペチ日本語学校へ向かい,「児童生徒の文通
・絵画交流式典」に参加する。
(b)モジダスクルーゼス市において,ブラジル日本移民百周年記念
公園を視察し,関市長及びモジ市長と「植樹式」に出席する。
(c)モジダスクルーゼス市役所広場にて知事出迎え等を行う。
(d)専用バスにて,モジ・ショッピングセンターに向かい,ブラジ
ル岐阜県人会主催の前夜祭(お茶・着物ショー)に参加する。
(e)サンパウロのホテルに戻り,同ホテルにて,ジャイカ派遣のG
さんと面談する。
(f)サンパウロ市内レストランにおける知事・ブラジル姉妹都市4
市町主催懇談会・レセプションに出席する。
d5月25日
(a)サンパウロ市のブラジル愛知県人会館において,岐阜県人会創
立70周年記念式典に出席する。
(b)飛行機でサンパウロからリオデジャネイロへ向かい,専用バス
にてホテルへ向かう。
e5月26日
リオデジャネイロ市で,専用バスにてリオデジャネイロ日本人学校
を視察する。
f5月27日
(a)午前中にリオデジャネイロ日伯協会を訪問する。
(b)午後は,帰国準備などを行う。
(カ)なお,本件派遣日程表と日程表ファイルとは,25日から27日ま
での記載について,次の点が異なっている。(甲1,乙1)
a日程表ファイルでは,5月22日の午後は,専用車により車窓から
市内視察という日程が記載されている。
b日程表ファイルには,5月25日の夜に「観光視察」が日程として
記載されている。
c日程表ファイルの5月26日の交通機関欄には「専用車」との記載
があるが,本件派遣日程表では,「専用バス」となっている。
d日程表ファイルの5月26日の摘用欄には,「市内視察(コルコバ
ードの丘,カテドラル,ポンデアスカルなど)」との記載があるが,
本件派遣日程表では,この記載がすべて削除され,代わりに「リオデ
ジャネイロ日本人学校視察」と記載されている。
e日程表ファイルの5月27日の交通機関欄には「専用車」との記載
があるが,本件派遣日程表では,「専用バス」となっている。
f日程表ファイルの5月27日の摘用欄には,「残りの半日市内視
察」との記載があるが,この記載が削除され,代わりに「リオデジャ
ネイロ日伯協会訪問」と記載されている。
(キ)Eは,5月14日,関市議会事務局に対し,旅行代金合計73万4
100円(但し,ビジネスクラスの航空券使用の場合は,143万41
00円)とする海外旅行費用見積書を送った。
上記見積書(乙1の5,6丁)に記載された旅行代金の内訳は次のと
おりである。
a航空運賃
(a)運賃(名古屋∼米国∼サンパウロ∼リオ∼名古屋)
ビジネスクラス98万円
エコノミークラス28万円
(b)空港税,航空保険料,燃油追加料金5万6000円
b宿泊費(5泊分に到着日初日のアーリーチェックイン代含む)
19万5000円
c交通費
(a)現地バス代(通行料,駐車料込み)3万1000円
(b)モジダスへの車代3万円
dその他
(a)ガイド・アシスタント代5万2000円
(b)入場料2万円
(c)式典費用2万6400円
(d)添乗員経費2万9000円
e渡航手続料
(a)ブラジルビザ取得代金1万0500円
(b)入出国書類代行等(アメリカ及びブラジル分)4200円
(ク)Aは,5月15日,相手方らに対し,本件派遣旅行への出張命令を
し(以下「本件出張命令」という。),被告は,同日,Aに対し,上記
見積書に基づき派遣旅費143万4100円,支度料4万3120円及
び日当4万5900円の支出負担行為をし,B及びCに対し,それぞれ
派遣旅費73万4100円,支度料4万3120円及び日当4万590
0円の支出負担行為をした。
相手方らは,同日,被告に対し,上記金額の概算払を請求した。
本件出張命令,支出負担行為及び概算払の請求は,相手方ら各人ごと
に,「支出負担行為決議書(出張命令,復命,請求書)」という1通の
書面でなされており,同書面には,出張用務として「ブラジル岐阜県人
会創立70周年記念式典出席及び姉妹都市モジ・ダス・クルーゼス市親
善訪問ほか」と記載され,出発日等の記載内容は次のとおりである。
(乙4)
出発月日出発場所到着月日到着場所路程
関市中部国際空港公用車5月21日5月21日
別紙見積5月21日中部国際空港∼サンフランシスコ∼シカゴ∼
書による∼サンパウロ∼モジ・ダス・クルーゼス∼サンパウロ∼
5月28日リオデジャネイロ∼サンパウロ∼シカゴ∼
サンフランシスコ中部国際空港5月28日5月29日
中部国際空港関市5月29日5月29日
(ク)Dは,5月15日,本件派遣旅行の旅費として上記金額を相手方ら
それぞれに概算払するよう支出命令を専決し,関市会計課職員Hは,5
月20日,相手方らに対し,本件派遣旅行の旅費等として上記金員を支
払い,相手方らは,同日,日本通運に対し,同額を支払った。(乙5,
9,10)
ウ本件派遣旅行中の相手方らの行動
(ア)相手方らは,5月21日,中部国際空港から出発し,サンフランシ
スコ及びシカゴを経由して,22日にブラジル連邦共和国サンパウロ市
に入った。
相手方らは,5月23日には,関市長と共に,関市の姉妹都市である
モジダスクルーゼス市に赴き,交流記念行事等に参加し,24日には,
イタペチ日本語学校やブラジル日本移民百周年記念公園視察や植樹式に
参加し,サンパウロ市において,知事主催のレセプションに参加した。
相手方らは,5月25日午前中,サンパウロ市において,ブラジル岐
阜県人会創立70周年記念式典に参列し,リオデジャネイロ市に飛行機
で移動後,午後10時ころ,リオデジャネイロにおいて,サンバショー
を鑑賞した。
(イ)E及びFは,5月25日,相手方らに対し,他の地方自治体からの
親善訪問団旅行参加者ら(以下「他の参加者ら」という。)から,相手
方らが予定する26日の日本人学校訪問及び27日の日伯協会訪問に同
行したいとの申出があったため,専用車をキャンセルして他の参加者ら
の使う専用バスに乗車してはどうかと勧めたところ,相手方らはこれを
承諾した。Eは,この際,相手方らに対し,専用車のキャンセルは相手
方らの事由によるキャンセルとなり,使用予定日前日のキャンセルであ
るため,専用車使用料等は返金できない旨説明した。
(ウ)相手方らは,5月26日,他の参加者らと共に専用バスに乗り,日
本人学校並びにコルコバードの丘,カテドラル及びポンデアスカル等の
観光施設を訪れ,翌27日も同様に専用バスに乗り,日伯協会及び世界
最大のサッカー競技場等の観光施設を訪れた。
(オ)相手方らは,5月27日の午後6時半ころ,飛行機でリオデジャネ
イロ市を出発し,サンパウロ,シカゴ及びサンフランシスコを経由し
て,翌々日29日の午後に中部国際空港へ帰着した。
(以上,乙7,12,証人E)
エ本件派遣旅行後の経緯等
(ア)資金前渡職員Aは,5月30日,Dに対し,概算払額と精算額が同
一であるという同人作成にかかる概算払精算書と相手方ら作成にかかる
概算払精算明細書を提出し,Dは,関市の概算払の債務額を同概算払精
算書通りであると確定する専決をしたが,同精算報告書には,同月26
日,27日の旅行方法(交通手段)の変更についての証拠書類は添付さ
れなかった。(乙6,弁論の全趣旨)
(イ)相手方らは,帰国後,出張復命書を提出したが,同書面には,25
日夜のサンバショー鑑賞や26日,27日のリオデジャネイロ市内にお
ける観光施設訪問についての記載はない。(乙11)
(ウ)相手方らは,6月27日開催の関市議会において,本件派遣旅行に
ついての報告を行ったが,5月25日夜にサンバショーを鑑賞したこ
と,同月26日,27日に観光施設を訪れたことについては,いずれも
報告をせず,議会に提出した報告書には,日本人学校視察及び日伯協会
視察について記載はあるが,上記観光施設訪問等については何ら記載さ
れていない。(甲4)
(エ)日本通運が,相手方らに請求した旅行代金のうち,請求書に記載の
ある「ガイド・アシスタント代5万2000円」のうち3万円は,相手
方らが,5月26日,27日に,他の参加者らと別行動をし,日本人学
校及び日伯協会を訪問するための2日分の専用車及び専属ガイド兼運転
手の手配料金(チップ込)であり,「入場料2万円」の内訳は以下のと
おりであった。
aサンパウロでの美術館1日券1300円
bサンバショー1万1000円
コルコバードの丘3300円
ポンデアスカル3300円
マラカナンスタジアム1100円
(2)ア支出負担行為又は支出命令の違法性について
(ア)サンバショー鑑賞代金及び観光施設入場料について
前記認定事実によれば,関市議会事務局員が,事前にEから送られて
いた日程表ファイルから,25日夜のサンバショー鑑賞についての記載
や26日,27日のリオデジャネイロ市での観光施設訪問についての記
載を削除した本件派遣日程表を作成したこと,本件派遣日程表には,本
件派遣旅行の旅程を通じて,観光視察の内容が記載されていないこと,
本件派遣日程表が4月10日の各派代表者会議において資料として配付
されたこと,派遣決定は,相手方らを本件派遣日程表に基づく本件派遣
旅行へ派遣することを決定したものであること,本件出張命令は派遣決
定を基にしてなされていること,相手方らは,帰国後,25日夜のサン
バショー鑑賞や26日,27日の観光施設訪問について,議会に対し,
一切報告を行っていないことが認められるうえ,相手方らが,本件派遣
旅行出発前に,議長に対し,サンバショーや観光施設視察を行う旨の行
政視察調査計画書を提出して承認を得たと認めるに足りる証拠もない以
上,サンバショー鑑賞や観光施設訪問は,公務ではなく,単なる私事で
あったと解すべきである。
なお,被告は,サンバショー鑑賞や観光施設訪問は,派遣決定の前提
として行動計画が立てられており,出張命令にも含まれていたかのよう
な主張をし,証人Dは,派遣決定添付の本件派遣日程表は,主だった日
程のみを記載したものであり,派遣決定時には,26日の日本人学校視
察及び27日の日伯協会視察は,時間等が確定せず,同日に予定されて
いた観光視察が実施できるかわからなかったため記載しなかったが,出
張命令を発する時点では観光視察が出張内容に含まれていたと被告の主
張に沿う証言をするが,派遣決定及び出張命令において,その内容とし
てサンバショー鑑賞や観光施設訪問はおろか,本件派遣旅行の目的の一
つに観光視察目的が含まれていることなど何ら明示されていないことは
明らかであるから,被告の主張は認められない。
したがって,サンバショー代金1万1000円及びリオデジャネイロ
での観光施設入場料合計7700円の合計1万8700円分についての
支出負担行為及び支出命令は法的根拠を欠くものであり,いずれも違法
というほかない。
(イ)5月26日分の日当について
法203条によれば,普通地方公共団体の議会の議員は,職務を行う
ために要する費用の弁償を受けることができ(1項,3項),費用弁償
の額及び支給方法は,条例でこれを定める(5項)ものとされている。
法100条12項に基づき派遣される議員の派遣期間中の日当も上記の
費用に含まれると解される。
これに関して,関市は,「関市議会議員の報酬,費用弁償及び期末手
当に関する条例」(昭和42年3月13日席市条例第2号)を定めてお
り(甲3),同条例によれば,議長,副議長及び議員が職務を行うため
に旅行した場合には,市長に支給する旅費の例による額を費用弁償とし
て支給する(4条,別表)とされ,市長に支給する旅費については,関
市の定める「関市職員の旅費に関する条例」(昭和28年1月16日席
市条例第5号)により,旅費のうち,「日当は,旅行中の日数に応じ1
日当たりの定額により支給する。」(6条6項)と定められているとこ
ろ,このような定め自体は財務会計法規上違法であるとはいえない。
原告は,相手方らは,5月26日には,派遣決定にないリオデジャネ
イロ市内観光等を行ったのであるから,同日分の日当の支払は違法であ
る旨主張するが,相手方らの日本人学校視察は派遣決定に基づく本件出
張命令に従ったものである以上,相手方らが,同日に,視察に加えて私
事としてリオデジャネイロ市内観光を行ったとしても,同日分の日当の
支払が法的根拠を欠くことにはならず,同日分の日当5100円分の支
出負担行為及び支出命令は違法とはいえない。
(ウ)以上によれば,相手方らは,被告による違法な支出負担行為及びD
による違法な支出命令の専決によって,それぞれサンバショー代等合計
1万8700円を不当に利得したものと認められる。
イ精算の違法性について
(ア)概算払とは,その必要がある場合に,債務金額が未確定で,かつそ
の支払期限が到来していない時点において,あらかじめ概算額を現実に
使う者に対して支出し,事後必ず精算して債務額を確定させ,過渡しの
場合は返納させ,不足の場合は追加支払をすることを本質とする地方自
治法上認められた便宜的な支出手続(法232条の5第2項)である。
精算は,概算払の性質上,概算払を受けた者によってなされる必要があ
り,概算払をした者は,その精算の結果について,支出の事実の有無,
支出額の適否や支出の必要性等について審査し,これらの点に疑問があ
れば再度の精算を促すなどすることになる。これは,たまたま概算額が
精算額と同額であった場合においても,概算払の性質上変わるところは
ない。そのため,関市会計規則においても,概算払を受けた者は,精算
するにあたり,証拠書類を添付してなすものとされている。
(イ)前記2認定事実のとおり,相手方らは,5月26日,27日分の専
用車使用料等としての3万円の概算払請求をしているが,同月25日に
専用車をキャンセルをしたことにより,専用車を使用しなかったにもか
かわらず,専用車使用料等全額分のキャンセル料が発生し,同額分の費
用が生じたが,これらの経緯について,相手方ら自身は,精算時に何の
報告もしなかったことが認められる。
この点,被告は,Eから関市議会事務局宛にキャンセルの経緯やキャ
ンセル料についての報告がなされているから,別途,相手方らが報告す
る必要はない旨主張し,証人E及び証人Dは同旨の供述をするが,概算
払精算書に,これに関する証拠書類が添付されていない以上,同供述は
にわかに採用できない。
(ウ)専用車をキャンセルし,他の旅行参加者らの使用する専用バスに同
乗したことは,旅行方法の変更に当たるが,前記認定事実によれば,本
件出張命令,支出負担行為及び支出命令の時点において,旅行方法につ
いては,「別紙見積書による」とされ,別紙見積書は,5月26日,2
7日は専用車を使用することを前提として作成されているのであるか
ら,本件派遣旅行のうち,5月26日,27日については,特定の旅行
方法を指定して概算払がなされたものと認められる。そうであれば,そ
の債務額を確定するためには,旅行方法の変更が正当なものであるかに
ついて,地方公共団体の長又は会計管理者による審査及び承認を経る必
要があるところ,変更につき何ら報告がされていない場合には,これら
の手続を経ることができないのであるから,報告を欠く部分についての
精算に対する専決による債務の確定は違法というほかない。
被告は,相手方らによる専用車のキャンセルには合理的な理由がある
から違法ではないとか,損害が生じていないとか主張するが,前記のと
おり,報告がされず,地方公共団体の長又は会計担当者による審査を経
ることなく債務を確定させたこと自体が違法なのであって,当該主張は
失当である。
(エ)以上によれば,相手方らは,それぞれ,旅行方法の変更を報告して
いない専用車使用料相当額3万円について不当に利得していると認めら
れる。
(3)遅延損害金について
原告は,概算払の支出日である平成21年5月21日から遅延損害金が発
生すると主張するようであるが,不当利得返還債務は期限の定めのない債務
であって債権者の請求を受けたときから遅滞に陥るとされ,訴訟告知には実
体法上の催告としての効力があると解されるから,相手方らの不当利得返還
債務は,本件訴訟において,被告の相手方らに対する訴訟告知書が相手方ら
に送達された日の翌日から遅滞に陥るものと認めるのが相当である。
本件訴訟の訴訟告知書が相手方らに送達されたのは,いずれも平成21年
7月14日であることは,当裁判所に顕著な事実であるから,相手方らの不
当利得返還債務についての遅延損害金は平成21年7月15日から生ずるも
のと認められる。
3結論
以上によれば,原告の請求は,被告が相手方らに対しそれぞれ4万8700
円及びこれに対する平成21年7月15日から支払済みまで年5分の割合によ
る支払いをするよう求める限度で理由があるから認容すべきであり,その余は
理由がないから棄却すべきである。
よって主文のとおり判決する。
岐阜地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官内田計一
裁判官永山倫代
裁判官山本菜有子

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