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平成16年(ネ)第2116号 損害賠償請求控訴事件(原審・静岡地方裁判所掛
川支部平成15年(ワ)第3号)(平成16年6月14日口頭弁論終結)
          判    決
      控訴人   株式会社山本組
       訴訟代理人弁護士   長野哲久
       被控訴人   株式会社環境アセスメントセンター
      訴訟代理人弁護士   中村順英
       同          小川 央
          主    文
      本件控訴を棄却する。
      控訴費用は控訴人の負担とする。
          事実及び理由
第1 控訴の趣旨
 1 原判決を取り消す。
 2 被控訴人は,控訴人に対し,1000万円及びこれに対する平成15年1月
28日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
控訴人は,名称を「地下貯水槽の形成方法」とする特許第2012988号
発明(昭和60年10月9日特許出願,平成8年2月2日設定登録,以下「本件発
明」といい,その特許権を「本件特許権」という。)の特許権者である被控訴人と
の間で,本件特許権について,通常実施権の許諾を受ける旨の平成12年3月31
日付け契約(以下「本件契約」という。)を締結し,被控訴人にその対価として1
000万円を支払ったが,本件契約には,掛川市を含む大井川以西から天竜川以東
の静岡県西部地区においては,本件契約後,控訴人以外に本件特許権について実施
権を許諾しない旨の特約(以下「本件特約1」という。),及び控訴人に静岡県小
笠郡大須賀町(以下「大須賀町」という。)立大須賀中学校(以下「大須賀中学
校」という。)において本件発明を実施するOE式貯水システムによる工事(以下
「大須賀中学校OE式貯水システム工事」という。)を受注させる旨の特約(以下
「本件特約2」という。)があり,被控訴人の本件特約1及び本件特約2の債務不
履行を理由に本件契約を解除したと主張して,被控訴人に対し,債務不履行による
損害賠償として,1000万円及びこれに対する附帯金員の支払を求めている事案
である。
 原判決は,控訴人主張に係る本件特約1及び本件特約2の存在を認めること
はできず,被控訴人に債務不履行があるということはできないとして,控訴人の請
求を棄却した。
 当事者の主張は,次のとおり訂正,付加するほか,原判決「事実及び理由」
欄の「第2 事案の概要」の「1 争いのない事実等」及び「2 争点」のとおり
であるから,これを引用する。
 1 原判決の訂正
(1)原判決2頁4行目の「である」を「であり,本件特許権の特許権者であ
る」に,5行目の「原告は」から10行目末尾までを「控訴人は,被控訴人との間
で,本件特許権について,通常実施権の許諾を受ける旨の平成12年3月31日付
け契約(本件契約)を締結し,その対価として1000万円を被控訴人に支払っ
た。」に,12行目の「本件特許の」を「本件特許権について」に,16行目から
17行目の括弧内を「本件特約1の存否」に,20行目の「本件特許を使用させ」
を「本件発明を実施させ」に,同行目の「特許発明の実施許諾」を「実施の許諾」
に,同行目から21行目の「約束した」を「約した」に,22行目の「本件特許
の」を「本件発明を実施する」に,24行目から25行目の「約束もした」を「旨
約した」にそれぞれ改める。
(2)同3頁2行目の「という被告の約束」を「との本件特約1」に改め,同行
目の「被告は,」の次に「本件特約1に反し,」を加え,3行目の「本件特許の」
を「本件特許権について」に,同行目,22行目から23行目及び23行目の「実
施許諾権」,10行目の「使用権」,12行目の「特許」並びに18行目の「本件
特許」をいずれも「通常実施権」に,6行目冒頭から7行目の「との点」までを
「本件特約1の存在」に,10行目,22行目及び25行目の「本件特許」をいず
れも「本件発明」にそれぞれ改める。
(3)同4頁2行目から3行目の括弧内を「本件特約2の存否」に,同5行目冒
頭から7行目末尾までを「本件契約には,大須賀中学校OE式貯水システム工事を
受注させる旨の本件特約2が存在したが,被控訴人は,控訴人にこれを受注させな
かった。」に,9行目から10行目の「本件特許を利用した工事を実施」を「OE
式貯水システムによる工事を採用」に,11行目の「本件特許の利用」を「その採
用」に,12行目から13行目の「本件特許を利用する工事の実施」を「OE式貯
水システムによる工事の採用」に,18行目の「要素」を「内容」に,19行目か
ら20行目の「重要部分」を「内容」に,20行目の「本件特許を利用した」を
「本件発明を実施した」に,同行目の「特許使用」を「通常実施権」に,24行目
の「特許使用会社」を「控訴人」にそれぞれ改める。
 2 控訴人の主張
  (1)本件特約1の存否(争点1)
 本件契約において,控訴人にとって最も重要な点は,独占し得る地区の点
であり,その話合いの中で,被控訴人は,大井川以西から天竜川以東の地区(静岡
県西部地区)については,将来,競合させないと約し,控訴人は,この静岡県西部
地区においてOE式貯水システムによる工事の独占権が得られることが確認できた
からこそ,通常実施権料1000万円の支払もやむを得ないと考え,本件契約を締
結したのである。そもそも掛川市周辺において営業活動を行っている控訴人として
は,支店や営業所を有する大手や準大手の企業とは異なり,競合会社が存在したの
では本件契約をしたメリットがなく,競合会社が控訴人との契約後に幾つも出てき
てしまうことが予想されたり,そのような説明を受けたり,示唆されたりすれば,
控訴人は本件契約を締結するはずがない。確かに,控訴人と被控訴人間の平成12
年3月31日付け業務提携契約書(甲1,以下「本件業務提携契約書」という。)
には,本件特約1に係る記載はない。しかし,被控訴人が統一した契約書を使用し
ているために,個々の事情や個別の合意文書を書き入れることができなかったこと
によるものと考えられ,被控訴人は,控訴人に対し,「契約内容は一般的なことし
か書かない」とも説明していた。
 以上から,掛川市を含む大井川以西から天竜川以東の静岡県西部地区にお
いては,本件契約後は,控訴人以外に本件特許権について実施権を許諾しない旨の
本件特約1が合意されたものと認定されるべきである。
  (2)本件特約2の存否(争点2)
 被控訴人は,控訴人に対し,「大須賀中学校においてOE式貯水システム
の工事の発注が予定されているので,山本組に優先的に回したい」旨を確約したも
のであり,これは,単に情報提供等の便宜を図ったということにとどまらず,控訴
人に契約を締結させるようにする旨の合意とみるべきである。単なる情報提供であ
れば,本件契約締結前に述べることはなく,被控訴人としては,本件契約を締結し
てもらいたいために述べたことであるはずであるから,大須賀中学校OE式貯水シ
ステム工事を受注させる旨の約定が成立したとするのが当事者の意思に合致するも
のである。
 3 被控訴人の反論
  (1)本件特約1の存否(争点1)について
 特許権についての通常実施権の許諾契約において,その実施権の取得が独
占的なものであるか否かは,契約当事者間の権利関係において,極めて重要な内容
であるから,その旨は契約書に明記され,独占的実施権の与えられる地区及び特許
権者がそれに違反した場合のペナルティー等を詳細に定めるのが当然である。しか
しながら,本件業務提携契約書(甲1)にはその旨の記載はない上,本件特約1に
係る書面も一切作成されていない。したがって,本件契約において,本件特約1が
存在しないことは明らかである。
  (2)本件特約2の存否(争点2)について
 被控訴人は,大須賀中学校OE式貯水システム工事の受注者を決め得る立
場にはないから,控訴人に対し,その受注を確約すること自体あり得ないことであ
る。OE式貯水システムを採用する工事がどこで行われるかという情報は,控訴人
が工事を受注するに当たって,極めて重要なものであり,そのような情報自体が十
分な価値を持っているのであって,本件契約前に上記情報を控訴人に提供すること
は,控訴人にとって重大な利益となるものである。
第3 当裁判所の判断
 当裁判所も,控訴人の被控訴人に対する請求は,失当として棄却すべきもの
と判断する。その理由は,次のとおり補正,付加するほかは,原判決「事実及び理
由」欄の「第3 争点に対する判断」の1ないし3のとおりであるから,これを引
用する。
1 原判決の補正
(1)原判決5頁2行目の「(1)証拠」を「上記争いのない事実等並びに証拠」
に,4行目から5行目の「被告が特許を有する」を「本件発明を実施する」に,1
2行目から13行目の「大井川以西,天竜川以東という範囲を営業エリアとする」
を「実施権を許諾する地区を,静岡県の大井川以西から愛知県の矢作川以東の地区
とする」に,14行目の「本件特許の実施権」を「上記実施権」に,16行目から
17行目の「他の企業との間で締結した本件契約と同種の業務提携契約書において
は」を「他の企業との間に本件契約と同種の技術提携契約書(乙8~11)ないし
通常実施権契約書(乙12)による契約を締結した際において」にそれぞれ改め,
18行目の「覚書」の次に「(乙4~7)」を加え,21行目の「本件特許」及び
22行目の「本件特許の実施権」をいずれも「本件特許権について通常実施権」
に,22行目の「行える」を「実施できる」に,23行目の「前者の許諾の対価
は,」を「その対価は,前者が」にそれぞれ改める。
(2)同6頁1行目の「大須賀中学校の校舎新築について,本件特許を実施する
工事」を「大須賀中学校においてOE式貯水システムの工事の発注が予定されてい
る旨」に,5行目から6行目の「本件特許の実施許諾権」を「本件特許権について
通常実施権を許諾すること」に,6行目の「締結したが」を「締結して交渉した
が」に,8行目の「本件特許の実施許諾契約」を「本件特許権について通常実施権
を許諾する旨の契約」に,12行目の「原告は,被告に対し,平成15年1月14
日本件訴えを提起した」を「控訴人は,平成14年10月7日付けで,被控訴人に
対し,本件契約を解除する旨の意思表示をした」に,13行目から14行目の括弧
内を「本件特約1の存否」に,16行目の「前記営業エリア内で」を「静岡県の大
井川以西から天竜川以東の地区内において」にそれぞれ改め,18行目の「浜松の
方で」の次に「新たに契約する会社が」を加え,19行目の「前記営業エリア」を
「上記地区」に,同行目の「本件特許の実施権」を「本件特許権について通常実施
権」にそれぞれ改める。
(3)同6頁23行目冒頭から8頁4行目末尾までを次のとおり改める。
「本件契約に係る控訴人と被控訴人との間の本件業務提携契約書(甲1)に
は,控訴人主張に係る本件特約1について,記載は全くない上,被控訴人が他の企
業との間に本件契約と同種の技術提携契約書(乙8~11)ないし通常実施権契約
書(乙12)による契約を締結した際において,特定の地区で当該契約の相手方以
外に新たに本件特許権について通常実施権を許諾するに当たって,相手方との協議
ないし相手方の同意を要することとした場合には,その旨を記載した覚書(乙4~
7)を作成しているが,本件契約に関して,同様の覚書は作成されていない。控訴
人代表者は,原審における代表者尋問において,静岡県の大井川以西から天竜川以
東の地区内において,控訴人以外に実施権を許諾しないことについて被控訴人が承
諾した旨の供述をし,原審証人Aの証言(以下「原審A証言」という。)及び同人
作成の平成16年2月9日付け陳述書(甲5)には,これに沿う部分があるが,A
は,控訴人の管理部管理課長の地位にあり,その証言等は客観的な証拠であると評
価することはできず,これらを裏付ける的確な証拠も見当たらないのであって,反
対趣旨の原審における被控訴人代表者の供述及び同人作成の平成15年9月17日
付け陳述書(乙14,以下「乙14陳述書」という。)に照らし,直ちに採用する
ことはできない。他に本件特約1の存在を認めるに足りる証拠はない。」
(4)同8頁5行目から6行目の括弧内を「本件特約2の存否」に,8行目から
9行目の「大須賀中学校の校舎新築について,本件特許を実施する工事」を「大須
賀中学校においてOE式貯水システムの工事の発注が予定されている旨」に,12
行目の「ところで」から21行目末尾までを「本件業務提携契約書(甲1)には,
控訴人主張に係る本件特約2について,記載は全くない。控訴人代表者は,原審に
おける代表者尋問において,被控訴人は,大須賀中学校OE式貯水システム工事を
控訴人に確実に受注させる旨の話を2,3回したと供述し,原審A証言には,これ
に沿う部分があるが,これらは客観的な証拠であると評価できないことは上記のと
おりであり,これらを裏付ける的確な証拠も見当たらないのであって,反対趣旨の
原審における被控訴人代表者の供述及び乙14陳述書に照らし,直ちに採用するこ
とはできない。他に本件特約2を認めるに足りる証拠はない。」にそれぞれ改め
る。
 2 控訴人の当審における主張に対する判断
  (1)本件特約1の存否(争点1)について
 控訴人は,本件契約において,控訴人にとって最も重要な点は,独占し得
る地区の点であり,競合会社が控訴人との契約後に幾つも出てきてしまうことが予
想されたり,そのような説明を受けたり,示唆されたりすれば控訴人は契約するは
ずがないなどとして,本件契約後,掛川市を含む大井川以西から天竜川以東の静岡
県西部地区においては控訴人以外に本件特許権について実施権を許諾しない旨の本
件特約1が合意されたものと認定されるべきであると主張する。しかしながら,本
件契約において,独占し得る地区が重要な点というのであれば,これを記載した書
面等を作成するのが取引の常識ともいうべきであるのに,本件業務提携契約書(甲
1)には,控訴人主張に係る本件特約1について,記載は全くない上,被控訴人が
他の企業との間に本件契約と同種の技術提携契約書(乙8~11)ないし通常実施
権契約書(乙12)による契約を締結した際において,特定の地区で当該契約の相
手方以外に新たに本件特許権について通常実施権を許諾するに当たって,相手方と
の協議ないし相手方の同意を要することとした場合には,その旨を記載した覚書
(乙4~7)を作成しているが,本件契約に関して,同様の覚書は作成されていな
いことは上記引用に係る原判決の判示するとおりであり,控訴人の上記主張は,採
用することができない。
  (2)本件特約2の存否(争点2)について
 控訴人は,被控訴人は,「大須賀中学校においてOE式貯水システムの工
事の発注が予定されているので,山本組に優先的に回したい」旨を確約したもので
あり,これは,単に情報提供等の便宜を図ったということにとどまらず,控訴人に
契約を締結させるようにする旨の合意とみるべきであるなどと主張する。しかしな
がら,原審における控訴人代表者尋問の結果及び乙14陳述書によれば,大須賀中
学校の工事の発注者は,大須賀町であり,本件契約が締結された当時,上記工事に
おいて,OE式貯水システムの採用はなお未定であったこと,本件契約締結後,被
控訴人代表者は,控訴人の担当者を,大須賀町の担当者に紹介したことが認められ
る。そうすると,本件契約締結当時,被控訴人が,控訴人に対して上記確約をする
ことは,客観的事実に照らして不可能であったことが認められる上,上記工事にお
いてOE式貯水システムの採用がなお未定であったことは,控訴人においても認識
していたことが推認できる。そうすると,控訴人の上記主張は,本件契約締結当時
の客観的事実関係に照らし,それ自体として不合理なものというほかなく,また,
控訴人主張に係る本件特約2について,これを認めるに足りる的確な証拠がないこ
とは上記引用に係る原判決の判示するとおりであり,採用することができない。
  (3)なお,控訴人は,本件口頭弁論終結後,控訴人代表者作成の平成16年6
月30日付け陳述書(甲6-1),同添付書類(甲6-2)及び控訴人管理部長B
作成の同月29日付け陳述書(甲7)を提出するが,これらはいずれも上記認定,
判断を左右しない。
 3 結論
   以上によれば,控訴人主張に係る本件特約1及び本件特約2の存在を認める
ことはできず,これらを前提として被控訴人に債務不履行があるということもでき
ないから,控訴人の本訴請求は理由がなく,これを棄却した原判決は相当である。
   よって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとお
り判決する。
     東京高等裁判所知的財産第2部
         裁判長裁判官 篠  原  勝  美
            裁判官   岡  本     岳
    裁判官 早  田  尚  貴

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