弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
       事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴の趣旨
(1) 原判決中被控訴人らに関する部分を取り消す。
(2) 原判決中被控訴人秋田県知事に対する部分を秋田地方裁判所に差し戻す。
(3) 被控訴人株式会社西宮組及び被控訴人Aは,控訴人に対し,原判決別紙物
件目録記載の土地から控訴人の鉱物を含む採石採取をしてはならない。
(4) 被控訴人株式会社西宮組及び被控訴人Aは,控訴人に対し,被控訴人株式
会社西宮組が原判決別紙物件目録記載の土地から掘り出した堀土を復元せよ。
(5) 被控訴人秋田県知事が昭和55年10月24日付けで被控訴人株式会社西
宮組に対してした採石業者の登録処分を取り消す。
(6) 訴訟費用は,第1,2審を通じて,被控訴人らの負担とする。
2 被控訴人ら
 主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は,他人の土地を鉱区とする採掘権を取得している控訴人が,①原審被告
B村長との間で,原判決別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)が
上記採掘権の鉱区区域内にあることの確認を求めるとともに,本件土地で採石業を
実施している採石業者である被控訴人株式会社西宮組(以下「被控訴人西宮組」と
いう。)及び被控訴人西宮組に本件土地を採石実施の目的で賃貸した本件土地の所
有者である被控訴人Aに対し,②控訴人の鉱業権の対象となる鉱物を含む岩石を採
取することの差止め,及び,③既に採取した堀土を控訴人の採掘権の鉱区区域内に
復元することを求め,④採石業者の登録権限を有する被控訴人秋田県知事に対し,
被控訴人秋田県知事が被控訴人西宮組に対してした採石業者の登録処分の取消しを
求めた事案である。
 原判決が,控訴人の上記請求のうち,①④を却下,②③を棄却したことから,控
訴人が②③④について控訴したものである(原審被告B村長に対する上記請求①に
ついては控訴がなく確定した。)。
2 その余の事案の概要は,次のとおり付加・訂正するほか,原判決「事実及び理
由」中の「第2 事案の概要」の1及び2に記載のとおりであるから,これを引用
する。
(1) 原判決5頁6行目の「経済産業局長」の次に「(本件認可処分当時は通商
産業局長。以下同じ。)」を加える。
(2) 同12行目冒頭から19行目末尾までを削る。
(3) 当審における控訴人の主張を次のとおり付加する。
(ア) 被控訴人秋田県知事に対する請求について
(a) 被控訴人西宮組が行った採取計画認可申請は,以下の理由で虚偽の認可申
請というべきである。
① 被控訴人西宮組が被控訴人Aとの間で取り交わした採取契約書は,土石又は山
土を採取する内容の契約書であって,岩石を採取する内容の契約書ではない。
② 採石法施行規則9条は,同法34条2項により事業の実施についての決定の申
請をしようとする者は,申請書に鉱業権者又は採石業者と交渉した経過を記載した
書面(交渉することができなかったときは,その理由書)を添えて,経済産業局長
に提出しなければならないとしているが,被控訴人西宮組はその理由書を提出して
いない。
(b) 被控訴人西宮組は,採取計画認可申請に当たり,上記の岩石を採取する内
容を含まない契約書を提出し,また,同法施行規則9条の定める理由書を提出しな
いで認可を得たにもかかわらず,控訴人の鉱業権が設定されている鉱区内であるこ
とを知りながら,実際に岩石の採取を行って控訴人の鉱業権を侵害した。
(c) 被控訴人秋田県知事は,鉱業権及び採石権がともに用益物権であり,鉱業
権が設定されている鉱区内に採石権を設定することができないにもかかわらず,被
控訴人西宮組による採取計画を認可した。
(d) 同法9条は,採石権の設定を受けようとする者は,採石権の設定につい
て,経済産業局長の許可を受けて,土地の所有者及び権利者に対して協議をするこ
とができると規定するところ,被控訴人西宮組は上記許可後6か月以内に同法12
条による決定の申請をしていないから,本件認可処分は既に失効している。
(e) したがって,被控訴人西宮組は採石法33条に反して岩石の採取を行った
ものであるから,同法32条の10第1項4号により,本件登録処分は取り消され
るべきである。被控訴人西宮組が20年前に本件登録処分を受けたとしても,同法
33条に反して岩石の採取を行ったことを理由とする登録取消請求には出訴期間の
制限は及ばないと解するべきである。
(イ) 被控訴人西宮組及び被控訴人Aに対する請求について
 鉱脈の含有量は場所によって高いところと低いところとがあり,一部の含有量が
低いからといって全体が低いとはいえない。本件鉱業権は,控訴人により国が登録
している財産権であるところ,被控訴人西宮組及び被控訴人Aの侵掘により,控訴
人はこれを売買することも抵当に供することもできなくなっている。これは正に不
法行為であり,被控訴人西宮組及び被控訴人Aに対し,直ちに採石の採取差止め及
び復元を命ずるべきである。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人の本訴請求のうち,被控訴人秋田県知事に対する請求は不
適法として却下すべきであり,被控訴人西宮組及び被控訴人Aに対する各請求は失
当としてこれを棄却すべきであると判断する。その理由は,当審における控訴人の
主張に対する判断を以下のとおり付加するほか,原判決「事実及び理由」中の「第
3 当裁判所の判断」の2及び3に記載のとおりであるから,これを引用する。
(当審における控訴人の主張に対する判断)
(1) 被控訴人秋田県知事に対する請求について
(ア) 控訴人は,被控訴人西宮組は採石法33条に反して岩石の採取を行ったか
ら,同法32条の10第1項4号により本件登録処分は取り消されるべきであると
主張する。
 しかし,同法32条の10は,同法条1項各号の事由が発生したときには,都道
府県知事の裁量により,登録の取消しあるいは全部又は特定の岩石採取場における
事業停止を制裁として命ずることができる旨を定めたものであって,同項各号の事
由の発生によって先にされた採石業者の登録処分が遡って違法となることを定めた
ものではない。
 したがって,同法33条に反して岩石の採取が行われたことを理由とする登録取
消請求には出訴期間の制限は及ばないとする控訴人の主張は理由がない。また,同
法32条の10による登録の取消し等は都道府県知事の裁量処分としてされるもの
であって,控訴人にその処分を請求する権利が認められたものではないから,控訴
人の被控訴人秋田県知事に対する本訴請求が同法条による新たな処分を求める趣旨
であるとしても,その請求が不適法であることは明らかである。
 したがって,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の被控訴人秋田県
知事に対する請求は却下を免れない。
(イ) なお,控訴人は,平成12年9月30日に被控訴人西宮組と被控訴人Aと
の間で締結された土地賃貸借契約の目的には岩石の採取は含まれないと主張する
が,同契約の意思解釈として,「土石採取」の中に「岩石の採取」が含まれてお
り,同契約を採石権の設定を目的とする契約と解することが合理的であることは原
判決の説示するとおりである。
 また,控訴人は,被控訴人西宮組が採石法施行規則9条による理由書を提出して
いないと主張するが,採石法34条は,採石業者に事業の実施に当たり常に鉱業権
者と協議すべきことを義務づけているとは解されない上,本件においては,控訴人
が未だ具体的な事業着手に至っていないことに照らすと,被控訴人西宮組が同法3
4条による控訴人との協議の必要を認めず,同条による協議をせず採取計画認可申
請をしたことをもって違法ということはできない。
 したがって,被控訴人西宮組の行った採取計画認可申請が虚偽の認可申請であ
り,被控訴人西宮組は採石法33条に反して岩石の採取を行ったとする控訴人の主
張は理由がないというべきである。
(ウ) 控訴人は,鉱業権が設定されている鉱区内に採石権を設定することはでき
ないと主張するが,鉱業権は,鉱区において,許可を受けた鉱物及びそれと同種類
の鉱床に属する他の鉱物を掘採する権能を内容とし,当然には鉱区区域内の土地の
地表の利用権を含まない(地表・地下を問わず,その鉱区区域内の土地の使用権を
排他的独占的に取得するためには,相手方との協議によるか又は鉱業法第5章に定
める「土地の使用及び収用」に関する規定によって,土地の使用権を取得しなけれ
ばならない。)から,鉱業権が設定登録された鉱区内に重ねて採石権を設定するこ
とは可能である(採石法34条は,これが可能であることを前提としている規定で
ある。)。本件において,控訴人が,本件土地の所有者である被控訴人Aとの協議
により又は鉱業法第5章に定める「土地の使用及び収用」に関する規定によって,
本件土地の使用権を排他的独占的に取得した事実は認められない(弁論の全趣旨)
から,本件土地に被控訴人西宮組のために採石権を設定することは何ら妨げられな
いというべきである。
 したがって,この点に関する控訴人の主張も理由がないというべきである。
(エ) 控訴人は,採石法9条による協議がないことをも主張するが,控訴人が同
条1項にいう「土地に関して第三者に対抗することのできる権利を有する者」に該
当しないことは前記(ウ)に説示したとおりであるから,控訴人の主張はその前提
を欠き失当といわざるを得ない。
(2) 被控訴人西宮組及び被控訴人Aに対する請求について
 控訴人は,鉱脈の含有量は場所によって高いところと低いところとがあり,一部
の含有量が低いからといって全体が低いとはいえないと主張する。しかし,本件土
地内に本件採掘権の登録鉱種の含有量が可採品位(鉱石として採掘して採算が合う
品位)を上回ることを認めるに足りる証拠はないばかりか,本件採掘権の鉱区区域
内からは上記可採品位に遠く及ばない著しく低品位の試料が採取されていること,
控訴人が本件採掘権の具体的な事業に着手していないこと等原判決認定の事情を総
合考慮すると,被控訴人西宮組が行っている採石行為を理由に,本件採掘権の効力
として,控訴人に対し,鉱業権侵害に基づく損害の回復請求権及び採石行為の差止
請求権を認めることは相当ではないというべきである。
(3) 以上のとおりであるから,控訴人の本訴請求のうち,被控訴人秋田県知事
に対する請求は不適法であり,被控訴人西宮組及び被控訴人Aに対する各請求はい
ずれも理由がない。
2 よって,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれをいずれも棄却
することとし,主文のとおり判決する。
仙台高等裁判所秋田支部
裁判長裁判官 矢崎正彦
裁判官 潮見直之
裁判官 西岡繁靖

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