弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人竹下伝吉、同大矢和徳提出の両名共同作成名義の控訴
趣意書に記載されたとおりであるからここにこれを引用するが、その要旨は、原審
が被告人に対し実刑(禁錮)を科し刑執行猶予を付さなかつたのは量刑不当である
というにある。
 案ずるに、近時都市市街地や主要道路における自動車交通の量的増加および高速
度化は著しく、これに伴い必然的に交通事故の惨禍が激増しつつあることは社会的
事実として顕著なところである。交通事故の発生を未然に防止する方策としては、
交通警察の取締強化および悪質違反者の厳罰や、道路の改良および信号機、標識等
の整備はもとより必要であるが、何をおいても、まづ自動車運転者において、自己
の業務が人の生命、身体、または財産に危険を及ぼすべき性質のものであることに
自覚し、交通法規を遵守し、高度の注意を払つてこれら事故の防止に努力すること
が肝要である。交通事故の原因の多くは、自動車運転者の交通法規の違反であつ
て、無免許制限速力違反、睡眠不足、またはめいていによる無謀運転などであるこ
とは裁判上顕著なところであるが、なかんずく、めいていによる無謀運転に基く事
故は最も悪質、危険な事犯である。なんびとも飲酒、めいていに陥れば、意識障害
を起し、理性的判断の減少または喪失をきたし、自制ある行動をとることができ<要
旨>にくくなることは経験的に理解できるととろである。それゆえ、自動車運転者た
る考は、特に前記業務の性質にかんがみ、自己がどの程度飲酒すればめいて
いに陥り正常運転に支障をきたすかは当然知つておるはずであり、また知ることが
できるのであるから、自動車を運転する場合はめいていに陥らざる程度に飲酒の量
を抑制すべき注意義務(第一次的義務)がありまた、飲酒して自動車運転を開始し
てからでも、めいていに陥るまでの間に、いまだ理性的判断の存する段階において
は、直ちに運転を中止して酔いをさまし、正常運転ができるのを待つて運転を再開
すべき注意義務(第二次的義務)のあることも条理上当然のことといわなければな
らない。
 いま、本件訴訟記録および原審において取り調べた証拠、とくに原判決挙示の証
拠によると、
 被告人は、原判示当日の午後九時ごろから十時半ごろまでの間、名古屋市a区b
町c番地飲食業A方で、清酒(二級)約四合ないし六合を飲んで、原判示愛○―そ
○×△□号自家用自動三輪車を運転し、自宅に帰るため同区de丁目先通称B街道
を時速約二〇粁で西進中、漸次酔いを増して泥すい状態に陥つたため正常運転の能
力を失い、車はじくざく状態で暴走し、おりから東進して来たC株式会社所有の原
判示愛△―あ×△○□号乗用自動車の右側後部に衝突し、さらにそのまま西進して
前方車道南側を歩行していた原判示Dに衝突して、ついに同人を死亡するにいたら
しめた事実(原判決認定事実と同旨)が肯認せられるのであつて、右事故は被告人
が原判示のような注意義務(前記第二次的義務)を怠つた過失によることはもちろ
ん、事前において右の泥すいに陥らざる程度に飲酒を抑制しなければならない注意
義務(前記第一次的義務)を怠つた過失によるものといわなければならない。はた
してしからば、本件事犯は交通事故のうち最も悪質、危険なものであり、一般予防
の見地から相当厳重に処罰の要ありというべく、被告人の経歴、家庭状況、被害者
の遺族との示談成立、その他所論の各事情を考慮にいれても、原審の量刑は相当で
あり、これを不当とする事由の存在を認めることはできない。論旨は理由がない。
 よつて、本件控訴は理由がないので、刑事訴訟法第三九六条によりこれを棄却す
べく、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 影山正雄 裁判官 坂本収二 裁判官 水島亀松)

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