弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄し、本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告人らの上告理由第二点について。
 所論は、要するに、被上告人の本件代物弁済予約完結権の行使が権利の濫用にあ
たることを前提として、上告人らの右主張を排斥した原審の判断を違憲というにあ
るが、原審の確定する諸般の事情のもとにおいて、以下に説示するところをも併せ
考えれば、右予約完結権の行使を権利の濫用にあたらないとした原審の判断は、こ
れを直ちに不当ということができず、所論違憲の主張は、その前提を欠くことが明
らかであるから、この点に関する所論は採用するに由ないものといわなければなら
ない。
 しかしながら、一方本件代物弁済に関する原審の判断も、直ちにこれを是認する
ことができない。
 すなわち、原審は、被上告人は昭和三三年三月一三日、上告人A1に対し、三〇
万円を弁済期同年六月一四日の約で貸与するとともに、その際、右債権を担保する
趣旨で、同上告人所有の本件不動産について、もし期日に弁済をしないときは、弁
済に代えてその所有権を被上告人に移転する旨の代物弁済の予約をし、同年三月一
四日、本件不動産につき形式上売買予約を原因として所有権移転請求権保全の仮登
記を経由したが、同上告人が右弁済期に債務の弁済をしないので、昭和四〇年五月
二七日到達の本件訴状により、前記代物弁済予約の完結の意思表示をした旨、およ
び、他方、本件不動産については、右予約完結前の昭和三三年一一月五日上告人A
2のために同月四日売買を原因とする所有権移転登記が、また、昭和三四年八月二
八日、同年一一月二四日および同三七年五月三〇日の三回にわたつて、いずれも上
告人鹿児島市農業協同組合のためそれぞれ根抵当権設定登記が経由されていた旨の
事実を認定したうえ、被上告人は、上告人A1より前記代物弁済の予約完結権の行
使により、本件不動産の所有権を取得したから、同上告人は被上告人に対して右仮
登記に基づく所有権移転の本登記手続をすべき義務があり、上告人A2および同鹿
児島市農業協同組合は、それぞれ被上告人に対し右本登記手続を承諾すべき義務が
ある旨判示しているのである。
 しかしながら、右認定事実によれば、本件代物弁済予約は、ひつきよう、被上告
人の上告人A1に対する貸金債権を担保するためのものに外ならないのであるから、
本件仮登記の原因をなす契約がその形式において売買予約もしくは代物弁済予約で
あつたとしても、その契約上の権利の実質は、単に目的不動産から債権の優先弁済
を受けることを目的とする担保権の限度を出るものではない。すなわち、かかる契
約は、弁済期に債務が弁済されないとき、債権者が予約完結権を行使することによ
つて、所有権移転の方式により優先的に自己の債権の満足をはかる趣旨の債権担保
契約というべきであり、債権者が、右債権の満足をはかるに当たつては、目的不動
産を他に処分しまたは適正に評価して、これにより具体化する右不動産の価額から、
優先弁済を受けるべき自己の債権額を差し引き、その残額に相当する金銭をいわば
清算金として債務者に支払うべきことをその内容とするものと解するのが相当であ
る(最高裁判所昭和四二年(オ)第五五七号同四五年三月二六日第一小法廷判決、
民集二四巻三号参照)。されば、かかる契約において、債権額をもつて売買代金と
し、あるいは、債権の弁済に代えて目的不動産全部の所有権を譲渡する旨の合意が
形式上存したとしても、目的不動産の適正な評価額と債権額とが合理的均衡を失す
るような場合には、その差額に相当する価値を債権者に取得せしむべき理由はなく、
右差額につき、債権者の清算義務は免除されないものといわなければならない。
 そして、右のように解する以上、予約完結権を行使した債権者が、仮登記に基づ
く所有権移転の本登記を経由することが許されるのも、右のような所有権移転の方
式による担保権実現の手段として、目的不動産の所有名義を取得するものに外なら
ないから、右担保権者が、登記上利害関係を有する第三者に対して本登記について
の承諾を求める場合にも、これら利害関係人の有する地位に応じて、それとの間に
清算をなすべき義務を負うものと解しなければならない。すなわち、これが、目的
不動産に対する後順位抵当権者、その他債務者から右物件の交換価値よりその有す
る債権について優先弁済を受ける地位を取得した者であるときは(以下これを後順
位債権者という)、清算金は、それらの者の債権額および優先順位に応じて、それ
らの者にその一部または全部が交付さるべきであり、また、これが債務者からその
後目的不動産を譲り受けた者(以下これを第三取得者という)であるときは、同人
は、ひつきよう、目的不動産の価値のうち債権者の債権額を超過する部分、すなわ
ち、実質上債務者のもとに留保されていた価値を債務者から取得するにほかならな
いから、右留保価値に相当する清算金は、これらの者に交付されるべきものという
べきである。そして、このような登記上の利害関係人は、右本登記手続についての
承諾請求に対しては、みずから清算金の支払を受けるべき地位にあるのであるから、
公平の観念に照らし、その支払と引換えにのみ承諾義務の履行をすべき旨を主張し
うるものと解するのが相当である(前掲昭和四二年(オ)第五五七号同四五年三月
二六日第一小法廷判決参照)。
 ところで、これを本件についてみるに、前示認定事実によれば、上告人A1は、
債務者として本件不動産を所有していた者であり、同A2はその第三取得者として
の、同鹿児島市農業協同組合は後順位債権者としての各登記を有する者であるとい
うのである。もつとも、原判決は、上告人A2および同農協が実体上もその登記に
記載されている権利を有するものであるか否かを確定してはいないけれども、右登
記の記載に徴すれば、特段の事情のないかぎりそれぞれ右各登記どおりの権利を有
するものと推認しうるのであり、これらが前記の意味における後順位債権者および
第三取得者にあたるものとみる余地があるのである。他方、本件不動産の時価に関
する上告人らの主張を排斥した原審の判断は、原判決(その引用する第一審判決を
含む。以下同じ。)挙示の証拠に照らしてあながち不当とは断じえないけれども、
なおその時価が被上告人の債権額を相当程度超過するものであることは記録に照ら
して窺われるところであるから、それらの点についてなお審理を尽くしたならば、
その結果認定されうる事実関係のいかんによつては、被上告人は、本件担保権の実
現として本件仮登記に基づく本登記を請求し、かつこれについて承諾を求めるに際
しては、前示の如き清算金を支払うべき義務を負うことになり、上告人A1または
同A2は、その債務者または第三取得者の地位において、同鹿児島市農業協同組合
は、後順位債権者の地位において、それぞれ右清算金の支払を受くべき地位にあり、
その支払と引換えにのみ自己の登記を抹消すべき旨を主張しうるものであると認め
られるにいたるかもしれないのである。
 そして、本件不動産の時価が被上告人の債権額を著しくこえることを理由に本件
代物弁済予約完結権行使の効力を争う上告人らの主張は、被上告人の有する権利の
実体が担保権にすぎないものとして、その請求を争う趣旨に解されないではないか
ら、適切な釈明いかんによつては、上告人らにおいて前記のような主張・立証をな
す余地なしとは断じえないのである。然るに、原審は、この点の配慮をなすことな
く、無条件に同人らに対する本訴請求を認容しているのであつて、原判決は右に説
示した趣旨において、法令の解釈適用を誤り、ひいて審理不尽の違法を犯したもの
といわなければならない。そして、その違法は、原判決の結論に影響すること明ら
かであるから、その余の点について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。
そして、本件は、さらに右の諸点について審理を尽くす必要があるから、これを原
審に差し戻すのが相当である。
 よつて、民訴法四〇七条を適用して、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決す
る。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    大   隅   健 一 郎

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