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裁判例


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平成22年11月24日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成22年(行ウ)第1号行政文書非公開決定処分取消及び行政文書公開処分義
務付け請求事件
主文
1処分行政庁が原告に対して平成21年12月28日付けでした本巣市情報公
開条例に基づく行政文書非公開決定処分を取り消す。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用はこれを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担と
する。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1請求の趣旨
(1)主文1項と同旨
(2)処分行政庁は,原告に対し「議会の規律に関する検討委員会(4回,
分)の会議録及び録音データ」の公開決定をせよ。
(3)訴訟費用は被告の負担とする。
2請求の趣旨に対する答弁
(1)原告の請求をいずれも棄却する。
(2)訴訟費用は原告の負担とする。
第2事案の概要
本件は,本巣市議会議員である原告が,本巣市議会に対し「原告が本巣市,
情報公開条例(平成16年2月1日本巣市条例第8号。以下「本件条例」とい
う)に基づき「議会の規律に関する検討委員会(4回分)の会議録及び録。,
音データ(以下「本件文書等」という)につき,行政文書公開請求をした」。
ところ,同議会は「議会の規律に関する検討委員会は秘密会として開催された
ため」という理由で行政文書非公開決定(本議第437号,以下「本件処。
分」という)をした。しかし,同処分には根拠がなく違法である」などと。。
して,本件処分の取消及び本件文書等の公開の義務付けを求めた事案である。
1関係法令の定め等
(1)本件条例(甲3)
ア1条(目的)
この条例は,市政を推進する上において,市民の知る権利を尊重し,市
の諸活動を市民に説明する責務を全うすることが重要であることにかんが
み,行政文書の公開を請求する権利を明らかにするとともに,情報公開の
総合的な推進に関し必要な事項を定めることにより,市民の市政への参加
を促進し,市政に対する理解と信頼を深め,もって開かれた市政を実現す
ることを目的とする。
イ2条(定義)
この条例において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定める
ところによる。
1号実施機関
市長,議会,教育委員会,選挙管理委員会,監査委員,農業委員会
及び固定資産評価審査委員会をいう。
2号行政文書
実施機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書,図画,写真,
フィルム及び電磁的方式(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚に
よっては認識することができない方式をいう)により記録されたも。
のから出力され,又は採録されたもので,当該実施機関の職員が組織
的に用いるものとして,当該実施機関が保有しているものをいう。た
だし,次に掲げるものを除く。
ア官報,公報,白書,新聞,雑誌,書籍その他一般に入手できるも
の又は実施機関が一般の利用に供することを目的として保有してい
るもの
イ資料館その他これに類する施設において,歴史的若しくは文化的
資料又は学術研究用の資料として特別の管理がされているもの
ウ3条(解釈及び運用の基本)
実施機関は,行政文書の公開を請求する権利が十分に尊重されるようこ
の条例を解釈し,運用するものとする。この場合において,個人に関する
情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければなら
ない。
エ5条(行政文書の公開を請求することができるもの)
次に掲げるものは,実施機関に対して,行政文書の公開を請求すること
ができる。
1号市内に住所を有する者
2号ないし4号略
5号前各号に掲げるもののほか,実施機関が行う事務事業に利害関係を
有するもの。ただし,この場合において公開請求ができる情報は,そ
のものが利害関係を有する情報に限る。
オ6条(行政文書の公開義務)
実施機関は,前条の規定による公開の請求(以下「公開請求」とい
う)があったときは,公開請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報。
。,(以下「非公開情報」という)のいずれかが記録されている場合を除き
公開請求をしたものに対し,当該行政文書を公開しなければならない。
1号個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除
く)であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述。
等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合
することにより,特定の個人を識別することができることとなるも
のを含む)又は特定の個人を識別することはできないが,公開す。
ることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの。た
だし,次に掲げる情報を除く。
ア法令及び条例(以下「法令等」という)の定めるところによ。
り,又は慣行として公にされ,若しくは公にすることが予定され
ている情報
イ人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公開すること
が必要であると認められる情報
ウ当該個人が公務員等(国家公務員法(昭和22年法律第120
号)第2条第1項に規定する国家公務員(独立行政法人通則法
(平成11年法律第103号)第2条第2項に規定する特定独立
行政法人の役員及び職員を除く,独立行政法人等(独立行政法。)
人等の保有する情報の公開に関する法律(平成13年法律第14
0号)第2条第1項に規定する独立行政法人等をいう。以下同
じ)の役員及び職員並びに地方公務員法(昭和25年法律第2。
61号)第2条に規定する地方公務員をいう)である場合にお。
いて,当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは,当該
情報のうち,当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る部

2号法令等の定めるところにより,又は実施機関が法律上従う義務を
有する主務大臣等の指示により,公開することができないと認めら
れる情報
3号法人(国,独立行政法人等及び地方公共団体その他公共団体を除
く)その他の団体(以下「法人等」という)に関する情報又は事。。
業を営む個人の当該事業に関する情報であって,公開することによ
り,当該法人等又は当該事業を営む個人の競争上の地位その他正当
な利益が損なわれると認められるもの。ただし,人の生命,健康,
生活又は財産を保護するため,公開することが必要であると認めら
れる情報を除く。
4号公開することにより,人の生命,身体,財産等の保護,犯罪の予
防,犯罪の捜査その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすお
それがある情報
5号市の機関並びに国,独立行政法人等及び他の地方公共団体その他
公共団体(以下「国等」という)の内部又は相互間における審議,。
検討又は協議に関する情報であって,公開することにより,率直な
意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ,
不当に市民の間に混乱を生じさせるおそれ又は特定のものに不当に
利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそれがあるもの
6号市の機関又は国等が行う事務又は事業に関する情報であって,公
開することにより,次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性
質上,当該事務又は事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれ
があるもの
ア監査,検査,取締り又は試験に係る事務に関し,正確な事実の
,把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし
若しくはその発見を困難にするおそれ
イ契約,交渉又は争訟に係る事務に関し,市又は国等の財産上の
利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ
ウ調査研究に係る事務に関し,その公正かつ能率的な遂行を不当
に阻害するおそれ
エ人事管理に係る事務に関し,公正かつ円滑な人事の確保に支障
を及ぼすおそれ
オ市又は国等(独立行政法人等を除く)が経営する企業又は独。
立行政法人等に係る事業に関し,その企業経営上の正当な利益が
損なわれるおそれ
7号個人又は法人等から公開しないことを条件として任意に市に提供
された情報であって,当該個人又は法人等における通例として公に
しないこととされているものその他の当該条件を付することが当該
情報の性質,当時の状況等に照らして合理的であると認められるも
の。ただし,人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公開
することが必要であると認められる情報を除く。
カ7条(行政文書の部分公開)
1項実施機関は,公開請求に係る行政文書の一部に非公開情報が記録さ
れている場合において,非公開情報が記録されている部分を容易に分
離することができ,かつ,当該分離により請求の趣旨が損なわれるこ
とがないと認めるときは,当該部分を除いた部分につき公開しなけれ
ばならない。
2項公開請求に係る行政文書に前条第1号の情報(特定の個人を識別す
ることができるものに限る)が記録されている場合において,当該。
情報のうち,氏名,生年月日その他の特定の個人を識別することがで
きることとなる記述等の部分を除くことにより,公開しても,個人の
権利利益が害されるおそれがないと認められるときは,当該部分を除
いた部分は,同号の情報に含まれないものとみなして,前項の規定を
適用する。
キ11条(行政文書の公開請求に対する決定等)
1項実施機関は,前条第1項に規定する請求書の提出があったときは,
当該請求書の提出があった日から起算して15日以内に,請求に係る
行政文書を公開するかどうかの決定(以下「公開決定等」という)。
をしなければならない。ただし,前条第2項の規定により補正を求め
た場合にあっては,当該補正に要した日数は,当該期間に算入しない。
2項実施機関は,公開決定等をしたときは,速やかに,書面により当該
決定の内容を請求者に通知しなければならない。ただし,請求書の提
出があった日に,請求に係る行政文書の全部を公開する旨の決定をし,
当該行政文書を公開するときは,この限りでない。
3項実施機関は,行政文書を公開しない旨の決定(第7条の規定により
行政文書の一部を公開しない旨の決定,第9条の規定により公開請求
を拒む旨の決定及び公開請求に係る行政文書を保有していない旨の決
定を含む)をしたときは,前項の書面にその理由を記載しなければ。
ならない。この場合において,当該理由がなくなる期日をあらかじめ
明示することができるときは,当該書面にその期日を併せて記載しな
ければならない。
4項以下略
(2)本巣市議会会議規則(平成16年2月12日本巣市議会規則第1号,乙
2。以下「会議規則」という)。
ア105条(指定者以外の者の退場)
秘密会を開く議決があったときは,委員長は,傍聴人及び委員長の指定
する者以外の者を会議室の外に退去させなければならない。
イ106条(秘密の保持)
1項秘密会の議事の記録は,公表しない。
2項秘密会の議事は,何人も秘密性の継続する限り,他に漏らしてはな
らない。
ウ161条(協議又は調整を行うための場)
1項地方自治法第100条第12項の規定による議案の審査又は議会の
運営に関し協議又は調整を行うための場(以下「協議等の場」とい
う)を別表のとおり設ける。。
(別表)
名称目的構成員招集権者
全員協議会議長が必要と認めた重要な事項に全議員議長
関する協議又は調整
略略略略
2項前項に定めるもののほか,協議等の場を臨時に設けようとするとき
は,議会の議決でこれを決定する。
3項前項の規定により,協議等の場を設けるに当たっては,名称,目的,
構成員,招集権者及び期間を明らかにしなければならない。
4項協議等の場の運営その他必要な事項は,議長が別に定める。
(3)本巣市議会議長が会議規則161条4項に委任され定めた本巣市議会の
協議等の場の運営等に関する要綱(平成20年12月22日本巣市議会告示
第3号,乙10。以下「運営要綱」という)。
ア1条(趣旨)
この要綱は,会議規則161条第4項の規定により,協議等の場の運営
その他必要な事項を定めるものとする。
イ2条(傍聴)
1項会議規則161条第1項に規定する会議は,議員のほか,招集権者
の許可を得た者が傍聴することができる。
2項招集権者は,必要があると認めるときは,傍聴人の退場を命ずるこ
とができる。
3項会議の内容が,内部における審議,検討又は協議に関することであ
って,公にすることにより,率直な意見の交換若しくは意思決定の中
立性が不当に損なわれるおそれ,不当に市民の間に混乱を生じさせる
おそれ又は特定の者に不当に利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそ
れがある場合は,招集権者は傍聴を許可しないことができる。
ウ3条(記録)
1項招集権者は,職員をして会議の概要,出席者の氏名等必要な事項を
記載した記録を作成させ,これに署名又は記名押印しなければならな
い。
2項以下略
エ4条(記録の公開)
前条の記録は,本巣市情報公開条例(平成16年本巣市条例第8号)の
規定に基づき,公開請求者に対し,当該記録を公開しなければならない。
ただし,会議の内容が,内部における審議,検討又は協議に関することで
あって,公にすることにより,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立
性が不当に損なわれるおそれ,不当に市民の間に混乱を生じさせるおそれ
又は特定の者に不当に利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそれがある場
合は,招集権者は非公開情報とすることができる。
オ5条(準用)
この要綱に定めるもののほか,会議に関しては,会議規則及び本巣市議
会委員会条例(平成16年本巣市条例第160号)の規定を準用する。
(4)本巣市議会委員会条例(平成16年2月18日本巣市条例第160号,
乙1。以下「委員会条例」という)。
ア6条(特別委員会の設置)
1項特別委員会は,必要がある場合において議会の議決で置く。
2項特別委員会の委員の定数は,議会の議決で定める。
イ8条(委員の選任)
。,1項常任委員,議会運営委員及び特別委員(以下「委員」という)は
議長が会議に諮って指名する。ただし,閉会中においては議長の指名
による。
2ないし4項略
ウ19条(秘密会)
1項委員会は,その議決で秘密会とすることができる。
2項委員会を秘密会とする委員長又は委員の発議については,討論を用
いないで委員会に諮って決める。
2前提となる事実(証拠等の記載がない事実は当事者間に争いがない)
(1)当事者等
ア原告は,本巣市議会議員であり,本巣市内に住所を有する者である。
イ本巣市議会(以下,単に「議会」という)は,本件条例2条1号に定。
める実施機関であり,本件処分の処分行政庁である。
,(2)原告は,平成21年12月15日,議会に対し,本件条例5条に基づき
同日付行政文書公開請求書を提出し,本件文書等の公開を請求した(以下
「本件申請」という。。)
(3)議会(処分行政庁)は,原告に対し,平成21年12月28日付けで
「議会の規律に関する検討委員会は秘密会として開催されたため」という。
非公開理由を付記して本件処分をした。
(4)原告は,平成22年2月10日,本訴を提起した(顕著な事実)。
3争点及び当事者の主張
本件の争点は,①本件処分の適法性及び②議会が原告に対し本件文書等を公
開すべきことが本件条例の条文上明らかといえるか否かであり,各争点に対す
る当事者の主張は次のとおりである。
(1)被告の主張
ア議会(処分行政庁)が非公開理由として記載した「議会の規律に関する
検討委員会は秘密会として開催されたため」との趣旨は,本件条例6条。
2号(法令秘情報,6条5号(審議・検討等情報,6条6号(事務事))
業情報)に該当するという趣旨である。
イ本件条例6条1号該当性について
本件文書等には,議会の規律に関する検討委員会(以下「検討委員会」
という)における各発言内容及び当該発言者の氏名も特定できる形で記。
録されており,当該情報は,本件条例6条1号の「個人に関する情報(事
業を営む個人の当該事業に関する情報を除く)であって,当該情報に含。
まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することが
できるもの」に該当する。また,同条1号但書ウにおいても,公務員等の
役職及び当該職務遂行の内容に係る部分については公開を認めているが,
公務員の氏名自体の公開は義務化していないことからすれば,検討委員会
における各発言者の氏名が発言と併せて特定されるような本件文書等の公
開は,本件条例6条1号に該当するものといえる。
ウ本件条例6条2号該当性について
検討委員会は,会議規則161条4項の委任に基づく運営要綱5条が準
用する委員会条例6条1項に基づき,議会の全員協議会の議決によって設
置された委員会である。
同委員会は,運営要綱5条が準用する委員会条例19条に基づき,秘密
会とすることを決定しており,同要項5条が準用する会議規則106条1
項により,委員会における秘密会の議事の記録は公表しないこととされて
いる。
したがって,本件文書等は,本件条例6条2号のいう「法令等の定める
ところにより「公開することができないと認められる情報」に該当す,」
るため,本件処分は適法である。
エ本件条例6条5号,同6号該当性について
(ア)検討委員会は,その検討,協議内容が議会内部の規律に関する検討
又は協議過程であり,かつ,原告に対する規律違反という非難を伴う可
能性のある行為を中心に議論するものである。
検討委員会は,議長へ具申する報告書策定という最終的な意思形成に
至る過程に関する情報を公開することにより「率直な意見の交換もし,
くは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ」があると判断して秘
密会にしたのであり,そのおそれは,議長に対する報告がなされた後の
現時点においても変わらない。検討委員会は,原告が行った行為につい
て意見を表明し交換し合ったのであって,その意見は当然個々の委員の
原告に対する評価を伴うものとなる。このような意見と個々の委員を結
びつけて公開することは,部分社会である議会内の狭い人間関係を考え
ると,今後の同様な問題においても率直な意見の交換及び意見集約が不
可能になるばかりか,後日の議会内での新たな紛争材料として利用され
る可能性もあり,意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがある。
また,検討委員会が行った検討は,原告個人の規律違反という非難を
伴う可能性のある行為を対象とする側面を有し,事実関係の確認のため
に原告から聴取するなどの作業を行っているが,同委員会が検討,協議
する中で出たこれらの未完熟な情報が確定的な情報と誤解され「特定,
の者に不当に不利益を及ぼすおそれ」も存在する。
原告が全員協議会において検討委員会の設置に反対意見を述べたこと,
原告の秘書及び原告自身が口頭で告げた人物が検討委員会の傍聴を求め
てきたが同委員会が傍聴を不許可としたこと,原告が議会において自己
と見解を相違する同僚議員に関連して議長の議事整理に反して質問を繰
り返すことがあること,原告が自己が発行する情報誌で真実でない事実
を一方的に公報したこと,原告が現場関係者の前で非常に乱暴な言辞を
したことなどの原告の議会内外での行動からすれば,原告が検討委員会
の各委員に対し,一方的に非難するといった圧力や干渉等の影響を与え
る蓋然性が極めて高い。
検討委員会は,今後も全員協議会の付託を受けて同様な検討協議をす
る可能性があり,類似の検討委員会が設置される可能性もあることから,
検討協議内容を事柄上,秘密会とすべきと判断した検討委員会の決定を
事実上覆す結果となる情報公開が無限定に認められると,将来的にも当
該委員会における率直な意見交換又は意思決定の中立性が不当に損なわ
れるおそれもある。
よって,本件文書等は,本件条例6条5号の非公開情報が記録されて
いるものといえる。
(イ)上記のように,秘密会とされた検討委員会における検討内容が明ら
かになる文書等は,本件条例6条6号のアないしオに例示列挙された場
合にも比する事務又は事業の適正な遂行に著しい支障をきたす。
よって,本件文書等は,本件条例6条6号の非公開情報が記録された
ものといえる。
(2)原告の主張
ア行政文書非公開決定通知書に記載された非公開の理由は,本件条例6条
各号の定める非公開事由に該当せず,本件処分が条例に基づかない事由に
よってなされたものであり,違法な処分であることは明らかである。
イ本件条例6条1号該当性について
最高裁平成15年11月11日第三小法廷判決は,大阪市公文書公開条
例に関する事件において,職務遂行に関する公務員の氏名は個人情報に当
たらないとの判断をしており,検討委員会の各委員の氏名は本件条例14
条1号のいう「公開請求に係る個人情報の本人以外の個人に関する個人情
報」に該当しない。
ウ本件条例6条2号該当性について
本件条例6条2号の「法令等」は「法令及び条例」をいう(本件条例,
同条1号ア)ところ,本巣市には,検討委員会の会議録及び録音データを
非公開とすべきことを定めた条例は存在せず,本件文書等は,本件条例6
条2号の非公開情報を記録したものには該当しない。
エ本件条例6条5号,同6号該当性について
(ア)本件申請は,検討委員会が終了した段階で行われており,未成熟な
情報を未成熟なものとして公開を求めるものではないから,本件文書等
の公開によって検討委員会の意思形成に影響を及ぼすことはまったくな
く,本件文書等が確定的な情報と誤解されるようなこともない。
被告は,本件文書等の公開により,議員同士の人間関係の悪化や率直
な意見交換ができなくなる旨主張するが,かかる事態は本会議において
も通常起こりうることであり,そもそも議会は,言論によって争点を明
確にし,それを公開することで民主制の過程を維持することが期待され
ているのであるから,人間関係の悪化をおそれて議員が自由な意見の交
換ができなくなるということがあってはならない。
(イ)本件条例6条6号は「市の機関並びに国等が行う事務又は事業に,
関する情報」に関して非公開情報とする定めをしたものであって,検討
委員会は,市の行う事務又は事業にあたらず,本件文書等は,本件条例
6条6号の非公開情報を記録したものには該当しない。
第3当裁判所の判断
1前記前提となる事実に証拠(甲1,2,乙6,8,9,12,13の1∼
4)及び弁論の全趣旨を併せれば次の事実が認められる。
(1)本巣市議会議会運営委員長(以下「議会運営委員長」といい,同委員を
「議会運営委員」という)A(同委員長としての行為については「A議。,
会運営委員長」という,同副委員長B,同委員C,同D,同E及びF議。)
長は,平成21年11月19日開催の同年第20回議会運営委員会において,
原告が,同年10月6日開催の同年第5回議会臨時会における正・副議長選
挙の投票の際に投票用紙を破ったこと及び原告が議事の録音したものをイン
ターネットで公表していることについて,後者について事実関係を調査し,
併せて両者についての規律違反の有無を検討し,これに対する対応を議長に
報告する議長の諮問機関を議会に設置すること並びに当該諮問機関の委員は,
議会運営委員5名に2名を加えた7名とすることを申し合わせた(乙6)。
(2)A議会運営委員長は,平成21年11月27日開催の同年第12回全員
協議会において「10月6日の議会における正・副議長の選挙の際の投票,
行動,また本会議の録音等について,議会内外からいろいろなご意見が寄せ
られております。そのことについて,議会として見解をまとめていく必要が
あるというふうに考え,名称としては,例えば議会の規律に関する検討委員
会というようなのを設置して,今定例会中に議会としての考えをまとめてい
く必要があるんではないか」と述べ,検討委員会の設置を提案した。。
A議会運営委員長は,検討委員会は,一般的な規律の話を検討するもので
はないとも述べた。
検討委員会は,上記全員協議会において,議員18名中12名の賛成によ
り設置が決定した。
全員協議会は,検討委員会の委員は議会改革検討委員会が選出することと
した。
議会改革検討委員会は,検討委員として,G議員,H議員,I議員,B議
員,J議員,K議員,L議員,M議員及びA議員を選出した(以上乙8)。
(3)検討委員会は,平成21年11月27日,同年12月3日,同月4日及
び同月10日に開催され,第2回委員会以降は「個人にかかわることのた,
め」全会一致で秘密会とした。
検討委員会は,平成21年12月4日,原告から事情を聴取した。
(以上乙9)
(4)検討委員会委員長であるAは,平成21年12月14日開催の同年第1
4回全員協議会において,後にF議長に具申予定の検討委員会の意見につい
て,次のとおり報告を行った。
「検討委員会の目的は,議会の規律に関する問題について検討し,その結
果を議長に意見具申することにある。
検討委員会に付託された検討項目は,平成21年10月6日開催の本巣市
臨時会におけるN議員の行動,①議長選挙,副議長選挙の投票に際し,投票
用紙を破ったこと,②同日の本会議を録音し,さらにそれを公表したことに
対しての2項目である。
検討委員会は,この間,4回の委員会の開催及びN議員より事情をお聞き
して,次の結論に至った」。
「検討結果,2点の行動については,議会内外からも批判と不信の声が聞
かれ,議会としての毅然とした対応が求められる。
1議長選挙,副議長選挙の投票に際し,投票用紙を破ったことについては,
本巣市議会会議規則第145条,品位を尊重に照らして考えるに,議会を
冒とくし,その品位をおとしめるものである。
2同日の本会議を録音し,さらにそれを公表したことについては,録音テ
ープの入手元がどうであれ,議長の許可なく録音したものを使用してネッ
ト上で公表したことは,本巣市議会会議規則第146条,携帯品並びに本
巣市議会傍聴規則第12条(録音機器等の携帯禁止,14条(録音禁)
止)に照らして問題があると考えざるを得ない。
以上のことにより,議長におかれては,本件に関し,N議員に強く注意喚
起されたい。また,議場においては,議長の権限のもとに毅然とした対応を
されたい。同時に,議員各位に対して,議員としての自覚を持って活動され
るよう呼びかけられたい(乙9)。」
(5)F議長は,平成21年12月14日,検討委員会の意見具申を受け,原
告に対し,注意を行った(弁論の全趣旨)。
,(6)原告は,平成21年12月15日,議会に対し,本件条例5条に基づき
同日付行政文書公開請求書を提出した(本件申請。)
上記請求書「請求する行政文書の件名又は内容」欄には「議会の規律に関
する検討委員会(4回分「1,会議録2,録音データ」と記載され,)」
同「行政文書の公開の方法の区分」欄には「3閲覧及び写しの交付」の,
ところに「○」が記載されていた(甲1)。
(7)議会は,原告に対し,平成21年12月28日付けで行政文書非公開決
定通知書(本議第437号,以下「本件通知書」という)により,本件申。
),請に対し,公開を求める本件文書等を公開しないことを決定し(本件処分
そのころ原告に対し本件処分を通知した。
本件通知書「公開をしない理由」欄には「本巣市情報公開条例第条第,
号に該当・第9条に該当・不存在・その他(理由」との不動文字が印)
字されているところ,このうち「本巣市情報公開条例第条第号に該当,
・第9条に該当・不存在」までが二重線で消され「議会の規律に関する検,
討委員会は秘密会として開催されたため」と記載されている(以上甲。。
2)
(8)議会は,本件文書等として,①検討委員会全4回分の概要をまとめたA
検討委員長の署名のある簡易議事録及び②検討委員会全4回分の議事の録音
テープを保有している(弁論の全趣旨)。
(9)原告は「本巣ときの会ニュース」という新聞を発行しており,同新聞,
の第42号において,検討委員会を設置したこと及び検討委員会が報告した
内容に関する不満を記載していた(乙12)。
(10)原告は,Fから,平成20年1月28日ころ,①原告は,平成18年1
2月3日刊行,配布した本巣ときの会ニュース第10号及び平成19年5月
13日刊行,配布した同ニュース第14号において掲載した記事により,F
の名誉を毀損した,②原告は,平成19年3月20日午後8時50分ころ,
料理店において,Fの胸ぐらを左手でつかみかかり,無言のまま引っ張り続
ける暴行をしたなどとして,当庁に訴えを提起され,当庁裁判官Oは,平成
21年3月27日,①,②の事実を認めたうえ,75万円の慰謝料を認める
旨の判決をした。
上記判決は,平成22年4月6日に確定した(以上乙13の1∼4)。
2本件処分の適法性について
前記前提となる事実によれば,原告は,平成21年12月15日,議会に対
し,本件条例5条に基づき,本件申請をしたところ,議会は,本件文書等につ
いて「議会の規律に関する検討委員会は秘密会として開催されたため」と,。
の理由を付した平成21年12月28日付け行政文書非公開決定通知書により,
本件文書等を公開しない旨を通知したことが認められる。
そうであるところ「議会の規律に関する検討委員会は秘密会として開催さ,
れたため」という事実をもって直ちに本件条例6条各号の定める非公開事由。
に該当するものであるとはいえず,結局,本件処分には理由がないというべき
である。
実際,本件通知書には「個人情報を開示しない理由」欄に印字された不動,
文字のうち「本巣市情報公開条例第条第号に該当・第9条に該当・不存,
在・」という部分をあえて二重線で消した上で「議会の規律に関する検討委,
員会は秘密会として開催されたため」とのみ記載されている(上記1の認定。
事実)のであって,本件処分自体が,本件条例6条各号に基づかずになされた
ことが窺える。
この点,被告は,被告の主張(1)アのとおり主張するが「議会の規律に関,
する検討委員会は秘密会として開催されたため」との文言からすると,その。
趣旨が本件条例6条2号(法令秘情報,6条5号(審議・検討等情報,6))
条6号(事務事業情報)に該当する趣旨であるとは解されない。
なお,本巣市議会会議規則(会議規則)106条1項は「秘密会の議事の,
。,記録は,公表しない」と規定されてはいるが,同規則は,条例ではないから
秘密会の議事の記録についても本件条例の適用が除外されるものではない。
3議会が原告に対し本件文書等を公開すべきことが本件条例の条文上明らかで
あるか否か(行訴法37条の3)について
本件文書等の本件条例6条1号該当性について検討するに,前記1認定事実
によれば,検討委員会は,原告の平成21年10月6日開催の議会臨時会にお
ける議長選挙,副議長選挙の投票の際にとった行動及び議会の録音等に対する
議会の見解をまとめるために設立されたものであること,同委員会の各委員ら
は,原告が同日の本会議を録音し,これをインターネットに公表していること
の事実確認をした上で,同行為及び原告が同日の議長・副議長選挙の投票の際
に投票用紙を破った行為に対する評価及び対応に関して,率直な意見を交換す
るために,第2回の委員会を秘密会にしたこと,第2回から第4回にかけての
委員会で,これらの協議,検討がなされたことが認められる。
検討委員会で協議,検討がなされた事由は,いずれも本件条例6条1号本文
にいう原告の「個人に関する情報」であって,そのうち,原告が平成21年1
0月6日の本会議を録音し,これをインターネットに公表したことに関する協
議,検討内容は,原告の議員としての職務の遂行にかかる情報とはいえないか
ら,同条同号アないしウにも該当しないことは明らかである。
したがって,本件文書等には,非公開情報である原告個人に関する情報で同
人の地方公務員としての職務の遂行に係る情報とはいえない情報(以下「本件
。,個人情報」という)が記録されていることが認められるものの,本件文書中
本件個人情報がどの部分に含まれているのか,当該部分を容易に分離すること
ができ,かつ,当該分離により,原告の本件文書等の公開請求の趣旨が損なわ
れないものであるかについて証拠上判然としない。
そうとすると,本件文書等は,本件条例6条1号に該当しないことが明らか
であるとはいえず,また,本件個人情報が記録されている部分を除く部分公開
が可能か否かも証拠上明らかでないから,その余の非公開事由に該当するか否
かを判断するまでもなく,議会が原告に対し本件文書等を開示すべきことが本
件条例の条文上明らかとは認められない。
4以上によれば,原告の請求は,本件処分の取消を求める限度で理由があるか
らこれを認容し,その余は棄却すべきである。
よって,主文のとおり判決する。
岐阜地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官内田計一
裁判官永山倫代
裁判官山本菜有子

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