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平成30年11月28日判決言渡
平成30年(行ケ)第10060号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成30年10月10日
判決
原告パラマウントベッド株式会社
訴訟代理人弁理士櫻木信義
同堀口浩
同石川隆史
被告特許庁長官
指定代理人大森健司
同阿曾裕樹
同金子尚人
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が,不服2016-12541号事件について平成30年3月22日
にした審決を取り消す。
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯等
(1)原告は,平成27年3月31日,第20類「介護用マットレス,介護用ベ
ッド,介護用マットレス付きベッド」を指定商品とする立体商標の登録出願
(商願2015-29155。以下「本願」という。)をし,同年9月9日
付け手続補正書(甲28)により,商標登録を受けようとする商標を別紙1
記載のとおりの構成からなる立体商標に補正した(以下,この補正後の立体
商標を「本願商標」という。)。
(2)原告は,平成28年5月13日付けの拒絶査定(甲39)を受けたため,
平成28年8月19日,拒絶査定不服審判を請求した。
特許庁は,上記請求を不服2016-12541号事件として審理し,平
成30年3月22日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以
下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年4月6日,原告に送達さ
れた。
(3)原告は,平成30年5月2日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起
した。
2本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。
その要旨は,本願商標は,以下のとおり,商標法3条1項3号に該当し,か
つ,商標法3条2項に該当するものではないから,登録することができないと
いうものである。
(1)商標法3条1項3号該当性について
本願商標は,別紙1記載のとおり,ヘッドボード,フットボード及び上体
側が斜めに持ち上がった土台から構成されるベッドフレームに,マットレス
を組み合わせた立体的形状からなるものであり,本願の指定商品中,「介護
用マットレス付きベッド」というべきものである。
本願商標に表された商品の形状は,当該商品が,その機能を有するもので
あること及びその機能を発揮させるための当該商品の使用の方法を示すため
に一般的に採用し得る形状にすぎず,これを見た需要者をして,その機能,
使用の方法から予測し難いような特異な形状や特別な印象を受ける装飾的形
状等を備えているものとはいい難い。
そうすると,本願商標をその指定商品に使用しても,当該形状が商品の出
所識別標識としての機能を果たし得ないものというのが相当であるから,本
願商標は,商品の形状,使用の方法及び用途を普通に用いられる方法で表示
する標章のみからなるものといわざるを得ない。
したがって,本願商標は,商標法3条1項3号に該当する。
(2)商標法3条2項該当性について
請求人(原告)が本願商標の使用の事実を示すものとして提出した証拠に
掲載された商標は,別紙2記載のとおり,マットレスのないベッド(A商標),
人が横たわっている,マットレス,枕及び掛け布団付きのベッド(B商標),
マットレスがなく土台部分が水平なベッド(C商標),マットレス,枕及び
掛け布団が付いているベッド(D商標),側面から見た人(又はイラストで
表した人)が横たわっているマットレス付きのベッド(E商標),マットレ
スの足元側にカバーを付けたベッド(F商標)であり,これらの原告の使用
に係る商標は,いずれも,本願商標と同一とはいえない。そして,原告が本
願商標を使用した商品の販売活動及び広告宣伝活動を行っていたことを証明
する証拠もない。
したがって,本願商標は,使用をされた結果,その使用に係る商品(「介
護用マットレス付きベッド」)について,需要者が何人かの業務に係る商品
であることを認識することができるものであるとはいえず,その他の指定商
品(「介護用マットレス,介護用ベッド」)についてはなおさら,需要者が
何人かの業務に係る商品であることを認識することができるものとはいえな
いから,商標法3条2項に該当しない。
3取消事由
本願商標の商標法3条2項該当性の判断の誤り
第3当事者の主張
1原告の主張
(1)本願商標の特徴
本願商標は,別紙1記載のとおりの構成からなり,その特徴は,次のとお
りの「傾斜ベッド」と「フットボード」の形状にある。
まず,「傾斜ベッド」とは,土台の水平状態における背上げ機能と膝上げ
機能に,従来にない土台の傾斜機能を付加したベッドをいい,この土台の傾
斜機能により,フットボード側が低くなるため,利用者がベッドで過ごして
いるときに天井方向に向かいがちであった視線が,より下方の生活空間に向
くことになり,視界が広がり,利用者の自立意欲を増進することにつながる。
次に,「フットボード」については,樹脂製のボードを採用し,全体に丸
みをつけて,ボードの上端はつかまりやすいグリップ形状になっているため,
ベッド周辺を移動するときに手すりとして利用することができる。フットボ
ードの外側には,連絡ノートや取扱説明書などを収納できる「収納カバー」
を設けており,これは他に例を見ない特徴点であり,「収納カバー」には木
目調のシートが貼ってある。
このように本願商標は,極めて斬新で特徴的な形状を有しており,その特
徴的な形状は,利用者の離床,自立意欲を増進するという点において,強く
需要者の目を引く部分である。
(2)本願商標の使用商品及びその販売実績
ア(ア)原告が「楽匠Zシリーズ」として販売する介護用ベッド「楽匠Z」
の「セーフティーラウンドボード(樹脂製・木目調)」(以下「原告ベ
ッド」という。甲6の2)にマットレスを着設した商品は,原告ベッド
の機能により,本願商標と同一の形状をとることができる(甲1,2)。
したがって,原告によるマットレス付き原告ベッドの販売は,本願商
標の使用に当たる。
(イ)マットレス付き原告ベッドは,原告から福祉用具レンタル事業者に
販売され,同レンタル事業者から利用者(要介護者)に対してレンタル
されて利用される商品であり,製造業者とレンタル事業者との事業者間
で売買される商品である。
したがって,マットレス付き原告ベッドの需要者は,福祉用具レンタ
ル事業者等の事業者に限定され,一般需要者は含まれない。
なお,一般消費者を対象とする原告の通販サイト(甲27)において
も,マットレス付き原告ベッドを販売していない。
イ原告は,平成25年11月13日から,本願商標の使用商品であるマッ
トレス付き原告ベッドの販売を開始し,その販売を4年6か月以上継続し
ている。
マットレス付き原告ベッドの販売地域は,原告の本社(東京)ショール
ームを始めとして,全国8支店のショールーム,東京・大阪メディカル・
デザイン・スタジオを中心とした全国販売店網を通じて,全国主要都市に
及んでいる。
平成26年1月6日から平成30年5月31日までの間のマットレス付
き原告ベッドの販売台数は,合計14万5128台であり,売上高は合計
6006万0444円(定価ベース)である。上記販売台数の各年度の内
訳は,平成25年度(平成26年1月6日~同年3月末)が1万9135
台,平成26年度が4万8814台,平成27年度が3万3684台,平
成28年度が2万2943台,平成29年度が1万7852台,平成30
年度(平成30年4月1日~5月末)が2700台である。
そして,ベッドの土台の傾斜機能を有する「傾斜ベッド」を製造,販売
する競合他社は存在していないため,マットレス付き原告ベッドの市場占
有率は,100%である。
(3)本願商標の使用商品の広告宣伝
アカタログ等による広告宣伝
原告は,全国の支店ショールームに原告の総合カタログ(「在宅介護向
け福祉用具カタログ」。甲1)及び「楽匠Zシリーズ」の商品カタログ(以
下「単品カタログ」という。甲2)を常備し,マットレス付き原告ベッド
を含む「楽匠Zシリーズ」の商品を展示して,その宣伝,受注活動を行っ
ている。
総合カタログには,15台のマットレス付きベッドの写真が掲載されて
いる。これらの写真の全体から,取引者,需要者は,被写体のマットレス
付きベッドは,本願商標と同一の形状をとることができることを認識する
ことができる。もっとも,これらの写真中には,女性が枕に頭をのせて横
たわっている図が付加されたものがあるが,上記図は使用方法に関する説
明の便宜のために付加されたものであり,上記認識の妨げになるものでは
ない。
次に,単品カタログには,9台のマットレス付きベッドの写真が掲載さ
れており,これらの写真の全体から,取引者,需要者は,被写体のマット
レス付きベッドが本願商標と同一の形状をとることができることを認識す
ることができる。
そして,総合カタログに掲載されたA商標及びC商標並びに単品カタロ
グに掲載されたA商標は,本願商標と同一ないし実質的に同一と評価され
るべきものである。
したがって,総合カタログ及び単品カタログは,本願商標の使用商品の
広告に当たる。
イ新聞,雑誌及びテレビCMによる広告宣伝
原告は,以下のとおり,マットレス付き原告ベッドを含む「楽匠Zシリ
ーズ」の商品の広告宣伝を,新聞,雑誌及びテレビCMによって大量かつ
頻繁に行っている。
そして,これらの新聞,雑誌に掲載されたA商標,B商標,D商標及び
E商標,テレビCMに表示されたF商標は,本願商標と同一ないし実質的
に同一と評価されるべきものである。B商標の「枕,掛布団及び人」,D
商標の「枕と掛布団」,E商標の「枕と人」及びF商標の「足元側のカバ
ー」は,いずれも付属的なものであり,上記評価を左右するものではない。
(ア)全国紙3紙(読売新聞,朝日新聞及び日本経済新聞)への広告掲載
159回
掲載費用2億6700万円(平成26年3月期~平成30年3月期)
(イ)業界新聞9紙への広告掲載
99回
(ウ)月刊誌5誌への広告掲載
13回
(エ)テレビCM
広告内容「生きる姿勢編」と「背中の手編」の2種
広告媒体テレビ朝日,テレビ東京,フジテレビ,BS-TBS等
広告費用21億8200万円(平成26年3月期~平成30年3月
期)
ウアンケート調査
原告が株式会社インテージ(以下「インテージ」という。)に依頼して
平成30年7月にケアマネージャー(介護支援専門員),福祉用具鑑定士,
福祉用具プランナー等を対象者として実施したアンケート調査(以下「本
件アンケート」という。甲36)の結果によれば,本願商標の認知度(認
識率)は全体で64.6%,対象者を福祉用具の選定者に限定した場合の
認知度(認識率)は66.5%であった。
(4)本願商標の使用による識別力の獲得
前記(1)ないし(3)によれば,①本願商標は,極めて斬新で特徴的な形状(「傾
斜ベッド」と「フットボード」の形状)を有しており,その特徴的な形状は,
強く需要者の目を引くこと,②本願商標の使用商品(マットレス付き原告ベ
ッド)は,発売後短期間に多数の販売実績を上げていること,③積極的,集
中的かつ商品形状の露出を前面に押し出した効果的な本願商標の使用商品の
宣伝活動とも相まって,需要者である福祉用具レンタル事業者において,本
願商標の特徴的な形状は,印象的かつ鮮明に記憶され,その特徴的な形状自
体が原告の出所を表示する標識として認識されるに至っており,このことは,
本件アンケートの調査結果によって裏打ちされていることからすると,本願
商標は,本願商標の使用商品について,「使用をされた結果需要者が何人か
の業務に係る商品であることを認識することができるもの」(商標法3条2
項)に該当するというべきである。
(5)本願商標の使用商品と本願の指定商品との同一性
本件審決は,原告の使用商標に係る商品は,本願の指定商品である「介護
用マットレス」,「介護用ベッド」及び「介護用マットレス付きベッド」と
同一とはいえない旨判断した。
しかしながら,本件審判における平成29年9月29日付け審尋(甲31)
で,本願商標の指定商品中,「介護用マットレス付きベッド」を「マットレ
ス付き介護用ベッド」とする補正が認められており,本願商標の使用商品(マ
ットレス付き原告ベッド)は,同指定商品と一致する。
また,原告は,上記審尋に係る同年11月8日付け回答書(乙16)で,
本願商標の指定商品について「マットレス付き介護用ベッド」をより簡潔で
上位概念的な表示である「介護用ベッド」に補正することを希望したのに対
し,審判合議体は,補正の許否及び指定商品を「介護用ベッド」とすべきか,
「マットレス付き介護用ベッド」とすべきかについての判断を怠り,原告に
対して最終的な指定商品の補正の機会を与えることなく,本件審決を行った
から,本件審決の上記判断には,審理不尽がある。
したがって,本件審決の上記判断は誤りである。
(6)小括
以上によれば,本願商標は商標法3条2項に該当するから,これと異なる
本件審決の判断は誤りであり,本件審決は,違法として取り消されるべきで
ある。
2被告の主張
(1)本願商標の特徴の主張に対し
ア本願商標の立体的形状は,別紙1記載のとおり,へッドボード(ベッド
の頭側の板),フットボード(ベッドの足側の板),ベッドフレーム(ベ
ッドを構築する骨組み及び床板)及びマットレス(敷物)により構成され
るものであるところ,ベッドフレームは,頭側を上にして傾斜し,床板は
頭側を上にして足側にかけてS字状に途中が起伏しつつ傾斜した形状で,
ベッドに設置されたマットレスは,上記床板の形状に合わせて屈曲してな
り,ヘッドボード及びフットボードの上部には左右に穴が設けられ,ベッ
ドフレーム及びフットボードの一部は木目調の模様がある。
これらの形状及び特徴を踏まえると,本願商標は,指定商品との関係に
おいては,「介護用マットレス付きベッド」の立体的形状を表してなるも
のと認識,理解できる。
イ本願商標の構成要素(ヘッドボード,フットボード,ベッドフレーム及
びマットレス)は,介護用ベッドに一般的に備わるものであって,ベッド
フレームの傾斜並びに床板及びマットレスの起伏という形状も,利用者の
起き上がりや立ち上がり補助という機能を発揮させた際の状態にすぎない
ものであり,ヘッドボード及びフットボードの上部の左右の穴も,利用者
の立ち上がり補助という機能と関連するものと理解できる。
また,①利用者の起き上がりや立ち上がりを容易にするため,ベッドフ
レーム又は床板を傾斜させ,床板がS字状に起伏した状態になる介護用ベ
ッド,②その床板の起伏に合わせて屈曲しやすいマットレス,③ヘッドボ
ード又はフットボードの上部に,体を支える手すりのための穴を設けたベ
ッド,④装飾のためにフレーム又はフットボードの一部を木目調の模様と
したベッドの商品(乙4ないし15)は,原告以外の者によって広く製造,
販売されている。
したがって,本願商標のヘッドボード,フットボード,ベッドフレーム
及びマットレスの形状及び特徴は,介護用ベッド又はマットレスの形状又
は装飾として,また,それらが動いた状態又は屈曲した状態を示すために,
取引上普通に採択,採用されているものであるから,原告以外の者の商品
にない特徴的なものとはいえない。
(2)本願商標の使用商品及びその販売実績の主張に対し
ア(ア)原告ベッドは,へッドボード,フットボード及びベッドフレームに
より構成され,背,膝,ベッドの傾斜及び高さを電動で調整できる機能
を備えた商品であるが,マットレスは別売りである。
原告の総合カタログ(甲1)に,原告ベッドが上記機能を発揮した状
態を示すために多様な形状の写真が掲載されているように,原告ベッド
は,ベッドフレームや床板の傾斜,形状,高さなどを電動で調整し,利
用者の状態に合わせ使用する商品であり,ベッドフレーム及び床板の可
変部分の状態が常に一定の状態にあるというものではない。
そうすると,本願商標は,原告ベッドにマットレスを設置し,ベッド
フレーム及びその床板を動かした際の状態の一つを示すものであるとし
ても,これら可変部分の状態(形状)に応じて,本願商標とマットレス
付き原告ベッドは,自他商品の識別標識としての印象に大きな差異が生
じるというべきであるから,その形状の相違は,決して僅かな相違とは
いえない。
したがって,原告によるマットレス付き原告ベッドの販売は,本願商
標の使用に当たらない。
(イ)本願の指定商品の需要者は,事業者に限らず,本願の指定商品の利
用者及びその家族などの一般需要者も含まれる。
原告が主張するマットレス付き原告ベッドの流通形態は,原告固有の
実情にすぎず,本願の指定商品の一般的な取引の実情であることを示す
ものとはいえないから,本願の指定商品の需要者が福祉用具レンタル事
業者等の事業者に限定されることの根拠にはならない。
イ原告ベッドの発売(広告開始時を含む。)から本件審決時まで,4年程
度しか経過しておらず,その販売期間は,短期間である。
原告主張の販売台数は,年間3万6000台程度であり,平成26年か
ら平成29年までの「医療・介護用電動ベッド」の市場規模(平成26年
32万1000台(実績),平成27年31万3900台(実績),平成
28年30万0900台(見込み),平成29年30万4000台(予測))
(乙18)と比較しても,その市場シェアは11%程度にすぎない。
また,原告主張の定価ベースの売上高は,現実の売上高とはいえないか
ら,販売実績として評価するとしても,相当程度割り引いて理解すべきで
ある。
加えて,本願商標は,常に一定の形状にあるわけではないマットレス付
き原告ベッドとは同一ないし実質的に同一のものではなく,単に原告ベッ
ドを動かした際の状態の一つを示すものにすぎないから,原告の主張する
販売実績は,本願商標の形状の識別性に関する需要者の認識に直接的な影
響を及ぼすものではなく,本願商標と直接関連した使用実績と評価できな
い。
(3)本願商標の使用商品の広告宣伝の主張に対し
ア原告主張の広告宣伝に掲載されたA商標ないしF商標の各写真と本願商
標とを比較すると,ベッドの可変部分の相違に加えて,マットレスの有無,
その他の構成要素(枕や布団など)の有無の違いもあり,同一の構成及び
形状とはいえないから,自他商品識別標識としての印象に大きな差異が生
じる。
したがって,A商標ないしF商標は,本願商標と同一ないし実質的に同
一と評価されるべきものである旨の原告の主張は理由がない。
イ新聞広告(甲11の1ないし82,甲12の1ないし16,甲13の1
ないし61,甲15の1ないし10,12ないし19)は,新聞掲載時の
紙面上での位置や大きさが不明であり,そこに掲載された原告ベッドの写
真は,マットレス,掛け布団,枕などを設置した状態で,「ベッドでの姿
勢は,生きる姿勢につながっている。」,「楽匠Z/らくしょうZシリ
ーズ」などの宣伝文句や商品名とともに掲載されており,これらの新聞広
告をもって,原告ベッドの特定の状態が,商品の形状として,そこに掲載
された商品名などとは別に,需要者の間に印象づけられたとは評価できな
い。
次に,雑誌広告(甲18の2,甲19の1ないし8,甲20の1,2)
は,原告ベッドの写真が,ベッドが傾く機能や背上げの機能などの紹介と
共に,マットレスや枕などを設置した状態で掲載されているものであり,
これらの雑誌広告をもって,原告ベッドの特定の状態が,商品の形状とし
て,そこに掲載された商品名などとは別に,需要者の間に印象づけられた
とは評価できない。
さらに,テレビCM2編の画像抜粋(甲21,甲22)及び当該CMの
放映放送局・番組一覧(甲23の1ないし4)によれば,平成25年度か
ら平成28年度に,原告ベッドに係るテレビCMが放送されたことがうか
がえるものの,画面上の原告ベッドは,可変部分の状態に応じて,傾き,
高さ及び形状などが異なる数種の使用態様が表示されていて一貫性がなく,
商品名や原告名称なども表示されているものであり,これらテレビCMを
もって,原告ベッドの特定の状態が,商品の形状として,そこに掲載され
た商品名などとは別に,需要者の間に印象づけられたとは評価できない。
したがって,原告の主張する広告宣伝の実績は,本願商標の形状の識別
性に関する需要者の認識に直接的な影響を及ぼすものではないから,本願
商標と直接関連した使用実績と評価できない。
ウ本件アンケートは,①調査対象の範囲に本願の指定商品の一般需要者が
含まれておらず,一般需要者の認識を反映していない点,②調査方法(質
問方法,回答方法)の公平性及び客観性の点,③調査結果の集計・評価の
点において問題がある。
また,本件アンケートの結果によっても,介護用品に関する知識の豊富
な者でさえ,本願商標の写真から原告との関係を想起するのはその半数程
度にすぎないから,本願商標は,その指定商品の半数を超える需要者にお
いて,原告の業務に係る商品の出所を表示するものとして認識されていな
いと理解すべきである。
(4)本願商標の使用による識別力の獲得の主張に対し
前記(1)ないし(3)のとおり,本願商標の形状及び特徴は,取引上普通に採
択,採用されているものであり,原告以外の者の商品にない特徴的なものと
はいえないこと,原告ベッドの販売実績及び広告宣伝実績は,本願商標の形
状の識別性に関する需要者の認識に直接的な影響を及ぼすものではなく,本
願商標と直接関連した使用実績と評価できないし,その販売実績及び広告宣
伝実績によってマットレス付き原告ベッドの形状が需要者の間で周知になっ
たものとはいえないこと,本願商標の写真から原告との関係を想起できるの
は,介護用品に関する知識の豊富な者でさえその半数程度にすぎず,残りの
半数程度は原告との関係を想起できないことを総合すれば,本願商標は,マ
ットレス付き原告ベッドについて,「使用をされた結果需要者が何人かの業
務に係る商品であることを認識することができるもの」(商標法3条2項)
に該当するものとはいえない。
(5)本願商標の使用商品と本願の指定商品との同一性の主張に対し
手続の補正をするには,手続補正書を提出しなければならないところ(商
標法77条2項で準用する特許法17条4項),原告は,本願の審査及び本
件審判が係属している間に,本願の指定商品の補正を求める手続補正書を提
出していないから,その指定商品は補正されていない。
また,本件審判においては,合議体は重ねて審尋を発することで(甲29,
甲31),原告に対し,本願の指定商品の補正を促していたにもかかわらず,
原告は手続補正書を提出しなかったものであり,また,審理の結果,本願の
指定商品の補正の有無にかかわらず結論を出せる状態に達したため,審理の
終結を通知し,本件審決を行ったものであるから,本件審判の審理手続に,
何ら違法はない。
したがって,本願の指定商品は,本願の願書記載のとおり,第20類「介
護用マットレス,介護用ベッド,介護用マットレス付きベッド」であること
を前提に判断した本件審決に誤りはない。
(6)小括
以上によれば,本願商標は商標法3条2項に該当しないとした本件審決の
判断に誤りはないから,原告主張の取消事由は理由がない。
第4当裁判所の判断
1取消事由(商標法3条2項該当性の判断の誤り)について
(1)本願商標及びその使用商品について
ア本願商標は,別紙1記載のとおり,へッドボード,フットボード,底板
(ボトム)及び土台からなるベッドの上にマットレスが設置された,マッ
トレス付きベッドの立体的形状である。
そして,本願商標においては,①ベッドの土台は,頭側を上にして傾斜
し,②ベッドの底板は,頭側を上にして足側にかけて全体としてS字状に
屈曲し,背部が立ち上がり,腰部から足部にかけての中間の膝部が起伏し,
かつ,頭側の端部がヘッドボードの上端部の右方に近接して位置し,③マ
ットレスは,底板の上記形状に合わせて全体としてS字状に屈曲し,④ヘ
ッドボード及びフットボードの上部左右には穴が設けられ,土台の枠体及
びフットボードの一部に木目調の模様がある。
イ(ア)原告の総合カタログ(「在宅介護向け福祉用具カタログ2015」。
甲1)中の「介護用ベッド」のカタログには,「楽匠Zシリーズ」の商
品が掲載されている。
甲1の3枚目には,「背と膝とベッドの傾斜を組み合わせた[新・背あ
げ機構]ラクリアモーション」の見出しの下に,マットレス付きベッドの
上に仰向けになった人を被写体とする5枚の連続写真(①ないし⑤の各
写真)及び各写真に対応したベッドの使用方法に関する説明文が掲載さ
れている。①の写真には「身体がずれないように,まず膝をあげてから
上体を起こしはじめます。」,②の写真には「少し上体を起こしてから,
ベッドが傾きはじめます。」,③の写真には「ベッドが10°傾くと傾
斜がとまり,さらに上体を起こします。」,④の写真には「上体を起こ
しながら,膝をさげて圧迫感を軽減します。」,⑤の写真には「骨盤の
立った安定した姿勢で起きあがります。」との説明が付されている。こ
のうち,④の写真のベッドの側面形状は,別紙1の本願商標を表した中
央の写真よりも,底板の頭側の端部がヘッドボードの上端部よりやや低
い位置にあるが,それ以外の形状は,上記中央の写真とほぼ同一の形状
であることが認められる。
また,甲1の4枚目には,「ラクリアモーションによる背上げ(3モ
ーションのラクリアモーションとストレッチスリムマットレスを使用)」
の見出しの下に,マットレス付きベッドの上に仰向けになった人の図を
被写体とする4枚の連続写真及び各写真に対応したベッドの使用方法に
関する説明文が掲載されている。これらの写真のうち,「03:ベッド
が10°傾くと傾斜がとまり,さらに上体を起こします。」との説明が
付された写真のベッドの側面形状は,上記④の写真の側面形状とほぼ同
一であることが認められる。
さらに,甲1の5枚目には,3枚目及び4枚目の上記各写真と同じベ
ッドの写真が6枚掲載されており,これらの写真から,上記ベッドは,
ヘッドボード及びフットボードの上部左右に穴が設けられ,土台の枠体
及びフットボードの一部に木目調の模様があることが認められる。
一方で,甲1には,別紙1の下部の写真と同様の構図(斜視図)の写
真は掲載されていないが,甲1掲載のマットレス付きベッドの上記各写
真から,当該マットレス付きベッドの斜視図の形状は,別紙1の下部の
写真と同様の形状であることを推察できる。
以上を総合すると,甲1から,甲1に掲載された「楽匠Zシリーズ」
のベッドは,その機能(底板の背部の背上げ機能及び膝部の膝上げ機能,
土台の傾斜機能)の組合せにより,本願商標と同一の立体的形状をとる
ことができることが認められる。
(イ)原告の単品カタログ(甲2)には,1枚目に「誕生・楽匠Z」との
記載がある「楽匠Zシリーズ」の商品カタログである。
甲2の5枚目の「ベッドが10°傾くと傾斜がとまり,さらに上体を
起こします。」との説明の下にマットレス付きベッドの上に仰向けにな
った人の図を被写体とする写真は,甲1の4枚目の「03:ベッドが1
0°傾くと傾斜がとまり,さらに上体を起こします。」との説明が付さ
れた写真と同一であること,甲2の9枚目の下部左側にマットレス付き
ベッドの上に仰向けになった人を被写体とする写真は,甲1の3枚目の
④の写真と同一であることが認められる。
また,甲2の各写真から,上記ベッドは,ヘッドボード及びフットボー
ドの上部左右に穴が設けられ,土台の枠体及びフットボードの一部に木
目調の模様があること,フットボードの木目調の模様がある箇所には収
納カバーが設置されていることが認められる。
一方で,甲2には,別紙1の下部の写真と同様の構図(斜視図)の写
真は掲載されていないが,甲2掲載のマットレス付きベッドの上記各写
真から,当該マットレス付きベッドの斜視図の形状は,別紙1の下部の
写真と同様の形状であることを推察できる。
以上を総合すると,甲2から,甲2に掲載された「楽匠Zシリーズ」
のベッドは,その機能(底板の背部の背上げ機能及び膝部の膝上げ機能,
土台の傾斜機能)の組合せにより,本願商標と同一の立体的形状をとる
ことができることが認められる。
そして,甲3,甲6の2,3によれば,甲1及び2に掲載されたベッ
ドは,「楽匠Zシリーズ」のうちの「楽匠Z」の「セーフティーラウン
ドボード(樹脂製・木目調)」というタイプの電動介護用ベッド(原告
ベッド)であることが認められる。
(ウ)前記(ア)及び(イ)によれば,原告ベッドにマットレスを着設した商
品(マットレス付き原告ベッド)は,原告ベッドの機能(底板の背部の
背上げ機能及び膝部の膝上げ機能,土台の傾斜機能)により,本願商標
と同一の形状をとることができることが認められるから,本願商標を付
した商品であるものと認められる。
したがって,マットレス付き原告ベッドは,本願商標の使用商品であ
る。
(2)本願商標の使用による識別力の獲得について
ア認定事実
証拠(甲1ないし6,8ないし25,32,34ないし37(枝番号の
あるものは,いずれも枝番号を含む。))及び弁論の全趣旨によれば,以
下の事実が認められる。
(ア)「楽匠Zシリーズ」の販売及び販売実績
原告は,平成26年1月6日から,マットレス付き原告ベッドを含む
「楽匠Zシリーズ」の商品を販売している。その販売地域は,東京本社
及び全国8支店(札幌支店,仙台支店,さいたま支店,横浜支店,名古
屋支店,大阪支店,広島支店,福岡支店)等の販売店網を通じて,全国
主要都市に及んでいる。東京本社及び全国8支店には,ショールームが
設置されている。
平成26年1月6日から平成30年5月31日までの間の原告ベッド
の販売数量は,平成25年度(平成26年1月6日から3月末までの間)
は1万8693台,平成26年度は4万7205台,平成27年度は3
万1995台,平成28年度は2万1615台,平成29年度は1万6
543台,平成30年度(平成30年4月1日から5月31日までの間)
は2494台の合計13万8545台(甲32の1)である。「楽匠Z
シリーズ」用のマットレスは,オプション商品であり,原告ベッドとセ
ットで販売される場合と別売りされる場合がある。
(イ)新聞及び雑誌による広告宣伝
原告は,平成25年11月から平成30年3月までの間,全国紙3紙
(読売新聞,朝日新聞及び日本経済新聞),業界新聞(シルバー新報,
シルバー産業新聞,福祉用具の日しんぶん)等,月刊誌(日経ヘルスケ
ア等)において,マットレス付き原告ベッドを含む「楽匠Zシリーズ」
の商品の広告宣伝を行った。
これらの新聞広告には,①人が横たわっている,マットレス,枕及び
掛け布団を設置した,底板及び土台が頭側に傾斜した状態のマットレス
付きベッドを表したB商標(甲11の66,甲13の2,4,6,8,
10,12,14,16,18,21,23ないし61等),②マット
レス,枕及び掛け布団を設置した,土台が頭側に傾斜し,底板の背部が
立ち上がった状態のマットレス付きベッドを表したD商標(甲11の1
ないし65,67ないし82,甲12の1ないし16,甲13の1,3,
5,7,9,11,13,15,17,19,20,22,甲15の1,
3,5,7,9,10,12,14ないし16,18,19等),③マ
ットレス及び枕を設置した,土台が頭側に傾斜し,底板の背部が立ち上
がった状態のベッドに人が枕に頭をのせ,背中を付けて座っているマッ
トレス付きベッドを表したE商標(甲15の2,4,6,8,13,1
7等)の写真が掲載されている。
また,雑誌の広告には,D商標(甲19の1ないし8,甲20の1,
2)及びE商標(甲18の2,3)の写真が掲載されている。
このほか,マットレスの設置されていない,土台が頭側に傾斜し,底
板の背部が立ち上がった状態のベッドを表したA商標が新聞(甲14の
1)及び雑誌(甲16の1,3)に掲載されている。
(ウ)テレビCMによる広告宣伝
原告は,平成25年11月から平成30年3月までの間,テレビ朝日,
テレビ東京,フジテレビ,BS-TBS等で,マットレス付き原告ベッ
ドを含む「楽匠Zシリーズ」の商品のテレビCMによる広告宣伝を行っ
た。
上記テレビCMは,「生きる姿勢編」(甲21)及び「背中の手編」
(甲22)の2種類があり,いずれも介護ベッドを利用する利用者や介
護者等の様子を写したCMである。
「生きる姿勢編」には,マットレスの足元側にカバーをつけたマット
レス付きベッドにおいて,土台が水平で,土台が頭側に傾斜した状態,
底板及び土台が頭側に傾斜した状態,土台が頭側に傾斜し,底板の背部
が立ち上がった状態を表したF商標の画像が表示されている。また,「背
中の手編」(甲22)は,土台が頭側に傾斜し,底板の背部が立ち上が
った状態のマットレス付きベッドを表した標章の画像が表示されている。
(エ)アンケート調査
本件アンケート(甲36,37)は,原告がインテージに依頼して,
平成30年7月3日から5日までの3日間に,福祉用具レンタル卸業者,
貸与業者及び販売業者,ケアマネージャー(介護支援専門員),福祉用
具鑑定士,福祉用具プランナー等を対象者(合計522名),「楽匠Z」
を調査対象商品として実施された,「介護用ベッドの立体商標」に関す
るインターネット調査である。
調査項目のうち,第4問は,「在宅介護や介護施設などで使われる介
護用ベッドです。」の説明とともに,別紙1の本願商標の中央及び下部
の2枚の写真の画像を示した,「Q4この写真を見て,あなたが思い
浮かべるメーカー名またはブランド名をお答えください。」との質問,
第5問は,上記説明とともに,上記2枚の写真の画像を示した,「Q5
この写真を見て,あなたが思い浮かべる商品名(製品名)をお答えくだ
さい。」との質問である。
本件アンケートの結果(有効回答数362,回収率69.30%),
第4問及び第5問のいずれかの正答率は64.6%,福祉用具の選定者
(母数は上記有効回答数のうちの319)に限定した第4問及び第5問
のいずれかの正答率は66.5%であった。
イ検討
(ア)本願の指定商品(「介護用マットレス,介護用ベッド,介護用マッ
トレス付きベッド」)の需要者は,介護用品の取引者,介護用品の利用
者及びその家族,介護福祉関係者等であることが認められる。
この点について原告は,マットレス付き原告ベッドは,その流通形態
からすると,製造業者(原告)と福祉用具レンタル事業者との事業者間
で売買される商品であるから,その需要者は,福祉用具レンタル事業者
等の事業者に限定され,一般需要者は含まれない旨主張する。
しかしながら,原告の主張を前提としても,福祉用具レンタル事業者
からレンタルを受けてマットレス付き原告ベッドを利用するのは,一般
の介護用品の利用者であり,介護用品の利用者及びその家族等は需要者
に含まれるというべきであるから,原告の上記主張は採用することがで
きない。
(イ)前記(1)イ(ウ)認定のとおり,マットレス付き原告ベッドは,原告ベ
ッドの機能(底板の背部の背上げ機能及び膝部の膝上げ機能,土台の傾
斜機能)の組合せにより,本願商標と同一の形状をとることができるこ
とからすると,マットレス付き原告ベッドの購入者又は利用者は,その
使用時に,本願商標と同一の形状又は社会通念上同一の形状を認識する
機会があり得るものといえる。
しかしながら,本願商標は,別紙1記載のとおり,ベッドの土台が,
頭側を上にして傾斜し,ベッドの底板が,頭側を上にして足側にかけて
全体としてS字状に屈曲し,背部が立ち上がり,腰部から足部にかけて
の中間の膝部が起伏し,かつ,頭側の端部がヘッドボードの上端部の右
方に近接して位置した形状であり,マットレス付き原告ベッドを本願商
標と同一の形状とするには,原告ベッドの上記機能を組み合わせて,土
台の傾斜角度,底板の背部の立ち上げ角度及び膝部の起伏の高さなどを
調節して設定する必要があること,マットレス付き原告ベッドの利用者
は,通常は,マットレスの上に布団をかけた状態で原告ベッドを使用す
ることに照らすと,マットレス付き原告ベッドの購入者又は利用者は,
その使用時に,本願商標と同一の形状又は社会通念上同一の形状を認識
する機会は多いものとは認められないし,また,その形状を認識したと
しても,それが印象に残ることは少ないものと認められる。
さらに,原告は,本社及び全国8支店のショールームに原告の総合カ
タログ(甲1)及び単品カタログ(甲2)を常備し,マットレス付き原
告ベッドを展示して,販売活動を行っていること(甲5,弁論の全趣旨)
に照らすと,マットレス付き原告ベッドの購入者は,その購入の際に,
総合カタログ及び単品カタログに接することがあり得るものと認められ
るが,総合カタログ及び単品カタログには,別紙1の下部の写真と同様
の構図(斜視図)の写真は掲載されていないため,総合カタログ及び単
品カタログのみから,本願商標と同一の形状を認識することはできない。
また,上記ショールームにおいてマットレス付き原告ベッドが本願商標
と同一の形状で展示されていたことを認めるに足りる証拠はない。
(ウ)マットレス付き原告ベッドを含む「楽匠Zシリーズ」の商品の新聞
広告及び雑誌広告には,①人が横たわっている,マットレス,枕及び掛
け布団を設置した,底板及び土台が頭側に傾斜した状態のマットレス付
きベッドを表したB商標,②マットレス,枕及び掛け布団を設置した,
土台が頭側に傾斜し,底板の背部が立ち上がった状態のマットレス付き
ベッドを表したD商標,③マットレス及び枕を設置した,土台が頭側に
傾斜し,底板の背部が立ち上がった状態のベッドに人が枕に頭をのせ,
背中を付けて座っているマットレス付きベッドを表したE商標の写真が
掲載されていることは,前記ア(イ)認定のとおりである。
しかしながら,これらのB商標,D商標及びE商標の写真は,人,枕
及び掛け布団が写されている部分を除いても,別紙1記載の本願商標の
形状の写真と一致しないことに照らすと,B商標,D商標及びE商標を
掲載した新聞広告及び雑誌広告から,本願商標と同一の形状又は社会通
念上同一の形状を認識することはできないものと認められる。
また,同様に,マットレスの設置されていない,土台が頭側に傾斜し,
底板の背部が立ち上がった状態のベッドを表したA商標が掲載された新
聞及び雑誌から,本願商標と同一の形状又は社会通念上同一の形状を認
識することはできないものと認められる。
次に,マットレス付き原告ベッドを含む「楽匠Zシリーズ」の商品の
テレビCMには,マットレスの足元側にカバーをつけたマットレス付き
ベッドにおいて,土台が水平で,土台が頭側に傾斜した状態,底板及び
土台が頭側に傾斜した状態,土台が頭側に傾斜し,底板の背部が立ち上
がった状態を表したF商標の画像,土台が頭側に傾斜し,底板の背部が
立ち上がった状態のマットレス付きベッドを表した標章の画像が表示さ
れていることは,前記ア(ウ)認定のとおりである。
しかしながら,これらのF商標及び上記標章の画像は,マットレスの
足元側のカバーが写されている部分を除いても,別紙1記載の本願商標
の形状の写真と一致しないことに照らすと,F商標及び上記標章が表示
されたテレビCMから,本願商標と同一の形状又は社会通念上同一の形
状を認識することはできないものと認められる。
(エ)前記ア(エ)のとおり,本件アンケートは,福祉用具レンタル卸業者,
貸与業者及び販売業者,ケアマネージャー(介護支援専門員),福祉用
具鑑定士,福祉用具プランナー等を対象者とするものであり,介護用品
の利用者及びその家族等の一般需要者が対象者に含まれていないから,
本件アンケートの結果は,需要者(前記(ア))の認識を適切に反映した
ものとは認められない。
(オ)以上によれば,原告によるマットレス付き原告ベッドの販売(前記
ア(ア)),新聞広告,雑誌広告及びテレビCMによる広告宣伝(前記ア(イ),
(ウ)),本件アンケートの結果(前記ア(エ))を総合考慮しても,本件
審決時(審決日平成30年3月22日)までに,本願商標が,マットレ
ス付き原告ベッドを表示するものとして,需要者の間に広く認識される
に至ったものと認めることはできない。
したがって,本願商標は,マットレス付き原告ベッドについて,「使
用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識する
ことができるもの」(商標法3条2項)に該当するものとはいえない。
ウ原告の主張について
原告は,①本願商標は,極めて斬新で特徴的な形状(「傾斜ベッド」と
「フットボード」の形状)を有しており,その特徴的な形状は,強く需要
者の目を引くこと,②本願商標の使用商品(マットレス付き原告ベッド)
は,発売後短期間に多数の販売実績を上げていること,③積極的,集中的
かつ商品形状の露出を前面に押し出した効果的な本願商標の使用商品の宣
伝活動とも相まって,需要者である福祉用具レンタル事業者において,本
願商標の特徴的な形状は,印象的かつ鮮明に記憶され,その特徴的な形状
自体が原告の出所を表示する標識として認識されるに至っており,このこ
とは,本件アンケート調査の結果によって裏打ちされていることからする
と,本願商標は,本願商標の使用商品について,「使用をされた結果需要
者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるもの」
(商標法3条2項)に該当すると主張する。
しかしながら,上記①のうちの「傾斜ベッド」の形状とは,土台の傾斜
機能により,フットボード側が低くなった形状をいうものであるところ,
原告が述べるように土台の傾斜機能は従来の介護用ベッドにない機能であ
るとしても,本願商標の構成全体の中で土台が傾斜した形状が強く需要者
の印象に残るものとは認められない。また,上記①のうちの「フットボー
ド」の形状とは,樹脂製のボードを採用し,全体に丸みをつけて,ボード
の上端がつかまりやすいグリップ形状となっている点及び外側に「収納カ
バー」が設けられ,木目調のシートが貼ってある点をいうものであるとこ
ろ,グリップできるように,フットボードの上部左右に穴を設けた形状及
びフットボードの一部に木目調の模様がある形状は,他の介護用ベッドに
おいても採用されている形状又は装飾であって(乙4ないし6,14,1
5),いずれも独特なものとはいえず,強く需要者の目を引くものとは認
められない。
そして,マットレス付き原告ベッドの販売実績及び広告宣伝,本件アン
ケートの結果を総合考慮しても,本件審決時(審決日平成30年3月22
日)までに,本願商標が,マットレス付き原告ベッドを表示するものとし
て,需要者の間に広く認識されるに至ったものと認めることはできないこ
とは,前記イ(オ)で説示したとおりである。
したがって,原告の上記主張は,理由がない。
(3)本願商標の使用商品と本願の指定商品との同一性について
原告は,本件審決は,原告の使用商標に係る商品は,本願の指定商品であ
る「介護用マットレス」,「介護用ベッド」及び「介護用マットレス付きベ
ッド」と同一とはいえない旨判断したが,平成29年9月29日付け審尋(甲
31)に係る同年11月8日付け回答書(乙16)で,本願商標の指定商品
について「マットレス付き介護用ベッド」をより簡潔で上位概念的な表示で
ある「介護用ベッド」に補正することを希望したのに対し,審判合議体は,
補正の許否及び指定商品を「介護用ベッド」とすべきか,「マットレス付き
介護用ベッド」とすべきかについての判断を怠り,原告に対して最終的な指
定商品の補正の機会を与えることなく,本件審決を行ったから,本件審決の
上記判断には,審理不尽があるなどとして,上記判断は誤りである旨主張す
る。
しかしながら,商標登録出願をした者は,事件が審査,登録異議の申立て
についての審理,審判又は再審に係属している間は,手続の補正をすること
ができ(商標法68条の40第1項),手続の補正をするには,手続補正書
を提出しなければならないところ(同法77条2項で準用する特許法17条
4項),上記回答書は手続補正書に該当するものと認めることはできないし,
他に原告が本願の審査及び本件審判が係属している間に本願の指定商品の補
正を求める手続補正書を提出したことを認めることはできない。
したがって,原告の上記主張は,その前提において,理由がない。
(4)小括
以上によれば,本願商標は商標法3条2項に該当しないとした本件審決の
判断に誤りはないから,原告主張の取消事由は理由がない。
2結論
以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がなく,本件審決にこれを取り消
すべき違法は認められない。
したがって,原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官大鷹一郎
裁判官山門優
裁判官筈井卓矢
(別紙1)
(別紙2)
1A商標
2B商標
3C商標
4D商標
5E商標
6F商標

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