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平成17年4月26日判決言渡
平成15年(行ウ)第14号 運転免許更新処分取消請求事件
判         決
主         文
1被告が平成15年2月17日付けで原告に対してした自動車等運転免許証の有効
期間の更新に係る処分のうち,平成18年2月21日から平成20年2月20日までの
期間につき,有効期間の更新を拒否する部分を取り消す。
2 訴訟費用は,被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
主文同旨。
第2事案の概要
 原告は,運転免許証(以下「免許証」という。)の有効期間満了に伴い,被告に対
し,免許証の有効期間の更新(以下では「免許証の更新」ということがある。)を申
請したが,被告は,更新前5年間に原告に道路交通法(以下「法」という。)の規定
に違反する行為(安全運転義務違反)があったことから,原告が法92条の2第1項
の表備考一の4に定める違反運転者等に該当するとして,原告に対し,更新後の
免許証の有効期間を,更新前の免許証の有効期間満了日後の原告の3回目の誕
生日から起算して1月を経過する日(平成18年2月20日)まで(3年)とする,免許
証の有効期間の更新をした。
 本件は,原告が,被告による前記更新に係る処分のうち,更新後の免許証の有
効期間を3年とする部分は,有効期間5年(平成20年2月20日まで)の更新を受け
ることのできる原告の法的地位を侵害する違法な行政処分であると主張して,その
取消しを求めている事案である。
1 前提事実(末尾に証拠等の記載のない事実は,当事者間に争いがないか,明らか
に争わない事実である。)
  (1) 原告の運転免許の取得 
   原告は,昭和63年8月3日に第1種普通自動車運転免許を,同月23日に
中型限定自動二輪車運転免許(平成7年法律第74号による改正後の法に
いう普通自動二輪車免許)(以下,両免許を併せて「本件免許等」という。)を
それぞれ取得し,そのころ免許証の交付を受けた。
  (2) 原告の違反行為
   原告は,平成10年11月28日午後7時45分ころ,千葉県四街道市ab番地
c先路上の横断歩道がなく,交通整理が行われていない丁字型交差点付近
を,自家用小型乗用自動車を運転し,時速30キロメートル前後で走行中,
上記交差点付近で,Aの運転する自転車と接触した(以下,同接触事故を
「本件事故」という。)。Aは,本件事故により治療期間15日未満の傷害を負
った。
 被告は,そのころ,原告に対し,本件事故において法70条の規定に違反
する行為(安全運転義務違反。以下「本件違反行為」という。)があったとし
て,法施行令(但し平成14年政令第24号による改正前のもの。以下「旧法
施行令」という。)33条の2第1項,及び,旧法施行令別表第1の1に基づい
て,累積点数4点(基礎点数2点,及び,傷害事故のうち治療期間が15日
未満であって専ら当該違反行為をした者の不注意によって発生した場合以
外の場合にかかる付加点数2点を合計した点数)を付した。
(弁論の全趣旨)
  (3) 平成13年法律第51号(以下「平成13年改正法」という。)によ     る法改
正(以下「平成13年改正」という。)前の免許証の更新後の有     効期間等
 平成13年改正前の法92条の2第1項(以下「旧法92条の2第1項」とい
う。)は,免許証の有効期間の更新を受ける者を,優良運転者と優良運転者
以外の者とに区別し,優良運転者のうち70歳未満の者については,更新後
の有効期間を,更新前の免許証の有効期間満了日後のその者の5回目の
誕生日が経過するまでの期間(5年)とし,優良運転者以外の者について
は,更新前の免許証の有効期間満了日後のその者の3回目の誕生日が経
過するまでの期間(3年)と定めていた。
(4) 前回更新
 原告は,平成12年1月17日,被告に対し,本件免許等に係る免許証の有
効期間の更新を申請した。
 被告は,そのころ,本件違反行為による累積点数により原告は旧法92条
の2第1項所定の「優良運転者以外の者」に該当するとして,原告に対し,更
新後の有効期間を原告の平成15年の誕生日である平成15年1月20日ま
でとする,免許証の有効期間の更新(以下「前回更新」という。)をした。
  (5) 平成13年改正後の免許証の更新後の有効期間等
ア  有効期間
 平成13年改正により,免許証の有効期間の更新を受けようとする者
は,優良運転者,一般運転者及び違反運転者等に3分されることとなり,
更新後の有効期間は,更新日等における年齢が70歳未満の優良運転
者及び一般運転者については,更新前の免許の有効期間満了日等の後
のその者の5回目の誕生日から起算して1月を経過する日までの期間(5
年)とされ,違反運転者等については,更新前の免許の有効期間満了日
等の後のその者の3回目の誕生日から起算して1月を経過する日までの
期間(3年)とされることとなった(法92条の2第1項)。
イ 優良運転者
 優良運転者とは,更新日等までに継続して免許を受けている期間が5
年以上である者であって,自動車等の運転に関する法の規定等の遵守
の状況が優良な者として政令で定める基準に適合するもの(法92条の2
第1項の表の備考一の2)であり,前記政令で定める基準は,法101条5
項の規定により免許証の更新を受けた者の場合,更新前の免許証の有
効期間満了日の直前のその者の誕生日の40日前の日前5年間におい
て,違反行為又は法施行令別表第2の2に掲げる行為をしたことがないこ
と(法施行令33条の7第1項1号)である。
ウ 一般運転者
 一般運転者とは,優良運転者又は違反運転者等以外の者(法92条の2
第1項の表の備考一の3)である。
          エ 違反運転者等
 違反運転者等とは,更新日等までに継続して免許を受けている期間が
5年以上である者であって自動車等の運転に関する法の規定等の遵守
の状況が不良な者として政令で定める基準に該当する者,又は,当該期
間が5年未満である者(法92条の2第1項の表の備考一の4)である。前
記政令で定める基準は,法101条5項の規定により免許証の更新を受け
た者の場合,更新前の免許証の有効期間満了日の直前のその者の誕生
日の40日前の日前5年間において,違反行為(法施行令33条の2第1
項1号),又は,法施行令別表第2の2に掲げる行為をしたことがあること
(法施行令33条の7第2項,同条1項1号)である。
     オ 平成13年改正法の施行
  平成13年改正法は,平成14年6月1日に施行された。
カ 平成13年改正に伴う法施行令の改正等
 旧法施行令33条の2第1項,及び,旧法施行令別表第1の1は,平成1
3年改正に伴い,平成14年政令第24号(以下「平成14年改正令」とい
う。)により改正され,平成14年改正令は,同年6月1日に施行された。
 平成14年改正令附則2条(以下「法施行令改正附則2条」という。)は,
経過措置として,施行日(平成14年6月1日)前の平成13年改正前の法
の規定によりした処分,手続その他の行為であって,平成13年改正後の
法の規定に相当の規定があるものは,平成13年改正法附則又は平成1
4年改正令に別段の定めのあるものを除き,平成13年改正後の法の相
当の規定によりしたものとみなす旨を定めている。
  (6) 平成13年改正法の施行による原告の免許証の有効期間の延長
 原告の免許証の前回更新後の有効期間は,平成13年改正法の施行によ
り,前記(4)の有効期間の末日から起算して1月を経過する日である平成1
5年2月20日までとされた(平成13年改正法附則2条2項)。
  (7) 本件更新手続の経緯等
     ア 更新連絡書の受領
 原告は,平成14年12月12日,被告が法108条に基づき免許関係事
務を委託する財団法人千葉県交通安全協会連合会(以下「交通安全協
会」という。)を通じて,被告から,更新後の有効期間を3年とする旨の「運
転免許証更新のお知らせ」と題する書面(以下「更新連絡書」という。)を
受領した。
 更新連絡書には,運転免許証更新のご案内として,概ね以下の記載が
ある。
  手続の期間 誕生日の1か月前から2月20日まで
  手続の場所 免許センター
  更新後の免許証の色 ブルー,有効年 3年,講習種別 違反講習
  講習時間 2時間
  免許証番号 (略)
  最新の違反 平成10年11月28日 安全運転義務
  手数料 総額3950円 内訳 更新手数料 2250円
                 講習手数料 1700円
     イ 本件更新
 原告は,平成15年2月17日,法101条1項に基づいて,被告に対し,
別紙「運転免許更新・講習申請書」及び別紙「運転免許証更新申請書別
紙」を提出して,本件免許等に係る免許証の有効期間の更新を申請(以
下「本件更新申請」という。)した。
 被告は,更新前の免許証の有効期間満了日の直前の原告の誕生日
(平成14年1月20日)より40日前の日前5年間(以下「更新前5年間」と
いう。)において,原告の累積違反点数が前記(2)のとおり4点であったこ
とから,原告が違反運転者等(法92条の2第1項の表備考一の4)に該当
するとして,原告に対し,更新後の免許証の有効期間を,更新前の免許
の有効期間満了日後の原告の3回目の誕生日から起算して1月を経過す
る日である平成18年2月20日まで(3年)とする免許証を交付して,有効
期間の更新(以下「本件更新」という。)をした。
     ウ 更新時講習の受講等
 原告は,そのころ,被告が法108条の2第1項11号に基づいて免許証
の更新を受けようとする者に対して行う講習(以下「更新時講習」という。)
のうち,違反運転者等の区分に応じた講習を受け,講習手数料3950円
を支払った。
 なお,講習手数料については,更新手数料を含めて,優良運転者講習
は2950円,一般運転者講習は3300円とされている(法112条1項,法
施行令43条1項)。
2 争点
  (1) 本件更新後の原告の免許証の有効期間を3年とする被告の行為の行政処分
性の有無
(2) 訴えの利益の有無
  (3) 前記(1)の被告の行為について行政処分性が認められる場合における当該行
政処分の違法事由の有無
   ア 行政手続法違反の有無
   イ 一事不再理原則違反の有無
   ウ法施行令改正附則2条違反の有無
 エ 法の趣旨の逸脱の有無
 3 争点に関する当事者の主張
  (1) 争点(1)(本件更新後の原告の免許証の有効期間を3年とする被告の行為の
行政処分性の有無)について
(原告の主張)
ア 免許証の有効期間は,原則5年と解すべきであり,免許証の有効期間
が5年であると認められるべき更新申請者の地位は,法律上保護されて
いる利益であるということができる。かかる地位を何らかの違法な処分に
よって侵害された者があるとすれば,その者は取消訴訟によって当該侵
害を排除して上記地位の回復を求めることができると解すべきである(東
京高裁平成8年6月10日判決・判例時報1588号94頁参照)。
 被告の指摘する裁判例(大阪地裁平成15年9月5日判決・乙3号証)に
おいても,違反運転者等に該当するとして,更新後の有効期間を3年間と
する免許証の更新を受けた運転者が,その有効期間について不服がある
ときは,当該更新のうち有効期間を3年間とする部分の取消しを求める取
消訴訟を提起することが可能であるとされている。
イ 原告の免許証の更新後の有効期間を3年とする被告の処分は,法92
条の2第1項及び法施行令33条の7に基づいて,原告を名宛人として,
直接に,違反運転者講習として2時間の安全運転教育を受ける行政上の
義務を履行させ,かつ,免許証の有効期間を5年から3年に制限するもの
であるから,「行政庁が,法令に基づき,特定の者を名あて人として,直接
に,これに義務を課し,又はその権利を制限する処分」(行政手続法2条4
号)であり,不利益処分に該当する。
     (被告の主張)
 公安委員会は,免許証の更新を受けようとする者から更新申請書の提
出があった場合,適性検査の結果,その者が自動車等を運転することに
つき支障がないと認めたときは,当該免許証の更新をしなければならず
(法101条5項),免許証の更新申請に対する公安委員会の更新又は更
新をしない処分は,取消訴訟の対象である「行政庁の処分その他公権力
の行使に当たる行為」(行政事件訴訟法3条2項)に当たる。
 しかし,更新申請の内容は,運転免許証の更新の申請に尽きるのであ
って,更新後の免許証の有効期間の区分いかんは更新申請の内容に含
まれない。そのように解する根拠は,以下のとおりである。
ア 法101条5項が更新の要件につき,過去の違反歴等によって異なる更
新後の有効期間の区別なく一律に適性検査の結果のみにかかることとし
ていること,つまり,更新処分について,過去の違反歴等による区分けが
なされていないこと
       イ 更新時講習及び更新後の免許証の有効期間の区分いかんにつき,更新
を受けようとする者からの申請があることを前提        とする規定が存在しないこ

       ウ 免許証の有効期間の区分を定める法92条の2は,免許証の更新等に
ついて規定する法第5節とは別の節(第3節 免許        証等)に規定されている
こと,すなわち,免許証の有効期間の区分は,更新処分自体とは明確に区別されてお
り,更新処分        の内容とはなっていないこと
       エ 免許証の更新処分自体は,新免許証の交付に尽きること(法施行規則2
9条8項)
       オ更新時講習及び更新後の免許証の有効期間の区分については,法文
上一義的に規定されており,被告に裁量の余地は        ないこと,つまり,上記
区分は,更新を受けようとする者からの申請によって被告が決定する行政処分ではない
こと
       カ 更新申請書に更新後の免許証の有効期間の区分を指定する欄がないこ

    以上のとおり,更新後の免許証の有効期間の区分は,更新申請の内容に
含まれないから,原告が本件訴訟において取消し     を求める「有効期間を3
年間とした部分」は,国民に権利として認められている申請に対する行政庁の認
容・拒否処分に該当     しない。したがって,本件訴えは,不適法である。
  (2) 争点(2)(訴えの利益の有無)について
 (原告の主張)
 被告は,最高裁判決(最高裁平成8年2月22日第一小法廷判決・集民17
8号279頁)を挙げて,本件訴えには訴えの利益がないと主張する。前記最
高裁判決は,本邦在留の外国人が引き続き本邦に在留することができる資
格の付与を申請し得る場合であっても,新規入国者がする申請と何ら異な
るところはないから,本邦に在留中であるからといって,その者に引き続き
在留し得る権利があるとはいえず,従前と同一の在留期間の更新を要求し
得る権利が当然に保障されているものではないと説示するものである。
 運転免許の効力は,前記最高裁判決の説示する外国人の在留資格の効
力とは異なるものであって,外国人の在留資格及び在留期間のように,当
初の有効期間の満了とともに免許の効力を完全に喪失し,更新等において
従前とは全く別個無関係な新たな免許が効力を生じ,全く新たな免許期間
が開始すると解するのは妥当でない(最高裁昭和43年12月24日第三小
法廷判決・民集22巻13号3254頁参照)。
 争点(1)に関する原告の主張のとおり,免許証の更新後の有効期間は,
原則5年と解すべきであり,免許証の有効期間が5年であると認められるべ
き更新申請者の地位は,法律上保護されている利益であって,かかる地位
を何らかの違法な処分によって侵害された者があるとすれば,その者は取
消訴訟によって当該侵害を排除して前記地位の回復を求めることができる
と解すべき(前掲東京高裁平成8年6月10日判決参照)であるから,本件訴
えには,訴えの利益があり,これを欠くとする被告の主張は失当である。 
(被告の主張)
 争点(1)に関する被告の主張のとおり,更新後の免許証の有効期間の区
分いかんは,更新申請の内容に含まれない。免許証の更新を申請しようと
する者に更新後の免許の有効期間を指定する権利が認められているわけ
ではなく,更新後の免許証の有効期間が申請者の希望を下回るものであっ
ても,当該更新処分は申請者の法律上の利益を侵害するものではない(最
高裁平成8年2月22日第一小法廷判決・集民178号279頁参照)。
 平成13年改正後の現在においてもなお,更新後の免許証の有効期間
は,原則3年とみるべきであり,更新後の免許証の有効期間が5年とされる
ことは,更新を受ける者が享受する,いわばメリットである。
 したがって,仮に,被告が原告の更新後の免許証の有効期間を3年とした
行為が,行政処分に当たると解されるとしても,当該処分は,原告に利益の
みを付与する処分であって,原告の法律上の利益を侵害するものではない
から,その取消しを求める本件訴えは,訴えの利益を欠き,不適法である。
  (3) 争点(3)ア(行政手続法違反の有無)について
(原告の主張)
          ア 被告の処分が不利益処分(行政手続法2条4号)に該当する場合に
ついて
     (ア) 原告の免許証の更新後の有効期間を3年とする被告の処分は,争点
(1)に関する原告の主張イのとおり,不利益処分(行        政手続法2条4号)に
該当する。
     (イ) 行政手続法12条違反
         法ないし法施行令等の法令の規定には,免許証の有効期間を5年とすべ
きか,それとも,3年とすべきかについての特段        の定めはないから,都道府
県公安委員会は,行政手続法12条に基づいて,行政上特別の支障があるときを除い
て,有効期       間を短縮すべきか否かの基準を定めて公にしなければならず,基
準を定めるに当たっては処分の性質に照らし具体的なもの       にしなければなら
ない。ところが,被告の制定する千葉県公安委員会施行細則その他の規則には,この
ような基準の定めが        ない。したがって,被告の処分は,行政手続法12条に
違反し,違法である。
     (ウ) 行政手続法13条違反
 被告の処分は,原告の意見陳述の手続を経ないで行われたもので
あるから,行政手続法13条に違反し,違法である。
     (エ) 行政手続法14条違反
   更新連絡書には,最新の違反欄に「平成10年11月28日 安全運転
義務」と記載されているにとどまるところ,この記載から,原告が,どの
基準のどの項目を満たさないために一般運転者に該当しないのかを知
ることは不可能であるから,被告の処分は,行政手続法14条に違反
し,違法である。
イ 被告の処分が申請(行政手続法2条3号)に対する処分に該当する場合
について
 (ア) 行政手続法5条違反
 原告の免許証の有効期間を3年とする被告の処分が,更新申請に
対する拒否処分であるとしても,当該処分は,以下のとおり,行政手
続法5条に違反するものである。
 すなわち,審査基準自体の内容が微妙,高度の設定を要するよう
なものである等の場合には,行政庁は,審査基準を適用する上で必
要とされる事項について,申請者に対し,その主張と証拠の提出の
機会を与えなければならず,申請人は,このような公正な手続によっ
て免許の許否につき判定を受くべき法的利益を有していると解される
(最高裁昭和46年10月28日第一小法廷判決・民集25巻7号103
7頁参照)。
 したがって,被告は,当該処分を行うについて原告の意見聴取手続
を経なければならないと解されるところ,本件につき被告が,原告の
意見を聴取する手続をとった事実はない。
     (イ) 行政手続法8条違反
理由付記は,いかなる事実関係につきいかなる法規を適用したか
を摘示することを要することに止まらず,法令所定の適用事由のうち
どれに該当するのかをその根拠とともに了知しうるものでなければな
らず,単に該当規定を示すのみでは相手方において当然知りうるよう
な場合は別として,理由付記としては不十分であると解されている
(最高裁昭和60年1月22日第三小法廷判決・民集39巻1号1頁,
同平成4年12月10日第一小法廷判決・判例時報1433号116頁参
照)。
 更新連絡書には「最新の違反 平成10年11月28日 安全運転義
務」と記載されるにとどまり,この記載から,原告が,どの基準のどの
項目を満たさないために一般運転者に該当しないのかを知ることは
不可能であるから,被告の処分は,行政手続法8条に違反する。
(被告の主張)
     ア 行政手続法12条ないし14条違反の主張について
 行政手続法上の不利益処分とは,行政庁が特定の者に義務を課し,又
はその権利を制限するために,当該者を相手方として行う処分であって,
その処分の直接の効果として当該者が義務を負い,又は当該者の権利
が制限されることになる処分である。ここに「権利を制限する」とは,処分
を行うことの直接の法的効果として,その相手方がそれまで保有していた
ある具体的な権利の範囲を限定し,又はその内容を相手方に不利益に変
更する行為を指す。
 ところで,自動車の運転免許は,道路における危険その他社会公共の
安全を害する等のおそれがあるため,法が,64条及び84条1項により,
原則として禁止している自動車の運転について,特定の要件を備える者
に対し,特にその禁止を解除して,適法にその行為を行わせる,いわゆる
警察許可に該当するものである。したがって,運転免許を取得すること
は,自動車を運転しようとする者にとって,それまで保有していた具体的
権利として認められていることではないから,運転免許の取得に関し何ら
かの制限が課されたとしても,それが行政手続法上の不利益処分に該当
することはない。
 以上のような運転免許制度の趣旨からすれば,一度免許を取得した者
が,当該有効期間経過後も運転を継続するために受ける免許の更新も,
実質的には新たな免許の取得と同義であると解すべきであって,公安委
員会は,更新を受けようとする者に対し,適性試験を行い,その者が自動
車を運転することに支障がないと認めたときに初めて免許証の更新を行
うのであり,一度運転免許試験に合格し免許の許否等の事由に該当しな
かったからといって,当然に更新が認められるものではない。免許の更新
は,免許を取得した者が更新期間内に更新手続をとることによって,運転
免許試験に代わる適性検査により,新たな有効期間を定めた免許証の交
付を受けられるという便宜を認めるものにすぎず,処分の相手方が,ある
具体的な権利として,免許の更新を受ける地位をそれまで保有していたと
はいえない。したがって,免許更新に関し何らかの制限が課されたして
も,それが行政手続法上の不利益処分(行政手続法2条4号本文)に該
当することはなく,原告に対する本件更新も不利益処分に当たらない。
仮に,本件更新が,「行政庁が,法令に基づき,特定の者を名あて人とし
て,直接に,これに義務を課し,又はその権利を制限する処分」(行政手
続法2条4号本文)に当たるとしても,免許証の更新を受けようとする者
は,公安委員会に更新申請書を提出することとされているのであるから
(法101条1項),免許更新処分は行政手続法2条4号ただし書きにおい
て,不利益処分から除外するものとされている「申請により求められた許
認可等を拒否する処分その他申請に基づき当該申請をした者を名あて人
としてされる処分」(行政手続法2条4号ロ)に該当し,不利益処分には当
たらない。
     イ 行政手続法5条,8条違反の主張について
(ア) 行政手続法2条3号が規定する「申請」とは,法令に基づき行政庁の
許可,認可,免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分
を求める行為であって,当該行為に対して行政庁が認否の応答をす
べきこととされているものをいう。
 争点(1)に関する被告の主張のとおり,免許証の更新申請の内容
は,更新の申請に尽きるのであり,更新時講習及び更新後の免許証
の有効期間の区分いかんは,これに含まれない。法101条5項は,
公安委員会は,適性検査の結果から判断して,当該免許証の更新を
受けようとする者が自動車等を運転することが支障がないと認めたと
きは,当該免許証の更新をしなければならないと規定しており,公安
委員会に認否の応答が求められているのは,更新申請自体に対す
る認否の応答,すなわち,更新をするか否かの応答のみであって,
更新申請の内容に含まれていない更新後の免許証の有効期間の区
分いかんについて,公安委員会が認否の応答をすることはあり得
ず,そのような応答を求める法上の規定も存在しない。
 したがって,更新後の免許証の有効期間の区分いかんは,行政手
続法2条3号にいう「申請」には該当しない。原告のように更新申請書
のとおり免許証の更新処分を受けた場合,当該更新処分は,そもそ
も,「申請により求められた許認可等を拒否する処分」に該当しない
ため,行政手続法8条の適用を受けない。
     (イ)     附款については,行政手続法8条にいう理由提示義務が及ぶか否
かについて議論があるが,更新後の免許証の有           効期間の区分は,こ
のような附款とは,全くその性質を異にする法定附款であり,同条に規定する理由提示
義務は及            ばないというべきである。
 すなわち,行政手続法8条が許認可等の申請に対し行政庁が拒否
処分をする場合における理由提示義務を規定した趣旨は,行政庁の
判断の慎重,合理性を担保し,申請者の争訟提起の便宜を図ること
にあるが,法定附款については,その具体的要件,内容が法令で明
示されており,理由提示義務が求められる前提である行政庁の判断
の余地が全くないため,その判断の慎重,合理性を担保する必要が
ない。申請者にとっても,法定附款が付される具体的要件,内容は法
令上明らかであるから,争訟提起の便宜を図るという理由提示義務
の上記目的を考慮する必要性も認められない。
 そして,法92条の2は,主体を示すことなく,単に「(略)の有効期間
は,(略)までの期間とする。」と規定し,更新後の免許証の有効期間
の区分に関する具体的要件,内容を一義的に規定しており,このよう
な法文の体裁からすれば,更新後の免許証の有効期間の区分は,
法定附款であるというべきである。
 したがって,附款に対する行政手続法8条の適用という点からみて
も,本件更新については行政手続法8条に基づく理由提示義務は及
ばないというべきであり,同条違反をいう原告の主張は失当である。
    (4) 争点(3)イ(一事不再理の原則違反の有無)について
(原告の主張)
 同一の理由,目的,手続により重複して不利益処分を行うことは,法的安
定性を損ない相当性を欠くものであり,一事不再理原則に反し許されないと
解されるところ,被告が,前回更新時の講習及び本件更新時の講習におい
て,原告をして,本件違反行為に対応して,違反運転者等に対する講習を受
講させ,また,前回更新のみならず本件更新においても,原告の免許証の
更新後の有効期間を3年としたことは,原告が本件事故を起こしたこと(本件
違反行為)を2度にわたって評価し,同一事由について2度の不利益処分を
課すものである。したがって,本件違反行為を理由とする前回更新と同一の
目的及び内容を有する本件更新は,一事不再理原則に反し,違法というべ
きである。
 被告は,一事不再理原則は刑事上の責任に関する原則であって,行政手
続には適用がないと主張するが,憲法の定める手続保障である一事不再理
原則は,刑事手続のみならず,行政手続にも及ぶと解すべきである。
(被告の主張)
     ア 一事不再理原則は,刑事上の責任に関する原則であって,国家の刑罰権
の発動ではない更新時講習には適用されない。更        新時講習は,定期的に
安全教育を行うことによって,安全に必要な知識を補うという目的から,免許証の更新を
受けようとす        る全ての者が原則として受講しなければならないものであり
(法101条の3),何らかの行為に対する法律上の効果として行        為者に科
せられる処分ではなく,刑罰権の発動とは,著しくその性質を異にする。
 法は,優良運転者,一般運転者又は違反運転者等の区分に応じた講習
を行う旨規定する(法108条の2第1項11号)が,優良運転者と優良運転
者以外の各区分の講習内容との間には,講習事項,講習方法及び講習
時間の各項目において,憲法39条が想定する刑罰権の発動に類するよ
うな差異はなく,これをもって一事不再理原則違反に相当するような個人
の地位の安定性への侵害があったと評価することはできない。上記区分
は,更新時講習を受講する間隔を3年とすることにより安全意識を高める
必要のある者に該当するか否かの観点に基づくものであって,その者が
過去に違反や事故を起こした事実の有無により,これを将来における道
路交通法上の危険性推認の資料として判断基準とするほかないため,こ
のような区分がされているにすぎず,本件事故も,原告の将来における法
上の危険性推認の判断材料とされたにすぎない。原告は,前回更新時と
本件更新時の双方において,本件事故の存在に対応する講習を受講す
ることとされたが,更新時講習と違反行為との間には連動性がなく,違反
行為は単に更新を受けようとする者の法上の危険性を推認する判断資料
の対象にすぎないのであり,更新時講習は,犯罪行為を構成要件に当て
はめた結果として科せられる刑罰とは全くその性質を異にする。
     イ 免許証の更新も,更新時講習と同様に,国家の刑罰権の発動ではないか
ら,一事不再理原則は適用されない。
 免許証の更新の主眼は,更新そのものにあり,原告は,本件更新によ
り,その申請どおりに免許証の更新を受けたのであって,本件更新におい
て,国家の刑罰権の発動に対して個人の地位の安定性を確保する必要
がある場面に類する事態は発生していない。本件更新は,争点(3)アに
関する被告の主張のとおり,行政手続法上の不利益処分にも該当せず,
国家の刑罰権の発動に対して個人の地位の安定性を確保させることを目
的とする一事不再理原則の適用ないし準用があると解するのは,不自然
である。
  (5) 争点(3)ウ(法施行令改正附則2条違反の有無)について
(原告の主張)
 前記第2の1(5)カのとおり,法施行令改正附則2条は,平成13年改正前
の法の規定によりした処分,手続,その他の行為であって,平成13年改正
後の法に相当の規定があるものは,平成13年改正法附則又は平成14年
改正令に別段の定めがあるものを除き,平成13年改正後の法の相当の規
定によりしたものとみなす旨を定めて,平成13年改正前の法の規定による
処分等(前回更新を含む)は,平成13年改正により直ちに効力を喪失する
ものではないことを明文をもって規定している。
 前回の更新時講習は本件事故という固有の事象を対象とし,旧法の規定
を適用して行われた交通安全教育であるところ,法施行令改正附則2条は,
前回の更新時講習による交通安全教育の有効性を平成13年改正後の法
に照らしても否定しないものと解されるから,被告が,前回更新時講習と同
様に,本件違反行為を端緒として,前回更新時講習と実体的同一性を有す
る本件更新時講習を原告に再度受講させることは,法施行令改正附則2条
に違反し,許されない。したがって,本件更新は,法施行令改正附則2条に
違反する違法な行政処分である。
     (被告の主張)
 原告は,原告が前回の更新時講習における交通安全教育は,法施行令
改正附則2条により,平成13年改正後も有効とされるから,前回の更新時
講習の受講によって,本件違反行為がなかったことになるか,又は,本件違
反行為が,本件更新時に法92条の2の区分を判断する際に違反行為とし
ての評価の対象にならなくなると解して,本件更新時に原告が受講すべき更
新時講習は,法92条の2にいう優良運転者及び一般運転者の区分に応じ
た内容で足り,本件更新後の免許証の有効期間も5年になるはずであると
主張するもののようである。
 しかしながら,更新時講習は定期的に安全教育を行うことにより運転者の
安全意識を高めることを目的とするものであり,免許証の更新を受けようと
する者には,更新の都度,更新時講習を受ける義務が課されているのであ
って,前回更新時講習と本件更新時講習とは全く別個の講習であり,両者
の間に同一性はない。また,違反行為に対応する更新時講習を受講するこ
とによって,遡って,当該違反行為をなかったものとみなす規定もない。
 したがって,法は,更新時講習と違反行為との間に更新時講習を受講する
ことにより当該違反行為をなかったこととする,あるいは更新時講習を受講
することによって当該違反行為を本件更新時において法92条の2の区分を
判断する際にその有無が問題となる違反行為として評価の対象としないと
いった関係を想定していないと解されるのであって,法施行令改正附則2条
を根拠として本件更新が違法であるとする原告の主張は理由がない。 
  (6) 争点(3)エ(法の趣旨の逸脱の有無)について
     (原告の主張)
 法の定める更新後の免許証の有効期間の区分(法92条の2第1項),及
び,更新時講習(法101条の3第1項,108条の2第1項11号)の制度趣旨
は,道路における危険を防止し,その他交通の安全と円滑を図り,道路の交
通に起因する障害を防止するために,免許証更新者に対する交通安全教
育をその者の客観的な運転行動に基づいて行うことにあり,免許証の更新
は,以上のような法の趣旨を逸脱するものであってはならないというべきで
ある。
 ところで,法は,「一般運転者」について「優良運転者又は違反運転者以外
の者」(法92条の2第1項の表の備考一の3)とのみ規定し,その要件を明
確に定義していないが,更新前5年間に,軽微違反行為1回のほかは違反
行為又は別表第2の2に掲げる行為をしたことがない(法施行令33条の7
第2項)者,すなわち,更新前5年間における累積点数が3点以下の者は,
違反運転者に該当しないと解されているため,このような者は,更新前5年
間に軽微違反行為をしたにもかかわらず,違反行為に該当する更新時講習
を受けずに5年の有効期間の免許の更新を受けている。
 そうすると,更新前5年間に軽微違反行為をした者については,被告がい
うところの「短期間の講習の受講の必要性」はないということになるが,軽微
違反行為といえども,反則行為(法125条1項)として法の罰則規定の適用
を受けるのであって,道路上の危険の防止,交通の安全と円滑の維持,道
路交通に起因する障害の防止を阻害するおそれがあり,交通事故を惹起し
又は交通事故による被害を拡大しかねない行為であるから,軽視すること
はできない。そうであるにもかかわらず,更新前5年間に軽微違反行為をし
た者について「短期間の講習の受講の必要性」がないというのであれば,原
告のように,違反行為に該当する更新時講習を既に受講し,次回更新時ま
でに何ら違反行為をせず,直近に行った講習の効果が認められる者は,軽
微違反行為をしたが何らの講習も受けていない者に比べ,一層,交通安全
教育の必要性に乏しいというべきである。
 したがって,前回更新時に本件違反行為に対応する更新時講習を既に受
講し,本件更新時まで何らの違反行為がない原告を「一般運転者」とせず,
原告の更新後の免許証の有効期間3年とした被告の本件更新は,法の解
釈を誤り,法の趣旨を逸脱し,法の委任の範囲を濫用するものというべきで
あり,違法である。
(被告の主張)
 原告は,一般運転者の要件が明確に定義されていないと指摘し,その結
果,被告は,免許更新の際,法の要件を白地的に判断して根拠規定を適用
できることになるので法を適用する行政機関である被告に裁量の余地がな
いとする被告の主張には相当性がないとする。
 しかし,法92条の2及び法施行令33条の7によれば優良運転者,一般運
転者及び違反運転者等については法文上一義的に区分されており,被告に
裁量の余地がないことは明らかであり,法及び法施行令は一般運転者の要
件を明確に定義しているのであるから原告の主張には理由がない。
第3 当裁判所の判断
 1 免許証の更新後の有効期間に関する法の規定の改正の経緯
 法は,平成5年法律第43号による法改正(以下「平成5年改正」という。)前は,免
許証の更新後の有効期間を,更新前の有効期間が満了した後のその者の3回目
の誕生日が経過するまでの期間(3年)と定めていた(平成5年改正前の法92条の
2)が,平成5年改正後は,免許証の更新を受けた者を優良運転者と優良運転者以
外の者とに区別し,優良運転者のうち70歳未満の者については,更新後の有効期
間を,満了日等(旧法92条の2第1項の表の備考一の3)の後のその者の5回目の
誕生日が経過するまでの期間(5年)とし,優良運転者以外の者については,満了
日等(旧法92条の2第1項の表の備考一の3)の後のその者の3回目の誕生日が
経過するまでの期間(3年)とした(旧法92条の2第1項)。
 その後,平成13年改正によって,免許証の更新を受ける者は,優良運転者,一
般運転者及び違反運転者等に3分されることとなり,更新後の免許証の有効期間
は,更新日等(法92条の2第1項の表の備考一の1)における年齢が70歳未満の
優良運転者及び一般運転者については,満了日等(法92条の2第1項の表の備
考一の5)の後のその者の5回目の誕生日から起算して1月を経過する日までの期
間(5年)とされ,違反運転者等については,満了日等(法92条の2第1項の表の備
考一の5)の後のその者の3回目の誕生日から起算して1月を経過する日までの期
間(3年)とされることとなった(法92条の2第1項)。
 2 争点(1)(本件更新後の原告の免許証の有効期間を3年とする被告の行為  の
行政処分性の有無)について
  (1) 取消訴訟の対象となる「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」
(行政事件訴訟法3条2項)とは,公権力の主体たる国又は公共団体が行う
行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範
囲を画することが法律上認められているものをいう(最高裁昭和39年10月
29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁参照)。
  (2) そこで,免許証の有効期間の更新を申請する者について,更新後の有効期間
を5年とする更新を受ける地位が,法ないしこれに     基づく法施行令等の規定によ
り保護されているといえるかについて検討する。
ア 平成13年改正後の法においては,更新日の年齢が70歳未満の場合,
優良運転者及び一般運転者に該当する者の更新         後の免許証の有効期
間は5年とされているのに対し,違反運転者等に該当する者の更新後の免許証の有効
期間は3年と         されている(法92条の2第1項)ほか,法101条の3の規定
により更新を受けようとする者に受講が義務付けられている更         新時講習
の内容及び程度も,優良運転者及び一般運転者に対する講習の方が,違反運転者等
に対する講習に比べて簡         素なものとされ(法108条の2第1項11号,法
施行規則38条12項),また,優良運転者については,一定の場合に,住所       
  地を管轄する公安委員会以外の公安委員会を経由して更新申請を行うことが認めら
れており(法101条の2の2第2項),         優良運転者及び一般運転者につい
ては,違反運転者等に比べて,免許証の有効期間の更新に伴う負担の軽減が図られ 
        ているということができる。
 以上のとおりの優良運転者又は一般運転者に対して法が付与する負担
軽減措置を受けることのできる地位ないし利益は,法によって保護された
利益であるということができるから,このような地位ないし利益を違法な処
分によって侵害された者は,当該処分の取消訴訟によりその侵害を排除
し,利益の回復を求めることができると解すべきである。
イ そこで,次に,法が,免許証の有効期間の更新を受けようとする者に対
し,更新後の有効期間を5年とする更新の申請権を与えているといえるか
について検討する。
(ア) 被告の指摘するとおり,更新後の免許証の有効期間の区分を定める
法92条の2は,免許証の更新等について規定する法第5節ではな
く,法第3節に規定されている。また,法101条5項は,更新の要件と
して,適性検査の結果,更新を受けようとする者が自動車等を運転
することが支障がないと認められることのみを定めるにとどまり,更
新の要件について過去の違反歴等による区分けをしておらず,法10
1条1項も,更新申請者が更新申請において更新後の免許証の有効
期間の区分を指定すべき旨を定めていない。また,証拠(乙1の1及
び2)及び弁論の全趣旨によれば,同条1項の委任に基づいて定め
られた平成14年内閣府令第34号の定める更新申請書の様式にお
いても,更新後の免許証の有効期間の区分を指定する欄は設けら
れていないことが認められ,現在の更新申請手続においては,申請
者が,いかなる有効期間の免許証の更新を申請するかについての
意思を明示する機会は,設けられていないといえる。
       (イ) ところで,前記1のとおり,平成5年改正前の法においては,更新後の
免許証の有効期間は一律に3年とされていたので         あり,このような法制度
の下においては,被告の主張するように,公安委員会には,更新の許否それ自体の決
定権限が与         えられているの みで,更新を行う場合における更新後の免
許証の有効期間については決定権限は与えられていなかった         と解するこ
とも可能であり,また,実質的にみれば,更新後の有効期間が申請権の内容に含まれ
るか否かは,更新申請者         の法律上の地位ないし利益に大きな影響を及
ぼす事柄ではなかったとみることも可能である。
       (ウ) しかしながら,前記1のとおり,更新後の免許証の有効期間について
は,平成5年改正によって,優良運転者と優良運          転者以外の者との区
分による差が設けられ,更に,平成13年改正によって,優良運転者,一般運転者及び
違反運転者等         の区分による差が設けられたのであり,これによって,更
新後の免許証の有効期間が何年になるかは,更新申請者の更          新後の
法律上の地位ないし利益を大きく左右する重要な事項になったということができ,また,
公安委員会も,更新それ自         体の許否を判断し決定する権限のみならず,
更新を行う場合に,更新申請者の過去の違反行為の有無を認定し,その結       
  果に応じて,法の定める区分に従って,その者の更新後の免許証の有効期間を決
定する権限を有するに至ったものと解          することができる。
そうすると,少なくとも,優良運転者及び一般運転者と違反運転者等
との間で更新後の免許証の有効期間の長さについて差異を設ける
平成13年改正後の法の下においては,更新後の免許証の有効期
間は,更新申請者の申請権の内容を構成するものと解するのが相
当である。
       (エ) そして,前記1のとおり,平成13年改正後の法においては,免許証の
更新を受ける者で更新日等における年齢が70歳          未満の者について
は,優良運転者だけでなく一般運転者についても,更新後の免許証の有効期間は,満
了日等(法92           条の2第1項の表の備考一の5)の後のその者の5回目
の誕生日から起算して1月を経過する日までの期間(5年)とさ           れ,違
反運転者等についてのみ,満了日等(法92条の2第1項の表の備考一の5)の後のそ
の者の3回目の誕生日から          起算して1月を経過する日までの期間(3
年)とされる(法92条の2第1項)に至ったのであり,このよう法の改正の経緯か     
     らすれば,法は,少なくとも平成13年改正後は,更新後の免許証の有効期間に
ついては5年を原則とする政策を採用し          たものと解することができる。ま
た,このような政策を採る法の下において免許証の有効期間満了に伴い,有効期間の
更          新申請をする者としては,原則である5年の有効期間による更新を申
請する意思で申請を行うのが通常であると考えら           れ,特段の事情のな
い限り,あえて,例外的で自己に不利益な違反運転者等としての3年の有効期間による
更新を申請          する意思で,申請を行うとは考え難い。
 以上のとおりの平成13年改正後の法92条の2第1項の趣旨,更
新申請者が,更新後の有効期間について通常有すると考えられる意
思の内容に鑑みれば,少なくとも平成13年改正後の法の下におい
ては,免許証の有効期間の満了に伴い,その更新を申請する者で,
更新日等(法92条の2第1項の表の備考一の1)の年齢が70歳未
満の者に対しては,更新後の免許証の有効期間を5年とする更新の
申請権が法によって付与されていると解するのが相当である。
(オ) なお,前記のとおり,現在の更新申請手続においては,申請者が更新
後の有効期間についての意思を明示する機会は設けられていない
が,前記のとおり更新申請者が通常有すると考えられる申請意思
は,有効期間5年の更新を申請する意思であると考えられることに鑑
みれば,更新申請は,有効期間3年の更新の申請をする旨を申請者
が明示する等の特段の事情が存しない限り,有効期間5年の更新を
申請する意思を黙示的に示して行われているものと解することができ
る。
  (3) 以上のとおり,免許証の更新申請者は,法に基づいて,更新後の免許証の有
効期間を5年として申請する権利を有するものと解    されるから,このような申請に
対し,公安委員会が,申請者の過去の違反行為を認定して更新後の免許証の有効期
間を3年とする    更新を行う行為は,有効期間を5年とする更新申請の一部を拒否
する申請拒否処分であると解するのが相当であり,これと異なる    解釈に基づいて
行政処分性を否定する被告の主張は,採用することができない。
 したがって,本件更新後の原告の免許証の有効期間を3年とする被告の
行為は,更新後の免許証の有効期間を5年とする原告の本件更新申請を一
部拒否した行政処分であるというべきである。
 3 争点(2)(訴えの利益の有無)について
 被告は,更新後の免許証の有効期間は,原則3年であって,5年とされることは,
更新を受ける者が享受するいわばメリットであり,被告が原告の更新後の免許証の
有効期間を3年とした行為が行政処分であるとしても,それは原告に利益のみを付
与する処分であるから,その取消しを求める本件訴えは,訴えの利益を欠くと主張
する。
 しかしながら,前記2で判示したとおり,原告の更新後の免許証の有効期間を3年
として免許証の更新をした被告の行為は,有効期間を5年とする原告の更新申請
を一部拒否した処分であると解されるから,その取消しを求める本件訴えには訴え
の利益があるということができ,これと異なる解釈を前提とする被告の前記主張
は,採用することができない。
 4争点(3)ア(行政手続法違反の有無)について
  (1) 被告の行為の申請拒否処分(行政手続法2条4号ロ)該当性について
 前記2のとおり,免許証の更新申請は,法に基づいて,公安委員会に対
し,原則として有効期間を5年とする免許証の更新を求める行為であるとい
うことができ,公安委員会は,法101条5項及び法92条の2第1項に基づい
て,この申請に対し,更新の許否,及び,更新をする場合には更新後の免許
証の有効期間を5年又は3年とする応答をすべきことが義務付けられている
と解されるから,免許証の更新申請は,行政手続法2条3号にいう「申請」に
当たり,更新後の有効期間を5年とする免許証の更新申請に対し,更新後
の有効期間を3年として免許証を更新する公安委員会の行為は,申請を一
部拒否する処分に当たるということができる。
 したがって,被告が原告の本件更新申請に対し更新後の免許証の有効期
間を3年として免許を更新した行為は,本件更新申請を一部拒否する処分
であり,行政手続法8条が適用される「申請により求められた許認可等を拒
否する処分」(同法2条4号ロ,8条1項本文)に当たるということができる。
 なお,被告は,免許証の更新申請の内容は更新の申請自体に尽きるので
あって,更新後の有効期間の区分は,行政手続法2条3号に定める「申請」
には該当せず,本件更新は,法定附款付認容処分であって,申請を「拒否」
する処分には当たらないと主張する。しかしながら,更新後の有効期間の区
分も更新申請者の申請権の内容に含まれると解すべきことは,前記2で判
示したとおりであって,公安委員会の行う免許証の更新も,更新のみに尽き
るものとはいえず,更新申請に対する応答として公安委員会が行う更新後
の有効期間の指定は,行政行為の主たる内容となっているものと解すべき
である。したがって,これをいわゆる講学上の附款と解することはできず,被
告の前記主張は,採用することができない。
  (2) 行政手続法8条違反の有無
     ア 行政手続法は,行政運営における公正の確保と透明性の向上を図り,もっ
て国民の権利利益の保護に資することを目的とし      ている(同法1条1項)上,一
般に法規が行政処分に理由を付すべきものとしている場合において,その趣旨・目的と
するところ       は,行政庁の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制
するとともに,処分の理由を相手方に知らせて不服の申立てに      便宜を与えるこ
とにあるものと解されるから,申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場
合に,申請者に対し,当      該処分の理由を示すべき旨を規定する同法8条1項
も,これと同趣旨に出たものと解するのが相当である。
 このような行政手続法の目的,理由提示制度の趣旨等に照らすと,同
条に違反する処分は,違法なものとして,取消しを免れないというべきで
ある。
     イ そこで,本件において,被告が,原告の更新後の免許証の有効期間を3年と
することについて,行政手続法8条1項本文にい      う処分理由の提示をしたとい
えるかについて検討する。
 前記理由提示制度の趣旨等に鑑みれば,申請拒否処分が行われる場
合に申請者に示さなければならない同項本文の処分理由としては,いか
なる事実関係についていかなる法規を適用して当該申請が拒否されたか
ということを,申請者が,当該拒否処分がなされた時点で,了知し得るも
のでなければならないというべきであり,本件のように,更新後の有効期
間を3年とする免許証の更新については,更新処分時,すなわち,申請者
に対し新たな免許証を交付する時点(法101条6項,法施行規則29条8
項)において,申請者が,いかなる違反行為等(違反点数を含む。以下同
じ。)があったことに基づいて,違反運転者等に該当することになったかを
了知できる程度の理由提示が行われることが必要であるというべきであ
る。
 これを本件についてみるに,本件全証拠をもってしても,被告が,本件
更新時,すなわち,原告に新たな免許証を交付する時点で,原告に対し,
原告が違反運転者等に該当することについて何らかの理由を提示した事
実は認められない。
     ウ なお,証拠(甲1,2の1及び2)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件
違反行為により本件事故を起こした件に関し,業      務上過失傷害罪の不起訴処
分を受けていることが認められるから,本件事故に関し警察官又は検察官から取調べ
等を受け,      その際に被疑事実等について説明を受けたものと推認される。ま
た,前記第2の1(7)アのとおり,本件更新前に原告に送付さ      れた更新連絡書
には,原告の「最新の違反」として,本件事故発生日における安全運転義務違反が記載
され,原告について予      定されている更新時講習は違反運転者等に対する講習
であることが記載されていたのであり,原告は,前記第2の1(7)ウのと      おり,
実際に,違反運転者等に対する講習を受講している。以上のことに加え,違反運転者等
に該当するか否かについては,       法令により明確な基準が定められていること
を勘案すると,原告は,本件更新申請の頃には,本件事故における安全運転義務   
   違反によって違反運転者等に該当することとなったことを推知することができたもの
ということができる。
 しかしながら,行政手続法8条1項本文の規定する理由提示義務が,前
記のとおり,行政庁の拒否事由の有無についての判断の慎重と公正妥当
を担保してその恣意を抑制する趣旨に基づくものであることに照らせば,
申請者が当該拒否処分の理由を推知できると否とに関わらず,当該拒否
処分がなされた時点で,前記の程度の理由が示されていなければ,同条
1項本文に基づく理由提示義務に違反するものとして,当該処分は違法
なものとなるというべきである。
そして,本件では,前記のとおり,本件更新時すなわち原告に対する新
たな免許証の交付時には,原告に対し,何らの理由提示も行われなかっ
たのであるから,行政手続法8条1項本文に規定する理由提示が行われ
たということはできない。
     エ 次に,本件について行政手続法8条1項ただし書きが適用されるかについて
検討する。
     (ア) 本件更新において原告の更新後の免許証の有効期間が3年とされた理
由が,原告が違反運転者等に該当したため(すな       わち優良運転者又は一般
運転者に該当しなかったため)であることは,法92条の2第1項,及び,法施行令33条
の7の規定      から明らかであるので,本件は,「法令に定められた許認可等の要
件」が「数量的指標その他の客観的指標により明確に定め       られている場合」
 (行政手続法8条1項ただし書き)に当たるといえる。
     (イ)そこで,本件が「当該申請がこれらに適合しないことが申請書の記載又は
添付書類その他の申請の内容から明らかである      とき」(同項ただし書き)に当
たるかについて検討する。
     (ウ) 前記アの行政手続法の目的,理由提示制度の趣旨,同法8条1項本文
の解釈及び同項ただし書きの文言等を考慮する       と,同項ただし書きは,客観
的指標が定められていて,申請がこれに適合するか否かの判断を客観的に行うことが
できる場合       において,申請がこれに適合しないことが,申請書の記載又は添
付書類その他の申請の内容から直ちに客観的に明らかであっ      て,あえて理由
を示す必要がない場合をいうと解するのが相当である。
     (エ) そこで,本件についてこれをみるに,前記第2の1の事実,証拠(乙1の
1,2)及び弁論の全趣旨によれば,本件更新申請      書及び添付書類の記載内
容は,別紙運転免許証・講習申請書及び別紙運転免許証更新申請書別紙のとおりであ
って,本件更      新申請においては,更新申請書及び添付書類には,更新前5年
間において原告にいかなる違反行為等があったかについて記      載する欄はなか
ったことが認められる。そうすると,本件においては,申請書の記載及び添付書類によっ
て,直ちに,当該申請      拒否処分の理由(原告にいかなる違反行為等があった
か)を了知することはできなかったというべきである。また,本件全証拠        をも
ってしても,本件更新申請において,更新申請書の記載又は添付書類以外に認められ
る申請の内容から,原告が,本件      更新申請は,法の定める有効期間5年の更
新の要件(申請者が,優良運転者又は一般運転者に該当すること,すなわち,違反  
    運転者等に該当しないこと)に適合しないことを,本件更新時において,直ちに了
知することができたと認めるに足りる事情は窺      われない。   
     (オ) なお,本件においては,前記ウのとおり,原告は,本件更新申請の頃には
本件事故における安全運転義務違反によって違       反運転者等に該当すること
となったことを推知することができたものと考えられるが,このような事情は,本件更新
申請の内容       となるものではないから,このような事情をもって「当該申請がこ
れらに適合しないことが申請書の記載又は添付書類その他        の申請の内容
から明らかであるとき」(行政手続法8条1項ただし書き)に当たると解することはできな
い。
    オ したがって,本件は,行政手続法8条1項ただし書きが適用される場合に当た
るとはいえない。そして,前記ウのとおり,本件更      新当時,原告に対し,行政手
続法8条1項本文に規定する処分理由の提示が行われたとも認められないから,被告
が本件更新      において原告の更新後の免許証の有効期間を3年とした処分は,
行政手続法8条1項に違反するものとして,取消しを免れない      ものというべきで
ある。
第4 結論
よって,原告の請求は理由があるから認容し,主文のとおり判決する。
千葉地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官    山口 博
裁判官 武 田 美和子
裁判官 高石直樹

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