弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
○ 事実
控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人福岡税務署長が昭和四二年二月七日控
訴人の昭和四〇年分所得税および加算税につきなした再更正および賦課変更決定処
分に対し控訴人のなした昭和四二年七月四日付審査請求につき被控訴人福岡国税局
長が同年一〇月一七日になした審査請求を却下する旨の裁決を取り消す。被控訴人
福岡税務署長の右再更正および賦課変更決定処分ならびに被控訴人福岡税務署長が
昭和四一年九月二六日控訴人の昭和四〇年分所得税および加算税につきなした更正
および賦課決定処分をいずれも取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの
負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の主張および証拠の関係は、原判決事実摘示と同一であるから、これを
引用する。
○ 理由
一、控訴人主張の請求原因一ないし五の事実は、本件再更正処分に対する異議申立
日および審査請求に対する裁決書謄本送達日を除き、いずれも当事者間に争いがな
い。
二、右各事実によれば、被控訴人福岡税務署長が昭和四二年二月七日なした本件再
更正処分は、これに先行して昭和四一年九月二六日なされた本件更正処分(および
加算税賦課決定)における所得税額を減少させる再更正処分(および加算税額を減
少させる変更決定)であつて、本件更正処分全部を取り消したうえあらためて残額
につき納税額を確定する処分ではなく、本件更正処分のうち減額される部分のみを
取り消す控訴人に利益な処分であるから、本件再更正処分および加算税賦課変更決
定に対しその取消を求める控訴人の審査請求を権利保護の要件を欠く不適法の申立
であるとして却下した被控訴人福岡国税局長の本件審査裁決に違法はなく、また同
様の理由により、控訴人は本件再更正処分および加算税賦課変更決定の取消を求め
る利益を有しないものというべきである。
三、つぎに、控訴人が本件更正処分に対して異議の申立をなしたところ昭和四二年
一月二五日右異議申立を棄却されたが、審査の請求をしなかつたことは当事者間に
争いがない。
しかし、成立に争いのない甲第四号証および原審における控訴本人尋問の結果によ
れば、控訴人は本件更正処分に対する審査請求の申立期間内である昭和四二年二月
七日被控訴人福岡税務署長から本件再更正処分の通知をうけたこと、右通知書にお
いて右処分に不服があるときは一月以内に同税務署長に対し異議申立ができる旨の
誤つた教示がなされていたこと、控訴人は右再更正処分についてもなお不満であつ
たが、右再更正処分を争えば本件更正処分も当然争つたことになるものと考え、右
教示に従つて本件再更正処分に対し異議申立をなし、さらにその棄却決定をうけて
審査請求をしたが、そのため、本件更正処分については審査請求をしなかつたこと
が認められる。
右事実によれば、専門の法律知識を有しない一般人と認められる控訴人が、本件更
正処分について審査の請求を経なかつたことにつき、国税通則法八七条一項但書四
号後段(昭和四五年法律第八号による改正前のもの)の正当な理由があるときにあ
たるものというべきである。
もつとも、本件更正処分取消訴訟の出訴期間は、行政事件訴訟法一四条四項、三項
により、前記異議棄却決定の日である昭和四二年一月二五日から一年後の昭和四三
年一月二五日であるところ、本件訴訟が提起されたのは右期間経過後の同月三一日
であることは本件記録上明らかであるが、前記認定のとおり、控訴人としては本件
再更正処分に対し不服の申立をなすことにより本件更正処分も当然不服申立の対象
となるものと考えていたこと、控訴人において本件再更正処分についての審査請求
却下の裁決書謄本の送達を受けたと自認する昭和四二年一〇月三一日から起算する
と三ヶ月以内に本件訴訟が提起されていることに徴すると、法律の専門家でない控
訴人が右出訴期間を徒過したことにつき、同法一四条三項但書の正当な理由がある
ものというべきである。
四、控訴人は、本件確定申告に際し、その長男Aおよび次男Bに支払つた雇人費合
計九九万二、〇〇〇円を必要経費として事業所得金額から控除して算出したとこ
ろ、被控訴人福岡税務署長は、本件更正処分において、右両名が控訴人と生計を一
にする親族であるとして、右両名に支払つた右金額を必要経費に算入していないの
であつて、本件更正処分は違法であると主張するので、検討する。
成立に争いのない乙第三号証、原審証人Cの証言、原審における控訴本人尋問の結
果の一部を総合すると、次の事実が認められる。
(一) 控訴人は商店、会社等から注文を受けて伝票、納品書、請求書、領収書等
の印刷を業とするものであつて、その長男Aおよび次男Bを右事業に従事させてい
るが、昭和三九年度までの所得税の申告にあたつては、右両名を事業専従者として
申告し、専従者控除をうけていたこと
(二) 控訴人は昭和四〇年度において前記両名から源泉徴収所得税を徴収してお
らず、前記両名も同年度の所得を課税対象とする市県民税を納付していないこと
(三) 前記両名に対する雇人費合計九九万二、〇〇〇円(前記控訴本人尋問の結
果によれば、右金額は前記両名に対する各給与月額三万八、〇〇〇円、賞与年額四
万円の合計額であるというのである。)については、これを記載した帳簿、賃金台
帳はなく、本件再更正処分に対する異議申立の段階ではじめて乙第三号証の原本が
提出されたが、右乙第三号証に記載された前記両名に対する支給金額は控訴人が申
告した前記両名に対する雇人費合計九九万二、〇〇〇円とは全く異なつていて、毎
月の支給金額、支払期日は一定しておらず、とうてい通常の給与体系とは認められ
ないこと
(四) 前記両名はもつぱら控訴人経営の事業に従事しており、控訴人の事業から
生ずる収入によつてのみ生計を維持していること
以上の事実によれば、前記両名は控訴人の印刷業を手伝い控訴人は右両名に対し生
活費を支給して有無相扶ける関係にあるものと認めるのが相当であり、したがつて
右両名は所得税法(昭和四一年法律第三一号による改正前のもの)五六条の控訴人
と生計を一にする親族にあたるものというべきである。もつとも原審証人A、同D
の各証言、原審における控訴本人尋問の結果によれば、前記両名は昭和四〇年当時
いずれも結婚して控訴人と別居していたことが認められるが、別居していても、生
活費の面で有無相扶ける関係にあれば、生計を一にするものということができるか
ら、右別居の事実は、なんら前記認定および判断の妨げとはならない。
そうすると、控訴人がその長男Aおよび次男Bに支払つたと主張する雇人費合計九
九万二、〇〇〇円を必要経費に算入せず、これを控訴人の事業所得金額から控除し
なかつた被控訴人福岡税務署長の本件更正処分になんら違法の点はない。
五、なお、控訴人は、本件確定申告に際し、家賃八万四、〇〇〇円を必要経費とし
て事業所得金額から控除して算出したところ、被控訴人福岡税務署長は、本件更正
処分において、右家賃のうち六万円しか必要経費と認めなかつた点についても違法
があると主張するが、原審証人Cの証言によれば、控訴人は現住家屋を家賃一ヶ月
六、〇〇〇円、工場を家賃一ヶ月一、〇〇〇円合計一ヶ月七、〇〇〇円(年額八万
四、〇〇〇円)で賃借しているが、右家屋のうち、三分の一は居住用として使用
し、事業用として使用している部分は三分の二にすぎないこと、したがつて家屋の
家賃のうちの年額四万八、〇〇〇円と工場の家賃年額一万二、〇〇〇円との合計六
万円が事業用として必要経費と認められるにすぎないことがうかがわれるので、本
件更正処分は、この点についても違法はない。
六、以上の次第で、控訴人の本件審査裁決の取消を求める本訴請求は失当であり、
本件再更正処分および加算税賦課変更決定処分の取消を求める本訴請求は訴の利益
を欠くものであるからいずれもこれを棄却すべきである。しかし、原判決中、本件
更正処分および加算税賦課決定処分の取消を求める本訴請求は法定の出訴期間経過
後の不適法な訴であるとしてこれを却下している部分は前示のとおり誤りである
が、本件は控訴人のみが控訴していて被控訴人らの附帯控訴はなく、かつ訴却下の
判決は請求棄却の判決より控訴人にとつては利益であるから、控訴審における不利
益変更禁止の原則により、原判決を取り消して請求棄却の判決をすることはできな
い。
七、よつて、原判決主文第一、二項は相当であり、主文第三項についてもこれを取
り消すことができないので、結局本件控訴はすべて理由がないからこれを棄却する
こととし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判
決する。
(裁判官 塩田駿一 篠原曜彦 境野 剛)

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