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平成19年9月26日判決言渡
平成19年行ケ第10076号審決取消請求事件()
平成19年9月12日口頭弁論終結
判決
原告株式会社ワコー
同訴訟代理人弁護士鮫島正洋
同岩永利彦
同訴訟代理人弁理士志村浩
被告特許庁長官肥塚雅博
同指定代理人瀧廣往
同山川雅也
同小池正彦
同大場義則
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が訂正2006−39151号事件について平成19年1月17日に
した審決を取り消す。
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯
(1)原告は,発明の名称を「力・加速度・磁気の検出装置」とする特許第3
145979号(平成2年10月12日出願の特願平2−274299号の
一部を平成10年7月9日に分割出願,平成13年1月5日設定登録。以下
「本件特許」という。)の特許の特許権者である。
(2)本件特許について,平成17年7月14日,無効審判請求(無効200
5−80222号,無効2005−80223号,無効2005−8022
4号)がされ,特許庁は,平成18年6月19日に,無効2005−802
22号及び無効2005−80224号について,本件特許の請求項1及び
6に係る発明を無効とする審決をした。原告は,平成18年7月26日,上
記各審決の取消訴訟を提起し,同訴訟は当庁において係属している(当庁平
成18年(行ケ)第10351号及び平成18年(行ケ)第10352号)。
(3)原告は,訴えの提起があった日から起算して90日以内の平成18年9
月12日,本件明細書の訂正審判請求(以下「本件訂正」といい,本件訂正
後の明細書及び図面を「本件訂正明細書」という。)をした。特許庁は,こ
れを訂正2006−39151号事件として審理し,平成19年1月17日,
「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした。
本件は,同審決の取消訴訟である。
2本件訂正の内容
本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである(下線部
は,本件訂正に係る箇所である。)。
【請求項1】
互いに直交する第1の軸および第2の軸を定義し,前記第1の軸方向に作用
した力および前記第2の軸方向に作用した力をそれぞれ独立して検出する機能
をもった力検出装置であって,
装置筐体に対して変位が生じないように固定された固定要素と,
前記固定要素に可撓性部分を介して接続され,外部から作用した前記第1の
軸方向の力もしくは前記第2の軸方向の力に基いて,前記可撓性部分が撓みを
生じることにより,前記固定要素に対して前記第1の軸方向もしくは前記第2
の軸方向に変位を生じる変位要素と,
前記変位要素の変位にかかわらず固定状態を維持するように前記固定要素上
に形成された第1の固定電極,第2の固定電極,第3の固定電極,第4の固定
電極と,
前記変位要素の変位とともに変位するように前記変位要素上に形成された第
1の変位電極,第2の変位電極,第3の変位電極,第4の変位電極と,
を備え,
前記第1の固定電極と前記第1の変位電極とは互いに対向する位置に配置さ
れ,前記第1の固定電極と前記第1の変位電極とによって第1の容量素子が形
成され,
前記第2の固定電極と前記第2の変位電極とは互いに対向する位置に配置さ
れ,前記第2の固定電極と前記第2の変位電極とによって第2の容量素子が形
成され,
前記第3の固定電極と前記第3の変位電極とは互いに対向する位置に配置さ
れ,前記第3の固定電極と前記第3の変位電極とによって第3の容量素子が形
成され,
前記第4の固定電極と前記第4の変位電極とは互いに対向する位置に配置さ
れ,前記第4の固定電極と前記第4の変位電極とによって第4の容量素子が形
成され,
かつ,前記変位要素が前記第1の軸の正方向に変位した場合,前記第1の容
量素子の電極間距離が減少するとともに前記第2の容量素子の電極間距離が増
加し,前記変位要素が前記第1の軸の負方向に変位した場合,前記第1の容量
素子の電極間距離が増加するとともに前記第2の容量素子の電極間距離が減少
し,前記変位要素が前記第2の軸の正方向に変位した場合,前記第3の容量素
子の電極間距離が減少するとともに前記第4の容量素子の電極間距離が増加し,
前記変位要素が前記第2の軸の負方向に変位した場合,前記第3の容量素子の
電極間距離が増加するとともに前記第4の容量素子の電極間距離が減少するよ
うに,前記各固定電極および前記各変位電極が配置されており,
前記第1の容量素子の容量値と前記第2の容量素子の容量値との差を,前記
第1の軸方向に作用した力方向成分を示す検出信号として出力し,前記第3の
容量素子の容量値と前記第4の容量素子の容量値との差を,前記第2の軸方向
に作用した力方向成分を示す検出信号として出力する検出回路を更に備え,
前記固定要素および前記変位要素がシリコンにより構成されており,前記第
1の固定電極,前記第2の固定電極,前記第3の固定電極,前記第4の固定電
極,前記第1の変位電極,前記第2の変位電極,前記第3の変位電極,前記第
4の変位電極が,不純物を含むシリコンにより構成されていることを特徴とす
る力検出装置(以下「本件訂正発明1」という。)
3審決の内容
(1)別紙審決書の写しのとおりである。要するに,審決は,本件訂正発明1
は,①原出願当初明細書及び図面(以下「本件原出願当初明細書」とい
う。)に記載されたものではないから,特許法44条1項に規定する分割要
件を満たさず,その出願日は,現実の出願日である平成10年7月9日であ
ると認められるところ,本件訂正発明1は,原出願の特開平4−14883
3号公報(以下「刊行物1」という。)と同一の発明であり,特許法29条
1項3号に該当し,また,②米国特許第4941354号公報(甲2,以下
「刊行物2」という。)記載の発明及び周知技術(甲3,4。以下,それぞ
れ「刊行物3」,「刊行物4」という。)に基づいて容易に発明をすること
ができたものであるから,特許法29条2項に該当する。したがって,本件
訂正発明1は,いずれの理由によっても,特許出願の際独立して特許を受け
ることができない発明であり,本件訂正は許されないというものである。
(2)審決が認定した本件訂正発明1と刊行物2記載の発明(以下「引用発
明」という。)との一致点及び相違点は次のとおりである。
ア一致点
互いに直交する第1の軸および第2の軸を定義し,前記第1の軸方向に
作用した力および前記第2の軸方向に作用した力をそれぞれ独立して検出
する機能をもった力検出装置であって,装置筐体に対して変位が生じない
ように固定された固定要素と,前記固定要素に可撓性部分を介して接続さ
れ,外部から作用した前記第1の軸方向の力もしくは前記第2の軸方向の
力に基いて,前記可撓性部分が撓みを生じることにより,前記固定要素に
対して前記第1の軸方向もしくは前記第2の軸方向に変位を生じる変位要
素と,前記変位要素の変位にかかわらず固定状態を維持するように前記固
定要素上に形成された第1の固定電極,第2の固定電極,第3の固定電極,
第4の固定電極と,前記変位要素の変位とともに変位するように前記変位
要素上に形成された第1の変位電極,第2の変位電極,第3の変位電極,
第4の変位電極と,を備え,前記第1の固定電極と前記第1の変位電極と
は互いに対向する位置に配置され,前記第1の固定電極と前記第1の変位
電極とによって第1の容量素子が形成され,前記第2の固定電極と前記第
2の変位電極とは互いに対向する位置に配置され,前記第2の固定電極と
前記第2の変位電極とによって第2の容量素子が形成され,前記第3の固
定電極と前記第3の変位電極とは互いに対向する位置に配置され,前記第
3の固定電極と前記第3の変位電極とによって第3の容量素子が形成され,
前記第4の固定電極と前記第4の変位電極とは互いに対向する位置に配置
され,前記第4の固定電極と前記第4の変位電極とによって第4の容量素
子が形成され,かつ,前記変位要素が前記第1の軸の正方向に変位した場
合,前記第1の容量素子の電極間距離が減少するとともに前記第2の容量
素子の電極間距離が増加し,前記変位要素が前記第1の軸の負方向に変位
した場合,前記第1の容量素子の電極間距離が増加するとともに前記第2
の容量素子の電極間距離が減少し,前記変位要素が前記第2の軸の正方向
に変位した場合,前記第3の容量素子の電極間距離が減少するとともに前
記第4の容量素子の電極間距離が増加し,前記変位要素が前記第2の軸の
負方向に変位した場合,前記第3の容量素子の電極間距離が増加するとと
もに前記第4の容量素子の電極間距離が減少するように,前記各固定電極
および前記各変位電極が配置されており,前記第1の容量素子の容量値と
前記第2の容量素子の容量値との差を,前記第1の軸方向に作用した力方
向成分を示す検出信号として出力し,前記第3の容量素子の容量値と前記
第4の容量素子の容量値との差を,前記第2の軸方向に作用した力方向成
分を示す検出信号として出力する検出回路を更に備え」た「力検出装置」
である点。
イ相違点
本件訂正発明1では「前記固定要素および前記変位要素がシリコンによ
り構成されており,前記第1の固定電極,前記第2の固定電極,前記第3
の固定電極,前記第4の固定電極,前記第1の変位電極,前記第2の変位
電極,前記第3の変位電極,前記第4の変位電極が,不純物を含むシリコ
ンにより構成されている」のに対し,引用発明ではこのような構成を備え
ていない点。
第3取消事由に関する原告の主張
審決には,①特許法44条1項柱書きの充足性の有無に関する判断の誤り
(取消事由1),②引用発明の認定及び一致点の認定の誤り(取消事由2),
③相違点の容易想到性の判断の誤り(取消事由3)があるから,取り消される
べきである。
1取消事由1(特許法44条1項柱書きの充足性の有無に関する判断の誤り)
について
審決は,下記に要約した理由により本件出願が分割要件に違反すると判断し
たが,その判断は誤りである(以下,原告が要約した審決の①ないし④の各判
断部分を「審決の判断1」などという。)。
①「変位要素」という用語は,本件原出願当初明細書には記載されていな
い。
②「固定された部分に対して『可撓性部分を介して接続され』・・る変位
要素」は,本件原出願頭書明細書には記載されていない。
③上記変位要素が,「第1の軸方向,第2の軸方向に変位を生じること」
は,本件原出願頭書明細書には記載されていない。
④変位要素が前記第1の軸方向又は前記第2の軸方向のみに変位し,電極
間距離が増加又は減少して容量値が変化する力検出装置の発明は,本件原
出願頭書明細書に記載されていない。
(1)審決の判断1,2の誤り
ア本件原出願当初明細書に記載されていない「変位要素」を,請求項に記
載したからといって発明の変更となるものではない。
本件明細書における,「固定された部分に対して『可撓性部分を介して
接続され』・・る変位要素」との記載は,本件原出願当初明細書の記載か
らみて,自明な事項を書き換えたものといえる。すなわち,本件原出願当
初明細書において,「装置筐体40」,「可撓基板20+作用体30」と
記載されている部分について,「装置筐体」を「固定された部分」に,
「可撓基板の中心部分+作用体」を「変位要素」に,それぞれ書き換える
ことは,発明の変更に当たらない。本件原出願当初明細書からみて,「固
定された部分」と「変位要素」が可撓性部分によって接続していることは
明らかである。
イ「固定された部分に対して『可撓性部分を介して接続され』・・る変位
要素」は,本件訂正発明1の本質ないしは実体に実質的な変動を生じさせ
るものではない。すなわち,本件訂正発明1は,温度補償が不要でかつ安
価に供給し得る検出装置を提供するという課題を解決するために,①一方
が固定され,他方が変位する一対の対向電極からなる容量素子を2組設け
る,②検出対象となる所定方向の力が作用したときに,上記2組の容量
素子の電極間隔が相補的な変化を生じるような構成とする(一方の電極
間隔が狭くなったら,他方の電極間隔が広くなるような構成とする),
③2組の容量素子の静電容量値の差を電気的に検出し,検出対象となる力
の大きさとして出力する,という構成を採用した点に発明の本質的な特徴
がある。この技術的思想を前提とすると,「装置筐体40」,「可撓基板
20+作用体30」と記載した部分について,「装置筐体40」を「固定
された部分」と書き換え,「可撓基板の中心部分+作用体」を「変位要
素」と書き換え,これによって「固定された部分に対して可撓性部分
を介して接続され・・る変位要素」に書き換えたとしても,発明の本
質ないし実体を変更したことにならない。
審決の判断3の誤り(2)
変位要素が,「第1の軸方向,第2の軸方向に変位を生じること」は,本
件原出願当初明細書の記載からみて自明であり,原出願に記載されているに
等しい事項である。すなわち,本件原出願当初出願明細書添付の第1図及び
第4図を検討すれば,変位要素が第1の軸方向若しくは第2の軸方向に変位
することは当業者にとって自明である。
(3)審決の判断4の誤り
上記(2)のとおり,変位要素が第1の軸方向若しくは第2の軸方向に変位
することは本件原出願当初明細書に記載されているから,変位要素が前記第
1の軸方向又は前記第2の軸方向に変位し,電極間距離が増加又は減少して
容量値が変化する力検出装置の発明が,本件原出願当初明細書に記載されて
いると認められる。そして,本件原出願当初明細書には,変位電極と固定電
極の配置構造については,単に「対向面に形成された」とあり,この変位
電極が形成された可撓基板と固定電極が形成された固定基板の配置構造に
ついても,単に「対向する」と記載されているだけであって,その変位方
向については格別限定はない。
2取消事由2(引用発明の認定及び一致点の認定の誤り)について
審決は,引用発明は,矩形波電圧VとVとの差に応じた直流出力によりXAXB
復帰電力を生じさせているとしても,同時に,静電容量の差を所定軸方向に作
用した力として検出していると認定した上で,本件訂正発明1と引用発明とは,
「前記第1の容量素子の容量値と前記第2の容量素子の容量値との差を,前記
第1の軸方向に作用した力方向成分を示す検出信号として出力し,前記第3の
容量素子の容量値と前記第4の容量素子の容量値との差を,前記第2の軸方向
に作用した力方向成分を示す検出信号として出力する検出回路を備えた」との
点で一致すると認定した。
しかし,以下のとおりの理由により,審決の上記認定には誤りがある。
引用発明における加速度の検出原理は,「常にマグネット6を中立位置に維
持させるように,フォースコイルに復帰電流を流すような制御を行い,中立維
持に必要とされた復帰電流の大きさによって,作用した加速度の大きさを判定
する」とするものである。大きな加速度が作用すると,当該加速度によって
マグネット6を変位させようとする大きな力が加わることになるので,中立
位置に維持させるために,大きな復帰電流が必要になり,中立維持に必要な
復帰電流の大きさ(図5の回路の電圧Vに対応)を検出することにより,作X
用した加速度の大きさを検出するという原理を応用している。これに対し,本
件訂正発明1における加速度の検出原理は,検出回路は,変位要素の変位の大
きさを一対の容量素子の静電容量の差として捉え,これを検出軸方向に作用
した力方向成分を示す検出信号として出力するものである。したがって,両
者は,加速度の検出原理において相違する。
3取消事由3(相違点の容易想到性の判断の誤り)について
審決は,本件訂正発明1と引用発明との相違点に関し,センサにおいて基板
にシリコンを用いることは周知であること(甲3),シリコンに不純物を導入
することによって導電性を高めることは周知であること(甲4)から,引用発
明における「回路板15等の固定された部分」及び「可動プレート13を構
成する環状のフランジ等の変位する部分」にシリコンを用い,導電性を高め
る必要のある電極を不純物を含むシリコンとして,本件訂正発明1の構成と
することは当業者が適宜行い得ると判断した。
しかし,以下のとおりの理由により,審決の上記判断は誤りである。
(1)甲3の加速度センサにおける「振子構造」は,本件訂正発明1の「作用
体30」に対応する部分であるから,甲3は,せいぜい,本件訂正発明1に
おける「作用体30」にシリコンを用いることが周知であることを示してい
るにすぎない。
(2)一般に,シリコンは半導体部品等において用いられる素材であり,甲4
にも開示されているように,結晶性ウエハを微細機械加工して形成されるも
のであるため,シリコンが適用される部材は基本的には平面状である。しか
し,引用発明の装置は,平面構造を採用したものではなく,シリコンを加
工して引用発明の装置を形成するのは極めて困難であるから,当業者が容
易に想到し得たということはできない。
本件訂正発明1は,温度補償を行なうことなく,力,加速度,磁気など(3)
の物理量を検出することができる検出装置を安価に実現し得るようになると
いう予測できない顕著で有利な効果をもたらすから,引用発明から本件訂正
発明1を容易に想到することはできない。
第4被告の反論
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1取消事由1(特許法44条1項柱書きの充足性の有無に関する判断の誤り)
について
本件原出願当初明細書には,一貫して可撓基板を用いることのみが記載され
ていたのであり,固定された部分に対して「可撓性部分を介して接続され」,
第1の軸方向,第2の軸方向に変位を生じる「変位要素」を用いることは記載
されていない。
本件原出願当初明細書の第4図に基づいて原告の作成した模式図は原出願に
最初に添付した図面には存在しないものである。固定された部分に対して「可
撓性部分を介して接続され」,第1の軸方向,第2の軸方向に変位を生じる
「変位要素」を用いることは,上記第4図に基づいて原告の作成した模式図に
よって初めて示される技術事項である。
したがって,原告の主張は,本件原出願当初明細書の記載に基づくものでは
なく,失当である。
2取消事由2(引用発明の認定及び一致点の認定の誤り)について
(1)本件訂正発明1の検出回路と刊行物2に記載された回路とが「一対の容
量素子の容量値の差を求める」点で共通することは,原告も認めている。と
ころで,刊行物2には,「本発明によれば,3軸の加速度計が提供される。
この加速度計は,ハウジングと,加えられた力に応答して3つの測定軸に対
して変位可能なようにそのハウジング内に取り付けられたマグネットと,マ
グネットの変位を検知し,3つの測定軸のそれぞれに沿って加えられた力の
成分に比例する出力信号を提供する検知手段とを含む。」(原文1欄32∼
40行),「図3を再び参照して,・・・横方向のマグネット6の移動は,
可動プレート13とそれに対向するプレート部分19および21(もしくは,
18および20)との間の差動静電容量に変化を生じさせる。」(原文3欄
15∼33行)等の記載がされており,上記の容量値の差の信号は,軸方向
に作用した力方向成分を示す信号であるということができる。
(2)原告は,本件訂正発明1の検出回路では,「ある時点における一対の容
量素子の容量値の差がそのまま,当該時点で作用している力の検出値を示
す」のに対して,引用発明の回路では,「ある時点における一対の容量素子
の容量値の差は,当該時点の制御誤差を示すものであって,当該時点で作用
している力の検出値を示すものではない点で相違するとも主張する。しかし,
本件訂正発明1は,前記第1の容量素子の容量値と前記第2の容量素子の容
量値との差を,前記第1の軸方向に作用した力方向成分を示す検出信号とし
て出力し,前記第3の容量素子の容量値と前記第4の容量素子の容量値との
差を,前記第2の軸方向に作用した力方向成分を示す検出信号として出力す
る検出回路を更に備え,と記載され,「そのまま」と記載されていない。し
たがって,原告の主張は,本件訂正後の請求項1の記載に基づくものではな
い。
3取消事由3(相違点の容易想到性の判断の誤り)について
加速度センサなどの分野で「導電性を高める必要のある電極を不純物を含む
シリコン」とすることは,周知技術である(甲4,原告も認めている。)。
そうすると,引用発明にこのような加速度センサなどの分野における周知技
術を適用してシリコンを用い,導電性を高める必要のある部分を不純物を含む
シリコンとすることが格別困難なものであるということはできない。
原告は,本件訂正発明1の効果について,「温度補償を行うことなく,力,
加速度,磁気などの物理量を検出することができる検出装置を安価に実現しう
るようになる。」という予測できない顕著で有利な効果であると主張する。し
かし,このような効果は引用発明及び周知の技術手段が奏する効果でもあり,
格別のものであるということはできない。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(特許法44条1項柱書きの充足性の有無に関する判断の誤り)
について
(1)本件原出願当初明細書の記載
ア本件原出願当初明細書(甲1)の特許請求の範囲には,以下の記載があ
る。
「(1)装置筐体に固定される固定部と,外部からの力が伝達される作用
部と,前記固定部と前記作用部との間に形成され可撓性をもった可撓部と,
を有する可撓基板と,前記可撓基板に対向するように,装置筐体に固定さ
れた固定基板と,外部からの力を受け,この力を前記可撓基板の前記作用
部に伝達する作用体と,前記可撓基板の前記固定基板に対する対向面に形
成された変位電極と,前記固定基板の前記可撓基板に対する対向面に形成
された固定電極と,を備え,前記変位電極と前記固定電極との間に生じる
静電容量の変化に基づいて,前記作用体に作用した力を険出することを特
徴とする力検出装置。・・・
(4)請求項1∼3のいずれかに記載の力検出装置において,固定基板,
可撓基板,補助基板,の順にそれぞれが対向して並ぶように,更に補助基
板を設け,前記可撓基板の前記補助基板に対する対向面に第1補助電極を
形成し,前記補助基板の前記可撓基板に対する対向面に第2補助電極を形
成し,前記第1補助電極と前記第2補助電極との間あるいは変位電極と固
定電極との間に所定の電圧を印加し,両者間に作用するクーロン力によっ
て前記可撓基板に変位を生じさせ,外部から力が作用したのと等価な状態
におくことができるようにしたことを特徴とする力検出装置。
(5)請求項4に記載の力検出装置において,可撓基板を導電性材料で構
成し,第1補助電極と変位電極とが,この導電性の可撓基板の一部分によ
り形成されていることを特徴とする力検出装置。
(6)装置筐体に固定される固定部と,外部からの力が伝達される作用部
と,前記固定部と前記作用部との間に形成され可撓性をもった可撓部と,
を有する可撓基板と,前記可撓基板に対向するように,装置筐体に固定さ
れた固定基板と,外部からの力を受け,この力を前記可撓基板の前記作用
部に伝達する作用体と,前記可撓基板の前記固定基板に対する対向面に形
成された変位電極と,前記固定基板の前記可撓基板に対する対向面に形成
された固定電極と,前記変位電極と前記固定電極との間に挟まれるように
形成され,前記両電極によって加わる圧力を電気信号に変換して前記両電
極に出力する圧電素子と,を備え,前記作用体に作用した力を前記圧電素
子から出力される電気信号によって検出することを特徴とする力検出装
置。」
イ本件原出願当初明細書(甲1)の発明の詳細な説明欄には,以下の記載
がある。
(ア)「〔発明が解決しようとする課題〕一般に,ゲージ抵抗やピエゾ抵
抗係数には温度依存性があるため,上述した検出装置では,使用する環
境の温度に変動が生じると検出値が誤差を含むようになる。したがって,
正確な測定を行うためには,温度補償を行う必要がある。特に,自動車
などの分野で用いる場合,−40C∼+120℃というかなり広い動°
作温度範囲について温度補償が必要になる。
また,上述した検出装置を製造するには,半導体基板を処理する高度
なプロセスが必要になり,イオン注入装置などの高価な装置も必要にな
る。このため,製造コストが高くなるという問題がある。
そこで本発明は,温度補償を行うことなく,力,加速度,磁気などの
物理量を検出することができ,しかも安価に供給しうる検出装置を提供
することを目的とする。」(3頁左上欄3∼20行)
(イ)「(1)本願第1の発明による力検出装置では,外部からの力が作
用体に加わると,可撓基板が撓み,変位電極と固定電極との間の距離が
変わることになる。したがって,両電極間の静電容量が変化する。この
静電容量の変化は,外部から加えられた力に依存したものであり,静電
容量の変化を検出することにより力の検出が可能になる。・・・(4)
本願第4の発明による力検出装置では,各電極の間に所定の電圧を印加
すると,両者間に作用するクーロン力によって可撓基板に変位を生じさ
せることができる。すなわち,外部からのカが作用したのと等価な状態
におくことができる。このような状態をつくり出すことができれば,装
置が正常に動作するか否がを試験することが容易になる。(5)本願第
5の発明による力検出装置では,第1補助電極と変位電極とが,可撓基
板の一部により形成される。したがって,可撓基板上には,特にあらた
めて電極を形成する工程は必要はなく,構造が単純になるとともに製造
コストを低下させることができる。(6)本願第6の発明による力検出
装置では,外部からの力が作用体に加わると,可撓基板が撓み,変位電
極と固定電極とによって挾まれた圧電素子に圧力が加わることになる。
この圧力は電気信号として出力されるので,外方をそのまま電気信号と
して検出することが可能になる。」(4頁右上欄11行∼5頁左上欄2
行)
(ウ)「この装置の主たる構成要素は,固定基板10,可撓基板20,作
用体30,そして装置筐体40である。・・・第3図に,可撓基板20
の上面図を示す。第3図の可撓基板20をX軸に沿って切断した断面が
第1図に示されている。可撓基板20も,図示のとおり円盤状の基板で
あり,周囲は装置筐体40に固定されている。この上面には,四分円盤
状の変位電極21∼24が形成されている。作用体30は,その上面が
第3図に破線で示されているように,円柱状をしており,可撓基板20
の下面に,同軸接合されている。装置筐体40は,円筒状をしており,
固定基板10および可撓基板20の周囲を固着支持している。
固定基板10および可撓基板20は,互いに平行な位置に所定間隔を
おいて配設されている。いずれも円盤状の基板であるが,固定基板10
は剛性が高く撓みを生じにくい基板であるのに対し,可撓基板20は可
撓性をもち,力が加わると撓みを生じる基板となっている。いま,第1
図に示すように,作用体30の重心に作用点Pを定義し,この作用点P
を原点とするXYZ三次元座標系を図のように定義する。すなわち,第
1図の右方向にX軸,上方向にZ軸,紙面に対して垂直に紙面裏側へ向
かう方向にY軸,をそれぞれ定義する。
ここで,この装置全体をたとえば自動車に搭載したとすると,自動車
の走行に基づき作用体30に加速度が加わることになる。この加速度に
より,作用点Pに外力が作用する。作用点Pに力が作用していない状態
では,第1図に示すように,固定電極11と変位電極21∼24とは所
定間隔をおいて平行な状態を保っている。ところが,たとえば,作用点
PにX軸方向の力Fxが作用すると,この力Fxは可撓基板20に対し
てモーメント力を生じさせ,第4図に示すように,可撓基板20に撓み
が生じることになる。この撓みにより,変位電極21と固定電極11と
の間隔は大きくなるが,変位電極23と固定電極11との間隔は小さく
なる。作用点Pに作用した力が逆向きの−Fxであったとすると,これ
と逆の関係の撓みが生じることになる。一方,Y方向の力Fyまたは−
Fyが作用した場合は,変位電極22と固定電極11との間隔,および
変位電極24と固定電極11との間隔,について同様の変化が生じる。
また,Z軸方向の力Fzが作用した場合は,第5図に示すように,変位
電極21∼24のすべてが固定電極11に接近することになり,逆向き
の力−Fzが作用した場合は,変位電極21∼24のすべてが固定電極
11から遠ざかるようになる。」(5頁左上欄19行∼右下欄13行)
(エ)「各部の材質を示す実施例続いて,上述した力検出装置を構成す
る各部の材質について説明する。上述した原理による検出を行うために,
材質の面では次のような条件を満たせばよい。
(1)各電極が導電性の材質からなること。
(2)各局在電極は電気的に互いに絶縁されていること。
(3)可撓基板は可撓性をもった材質からなること。
このような条件を満足する限り,どのような材質を用いてもかまわな
いが,ここでは,実用的な材質を用いた好ましい実施例をいくつか述べ
ることにする。」(7頁右上欄7∼20行)
(オ)「第8図に示す実施例は,固定基板10a,可撓基板20a,作用
体30a,のすべてに金属を使用した例である。可撓基板20aと作用
体30aとは一体に形成されている。もちろん,これらを別々に作った
後,互いに接合するようにしてもよい。装置筐体40は,たとえば,金
属やプラスチックなどで形成され,内面に形成された支持溝41に各基
板の周囲を嵌合させて固着支持している。固定基板10a自身がそのま
ま固定電極11として機能するため,固定電極11を別個に形成する必
要はない。変位電極21a∼24aは,可撓基板20aが金属であるた
め,その上に直接形成することはできない。そこで,ガラスやセラミッ
クといった材質による絶縁層25aを介して,変位電極21a∼24a
を可撓基板20a上に形成している。なお,可撓基板20aに可撓性を
もたせるためには,その厚みを小さくしたり,波状にして変形しやすく
すればよい。」(7頁左下欄1∼18行)
(カ)「第9図に示す実施例は,固定基板10b,可撓基板20b,作用
体30b,のすべてにガラスやセラミックといった絶縁体を使用した例
である。可撓基板20bと作用体30bとは一体に形成されている。装
置筐体40は,金属またはプラスチックで形成され,内面に形成された
支持溝41に各基板の周囲を嵌合させて固着支持している。固定基板1
0bの下面には,金属からなる固定電極11bが形成され,可撓基板2
0bの上面には,金属からなる変位電極21b∼24bが形成されてい
る。可撓基板20bに可撓性をもたせるためには,その厚みを小さくし
てもよいし,ガラスやセラミックの代わりに可撓性をもった合成樹脂を
用いるようにすればよい。あるいは,部分的に貫通孔を設けることによ
り変形しやすくしてもよい。」(7頁左下欄19行∼右下欄13行)
(キ)「第10図に示す実施例は,固定基板10c,可撓基板20c,作
用体30c,のすべてにシリコンなどの半導体を使用した例である。可
撓基板20cと作用体30cとは一体に形成されている。装置筐体40
は,金属またはプラスチックで形成され,内面に形成された支持溝41
に各基板の周囲を嵌合させて固着支持している。固定基板10cの下面
内部に位置する固定電極11c,および可撓基板20cの上面内部に位
置する変位電極21c∼24cは,不純物を高濃度で拡散することによ
り形成されたものである。可撓基板20cに可撓性をもたせるためには,
やはりその厚みを小さくしたり部分的に貫通孔を設ければよい。」(7
頁右下欄14行∼8頁左上欄7行)
(ク)「ここで述べる実施例では,三軸方向成分を,全く独立した専用電
極によって検出している。第11図に,この実施例で用いる可撓基板2
0dの上面図を示す。第3図に示す基本的な実施例における可撓基板2
0と比べ,局在電極の形成パターンかやや複雑であり,合計で8枚の局
在電極が形成されている。この8枚の局在電極は,基本的にはやはり4
つのグループに分類される。第1のグループに属する局在電極は,X軸
の負方向に配された電極21dと21eであり,第2のグループに属す
る局在電極は,Y軸の正方向に配された電極22dと22eであり,第
3のグループに属する局在電極は,X軸の正方向に配された電極23d
と23eであり,第4のグループに属する局在電極は,Y軸の負方向に
配された電極24dと24eである。」(8頁左上欄18行∼右上欄1
3行)
(ケ)「第14図は,このテスト機能をもった実施例に係る加速度検出装
置の構造を示す側断面図である。この装置の主たる構成要素は,固定基
板60,可撓基板70,作用体75,補助基板80,そして装置筐体4
0である。・・・可撓基板70は,可撓性をもった金属製の円盤であり,
周囲はやはり装置筐体40に固定されている。この可撓基板70の下面
には,円柱状をした作用体75が同軸接合されている。可撓基板70の
上面は,固定電極61∼64に対向する1枚の変位電極を構成している。
・・・このように,可撓基板70は,作用体75と一体に形成された金
属塊であるが,その上面は,固定電極61∼64に対向する1枚の変位
電極として作用し,その下面は,補助電極81∼84に対向する1枚の
補助電極として作用する。」(9頁右上欄16行∼9頁右下欄10行)
(コ)「第18図に示す実施例は,圧電素子を利用することにより,この
ような処理回路を不要にしたものである。この実施例の装置の基本的構
成は,前述した種々の実施例と共通している。すなわち,固定基板10
fと可撓基板20fとが対向して装置筐体40内に取り付けられている。
この実施例では,両基板とも絶縁体となっているが,金属や半導体で構
成してもよい。作用体30fに外力が作用すると,可撓基板2Ofが撓
むことになり,この結果,固定電極11f,12fとこれに対向する変
動電極21f,22fとの距離が変化する。前述の実施例では,両電極
間距離の変化を静電容量の変化として検出していたが,本実施例ではこ
れを電圧値として検出できる。そのために,固定電極11f,12fと
変動電極21f,22fとの間に挟むように,圧電素子101,102
を形成している。両電極間距離が縮めば圧縮力が,伸びれば引張力が,
それぞれ圧電素子101,102に作用するので,圧電効果によってそ
れぞれに応じた電圧が発生される。この電圧は,画電極からそのまま取
り出すことができるので,結局,作用した外力を直接電圧値として出力
することが可能になる。」(10頁左下欄18行∼10頁右下欄20
行)
(2)本件訂正明細書の記載
アこれに対して,本件訂正明細書の特許請求の範囲(請求項1)は,第2
のとおりである。このうち,以下の記載部分がある。
「【請求項1】互いに直交する第1の軸および第2の軸を定義し,前記第
1の軸方向に作用した力および前記第2の軸方向に作用した力をそれぞれ
独立して検出する機能をもった力検出装置であって,
装置筐体に対して変位が生じないように固定された固定要素と,
前記固定要素に可撓性部分を介して接続され,外部から作用した前記第1
の軸方向の力もしくは前記第2の軸方向の力に基いて,前記可撓性部分が
撓みを生じることにより,前記固定要素に対して前記第1の軸方向もしく
は前記第2の軸方向に変位を生じる変位要素と,・・・」
イまた,本件訂正明細書の発明の詳細な説明欄には,以下の記載がある。
(ア)「【0008】【課題を解決するための手段】本発明の第1の態(1)
様は,互いに直交する第1の軸および第2の軸を定義し,第1の軸方向
に作用した力および第2の軸方向に作用した力をそれぞれ独立して検出
する機能をもった力検出装置において,装置筐体に対して変位が生じな
いように固定された固定要素と,この固定要素に可撓性部分を介して接
続され,外部から作用した第1の軸方向の力もしくは第2の軸方向の力
に基いて,可撓性部分が撓みを生じることにより,固定要素に対して第
1の軸方向もしくは第2の軸方向に変位を生じる変位要素と,・・・」
(イ)「【0016】1.本発明の基本的な実施形態図1は,本発明§
に係る力検出装置を,加速度検出装置として用いた基本的な実施形態の
構造を示す側断面図である。この装置の主たる構成要素は,固定基板1
0,変位基板20,作用体30,そして装置筐体40である。・・・一
方,図2に,変位基板20の上面図を示す。図2の変位基板2(b)(b)
0をX軸に沿って切断した断面が図1に示されている。変位基板20も,
図示のとおり円盤状の基板であり,周囲は装置筐体40に固定されてい
る。この上面には,四分円盤状の変位電極21∼24が形成されている。
作用体30は,その上面が図2に破線で示されているように,円柱(b)
状をしており,変位基板20の下面に,同軸接合されている。装置筐体
40は,円筒状をしており,固定基板10および変位基板20の周囲を
固着支持している。」
(ウ)「【0017】固定基板10および変位基板20は,互いに平行な
位置に所定間隔をおいて配設されている。いずれも円盤状の基板である
が,固定基板10は剛性が高く撓みを生じにくい基板であるのに対し,
変位基板20は可撓性をもち,力が加わると撓みを生じる基板となって
いる。結局,固定基板10は装置筐体40に固定された固定要素として
機能するのに対し,変位基板20はこの固定要素に対して可撓性部分を
介して接続されており,変位基板20の中央部分は作用体30とともに
変位要素(固定要素に対して相対的な変位を生じる要素)として機能す
ることになる。いま,図1に示すように,作用体30の重心に作用点P
を定義し,この作用点Pを原点とするXYZ三次元座標系を図のように
定義する。すなわち,図1の右方向にX軸,上方向にZ軸,紙面に対し
て垂直に紙面裏側へ向かう方向にY軸,をそれぞれ定義する。すると,
変位要素は,X,Y,Zの各軸方向に変位可能な状態で,固定要素に対
して接続されていることになる。
(エ)「【0018】ここで,この装置全体をたとえば自動車に搭載した
とすると,自動車の走行に基づき作用体30に加速度が加わることにな
る。この加速度により,作用点Pに外力が作用する。作用点Pに力が作
用していない状態では,図1に示すように,固定電極11と変位電極2
1∼24とは所定間隔をおいて平行な状態を保っている。ところが,た
とえば,作用点PにX軸方向の力Fxが作用すると,この力Fxは変位
基板20に対してモーメント力を生じさせ,図3に示すように,変位基
板20に撓みが生じることになる。この撓みにより,変位電極21と固
定電極11との間隔は大きくなるが,変位電極23と固定電極11との
間隔は小さくなる。作用点Pに作用した力が逆向きの−Fxであったと
すると,これと逆の関係の撓みが生じることになる。一方,Y方向の力
Fyまたは−Fyが作用した場合は,変位電極22と固定電極11との
間隔,および変位電極24と固定電極11との間隔,について同様の変
化が生じる。また,Z軸方向の力Fzが作用した場合は,図4に示すよ
うに,変位電極21∼24のすべてが固定電極11に接近することにな
り,逆向きの力−Fzが作用した場合は,変位電極21∼24のすべて
が固定電極11から遠ざかるようになる。」
(オ)「【0025】2.各部の材質を示す実施形態続いて,上述し§
た加速度検出装置を構成する各部の材質について説明する。上述した原
理による検出を行うために,材質の面では次のような条件を満たせばよ
い。
各電極が導電性の材質からなること。(1)
各局在電極は電気的に互いに絶縁されていること。(2)
変位基板が作用体に作用した外力に基づいて変位しうること。」(3)
(カ)「【0027】図7に示す実施形態は,固定基板10a,変位基板
20a,作用体30a,のすべてに金属を使用した例である。変位基板
20aと作用体30aとは一体に形成されている。もちろん,これらを
別々に作った後,互いに接合するようにしてもよい。装置筐体40は,
たとえば,金属やプラスチックなどで形成され,内面に形成された支持
溝41に各基板の周囲を嵌合させて固着支持している。固定基板10a
自身がそのまま固定電極11として機能するため,固定電極11を別個
に形成する必要はない。変位電極21a∼24aは,変位基板20aが
金属であるため,その上に直接形成することはできない。そこで,ガラ
スやセラミックといった材質による絶縁層25aを介して,変位電極2
1a∼24aを変位基板20a上に形成している。なお,変位基板20
aに可撓性をもたせるためには,その厚みを小さくしたり,波状にして
変形しやすくすればよい。」
(キ)「【0028】図8に示す実施形態は,固定基板10b,変位基板
20b,作用体30b,のすべてにガラスやセラミックといった絶縁体
を使用した例である。変位基板20bと作用体30bとは一体に形成さ
れている。装置筐体40は,金属またはプラスチックで形成され,内面
に形成された支持溝41に各基板の周囲を嵌合させて固着支持している。
固定基板10bの下面には,金属からなる固定電極11bが形成され,
変位基板20bの上面には,金属からなる変位電極21b∼24bが形
成されている。変位基板20bに可撓性をもたせるためには,その厚み
を小さくしてもよいし,ガラスやセラミックの代わりに可撓性をもった
合成樹脂を用いるようにすればよい。あるいは,部分的に貫通孔を設け
ることにより変形しやすくしてもよい。」
(ク)「【0029】図9に示す実施形態は,固定基板10c,変位基板
20c,作用体30c,のすべてにシリコンなどの半導体を使用した例
である。変位基板20cと作用体30cとは一体に形成されている。装
置筐体40は,金属またはプラスチックで形成され,内面に形成された
支持溝41に各基板の周囲を嵌合させて固着支持している。固定基板1
0cの下面内部に位置する固定電極11c,および変位基板20cの上
面内部に位置する変位電極21c∼24cは,不純物を高濃度で拡散す
ることにより形成されたものである。変位基板20cに可撓性をもたせ
るためには,やはりその厚みを小さくしたり部分的に貫通孔を設ければ
よい。」
(ケ)「【0031】3.三軸方向成分を独立した電極で検出する実施§
形態・・・ここで述べる実施形態では,三軸方向成分を,全く独立した
専用電極によって検出している。図10に,この実施形態で用いる変位
基板20dの上面図を示す。図2に示す基本的な実施形態における(b)
変位基板20と比べ,局在電極の形成パターンがやや複雑であり,合計
で8枚の局在電極が形成されている。この8枚の局在電極は,基本的に
はやはり4つのグループに分類される。第1のグループに属する局在電
極は,X軸の負方向に配された電極21dと21eであり,第2のグル
ープに属する局在電極は,Y軸の正方向に配された電極22dと22e
であり,第3のグループに属する局在電極は,X軸の正方向に配された
電極23dと23eであり,第4のグループに属する局在電極は,Y軸
の負方向に配された電極24dと24eである。」
(コ)「【0033】以上,説明の便宜上,電極21e∼24eをそれぞ
れ独立した電極で構成した例を示したが,実際には図11の回路図から
明らかなように,電極21e∼24eで構成される容量素子は並列接続
される。したがって,これら4枚の電極は可撓基盤20d上で一体形成
してもよい。」
(3)取消事由1(特許法44条1項柱書きの充足性の有無)について
以上の各明細書の記載を前提として,本件訂正発明1が,特許法44条1
項所定の「二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな
特許出願」としたものに該当するか否かについて検討する。
ア審決の判断1,2について
(ア)前記(2)で認定した本件訂正明細書によれば,本件訂正発明1の
「変位要素」は,①固定要素に対して可撓性部分を介して接続されてい
ること,②固定要素に対して相対的な変位を生じるものであること,③
X,Yの各軸方向に変位可能なものであること,④詳細な説明中の「変
位基板20の中央部分と作用体30」が「変位要素」の実施例の1つに
当たることが記載されている。そうすると,本件訂正発明1の「変位要
素」とは,「変位基板20の中央部分と作用体30」に限定されるもの
ではなく,「固定要素に対して相対的な変位を生じるもの」一般を指す
ものと理解するのが相当である。
これに対して,前記(1)で認定した本件原出願当初明細書の記載によ
ると,「変位要素」という用語は記載がないのみならず,固定要素に対
して相対的な変位を生じるものについて,何ら開示がないというべきで
ある。
したがって,本件訂正発明1の「変位要素」は,本件原出願当初明細
書に記載されているということはできず,本件原出願当初明細書に記載
された事項から自明であるということもできない。
(イ)この点について,原告は,本件訂正発明1の「変位要素」とは,本
件原出願当初明細書においては「可撓基板の中心部分+作用体」を書き
換えたものであり,本件原出願当初明細書の記載によれば,「固定され
た部分」と「変位要素」が,「撓んでいる部分」によって接続されてい
ることは自明であるから,本件訂正発明1における「固定された部分に
対して可撓性部分を介して接続される変位要素」は,本件原出願当初明
細書の記載からみて自明な事項であると主張する。
しかし,①本件原出願当初明細書の第4図によれば,「固定基板」に
対して変位を生じる部分は,「作用体及び可撓基板の中心部」だけでは
なく,変位電極が形成されている部分全体であって,可撓性部分を含む
ことは,明らかであること,また,②本件原出願当初明細書の記載全体
をみても,「作用体及び可撓基板の中心部」のみが変位することを窺わ
せる記載はない。したがって,本件原出願当初明細書における「作用体
及び可撓基板の中心部」が,「固定基板」に対して「可撓性部分」を介
して接続される「変位要素」であると,当業者であれば認識できるほど
に自明であるとはいえない(のみならず,正しい認識であるともいえな
い。)。
イ審決の判断3,4について
(ア)前記(1)で認定した本件原出願当初明細書の記載によると,「可撓
基板」は,「装置筐体40」に固定されているから,固定基板に対して,
X方向又はY方向に変位することはないのであって,Fx方向の力が作
用したときには,第4図に記載のように,可撓基板に撓みが生じること
で「可撓基板」及び「作用体」は,固定基板に対して変位するものの,
原告が,「変位要素」であると主張する「可撓基板の中心部分と作用
体」は,全体として,Fx方向に変位しているものとは認められない。
(イ)この点について,原告は,本件原出願当初明細書の第1図及び第4
図を比較すれば,作用体上の各点がX方向に変位していると主張する。
しかし,原告の主張は採用できない。すなわち,本件訂正発明の特許
請求の範囲には,「外部から作用した前記第1の軸方向の力もしくは第
2の軸方向の力に基づいて,前記可撓性部分が撓みを生じることにより,
前記固定要素に対して,前記第1の軸方向もしくは前記第2の軸方向に
変位を生じる変位要素」と規定されていることに照らすならば,「第1
または第2の軸方向に作用した力により固定要素に対して「第1または
第2の軸方向変位する」部分は,「変位要素」の各点を指すのではなく,
「変位要素」全体を指すと理解すべきである。しかるに「変位要素」全
体が,Fx方向の力が作用したときにFx方向に変位するとはいえない
から,原告の主張は,前提において失当である。
したがって,本件原出願当初明細書には,「第1の軸方向または第2
の軸方向に変位する変位要素」が記載されているとはいえない。
以上のとおりであって,審決の判断1ないし4には誤りはない。
ウしたがって,本件原出願当初明細書には,「第1の軸方向または第2の
軸方向に変位する」「変位要素」が記載されているとはいえない。以上の
とおり,審決の判断1ないし4には誤りはない。
2取消事由2(引用発明の認定及び一致点の認定の誤り)について
刊行物2(甲2)の記載(1)
証拠(甲2,12)によると,刊行物1には次の記載がある。
ア「本発明によれば,3軸の加速度計が提供される。この加速度計は,ハ
ウジングと,加えられた力に応答して3つの測定軸に対して変位可能なよ
うにそのハウジング内に取り付けられたマグネットと,マグネットの変位
を検知し,3つの測定軸のそれぞれに沿って加えられた力の成分に比例す
る出力信号を提供する検知手段とを含む。」(1欄32∼40行)
イ「図1を参照して,図示される加速度計1は,導電性のハウジング2を
含む。ハウジング2は,下部ハウジング部分3と上部ハウジング部分4と
から構成されており,ハウジング2とは電気的に絶縁されているケーシン
グ5によって囲まれている。ケーシング5は,磁気的なスクリーニングを
提供するために,ラジオメタルのような軟磁性アロイから作成されている。
サマリウムコバルトの永久マグネット6は,導電性の支持部材7内の円柱
状のボア50の中に受容されることによってハウジング2内に取り付けら
れている。支持部材7は,中央孔8を介して下部ハウジング部分3の中を
延びている。支持部材7は,ネジ51によって導電性の円形の支持ダイヤ
フラム9の中央に接続されている。ネジ51は,ダイヤフラム9を介して
支持部材7の中をネジがきられたボア52に延びている。支持部材7の軸
方向のマグネット6の移動は,Z測定軸に沿っており,ダイヤフラム9の
平面と垂直な方向にダイヤフラム9が変形することによって許容される。
さらに,支持部材7の軸に対して横方向のマグネット6の移動は,ダイヤ
フラム9に平行な平面内で直交するXおよびY測定軸に沿っており,ダイ
ヤフラム9の中心を軸として支持部材7を回転させるようにダイヤフラム
9が撓むことによって許容される。」(2欄14∼39行)
ウ「支持部材7の上部分には,ピックオフキャパシタ14の可動プレート
13を構成する環状のフランジが設けられている。キャパシタ14は,従
来のプリント回路プロセスによって回路板15の下側に形成された固定さ
れた円状のプレートをさらに含み,ネジ16によってハウジング固定され
ている。ネジ16はまた,下部ハウジング部分3と上部ハウジング部分4
とを接続する。図3に示されるように,固定プレート17は,4つのプレ
ート部分18,19,20,21を含む。これらのプレート部分は,互い
に電気的に絶縁されており,中央点22の周りにある共通のプレートに配
置されている。」(2欄47∼57行)。
エ「図3を再び参照して,ピックオフキャパシタ14の4つのプレート部
分18∼21をYA,XA,YB,XBと表記し,これらのプレート部分
のそれぞれと可動プレート13との間の静電容量をC,C,C,CYAXAYB
と表記すると,X,Y,Z軸に沿ってそれぞれ△X,△Y,△Z移動すXB
ることにより,その変形に比例して静電容量が変化する。
XAXB△X∝C−C
YAYB△Y∝C−C
XAXBYAYB△Z∝C+C+C+C
このような軸方向のマグネット6の移動は,可動プレート13と固定プ
レート17との間の静電容量を変化させる。横方向のマグネット6の移動
は,可動プレート13とそれに対向するプレート部分19および21(も
しくは,18および20)との間の差動静電容量に変化を生じさせる。」
(3欄15∼33行)
オ「マグネット6が,可動プレート13とプレート部分19との間の間隔
が増加するように中立位置から移動すると,CはCより小さくなり,XAREF
Vは励起電圧に対して180゜位相がずれることになる。逆に,マグXAΦ
ネット6が,その間隔が減少するように中立位置から移動すると,CはXA
Cより大きくなり,Vはと同位相になる。出力電圧V,V,REFXAXBYAΦ
Vは,プレート部分21,18,20にそれぞれ関連する同様のピックYB
オフ増幅回路によって供給される。」(3欄54∼63行)
カ「増幅器49は,矩形波電圧VとVとの差に応じた直流出力を発生XAXB
させ,この直流出力は,X軸フォースコイル30,32および電流検出抵
抗58を流れる復帰電流を生じさせる。フォースコイル30,32を流れ
る電流の方向は,マグネット6を中立位置に戻す方向であり,ピックオフ
キャパシタ14の可動プレート13がプレート部分19,21に関して左
右対称に配置されるようにする方向である。」(4欄30∼38行)
(2)以上認定した刊行物1の記載から,引用発明に関して次の事実が認めら
れる。
ア加えられた力に応答してX軸,Y軸,Z軸の3つの測定軸に対して変位
可能にそのハウジング内に取り付けられたマグネットと,マグネットの変
位を検知し,3つの測定軸のそれぞれに沿って加えられた力の成分に比例
する出力信号を提供する検知手段を有する。
イピックオフキャパシタ14の4つのプレート部分18ないし21をYA,
XA,YB,XBとし,それらと可動プレート13との間の静電容量C,YA
C,C,Cは,マグネットがX,Y,Z軸に沿ってそれぞれ△X,XAYBXB
△Y,△Z移動することにより,その移動に比例して静電容量が変化する。
ウVは,CがCよりも大きくなる場合には,と同相の矩形電圧XAXAREFφ
であって,そのパルス幅がCとCとの差に応じた出力信号を生成し,XAREF
逆に,CがCよりも小さくなる場合には,と逆相の矩形電圧であXAREFφ
って,そのパルス幅がCとCとの差に応じた出力信号を生成するもXAREF
のである。そして,Vは,Cについてのものであることを除いて,VXBXB
と同様である。XA
エ増幅器49は,矩形波電圧VとVとの差に応じた直流出力を発生さXAXB
せ,この直流出力は,X軸フォースコイル30,32および電流検出抵抗
58を流れる復帰電流を生じさせる。
この復帰電流は,外部から加えられた力によって変位するマグネットを,
中立位置に復帰させるとともに,その位置に留まらせるためのものである
から,加えられた力の成分の大きさに応じて変化する。また,この復帰電
流は,VとVの差に応じた直流電流であるのであるから,復帰電流のXAXB
大きさは,CとCの容量差に相当する量である。XAXB
オY軸方向も,X軸方向と同様に,CとCの容量差を検出して,Y軸YAYB
方向に加えられた力の方向と大きさを検出するから,Y軸方向に加えられ
た力の方向と大きさを検出する検出回路を有する。
カ以上を総合すると,引用発明は,X軸方向又はY軸方向に加えられた力
により,変位するマグネットの変位量をCとC又はCとCの容量XAXBYAYB
値の差として検出し,マグネットを中立位置に戻す為にCとCまたはXAXB
CとCの容量差に応じた復帰電流の大きさにより,X軸方向またはYYAYB
軸方向に加えられた力の方向と大きさを検出する検出回路が記載されてい
るものと認められる。
(3)そうすると,引用発明には,「前記第1の容量素子の容量値と前記第2
の容量素子の容量値との差を,前記第1の軸方向に作用した力方向成分を示
す検出信号として出力し,前記第3の容量素子の容量値と前記第4の容量素
子の容量値との差を,前記第2の軸方向に作用した力方向成分を示す検出信
号として出力する検出回路」が記載されているものと認められる。
この点について,原告は,本件訂正発明1が,作用体に作用する力により
変位した容量差を測定することで,加えられた力の大きさを測定するもので
あるのに対して,引用発明は,加えられた力によりマグネットが変位しない
ようにするための力を復帰電流の大きさで検出している点で相違するとして,
両者は検出原理が異なると主張する。
しかし,原告の主張する本件訂正発明1の検出原理は,特許請求の範囲の
記載から窺えるものではなく,本件訂正明細書の実施例の記載を参酌しては
じめて窺えるものであり,その参酌の必要がないにもかかわらず実施例の構
成に限定するものであるから,失当である。
よって,取消事由2は理由がない。
3取消事由3(相違点の容易想到性の判断の誤り)について
刊行物の記載(1)
ア刊行物3(甲3)には,次の記載がある。
(ア)「本発明は,フラット形振子構造を用い,該構造体の面内に感応軸
線がある加速度計用センサに関する。特に本発明は,前記振子構造が例
えばシリコン或いは石英からなる結晶性ウエハを微細機械加工して形成
され,且つ平形試験体の面内の2つの可撓性平行ブレードにより懸架さ
れた前記試験体よりなる加速度計用センサに関する。」(3頁左上欄1
7行∼右上欄4行)
(イ)「第1図は本発明による振子構造の基本的配置を示すものである。
上記のように,この構造は平面状であり,結晶性シリコン或いは石英ウ
エハの微細機械加工により単一片に形成され,これは更に集積電子回路
の基板として用いられる。」(4頁右上欄12∼16行)
(ウ)「この振子構造は固定部分又はベース1からなり,これには同じ長
さの2つの平行する可撓性ブレード4,5の下端部,即ち足部2,3が
固着され,それ等の上端部に,2つの可撓性ブレード4,5間空間内に
大部分が延在するほぼ直線状の試験体6を支承する。」(4頁右上欄1
7行∼左下欄2行)
(エ)「この図からわかるように,振子構造は,結晶性ウエハ内に,可撓
性ブレード4,5の内部エッジ7と,2つの横方向エッジ9,10,及
び試験体6の長手方向内部エッジ11と,更に振子構造の固定部分の1
内部エッジ12とを形成するU字形窪みを形成して得られる。同様に,
可撓性ブレード4,5の外部エッジ8と試験体6の長手方向外部エッジ
13とは逆U字形切欠きにより得られる。」(4頁右下欄10行∼18
行)
イ刊行物4(甲4)には,その従来技術として「第5図は微小加速度セン
サーを示す断面図である。これはSi基板1の上に,不純物をドープした
ポリSi層2をSiN等の絶縁層3でサンドイッチした微小な片持梁4を
設けると共に,該片持梁4に対向してSi基板1に不純物を拡散させて高
導電層5を形成したものである。」(1頁右欄15行∼20行)との記載
がある。
(2)判断
以上によると,甲3の「振子構造」は,シリコンにより形成され,固定部
分又はベース1と,可撓性ブレード4,5と,試験体6とを有しているもの
であると認められる。そして,「固定部分又はベース1」は本件訂正発明1
の「固定要素」に相当し,「試験体6」は,固定部分に又はベース1に対し
て,可撓性ブレードを介して取り付けられるものであるから,本件訂正発明
1の「変位要素」に相当するものといえる。そうすると,甲3では,「固定
部分又はベース1」及び「試験体6」に相当する本件訂正発明1の「固定要
素」及び「変位要素」をシリコンによって形成するとの技術事項が開示され
ているといえる。また,加速度センサの分野において,導電性を高める必要
のある電極を不純物を含むシリコンとすることは周知である(甲4)。
(3)原告の主張に対し
この点について,原告は,シリコンが適用される部材は平面状であるのに
対し,引用発明の装置の構造は,平面構造を採用するものではないから,
シリコンを加工して引用発明の装置を形成することは困難であると主張す
る。しかし,審決がシリコンを用いることを当業者が適宜なし得ると判断し
ている部分は,「回路板15等」,「可動プレート13を構成する環状フラ
ンジ等」であり,これらはいずれも平面構造の部材である。そして,可動プ
レート13を構成する環状フランジを,シリコンにより形成すれば,可動プ
レート13は,シリコンにより形成された環状フランジにより構成されるこ
とになる。そうすると,引用発明の構造が平面構造ではないことを理由とし
て,引用発明に甲3記載の周知技術を適用することが困難であるとする原告
の主張は失当である。
また,原告は,本件訂正発明1は,温度補償を行なうことなく,力,加速
度,磁気などの物理量を検出することができる検出装置を安価に実現し得る
ようになるという予測できない顕著で有利な効果を奏すると主張する。しか
し,これらの効果は,上記認定の引用発明から予測可能な効果であるから,
原告の上記主張は理由がない。
4結論
以上のとおり,本件訂正発明1は,特許出願の際独立して特許を受けること
ができない発明であり,本件訂正は許されないとした審決には,原告主張の取
消事由はなく,その他,審決の結論に影響を及ぼす誤りも認められない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決
する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官三村量一
裁判官上田洋幸

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