弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1近畿運輸局長が平成20年2月27日付けで原告に対して
した一般乗用旅客自動車運送事業に係る旅客の運賃及び料金
の変更認可申請を却下する旨の処分(平成20年近運自二第
1068号)を取り消す。
2近畿運輸局長は,原告に対し,別紙第1記載のとおり一般
乗用旅客自動車運送事業に係る旅客の運賃及び料金を変更す
ることを認可する旨の処分をせよ。
3被告は,原告に対し,20万円及びこれに対する平成20
年4月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支
払え。
4原告のその余の請求を棄却する。
5訴訟費用はこれを3分し,その1を原告の負担とし,その
余を被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1主文1項及び2項同旨
2被告は,原告に対し,500万円及びこれに対する平成20年4月17日
(乙事件に係る訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金
員を支払え。
第2事案の概要
本件は,大阪市及びその周辺で個人タクシー事業を営む原告が,近畿運輸局
長に対し,初乗運賃を480円に値下げすることなどを内容とするタクシー事
業に係る旅客の運賃及び料金の変更認可申請をしたが,同局長から他の事業者
との間の不当な競争を引き起こすおそれについて規定した道路運送法9条の3
第2項3号の基準に適合しないとして同申請を却下する旨の処分を受けたため,
同却下処分の取消しとともに,上記申請に応じた運賃等の変更認可処分の義務
付けを求めた事案(甲事件)につき,当裁判所が,平成19年3月14日,行
政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)37条の3第6項前段に基づき,上
記却下処分の取消しを求める訴えについてのみ認容する終局判決をしたところ,
同局長が,平成20年2月27日,原告に対し,再度,同申請を却下する旨の
処分を行ったことから,原告が,同却下処分の取消しを求めるとともに,国家
賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づき,被告に対し慰謝料とし
て500万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めて,行訴法19条に基
づき,甲事件の義務付けの訴えに追加的に併合提起した事案(乙事件)である。
1道路運送法の定め
(1)道路運送法2条3項は,「旅客自動車運送事業」とは,他人の需要に応じ,
有償で,自動車を使用して旅客を運送する事業をいう,と規定し,同法3条
は,旅客自動車運送事業の種類は,①一般旅客自動車運送事業(特定旅客自
動車運送事業以外の旅客自動車運送事業),②特定旅客自動車運送事業(特
定の者の需要に応じ,一定の範囲の旅客を運送する旅客自動車運送事業)と
し,一般旅客自動車運送事業(上記①)の種類は,イ一般乗合旅客自動車運
送事業(乗合旅客を運送する一般旅客自動車運送事業),ロ一般貸切旅客自
動車運送事業(一個の契約により国土交通省令で定める乗車定員以上の自動
車を貸し切つて旅客を運送する一般旅客自動車運送事業),ハ一般乗用旅客
自動車運送事業(一個の契約によりロの国土交通省令で定める乗車定員未満
の自動車を貸し切つて旅客を運送する一般旅客自動車運送事業)とする,と
規定している。
なお,タクシー業務適正化特別措置法2条は,上記ハの一般乗用旅客自動
車運送事業を経営する者がその事業の用に供する自動車のうち,当該自動車
による運送の引受けが営業所のみにおいて行われるものを「ハイヤー」,そ
れ以外の自動車を「タクシー」とそれぞれ定義し,タクシーを使用して行う
一般乗用旅客自動車運送事業を「タクシー事業」,タクシー事業を経営する
者を「タクシー事業者」とそれぞれ定義している。また,タクシー業務適正
化特別措置法施行規則29条1項2号は,当該許可を受ける個人のみが自動
車を運転することにより当該事業を行うべき旨の条件の附された一般乗用旅
客自動車運送事業の許可を受けた者を「個人タクシー事業者」としている
(以下,用語については上記の各定義に従う。)。
(2)道路運送法9条の3第1項は,一般乗用旅客自動車運送事業者(一般旅客
自動車運送事業を経営する者をいう。同法8条4項)は,旅客の運賃及び料
金(旅客の利益に及ぼす影響が比較的小さいものとして国土交通省令で定め
る料金を除く。以下,単に「運賃等」ということがある。)を定め,国土交
通大臣の認可を受けなければならない,これを変更しようとするときも同様
とする,と規定している。同法9条の3第2項は,国土交通大臣は,上記の
認可をしようとするときは,①能率的な経営の下における適正な原価に適正
な利潤を加えたものを超えないものであること(1号),②特定の旅客に対
し不当な差別的取扱いをするものでないこと(2号),③他の一般旅客自動
車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないもの
であること(3号),④運賃及び料金が対距離制による場合であって,国土
交通大臣がその算定の基礎となる距離を定めたときは,これによるものであ
ること(4号),という基準によって,これをしなければならない,と規定
している。
なお,第171回国会において可決成立した,特定地域における一般乗用
旅客自動車運送事業の適性化及び活性化に関する特別措置法の附則において,
道路運送法9条の3第2項1号の規定の適用については,当分の間,「加え
たものを超えないもの」とあるのは,「加えたもの」とすることとされた
(ただし,上記特別措置法はまだ施行されていない。)。
2前提となる事実等(当事者間に争いのない事実及び証拠等により容易に認め
られる事実等。以下,書証番号は特に断らない限り枝番を含むものとする。)
(1)当事者等(甲1から3まで,弁論の全趣旨)
ア原告は,国土交通大臣からその権限の委任を受けた近畿運輸局長から,
平成13年3月28日付けで,事業区域を大阪市,豊中市,吹田市,守口
市,門真市,東大阪市,八尾市,堺市及び大阪国際空港(池田市のうち空
港地域に限る。),使用する事業用自動車を1両などとして,一般乗用旅
客自動車運送事業の許可を受け,同年4月20日から,同許可に係るタク
シー事業(以下「本件タクシー事業」という。)を営んでいる個人タクシ
ー事業者である。
原告が本件タクシー事業において使用する事業用車両は,運賃等の適用
上,小型車(道路運送車両法施行規則2条に定める小型自動車のうち自動
車の長さが4.6m未満で乗車定員5名以下のもの)に区分され,燃料の
種類はガソリン(ハイブリッド車)である。
イ近畿運輸局長は,道路運送法88条2項,同法施行令1条2項に基づき
国土交通大臣から近畿地区におけるタクシー事業の運賃及び料金を認可す
る権限の委任を受けた,被告に所属する行政庁である。
(2)運賃等の下限規制の緩和(甲15から17まで,顕著な事実)
道路運送法及びタクシー業務適正化臨時措置法の一部を改正する法律(平
成12年法律第86号)は,第147回国会衆議院運輸委員会及び同参議院
交通・情報通信委員会における審議を経て,平成12年5月26日,同国会
で可決成立し,平成12年政令第532号により平成14年2月1日に施行
された(以下,この道路運送法の改正を「平成12年改正」という。)。
平成12年改正前の道路運送法(以下「旧道路運送法」という。)9条2
項は,一般乗用旅客自動車運送事業を含む一般乗合旅客自動車運送事業等の
運賃変更の認可基準として,「能率的な経営の下における適正な原価を償い,
かつ,適正な利潤を含むものであること」(1号)を掲げることにより,運
賃等の下限を規制していたが,平成12年改正によりこの下限規制は撤廃さ
れ(平成12年改正後の道路運送法9条の3第2項1号の「能率的な経営の
下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであるこ
と」という基準は,運賃等の上限規制である。),一般乗用旅客自動車運送
事業の運賃等の下限規制としては,道路運送法9条の3第2項3号の「他の
一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそ
れがないものであること」を残すのみとなった。
(3)本件事案の経緯(甲3から7まで,22,顕著な事実)
ア原告は,平成14年11月26日,近畿運輸局長に対し,本件タクシー
事業に係る旅客の運賃及び料金の変更認可申請をした。そして,原告は,
平成15年10月1日,上記申請の内容を別紙第1記載のとおりに変更し
た(以下,これにより変更された後の本件タクシー事業に係る旅客の運賃
及び料金の変更認可申請を「本件申請」という。)。
イ近畿運輸局長は,平成16年2月13日付けで,原告に対し,書面で,
本件申請を却下する旨の処分(平成16年近運自二第1077号。以下
「本件却下処分」という。)をした。
ウ原告は,本件却下処分を不服として,平成16年4月12日,国土交通
大臣に対し,本件却下処分の取消しを求めて審査請求をした。国土交通大
臣は,平成17年1月24日付けで,原告に対し,道路運送法9条の3第
2項3号の基準に適合しないとして本件申請を却下した近畿運輸局長の判
断に誤りはないとして,上記審査請求を棄却する旨の裁決をした。
エ原告は,平成17年4月22日,当裁判所に対し,本件却下処分の取消
し及び近畿運輸局長に対し本件申請に応じた運賃及び料金の変更認可処分
をすべき旨を命ずることを求めて,本件訴え(甲事件)を提起した。
オ当裁判所は,平成19年3月14日,行訴法37条の3第6項前段に基
づき,本件却下処分の取消しを求める請求についてのみ認容する終局判決
(以下「前判決」という。)をした。被告は,前判決について控訴せず,
前判決は控訴期間の経過により確定した。
カ近畿運輸局長は,平成20年2月27日,再度,本件申請に係る運賃等
の変更は道路運送法9条の3第2項3号にいう「他の一般旅客自動車運送
事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであ
ること」の基準に適合しないとして,本件申請を却下する旨の処分(平成
20年近運自二第1068号。以下「本件再却下処分」という。)をした。
本件再却下処分の理由は,別紙第2記載のとおりである。
キ原告は,平成20年4月9日,当裁判所に対し,本件再却下処分の取消
し及び国賠法に基づく損害賠償を求める訴え(乙事件)を,甲事件の義務
付けの訴えに追加的に併合提起した。
(4)近畿運輸局長における道路運送法9条の3第2項の審査基準(甲10,乙
4,5,弁論の全趣旨)
ア近畿運輸局長は,平成14年1月18日付けで,道路運送法9条の3第
2項に基づく審査基準として,「一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び
料金の認可申請の審査基準について」(平成14年近運旅二公示第11号。
以下「審査基準公示」という。)を公示した。本件再却下処分当時の審査
基準公示の内容は,別紙第3記載のとおりである。審査基準公示では,道
路運送法施行規則10条の3第3項により運賃等の認可申請に当たって原
価計算書等の添付の必要がないと認める場合として設定された自動認可運
賃に該当する運賃等の認可申請については速やかに処理を行うものとし,
これに該当しない申請の認可に当たっては個別に審査することとしている。
なお,本件却下処分後の平成16年10月1日改正により,審査基準公
示別紙4の第4の4として,「個人タクシー事業者に係る運賃認可の取扱
いについて」の項目が追加された。その内容は,「個人タクシー事業者が,
自動認可運賃を下回る運賃を設定しようとする場合であって,既存の法人
タクシー事業者において認可されていない運賃を設定しようとするときは,
当該個人タクシー事業者の申請に係る原価の算定に当たっては,当該申請
に係る運賃適用地域における原価計算対象事業者の標準人件費の9割に相
当する額を所要の人件費として計上するものとする。」というものである。
イ近畿運輸局長は,平成14年1月18日付けで,審査基準公示に基づき,
「一般乗用旅客自動車運送事業の自動認可運賃について」(平成14年近
運旅二公示第12号。以下「自動認可運賃公示」という。)を公示した。
自動認可運賃公示の大阪地区の運賃・料金の定めによれば,大型車・中型
車・小型車別の初乗運賃(2.0㎞),加算運賃及び時間距離併用制運賃
は,それぞれ次のとおりである。
①大型車
上限運賃680円235m80円1分25秒80円
下限運賃610円264m80円1分35秒80円
②中型車
上限運賃660円273m80円1分40秒80円
下限運賃590円306m80円1分50秒80円
②小型車
上限運賃640円305m80円1分50秒80円
下限運賃570円345m80円2分5秒80円
(5)前判決の示した判断基準等
ア道路運送法9条の3第2項3号にいう「不当な競争を引き起こすことと
なるおそれ」の意義(前判決57頁19行目から58頁7行目までを抜
粋)
「(現行)道路運送法9条の3第2項3号にいう「他の一般旅客自動車運
送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれ」とは,他の
一般旅客自動車運送事業者との間において過労運転の常態化等により輸送
の安全の確保を損なうことになるような旅客の運賃及び料金の不当な値下
げ競争を引き起こす具体的なおそれをいうものと解するのが相当であり,
そのようなおそれのある運賃等に該当するか否かについては,当該運賃等
が能率的な経営の下における適正な原価,すなわち,個々の一般乗用旅客
自動車運送事業者がその事業を運営するのに十分な能率を発揮して合理的
な経営をしている場合において必要とされる原価を下回るものであるか否
かという観点のほか,当該事業者の市場の中での位置付け,当該運賃等を
設定した意図等を総合的に勘案して判断すべきであるところ,このような
判断は,専門的,技術的な知識経験及び公益上の判断を必要とするもので
あるから,同号の基準に適合するか否かの判断については,国土交通大臣
及びその権限の委任を受けた地方運輸局長にある程度の裁量権が認められ
るものと解される。」
イ審査基準公示の定める運賃査定によっては平年度における収支率が10
0%に満たない運賃等の設定等が道路運送法9条の3第2項3号の基準に
適合するか否かの判断基準(前判決69頁10行目から70頁11行目ま
で,80頁5行目から同頁19行目までを抜粋)
「以上説示したところからすれば,このような運賃等(注:審査基準公示
の定める運賃査定によっては収支率が100%に満たない運賃等)の申請
が同項3号にいう「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を
引き起こすこととなるおそれがないものであること」の基準に適合するか
否かについては,当該申請に係る運賃等の額の運賃査定額からのかい離の
程度,当該申請に係る運賃等が当該申請者がその事業を運営するのに十分
な能率を発揮して合理的な経営をしている場合において必要とされる原価
(能率的な経営の下における適正な原価)を下回るものであるか否か,下
回るものであるとすればその程度(上記の意味における適正な原価を著し
く下回るものである場合には,当該申請者について不当な競争により他の
一般旅客自動車運送事業者を排除する意図,すなわち,いわゆるダンピン
グの意図の存在が推認される場合もあろう。),当該申請に係る当該申請
者の運転者1人当たり平均給与月額(添付書類に基づくもの)と標準人件
費(原価計算対象事業者の運転者1人当たりの平均給与月額の平均の額)
とのかい離の程度に加えて,当該運賃適用地域の立地条件,規模(都市部
か地方部か,人口密集地域か否か,当該地域における他の公共交通機関の
事業展開の内容,態様等),当該運賃適用地域における市場の構造,特性
等(タクシー事業者の構成(大規模法人による寡占状態か中小規模の事業
者を中心とする構造か等),タクシー事業の営業形態(流し営業が中心か
車庫待ち営業が中心か等),利用者の利用の実態(近距離利用か遠距離利
用か,配車利用か否か等),当該地域において設定されている運賃及び料
金の内容,態様等),当該申請者の種別(いわゆる法人タクシーか個人タ
クシーか等),企業規模,営業形態,運転者の賃金構造等,当該地域にお
ける需給事情(供給過剰地域か否か,供給過剰の程度等),運転者の賃金
水準,さらには一般的な経済情勢等を総合勘案した上,当該申請を認可す
ることにより他の一般旅客自動車運送事業者との間において過労運転の常
態化等により輸送の安全の確保を損なうことになるような旅客の運賃及び
料金の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれがあるか否かを社会
通念に従って判断すべきである。」「本件認可申請に係る運賃の設定が上
記の具体的なおそれがあると認められるか否かについては,以上説示した
諸事情のほか,原告の営業区域である大阪府域におけるタクシー事業者の
構成(個人タクシー事業者の車両数に占める割合及び売上高に占める割合
等),法人タクシー事業者及び個人タクシー事業者の各営業形態,利用者
の利用の実態,運賃及び料金の内容,態様等に加えて,距離制運賃の初乗
運賃を500円とする運賃ないし5000円を超える金額について5割引
の遠距離割引運賃とする運賃といった低額運賃の認可を受けた事業者のそ
の後の営業実績の推移,売上高に占める割合,利用者の利用状況,当該運
賃の設定に対する他の事業者の対応,追随状況など当該認可が当該区域の
市場に及ぼした影響の内容,態様,程度等をも総合勘案した上,本件認可
申請を認可することにより他の一般旅客自動車運送事業者との間において
過労運転の常態化等により輸送の安全の確保を損なうことになるような旅
客の運賃及び料金の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれがある
か否かを社会通念に従って判断すべきである。」
第3主たる争点
本件の主たる争点は,①本件再却下処分の違法性,②本件申請の認可を義務
付けることの可否,③国家賠償請求の可否,であり,争点に関する当事者の主
張の概要は,次のとおりである。
1本件再却下処分の違法性(争点①)について
(被告の主張)
(1)総論
本件再却下処分は,前判決の示した判断基準にのっとって,(A)当該運
賃等が能率的な経営の下における適正な原価を下回るものであるか否かとい
う観点のほか,(B)当該事業者の市場の中での位置付け,(C)当該運賃
等を設定した意図等を総合的に勘案し,本件申請に係る運賃等は他の一般旅
客自動車運送事業者との間において過労運転の常態化等により輸送の安全を
損なうことになるような旅客の運賃及び料金の不当な値下げ競争を引き起こ
す具体的なおそれがあると判断して行ったものである。
(2)本件申請に係る運賃等が能率的な経営の下における適正な原価を下回るも
のであるか否かについて(A)
ア①本件申請に係る運賃等の額は,平年度の収支率が82.37%で,運
賃査定額を18%弱も下回る低額のものであり,本件再却下処分時ころの
ガソリンの実勢価格は本件申請時の査定数値と比べて64.0%も高くな
っており,これをもとに査定すると収支率は78.95%となること(な
お,他のタクシー事業者が一般に使用する自動車用LPガスの価格につい
てみても,平成14年度の平均価格と比べて44.4%も高くなってい
る。),②本件申請に係る運賃等に値下げした場合,値下げ前の収入を維
持するには走行距離及び労働時間を増やす必要が生じ,これを安定的に継
続するには相当な無理が強いられることとなり,実際上かなり困難である
こと,③審査基準公示において,個人タクシー事業者の人件費と標準人件
費とのかい離の程度は10%を限度としているところ,本件申請における
原告の人件費月額(16万円)と標準人件費を10%下回る額(27万0
899円)とのかい離の程度は約40%もある上,平成16年度の大阪府
内のタクシー運転者の月額平均賃金(25万6650円)と比較しても相
当低額であること,④大阪府内のタクシー運転者の月額平均賃金は,全産
業男性平均の3分の2程度である上,低下率も高い(10年間で28.4
%)こと,⑤初乗運賃を500円とする運賃(以下「ワンコイン運賃」と
いい,これに遠距離割引5000円超5割引を併用する運賃を「最低額運
賃」という。)や自動認可運賃より低額の運賃(以下「下限割れ運賃」と
いう。)の設定でさえ,まだまだ事業として継続的に成立し得る状況にな
いことからすれば,本件申請に係る運賃等が能率的な経営の下における適
正な原価を下回るものであることは明らかである。
イ原告は,標準人件費の90%という人件費の基準は絶対的なものとはい
えず,法人タクシー事業者では労使間の同意により排除できるものである
から,個人タクシー事業者の場合は労使一体といえるので,同基準を当然
とすべきではないし,実際,法人タクシー事業者では大型や中型でも初乗
り500円などの運賃認可が行われており,近畿運輸局長の審査は不公平
であると主張する。
しかし,個人タクシー事業者においては,事業主たる運転手がその事業
内容を自在に決定でき,人件費を規定する制度的枠組みがないことから,
法人タクシーが実施することのできない極端に低額の運賃を設定すること
も可能である。そのため,個人タクシー事業者と法人タクシー事業者の競
争条件が必ずしも公正なものとならないことから,個人タクシー事業者の
人件費について法人タクシー事業者との競争条件の均衡を保つため,標準
人件費を10%下回る額としている。法人タクシー事業者が労使間の同意
により排除できるのはまさに労使関係があるからであって,労使関係のな
い個人タクシー事業者が自由にこれを排除できることとなるものではない。
(3)原告の市場の中での位置付けについて(B)
ア低額運賃への追随傾向
原告の営業地域が,いわゆる「流し営業」が成り立つ都市部の人口密集
地域であること,利用者の利用形態が,仕事や急用時にタクシー乗り場や
流しのタクシーを利用するというものであること,平成19年3月末にお
ける個人タクシー事業者数は4406者で全車両に占める割合は19%に
すぎないこと,原告が個人タクシー事業者であることからすれば,本件申
請に係る運賃設定による市場への影響は一見少なく思えそうである。
しかしながら,①利用者のタクシーの選択基準として,運賃の安さがか
なりの割合を占めていること,②原告の営業区域でもある大阪市域におい
ては,タクシー事業の供給過剰状況にあり,需給ギャップが拡大した地域
であること,③ワンコイン運賃を設定する個人タクシー事業者は,平成1
6年2月末当時は261者にすぎなかったのが,平成20年1月末には4
46者に至っており,事業者全体をみても,その割合が全体の1.9%に
すぎなかったのが,平成20年1月末には全体の7.7%に達し,それに
自動認可運賃を下回る運賃の設定をする事業者の車両数を併せると10.
9%に達していること,④新規参入事業者がワンコイン運賃を「売り」に
して参入しており,新規参入事業者及びワンコイン運賃事業者の間では値
下げ圧力が相当程度存在し,これは全国的には運賃の値上げ改定の情勢に
あるにもかかわらず,大阪府域では運賃改定が実現しないことからも明ら
かであること,⑤前判決後,自動認可運賃を下回る運賃を設定している法
人タクシー事業者から,初乗り480円に変更することが可能かという問
い合わせがあり,現実に,大型車初乗り450円という申請がされている
こと(なお,結局は初乗り500円に変更するという追加申請がされ
た。),⑥原告の営業地域においては,個人タクシー事業者が約2割を占
めており,本件申請が認可されれば,これに追随する個人タクシー事業者
が生じることが予想され,その結果,法人タクシー事業者も追随せざるを
得ない状況に追い込まれかねないことからすれば,さらなる低額運賃の設
定が認可された場合には,その影響を強く受け,これに追随する動きが生
ずる市場であることは明らかである。
イ低額運賃による問題の発生
本件申請に係る地域は,既に,最低額運賃ないし下限割れ運賃を設定す
る事業者の存在によって,問題の生じている市場である。すなわち,①下
限割れ運賃設定事業者の中には,コスト削減のために安全確保を怠るなど
の不適切な事業運営を行っている者がおり,行政処分等の対処がされてい
ること,②大阪市域交通圏は,下限割れ運賃をはじめとする多種多様な運
賃・料金が設定され,事業者間の競争が激化し,規制緩和後の車両数の増
加数が著しく,交通事故件数が全国平均より高いため,道路運送法8条に
規定するタクシー事業に係る緊急調整措置の発動を抑止するための予防措
置として,著しい供給過剰を未然に防止するための各種施策を講じる準特
定特別監視地域として近畿運輸局長により個別指定されるに至っているこ
と,③乗客獲得競争の激化により,タクシー運転者の長時間労働や労働環
境が悪化しており,運転者の過重労働等により利用者の輸送の安全が脅か
されるおそれがあるとして,近畿管区行政評価局による調査が行われてい
ること,④現時点においても,運賃の低額競争が激化しており,タクシー
運転者の違法行為が公然と行われる状況となっていることがうかがえるこ
とから,本件申請に係る運賃等の設定を認可した場合,当然これに追随す
る事業者が生じることとなり,それら事業者が他の事業者のタクシー運転
手に一層の心理的影響を与え,その結果,過労運転の常態化や交通事故の
多発という問題を生じさせてしまうおそれは極めて高いといえる。
(4)本件申請の意図について(C)
原告の本件申請の意図は,前判決でも認定されているとおり,「安売り競
争に参加するなら,法人の追随を許さない設定が必要であると考えた,個人
を本気で怒らせたら法人はついて来れないよというところまでやって,願わ
くば不毛の争いに終止符を打ちたい」というものであり,法人の追随を許さ
ない運賃設定をして,値下げ競争に歯止めをかけるという逆説的なもので,
利潤を度外視したものであった。
しかし,上記のような行政処分や準特定特別監視地域の指定等,公正な競
争環境を確保するための施策は順次行われていることから,原告が意図する
ような逆説的な運賃設定をあえて認める必要はないばかりか,本件申請に係
る運賃の設定を認めることは,結局,他のタクシー事業者の追随によって,
市場に大きな問題を生じさせることは明らかである。
(5)小括
以上のとおり,本件申請に係る運賃等が能率的な経営の下における適正な
原価を下回るものであり,原告自身,利潤を度外視して本件申請を行ってい
るところ,低額運賃の影響を受けやすく,既に過労運転等の問題が生じてい
るという原告の市場の状況にかんがみると,本件申請に係る運賃等の設定が
認可された場合には,これを受けて,他のタクシー事業者も追随して原価を
償わないまま値下げ競争に参入することとなり,その結果,他の事業者に先
んじて旅客を獲得し,また,運賃を下げた部分を補うため,総走行距離を増
やす等,タクシー運転手の過労運転の常態化をもたらし,さらにはそれによ
って交通事故の発生等,輸送の安全確保を損なう事態を生じさせることは明
らかである。
よって,本件申請に係る運賃等の設定には,他の一般旅客自動車運送事業
者との間において過労運転の常態化等により輸送の安全の確保を損なうこと
になるような旅客の運賃及び料金の不当な値下げ競争を引き起こす具体的な
おそれがあるといえ,本件再却下処分にはなんら裁量権の逸脱又は濫用の違
法はなく,適法である。
(原告の主張)
(1)具体的なおそれについて
前判決は,被告に対して,「当該申請を認可することにより他の一般旅客
自動車運送事業者との間において過労運転の常態化等により輸送の安全の確
保を損なうことになるような旅客の運賃及び料金の不当な値下げ競争を引き
起こす具体的なおそれ」の主張立証を求めている。ここで必要とされている
のは,「具体的なおそれ」であって「抽象的なおそれ」ではない。しかし,
被告は,当該運賃申請が道路運送法9条の3第2項3号の基準に適合しない
という結論を導くに当たり,輸送の安全の確保を損なうかもしれない「抽象
的なおそれ」を列挙するのみで,「具体的なおそれ」を立証できていない。
(2)収支率のかい離について
被告は,本件申請に係る運賃等の額は,平年度の収支率が82.37%で,
運賃査定額を18%弱も下回る低額のものであるし,ガソリン価格につき最
近の実勢価格で査定すると収支率は78.95%となると主張する。
しかし,収支率については,人件費について被告が主張する標準人件費を
10%下回る額によらず,原告の申請による実際の数字で計算すれば収支率
は100%を超えるのであり,直ちに原価を下回っているとはいえない。し
かも,標準人件費の90%という基準は絶対的なものではない。審査基準公
示によれば,法人タクシー事業者では労使間の同意により当該基準を排除で
きるとされているのである。個人タクシー事業者の場合は労使一体ともいえ
るのであるから,このような基準を当然の前提として計算すべきではない。
実際,法人タクシー事業者については,中型初乗り500円,大型初乗り5
00円などの運賃認可が行われており,標準人件費を前提とすればこれらの
運賃設定は原価をかなり下回っていると思われることからすると,近畿運輸
局の審査は不公平である。
また,被告の主張を前提としても,収支率82.37%はダンピング運賃
であることを推定させる程度のかい離とはいえない。すなわち,私的独占の
禁止及び公正取引の確保に関する法律の2条9項に基づき公正取引委員会が
指定した不公正な取引方法一般指定6項前段は,「その供給に要する費用を
著しく下回る対価で継続して供給し(中略)他の事業者の事業活動を困難に
させるおそれがあること」をダンピング行為として違法と定めているが,こ
こで「著しく下回る対価」とは,多くの審決例によると,基準となる原価か
ら30数%から40%程度下回った価格であるとされている。本件で被告が
主張する収支率のかい離はせいぜい20%程度であり,到底,上記の基準に
は達していない。
(3)本件申請が他の事業者に与える影響について
被告は,本件申請に係る運賃等の設定が認可された場合には,これを受け
て,他のタクシー事業者も追随して原価を償わないまま値下げ競争に参入す
ることとなり,その結果,他の事業者に先んじて旅客を獲得し,また,運賃
を下げた部分を補うため,総走行距離を増やす等,タクシー運転手の過労運
転の常態化をもたらし,さらにはそれによって交通事故の発生等,輸送の安
全確保を損なう事態を生じさせることは明らかであると主張する。
しかし,かかる主張は論理の飛躍であり,実証的な根拠を欠くものである。
大阪市域において,過去にワンコイン運賃の設定に追随する個人タクシー事
業者が現れなかったことは既に立証されている。前判決以後の運賃値下げ申
請もわずかに法人1社であり,それも修正申請に終わっている。
また,被告は,本件申請に係る運賃等の設定の認可と,運送安全の確保が
損なわれる事態の因果関係の説明として,タクシー運転手の心理的な影響を
主張している。しかし,規制緩和による安全性低下のおそれという主張はし
ばしばされるが,運賃値下げ競争が輸送の安全確保の毀損に関連していると
いう社会心理学的な実証データは存在しないのであり,被告の主張は科学的
根拠を欠いている。
しかも,被告の主張は,その前提としている事実認識を誤っている。すな
わち,①被告は,大阪府内の法人タクシーの運送収入は,この10年間で約
3割減少したと主張するが,10年前と比較した運送収入の減少は,明らか
に不況の影響によるものであり,運賃値下げによるものではない。規制緩和
後の最低額運賃の輸送実績等をみると,平成15年以降,最近数年間は逆に
運送収入が増加している。また,②被告は,実車率が10年前に比べると1
0ポイント低下したと主張するが,これも近年の不況によるタクシー利用の
減少が主な要因である。大阪府の法人タクシーの輸送実績をみると,平成1
6年以降の実車率は逆に増加する傾向にある。また,③被告は,運賃を下げ
た部分を補うため,走行距離を増やす等,タクシー運転手の過労運転の常態
化をもたらすと主張するが,平成16年以降,大阪市域のタクシー全体の総
走行キロは減少している。また,最低額運賃のタクシーの総走行距離が大阪
市域の法人タクシーに比較して長いとはいえ,その差はわずかであり(1日
1車あたり約30㎞),最低額運賃のタクシーは実車率が比較的高いことも
考えると,収入を維持するために無理に走行距離を長くしているとは言い切
れない。また,平成19年に実施された監査結果からは,必ずしも最低額運
賃を設定した事業者に過労運転が多いとはいえない。さらに,④大阪市域に
おける走行100万㎞当たりの事故件数は,平成17年には12.540件
であったものが,平成18年には11.980件と減少しているなど,大阪
市域のタクシーの事故件数が著しく増加したという事実は存在しない。
(4)原告の意図について
被告は,原告の申請意図が,法人の追随を許さない運賃設定をして,値下
げ競争に歯止めをかけるという逆説的なもので,利潤を度外視したものであ
ったと主張する。しかし,原告は利潤を度外視したことはない。原告は,法
人タクシー事業者が違法な抜け駆け的営業を公然と行うことができる状況の
下にあっては,5000円超5割引ではなく,最初から5割引でさえも成り
立つのであり,このような異常な状況が放置されるのであれば,個人タクシ
ー事業者としても抜け駆け的営業を行えば,低料金を設定しても利潤を確保
することができるという趣旨で行ったものであり,近畿運輸局長に対しては
これを直ちに実施する意図はないことも伝えていたはずである。
もとより,原告に抜け駆け的な営業やダンピングをする意図がないことは,
原告のこれまでの経歴,考え方,申請の動機などから明らかである。また,
大型と中型と小型では初乗運賃で約20円の差があることは周知の事実であ
り,法人タクシーでは中型車500円+5000円超5割引が大勢を占め,
大型車500円+5000円超5割引までが認可されている状況からみて,
原告の小型車480円+5000円超5割引の運賃が「利潤を度外視した」
ものでないことは明らかである。
2本件申請の認可を義務付けることの適否(争点②)について
(原告の主張)
被告は,前判決により,本件申請が道路運送法9条の3第2項3号の基準
に適合するか否かを判断するために必要な諸事情が十分考慮されていないこ
とを理由に本件却下処分が取り消されたことを受けて,ほぼ一年の間,専門
的な見地から,あらゆる具体的要素について検討する機会を与えられていた。
それにもかかわらず,被告は「不当な競争を引き起こすこととなる具体的お
それ」を立証できないのであるから,もはや行政裁量の余地は残されておら
ず,近畿運輸局長が本件申請を認可すべきことは,道路運送法9条の3第2
項の規定から明らかであり,一義的に定まるというべきである。よって,原
告の本件申請は認可されるべきである。
(被告の主張)
申請型義務付け訴訟のうち,「申請又は審査請求を却下し又は棄却する旨
の処分又は裁決がされた場合」の類型については,当該処分又は裁決が「取
り消されるべきもの」であるときに限り,提起することができるとされてお
り(行訴法37条の3第1項2号),併合提起した処分又は裁決の取消請求
が認容されることが訴訟要件となるものと解されることから,当該処分又は
裁決の取消請求が認容されない場合,当該処分又は裁決が「取り消されるべ
きもの」に該当せず,申請型義務付け訴訟は,訴訟要件を欠くものとして却
下されるべきである。
しかるところ,近畿運輸局長がした本件再却下処分は前記1(被告の主
張)記載のとおり適法であるから,取り消されるべきものに該当しない。し
たがって,本件申請の認可の義務付けを求める訴えは,却下されるべきであ
る。
3国家賠償請求の成否(争点③)について
(原告の主張)
(1)近畿運輸局長は,道路運送法の解釈を誤って本件申請を却下し,これが前
判決で取り消されるや,その違法性を十分に認識しながら,再度その裁量権
を逸脱,濫用し,本件再却下処分をしたものであり,本件再却下処分は原告
に対する不法行為となる。
(2)原告は,本件申請を平成14年11月26日に行ってから平成19年3月
14日の前判決まで約5年間,さらに前判決から本件再却下処分まで約1年
間,近畿運輸局及び国土交通省により待たされ続けた。近畿運輸局長が,原
告及び裁判所の期待に反して前判決が出てから本件再却下処分に至るまで長
期間にわたり処分をしない怠慢は,原告に対する不法行為となる。
(3)原告は,近畿運輸局長による上記各不法行為(本件再却下処分における裁
量権の逸脱濫用,前判決から本件再却下処分までの長期間にわたる怠慢)に
より精神的苦痛を受けた。これを慰謝するには500万円が相当である。
(被告の主張)
(1)本件再却下処分について
ア前述のとおり,本件再却下処分は適法であるから,そのような適法な処
分を行った近畿運輸局長が職務上の法的義務に違反していないことは明ら
かである。
イさらに,国賠法1条1項の違法性判断に当たっては,当該公務員の職務
上の法的義務違反が問題となるところ(最判昭和60年11月21日・民
集39巻7号1512頁),当該処分を行う公務員が,資料の収集,これ
に基づく認定,判断の過程において,職務上通常尽くすべき注意義務を尽
くすことなく漫然と処分を行ったと認め得るような事情がある場合に初め
て,その職務上の注意義務に違反したとの評価を受ける(最判平成5年3
月11日・民集47巻4号2863頁)。したがって,仮に本件再却下処
分が違法という評価を受けることがあったとしても,そのことから直ちに
近畿運輸局長に国賠法上の違法行為があったということにはならない。
そして,本件では,近畿運輸局長は,当該運賃等が能率的な経営の下に
おける適正な原価を下回るものであるか否かという観点のほか,当該事業
者の市場の中での位置付け,当該運賃等を設定した意図等を総合的に勘案
すべきという前判決の示した判断基準にのっとって,具体的な事情を総合
的に勘案して,本件再却下処分を行ったのであり,上記のような意味での
職務上の法的義務違反があったとはいえない。
(2)本件再却下処分に至る経緯について
ア近畿運輸局長は,平成19年3月14日以降,本件申請について,当該
運賃等が能率的な経営の下における適正な原価を下回るものであるか否か
という観点のほか,当該事業者の市場の中での位置付け,当該運賃等を設
定した意図等を総合的に勘案すべきという前判決の示した判断基準にのっ
とって,再度,調査,検討を行った。
イまた,近畿運輸局長としては,併せて,タクシーの運賃及び料金の認可
基準である審査基準公示の見直しも必要となるところ,その基準について
は,道路運送法9条の3第2項を合理的に判断し,運賃認可申請を一律公
平に処理するため,「一般乗用旅客自動車運送事業の運賃料金の認可の処
理方針について」(平成13年10月25日国自旅第101号,国土交通
省自動車交通局長通達)に基づいて制定されていることから,同通達の改
正も視野に入れ検討を行う必要があった。
この点,平成18年6月ころから全国的にタクシー運賃の値上げ改定の
申請が出ており,全国的には運賃改定の状況にあり,前判決直後の平成1
9年4月19日及び同年5月31日には,東京地区のタクシー運賃改定に
係る内閣府の「物価安定政策会議」が開催され,運賃改定について議論が
され,これを受けて,同年10月18日には,東京地区のタクシー運賃改
定に係る「物価問題に関する関係閣僚会議」が開催され,東京地区の運賃
改定を認める決定がされ,さらに,「物価安定政策会議」における,タク
シー事業を巡る問題についての様々な指摘,これを踏まえた「物価問題に
関する関係閣僚会議」での決定を受けて,同年12月21日,「運賃改定
を契機として提起されたタクシー事業を巡る諸問題」について検討するワ
ーキンググループを設置することとされた。そして,平成20年2月には
ワーキンググループが設置されたものの,ワーキンググループの答申結果
は,同年12月ころの予定とされた。
そこで,近畿運輸局長としては,これらを待って本件申請に対する処分
を保留することは相当でないと判断し,本件申請については,現行の審査
基準公示を改訂することなく,前判決の示した判断基準を勘案して判断す
ることとし,同年2月27日,本件再却下処分を行うに至った。
ウ以上の経緯にかんがみれば,近畿運輸局長としては,前判決を受け,前
判決の示した判断基準にのっとって,必要な調査を行うとともに,審査基
準公示や通達の改正も視野に入れた検討を行い,そのためには,タクシー
事業を巡る諸問題の提起,指摘に対する対処の動向を見極めることを要し
たが,最終的には,本件の経緯にかんがみ,審査基準公示の改訂に先行し
て本件申請に対する判断を行ったものであって,この間の経緯について,
近畿運輸局長にはなんら職務上の法的義務違反はない。
(3)近畿運輸局長の故意又は過失の有無,原告の被った精神的損害の有無及び
その金銭的評価については否認ないし争う。
第4当裁判所の判断
1道路運送法9条の3第2項3号にいう「不当な競争を引き起こすこととなる
おそれ」の意義,及び,審査基準公示の定める運賃査定額に満たない運賃等の
設定等が道路運送法9条の3第2項3号の基準に適合するか否かの判断基準に
ついては,前判決(前提となる事実等(5))に記載のとおりである。
すなわち,道路運送法9条の3第2項3号にいう「他の一般旅客自動車運送
事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれ」とは,他の一般旅
客自動車運送事業者との間において過労運転の常態化等により輸送の安全の確
保を損なうことになるような旅客の運賃及び料金の不当な値下げ競争を引き起
こす具体的なおそれをいうものと解するのが相当であり,そのようなおそれの
ある運賃等に該当するか否かについては,当該運賃等が能率的な経営の下にお
ける適正な原価,すなわち,個々の一般乗用旅客自動車運送事業者がその事業
を運営するのに十分な能率を発揮して合理的な経営をしている場合において必
要とされる原価を下回るものであるか否かという観点のほか,当該事業者の市
場の中での位置付け,当該運賃等を設定した意図等を総合的に勘案して判断す
べきであるところ,このような判断は,専門的,技術的な知識経験及び公益上
の判断を必要とするものであるから,同号の基準に適合するか否かの判断につ
いては,国土交通大臣及びその権限の委任を受けた地方運輸局長にある程度の
裁量権が認められるものと解される。
そして,審査基準公示の定める運賃査定額に満たない運賃等の申請が道路運
送法9条の3第2項3号にいう「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当
な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」の基準に適合す
るか否かについては,当該申請に係る運賃等の額の運賃査定額からのかい離の
程度,当該申請に係る運賃等が当該申請者がその事業を運営するのに十分な能
率を発揮して合理的な経営をしている場合において必要とされる原価(能率的
な経営の下における適正な原価)を下回るものであるか否か,下回るものであ
るとすればその程度,当該申請に係る当該申請者の運転者1人当たり平均給与
月額(添付書類に基づくもの)と標準人件費(原価計算対象事業者の運転者1
人当たりの平均給与月額の平均の額)とのかい離の程度に加えて,当該運賃適
用地域の立地条件,規模(都市部か地方部か,人口密集地域か否か,当該地域
における他の公共交通機関の事業展開の内容,態様等),当該運賃適用地域に
おける市場の構造,特性等(タクシー事業者の構成(大規模法人による寡占状
態か中小規模の事業者を中心とする構造か等),タクシー事業の営業形態(流
し営業が中心か車庫待ち営業が中心か等),利用者の利用の実態(近距離利用
か遠距離利用か,配車利用か否か等),当該地域において設定されている運賃
及び料金の内容,態様等),当該申請者の種別(いわゆる法人タクシーか個人
タクシーか等),企業規模,営業形態,運転者の賃金構造等,当該地域におけ
る需給事情(供給過剰地域か否か,供給過剰の程度等),運転者の賃金水準,
一般的な経済情勢,距離制運賃の初乗運賃を500円とする運賃ないし500
0円を超える金額について5割引の遠距離割引運賃とする運賃といった低額運
賃の認可を受けた事業者のその後の営業実績の推移,売上高に占める割合,利
用者の利用状況,当該運賃の設定に対する他の事業者の対応,追随状況など当
該認可が当該区域の市場に及ぼした影響の内容,態様,程度等を総合勘案した
上,当該申請を認可することにより他の一般旅客自動車運送事業者との間にお
いて過労運転の常態化等により輸送の安全の確保を損なうことになるような旅
客の運賃及び料金の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれがあるか否
かを社会通念に従って判断すべきである。
2本件再却下処分についての裁量権の範囲の逸脱又はその濫用の有無
(1)検討内容について
上記1記載のとおり,道路運送法9条の3第2項3号にいう「他の一般旅
客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれ」の
ある運賃に該当するか否かについては,(A)当該運賃等が能率的な経営の
下における適正な原価を下回るものであるか否かという観点のほか,(B)
当該事業者の市場の中での位置付け(本件申請を認可することによる市場へ
の影響),(C)当該運賃等を設定した意図等を総合的に勘案して判断すべ
きものであることから,以下,上記(A)ないし(C)につき個別に検討を
加えた上,総合的に判断することとする。
(2)当該運賃等が能率的な経営の下における適正な原価を下回るものであるか
否かについて(A)
ア前記前提となる事実等に加えて,証拠(甲3,4,10,51,乙4,
8,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(ア)本件申請に係る申請書(平成14年11月26日付け変更認可申請に
係る申請書)に添付された「収支見積書」には,原告の実績年度(平成
13年度),翌年度(平成14年度)及び平年度(平成15年度)にお
ける収支が下記のとおり記載されていた。

①実績年度(平成13年度)
運送収入311万2000円
運送原価303万0000円
(内訳)
人件費144万0000円
燃料油脂費22万8000円
車両修繕費13万8000円
車両償却費29万4000円
その他運送費93万0000円
収支率102.7%
②翌年度(平成14年度)
運送収入384万5000円
運送原価375万2000円
(内訳)
人件費168万0000円
燃料油脂費28万2000円
車両修繕費16万1000円
車両償却費29万4000円
その他運送費133万5000円
収支率102.5%
③平年度(平成15年度)
運送収入410万7000円
運送原価399万1000円
(内訳)
人件費192万0000円
燃料油脂費38万2000円
車両修繕費17万0000円
車両償却費29万4000円
その他運送費122万5000円
収支率102.9%
(イ)近畿運輸局長は,本件申請に係る前記申請書の添付書類に基づき,審
査基準公示に従って,原告の平年度における収支について下記のとおり
査定し,原告の平年度における収支率につき,本件却下処分時において
は82.49%,本件再却下処分時においては本件却下処分時の査定上
の誤りを訂正し,82.37%であるとした。

①本件却下処分時(平成16年2月13日)の査定結果
運送収入416万9000円
運送原価505万4000円
(内訳)
人件費325万1000円
燃料油脂費36万2000円
車両修繕費22万7000円
車両償却費29万4000円
その他運送費92万0000円
収支率82.49%
②本件再却下処分時(平成20年2月27日)の査定結果
運送収入417万8000円
運送原価507万2000円
(内訳)
人件費325万1000円
燃料油脂費36万2000円
車両修繕費22万7000円
車両償却費29万4000円
その他運送費93万8000円
収支率82.37%
(ウ)近畿運輸局長は,本件再却下処分時の査定において,審査基準公示に
のっとって,次のとおり収支率を査定した。
実車距離(旅客を輸送する距離)の数値については,申請者の申請し
た数値(申請数値)と,実績値に個人低額実施事業者の実績伸び率を乗
じた数値(以下「実績伸び率数値」という。)とを比較し,低い方を採
用する運用をしていたところ,申請数値は60.1㎞/日,実績伸び率
数値は76.8㎞/日であったことから,申請数値の方を採用した。実
働車両数(1年間の稼働のべ車両数)については,申請数値(289)
をそのまま採用し,年間の実車距離は1万7369㎞(60.1×28
9)と査定された。また,総走行距離については,実車距離において申
請数値を採用したことに伴い,申請数値(147.0㎞/日)を採用し,
年間の総走行距離は4万2483㎞(147.0×289)と査定され
た。
収入の算定においては,本件申請時の運賃から本件申請に係る運賃に
変更した場合の平均値下げ率(遠距離割引を考慮しないもの)が15.
161%,平成13年度の実車1㎞当たりの実績値が299.74円と
算定されたことから,平年度における実車1㎞当たりの運送収入は25
4.30円となり,これに実車距離1万7369㎞を乗ずると,平年度
における運送収入は441万7000円と査定された。これに,遠距離
割引の導入による減収率5.42%を考慮すると,平年度における原告
の収入は417万8000円と査定された。
運送原価のうち,人件費については,原告の申請数値(192万円)
によることなく,原価計算対象事業者29社の運転者1人当たり平均給
与月額の平均の額(標準人件費)30万0999円を10%下回る額で
ある27万0899円の12か月分である325万1000円と査定し
た(なお,原告の申請数値は,標準人件費の約53%,標準人件費を1
0%下回る額の約59%に相当する。)
燃料油脂費については,審査基準公示別紙2第6項の2(2)に基づ
き,36万2000円と査定された。なお,審査基準公示においては,
燃料費の算定基礎である単位当たり価格については,燃料税の増徴が確
定している場合を除き,「最近の平均購入価格」によることとされてお
り,本件申請の査定においては,平成13年の実績値から,単位当たり
価格は1リットル当たり95.0円とされた。
車両修繕費,車両償却費及びその他諸経費(その他運送費)について
は,審査基準公示別紙2第6項の2(3)から(5)までに基づき,そ
れぞれ上記(イ)②のとおり算定された。
イ上記ア(イ)②のとおり,本件再却下処分に当たり近畿運輸局長が行った査
定によれば,原告の本件申請に係る運賃における平年度の運送収入は41
7万8000円,運送原価は507万2000円,収支率は82.37%
となるのであって,平年度の運送収入は運送原価を約18%下回ることが
認められる。しかしながら,前判決も指摘するとおり,このように収支率
が100%を下回る結果となったのは,原価の主要部分を構成する人件費
について,原告の申請数値を用いず,法人タクシー事業者から抽出された
原価計算対象事業者の標準人件費を10%下回る額で査定したことによる
ものであり,原告の申請数値である192万円(1か月当たり16万円)
で査定すれば,その収支率は111.68%となり優に100%を超える。
しかも,大型車,中型車,小型車の各自動認可運賃は初乗運賃で各20円
の差があるところ(乙5),本件再却下処分当時,大型車・中型車につい
て初乗運賃500円・遠距離割引5000円超5割引の認可を受けている
法人タクシー事業者も複数存在していること(乙57)も考慮すれば,本
件申請における人件費は標準人件費を10%下回る額をさらに約40%下
回る額であることを考慮してもなお,小型車初乗運賃480円・遠距離割
引5000円超5割引を内容とする本件申請に係る運賃が,原告において
能率的な経営の下における適正な原価を償わないものであると即断するこ
とはできない。
ウこの点につき,被告は,個人タクシー事業者においては,事業主たる運
転手がその事業内容を自在に決定でき,人件費を規定する制度的枠組みが
ないことから,法人タクシー事業者が実施することのできない極端に低額
の運賃を設定することも可能であるため,個人タクシー事業者と法人タク
シー事業者の競争条件が必ずしも公正なものとならないことから,個人タ
クシー事業者の人件費について法人タクシー事業者との競争条件の均衡を
保つため,標準人件費を10%下回る額としていると主張する。
しかし,道路運送法上,個人タクシー事業者と法人タクシー事業者との
間に区別はなく,個人タクシー事業者も法人タクシー事業者と同じ事業者
であることに変わりはない。そして,事業者の競争を促進し利用者の利便
の確保,向上を図るという平成12年改正法の趣旨をも考慮すれば,被告
が指摘する個人タクシー事業制度の創設経緯や制度趣旨等(乙80,8
1)を考慮してもなお,個人タクシー事業者の査定上の人件費の下限を標
準人件費の9割に固定し,法人タクシー事業者のような例外を認めない取
扱いに合理性は認め難いというべきである。もとより,個人タクシー事業
者の運賃設定が,法人タクシー事業者において認可された運賃の範囲内で
なければならないとする合理的な理由もない(そもそも,個人タクシー事
業者の人件費は事業利益と重なりあうものであり,他方,法人タクシー事
業者の人件費には,運転者自身の必要経費に相当する交際費等が含まれ得
るのであって,人件費として計上される内容には少なからず違いがある。
それにもかかわらず上記のような違いを捨象して,個人タクシー事業者の
人件費の下限を法人タクシー事業者の標準人件費の9割をもって一律に査
定すること自体,当該運賃等が能率的な経営の下における適正な原価を下
回るものであるか否かを検討,判断する上で,合理的な基準といえるのか
疑問であるというほかはない。)。また,被告は,個人タクシー事業者の
方が実際上柔軟な価格設定が可能であり,法人タクシーが実施できない極
端に低額の運賃を設定することも可能であり,競争条件が必ずしも公正な
ものとならないというが,不当な競争を引き起こすような極端に低額の運
賃かどうかは,各種事情を考慮して総合的に判断されるべきものであって,
人件費の査定基準において調整されるべきものではない。しかも,他方で,
零細事業者である個人タクシー事業者は,事業協同組合等によりある程度
組織化が図られていること(乙71から74まで)を考慮しても,法人タ
クシー事業者と比較すると,スケールメリットを生かした経費節減や企業
との大口取引,資金力を背景とした広告宣伝等の面において,その競争力
には歴然とした差があるといわざるを得ないのであり,人件費の査定基準
という行政上の運用をもって,個人タクシー事業者の有効な競争手段であ
る「運賃値下げ」の選択の余地を事実上大きく制約することは,事業者間
の実質的な公平という観点から見ても,重大な疑問があるといわざるを得
ない。
被告は,本件再却下処分時ころのガソリン価格の高騰に伴い,燃料費が
増加すれば収支率のかい離率はさらに大きくなる旨主張する。しかし,前
述のとおり,審査基準公示においては,燃料費の算定基礎である単位当た
り価格については,燃料税の増徴が確定している場合を除き,「最近の平
均購入価格」によることとされているのであり,本件申請についてのみ最
近の市場(実勢)価格に基づいて査定する理由はない。また,競合事業者
が多く用いるLPガス価格の高騰に至っては,本件申請の査定になんら影
響するものではない。さらに,被告は,平成16年度の大阪地区原価計算
対象事業者28社の平均値をもって「平均的タクシー事業者」とし,その
数値をもとに走行距離と労働時間の増加を算出した上で,相当な無理を強
いられる状況にあるとしているが,最も条件が近い事業者(最低額運賃を
設定している事業者)の数値を用いることなく,法人タクシー事業者の平
均値を前提としていることや,値下げによる実車率の向上を加味していな
い点でその算出結果の信ぴょう性には疑問があり,採用することができな
い。
エところで,上記ア(ウ)によれば,近畿運輸局長は,平年度の運送収入を算
定する基礎となる実車距離(旅客を輸送する距離)の数値については,申
請数値と実績伸び率数値のいずれか低い方を用いる運用であったとして,
原告の申請数値である60.1㎞/日を採用している。しかし,仮に,原
告が本件申請の際に運賃値下げによる実車率の上昇を見込み,申請数値が
実績伸び率数値を上回っていたとすれば,運送収入の算定に当たっては実
績伸び率数値76.8㎞/日で算定されていたことになる。そして,この
数値によれば実車距離は2万2195㎞(76.8×289)となり,こ
れに実車1㎞当たり254.30円を乗じた上,遠距離割引の導入による
減収率5.42%を考慮すると,平年度の運送収入は533万8000円
となる。そうすると,その運送収入は,標準人件費を10%下回る額で人
件費を算定した場合の運送原価(507万2000円)を上回っており,
実績伸び率数値を使用することに伴って総走行距離の査定数値も増加し燃
料油脂費等の増加が想定されることを考慮しても,その収支をほぼ償うこ
とになると考えられる(なお,実車距離につき実績伸び率数値を用いた場
合の運送原価の増加額について検討するに,乙8の6の6枚目によれば,
実車距離算定で実績伸び率数値を用いた場合には,「実車距離は実車率を
実績値据え置きとし,算定する」旨記載されている。その意味は必ずしも
明らかではないが,総走行距離に実車率を乗じた数値が実車距離であるこ
とから,1日当たり総走行距離は,1日当たり実車距離の実績伸び率数値
76.8㎞/日を実車率の実績値41.0%で割り戻して算定すればよい
ものと解され,そうすると1日当たり総走行距離は187.3㎞/日とな
り,年間の総走行距離はこれに実働車両数289を乗じた5万4130㎞
となると考えられる。そして,これは本件再却下処分における査定上の年
間総走行距離4万2483㎞の127.4%に相当することから,査定走
行キロを乗じて算出する燃料油脂費及び車両修繕費の査定額はいずれも2
7.4%増加することになると想定される。しかし,査定上の平年度の燃
料油脂費は36万2000円,車両修繕費は22万7000円にすぎず,
したがって,その増加額は約16万円強であるから,これを上記507万
2000円に加算しても約523万円であり,実車距離につき実績伸び率
数値を用いて算定した運送収入533万8000円を超えるものではな
い。)。
オ以上要するに,本件申請に係る運賃による平年度の収支率が約82%に
とどまった最大の理由は,近畿運輸局長が人件費の査定において原告の申
請数値を用いることなく,法人タクシー事業者から抽出された原価計算対
象事業者の標準人件費を10%下回る額を用いた点にあるところ,このよ
うな査定上の基準ないし運用に合理性は認め難く,しかも,本件申請にお
いて,実車走行キロの査定上,申請数値ではなく実績伸び率数値を用いて
いれば,ほぼ収支が償っていたと考えられることも考慮すると,本件申請
に係る運賃が能率的な経営の下における適正な原価を償わないものである
と即断することはできない。
(3)当該事業者の市場の中での位置付け(本件申請を認可することによる市場
への影響)(B)
ア前記前提となる事実等に加えて,証拠(甲1から3まで,14,30,
31,35から39まで,41,44,45,49,乙16,18,21,
25から62まで,65から67まで,原告本人)及び弁論の全趣旨によ
れば,次の事実が認められる。
(ア)原告の本件タクシー事業に関する事情
原告は,平成13年3月28日付けで,国土交通大臣からその権限の
委任を受けた近畿運輸局長から,事業区域を大阪市,豊中市,吹田市,
守口市,門真市,東大阪市,八尾市,堺市及び大阪国際空港(池田市の
うち空港地域に限る。),使用する事業用自動車を1両などとして,一
般乗用旅客自動車運送事業の許可を受け,同年4月20日から,本件タ
クシー事業を営んでいる個人タクシー事業者である。
原告が本件タクシー事業において使用する事業用車両は,トヨタのプ
リウスであり,運賃の適用上は小型車に区分される。燃料の種類はガソ
リン(ハイブリッド車)である。
原告の営業形態は,タクシー乗り場に並んで客待ちをすることが多く,
流し営業はほとんど行っていない。原告の営業場所や営業時間について
は,午後9時ころに新大阪駅のタクシー乗り場に並び,その後,深夜に
なると難波周辺(ミナミ)のタクシー乗り場に並ぶことが多く,原告は,
本件申請が認可された場合も,同様の営業形態を続けるつもりである。
原告の平成19年度の損益計算書によれば,収益は306万9000
円,費用が163万8000円,当期利益は143万1000円とされ
ている。また,原告の輸送実績報告書(平成19年4月1日から平成2
0年3月31日まで)によれば,実働日数は184日,走行キロは2万
7605㎞,うち実車キロは9543㎞(実車率35%)とされている。
原告は,営業努力として,ハイブリッド車による燃料費の節約,ET
Cの設置のほか,顧客サービス向上のため,文字放送装置や後部座席用
液晶テレビを導入したり,全日空マイレージサービスとの提携を行った
りしている。その他にも,原告は,大型二種免許の取得,手話の習得な
どを行っているほか,ホームヘルパー等の介護資格の取得等も行ってい
る。また,原告は,個人タクシー組合に加入し,無線配車サービスも利
用しているが,固定客による時間指定は営業の足かせになることなどか
ら,固定客獲得のために名刺を渡す営業はあまりしていない。
(イ)当該運賃適用地域の市場の特性等
当該運賃適用地域である大阪市域は,「流し営業」が成り立つ都市部
の人口密集地域であり(個人タクシーが許可されるのは「流し営業」が
成り立つ地域に限られる。),タクシー乗り場からの乗車等を中心とし
た営業形態がとられている地域である。
大阪府下のタクシー車両数(平成19年3月末現在,セダン型車両の
み)は,全体で2万3089両であり,そのうち,法人タクシー事業者
が1万8683両(218社),個人タクシー事業者が4406両
(者)である。個人タクシーが全車両数に占める割合は,約19%であ
る。
平成18年9月に財団法人大阪タクシーセンターが実施したアンケー
ト調査によれば,タクシーの利用方法は,タクシー乗り場53.6%,
流しのタクシー36.1%,無線配車10.3%であり,タクシー利用
目的は仕事29.0%,急用時14.7%,他に交通機関がないとき1
4.7%であった。また,平成16年2月に国土交通省関東・中部・近
畿の各運輸局が実施した調査によれば,大阪地区においては,タクシー
の選択基準は,「運賃が安い」58.0%,「運転者のマナーが良い」
47.9%であり,東京や名古屋に比べ,「運賃の安さ」を選択基準と
する比率が高いという結果が示されている。
(ウ)当該運賃適用地域の賃金水準等
大阪府内のタクシー運転者の月間平均賃金(賞与等を含む。)は,平
成16年度が25万6650円,平成18年度が27万3175円であ
り,大阪府内の全産業の男性平均の約3分の2であった(大阪府内の全
産業の男性平均は,平成16年度が48万4658円,平成18年度が
49万4333円である。)。また,大阪府内の全産業男子労働者の月
額平均賃金は平成6年からの10年間で約4%下落したのに対し,大阪
府内のタクシー運転者の月額平均賃金は約28.4%下落した(ただし,
平成12年からはほぼ横ばいである。)。
(エ)当該運賃適用地域の需給事情等
大阪府内の法人タクシーの実働1日1車あたりの運送収入は,平成6
年度が4万1766円,平成16年度が2万8927円(平成17年度
が2万9280円)であり,10年間で約3割減少している。また,大
阪府内の法人タクシーの実車率は,平成6年度が49.5%,平成16
年度が39.5%(平成17年度が42.3%)である。ただし,運賃
規制が緩和される前の平成13年度の時点において,既に1日1車当た
り運送収入が3万2395円,実車率が43.1%まで低下している。
なお,東京都内の平成16年度実働1日1車当たりの運送収入は4万8
115円(平成17年度4万9338円),実車率は43.8%(平成
17年度44.8%)である。
大阪市域の地域需給動向は,需給調整規制を実施していた平成12年
において既に3546両の供給過剰であり,平成14年3月末から平成
19年10月末までの間に2162両増加している(平成14年3月1
万3935両,平成19年10月1万6097両)。
平成20年1月末時点において,全国90ブロック中,52ブロック
において運賃改定の申請がされ,うち45ブロックにおいて認可されて
いるが,大阪市域は運賃改定のために必要な申請率(法人車両数にして
70%)が55.1%にとどまり,運賃改定は実現していない。
大阪市域交通圏は,下限割れ運賃をはじめとする多種多様な運賃等が
設定され,需給ギャップが拡大していること,車両数の増加数が著しい
こと,事故件数が全国平均より高いことという状況があったことから,
近畿運輸局長は,「特定特別監視地域等において試行的に実施する増車
抑制対策等の措置について(平成19年11月20日付け国自旅第20
8号)」という通達に基づき,平成19年12月14日付けで大阪市域
を準特定特別監視地域として個別指定した。
近畿管区行政評価局は,平成19年10月から11月にかけて,タク
シーの安全運送の確保に関する行政評価・監視を実施し,平成20年1
月7日,近畿運輸局長に対し,その結果を通知した。その通知には,
「タクシー事業については,平成14年2月から需給調整規制の廃止等
の規制緩和が行われ,これに伴い,新規参入や増車により車両数が増加
し,乗客獲得戦争が激化している。大阪府内のタクシー事業者数,車両
数等の平成14年度から18年度の推移をみると,法人タクシーの事業
者数は155事業者から213事業者(1.37倍),車両数は16,
470台から18,683台(1.13倍)に増加している一方,キロ
当たり運送収入は147.69円から141.64円(0.96倍),
実働1日1車当たり運送収入は30,780円から29,720円(0.
97倍)にそれぞれ減少している。タクシー運転者の賃金は歩合制が主
流であるため,運送収入の減少は賃金の減少に直結しやすく,労働時間
を増やすことにより賃金の減少を防ごうとする心理が働き,労働条件が
悪化するおそれがある。今回当局が,大阪市内のタクシー待機場所等に
おいて,運転者111名から労働条件,賃金等の実情を聴取したところ,
16名(14%)の者が最近5年間で拘束時間(使用者の拘束を受ける
時間で労働時間と休憩時間の合計時間)が増えたとし,54名(49
%)の者が賃金が減ったとしている。また,3名(3%)の者が過労運
転に因る事故を起こしたことがあるとし,22名(20%)の者が事故
を起こしそうになることがあると回答している。これらのことから,規
制緩和による状況の変化がタクシー運転者の業務と生活に大きな影響を
与えていることが窺われる実態にある。」と記載されている。
(オ)低額運賃の認可を受けた事業者の営業実績の推移等
①実働1日1車当たりの運送収入(大阪市域)
(最低額運賃事業者)
平成16年度2万9693円
平成17年度2万8031円
平成18年度2万8871円
(全事業者・法人タクシー事業者)
平成16年度2万8927円・2万8356円
平成17年度2万9280円・2万8835円
平成18年度2万9620円・2万9098円
②実働1日1車当たりの総走行距離(大阪市域)
(最低額運賃事業者)
平成16年度259.8㎞
平成17年度242.0㎞
平成18年度241.2㎞
(全事業者・法人タクシー事業者)
平成16年度220.0㎞・222.7㎞
平成17年度208.0㎞・208.3㎞
平成18年度209.0㎞・208.8㎞
③実車率(大阪市域)
(最低額運賃事業者)
平成16年度44.68%
平成17年度45.23%
平成18年度46.42%
(全事業者・法人タクシー事業者)
平成16年度39.46%・38.35%
平成17年度42.29%・41.59%
平成18年度42.95%・42.33%
④最低額運賃事業者の運送収入が大阪市域全体の運送収入に占める割

平成16年度約1.5%
平成17年度約2.9%
平成18年度約4.6%
⑤ワンコイン運賃設定事業者・車両数の推移(大阪市域)
平成16年2月13日434両(全体の約1.9%)
法人3社173両,個人261者・両
平成17年9月末876両(全体の約3.9%)
法人11社518両,個人358者・両
平成19年3月末1472両(全体の約6.4%)
法人21社1030両,個人442者・両
平成20年1月末1756両(全体の約7.7%)
法人26社1310両,個人446者・両
なお,ワンコイン運賃や最低額運賃を設定した法人タクシー事業者は,
ほとんどが平成14年度以降に新規参入した事業者であり,一部の事業
者を除き,1年間の期限付き認可を受けている。また,下限割れ運賃を
設定していたタクシー事業者のなかには,収支が償わなくなったこと等
を理由として自動認可運賃に変更した例もある。
また,平成20年1月31日現在の大阪府下の個人タクシー事業者の
うち,ワンコイン運賃を設定している事業者は約11.4%(4290
者のうち446者)である。
(カ)当該運賃適用地域の事故件数等
①大阪市域のタクシーの事故件数
平成16年度1万1022件
平成17年度1万1269件
平成18年度1万0801件
②大阪市域の走行100万㎞当たり事故件数(全国平均)
平成16年度11.362件(7.946件)
平成17年度12.540件(7.390件)
平成18年度11.980件(6.990件)
平成19年度10.038件
③大阪府域における走行100万㎞当たりのタクシーが第一当事者で
ある事故件数
平成16年度2.36件
平成17年度2.60件
平成18年度2.45件
平成19年度2.36件
④大阪府域のタクシーが第一当事者の人身事故件数(大阪府全体の事
故件数に占める割合)
平成16年度2627件(3.89%)
平成17年度2719件(4.11%)
平成18年度2582件(4.11%)
平成19年度2433件(4.12%)
なお,全事故件数に占めるタクシーの事故件数の割合(全国)は,
平成16年度2.85%,平成17年度2.98%,平成18年度3.
01%である。
イ以上によれば,確かに,上記ア(ウ)(エ)の各数値等が示すとおり,原告の
営業区域である大阪市域においては,平成12年ころから既にタクシーが
供給過剰の状況にあったにもかかわらず,その後もタクシー車両数は増加
し続けていること,このようなタクシー車両の供給過剰に伴い,実車率や
実働1日1車当たりの運送収入の低下がみられるとともに,歩合制賃金を
基本とするタクシー運転者の月額平均賃金も下落し,その水準は全産業男
子労働者の月額平均賃金の約3分の2程度まで低下していることが認めら
れ,大阪市域はタクシー運転者の競争が非常に激しい地域であるというこ
とができる。また,平成16年度以降,ワンコイン運賃や最低額運賃を設
定する事業者が増加し,運賃の値下げ競争も激しくなりつつあるというこ
とができる上,大阪においてはタクシーの選択基準として運賃の安さの占
める割合が大きいこと(上記ア(イ))も踏まえれば,本件申請が認可されれ
ば,これに追随しようとする事業者がある程度現れるであろうことは,十
分に推認することができる。
しかしながら,ワンコイン運賃や最低額運賃の割合が増え,運賃値下げ
競争が激化していても,上記ア(カ)のとおり,事故件数の増減との関連性は
希薄であり(タクシー台数の増加割合以上に,事故件数が増加しているこ
とを裏付けるに足りる数値は見当たらない。),近畿管区行政評価局によ
る調査結果をみても,最近5年間で拘束時間が増えたと回答した運転者は
14%にとどまるなど,本件申請に係る運賃設定に追随する事業者が相当
数あるとしても,それによって直ちに過労運転の常態化等により輸送の安
全の確保を損なうことになるような不当な値下げ競争を引き起こす具体的
なおそれがあるということは困難である。また,平成16年度以降,ワン
コイン運賃や最低額運賃を設定する事業者が増えているにもかかわらず,
平均賃金の低下や運送収入の減少は以前よりも緩やかであり,かえって,
実車率や運送収入は平成16年度から平成18年度にかけて改善している
ことからすれば,大阪のタクシー市場がこれ以上の価格競争を許容できな
いほどに危機的な状況にあるとはいい難い。また,最低額運賃を設定する
事業者の営業実績も他の事業者と比較して遜色のないものであるし,実車
率は全事業者の平均を相当程度上回っており(上記ア(オ)),最低額運賃を
下回る運賃を実施することが直ちに利潤を度外視したものということもで
きない。さらに,ワンコイン運賃や最低額運賃は,平成16年度以降急速
に拡大しつつあるとはいえ,それでも車両数全体の約1割にも満たない程
度であり,個人タクシー事業者に限ってもせいぜい1割を少し超える程度
(しかも,個人タクシーは全体車両数の約2割を占めるにすぎない。)で
あって,本件申請が認可されたとしても,過労運転の常態化等による運送
の安全の確保を損なうことになるような不当な値下げ競争を引き起こすほ
どに,多くの事業者がこれに追随するとも考え難い。
しかも,大阪府下のタクシー車両数は全体で2万3000両を超え,都
市部の大規模な市場であるところ(上記ア(イ)),原告の事業規模はいわゆ
る1人1車制の個人タクシー事業であるから,その市場支配力はほぼゼロ
に近いのであり,上記ア(ア)で認定した原告の営業形態や営業の実態等に照
らしてみても,現在認可されている最低額運賃から初乗運賃をわずかに2
0円値下げする本件申請が認可されたところで,そのことにより当該運賃
適用地域の市場全体に大きな影響を及ぼし,過労運転の常態化等により輸
送の安全の確保を損なうことになるような不当な値下げ競争を引き起こす
具体的なおそれがあるとは到底いうことができない。
(4)当該運賃等を設定した意図等(C)
ア前記前提となる事実等に加えて,証拠(甲3,41,乙6,原告本人)
及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(ア)原告は,本件申請に当たり,近畿運輸局長宛の理由書(平成14年1
1月26日受付分)において,「今年2月の道路運送法改正による規制
緩和から運賃の自由化が進み低料金のタクシーが出現するにつれ,私の
タクシーに乗車されるお客様も少なくなり営業収入も著しく減少してお
ります。一向に景気が回復しない昨今では,私の営業もこのままではま
まならなくなると考えますし,このタクシー業界の運賃競争を勝ち抜く
為にも思いきった策を講じることとしたく…運賃変更の申請を致しま
す。」と記載している。
(イ)原告は,平成15年2月3日,近畿運輸局に対し,本件申請の趣旨等
について記載した陳述書を提出した。そこには,「申請人は,規制にあ
ぐらをかいていた体質を反省しつつ同一地域同一運賃に立ち戻り,その
中で適正運賃を模索するとともに,運賃以外の部分で競争することが最
善であると考えますが,時代の要請として運賃の低額化をするなら,ま
ず全てのお客様にその恩恵が行き届く初乗り・爾後の低額運賃を採用し
たいと考えました。…こうなると,もはや筋や理想を通す環境になく,
現実の環境に即し経営維持を考えなければならず,そのためには,野放
し状態の違法営業に参加するか,理屈抜きの運賃競争に参加するしか道
は無いというのもまた事実であります。…申請人とすれば,あくまで5,
000円超5割引を批判し反対しますので,運賃競争が収束し正常化す
るまでの過渡的手段として,両方を採用することと致しました。…幸い,
私たち個人タクシーは,社屋や非乗務員など余分なお荷物を抱えており
ませんので,ここで底力を見せ,MKが1.8㎞500円にこだわった
ように法人が付いて来れないところまですることによって,必ずや勝利
とともに,その向こうに正常化があると確信します。」「初乗り運賃の
480円設定は,同業者が参考にしている大阪MKの中型運賃を元に,
小型車として初乗りと爾後のそれぞれを設定致しました。MK運賃や他
事業者の運賃を見ますと,小型も基本は同額の500円で爾後のみを安
く設定しているようですが,これはお客様にも分かり難く,営業的にも
アピールしませんので,現行の中型と小型の差に準じ20円低額化しま
した。」「安売り競争に参加するなら,法人の追随を許さない設定が必
要であると考えました。「個人を本気で怒らせたら,法人は着いて来れ
ないよ」と言うところ迄やって,願わくば不毛の争いに終止符を打ちた
いものです。」「本件申請に当たり,認可が容易でないであろうことは
想像に難くありませんが,仮に不認可となり,場合によっては司法の場
で敗訴の確定判決を得ることになっても,それはそれで一定の最低線が
示されることとなり,意味のあることだと考えます。」「認可をいただ
けることになっても,こう言った運賃を長く続けることは利口な選択と
は思えず,収束に向かう動きが感じられたら,早い段階で中止したいと
考えております。」などと記載されていた。
(ウ)原告は,上記のとおり,却下された場合でも一定の最低線を示すこと
となり意味があると考えていたが,他の法人タクシー事業者による申請
により中型車初乗り料金500円に5000円超5割引を付加する運賃
が認可されたことを知って,本件申請が認可されないことに意味はなく,
認可されなければおかしいと思うに至った。
イ以上のとおり,原告は,運賃の値下げ競争に対する批判的な考えを有し
ているものであるが,一方では,そのような激しい競争に自分も参加せざ
るを得ない状況にあり,これに勝ち抜くために,初乗運賃480円という
思い切った運賃を設定したいという気持ちと,他方で,願わくば,安易な
値下げ競争が不毛であることを他の事業者に悟らせたいという気持ちや,
仮に却下されても一定の最低線が示され,値下げ競争に歯止めがかかると
いう気持ちが半ばしていたものということができる。
このように,原告の本件申請の意図は複雑なものであるが,その運賃設
定は,中型車初乗運賃500円のB等の運賃体系を参考に,自動認可運賃
における中型車と小型車の初乗運賃に20円の差があることや,客に与え
るインパクト等を考慮して,初乗運賃480円と設定した合理的なもので
あって,そこには原価や利潤を度外視した運賃設定を行って,他の事業者
の事業活動を阻害しようというような意図を見出すことはできない。しか
も,原告は,本件申請を契機として,値下げ競争がこれ以上エスカレート
しなくなることを期待し,できれば早期に元の運賃に戻したいと希望して
いるのであるから,本件申請が認可されることによりかえって原告の希望
に反する結果となる可能性があるとしても,これをもって不当な競争を引
き起こす意図であるということはできない。
ウ他方,近畿運輸局長の意図について考察すると,前判決でも指摘されて
いるように,本件却下処分においては,初乗運賃500円を下回る運賃は
法人タクシー事業者の運賃では存在していないことが重視されていたもの
というべきところ(乙8の6),審査基準公示の改正内容(甲10)や,
乙事件が提起された後の個人タクシー事業者の人件費の査定基準に係る被
告の主張内容等に照らせば,本件再却下処分においてもなお,上記の点
(初乗運賃500円を下回る運賃は法人タクシー事業者の運賃では存在し
ていないこと)が重視されていたものということができる。しかし,前述
したとおり,個人タクシー事業者の運賃設定を法人タクシー事業者の運賃
の範囲内にとどめることについては,事業者間の公平を害し,平成12年
改正法の趣旨にも反するといわざるを得ないのであり,近畿運輸局長が上
記の点を重視したことは,本来重視すべきでない事情をことさら重視する
ものというほかはない。
しかも,前記認定事実に証拠(乙8の6,57)及び弁論の全趣旨を総
合すれば,本件却下処分の際の処分理由において,「現在検証中である運
賃水準(最低は初乗り500円)をさらに下回るものを現時点で認可する
ことは適切ではない。」とされていること,自動認可運賃の差にもかかわ
らず,初乗運賃として認可されている最低額は大型車・中型車・小型車と
もにすべて500円であること,ワンコイン運賃(初乗運賃500円)を
設定する事業者は平成20年で大阪府下全体の約7.7%,個人タクシー
事業者の約11.4%にのぼるにもかかわらず,初乗運賃500円を下回
る運賃は存在しないこと,前判決後,初乗運賃500円を割り込む運賃申
請が行われたものの,その後修正申請されていることなどの事実が認めら
れ,これらからすれば,近畿運輸局長は,その運賃認可の運用として,5
00円を初乗運賃の最低額ラインとして強く意識していることがうかがわ
れる。しかし,道路運送法9条の3第2項3号の要件に適合するか否かを
判断する上において,不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれの有
無を個別に判断することなく,初乗運賃500円という最低額ラインを設
定することは,道路運送法の解釈を離れたものといわざるを得ず,これも
また重視すべきでない事情をことさら重視する誤った運用というほかはな
い。
(5)小括
以上(A)から(C)の各事情の検討結果からすれば,本件申請に係る運
賃が能率的な経営の下における適正な原価を償わないものであると即断する
ことはできない上(A),原告は1人1車制の個人タクシー事業者であって
市場支配力はほぼゼロであり,現存する最低額運賃から初乗運賃をわずかに
20円値下げする本件申請が認可されたとしても,過労運転の常態化等によ
る運送の安全の確保を損なうことになるような不当な値下げ競争を引き起こ
す具体的おそれを裏付けるに足りるような事情は見当たらず(B),さらに,
原告が当該運賃等を設定した意図は,運賃値下げ競争に批判的なものではあ
るが,原価や利潤を度外視した運賃設定を行って,他の事業者の事業活動を
阻害しようというような意図によるものではなく,かえって,近畿運輸局長
において,本件申請に係る運賃が,法人タクシー事業者において認可されて
いない運賃であることや,初乗運賃500円という従前の最低額ラインを割
り込む運賃であることといった重視すべきでない事情をことさら重視してい
るとみられること(C)も考え併せれば,近畿運輸局長の本件再却下処分は,
道路運送法9条の3第2項3号の基準適合性に係る判断の専門性,技術性及
び公益性にかんがみてもなお,社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたもの
といわざるを得ないのであって,その裁量権の範囲を超え又はその濫用があ
ったというべきである。
以上によれば,本件申請が道路運送法9条の3第2項3号の「他の一般旅
客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがな
いものであること」に該当しないとの判断に基づいてされた本件再却下処分
は,その裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものとして違法であり,
取消しを免れない。
3本件申請の認可を義務付けることの適否について
前記2のとおり,本件再却下処分の取消しを求める原告の請求には理由があ
るから,本件再却下処分は「取り消されるべきもの」であり(行訴法37条の
3第1項2号),本件申請の認可の義務付けを求める訴えは適法である。
そして,前記2で説示したところによれば,本件再却下処分において,道路
運送法9条の3第2項3号の要件に適合しないとした近畿運輸局長の判断には
裁量権の逸脱又は濫用があったというべきところ,本件再却下処分後の事情に
関しては原被告ともに特段の主張立証はなく,現時点において,同法9条の3
第2項3号の要件に適合しないとして本件申請を認可しないことは,その裁量
権の逸脱又は濫用になると認められる。
したがって,行訴法37条の3第5項に基づき,近畿運輸局長に対し,本件
申請の認可をすべき旨を命じるのが相当である(ただし,本件申請の認可に付
すべき条件の有無及び内容については,なお近畿運輸局長の裁量判断にゆだね
られるというべきである。)。
4国家賠償請求について
(1)判断の基礎となる事実関係
前記前提となる事実等に加えて,当裁判所に顕著な事実,証拠(甲22か
ら28まで,乙68,69,75から79まで,原告本人)及び弁論の全趣
旨によれば,次の事実が認められる。
ア当裁判所は,平成19年3月14日,甲事件につき,行訴法37条の3
第6項前段に基づき,本件却下処分の取消しを求める請求についてのみ認
容する前判決をした。被告は,前判決について控訴せず,前判決は確定し
た。
イその後,原告及び原告訴訟代理人らと,近畿運輸局自動車交通部の担当
者数名との間で,数回にわたり交渉が行われた。その際,近畿運輸局の担
当者からは,本省(国土交通省自動車交通局旅客課)に本件申請を認可す
る方向で打診しているが,東京の運賃値上げ問題で本省が多忙であるため
か,指示が返ってこない旨の発言がされた。
そこで,原告は,当裁判所に対し期日指定の申立てを行い,平成19年
8月1日から平成20年2月15日までの間,4回にわたり,甲事件の義
務付けの訴えについて進行協議手続が行われたが,被告は,本省と協議中
である旨の対応を繰り返した。
その後,平成20年2月22日,裁判所外において,近畿運輸局の担当
者から,原告に対し,同月末までに結論を出すこと,本件申請に対しては
却下せざるを得ないこと,処分理由は別途文書で通知することが告げられ
た。
ウ近畿運輸局長は,平成20年2月27日付けで,本件申請に係る運賃等
の変更は道路運送法9条の3第2項3号の基準に適合しないとして,本件
再却下処分をした。
エ近畿運輸局長は,前判決から本件再却下処分までの間に,前判決の示し
た判断基準にのっとって,考慮すべきとされた各種事情につき調査,検討
を行った。
また,近畿運輸局長は,審査基準公示の見直しも必要となるという考え
のもとに,そのための検討も行った。その際には,審査基準公示は「一般
乗用旅客自動車運送事業の運賃料金の認可の処理方針について」(平成1
3年10月25日国自旅第101号国土交通省自動車交通局長通達,以下
「基本通達」という。)に基づいて制定されていることから,基本通達の
改正も視野に入れて検討を行った。
具体的には,平成19年4月19日及び同年5月31日,東京地区のタ
クシー運賃改定に係る内閣府の「物価安定政策会議」が開催され,運賃改
定について議論された。これを受けて,同年10月18日,東京地区のタ
クシー運賃改定に係る「物価問題に関する関係閣僚会議」が開催され,東
京地区の運賃改定を認める決定がされた。さらに,「物価安定政策会議」
におけるタクシー事業を巡る問題についての指摘や,これを踏まえた上記
閣僚会議での決定を受けて,同年12月21日,運賃改定を契機として提
起されたタクシー事業を巡る諸問題について検討するワーキンググループ
が設置されることとなり,そこでは下限割れ運賃の審査基準についても検
討される予定であった。そして,同ワーキンググループは平成20年2月
に設置されたが,その答申結果は,同年12月ころの予定とされたため,
近畿運輸局長は,そのときまで本件申請に対する処分を保留することは相
当でないと判断し,現行の審査基準公示の下で,本件再却下処分を行った。
(2)本件再却下処分の国賠法上の違法性について
国賠法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別
の国民に対して負う職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたと
きに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものであ
り,ある行政処分がその根拠法規の定める要件を欠くなどして違法であると
しても,そのことから直ちに国賠法1条1項にいう違法があったとの評価を
受けるものではなく,行政庁が資料を収集し,これに基づき事実を認定し,
処分要件に該当するか否かを判断する上において,職務上通常尽くすべき注
意義務を尽くすことなく漫然と処分をしたと認め得るような事情がある場合
にはじめて,国賠法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものと解
される(最判平成5年3月11日・民集47巻4号2863頁参照)。
ところで,前判決は,考慮すべき事情を考慮していないことなど近畿運輸
局長の判断には裁量権の逸脱又は濫用があるとして,本件却下処分を取り消
すこととしたものであるが,前判決の段階で主張立証されていた事情のみで
は,当該申請を認可することにより他の一般旅客自動車運送事業者との間に
おいて過労運転の常態化等により輸送の安全の確保を損なうことになるよう
な旅客の運賃及び料金の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれが認
められないということも,その説示内容から明らかである。そうすると,近
畿運輸局長は,取消判決の拘束力(行訴法33条1項,2項)に照らし,前
判決の趣旨に従って,本件却下処分において考慮されていなかった事情等に
つきすみやかに必要な調査,検討を行った上で,新たに考慮した事情を中心
として,上記具体的なおそれの有無を社会通念に従って判断することが求め
られていたのであり,これは近畿運輸局長において通常尽くすべき注意義務
の内容をなすものというべきである。
以上の観点から本件についてみると,前述のとおり,前判決が本件却下処
分において考慮されていないとして指摘した事情や,本件却下処分後の事実
関係の変動等をみても,上記具体的なおそれを裏付けるに足りるような事情
は見当たらないのであり,にもかかわらず,近畿運輸局長は,個人タクシー
事業者の人件費を標準人件費の9割をもって査定するという不合理な基準に
よった上,それに基づく収支率が100パーセントを下回るという点になお
相当の重きを置いて(前判決においても,上記基準に基づいて査定された収
支率にかかわらず,本件申請に係る運賃が能率的な経営の下における適正な
原価を償わないものであると即断することはできないとされていたのである
から,この点を上記具体的なおそれを裏付ける中心的な根拠となし得ないこ
とは明らかである。),再度,その裁量権の範囲を逸脱し又は濫用して違法
に本件再却下処分をしたものである。しかも,前述のとおり,近畿運輸局長
において,本件申請に係る運賃が,法人タクシー事業者において認可されて
いない運賃であり,初乗運賃500円という従前の最低額ラインを割り込む
運賃であることといった重視すべきでない事情をことさら重視しているとみ
られることも考え併せれば,近畿運輸局長が再度裁量権の範囲を逸脱し又は
これを濫用してした本件再却下処分は,前判決の趣旨に沿わないものである
ことはもとより,原告に対し職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことな
く漫然とされたものと評価せざるを得ず,国賠法上も違法であるというほか
はない。
(3)本件再却下処分の遅延と国賠法上の違法性について
この点,確かに,前判決から本件再却下処分まで約1年が経過しており,
その間の近畿運輸局長に対する申請件数や処理態勢等については詳細が明ら
かでないものの,上記認定のとおり,近畿運輸局長は審査基準公示の見直し
や基本通達の改正を視野に入れて検討していたというのであるから,単に本
件再却下処分をするために手続上必要と考えられる期間は超えていたものと
推認される。しかしながら,前判決が指摘した事情や本件却下処分後の事情
を改めて調査,検討し,市場への影響等を総合考慮の上,上記具体的なおそ
れの有無につき判断するには数か月程度の期間を要することもやむを得ない
といえることに加えて,本件申請を認可するとすれば,他の同種申請に対す
る対応の在り方についても見直しが必要となり,ひいては,審査基準公示の
見直しが必要となるから,その基礎となっている基本通達の見直しの動向を
見守っていたという近畿運輸局長の検討方針も社会通念上全く首肯し得ない
とまではいえないことを考慮すれば,各種事情の調査,検討や,審査基準公
示の見直しの検討のために前判決後本件再却下処分に至るまで約1年間を要
したことが,直ちに不合理であるということはできない。
したがって,本件の事実関係の下では,近畿運輸局長において,漫然と長
期間にわたり本件申請に対する処分を放置したということはできず,職務上
通常尽くすべき注意義務を怠ったものということはできないから,近畿運輸
局長が前判決から本件再却下処分をするまでに約1年間を要した点について
は,国賠法1条1項の適用上,違法とまではいえない。
(4)精神的損害(慰謝料)について
上記(2)記載のとおり,裁量権を逸脱又は濫用してされた本件再却下処分は
国賠法上違法というべきである。そして,上記(2)の説示内容に照らせば,近
畿運輸局長には上記違法行為につき過失があると認められる。
そこで,原告が違法な本件再却下処分により被った精神的損害について検
討するに,原告は同処分により現実に本件申請に係る運賃による営業活動が
妨げられていることに加え,原告は,平成14年11月に申請を行ったもの
の,平成16年2月に本件却下処分を受けたため,国土交通大臣に対する審
査請求及び裁決を経て本件訴訟(甲事件)を提起し,本件却下処分から約3
年後にようやく本件却下処分を取り消す旨の前判決を勝ち取ったにもかかわ
らず,再度原告の期待に反する本件再却下処分がされ,その取消訴訟(乙事
件)の提起を余儀なくされたという一連の経緯など,本件の事実関係を総合
考慮すれば,その精神的損害に相当する慰謝料は20万円が相当であると認
められる。
5結論
以上によれば,原告の請求は主文1項から3項の限度で理由があるからこれ
を認容し,その余は理由がないから棄却することとし,仮執行宣言は相当でな
いから付さないこととして,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官山田明
裁判官徳地淳
裁判官直江泰輝
(別紙第1)
1.適用する営業区域
大阪府(ただし,現に許可を受けている区域に限る。)
2.距離制運賃
(1)初乗運賃
小型車2.0㎞まで480円
(2)加算運賃
小型車406mまでごとに80円
(3)時間距離併用運賃
小型車時速10㎞以下の運行時間について
2分05秒間までごとに80円
(4)運賃の割増及び割引
深夜及び早朝割増2割増
身体障害者割引1割引
知的障害者割引1割引
遠距離割引(5,000円を超える金額について)5割引
3.迎車回送料金
迎車のための回送距離について2㎞を限度として実車扱いとし,初乗運賃額を
限度とする。
4.時間制運賃
(1)運賃
小型車30分間までごとに1,860円
(2)運賃の割引
身体障害者割引1割引
知的障害者割引1割引

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