弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件抗告を棄却する。
     抗告費用は抗告人の負担とする。
         理    由
 抗告代理人山田利夫の抗告理由第一について。
 所論は、原決定は憲法二九条一項、二項の解釈、適用を誤まるものであると主張
する。
 思うに、会社更生法(以下法という。)は、企業を破産により解体清算させるこ
とが、ひとり利害関係人の損失となるに止まらず、広く社会的、国民経済的損失を
もたらすことがあるのにかんがみ、窮境にはあるが再建の見込のある株式会社につ
いて、債権者、株主その他の利害関係人の利害を調整しつつ、その事業の維持更生
を図ることを目的とするものである。そして、法は、右の目的を達成するため、更
生債権または更生担保権については、更生手続によらなければ弁済等のこれを消滅
させる行為をすることができないこと〔昭和四二年法律八八号による改正前の法(
以下改正前の法という。)一一二条、一二三条〕、更生計画によつて債務の期限が
猶予されるときは、その債務の期限は、担保があるときはその担保物の耐用期間内、
担保がないときまたは担保物の耐用期間が判定できないときは二〇年までそれぞれ
定めることができること(法二一三条)、更生計画認可の決定があつたときは、計
画の定めまたは法の規定によつて認められた権利を除き、更生会社は、すべて更生
債権および更生担保権につきその責を免かれ、株主の権利および更生会社の財産の
上に存した担保権はすべて消滅し、また、更生債権者、更生担保権者および株主の
権利は計画の定めに従い変更されること(改正前の法二四一条、法二四二条)など
を、それぞれ定めている。もとより、これらの規定によつて更生債権者、更生担保
権者および株主の財産権が制限されることは明らかであるが、右各法条の定める財
産権の制限は、前記目的を達成するためには必要にしてやむを得ないものと認めら
れる。しかも、法は、更生手続が裁判所の監督の下に、法定の厳格な手続に従つて
行われることを定め、ことに、更生計画は、改正前の法一八九条以下の綿密な規定
に従つて関係人集会における審理、議決を経たうえ、さらに裁判所の認可によつて
効力を生ずるものとし、その認可に必要な要件を法二三三条以下に詳細に定めるな
ど、公正かつ衡平に前記目的が達成されるよう周到かつ合理的な諸規定をもうけて
いるのである。したがつて、これらの点を考えると、論旨の指摘する改正前の法一
一二条、法二一三条、改正前の法二四一条、法二四二条の各規定は、公共の福祉の
ため憲法上許された必要かつ合理的な財産権の制限を定めたものと解するのが相当
であり、憲法二九条一項、二項に違反するものということはできない。
 右と同旨の原決定の判断は正当であり、憲法二九条一項、二項の解釈適用につい
ての原決定の判断に所論の違憲ありとは認められず、論旨は採用することができな
い。
 同第二について。
 所論は、原決定は憲法二九条二項、三二条の解釈適用を誤まるものであると主張
する。
 そこで、会社更生法の規定をみると、更生債権者が更生手続に参加するためには、
裁判所の定めた期間内に所定の届出をすることを要し(改正前の法一二五条)、届
出をしても、その権利について異議があると、その異議者に対し訴をもつて権利確
定の手続をすることを要し(改正前の法一四七条)、これらいずれの手続を怠つて
も更生手続に参加する資格を失い、裁判所の更生計画認可の決定があると、更生債
権は、更生計画の定めによつて認められた範囲内においてのみ存在し、その余は失
権することとなり(法二一三条、改正前の法二四一条、法二四二条、二四三条)、
届出をしなかつた更生債権者は、更生計画認否の決定に対し不服の申立をすること
ができない(改正前の法二三七条)旨をそれぞれ定めている。
 そして、会社更生法の右各規定によつて更生債権者の財産権が制限されることは
明らかであるが、前記抗告理由第一に対する判断で説示したところと同様の理由に
より、右各規定は、公共の福祉のため憲法上許された必要かつ合理的な制限を定め
たものと解するのが相当であり、憲法二九条二項に違反するものということはでき
ない。
 原決定に所論の違憲ありとは認められず、論旨は採用することができない。
 次に、憲法三二条にいう裁判とは、同法八二条にいう裁判と同様に、現行法が裁
判所の権限に属せしめている一切の事件につき、裁判所が裁判の形式をもつてする
すべての判断作用ないし法律行為を意味するものではなく、そのうち固有の司法権
の作用に属するもの、すなわち、裁判所が当事者の意思いかんにかかわらず終局的
に事実を確定し当事者の主張する権利義務の存否を確定することを目的とする純然
たる訴訟事件についての裁判のみをさすものと解すべきであつて(昭和二六年(ク)
第一〇九号・同三五年七月六日大法廷決定・民集一四巻九号一六五七頁、昭和三六
年(ク)第四一九号・同四〇年六月三〇日大法廷決定・民集一九巻四号一〇八九頁、
昭和三七年(ク)第二四三号・同四〇年六月三〇日大法廷決定・民集一九巻四号一
一一四頁、昭和三九年(ク)第一一四号・同四一年三月二日大法廷決定・民集二〇
巻三号三六〇頁、昭和四一年(ク)第四〇二号・同四五年六月二四日大法廷決定・
裁判所時報五四八号九五頁等参照)、憲法三二条は、かかる裁判の請求権を保障し
ているものにほかならず、その本質において固有の司法権の作用に属しない非訟事
件は、憲法三二条の定める事項ではなく、したがつて、非訟事件の手続および裁判
に関する法律の規定について、憲法三二条違反の問題は生じないものと解すべきで
ある。
 ところで、会社更生手続の眼目であり、会社更生の基準となる更生計画は、関係
人集会においてその案が審理可決された上、裁判所の認可をもつてはじめて有効に
成立するのであるが(法二三二条以下)、裁判所のなす右更生計画認否の裁判は、
国家のいわゆる後見的民事監督の作用に属し、固有の司法権の作用に属しないこと
が明らかであつて、その本質は非訟事件の裁判であり、それに対する不服の申立も
また純然たる訴訟事件ではないと解すべきであり(昭和三七年(ク)第六四号・同
四一年一二月二七日大法廷決定・民集二〇巻一〇号二二七九頁参照)、また、前説
示の改正前の法二四一条、法二四二条、二四三条による更生債権失権の効果は、有
効に成立した更生計画を要件として法律により定められた私権の変更の効果にほか
ならない。以上の次第で、右失権の定めおよび前説示の更生計画認否の決定に不服
の申立ができない(改正前の法二三七条)旨の定めは、非訟事件に関する定めであ
り、憲法三二条が保障する裁判請求権の制限ないし剥奪と解すべきものではなく、
したがつて、同条に違反するものということはできない。
 なお、更生手続中、所論の更生債権確定の訴は、純然たる訴訟事件と解すべきで
あるが、この訴の前提となる更生債権届出期間の定めおよびこの訴についての出訴
期間の定めは、会社更生法の目的に照らし必要かつ合理的なものであり、実質上裁
判の拒否と認められるような不合理な点は認められないから、憲法三二条に違反す
るものではない(昭和二三年(オ)第一三七号・同二四年五月一八日大法廷判決・
民集三巻六号一九九頁参照)。
 以上と結論を同じくする原決定の判断は正当であり、原決定に所論の違憲はなく、
論旨は採用することができない。
 なお、抗告理由中の法二三四条についての主張は、論旨が不明というべく、特別
抗告適法の理由に当らない。
 同第三について。
 所論は、改正前の法二四四条を適用した更生計画認可の決定を是認する原決定は、
憲法一四条に違反すると主張する。
 そこで、考えてみると、憲法一四条一項は、国民に対し絶対的な平等を保障した
ものではなく、差別すべき合理的な理由なくして差別することを禁止している趣旨
と解すべきであるから、事柄の性質に即応して合理的と認められる差別的取扱をす
ることが何ら右法条の否定するところでないことは、当裁判所の判例とするところ
である(昭和三七年(オ)第一四七二号・同三九年五月二七日大法廷判決・民集一
八巻四号六七六頁参照)。
 ところで、改正前の法二四一条、法二四二条、二四三条によれば、更生計画の定
めによつて更生債権者または更生担保権者に対し権利が認められた場合には、その
権利は、確定した更生債権または更生担保権を有する者に対してのみ認められるこ
ととし、改正前の法一二五条、一二六条所定の届出や、改正前の法一四七条以下に
定める権利確定の手続を怠つた更生債権者または更生担保権者は何らの権利も認め
られず失権することとしている。他方、改正前の法二四四条によれば、更生計画の
定めによつて株主に対し権利が認められた場合には、その権利は、株式の届出をし
なかつた者に対しても、認められるものとしている。かように株主を更生債権者ま
たは更生担保権者に対し別異の取扱をしているのは、更生債権者または更生担保権
者の各権利と株主の権利とはそれぞれその性質を異にし、かつ、株式の数および内
容は、会社の知悉するところであり、また、その帰属は、株主名簿等により明らか
であるからである。したがつて、右取扱の差異は、事柄の性質に即応した合理的な
差別というべきであつて、改正前の法二四四条の規定を適用した更生計画認可の決
定を是認する原決定が憲法一四条一項に違反するものということはできない。
 原決定に所論の違憲はなく、論旨は、採用することができない。
 よつて、本件抗告を棄却し、抗告費用は抗告人の負担すべきものとし、裁判官全
員の一致で、主文のとおり決定する。
昭和四五年一二月一六日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    石   田   和   外
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    色   川   幸 太 郎
            裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    松   本   正   雄
            裁判官    飯   村   義   美
            裁判官    村   上   朝   一
            裁判官    関   根   小   郷
            裁判官    藤   林   益   三

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