弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中、上告人A1に関する部分(ただし慰藉料請求に関する部分を
除く)を破棄し、右部分を大阪高等裁判所に差し戻す。
     上告人A1のその余の上告を棄却する。
     上告人A2の本件上告を棄却する。
     第二項に関する上告費用は上告人A1の負担とし、第三項に関する上告
費用は上告人A2の負担とする。
         理    由
 上告代理人藤井信義、同陶山三郎の上告理由(ただし第二点を除く)について。
 所論の点に関する原審の認定は、原審の挙示する証拠により、これを是認するこ
とができる。所論は、違憲をいう点もあるがその実質は、原審の専権に属する証拠
の取捨判断、事実の認定を非難するに帰し、採用することができない。
 よつて、本件上告中、上告人A2に関する部分は理由がない。
 同第二点(上告理由書二〇頁七行以下二一頁四行まで)について。
 第一審判決を引用する原判決の確定するところによれば、明石税務署長は、上告
人A1が昭和二五年六月二〇日本件不動産を上告人A2に贈与したと認定し、同二
八年三月五日上告人A1に対し資産再評価税二八、一一〇円および無申告加算税七、
〇〇〇円を賦課したが、本件不動産の登記簿謄本には上告人A2が同二五年三月二
〇日右不動産の所有権を取得した旨記載されかつ同日その取得登記がなされた旨明
記されているのであるから、本件課税処分当時、明石税務署長において右登記簿を
調査すれば、上告人A1から同A2への本件不動産贈与の日は同年三月二〇日であ
ることが容易に判明した筈であり、したがつて、当時施行の資産再評価法付則四項
同法三六条により前記課税処分をなすべきでないことが容易に判明した筈であるの
にかかわらず、かかる調査をすることなく右贈与の日を同年六月二〇日と誤認して
なされた前記課税処分は、明石税務署長の過失による違法な課税処分であるという
のであり、また、上告人A1は、右違法な課税処分の取消を求めるため同二八年三
月三一日大阪国税局長に対し右処分の審査請求をしたが、右請求を棄却する旨の決
定がなされたので、同上告人主張の弁護士に委任して同年七月四日右国税局長を被
告として大阪地方裁判所に右審査決定取消の訴を提起し、よつて、所論の費用支出
を余儀なくされるにいたつたというのである。
 右の事実によれば、明石税務署長が上告人A1に対しなした前記課税処分は、同
署長の過失に基因する違法行為であるが、その取消を求めることなく放置すれば右
課税処分に基づき上告人A1に対し滞納処分がなされる筋合にあり、これを阻止し
自己の権利を擁護するためには、前記審査決定取消の訴を提起しその取消を求める
以外に方法はないと認められるところ、右の訴を提起し追行するには高度に専門化
された技術を必要とし、一般人としては弁護士に委任しなければその目的を達成す
ることがほとんど不可能に近いのであるから、右訴訟追行のため支出を余儀なくさ
れた弁護士費用のうち、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟
酌して相当と認められる範囲内の費用は、前記違法行為と相当因果関係に立つ損害
であると認めるのが相当である(当裁判所昭和四一年(オ)第二八〇号、同四四年
二月二七日第一小法廷言渡判決参照)。そして、前記の取消訴訟においては、上告
人A1としては課税処分が違法であることを主張すれば足りるのであるから、原審
が、上告人A1の委任した弁護士が原判示(3)の違法事由を特定し主張して前記の
取消訴訟を提起しなかつたことを理由に、(訴訟提起後の 同二八年一〇月頃、弁
護士藤井信義においてはじめて右(3)の違法事由を発見し、同月三日附準備書面に
右違法事由をも附加して主張したので、明石税務署長において直ちに登記簿を調査
して右違法を確認したうえ、同年一〇月二八日右違法事由の存在を理由に本件課税
処分を取消したので、同年一二月一日、上告人A1においても前記取消訴訟を取下
げたことを理由に)、本件違法課税処分と前記取消訴訟提起のための弁護士費用と
の間の因果関係を全く否定したのは違法であり、原判決中、右に関する部分(上告
人A1の慰藉料請求を除くその余の請求に関する部分)は、右の点において破棄を
免れない。そして、本件課税処分と因果関係のある弁護士費用の範囲を確定するた
めには、なお審理を尽くす必要があるので、右の点について審理を尽くさせるため、
本件を原審に差し戻すのを相当と認める。
 同第二点のその余の上告理由(慰藉料請求に関する上告理由)について。
 所論の点に関する原審の認定は、挙示の証拠により、これを是認することができ
る。所論は、原審の右認定を非難するに帰し、採用することができない。
 よつて、民訴法三九六条、三八四条、四〇七条、八九条に従い、裁判官全員の一
致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    大   隅   健 一 郎

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