弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人築平二の上告理由第一点について。
 論旨は、昭和三年四月一〇日の大審院判決を援用して、原判決は違法である旨を
主張するのであるが、右先例は、商標登録出願者が指定した商標法施行規則一五条
第一類の商品について出願商標は永年使用による特別顕著性が認められるけれども、
第一類に属する一部商品については特別顕著性が認められない場合の判決であつて、
本件のように上告人の指定する第十六類商品について出願商標の顕著性が認められ
ない場合とは場合を異にし本件の先例とはし難い。もとより商標の登録出願に際し
ては、商標法施行規則一五条に定める分類に従つて同一類の全部の商品を指定して
出願することを要せず、そのうちのある種類を制限して指定出願することができる
けれども、上告人が特許庁に商標登録出願するにつき本件商標を附すべき商品とし
て指定したものは、「第十六類、護謨、「エボナイト」、「ガタベルチャ」、「ラ
バーサブスチチュート」及び他類に属しないその他の軟質製品」であつたことは、
原判決の確定したところである。従つて、所論の立看板、木皿、盆、ゴム製浮袋等
は指定商品として表示されていないのであるから、たといこれらの商品について本
件商標が永年の使用により特別顕著性を有するに至つたとしても、本件の手続にお
いて登録することのできないことはいうまでもない。されば、この点に関する原審
の判断は、前記判例に反するものではない。論旨はまた、特許法施行規則一一条に
よつて特許庁に提出した書類の訂正できるのは、審査、審判、抗告審判又は再審係
属中に限るのであるから、原審としては本件を審決庁に差し戻すべきであると主張
するが、書類を訂正するかしないかは、出願人たる上告人が各手続の段階において
自ら決すべきことであり、その訂正がない以上、審決の基礎となつた出願について
審決の当否を判断すべきことは当然である。それ故、原判決には所論の違法はなく
論旨は理由がない。
 同第二点について。
 論旨は、原判決の理由は前後矛盾するというのであるが、その然らざることは、
前論旨に対する説明によつて明らかであるばかりでなく、原判文を精読すれば自ら
了解することができるところである。
 同第三点及び第四点について。
 論旨は、他の商標の例をあげ、また判例を援用して本件商標に特別顕著性がある
ことを主張し、この点に関する原判示を非難する。しかし、他の商標にはそれぞれ
独自の事由があるものと考えられ、他に所論のような商標があつたからといつて、
本件商標に特別顕著性があるとはいえず、原審が本件の指定商品につき右商標に特
別顕著性がないものと判断したことは正当であつて、原判決には所論の違法はない。
 同第五点について。
 論旨は、特許庁は本件拒絶査定にあたり拒絶の理由として本件商標が普通一般に
使用される印鑑を拡大したものに過ぎないという点を附加したに拘らず、これを上
告人に通知せず、これに対する意見書提出の機会を失わしめたのは違法であると主
張し、この点に関する原判示を非難する。しかし、特許庁が本件拒絶査定にあたり
拒絶の理由としたのは、原判決の説明するように、本件商標には特別顕著性がない
という点にあるのであつて、印鑑を拡大したものに過ぎないというのは、特別顕著
性がないことの説明に外ならないのであるから、この点に関する原審の判断は正当
であつて、原判決には所論の違法はない。
 同第六点について。
 論旨は、上告人出願の(北)が、他の商品を指定商品とするものについては登録
されている事実を述べ、本件商標の特別顕著性を主張するのであるが、商標の顕著
性は指定商品との関連において考えるべきものであるから、他の指定商品について
登録されたからといつて、本件出願の商標が直ちに顕著性を有するものとはいえな
いので、原判決には所論の違法はない。
 同第七点について。
 論旨は、判例を援用して原判決が本件商標に特別顕著性がないと判断したことは
実験則に反し審理不尽の違法があると主張するのであるが、論旨の援用する昭和七
年九月一五日の大審院判決は、本件と具体的場合を異にするもので適切でなく、原
判決には所論の違法は認められない。
 同第八点乃至第一〇点について。
 所論の理由ないことは、論旨第一点に対する説明によつて明らかである。所論の
立看板、ゴム製浮袋、木皿、盆等は、本件出願の指定商品ではないから、これらの
商品につき本件商標の特別顕著性の有無を判断する必要はなく、まして他の商品に
ついてその判断を加える必要のないことは、いうまでもないところである。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
あり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    垂   水   克   己

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