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裁判例


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平成22年11月24日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成22年(行ウ)第2号個人情報非開示決定処分取消及び個人情報開示処分義
務付け請求事件
主文
1本巣市議会が原告に対して平成22年1月18日付けでした本巣市個人情報
保護条例に基づく個人情報非開示決定処分を取り消す。
2本巣市議会は,原告に対し「平成21年11月27日に開催された議会の,
規律に関する検討委員会の議事録及び議事の録音しているもの」の開示決定を
せよ。
3原告のその余の請求を棄却する。
4訴訟費用はこれを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担と
する。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1請求の趣旨
(1)主文1,2項と同旨
(2)本巣市議会は,原告に対し「平成21年12月3日,同月4日及び同,
月10日に開催された議会の規律に関する検討委員会の議事録及び議事の録
音しているもの」の開示決定をせよ。
(3)訴訟費用は被告の負担とする。
2請求の趣旨に対する答弁
(1)原告の請求をいずれも棄却する。
(2)訴訟費用は原告の負担とする。
第2事案の概要
本件は,本巣市議会議員である原告が,本巣市議会に対し「原告が本巣市,
個人情報保護条例(平成16年2月1日本巣市条例第9号。以下「本件条例」
という)に基づき,自己の非違行為に関する対応について検討された「議会。
の規律に関する検討委員会の議事録及び議事を録音しているもの(以下「本」
件情報」という)につき,開示請求をしたところ,同議会は「議会の規律に。
関する検討委員会は秘密会として開催されたため」という理由で非開示決定。
(本議第463号,以下「本件処分」という)をした。しかし,同処分には。
根拠がなく違法である」などとして,本件処分の取消及び本件情報の開示の。
義務付けを求めた事案である。
1関係法令の定め等
(1)本件条例(甲3)
ア1条(目的)
この条例は,個人情報の適正な取扱いの確保に関する基本的な事項を定
めるとともに,市の実施機関が保有する個人情報の開示及び訂正を求める
個人の権利を明らかにすることにより,個人の権利利益を保護することを
目的とする。
イ2条(定義)
この条例において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定める
ところによる。
1号個人情報
個人に関する情報であって,特定の個人が識別され得るものをい
う。ただし,次に掲げるものを除く。
ア事業を営む個人の当該事業に関する情報
イ法人その他の団体に関する情報に含まれる当該法人その他の団
体の役員に関する情報(当該法人その他の団体の機関としての情
報に限る)。
2号実施機関
市長,議会,教育委員会,選挙管理委員会,監査委員,農業委員
会及び固定資産評価審査委員会をいう。
3号事業者
法人(国及び地方公共団体を除く)その他の団体及び事業を営む。
個人をいう。
4号本人
個人情報から識別され得る個人をいう。
5号行政文書
実施機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書,図画,写真,
フィルム及び電磁的方式(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚
によっては認識することができない方式をいう)により記録された。
ものから出力され,又は採録されたもので,当該実施機関の職員が
組織的に用いるものとして,当該実施機関が保有しているものをい
う。ただし,次に掲げるものを除く。
ア官報,公報,白書,新聞,雑誌,書籍その他一般に入手できる
もの又は実施機関が一般の利用に供することを目的として保有し
ているもの
イ資料館その他これに類する施設において,歴史的若しくは文化
的資料又は学術研究用の資料として特別の管理がされているもの
ウ6条(収集の制限)
1項実施機関は,個人情報を収集するときは,個人情報を取り扱う事務
(以下「個人情報取扱事務」という)の目的を明確にし,当該目的。
を達成するために必要な範囲内で,適法かつ公正な手段により収集し
なければならない。
2項実施機関は,個人情報を収集する場合は,本人から収集しなければ
ならない。ただし,次の各号のいずれかに該当するときは,この限り
でない。
1号本人の同意があるとき。
2号法令又は条例(以下「法令等」という)に定めがあるとき。。
3号以下略
3項略
エ13条(開示請求)
1項何人も,実施機関に対し,当該実施機関の個人情報取扱事務(前条
第3項第1号に規定する事務を除く)に係る行政文書に記録されて。
いる自己の個人情報の開示の請求(以下「開示請求」という)をす。
ることができる。
2項略
オ14条(個人情報の開示義務)
実施機関は,開示請求があったときは,開示請求に係る個人情報に次の
各号に掲げる情報(以下「非開示情報」という)のいずれかが含まれて。
いる場合を除き,開示請求をした者に対し,当該個人情報を開示しなけれ
ばならない。
1号開示請求に係る個人情報の本人以外の個人に関する個人情報を含む
情報であって,開示することにより,当該個人の正当な利益が損な
われると認められるもの
2号法令等の定めるところにより,又は実施機関が法律上従う義務を有
する主務大臣等の指示により,開示することができないと認められ
る情報
3号法人(国,独立行政法人等(独立行政法人等の保有する情報の公開
に関する法律(平成13年法律第140号)第2条第1項に規定す
る独立行政法人等をいう。以下同じ)及び地方公共団体その他公共。
団体を除く)その他の団体(以下「法人等」という)に関する情。。
報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報を含む情報であって,
開示することにより,当該法人等又は当該事業を営む個人の競争上
の地位その他正当な利益が損なわれると認められるもの
4号開示することにより,人の生命,身体,財産等の保護,犯罪の予防,
犯罪の捜査その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれ
のある情報
5号個人の評価,診断,選考,指導,相談等(以下「個人の評価等」と
いう)に関する情報であって,開示することにより,当該個人の評。
価等又は将来の同種の個人の評価等に著しい支障を及ぼすおそれの
あるもの
6号市の機関並びに国,独立行政法人等及び他の地方公共団体その他公
共団体(以下「国等」という)が行う事務又は事業に関する情報で。
あって,開示することにより,次に掲げるおそれその他当該事務又
は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に著しい支障を及
ぼすおそれがあるもの
ア監査,検査,取締り又は試験に係る事務に関し,正確な事実の
把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし,
若しくはその発見を困難にするおそれ
イ契約,交渉又は争訟に係る事務に関し,市又は国等の財産上の
利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ
ウ調査研究に係る事務に関し,その公正かつ能率的な遂行を不当
に阻害するおそれ
7号市の機関又は国等の内部又は相互間における審議,検討又は協議に
関する情報であって,開示することにより,率直な意見の交換若し
くは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ又は特定のものに
不当に利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそれがあるもの
カ15条(部分開示)
実施機関は,開示請求に係る個人情報に非開示情報が含まれている場合
において,非開示情報に係る部分を容易に分離することができ,かつ,当
該分離により請求の趣旨が損なわれることがないと認めるときは,当該部
分を除いた部分につき開示しなければならない。
キ18条(開示請求に対する決定等)
1項実施機関は,開示請求書の提出があったときは,当該開示請求書の
提出があった日から起算して15日以内に,開示請求に係る個人情
報を開示するかどうかの決定(以下「開示決定等」という)をしな。
ければならない。ただし,前条第3項の規定により補正を求めた場
合にあっては,当該補正に要した日数は,当該期間に算入しない。
2項実施機関は,開示決定等をしたときは,速やかに,書面により当該
決定の内容を開示請求者に通知しなければならない。ただし,当該
開示請求書の提出があった日に,開示請求に係る個人情報の全部を
開示する旨の決定をし,当該個人情報を開示するときは,この限り
でない。
3項実施機関は,開示請求に係る個人情報の開示をしない旨の決定(第
15条の規定により個人情報の一部を開示しない旨の決定,第16
条の規定により開示請求を拒む旨の決定及び開示請求に係る個人情
報を保有していない旨の決定を含む)をしたときは,前項の書面に。
その理由を記載しなければならない。この場合において,当該理由
がなくなる期日をあらかじめ明示することができるときは,当該書
面にその期日を併せて記載しなければならない。
4項略
(2)本巣市議会会議規則(平成16年2月12日本巣市議会規則第1号,乙
2。以下「会議規則」という)。
ア105条(指定者以外の者の退場)
秘密会を開く議決があったときは,委員長は,傍聴人及び委員長の指定
する者以外の者を会議室の外に退去させなければならない。
イ106条(秘密の保持)
1項秘密会の議事の記録は,公表しない。
2項秘密会の議事は,何人も秘密性の継続する限り,他に漏らしてはな
らない。
ウ161条(協議又は調整を行うための場)
1項地方自治法第100条第12項の規定による議案の審査又は議会の
運営に関し協議又は調整を行うための場(以下「協議等の場」とい
う)を別表のとおり設ける。。
(別表)
名称目的構成員招集権者
全員協議会議長が必要と認めた重要な事項に全議員議長
関する協議又は調整
略略略略
2項前項に定めるもののほか,協議等の場を臨時に設けようとするとき
は,議会の議決でこれを決定する。
3項前項の規定により,協議等の場を設けるに当たっては,名称,目的,
構成員,招集権者及び期間を明らかにしなければならない。
4項協議等の場の運営その他必要な事項は,議長が別に定める。
(3)本巣市議会議長が会議規則161条4項に委任され定めた本巣市議会の
協議等の場の運営等に関する要綱(平成20年12月22日本巣市議会告示
第3号,乙10。以下「運営要綱」という)。
ア1条(趣旨)
この要綱は,会議規則161条第4項の規定により,協議等の場の運営
その他必要な事項を定めるものとする。
イ2条(傍聴)
1項会議規則161条第1項に規定する会議は,議員のほか,招集権者
の許可を得た者が傍聴することができる。
2項招集権者は,必要があると認めるときは,傍聴人の退場を命ずるこ
とができる。
3項会議の内容が,内部における審議,検討又は協議に関することであ
って,公にすることにより,率直な意見の交換若しくは意思決定の中
立性が不当に損なわれるおそれ,不当に市民の間に混乱を生じさせる
おそれ又は特定の者に不当に利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそ
れがある場合は,招集権者は傍聴を許可しないことができる。
ウ3条(記録)
1項招集権者は,職員をして会議の概要,出席者の氏名等必要な事項を
記載した記録を作成させ,これに署名又は記名押印しなければならな
い。
2項以下略
エ4条(記録の公開)
前条の記録は,本巣市情報公開条例(平成16年本巣市条例第8号)の
規定に基づき,公開請求者に対し,当該記録を公開しなければならない。
ただし,会議の内容が,内部における審議,検討又は協議に関することで
あって,公にすることにより,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立
性が不当に損なわれるおそれ,不当に市民の間に混乱を生じさせるおそれ
又は特定の者に不当に利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそれがある場
合は,招集権者は非公開情報とすることができる。
オ5条(準用)
この要綱に定めるもののほか,会議に関しては,会議規則及び本巣市議
会委員会条例(平成16年本巣市条例第160号)の規定を準用する。
(4)本巣市議会委員会条例(平成16年2月18日本巣市条例第160号,
乙1。以下「委員会条例」という)。
ア6条(特別委員会の設置)
1項特別委員会は,必要がある場合において議会の議決で置く。
2項特別委員会の委員の定数は,議会の議決で定める。
イ8条(委員の選任)
。,1項常任委員,議会運営委員及び特別委員(以下「委員」という)は
議長が会議に諮って指名する。ただし,閉会中においては議長の指名
による。
2ないし4項略
ウ19条(秘密会)
1項委員会は,その議決で秘密会とすることができる。
2項委員会を秘密会とする委員長又は委員の発議については,討論を用
いないで委員会に諮って決める。
2前提となる事実(証拠等の記載がない事実は当事者間に争いがない)
(1)当事者等
ア原告は,本巣市議会議員である。
イ本巣市議会は,本件条例2条2号に定める実施機関であり,本件処分の
処分庁である。
(2)原告は,平成22年1月4日,本巣市議会(以下,単に「議会」とい
う)に対し,本件条例17条に基づき,同日付個人情報開示請求書を提出。
し,自己の個人情報として,本件情報の開示を請求した(以下「本件申請」
という。。)
(3)議会(処分行政庁)は,原告に対し,平成22年1月18日付けで「議
会の規律に関する検討委員会は秘密会として開催されたため」という非開。
示理由を付記して本件処分をした。
(4)原告は,平成22年2月10日,本訴を提起した(顕著な事実)。
3争点及び当事者の主張
本件の争点は,①本件処分の適法性及び②議会が原告に対し本件情報を開示
すべきことが本件条例の条文上明らかといえるか否かであり,各争点に対する
当事者の主張は次のとおりである。
(1)被告の主張
ア議会(処分行政庁)が非開示理由として記載した「議会の規律に関する
検討委員会は秘密会として開催されたため」との趣旨は,本件条例14。
条1号(第三者の個人情報,2号(法令秘情報,6号(事務事業情))
報,7号(審議・検討等情報)に該当するという趣旨である。)
イ本件条例14条1号該当性について
検討委員会で行われた事実確認の際に,開示請求者である原告以外の第
三者の個人情報が含まれている場合は,これを非開示とすべきである。
加えて,本件情報が開示されると,検討委員会における各発言内容及び
当該発言者の氏名も特定されることとなり,本件条例14条1号の「開示
請求者以外の者の個人情報」を含むこととなる。また,本巣市場法公開条
例6条1号但書ウにおいても,公務員等の役職及び当該職務遂行の内容に
係る部分については公開を認めているが,公務員の氏名自体の公開は義務
化していないことからすれば,発言者の氏名が特定されるような本件情報
開示は「当該個人の正当な利益が損なわれる」ものと認められる。
ウ本件条例14条2号該当性について
議会の規律に関する検討委員会(以下「検討委員会」という)は,会。
議規則161条4項の委任に基づく運営要綱5条が準用する委員会条例6
条1項に基づき,議会の全員協議会の議決によって設置された委員会であ
る。
同委員会は,運営要綱5条が準用する委員会条例19条に基づき,秘密
会とすることを決定しており,同要項5条が準用する会議規則106条1
項により,委員会における秘密会の議事の記録は公表しないこととされて
いる。
したがって,本件情報は,本件条例14条2号のいう「法令等の定める
ところにより「開示することができないと認められる情報」に該当す,」
るため,本件処分は適法である。
エ本件条例14条7号,6号該当性について
(ア)検討委員会は,その検討,協議内容が議会内部の規律に関する検討
又は協議過程であり,かつ,原告に対する規律違反という非難を伴う可
能性のある行為を中心に議論するものである。
検討委員会は,議長へ具申する報告書策定という最終的な意思形成に
至る過程に関する情報を開示することにより「率直な意見の交換もし,
くは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ」があると判断して秘
密会にしたのであり,そのおそれは,議長に対する報告がなされた後の
現時点においても変わらない。検討委員会は,原告が行った行為につい
て意見を表明し交換し合ったのであって,その意見は当然個々の委員の
原告に対する評価を伴うものとなる。このような意見と個々の委員を結
びつけて開示することは,部分社会である議会内の狭い人間関係を考え
ると,今後の同様な問題においても率直な意見の交換及び意見集約が不
可能になるばかりか,後日の議会内での新たな紛争材料として利用され
る可能性もあり,意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがある。
また,検討委員会が行った検討は,原告個人の規律違反という非難を
伴う可能性のある行為を対象とする側面を有し,事実関係の確認のため
に原告から聴取するなどの作業を行っているが,同委員会が検討,協議
する中で出たこれらの未完熟な情報が確定的な情報と誤解され「特定,
の者に不当に不利益を及ぼすおそれ」も存在する。
原告が全員協議会において検討委員会の設置に反対意見を述べたこと,
原告の秘書及び原告自身が口頭で告げた人物が検討委員会の傍聴を求め
てきたが同委員会が傍聴を不許可としたこと,原告が議会において自己
と見解を相違する同僚議員に関連して議長の議事整理に反して質問を繰
り返すことがあること,原告が自己が発行する情報誌で真実でない事実
を一方的に公報したこと,原告が現場関係者の前で非常に乱暴な言辞を
したことなどの原告の議会内外での行動からすれば,原告が検討委員会
の各委員に対し,一方的に非難するといった圧力や干渉等の影響を与え
る蓋然性が極めて高い。
検討委員会は,今後も全員協議会の付託を受けて同様な検討協議をす
る可能性があり,類似の検討委員会が設置される可能性もあることから,
検討協議内容を事柄上,秘密会とすべきと判断した検討委員会の決定を
事実上覆す結果となる情報開示が無限定に認められると,将来的にも当
該委員会における率直な意見交換又は意思決定の中立性が不当に損なわ
れるおそれもある。
よって,本件情報は,本件条例14条7号の非開示情報に該当する。
(イ)上記のように,秘密会とされた検討委員会における検討内容が明ら
かになる文書等は,本件条例14条6号のアないしウに例示列挙された
場合にも比する事務又は事業の適正な遂行に著しい支障をきたす。
よって,本件情報は,本件条例14条6号の非開示情報に該当する。
(2)原告の主張
ア個人情報非開示決定通知書に記載された非開示の理由は,本件条例14
条各号の定める非開示事由に該当せず,本件処分が条例に基づかない事由
によってなされたものであり,違法な処分であることは明らかである。
イ本件条例14条1号該当性について
最高裁平成15年11月11日第三小法廷判決は,大阪市公文書公開条
例に関する事件において,職務遂行に関する公務員の氏名は個人情報に当
たらないとの判断をしており,検討委員会の各委員の氏名は本件条例14
条1号のいう「開示請求に係る個人情報の本人以外の個人に関する個人情
報」に該当しない。
ウ本件条例14条2号該当性について
本件条例14条2号の「法令等」は「法令及び条例」をいう(本件条,
例6条1項2号)ところ,本巣市には,検討委員会の会議録及び録音デー
タを非開示とすべきことを定めた条例は存在せず,本件情報は,本件条例
14条2号に該当しない。
エ本件条例14条7号,6号該当性について
(ア)本件申請は,検討委員会が終了した段階で行われており,未成熟な
情報を未成熟なものとして開示を求めるものではないから,本件情報の
開示によって検討委員会の意思形成に影響を及ぼすことはまったくなく,
本件情報が確定的な情報と誤解されるようなこともない。
被告は,本件情報の開示により,議員同士の人間関係の悪化や率直な
意見交換ができなくなる旨主張するが,かかる事態は本会議においても
通常起こりうることであり,そもそも議会は,言論によって争点を明確
にし,それを開示することで民主制の過程を維持することが期待されて
いるのであるから,人間関係の悪化をおそれて議員が自由な意見の交換
ができなくなるということがあってはならない。
検討委員会は,原告の行為に関する問題を議論したものと思われるが,
いかなる内容が議論されたかわからない場合には,仮に誤った事実を前
提とする議論がなされていたとしても,その内容をただす機会が与えら
れないことになる。また,原告が検討委員会の判断を是正しようとした
場合には,議会内部の問題である以上,本件情報の開示による世論形成
機能によって覆す方法が唯一であり,原告個人の利益を守るという本件
条例1条に適合こそすれ反するものではない。
(イ)本件条例14条6号は「市の機関並びに国等が行う事務又は事業,
に関する情報」に関して非開示情報とする定めをしたものであって,検
討委員会は,市の行う事務又は事業にあたらず,本件情報は,本件条例
14条6号には該当しない。
第3当裁判所の判断
1前記前提となる事実に証拠(甲1,2,乙6,8,9,12,13の1∼
4)及び弁論の全趣旨を併せれば次の事実が認められる。
(1)本巣市議会議会運営委員長(以下「議会運営委員長」といい,同委員を
「議会運営委員」という)A(同委員長としての行為については「A議。,
会運営委員長」という,同副委員長B,同委員C,同D,同E及びF議。)
長は,平成21年11月19日開催の同年第20回議会運営委員会において,
原告が,同年10月6日開催の同年第5回議会臨時会における正・副議長選
挙の投票の際に投票用紙を破ったこと及び原告が議事の録音したものをイン
ターネットで公表していることについて,後者について事実関係を調査し,
併せて両者についての規律違反の有無を検討し,これに対する対応を議長に
報告する議長の諮問機関を議会に設置すること並びに当該諮問機関の委員は,
議会運営委員5名に2名を加えた7名とすることを申し合わせた(乙6)。
(2)A議会運営委員長は,平成21年11月27日開催の同年第12回全員
協議会において「10月6日の議会における正・副議長の選挙の際の投票,
行動,また本会議の録音等について,議会内外からいろいろなご意見が寄せ
られております。そのことについて,議会として見解をまとめていく必要が
あるというふうに考え,名称としては,例えば議会の規律に関する検討委員
会というようなのを設置して,今定例会中に議会としての考えをまとめてい
く必要があるんではないか」と述べ,検討委員会の設置を提案した。。
A議会運営委員長は,検討委員会は,一般的な規律の話を検討するもので
はないとも述べた。
検討委員会は,上記全員協議会において,議員18名中12名の賛成によ
り設置が決定した。
全員協議会は,検討委員会の委員は議会改革検討委員会が選出することと
した。
議会改革検討委員会は,検討委員として,G議員,H議員,I議員,B議
員,J議員,K議員,L議員,M議員及びA議員を選出した(以上乙8)。
(3)検討委員会は,平成21年11月27日,同年12月3日,同月4日及
び同月10日に開催され,第2回委員会以降は「個人にかかわることのた,
め」全会一致で秘密会とした。
検討委員会は,平成21年12月4日,原告から事情を聴取した。
(以上乙9)
(4)検討委員会委員長であるAは,平成21年12月14日開催の同年第1
4回全員協議会において,後にF議長に具申予定の検討委員会の意見につい
て,次のとおり報告を行った。
「検討委員会の目的は,議会の規律に関する問題について検討し,その結
果を議長に意見具申することにある。
検討委員会に付託された検討項目は,平成21年10月6日開催の本巣市
臨時会におけるN議員の行動,①議長選挙,副議長選挙の投票に際し,投票
用紙を破ったこと,②同日の本会議を録音し,さらにそれを公表したことに
対しての2項目である。
検討委員会は,この間,4回の委員会の開催及びN議員より事情をお聞き
して,次の結論に至った」。
「検討結果,2点の行動については,議会内外からも批判と不信の声が聞
かれ,議会としての毅然とした対応が求められる。
1議長選挙,副議長選挙の投票に際し,投票用紙を破ったことについては,
本巣市議会会議規則第145条,品位を尊重に照らして考えるに,議会を
冒とくし,その品位をおとしめるものである。
2同日の本会議を録音し,さらにそれを公表したことについては,録音テ
ープの入手元がどうであれ,議長の許可なく録音したものを使用してネッ
ト上で公表したことは,本巣市議会会議規則第146条,携帯品並びに本
巣市議会傍聴規則第12条(録音機器等の携帯禁止,14条(録音禁)
止)に照らして問題があると考えざるを得ない。
以上のことにより,議長におかれては,本件に関し,N議員に強く注意喚
起されたい。また,議場においては,議長の権限のもとに毅然とした対応を
されたい。同時に,議員各位に対して,議員としての自覚を持って活動され
るよう呼びかけられたい(乙9)。」
(5)F議長は,平成21年12月14日,検討委員会の意見具申を受け,原
告に対し,注意を行った(弁論の全趣旨)。
(6)原告は,平成22年1月4日,議会に対し,本件条例17条に基づき,
同日付個人情報開示請求書を提出した(本件申請。)
上記請求書「請求に係る個人情報の内容」欄には「議会の規律に関する検
討委員会の議事録及び議事の録音しているもの」と記載され,同「開示方法
の区分」欄には「3閲覧及び写しの交付」のところに「○」が記載され,
ていた(甲1)。
(7)議会は,原告に対し,平成22年1月18日付けで個人情報非開示決定
通知書(本議第463号,以下「本件通知書」という)により,本件申請。
に対し,開示を求める個人情報を開示しないことを決定し(本件処分,そ)
のころ原告に対し本件処分を通知した。
本件通知書「個人情報を開示しない理由」欄には「本巣市個人情報保護,
条例第14条第号に該当・第16条に該当・不存在・その他(理由」)
との不動文字が印字されているところ,このうち「本巣市個人情報保護条,
例第14条第号に該当・第16条に該当・不存在・」までが二重線で消さ
れ「議会の規律に関する検討委員会は秘密会として開催されたため」と,。
記載されている。
また,同欄には「本巣市個人情報保護条例第13条の規定による開示請,
求に非該当(理由」との不動文字も印字されているところ,これも二重線)
で消されている(以上甲2)。
(8)議会は,本件情報として,①検討委員会全4回分の概要をまとめたA検
討委員長の署名のある簡易議事録及び②検討委員会全4回分の議事の録音テ
ープを保有している(弁論の全趣旨)。
(9)原告は「本巣ときの会ニュース」という新聞を発行しており,同新聞,
の第42号において,検討委員会を設置したこと及び検討委員会が報告した
内容に関する不満を記載していた(乙12)。
(10)原告は,Fから,平成20年1月28日ころ,①原告は,平成18年1
2月3日刊行,配布した本巣ときの会ニュース第10号及び平成19年5月
13日刊行,配布した同ニュース第14号において掲載した記事により,F
の名誉を毀損した,②原告は,平成19年3月20日午後8時50分ころ,
料理店において,Fの胸ぐらを左手でつかみかかり,無言のまま引っ張り続
ける暴行をしたなどとして,当庁に訴えを提起され,当庁裁判官Oは,平成
21年3月27日,①,②の事実を認めたうえ,75万円の慰謝料を認める
旨の判決をした。
上記判決は,平成22年4月6日に確定した(以上乙13の1∼4)。
2本件処分の適法性について
前記前提となる事実によれば,原告は,平成22年1月4日,議会に対し,
本件条例17条に基づき,本件申請をしたところ,議会は,本件情報について,
「議会の規律に関する検討委員会は秘密会として開催されたため」との理由。
を付した平成22年1月18日付け個人情報不開示決定通知書により,本件情
報を開示しない旨を通知したことが認められる。
そうであるところ「議会の規律に関する検討委員会は秘密会として開催さ,
れたため」という事実をもって直ちに本件条例14条各号の定める非開示事。
由に該当するものであるとはいえず,結局,本件処分には理由がないというべ
きである。
実際,本件通知書には「個人情報を開示しない理由」欄に印字された不動,
文字のうち「本巣市個人情報保護条例第14条第号に該当・第16条に該,
当・不存在・」という部分をあえて二重線で消した上で「議会の規律に関す,
る検討委員会は秘密会として開催されたため」とのみ記載されている(上記。
1の認定事実)のであって,本件処分自体が,本件条例14条各号に基づかず
になされたことが窺える。
この点,被告は,被告の主張(1)アのとおり主張するが「議会の規律に関,
する検討委員会は秘密会として開催されたため」との文言からすると,その。
趣旨が本件条例14条1号(第三者の個人情報,2号(法令秘情報,6号))
(事務事業情報,7号(審議・検討等情報)に該当するというものであると)
は解されない。
なお,本巣市議会会議規則(会議規則)106条1項は「秘密会の議事の,
。,記録は,公表しない」と規定されてはいるが,同規則は,条例ではないから
秘密会の議事の記録についても本件条例の適用が除外されるものではない。
3議会が原告に対し本件情報を開示すべきことが本件条例の条文上明らかであ
るか否か(行訴法37条の3)について
(1)個人情報該当性について
本件条例13条1項によれば,本件条例に基づき開示請求できるのは,自
己の個人情報に限られる。
前記1の認定事実によれば,検討委員会は原告の非違行為に関する対応に
ついて検討するために開催されたものであることが認められ,平成21年1
1月27日,同年12月3日,同月4日及び同月10日に開催された議会の
規律に関する検討委員会の議事録及び議事の録音しているものに原告の個人
情報が含まれると推認される。
(2)本件条例14条各号の非開示事由該当性について
ア第1回の検討委員会における本件個人情報の本件条例14条各号の非開
示事由該当性について
第1回の検討委員会における本件個人情報は,第1回の検討委員会が公
開されていたこと(前記1の認定事実)からすると,同個人情報に本件条
例14条各号の非開示事由がないことは明らかである。
イ第2回から第4回にかけての検討委員会における本件個人情報の本件条
例14条7号該当性について
前記1認定事実によれば,検討委員会は,原告の平成21年10月6日
開催の議会臨時会における議長選挙,副議長選挙の投票の際にとった行動
及び議会の録音等に対する議会の見解をまとめるために設立されたもので
あること,同委員会の各委員らは,原告が同日の本会議を録音し,これを
インターネットに公表していることの事実確認をした上で,同行為及び原
告が同日の議長・副議長選挙の投票の際に投票用紙を破った行為に対する
評価及び対応に関して,率直な意見を交換するために,第2回の委員会を
秘密会にしたこと,第2回から第4回にかけての委員会で,これらの協議,
検討がなされたこと,原告が検討委員会の報告に不満を有していること,
原告は平成18年から同19年ころにかけて,自己の発行する本巣ときの
会ニュースにおいて他者の名誉を毀損したり,他者に暴行したりなどした
ことが認められる。
上記の事実によれば,検討委員会の各委員は,第2回から第4回にかけ
ての同委員会で,秘密会であるとの前提で,原告の行為の評価に関する率
直な意見を述べており,原告のそれまでの行動を踏まえると,同委員会に
おける発言内容を含む本件個人情報が開示されることで,各委員に不当に
不利益をおよぼすおそれがあり,今後も同様の検討委員会等が開催される
場合には,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれ
るおそれもないとはいえない。
したがって,第2回から第4回にかけての検討委員会における本件個人
情報は,本件条例14条7号に該当しないことが明らかであるとはいえず,
その余の非開示事由に該当するか否かを判断するまでもなく,議会が原告
に対し本件情報を開示すべきことが本件条例の条文上明らかとは認められ
ない。
4以上によれば,原告の請求は,本件処分の取消を求める部分及び本件義務付
けの訴えのうち「平成21年11月27日に開催された議会の規律に関する検
討委員会の議事録及び議事の録音しているもの」を開示する旨の決定を求める
部分は理由があるからこれを認容し,その余は棄却すべきである。
よって,主文のとおり判決する。
岐阜地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官内田計一
裁判官永山倫代
裁判官山本菜有子

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