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平成13年(ネ)第1213号 損害賠償請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成
12年(ワ)第992号)平成13年9月18日口頭弁論終結
  判    決
控訴人(原告)           東京製網株式会社
訴訟代理人 弁護士         満 園武 尚
同                 満 園 勝 美
同                 小 屋 和歌子
補佐人 弁理士           鈴 江 武 彦
同                 坪 井   淳
同                 河 井 将 次
被控訴人(被告)          株式会社ゴショー
被控訴人補助参加人         川鉄建材株式会社
被控訴人及び補助参加人訴訟代理人弁護士宮 崎   誠
同                 平 野 惠 稔
被控訴人及び補助参加人補佐人弁理士   吉 村 勝 俊
  主    文
   本件控訴を棄却する。
   控訴費用は控訴人の負担とする。
  事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴人
   原判決を取り消す。
   被控訴人は控訴人に対し金12,489,840円及びこれに対する平成1
2年2月1日から支払い済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
   訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。
 2 被控訴人
   主文と同旨
第2 事案の概要
 控訴人は被控訴人に対し、被控訴人が平成10年3月ころ神戸市<以下略>にお
いて神戸市道路公社発注の六甲有料道路災害防除工事(「本件工事」)に用いた工
法(「被告工法」)が控訴人の有する特許権(登録第2679966号、「本件特
許」)を侵害するものであると主張し、特許権侵害による損害賠償を請求した。原
審は、被告工法は本件発明に係る明細書(「本件明細書」、ただし平成12年3月
28日付けでなされた訂正請求により訂正された後のもの)の特許請求の範囲に記
載された「立ち木および浮き石が点在する傾斜面全体の上に、その立ち木を伐採す
ることなく、複数のワイヤロープを前記立ち木を避け、かつ前記浮き石の上を通る
ように網目状に張設し」という構成(「構成要件A」)を充足しないと判断し、控
訴人の請求を棄却した。
第3 当事者の主張
 当事者の主張は、次の1及び2のとおり当審における当事者の主張を付加するほ
か、原判決の事実及び理由欄「第二 事案の概要」に摘示のとおりである。
 1 控訴人の主張の要点
  (1) 構成要件Aの解釈について
 原判決は、構成要件Aにおける「その立ち木を伐採することなく」とは、「傾斜
面上に存在する立ち木を1本たりとも伐採することなく」という意味に理解すべき
であると解釈したが、この解釈は誤りである。また、本件発明にいう「伐採」と
は、「単に立ち木をどこかで切る」という意味ではなく、立ち木を避けるためにワ
イヤロープを曲げる必要がなくなるように根元から伐採することを意味すると解す
べきである。
   ア 本件発明は、柔軟性のあるワイヤロープを1本ずつ傾斜面に引っ張って
這わせて敷設していき、最終的に傾斜面の全体にワイヤロープを網目状に張設する
技術であり、ワイヤロープに柔軟性があることから、ワイヤロープの敷設線上に立
ち木があっても、その立ち木を伐採することなく、ワイヤロープの柔軟性を利用し
て立ち木を避けてワイヤロープを張設することに特徴がある。本件発明の特許請求
の範囲で「その立ち木を伐採することなく」、「前記立ち木を避け」といっている
のは、上記のような本件発明の施工方法の特徴からして、ワイヤロープの敷設線上
に立ち木がある場合について述べたものであって、そうした箇所にある立ち木、す
なわち「邪魔になる立ち木」を対象として、「その立ち木を伐採することなく」と
表現したものである。したがって、特許請求の範囲にいう「その立ち木」、「前記
立ち木」とは、「ワイヤロープ敷設線上にある立ち木」を指すことが明らかであ
る。これを反面からいうと、ワイヤロープの敷設線上にない立ち木は、「邪魔にな
らない立ち木」であるから、本件発明でいう「その立ち木を伐採することなく」、
「前記立ち木を避け」の「立ち木」には当たらない。ワイヤロープの敷設線から外
れた位置にある立ち木(邪魔にならない立ち木)を伐採するか否かは、本件発明と
は無関係であり、構成要件充足性の判断に当たって考慮する必要がない(なお、控
訴人は、ワイヤロープの敷設線上にある立ち木を一本だけ残し他を全部「伐採」し
たような場合まで、「伐採することなく」の要件を充足すると主張するものではな
い。)。
 また、本件発明でいう立ち木の「伐採」とは、単に立ち木をどこかで切るという
意味ではなく、上述したワイヤロープの柔軟性を利用してワイヤロープの敷設線上
にある立ち木を避けるという本件発明の特徴からして、避けるべき立ち木がなくな
りワイヤロープを曲げる必要がなくなるように根元から切ることを意味すると解す
べきである。立ち木を根元の上方途中で切っても、切った立ち木の残りの部分を避
けるようにワイヤロープが曲げられている場合は、本件発明にいう「伐採」には当
たらない。
   イ 原判決は、構成要件Aの「その立ち木を伐採することなく」が傾斜面上
の立ち木の一本たりとも伐採しないことを意味するという解釈を採る理由として、
(ⅰ)本件明細書の「発明の詳細な説明」欄の記載、(ⅱ)本件特許の出願経過、
及び(ⅲ)本件発明の出願時に公然実施されていた工事(乙第17号証)を挙げて
いる。しかし、これらは、いずれも原判決の採った解釈を支持する理由となり得る
ものではない。
   (ⅰ) 原判決は、本件明細書の「発明の詳細な説明」欄に、本件発明の課
題、目的、実施例及び効果に関して、次の①から④の記載(以下「記載①」などと
いう。)があることを指摘する。
     ①(課題) 「このような従来の手段においては、傾斜面の全体に金網
を張設する関係で、その傾斜面上の立ち木(自然林、植林)を伐採しなければなら
ず、このため施工作業が相当面倒となるばかりでなく、環境破壊を招き、美観も損
なってしまう難点がある」(段落【0003】)、
     ②(目的) 「立ち木の伐採を要することなく施工でき、環境破壊や美
観の低下を伴うことなく落石の発生を防止することができる落石防止工法を提供す
ることにある。」(段落【0004】)
     ③(実施例の説明) (立ち木を避けてワイヤロープを張設する工法の
説明に続けて)「そして立ち木2…を特に伐採する必要がなく、このため施工作業
が簡易で施工コストが低減するばかりでなく、立ち木2…をそのまま残せるから、
環境破壊を招かず、自然保護の点で有益であり、また立ち木2…によりワイヤロー
プ4…がある程度隠されるから外観も良好に保つことができる」(段落【001
1】)
     ④(効果) 「立ち木の伐採を要することがないから、設置が簡易でか
つ環境破壊や美観の低下を伴うことがない利点がある。」(段落【0013】) 
しかし、記載①で言及されている従来技術とは、施工区域の傾斜面上にある立ち木
を全部取り除いてから金網を傾斜面全体に覆い被せる「落石防止網工法」のことで
あり、本件明細書は、このような1本でも立ち木を残しておくことのできない工法
との対比において、「立ち木の伐採を要することなく施工でき」(記載②)と述べ
ているのであるから、「立ち木の伐採を要することなく」は、立ち木を一本たりと
も伐採しないということまでを意味するものではない。むしろ、「立ち木の伐採を
要することなく」は、伐採しても施工が可能であることを示唆する記載である。
 また、実施例に関して説明した記載③は、ワイヤロープを敷設する位置に生えて
いる立ち木(邪魔になる立ち木)であっても、これを生えたままに残すことができ
ることを説明しているだけであり、立ち木を一本たりとも伐採してはならないとい
うことまで述べたものではない。
 記載④についても、本件発明の効果として述べられた「設置が簡易で環境破壊や
美観の低下がない」という点は、従来技術である「落石防止網工法」との対比で説
明されているものであって、このことから、原判決が認定した「一本たりとも伐採
することなく」という意味を引き出すことはできない。
 なお、原判決は、本件明細書中に立ち木の伐採を示唆する記載がない旨説示する
が、伐採を示唆する記載がないことは「一本たりとも伐採してはならない」と解釈
すべき理由にならない。
 (ⅱ) 原判決は、特許異議手続中でなされた拒絶理由通知に対して、控訴
人が本件特許請求の範囲の記載に「その立ち木を伐採することなく」という文言を
付加する訂正を請求し、この訂正を容れて本件特許を維持する旨の異議の決定がな
されたという出願経過を指摘し、これを、「その立ち木を伐採することなく」を
「傾斜面上に存在する立ち木を一本たりとも伐採することなく」という意味に理解
すべき理由として挙げている。
 確かに、本件特許の出願から登録維持に至る経過は原判決の認定のとおりである
が、異議手続中でなされた前記訂正は、明細書の段落【0011】、【0013】
に対応する記載が特許請求の範囲に記載されていないという36条5項、6項違反
の拒絶理由通知に対してなされたものであり、「立ち木を避け」の立ち木が「傾斜
面に元々存在した全部の立ち木」を対象とすることを明らかにする趣旨でしたもの
ではない。したがって、上記訂正の経緯は、構成要件Aを原判決のように限定して
解釈する理由とはなり得ない。
   (ⅲ)原判決は、本件特許出願前に公然実施された工法(乙17号証、以下
同号証に示された工法を「第17号証の工法」という。)を構成要件Aについての
限定解釈の理由として挙げている。しかし、乙第17号証の工法は、本件発明とは
全く異なる「ワイヤロープ掛工」であって、原判決が認定したような「立ち木及び
浮き石が点在する法面の上に、あらかじめ立ち木の一部を伐採した後に、複数のワ
イヤロープを、残った立ち木を避け、かつ前記浮き石の上を通るように網目状に張
設し、これらワイヤロープの端末をアンカーを介して傾斜面に係止する」工法では
ない。さらに重要なことは、乙第17号証の工法が実施されたという現場では、ワ
イヤロープの交差部がアンカーで係止されておらず、また、傾斜面に掘った穴に凝
固剤を充填することも行われていないことである(甲第18号証)。つまり、乙第
17号証の工法は「傾斜面の複数箇所に穴を掘り、これら穴内にそれぞれ凝固剤を
充填し、これら凝固剤中にそれぞれアンカーを差し込んでワイヤロープの交差部を
係止」するという構成(本件発明の構成要件D)を欠いている。したがって、乙第
17号証の工法は、「あらかじめ立ち木の一部を伐採した後に、残った立ち木を避
けて」ワイヤロープを張設する工法は本件発明の技術的範囲に含まれないと解釈す
るのに根拠となり得るような公知技術ではない。
(2) 被告工法について
 原判決は、「被告工法では、傾斜面に点在する立ち木のうち、ワイヤロープを張
設するのに邪魔になる立ち木は、地表面付近の小さな立ち木のみならず、径の比較
的大きいものも伐採しており、伐採した立ち木は元々傾斜面に存在した立ち木の約
半分にのぼる(当事者間に争いがない。なお、被告工法の具体的内容については乙
1(枝番号は省略する。)参照。)。」と認定した。しかし、当事者間に争いがな
いのは、「地表面付近の小さな立ち木のみならず、径の比較的大きいものも伐採し
ており、伐採した立ち木は元々傾斜面に存在した立ち木の約半分にのぼる」点であ
り、「邪魔になる立ち木を伐採した」ことを控訴人が認めたものではない。
 被告工法では、ワイヤロープは、傾斜面上の立ち木の相当数を伐採した後、伐採
されずに残った立ち木でワイヤロープの敷設線上にあるものを避けるように曲がっ
て張設されており、立ち木を切った場合でも、切り残した木の根元の部分を避けて
曲がるようにワイヤロープが張設されている(乙第1号証の6、7、甲第17号
証)から、ワイヤロープの敷設線上にある立ち木について、本件発明の意味におけ
る「伐採」は行われていない。
  (3) 本件発明と被告工法との対比
  本件発明の構成要件Aは、前述のとおり、ワイヤロープの「敷設線上にある立
ち木」を「伐採することなく・・・避けてワイヤロープを張設する」ことを規定し
たものであるから、ワイヤロープ敷設線上に残った立ち木(邪魔になる立ち木)を
「伐採する」(ワイヤロープを曲げる必要がないように切る)ことなく、立ち木を
避けて張設している被告工法は、構成要件Aを充足する。また、その他の本件発明
の構成要件もことごとく充足する。
2 被控訴人及び補助参加人の主張の要点
(1) 構成要件Aの解釈について
 構成要件Aの「その立ち木を伐採することなく、・・・前記立ち木を避け」の
「立ち木」は、特許請求の範囲の記載の前後の文脈に照らしても、本件特許の異議
手続中で拒絶理由通知に対してなされた訂正の経緯に照らしても、「傾斜面上に元
々存在する全部の立ち木」を意味する。控訴人の主張するように「ワイヤロープ敷
設線上の立ち木」と解釈すべき理由は全くない。また、「伐採」の意味を控訴人主
張のように狭く解する理由もない。
   ア 控訴人は、本件発明の施工方法は、ワイヤロープの敷設線上に立ち木が
あっても、その立ち木を伐採せずにワイヤロープの柔軟性を利用して立ち木を避け
て敷設することができる技術であり、そのことから当然に、「立ち木」は「ワイヤ
ロープの敷設線上にある立ち木」を意味し、「伐採」とは立ち木を避けるためにワ
イヤロープを曲げる必要のないように根元から伐採することであると主張する。し
かし、本件明細書中には、控訴人の上記解釈を支持する記述は一切存在しないし、
ワイヤロープの柔軟性を利用して立ち木を避けた実施例も示されていない。
 かえって、本件明細書の【図2】を見ると、本件発明の施工方法は、ワイヤロー
プの柔軟性を利用してワイヤロープの敷設線上にある立ち木を避けるというもので
はなく、むしろ、敷設線上に立ち木が来ることのないように(立ち木を避けて)ワ
イヤロープを網目状に張設する技術であることが明らかである。控訴人の主張は、
前提において失当であり、理由がない。
   イ 本件明細書の発明の詳細な説明、本件特許の出願経過、先行技術(乙第
17号証)は、いずれも構成要件Aについての原判決の解釈を支持するものであ
る。
   (ⅰ) 原判決が摘示した本件発明の目的・効果に関する本件明細書中の記
述は、本件発明の目的が立ち木の伐採を避け、環境・美観の低下の防止を図ること
にあることを明確にし、本件発明によってこれらの目的が達成され、落石防止装置
設置も容易になるとしている。これらの明細書中の記述に照らせば、本件発明によ
り伐採されることのなくなった「立ち木」がワイヤロープの敷設線上の立ち木のみ
であると解することは不可能である。
 「伐採」の意味についての控訴人の解釈も、根拠がない。「伐採」とは、国語ど
おり、木を切断することである。本件発明が目的とする環境及び美観の保護という
見地からは立ち木をどの高さで切ろうと同じことであるから、「伐採」を控訴人の
主張するような特殊な意味に理解することはできない。 
(ⅱ) 本件特許の権利成立の経緯からしても、本件発明の構成要件Aの
「伐採することなく」という文言の対象としている立ち木がワイヤロープの敷設線
上にある立ち木のみであるという控訴人の主張は、失当である。すなわち、本件特
許については、異議手続の中で、特許請求の範囲に「その立ち木を伐採することな
く」という文言を付加する訂正の請求がされ、特許庁は、上記訂正によって、「立
ち木を避け」の立ち木は、「傾斜面に元々存在した全部の立ち木」を対象とするこ
とが明らかになったものと認められるから、本件特許出願が特許法36条5項及び
6項の規定する要件を満たしていないという異議申立人の主張を採用することはで
きない旨判断して、本件特許を維持する旨の決定をしたのである。このような権利
成立の経緯からすれば、「立ち木を伐採することなく」の「立ち木」がワイヤロー
プの敷設線上にある立ち木のみを意味するという解釈を容れる余地はない。
   (ⅲ) 控訴人は、乙第17号証に示された工法は、「ワイヤロープ掛工」
(甲第16号証)であり、本件発明は、それとは全く異なるものであるから、原判
決が乙第17号証の工法を本件発明の先行技術として参酌して構成要件Aを解釈し
たことは誤りであると主張する。
 しかし、控訴人が「ワイヤロープ掛工」と呼ぶ工法の特徴は、A.ワイヤロープ
の端部に多数のアンカーを打って固定する、B.ワイヤロープが交差して網目状に
なっている、C.ワイヤロープを一本ずつ引っ張って張設する、D.中間に立ち木
を残すこともある(残さないこともある)、E.網目状に張設されたワイヤロープ
の交差部をクロスクリップで締結する、F.交差部はアンカーで締結されない、と
いうものであり、網目状となったワイヤロープの交差部もアンカーで固定するとい
う点(上記F)以外は、本件発明と共通している。そして、Fの点についていえ
ば、ワイヤロープの交差部をアンカーで係止すればワイヤロープを傾斜面の地形に
沿って密着させることができて、落石の防止に効果的であることは自明のことであ
る。乙第17号証の工法が控訴人の主張のとおり「ワイヤロープ掛工」であるな
ら、本件発明は、公知技術である「ワイヤロープ掛工」そのものないし公知技術に
自明事項を付加しただけの技術ということになる。控訴人の主張は、結局、本件特
許の無効を自認しているに等しい。
 また、原判決は、乙第17号証によって「法面に点在する立ち木の一部を伐採
し、残りの立ち木を避けてワイヤロープを張設する落石防止工法が公然実施されて
いた」ことを認定し、これをも参酌して、本件発明の構成要件Aにおける「その立
ち木を伐採することなく」を、「斜面上に点在する立ち木を伐採することなく」と
いう意味を解釈したのである。乙第17号証の工法が、仮に控訴人の主張するよう
に「ワイヤローの交差部がアンカーで固定されていないという」という点があるに
しても、そのことは本件発明の構成要件Aについてした原判決の上記解釈の正当性
に何らの影響も及ぼすものではない。
  (2) 本件発明と被告工法との対比
 本件発明の構成要件Aに関する被控訴人の主張は、前記のとおり、いずれも理由
がなく、「その立ち木を伐採することなく」とは「斜面上に存在する立ち木を一本
も伐採することなく」という意味に解されるところ、被告工法においては、落石防
止工事を行う当たり、傾斜面上に存在する立ち木の相当数を伐採しているのである
から、本件発明の構成要件Aを充足せず、本件特許権を侵害するものではない。
第4 当裁判所の判断
 当裁判所も、被告工法は本件発明の構成要件Aを充足しないと判断する。その理
由は、次のとおりである。
 1 特許請求の範囲及び本件明細書の発明の詳細な説明欄の各記載
 本件特許の特許請求の範囲が、平成12年3月28日付け訂正請求書に添付され
た訂正明細書に記載のとおり訂正されて、原判決の事実及び理由欄の第二、一、1
の(五)に引用されたとおりのものとなったこと、及び本件発明の構成要件が次のA
ないしEのとおり分説されることは、当事者間に争いがない。
(本件発明の構成要件)
  A 立ち木および浮き石が点在する傾斜面全体の上に、その立ち木を伐採する
ことなく、複数のワイヤロープを前記立ち木を避け、かつ前記浮き石の上を通るよ
うに網目状に張設すること。
  B これらワイヤロープの端末をアンカーを介して傾斜面に係止すること。
  C 各ワイヤロープの交差部をクロスクリップで締結すること。
  D さらに前記傾斜面の複数箇所に穴を掘って、これらの穴内にそれぞれ凝固
剤を充填し、これら凝固剤中にそれぞれアンカーを差し込んで固定してこれらアン
カーによりワイヤロープの交差部を係止し前記ワイヤロープを点在する浮き石間で
傾斜面の地形に沿って密着するようにして前記浮き石を押さえ付けること。
  E 前記AないしDを特徴とする落石防止工法
 また、甲第2号証及び弁論の全趣旨によれば、本件明細書には、①【発明が解決
しようとする課題】欄に、「このような従来の手段においては、傾斜面の全体に金
網を張設する関係で、その傾斜面上の立ち木(自然林、植林)を伐採しなければな
らず、このため施工作業が相当面倒となるばかりでなく、環境破壊を招き、美観も
損なってしまう難点がある」として、従来技術の問題点が指摘され(段落【000
3】)、上記記載に続けて、「この発明はこのような点に着目してなされたもの
で、その目的とするところは、立ち木の伐採を要することなく施工でき、環境破壊
や美観の低下を伴うことなく落石の発生を防止することができる落石防止工法を提
供することにある。」(段落【0004】)と本件発明の目的が記載され、③【発
明の実施の形態】欄に、本件発明の施工方法を説明する記述に続けて、「そして立
ち木2…を特に伐採する必要がなく、このため施工作業が簡易で施工コストが低減
するばかりでなく、立ち木2…をそのまま残せるから、環境破壊を招かず、自然保
護の点で有益であり、また立ち木2…によりワイヤロープ4…がある程度隠される
から外観も良好に保つことができる。」(段落【0011】)と記載され、④【発
明の効果】欄に、「以上述べたようにこの発明によれば、浮き石の初期始動を押さ
えた落石の発生を確実に防止することができるとともに、立ち木の伐採を要するこ
とがないから、設置が簡易でかつ環境破壊や美観の低下を伴うことがない利点があ
る。」(段落【0013】)と記載されていることが認められる。 
 2 構成要件Aの解釈
  (1) 「その立ち木」及び「前記立ち木」について
 構成要件Aについては、「立ち木」が傾斜面上に元々存在する全部の立ち木を意
味するのか、ワイヤロープの敷設線上にある立ち木のみを意味するのかにつき争い
があるので、まず、この点について検討する。
   ア 構成要件Aに係る「立ち木および浮き石が点在する傾斜面全体の上に、
その立ち木を伐採することなく、複数のワイヤロープを前記立ち木を避け、かつ前
記浮き石の上を通るように網目状に張設し、」という特許請求の範囲の記載は、本
件明細書の発明の詳細な説明及び図面に、立ち木及び浮き石がそれぞれ「立ち木2
…」、「浮き石3…」と表記され図面にも複数が表示されている(段落【000
6】、【0007】、【0011】、【図1】、【2】)ことに表れているよう
に、本件発明の施工対象となる傾斜面全体(以下、単に「傾斜面」という。)の上
に、複数の立ち木及び複数の浮き石が点在していることを前提としている。そし
て、上記文脈の中で、「その立ち木を伐採することなく」の「その立ち木」及び
「前記立ち木を避け」の「前記立ち木」が同一文中で先に述べられたものを指すこ
とは明らかであるから、「その立ち木」及び「前記立ち木」は、いずれも、傾斜面
の上に「点在する立ち木」を指し、傾斜面の上に元々存在する複数の立ち木を総称
したものであると解される。
 「その立ち木」及び「前記立ち木」が点在する複数の立ち木であることは、本件
明細書の発明の詳細な説明中に、本件発明の実施の形態について「この傾斜面1に
立ち木2…とともに、落石の発生源である浮き石3…が点在している。このような
斜面1の上に、多数本のワイヤロープ4…を立ち木2…を避け、かつ浮き石3…の
上を通るように縦横あるいは斜め方向に網目状に張設し、これらワイヤロープ…の
端末を傾斜面1にアンカー9を介して係止する。」という説明があり(段落【00
06】、【0007】)、傾斜面1の上に存在する「立ち木」とワイヤロープが避
ける「立ち木」のいずれについても、「立ち木2…」という複数を表す同一の表現
が用いられていることにも示唆されている。
 そして、「立ち木」を特定のもの(ワイヤロープの敷設線上にある立ち木)に限
定する趣旨の記載は、本件明細書の全記載を検討しても、見出すことができない。
 そうすると、特許請求の範囲に記載された「立ち木」は、傾斜面の上に元々存在
する複数の立ち木の全部を意味していると解することが相当である。
   イ 「その立ち木を伐採することなく」という文言が特許請求の範囲に付加
された経緯は、構成要件Aの「その立ち木」及び「前記立ち木」が傾斜面上に元々
存在する全部の立ち木であるとの解釈を支持するものということができる。
   (ⅰ) 本件発明の一連の出願経過が、原判決の第三、一1(二)に摘示され
たとおりであることは当事者間に争いがないところ、乙第8ないし第10、第1
9、第20号証、甲第3、第4号証によれば、①本件特許に対する異議手続の中
で、異議申立人が異議申立理由の1つとして、特許請求の範囲に記載された「立ち
木を避け」の立ち木は「傾斜面に元々存在した全部の立ち木」を対象とするのか
「傾斜面に存在する立ち木の幾らかを伐採し、伐採されずに残った立ち木を対象と
する」のかが明瞭でないと主張し、②特許庁は、平成10年11月20日付けで、
被申立人(控訴人)に対し、「特許請求の範囲の欄において、本件発明の構成に欠
くことができない事項(特に「発明の詳細な説明」欄中の段落【0011】、【0
013】に対応する事項))が記載されてなく、不明瞭である」旨の取消理由を通
知し(注、段落【0011】には「そして立ち木2…を特に伐採する必要がな
く、・・・・、立ち木2…をそのまま残せるから」と記載され、段落【0013】
には「落石の発生を確実に防止することができるとともに、立ち木の伐採を要する
ことがないから、」と記載されている。)、③これを受けて、控訴人は、同日付け
で、特許請求の範囲を「立ち木および浮き石が点在する傾斜面全体の上に、その立
ち木を伐採することなく、複数のワイヤロープを前記立ち木を避け、・・・」
(注、下線部が訂正による付加部分)と訂正する訂正請求をし、④特許庁は、異議
の決定において上記訂正を認め、「訂正請求における「立ち木を伐採することな
く」という訂正事項により、「立ち木を避け」の立ち木は、「傾斜面に元々存在し
た全部の立ち木を対象とする」ことが明らかになったものと認められるから、本件
特許出願が特許法第36条第5項及び第6項の要件を満たしていないという川鉄建
材株式会社(注、異議申立人)の主張は、採用することができない。」と判断し、
異議各号証には、構成要件Aの構成が備わっておらず、本件発明は上記構成により
「立ち木を特に伐採する必要がなく、・・・立ち木をそのまま残せるから、環境破
壊を招かず」という格別の効果を奏するものであるから、他の異議申立理由も理由
がないとして、本件特許を維持する決定をしたことが認められる。
   (ⅱ) これらの一連の経緯に照らすと、特許請求の範囲に「その立ち木を
伐採することなく」の文言を付加する訂正は、客観的にみて、「前記立ち木を避
け」における避ける対象が「傾斜面に元々存在する全部の立ち木」であることを明
らかにする趣旨のものと認められる。また、特許庁も、「前記立ち木を避け」の
「立ち木」が「傾斜面に元々存在した全部の立ち木」を意味するとの認定を前提と
して、本件特許を維持する決定をしたのであり、本件特許に関する一連の手続の経
緯に照らすと、「前記立ち木を避け」の「立ち木」について、前記アで認定したの
と反対の解釈を採ることは許されないというべきである。
 そして、上記特許請求の範囲の記載の文脈の中で、「その立ち木を伐採すること
なく」の「その立ち木」と「前記立ち木を避け」の「前記立ち木」とが、ともに同
一の対象を指称していることは明らかであるから、「その立ち木を伐採することな
く」の「その立ち木」も、「前記立ち木」と同様に「傾斜面に元々存在する全部の
立ち木」を意味すると解さざるを得ない。
   ウ 控訴人は、本件発明の特徴は、柔軟性のあるワイヤロープを曲げること
によって立ち木を避けることにあると主張し、曲げることによって避ける立ち木は
ワイヤロープの敷設線上にある立ち木であるから、本件発明の構成要件Aに関して
問題になる「立ち木」は、ワイヤロープの敷設線上にある立ち木である(これ以外
の立ち木を伐採するか否かは本件発明の関知するところではない。)と主張する。
 しかし、控訴人の主張する解釈は、特許請求の範囲の記載の文脈、本件明細書に
記載された本件発明の目的、実施形態についての説明及び効果についての記載(前
記1の①から④参照)に照らして無理があり、むしろ、構成要件Aにおける「その
立ち木」及び「前記立ち木」は、ワイヤロープの敷設線上にあるものとないものの
双方を含めた意味に理解することが特許請求の範囲の記載の文脈及び本件明細書中
の開示に沿った自然な解釈である。特に、「立ち木」の限定解釈の理由として控訴
人が主張する本件発明の特徴について、本件明細書の発明の詳細な説明中には、ワ
イヤロープの柔軟性を利用して立ち木を避ける(ワイヤロープを曲げることで立ち
木を迂回する)ことに触れた記載が一切存在せず、本件発明の実施形態を平面図で
示したものと認められる【図2】にもワイヤロープを曲げて立ち木を迂回すること
は示されていないのであって、曲げて避けることが特徴であるという控訴人の主張
を支持する記載は、本件明細書中に見出すことができない。また、「立ち木」を限
定して解釈する根拠となるような記載は、本件明細書の発明の詳細な説明欄の記載
及び図面中に何ら存在しない。よって、構成要件Aにおける「立ち木」がワイヤロ
ープの敷設線上に存在する立ち木に限定されるという控訴人の解釈は、採用するこ
とができない。
  (2) 「伐採」について
 一般用語としての「伐採」は、「山や森の竹・木などを伐(き)りとること」
(広辞苑)を意味する。「伐採」がこれと異なる特別な意味を有することを窺わせ
る記載は本件明細書中に存在しないから、本件発明にいう「伐採」は、通常の国語
上の意味である「竹木を切ること」という意味に解すべきである。
 控訴人は、本件発明の「伐採」は、ワイヤロープが立ち木を避ける必要がなくな
るように根元から切ることを意味し、立ち木を切っても残った切り株をワイヤロー
プを曲げて避けている場合には「伐採」とはいえないと主張するが、「伐採」が特
別な意味を持つことを示唆する記載は、本件明細書中に存在しない。よって、「伐
採」の意味について控訴人の主張する解釈は、採ることができない。 
(3) 「その立ち木を伐採することなく、・・・前記立ち木を避け」について 
「立ち木」及び「伐採」について上記(1)及び(2)で述べた解釈をふまえて、「その
立ち木を伐採することなく、複数のワイヤロープを前記立ち木を避け、・・・網目
状に張設する」という要件について検討する。
   ア 本件発明の「立ち木を避け」については、「避け(る)」の技術的な意
味が特許請求の範囲の記載だけからでは必ずしも明確でない。
 そこで、本件明細書を検討すると、発明の詳細な説明中で、①課題解決の手段及
び本件発明の実施形態について記述した箇所には、「複数のワイヤロープを前記立
ち木を避け、かつ前記浮き石の上を通るように網目状に張設し」(段落【000
5】)、「多数本のワイヤロープ4…を立ち木2…を避け、かつ浮き石3…を通る
ように縦横あるいは斜め方向に網目状に張設し」【0007】として、立ち木を
「避ける」ことについて記載され(伐採しないことへの言及はない。)、②本件発
明を実施した結果ないし効果について記述した箇所には、「このような落石防止工
法によれば、・・・落石が長期に亘って確実に防止される。そして立ち木2…を特
に伐採する必要がなく、・・・立ち木をそのまま残せるから、環境破壊を招か
ず・・・」(段落【0010】、【0011】)、「この発明によれば、立ち木の
伐採を要することがないから、設置が簡易でかつ環境破壊や美観の低下を伴うこと
がないから、設置が簡易でかつ環境破壊や美観の低下を伴うことがない利点があ
る。」(段落【0013】)として、本件発明の構成により、立ち木の伐採が不要
となり、立ち木をそのまま残せる(したがって、環境破壊や美観の低下を伴うこと
がない。)という利点ないし効果があることが記載されていることが認められる。
 これらの記述は、全体の文脈に沿って理解するとき、立ち木を「避け」てワイヤ
ロープを張設するから「立ち木」の伐採が不要となるという趣旨を述べているもの
と解される。そうすると、本件明細書に開示された落石防止工法は、立ち木を伐採
しないで済むように、立ち木の生えた位置を外して(かつ、浮き石の上を通るよう
に)各ワイヤロープの敷設される位置ないし経路(敷設線)を決め、多数のワイヤ
ロープをその張設面が網目状になるように形成することを特徴とするものであると
いうことができる。本件発明の実施態様を示した【図2】も、アンカーとアンカー
との間を直線状に結んだワイヤロープの敷設線が立ち木の生えている位置を外して
(かつ、浮き石の上を通るように)通っている状態を示すことによって、本件発明
の上記特徴を端的に示したものと認められるのであって、これ以外の「避ける」態
様を示唆する記載は、本件明細書中に一切存在しない。
   イ 以上の点を勘案すると、明細書中に開示された発明を記載すべきものと
されている特許請求の範囲の「その立ち木を伐採することなく、複数のワイヤロー
プを前記立ち木を避け、・・・網目状に張設する」という記載における「立ち木を
避け」は、立ち木の生えている位置を外してワイヤロープの敷設線を設定すること
により立ち木を避けることを表現したものであると認められ、異議手続中の訂正請
求により特許請求の範囲の記載に付加された「立ち木を伐採することなく」は、上
記のような「避ける」態様を、立ち木の側に着目して表現することによって、より
一層明確にしたものであると解される。
 そして、ワイヤロープが「避け」るべき「立ち木」が「傾斜面上に元々存在した
全部の立ち木」であることは、前記(1)に説示したとおりであるから、構成要件A
は、結局、「傾斜面上に元々存在する全部の立ち木」を対象として、これを「伐採
することなく」、「避け」て、各ワイヤロープを敷設することを要求していると解
すべきことになる。
   ウ なお、控訴人は、構成要件Aの「立ち木を伐採することなく、・・・避
け」は、ワイヤロープの敷設に先立って傾斜面上の立ち木の相当数を伐採した後、
残った立ち木を避けてワイヤロープを敷設する場合を含むものであると主張する。
 しかし、傾斜面上の立ち木の相当数をあらかじめ伐採した場合には、「傾斜面上
に元々存在する全部の立ち木」を「避け」て複数のワイヤロープを張設するという
本件発明に特徴的とされる技術手段そのものが、不要ないし実現不能となるのであ
って、構成要件Aがそのような場合まで含むと解することは、矛盾しているといわ
ざるを得ない。控訴人主張の上記解釈は、採ることができない。
 また、控訴人は、構成要件Aの「立ち木を伐採することなく、・・・避け」は、
ワイヤロープの敷設線上にある立ち木を切った後に残った根元の部分をワイヤロー
プを曲げて迂回させる場合を含むと主張するが、これは「伐採」についての独自の
解釈を前提とするものであり(その解釈を採り得ないことについては前記(2))、失
当というほかない。
 3 本件発明と被告工法との対比
  (1) 被告工法について
 弁論の全趣旨によれば、被控訴人が被告工法を実施したこと、及び原判決摘示の
被告工法の構成(以下のaないしd)のうちbないしdについては、当事者間に争
いがない。
 (被告工法の構成)  
a 立ち木及び浮き石が点在する傾斜面の上に、ワイヤロープを張設するに
おいて、邪魔になる立ち木を伐採した後に複数のワイヤロープを縦横に張設してい
ること。
b 浮き石の上を通るように網目状に張設されるワイヤロープによって構成
されるワイヤロープの張設面は、端末がアンカーで傾斜面に係止されているワイヤ
ロープ(以下「係止ワイヤロープ」という。)と、端末がアンカーで傾斜面に固定
されていないワイヤロープ(以下「非係止ワイヤロープ」という。)とからなって
いること。係止ワイヤロープは2メートルの格子を形成し、その格子を16分する
ように、非係止ワイヤロープが50センチメートルおきに配置されていること。非
係止ワイヤロープの末端には巻付グリップが巻き付いており、右巻付グリップと、
係止ワイヤロープとがクロスクリップで締結されていること。
c 係止ワイヤロープの交差部、非係止ワイヤロープの交差部、及び係止ワ
イヤロープと非係止ワイヤロープとの交差部が、いずれもクロスクリップで締結さ
れていること。ただし、係止ワイヤロープの交差部については、クロスアンカーク
リップが使用され、アンカーで傾斜面に係止されていること。
d さらに前記傾斜面の複数箇所に穴を掘って、これらの穴内に凝固剤が充
填されプラスチック粗網で外面が補強されている紙袋を挿入し、この紙袋内にアン
カーを差し込んで固定し、これらアンカーにより前記ワイヤロープの交差部を点在
する浮き石間で傾斜面の地形に沿って密着するように係止して浮き石を押さえ付け
ていること。
   イ 被告工法の構成aについては、被告方法が「立ち木および浮き石が点在
する傾斜面の上にワイヤロープを張設するにおいて、複数のワイヤロープを縦横に
張設(する)」ものであること、及び、ワイヤロープの張設に先立って傾斜面上に
元々存在した立ち木のうち相当数のものが伐採され、伐採した立ち木は元々傾斜面
に存在した立ち木の約半分にのぼることについて、当事者間に争いがない。
 被告方法が「邪魔になる立ち木を伐採した後に」ワイヤロープを張設しているか
否かについては争いがあり、控訴人は、ワイヤロープ敷設線上にある立ち木(邪魔
になる立ち木)は「伐採」されておらず、ワイヤロープを曲げることによって立ち
木を避けていると主張する。しかし、控訴人が上記主張の根拠として挙げる乙第1
号証の写真及び甲第17号証の写真(いずれも被告工法の施工現場を撮影したもの
と認められる。)は、被告工法の施工区域の一部を示しているにすぎず、傾斜面全
体を見たときにワイヤロープの敷設線上に存在する立ち木の中で伐採されたものが
ないとまでは認めることができない。かえって、乙第1号証の8の写真中央部に
は、ワイヤロープの敷設線上に位置する立ち木が伐採された状態が示されており、
被告工法では、ワイヤロープの敷設線上にある立ち木の中にも伐採されるものがあ
ることが認められる。
   ウ 以上によれば、被告工法は、「立ち木および浮き石が点在する傾斜面の
上に、ワイヤロープを張設するにおいて、傾斜面上に元々存在した立ち木のうちの
相当数(立ち木の約半分にのぼり、ワイヤロープの敷設線上にあるものも含む。)
を伐採した後に、複数のワイヤロープを縦横に張設し」、原判決の認定した被告工
法の構成bないしdのとおりの手段を用いてワイヤロープで浮き石を固定する落石
防止方法であると認められ、上記認定を覆すに足りる証拠はない。
  (2) 対比(構成要件Aについて)
 前記(1)で認定した被告工法の構成を本件発明の構成要件と対比すると、被告工法
は、ワイヤロープの敷設線上にある立ち木も含めて、傾斜面に元々存在する多数の
立ち木のうちの相当数を「伐採」しているものであるから、構成要件Aが前記2(3)
イに説示したとおり、「傾斜面上に元々存在する全部の立ち木を対象として、これ
を伐採することなく、避けて、各ワイヤロープを敷設する」ことと解釈されるもの
である以上、「その立ち木(傾斜面上に点在する立ち木)を伐採することな
く、・・・避けて」ワイヤロープを張設するという要件を充足するということはで
きない。
 そして、本件発明は、「立ち木2…をそのまま残せるから、環境破壊を招かず、
自然保護の点で有益であ(る)」と説明され(段落【0011】)、発明の効果と
して、「立ち木の伐採を要することがないから、設置が簡単でかつ環境破壊や美観
の低下を伴うことがない利点がある。」ことを標榜しているものであるところ、被
告工法は、ワイヤロープの張設に先立って、施工区域の傾斜面に存在する立ち木の
約半数を伐採するものであるから、本件発明が目的としている上記効果を奏するも
のということもできない。
4 結論
 以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、被告工法が
本件発明の技術的範囲に属するということはできず、特許権侵害を理由とする控訴
人の各請求は理由がない。
 よって、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。
 東京高等裁判所第18民事部  
 
        裁判長裁判官  永  井  紀  昭
     裁判官  古  城  春  実
        裁判官  橋  本  英  史

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