弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人株式会社大幸商店は控訴人に対し、原
判決添付第一目録記載の土地につき、昭和二十八年五月二十日附根抵当権設定契約
にもとずく債権極度額百二十万円の根抵当権設定登記手続をせよ。被控訴人Aは控
訴人に対し、被控訴人株式会社大幸商店が前記根抵当権設定登記手続をなし得ない
ときは、金百二十万円を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とす
る」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の主張、証拠の提出援用及び書証の認否は、次に附加記載す
るものの外、原判決事実摘示と同様であるから、ここにこれを引用する。
 控訴代理人において次のように附述した。
 一、 本件土地が被控訴人株式会社大幸商店(以下単に被控訴会社という)の所
有でなく訴外Bの所有であることは、本訴提起の直前になつて始めて知つた。然し
右Bは被控訴会社代表取締役Aの父であり、本件土地はAにおいて管理していた関
係上、Aに交渉すれば根抵当権の設定を受け得る事情にあつたので、控訴人はあえ
て被控訴会社に対し本訴のような訴訟を提起した次第である。根抵当権の目的物が
存在しないからという理由で、甲第一号証の二の根抵当権設定契約が無効であると
の原判決の判断は甚しい誤解である。
 二、 甲第一号証の二による根抵当権設定契約の被担保債権は特にスフ糸代金だ
けに限定したものではない。訴外鈴木商事株式会社(以下単に鈴木商事という)の
立場としては、被控訴会社に対しスフ糸代金についてのみ担保を要求し、他の糸類
の代金については担保を要求しないという特段の理由はなかつた。
 三、 被控訴人Aは訴外鈴木商事に対し、本件土地が被控訴会社の所有であるか
の如く仮装し、同訴外人を信用せしめて根抵当権の極度額以上の糸類の供給を受け
たものである。従つて、若し被控訴会社において訴外鈴木商事に対し本件土地につ
き根抵当権の設定ができないとすれば、被控訴人Aとしては当然これが代償として
鈴木商事に対し、同訴外人が被つた損害につき賠償責任を負うことは明白である。
         理    由
 一 被控訴会社に対する関係について
 被控訴会社に対する控訴人の請求は要するに、被控訴会社の代表取締役Aの父訴
外Bの所有にかかる本件不動産について、被控訴会社と訴外鈴木商事との間に根抵
当権設定契約が結締されたこと及び控訴人が同訴外人から右根抵当権をその被担保
債権と共に譲渡を受けたことを理由として、被控訴会社に対しその根抵当権設定登
記手続を求めるものである。よつて控訴人主張の右のような事実から、果して控訴
人主張の如き登記請求権が発生するものかどうかを考察する。
 抵当権は、その目的不動産の有する交換価値を直接且つ排他的に支配する物権で
ある。従つて抵当権を設定しようとする者は、抵当権者に対して右のような権利を
取得せしめるため、該目的不動産について処分権能を有することが必要である。こ
のことは通常の抵当権に限らず、取引関係より生ずる多数の債務につき将来の或る
決算期において一定金額の限度において担保せんとする、いわゆる根抵当権につい
ても同様である。ところで本件において、その根抵当権の目的物件は被控訴会社の
所有ではなく訴外Bの所有であり、しかも被控訴会社は右Bから該不動産の処分権
能を与えられていたことは明かでないから(被控訴会社がBから右物件を担保に供
するにつき承諾を得ていたとか、又は契約締結の代理権を与えられていたとかの点
については、控訴人の全立証によつてもこれを肯認し得ないのみならず、原審にお
ける被控訴人Aの本人尋問の結果によれば、被控訴会社がさような権限を全く有し
ていなかつたことを窺知できる)、被控訴会社としては、右不動産について根抵当
権を設定する権能はなかつた訳である従つて控訴人主張のように、被控訴会社と訴
外鈴木商事との間に根抵当権を設定すべき契約が成立したとしても、右は物権契約
たる根抵当権設定契約としての性質を有せず、単に被控訴会社が将来課外Bから本
件不動産の処分権能を得た際、鈴木商事のため根抵当権を設定せんことを約束する
債権的な契約と解するか、又は右契約を物権契約たる根抵当権設定契約と考えて
も、これより生ずるものは精精被控訴会社が将来訴外Aから右物件の処分権能を与
えられることを条件とする停止条件附根抵当権に過ぎぬと称せざるを得ない。した
がつて、訴外鈴木商事は未だ右契約により現実の確定的根抵当権を取得することは
できず、従つて又控訴人においてたとえ右鈴木商事から該根抵当権によつて担保せ
んとする取引上の債権を譲受けたとしても、控訴人はこれにより現実の確定的根抵
当権を取得するに由ないものと云わねばならない。
 ところで一般に不動産に関する登記請求権なるものは、その発生原因として種種
の事由が考えられ、或は実質上の不動産物権の対外的効力として生じ(一種の妨害
排除請求権の性質を有し物権的登記請求権というべきもの)、或は実質的権利変動
に随伴して変動の当事者間に生じ(債権的登記請求権といわれる)、更に或は当事
者間における登記をなすべき旨の特約によつて生ずる(中間省略の登記の如きはこ
れである)。しかし以上いずれの場合にしても、登記請求権は現在又は過去におけ
る或る物権変動の過程及び体様を表現する利益のため(結局においては現在におけ
る権利状態の反映に役立つものとして)認められた権利であつて、その前提として
必ず確定的な物権変動が生じていることが要求せられる。即ち物権契約その他物権
変動を生ずべき原因によつて物権変動が確定的に発生していない以上、登記請求権
は未だ発生しないものと考えねばならぬ。ところで前述のように、訴外鈴木商事は
被控訴会社から未だ確定的な根抵当権の設定を受けず、従つて又控訴人も課外鈴木
商事から確定的根抵当権の譲渡を受け得ない以上(根抵当権の権利者たる地位は、
被担保債権と共にする場合でも無条件に譲渡を許すものかどうか疑問であるが、こ
こではこれに触れない。)控訴人より被控訴会社に対し、右根抵当権の譲渡を理由
として根抵当権設定登記手続を求める権利は発生しないものと云わなければならな
い。
 従つて右根抵当権設定登記請求権の存在を前提として、被控訴会社に対し右登記
手続の履行を求める控訴人の本訴請求は、その他の点について判断を加えるまでも
なく失当であつて、これを容認することはできない。
 二、 被控訴人Aに対する関係について
 被控訴人Aに対する控訴人の請求は要するに、控訴人の被控訴会社に対する根抵
当権設定登記手続の請求が理由なければその代償として被控訴人Aにおいて控訴人
が右登記手続を受け得ないことによつて<要旨>被つた損害を賠償せよというのであ
る。ところで、右のような訴の提起の仕方は普通に訴の主観的予備的併合と
称せられる場合に該り、このような訴訟の形態が許されるか否かについては、学説
も実務の取扱例も見解が分れ一致しないところであるが、当裁判所では右のような
訴の併合の形式は共同訴訟として許容し得ないものと考える。けだし、一般に通常
の共同訴訟においては、共同訴訟人の一人につき上訴あるも他の共同訴訟人に対し
移審の効力を及ぼさぬのが原則であるが、一方請求の予備的併合の場合において
は、第一次の請求と予備的請求との何れかにつき上訴があれば、上訴審においては
右両個の請求が共に審理の対象とされるのであるから、若し控訴人主張のように共
同訴訟の形式による予備的請求の併合が認められれば、右は共同訴訟の原則と矛盾
を来すこととなり不合理な結果となろう。従つて右のような予備的請求の併合は、
共同訴訟の構造になじみ得ず不適法のものと云わねばならない。なお上述のような
主観的予備的併合の訴は、これを被告となる者の側から考えても甚しく不当で是認
できない。即ち右予備的請求の相手方としては、その訴訟上の運命は第一次の請求
の結果に依存するものであつて、他人間の訴訟の推移如何により或は自己の応訴を
必要とせられ或はこれを不要とせられる。すなわち、その訴訟上の地位は極めて不
安定のものたるを免れない。又第一次の請求が裁判所により認容せられるときは、
自己の訴訟が既に弁論を経た後においても自己の意思によらずして遡及的に訴訟係
属を失わしめられる結果となり、このことは民事訴訟法第二百三十六条第二項の法
意とも相容れないものである。もとより、右のような主観的予備的併合の訴は訴を
提起する者にとり極めて便利であつて、或る場合には訴訟経済の要求にも合する利
点があるであろうが、このような主として原告側のうける利益は、予備的請求にお
ける被告の被るべき著しい不利益に比すれば寧ろ軽少と云わねばならず、被告の犠
牲において原告側の便宜のみ計ることは公平の理念にも相反すると考えられる。よ
つて、右のような予備的請求の併合は共同訴訟として認め得ないものと解する。
 従つて控訴人の被控訴人Aに対する請求は、その実体的審理に入つて判断するま
でもなく、既にこの点において不適法であるから、とうてい却下を免れない。
 以上のような訳で、原審が控訴人の被控訴会社に対する請求を棄却し、且つ被控
訴人Aに対する請求を却下したのは、いずれも正当であつて、原判決に不当の点は
ない。よつて本件控訴を理由なきものとして棄却することとし、控訴費用の負担に
つき民事訴訟法第九十五条第八十九条を適用して、主文のように判決する
 (裁判長裁判官 山田市平 裁判官 山口正夫 裁判官 黒木美朝)

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