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平成19年9月26日判決言渡
平成19年(行ケ)第10021号審決取消請求事件
平成19年9月10日口頭弁論終結
判決
原告ロレアル
訴訟代理人弁理士志賀正武
同渡邊隆
同実広信哉
同堀江健太郎
被告特許庁長官肥塚雅博
指定代理人福井悟
同塚中哲雄
同徳永英男
同大場義則
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30
日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2004−23401号事件について平成18年9月5日にし
た審決を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「少なくとも一のポリウレタン及び/またはポリウレ
ア単位を含む重縮合物及びポリオールを含む髪用組成物」とする発明につき,
平成11年8月16日(パリ条約による優先権主張1998年8月27日フ
ランス),特許を出願し(以下「本願」という。),平成16年6月2日付け
手続補正書(甲9)を提出したが,同年8月10日付けで拒絶査定を受けたの
で,同年11月5日,審判請求を行った。
特許庁は,この審判請求を不服2004−23401号事件として審理し,
その結果,平成18年9月5日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との
審決をした。
2特許請求の範囲
平成16年6月2日付け手続補正書(甲9)による補正後の本願の請求項1
(請求項の数は全部で21項である。)は,次のとおりである。
【請求項1】
「エアロゾル装置を用いて適用することを目的とする髪用組成物であって,
化粧品として許容される媒体中に,組成物全重量に対する重量割合で
(i)少なくとも一のポリウレタン及び/またはポリウレア鎖を含む重縮合物0.
1から20%,
(ii)有機溶媒7.5から70%,
(iii)推進ガス15から85%,
を含有し,該組成物が少なくとも一のポリオールまたはその混合物を0.
01から20%更に含有し,推進ガスの有機溶媒に対する重量比が,1.7
5以上であることを特徴とする組成物。」(以下,請求項1に係る発明を
「本願発明」という。)
3審決の理由
別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願発明は,優先権主張日前
に頒布された刊行物である特開平6−321741号公報(甲1。以下「刊行
物1」という。)及び周知技術(甲2,3。以下これらをそれぞれ「刊行物
2」,「刊行物3」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることが
できたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることがで
きないとするものである。
審決は,上記結論を導くに当たり,刊行物1記載の発明(以下「引用発明」
という。)の内容並びに本願発明と引用発明との一致点及び相違点を次のとお
り認定した。
(1)引用発明の内容
55%VOCと表示されたポリウレタンAを10.65重量%,AMPを
0.24重量%,エタノールを22.00重量%,水を34.11重量%,
DMEを33,0重量%を含むエアロゾル配合物。
(2)一致点
「エアロゾル装置を用いて適用することを目的とする髪用組成物であって,
化粧品として許容される媒体中に,組成物全重量に対する重量割合で:
(i)少なくとも一のポリウレタン及び/またはポリウレア鎖を含む重縮合
物0.1から20%
(ii)有機溶媒7.5から70%
(iii)推進ガス15から85%
を含有する組成物」である点。
(3)相違点
ア推進ガスの有機溶媒に対する重量比の相違
本願発明は,推進ガスの有機溶媒に対する重量比が1.75以上である
のに対し,引用発明は1.5である点(以下「相違点1」という。)。
イポリオール配合の有無
本願発明は,少なくとも一のポリオール又はその混合物を0.01から
20%更に含有しているのに対し,引用発明はポリオールを配合していな
い点(以下「相違点2」という。)。
第3原告主張の取消事由
審決は,相違点1,相違点2の各判断を誤るとともに,本願発明の顕著な効
果の判断を誤ったものであるところ,これらの誤りがいずれも結論に影響を及
ぼすことは明らかであるから,違法なものとして取り消されるべきである。
1相違点1(推進ガスの有機溶媒に対する重量比の相違)の判断の誤りについ

審決は,「刊行物1の表1に記載された上記ポリウレタン,エタノール,D
MEを含有するエアロゾル形態の毛髪固定剤において,DMEの配合量を固定
して噴射性能を維持しつつ,揮発性有機化合物(VOC)の放出が抑えられる
ように,組成物中のエタノールの配合量のみを『22.0重量%』から『20
重量%以下』に再調整し,本願発明の構成である『推進ガスの有機溶媒に対す
る重量比を1.75以上』に至ることは当業者が容易に推考し得ることであ
る。」と判断したが,誤りである。
(1)DMEもエタノールと同様に揮発性有機化合物であるところ,大気中へ
の揮発性有機化合物の放出が抑制されるべきであれば,エタノールだけでな
くDMEについても削減の対象とされるはずである。したがって,引用発明
において,DMEについてのみその配合量を維持し,エタノールのみその配
合量を削減するのは不合理である。
仮に,引用発明において,DMEの配合量を変化させずに,エタノールの
配合量だけを22.0重量%から20重量%としても,DMEのエタノール
に対する重量比は1.65(33.0/20.00)となり,本願発明に規
定されるように1.75以上とはならない。
(2)引用発明において,エタノールの配合量を20重量%未満のいかなる値
に具体的に設定すべきかについて,刊行物1には何ら開示がなく,むしろ,
刊行物1には,エタノールを含まないエアロゾル配合物(「33%VO
C」)が記載されている点に鑑みると,当業者であれば,引用発明において,
エタノールの配合量を,20重量%未満の中途半端な値とするよりは,0重
量%とするのが自然である。
(3)乙2には,「原液と噴射剤の混合比率により,使用時の噴霧滴の細かさ,
噴霧範囲の広さが変化するため,留意が必要である。」とヘアスプレー製品
において,原液と噴射剤との比率を慎重に設定する必要性が記載されている。
そして,刊行物1にはヘアスプレー製品の原液と噴射率との比率をヘアスプ
レー製品の噴霧滴の細かさ,噴霧範囲の広さ等に悪影響を与えることなく変
更することについて何ら知見も指針も開示されていないから,DMEのエタ
ノールに対する重量比を1.75以上となるように設定することは容易に想
到できない。
(4)本願発明は,推進ガスの有機溶媒に対する重量比を1.75以上とする
ことによって,ノズル出口での液滴の分散について十分なスプレー品質を有
するという有利な効果を奏するものであるが,刊行物1には,推進ガスの有
機溶媒に対する重量比を1.75以上とすることによる効果について記載も
示唆もされていない。
したがって,審決の判断は,推進ガスの有機溶媒に対する重量比を1.7
5以上と本願発明が規定した効果を看過したものである。
2相違点2(ポリオール配合の有無)の判断の誤りについて
(1)審決は,「刊行物1には,毛髪固定剤の特性を改良するために,可塑剤
としてのグリセリン,グリコールを約0.1∼10重量%の範囲で添加する
ことが記載されているので,かかる教示に従い刊行物1の表1に記載された
エタノールを含有する上記エアロゾル形態の毛髪固定剤にグリセリン,グリ
コール等のポリオールを適量配合することは当業者が容易になし得ることで
ある。」と判断したが,誤りである。
可塑剤は,合成樹脂を可塑化して成形加工性を向上させたり,柔軟性を与
えるために合成樹脂に添加する液状又は固形状物質を意味し,合成樹脂に対
する可塑化機能を発揮させるために,極性基と非極性基の組合せをその化学
構造中に有することが必要である(甲5,6)。これに対して,グリセリン,
グリコールは,極性基と非極性基の組合せをその化学構造中に有していない。
そうすると,刊行物1には,グリセリン,グリコールを可塑剤として配合し
てよい旨の記載が存在するが,当業者にとっては,グリセリン,グリコール
の化学構造からみて,それらがポリウレタンの可塑剤として機能するとは想
像し難い。
(2)本願発明ではグリセリン,グリコール等のポリオールを毛髪の美容性向
上のために配合しているのに対して,刊行物1ではグリセリン,グリコール
を毛髪固定剤自体の改良のために,可塑剤として配合することが記載されて
いる。また,刊行物1には,グリセリン,グリコール等のポリオールが毛髪
のスタイリング特性を向上させる機能を有する点について記載も示唆もされ
ていない。
したがって,毛髪の美容性向上のために引用発明にグリセリン,グリコー
ル等のポリオールを適量配合することは,当業者にとって容易に想到できた
とはいえない。
3顕著な効果の判断の誤りについて
審決は,本願発明の効果について,「本願発明の効果,すなわちスプレー品
質,髪の美容特性についてみても,刊行物1に『低い発泡特性』を示すことや
『塩基及び中和度』の選択により毛髪に『柔軟性』を付与できることが記載さ
れていること,更にポリウレタン重縮合物が毛髪に柔軟性やより良い感触を付
与できることが刊行物2,3に記載されていることを考え合わせれば,当該効
果は当業者が当然に期待し,予想し得る程度のものである。」と判断したが,
誤りである。
すなわち,①刊行物1記載の「低い発泡特性」とは,水性ポリウレタンの粘
度低下を意味しており,ノズル口での液滴の分散に注目した本願発明のスプレ
ー品質とは関係がないこと,②刊行物1記載の「塩基及び中和度」とは,引用
発明で使用されるポリウレタンが有するカルボキシル基の中和に使用される塩
基及びその中和度を意味しており,当該塩基及び中和度の選択による毛髪への
柔軟性の付与は,ポリオールの添加による柔軟性の付与を意味しないから,ポ
リオールの添加により毛髪の美容特性を高める本願発明の効果とは関係がない
こと,③刊行物2,3には,ポリウレタン骨格に結合したポリシロキサン鎖に
よりもたらされる効果が記載されているのであって,ポリオールを配合するこ
とによる本願発明の効果とは何ら関係がないこと,以上からすると,本願発明
の効果が刊行物1ないし3から予期し得る程度のものであるとはいえない。
第4被告の反論
審決の判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1相違点1(推進ガスの有機溶媒に対する重量比の相違)の判断の誤りについ

(1)原告は,「DMEについてのみその配合量を維持し,その一方で,エタ
ノールだけその配合量を削減するのは不合理である」と主張する。しかし,
刊行物1には,「エーロゾルシステムにより送出しする毛髪固定剤は噴射剤
を必要」とし,エアロゾル配合物の処方例としては,DMEを33.00重
量パーセントで固定したもののみが記載されている。また,刊行物1には,
ポリウレタンを10.65重量%,DMEを33.00重量%含有し,エタ
ノール不含のエアロゾル配合物(低VOC配合物)が,エタノールを22.
00重量%含有するエアロゾル配合物(高VOC配合物)と同様に良好な高
湿カール保持性を有し,低い発泡特性,すなわち良好な噴霧特性を備えるこ
とが記載され,エタノールの配合の有無に関わらずポリウレタンが優れた高
湿カール保持性,噴霧特性(スプレー品質)を呈することが開示されている。
そうすると,一定量の噴射剤を必要とするエアロゾル装置による髪用組成
物で,揮発性有機化合物(VOC)の放出を制御するには,噴射剤よりむし
ろエタノールの配合量を削減する方が好ましいことは当業者が容易に想起す
ることであるから,審決が「DMEの配合量を固定して噴射性能を維持しつ
つ,揮発性有機化合物(VOC)の放出が抑えられるように,組成物中のエ
タノールの配合量のみを・・・再調整」することを「当業者が容易に推考し
得る」と判断した点に誤りはない。
(2)原告は,エタノールの配合量として20重量%未満の値が刊行物1に具
体的に記載されていないので,当業者であれば0重量パーセントとするのが
自然であると主張する。しかし,刊行物1の請求項16には,「極性溶媒」
を「全重量の20重量%以下」とすることが記載され,それを具体化したも
のとしてエタノール不含の処方例が示されている以上,刊行物1には,0重
量パーセントより上で20重量%以下の範囲,更には推進ガス(33.00
重量%)の有機溶媒に対する重量比が1.75以上である18.85重量%
以下の範囲の採用も示唆されているとみるべきである。
2相違点2(ポリオール配合の有無)の判断の誤りについて
原告は,グリセリン,グリコールの化学構造からみて,グリセリン,グリコ
ールが可塑剤として機能するとは想像し難いと主張する。しかし,グリセリン,
グリコールが整髪化粧料における可塑剤であることは技術常識であり(乙1,
2),また,グリセリン,グリコールは,化粧料以外の技術分野においても可
塑剤として用いられている(乙3ないし5)。
そうすると,刊行物1の「毛髪固定剤の特性を改良するために,可塑剤とし
てのグリセリン,グリコールを約0.1∼10重量%の範囲で添加する」との
教示から,当業者はグリセリン,グリコールがポリウレタンの可塑剤として機
能すると当然理解するのであり,かかる可塑剤を配合することで,「被膜に柔
軟性を与える」のみならず,「ソフトでしなやかなカールをつくる」,「なめ
らかな手触りを与える」等の美容特性が得られることも,乙2が示す技術常識
からみて当業者が予測し得ることである。したがって,審決が刊行物1に基づ
き「グリセリン,グリコール等のポリオールを適量配合することは当業者が容
易になし得ることである」と判断した点に誤りはない。
3顕著な効果の判断の誤りについて
本願明細書(甲4)には,「スプレー品質」,「美容特性」についての漠然
とした記載があるにとどまり,かかる記載から,本願発明の髪用組成物が「ス
プレー品質」,「美容特性」という定性的な効果を具備することは把握できる
が,それらの効果の程度,「スプレー品質」と「ノズル出口での液滴の分散」
との関係,更にそれらの効果と「1.75以上」,「ポリオール」の関係につ
いては明らかでない。
そして,刊行物1(甲1)記載の「毛髪固定剤」は「発泡」が低いという噴
霧特性(スプレー品質)を備えるから,本願発明の髪用組成物の「スプレー品
質」という定性的効果が当業者に予想外であるということはできない。また,
本願明細書(甲4)の記載からは,ポリオールにより高められた「美容特性」
の程度を理解することはできないから,重縮合物に基づく「美容特性」とポリ
オールによる「美容特性」は客観的に区別がつかないものであり,本願発明の
髪用組成物の「美容特性」という定性的効果は,ポリオールによる「美容特
性」を考慮しなくても,刊行物1ないし3記載の重縮合物の特性から当業者が
予測し得るものである。また,グリセリン,グリコール等のポリオールが美容
特性を具備することは技術常識であり,こうした美容特性も当業者が予測し得
るものである。
したがって,審決中で本願発明の「スプレー品質」,「美容特性」の効果が,
当業者が当然に予測し,期待し得る程度のものと判断した点に誤りはない。
第5当裁判所の判断
当裁判所も,また,本願発明について,引用発明との相違点に関する構成は
当業者が容易に想到し得たと解するものであり,審決の認定判断に誤りはない。
その理由は,以下のとおりである。
1本願明細書(甲4)及び刊行物(甲1,乙2)の記載内容
(1)本願明細書(甲4)には,次の各記載がある。
ア【特許請求の範囲】【請求項1】
「エアロゾル装置を用いて適用することを目的とする髪用組成物であっ
て,化粧品として許容される媒体中に,組成物全重量に対する重量割合で
(i)少なくとも一のポリウレタン及び/またはポリウレア鎖を含む重縮
合物0.1から20%,
(ii)有機溶媒7.5から70%,
(iii)推進ガス15から85%,
を含有し,該組成物が少なくとも一のポリオールまたはその混合物を0.
01から20%更に含有し,推進ガスの有機溶媒に対する重量比が,1.
75以上であることを特徴とする組成物。」
イ【0005】「エアロゾル装置を用いて得られるスプレーの品質,即ち,
本質的にはノズル出口での液滴の分散は,使用する組成物の化学構造に大
きく依存する。最も有利なのは,一層十分なスプレー品質を生み出す化粧
品組成物の製剤である。」
ウ【0006】【発明が解決しようとする課題】「ヘアスタイルの固定及
び/または維持を目的とする組成物は,時に髪の美容特性を損なう作用な
る欠点を有する。したがって,髪は粗くなり,自然な柔らかさを失うこと
になる。よって,ヘアスタイルを固定及び/または維持すると同時に優れ
た化粧品特性を供するスタイリング組成物が求められている。」
エ【0007】「独国特許公報19540326号には,エアロゾル装置
から分配されるスタイリング組成物が開示されており,これは水性−アル
コール性媒体中に,固定用ポリマーとしてのポリウレタン単位を含むポリ
マー,及び推進剤を含有する。これらの組成物は,ヘアスタイルの固定に
関しては既に十分なものであるが,最適なスプレー品質を供することと同
時に,特に髪に与える美容効果に関しては改善可能である。」
オ【0008】【課題を解決するための手段及び発明の実施の形態】「全
ての予想に反して,出願人は,驚くべきことに,また,予期せぬことに,
ある特定のコンディショナーを,ポリウレタン及び/またはポリウレア単
位を含む少なくとも一の重縮合物と組み合わせることにより,上記の要求
が満たされることを見出した。」
カ【0009】「本発明の主題は,エアロゾル装置を用いて適用すること
を目的とした,化粧品として許容される媒体中に,組成物全重量に対する
割合で:(i)少なくとも一のポリウレタン及び/またはポリウレア鎖を
含む重縮合物0.1から20%,(ii)有機溶媒7.5から70%,
(iii)推進ガス15から85%,を含有し,少なくとも一のポリオー
ルまたはその混合物を0.01から20%更に含有し,推進ガスの有機溶
媒に対する重量比が,1.75以上であることを特徴とする髪用組成物で
ある。」
キ【0010】「本発明の目的のためには,“ポリオール”なる語は直鎖
状,分枝状または環状であって,飽和または不飽和の脂肪族炭化水素タイ
プのC2からC14化合物であって,そのアルキル鎖上に少なくとも二の
水酸基を坦持するもの,並びにこれらのポリヒドロキシアルキル化合物の
ポリエーテルタイプのポリマーを意味することとする。」
ク【0042】「本発明によれば,有機溶媒は特に,C1からC4低級ア
ルコール,例えばエタノール,イソプロパノール,アセトン,メチルエチ
ルケトン,メチルアセタート,ブチルアセタート,エチルアセタート,ジ
メトキシエタン及びジエトキシエタン,及びこれらの混合物を含む群より
選択される。エタノールが好ましく使用される。」
ケ【0044】「本発明によれば,組成物中に可溶または不溶な気体,例
えばジメチルエーテル,フッ化または非フッ化炭化水素,通常の液化ガス
またはこれら推進ガスの混合物が推進ガスとして好ましく使用される。更
に望ましくは,ジメチルエーテルが使用される。」
コ【0046】「本発明により使用されるポリオールは,特にC2からC
12ポリオール,並びにポリアルキレングリコール,例えば,特にポリエ
チレングリコール及びポリプロピレングリコールから選択可能である。」
サ【0047】「好ましくは,C2からC8ポリヒドロキシアルカン誘導
体が,ポリオールとして使用される。望ましくは,C3からC5化合物が
選択され,特にグリセロール,プロピレングリコールまたは1,3−プロ
パンジオールである。」
(2)刊行物1(甲1)には,次の各記載がある。
ア【特許請求の範囲】【請求項1】「(A)(i)ポリウレタン1gあたり0.
35∼2.25ミリ当量のカルボキシル官能基を与えるに十分な量の下式
・・・で表される1種以上の2,2−ヒドロキシメチル置換カルボン酸(i
i)ポリウレタンの重量を基準として10∼90重量%の,活性水素原子を
2個以下有する1種以上の有機化合物,及び(iii)前記2,2−ヒドロキ
シメチル置換カルボン酸のカルボキシレートの水素以外の,2,2−ヒド
ロキシメチル置換カルボン酸及び有機化合物の活性水素と反応するに十分
な量の,1種以上の有機ジイソシアネートの反応生成物を含む,有効量の
完全に反応したカルボキシル化線状ポリウレタン,(B)ポリウレタンを水
又は水と極性有機溶媒の混合物に可溶にするに十分な割合のポリウレタン
のカルボキシル基を中和するに有効な量の,1種以上の化粧品に許容され
る有機又は無機塩基,並びに(C)(i)水,及び(ii)溶媒の0∼85重量%の,
1種以上の極性有機溶媒を含む溶媒,を含む,水性毛髪固定剤。」
イ【特許請求の範囲】【請求項16】「極性溶媒が全重量の20重量%以
下存在する,請求項1記載の毛髪固定剤。」
ウ「大気への揮発性有機化合物(VOC)の放出を制御する環境規制のた
め,このアルコール及び炭化水素送出しシステムはあまり許容されなくな
ってきており,水が毛髪固定剤のより大きな成分となることが予測される。
しかしながら,現在用いられている多くの毛髪固定ポリマーは水性システ
ムにおいて性能の損失を示し,例えば溶液粘度が増加し,エーロゾルによ
り送出された場合,毛髪固定剤はバルブアクチュエーターにおいて及び髪
上で発泡する。このことは,水性もしくは低VOCシステム(これはVO
Cを80%以下含むシステムである)に可溶であり,かつ良好な毛髪固定
ポリマーの望ましい特性,すなわち良好な保持力,高湿度カール保持,速
い乾燥時間,非粘着性,及び水もしくは水とシャンプーにより容易に除去
できる透明な,光沢のあるフィルムをすべて有する毛髪固定剤が望まれて
いる。」(3頁左欄32行∼46行,【0002】)
エ【0004】「本発明に係る毛髪固定剤に適するポリウレタンは,完全
に反応したカルボキシル化線状ポリマーである。このポリウレタンは,髪
保持及び耐湿性を達成するに有効な量で用いられる。これは好ましくは毛
髪固定剤の1∼20重量%,より好ましくは1∼10重量%の量である。
このポリウレタンは,(i)ポリウレタン1gあたり0.35∼2.25,
好ましくは0.5∼1.85ミリ当量のカルボキシル官能基を与える量存
在する1種以上の2,2-ヒドロキシメチル置換カルボン酸,(ii)ポリウ
レタンの重量を基準として10∼90重量%の,活性水素を2個以下有す
る1種以上の有機化合物,及び(iii)前記2,2-ヒドロキシメチル置換
カルボン酸のカルボキシレートの水素を除く,2,2-ヒドロキシメチル
置換カルボン酸及び有機化合物の活性水素と反応するに十分な量の,1種
以上の有機ジイソシアネート,の反応生成物である。2,2-ヒドロキシ
メチル置換カルボン酸の混入はポリマー鎖に側カルボン酸基を与え,これ
は中和後,ポリウレタンを水及び水と他の極性溶媒との混合物に可溶にす
る。活性成分としてこのポリウレタンを用いることにより,毛髪固定剤は
低粘度の高固体含量にされる。高固体含量は,良好な保持力を得るため,
最少量の溶媒で髪に有効量のポリマーを与える。低粘度はスプレーノズル
において有効な噴霧を可能にする。従って,エーロゾルもしくは非エーロ
ゾル毛髪固定剤において使用するに適した毛髪固定剤が得られる。また,
2,2-ヒドロキシメチル置換カルボン酸の使用は,ポリウレタンにフィ
ルム硬度及び剛性を与え,毛髪固定剤に望ましい特性を与える。」
オ「塩基及び中和度の選択は,毛髪に噴霧した際の得られる毛髪の柔軟性
に影響を与え,ソフトもしくはハード保持を与える。柔軟性を達成するに
必要な中和度及び用いる塩基の選択は当業者の技術範囲内である。」(5
頁右欄38行∼42行,【0020】)
カ【0021】「中和されたポリマーは水に可溶であり,従って毛髪固定
剤は水のみをベースとしてよいが,より典型的には,溶媒系は極性有機溶
媒と水のブレンドである。典型的には,有機溶媒はアルコールもしくはケ
トンである。特に好適な溶媒は,毛髪固定剤中の他の成分と相溶性である
低沸点アルコール,例えばC1∼C4直鎖もしくは分枝鎖アルコールであ
る。極性溶媒の例は,エタノール,プロパノール,イソプロパノール,ブ
タノール,及びアセトンである。」
キ「エーロゾルシステムにより送出しする毛髪固定剤は噴射剤を必要とす
る。(中略)他の好ましい噴射剤は,エーテル,例えばジメチルエーテル,
ヒドロフルオロカーボンプロパン,例えば1,1−ジフルオロエタン,並
びに圧縮ガス,例えば窒素,空気及び二酸化炭素を含む。」(6頁左上欄
5行∼13行,【0022】)。
ク「毛髪固定剤に改良特性を与えるため,所望の従来の添加剤も本発明の
毛髪固定剤に混入させてよい。この添加剤の例は,可塑剤,例えばグリセ
リン,グリコール・・・である。これらの添加剤はその機能を示すに有効
な少量存在し,通常各々約0.1∼10重量%・・・含む。」(6頁右欄
1行∼10行,【0024】)。
ケ【0027】「ポリウレタンの合成
ポリウレタンA
16.7重量%のジメチロールプロピオン酸(総カルボキシレート官能
数:1.25meq/g)を含むポリウレタンを製造した。生成物を水中の
エマルジョンとして単離した。」
コ【0049】「毛髪固定剤
製造したポリウレタンエマルジョンの各々をエーロゾルヘアースプレ
ーに配合し,以下のようにして対照と比較した。エマルジョンの各々を
まず水で適当な粘度に希釈し,次いで2−アミノ−2−メチル−1−
プロパノール(AMP)で中和し,ポリウレタンを溶液にした。中和率は
ポリマーのカルボン酸モノマー含量を基準として決定し,通常遊離酸性度
の約50∼90%であった。次いでこの溶液をジメチルエーテルもしくは
エタノールとエーテルのブレンドの添加により4部の活性ポリマー固体ま
でさらに希釈した。対照ヘアースプレー配合物において用いられるポリマ
ーの割合と等しくするため4部の固体において配合を行った。対照におい
て用いたポリマーは市販入手可能なオクチル−アクリルアミド/アクリー
ト/t−ブチルアミノエチルメタクリレートコポリマーであった。この配
合物を,以下の表の下に示す方法によって対照に対しカール保持について
テストした。カール保持テストの値はパーセントで示した。」
サ【0050】「ポリウレタンAは毛髪固定剤に望ましい特性の典型を示
した。これは透明なフィルムを形成し,比較的かすんだスプレーパターン
を形成し,低VOC系において可溶であった。従って,これを表1に示す
ように33%及び55%VOC系(毛髪固定剤の総重量を基準としてVO
Cパーセント)に配合し,高湿カール保持についてテストした。この結果
を表2に示し,この結果はポリウレタンAが33%及び55%VOC系の
いずれにおいても対照より優れていることを示している。」
シ【0051】【表1】表1には,①「33%VOC」と表示された「ポ
リウレタンAを10.65重量%,AMPを0.24重量%,エタノール
を0.00重量%,水を56.11重量%,DMEを33.0重量%を含
むエーロゾル配合物」(以下「配合物1」という。),②「33%VO
C」と表示された「対照ポリマーを4.00重量%,AMPを0.79重
量%,エタノールを0.00重量%,水を62.21重量%,DMEを3
3.0重量%を含むエーロゾル配合物」(以下「配合物2」という。)」,
③「55%VOC」と表示された「ポリウレタンAを10.65重量%,
AMPを0.24重量%,エタノールを22.00重量%,水を34.1
1重量%,DMEを33.0重量%を含むエーロゾル配合物」(引用発明。
以下「配合物3」という。),④「55%VOC」と表示された「対照ポ
リマーを4.00重量%,AMPを0.79重量%,エタノールを22.
00重量%,水を40.21重量%,DMEを33.0重量%を含むエー
ロゾル配合物」(以下「配合物4」という。)が記載されている。
ス【0052】【表2】表2は,90%RH,21℃での時間経過に伴う
高湿カール保持を表にしたものであり,これによると,上記シ記載の各試
料の①60分後,②3時間後,③24時間後の高湿カール保持は,それぞ
れ配合物1が①93.78%,②91.27%,③89.33%,配合物
2が①86.8%,②82.36%,③81.73%,配合物3(引用発
明)が①87.37%,②78.78%,③75.55%,配合物4が①
80.67%,②73.04%,③70.99%となっている。
セ【0053】「ポリウレタンA33%VOC系を,剛性,コーミング抵
抗性,フレーク凝集,光沢,静電気,最初の粘着性の時間,乾燥時間,及
びシャンプー除去性の特性について対照と比較した。このポリウレタンシ
ステムは剛性及びコーミング抵抗性について95%信頼レベルで対照より
優れており,他の特性については対照と同等であった。」
ソ【0054】「噴霧特性も比較し,ポリウレタンAは対照と比較し,5
5%及び33%VOC系において低い発泡を示した。前記のように,現在
高VOCスプレー用に開発された多くのポリマーは水性エタノールシステ
ムにおいて用いた際に粘度が増加する。粘度は高固体を意味する。水中1
0%固体において,#21スピンドルにより,50rpm及び25℃にお
いて,ポリウレタンAは13∼16mPasの粘度を有し,対照は109
mPasの粘度を有していた。ポリウレタンの低い粘度は,配合された5
5%及び33%VOC系において見られる低い発泡に寄与する要因であ
る。」
(3)「フレグランスジャーナル1997年1月号」所収の「ヘアスプレー製
品の現状と課題」と題する論文(乙2)には,次の各記載がある。
ア「2−1.求められる品質要素
ヘアスプレーに求められる品質要素としては以下のような項目があげら
れる。
①セット力:セット力の強度,セットの持続性,弾力性,柔軟性
②感触:髪のべたつき,ごわつき,なめらかさ,
③使用性:髪へのなじみ,乾きの早さ,フレーキング性,洗浄性,目
詰まり
④噴霧特性:噴射の強さ,霧の細かさ,霧の均一性,噴霧角度
⑤香り:原料由来の臭気,香料でのマスキングおよび賦香
⑥安全性:肌や眼への刺激,吸入毒性,引火性」
イ「(2)可塑剤
可塑剤は,以下のような目的で,樹脂被膜の性質を改善するために用
いられる。
①脆い被膜に柔軟性を与える。
②ソフトでしなやかなカールをつくる。
③髪への接着性を高める。
④被膜に光沢を与える。
⑤被膜に平滑性を与える。
⑥なめらかな手触りを与える。
可塑剤を選択する際に最も重要なことは,用いる樹脂や溶剤との相溶性
であるが,その他にも,被膜を脆弱化させないこと,揮発性がないこと,
色や臭いがないことなどがあげられる。
通常用いられるものとしては,ラノリン,ひまし油,オクチルドデカノ
ールなどの油剤,アジピン酸ジイソプロピルなどの2塩基酸ジエステル,
グリセリンなどの多価アルコールがある。柔軟性のある樹脂を可塑剤とし
て用いることもある。適当な被膜特性を得るためには単独使用よりも2種
以上の可塑剤を併用した方がよい結果を得る場合もある。」(37頁左欄
16行目∼36行目)
ウ「(4)溶剤
樹脂の溶剤として最もよく使われるのがエタノールである。しかし,米
国で開始されたVOC(揮発性有機化合物)規制のため日本でも水の併用
が検討されはじめてきている。」(37頁右欄1行目∼5行目)
エ「(5)噴射剤
人体用の噴射剤として以前はフロンガスが主であったが,平成元年に通
産省高圧ガス関係法規改正が施行され,現在使用されている主な噴射剤は
液化石油ガス(LPG),ジメチルエーテル(DME),窒素および炭酸
ガスである。」(37頁右欄7行目∼12行目)
オ「油剤としては,古くは流動パラフィン等の炭化水素系油剤,2−エチ
ルヘキサン酸セチル等のエステル系油剤が用いられてきたが,近年では,
使用後の髪の軽さ,べたつき感のなさ,指通りの良さに優れるメチルフェ
ニルポリシロキサン,メチルポリシロキサン等のシリコーン系油剤が汎用
されている。また,スプレーした際に,均一な毛髪への付着を得,使用後
の髪の乾きを早めるために,これら油剤をエタノール,軽質イソパラフィ
ン,デカメチルペンタシロキサン等の揮発性を有する基剤に溶解させたも
のをスプレー原液とし,LPG等の噴射剤と混合したものを製品とする。
原液と噴射剤の混合比率により,使用後時の噴霧滴の細かさ,噴霧範囲の
広さが変化するため,留意が必要である。」(37頁右欄41行目∼38
頁右欄1行目)
カ「VOC規制への対応
「VOCとは・・(揮発性有機化合物)の略であり,EPA(米国環境
保護庁)の定義によると,「CO,CO2,炭酸などを除く全ての炭素化
合物で大気中で光化学反応に関与する物質」である。エアゾールに用いら
れる物質としては,LPG,DMEなどの噴射剤やエタノールなどの溶媒
がこれにあたる。
カリフォルニア州では1993年1月から80%規制がはじまり,全米
各州に広がりつつあり,55%規制も予定(同州1998年1月)されて
いる。しかし,規制は今のところ米国内に留まっており,欧州や各国に波
及するかは定かではない。そのため,日本でも世界的な規制動向を見守っ
ている段階である。
先行している米国での取り組みの中心は水系への移行とDMEの使用で
ある。エタノールの代わりに水を用いる場合,有効成分の溶解性を維持さ
せるため,水との相溶性と樹脂の溶解性に優れたDMEを併用することで,
ヘアスプレーとしての品質を得ることが可能となる。」(39頁右欄9行
目∼29行目)
以上を前提に,原告主張の取消事由について判断する。
2相違点1(推進ガスの有機溶媒に対する重量比の相違)の判断の誤りについ

(1)前記1で認定した本願明細書及び各刊行物の記載から,①毛髪固定剤に
おいて,極性溶媒を全重量の20重量%以下とするものが刊行物1に開示さ
れているところ,エタノールは極性溶媒に含まれること,②引用発明は,エ
アロゾル装置を用いて適用することを目的とする髪用組成物であり,噴射剤
の含有を必須とするものであること,③溶剤としてよく使われるのがエタノ
ールであり,噴射剤としてよく使われるのがジメチルエーテル(DME)で
あるところ,いずれも米国において大気への放出の規制対象となる揮発性有
機化合物(VOC)であること,米国では,エタノールの代わりに水を用い
る場合,有効成分の溶解性を維持させるため,水との相溶性と樹脂の溶解性
に優れたDMEを併用することで,ヘアスプレーとしての品質を得ることが
可能となると考えられ,日本においても水との併用が検討されていること,
④ポリウレタンAを含有するエアロゾル配合物の方が,ポリウレタンAを含
有しないエアロゾル配合物よりも,エタノールの含有の有無にかかわらず高
湿カール保持特性及び噴霧特性が優れていること,⑤エタノールを含有する
エアロゾル配合物よりも,エタノールを含有していないエアロゾル配合物の
方が,高湿カール保持特性が優れていることがそれぞれ認められる。
そうすると,引用発明において,高湿カール保持特性及び噴霧特性を維持
するとともに,スプレーの噴射性能を維持しつつ,かつ揮発性有機化合物の
放出を低減するために,その配合割合の調整の態様として,ポリウレタン及
びDMEの含有量をそのままにして,エタノールの含有量のみを22.00
重量%よりも少ない20重量%以下とし,エタノールの含有量の減少に対応
して,推進ガスの有機溶媒に対する重量比(DME/エタノール)を1.7
5以上とすることは当業者が適宜選択し得たものであり,容易に想到し得た
ものというべきである。
(2)原告は,乙2の「原液と噴射剤の混合比率により,使用時の噴霧滴の細
かさ,噴霧範囲の広さが変化するため,留意が必要である。」との記載から,
本願発明は容易に想到し得たとはいえないと主張する。しかし,上記記載は
原液と噴射剤の混合比率を変更し得ることを前提に,噴霧滴の細かさと噴霧
範囲の広さに悪影響を及ぼさないことに配慮する必要があることを注意喚起
するものであるから,上記記載をもって上記判断を左右するものではない。
(3)原告は,本願発明には,推進ガスの有機溶媒に対する重量比を1.75
以上とすることとによる「ノズル出口での液滴の分散について十分なスプレ
ー品質を有するという有利な効果」があるところ,刊行物1は,上記効果を
記載するものでも示唆するものでもないと主張する。しかし,本願明細書に
は,ノズル出口での液滴の分散特性と推進ガスの有機溶媒に対する重量比を
1.75以上とすることとの関係につき何ら記載がない。原告の上記主張は,
本願明細書の記載に基づかない主張であって,採用できない。
3相違点2(ポリオール配合の有無)の判断の誤りについて
(1)前記1で認定した刊行物1の記載によると,毛髪固定剤の特性を改良す
るために,可塑剤としてのグリセリン,グリコールを約0.1∼10重量%
の範囲で添加することが記載されているので,かかる教示に従いエタノール
を含有するエアロゾル形態の毛髪固定剤にグリセリン,グリコール等のポリ
オールを適量配合することは当業者が容易になし得ることである。
(2)原告は,当業者が,グリセリン,グリコールの化学構造からみて,それ
らがポリウレタンの可塑剤として機能するとは想像し難いと主張するが,前
記刊行物1の記載から,グリセリン,グリコールが可塑剤であることは周知
である。原告の上記主張は採用できない。
また,原告は,本願発明ではポリオールを毛髪の美容性向上のために配合
しているのに対して,刊行物1では,グリセリン,グリコール(ポリオー
ル)を毛髪固定剤自体の改良のために,可塑剤として配合することが記載さ
れている点で相違し,また刊行物1にはポリオールが毛髪のスタイリング特
性を向上させる機能を有する点について記載も示唆もないと主張する。
しかし,前記1で認定した刊行物(乙2)によると,可塑剤には「ソフト
でしなやかなカールをつくる」,「なめらかな手触りを与える」といった毛
髪の美容特性を向上させる機能があること,前記1で認定した刊行物1の記
載によると,当業者は,グリセリン,グリコール等のポリオールの配合の有
無にかかわらず,引用発明においても,一定程度の美容特性があることが認
められるのであるから,毛髪の美容特性向上のためにポリオールを配合する
ことは容易に想到できるというべきである。原告の上記主張は採用できない。
4顕著な効果の判断の誤りについて
原告は,スプレー品質,髪の美容特性という本願発明の顕著な効果の存在を
理由にその容易想到性がないと主張する。しかし,既に判示したとおり,本願
発明の構成自体は容易に想到し得るものであるから,本願発明の作用効果は,
特段の事情のない限り,当該構成から当然に予想される範囲のものとして,発
明の容易想到性の判断に影響しないものというべきである。しかるに,本願発
明の作用効果に関しては,本願明細書の記載は,上記1で認定した記載にとど
まり,それが具体的にいかなる効果を指すのか,また本願発明に係る構成の技
術的意義といかなる関係があるのかについて何ら開示がない。上記によれば,
原告の上記主張は採用できない。
5結論
以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由にはいずれも理由
がない。その他原告は縷々主張するが,審決を取り消すべきその他の誤りも認
められない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決
する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官三村量一
裁判官嶋末和秀
裁判官上田洋幸

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