弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。
     被上告人の本訴請求を棄却する。
     訴外D株式会社が昭和五四年八月八日東京法務局に対し昭和五四年度金
第五四三五九号をもつて供託した金六六五万円の還付請求権は上告人がこれを有す
ることを確認する。
     訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人木戸孝彦、同池田映岳、同原田肇の上告理由について
 原審が確定した事実関係によれば、(一) 上告人は、昭和五一年五月三一日訴外
E株式会社(以下「破産会社」という。)に対し工作機械三台(以下「本件工作機
械」という。)を代金一億三三〇〇万円で売り渡した、(二) 破産会社は、同年六
月一〇日訴外D株式会社(以下「D」という。)に対し本件工作機械を代金一億四
三五〇万円で転売した、(三) 東京地方裁判所は、昭和五二年一〇月三日午後三時
破産会社に対し破産宣告決定をし、被上告人をその破産管財人に選任した、(四) 
上告人は、右転売に基づく代金債権のうち六六五万円について、債務者を被上告人、
第三債務者をDとする債権差押・転付命令(以下「本件差押・転付命令」という。)
を得、右命令は、昭和五四年四月一一日被上告人及びDに送達された、(五) Dは、
同年八月八日東京法務局に対し本件差押・転付命令に係る六六五万円を債権者不確
知を理由として供託した(以下「本件供託金」という。)、というのである。
 そして、原審は、先取特権者は、物上代位権の対象となる債権が他から差押を受
けたり、又は他に譲渡若しくは転付される前にこれを差し押えない限り、右差押債
権者等の第三者に対し物上代位に基づく優先権を対抗することができないものと解
すべきであるとしたうえ、破産宣告は、破産者の財産につき破産財団を成立させ、
右財産に対する破産者の管理処分権を剥奪し、これを第三者たる破産財団の代表機
関の破産管財人に帰属させるものであるから、物上代位の対象となる債権が他から
差し押えられたり、又は他に譲渡若しくは転付された場合と同様に、これが民法三
〇四条一項但書にいう「払渡」に該当するものと解すべきであるとし、破産会社の
破産宣告後にされた本件差押・転付命令は無効であると判断し、本件供託金の還付
請求権が被上告人にあることの確認を求める被上告人の上告人に対する本訴請求を
認容し、右還付請求権が上告人にあることの確認を求める上告人の被上告人に対す
る反訴請求を棄却している。
 しかしながら、民法三〇四条一項但書において、先取特権者が物上代位権を行使
するためには金銭その他の払渡又は引渡前に差押をしなければならないものと規定
されている趣旨は、先取特権者のする右差押によつて、第三債務者が金銭その他の
目的物を債務者に払渡し又は引渡すことが禁止され、他方、債務者が第三債務者か
ら債権を取立て又はこれを第三者に譲渡することを禁止される結果、物上代位の対
象である債権の特定性が保持され、これにより物上代位権の効力を保全せしめると
ともに、他面第三者が不測の損害を被ることを防止しようとすることにあるから、
第三債務者による弁済又は債務者による債権の第三者への譲渡の場合とは異なり、
単に一般債権者が債務者に対する債務名義をもつて目的債権につき差押命令を取得
したにとどまる場合には、これによりもはや先取特権者が物上代位権を行使するこ
とを妨げられるとすべき理由はないというべきである。そして、債務者が破産宣告
決定を受けた場合においても、その効果の実質的内容は、破産者の所有財産に対す
る管理処分権能が剥奪されて破産管財人に帰属せしめられるとともに、破産債権者
による個別的な権利行使を禁止されることになるというにとどまり、これにより破
産者の財産の所有権が破産財団又は破産管財人に譲渡されたことになるものではな
く、これを前記一般債権者による差押の場合と区別すべき積極的理由はない。した
がつて、先取特権者は、債務者が破産宣告決定を受けた後においても、物上代位権
を行使することができるものと解するのが相当である。これと異なる原審の判断に
は民法三〇四条一項の解釈適用を誤つた違法があるといわざるをえず、右違法は原
判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由がある。
 そして、原審の適法に確定した事実関係によれば、本件供託による還付請求権が
被上告人にあることの確認を求める本訴請求は理由がなく(なお被上告人は、本件
破産手続において上告人が本件差押・転付命令の申請前に本件先取特権の被担保債
権を一般破産債権として届け出ており、それが確定したのであるから、上告人は本
件先取特権を放棄したものであり、そうでなくてももはや別除権を行使することが
できない旨主張するが、このように解すべき理由はない。)、また、右還付請求権
が上告人にあることの確認を求める反訴請求は理由があるから、被上告人の右本訴
請求を認容し、上告人の右反訴請求を棄却した第一審判決に対する上告人の控訴を
棄却した原判決を破棄し、右第一審判決を取り消したうえ、被上告人の右本訴請求
を棄却し、上告人の右反訴請求を認容すべきである。
 よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九五条、八九条に従い、裁判官
全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    藤   崎   萬   里
            裁判官    中   村   治   朗
            裁判官    谷   口   正   孝
            裁判官    和   田   誠   一

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