弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     被告人A、同Bの本件各上告を棄却する。
     被告人Cに対する原判決及び第一審判決を破棄する。
     被告人Cを懲役八月及び右第一審判決判示第一の(イ)の罪について罰
金二万円、同第一の(ロ)の罪について罰金一万円、同第二の(イ)の罪について
罰金三万円、同第二の(ロ)の罪について罰金一万円に処する。
     被告人Cに対し本裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
     被告人Cが右罰金を完納することができないときは、金二〇〇円を一日
に換算した期間同被告人を労役場に留置する。
     原審における訴訟費用中その三分の一を被告人Cの負担とする。
     当審における訴訟費用は被告人Aの負担とする。
         理    由
 被告人Aの弁護人石橋省吾の上告趣意は、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 被告人Aの上告趣意は、事実誤認、単なる法令違反の主張を出でないものであつ
て、刑訴四〇五条所定の上告理由にあたらない。そして、口の島を含む北緯三〇度
以南北緯二九度以北の南西諸島は、本件犯行当時においては、関税法の適用につい
ては外国とみなされていたが、その後昭和二七年二月六日大蔵省令五号により、同
月一一日以降は外国とみなされなくなり、本邦の地域となつたことは所論のとおり
である。しかし、右地域が外国とみなされていた間に犯した関税法違反の罪につい
ては、その後右地域が外国とみなされなくなり、本邦の地域となつたからといつて
犯罪後の法令により刑の廃止があつたものとはいえないことは当裁判所の判例(昭
和二八年(あ)第三七一号同三〇年七月二〇日言渡大法廷判決)とするところであ
るから、本件につき刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
 被告人C、同Bの弁護人大野貞雄の上告趣意について。
 所論は、判決があつた後に刑の廃止があつたとの主張に帰し、刑訴四〇五条所定
の上告理由にあたらない。そして、本件の場合は刑の廃止にあたらないことは被告
人Aの上告趣意について判示したとおりである。しかし被告人Cが連合国最高司令
官の昭和二二年四月一四日附「日本人の海外旅行者に対する旅行証明書に関する覚
書」に違反し、同司令官の許可を受けないで本邦から密出国したとの昭和二一年勅
令三一一号違反の罪(被告人Cに対する第一審判決判示第六の(イ)(ロ)の事実)
については、その後昭和二六年一一月二六日附同司令官の「日本人の海外旅行」と
題する覚書により、同年一二月一日以降は、日本人が海外に旅行するにあたつては、
連合国最高司令官の承認乃至許可を受けることを要しないこととされたので、昭和
二六年一二月一日より刑の廃止があつたものと解すべきことは、昭和二七年(あ)
第一五七〇号、同二九年一二月一日言渡大法廷判決(判例集八巻一二号一九一一頁
以下)の示すとおりであるから、同被告人に対する原判決並びに第一審判決は、こ
の点において、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認める。
 よつて、被告人A及び同Bの本件上告はいずれもこれを棄却し、被告人Cに対し
ては刑訴四一一条五号により、原判決及び第一審判決を破棄し、同四一三条に則り
更に判決するのであるが、右第一審判決の確定した事実中、被告人Cの判示第一の
(イ)(ロ)(ハ)、第二の(イ)(ロ)の各関税法違反の各所為は、いずれも昭
和二九年法律六一号関税法附則一三項、同法による改正前の旧関税法七六条一項刑
法六〇条にあたるので右判示第一の(イ)(ロ)、及び判示第二の(イ)(ロ)の
罪については、懲役刑及び罰金刑を併科し、右判示第一の(ハ)の罪については、
懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑について刑法
四七条本文一〇条に従い最も重い右判示第二の(ロ)の罪の刑に法定の加重をなし、
罪金刑については旧関税法八二条ノ四、刑法四八条一項を適用して、被告人を懲役
八月及び右判示第一の(イ)の罪について罰金二万円、同第一の(ロ)の罪につい
て罰金一万円、同第二の(イ)の罪について罰金三万円、同第二の(ロ)の罪につ
いて罰金一万円に処し、情状懲役刑の執行を猶予するのを相当と認め刑法二五条に
より本裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予し、被告人が右罰金を完納す
ることができないときは刑法一八条により、金二〇〇円を一日に換算した期間同被
告人を労役場に留置し、刑訴一八一条により原審における訴訟費用中その三分の一
を同被告人の負担とする。
 次に被告人Cの前記第一審判決判示第六の(イ)(ロ)の密出国の各所為は、犯
罪後の法令により刑の廃止があつた場合にあたること前記のとおりであるが右判示
第六の(イ)の所為は同判示第一の(イ)の関税法違反の所為と、右判示第六の(
ロ)の所為は、同判示第二の(イ)の関税法違反の所為と、それぞれ一個の行為で
二個の罪名に触れるものとして公訴が提起されたものと認められるので特に主文に
おいて免訴の言渡をしない。
 なお当審における訴訟費用は被告人Aの国選弁護人に支給したものであるから、
刑訴一八一条により同被告人の負担とする。よつて主文のとおり判決する。
 この裁判は、被告人等三名の関税法違反の罪(被告人Aに対する第一審判決判示
事実、及び、被告人C、同Bに対する第一審判決判示第一の(イ)(ロ)(ハ)、
第二の(イ)(ロ)及び第四の事実)については、犯罪後の法令により刑の廃止が
あつたものとして被告人等を免訴すべきであるとの裁判官真野毅、同小谷勝重、同
藤田八郎、同河村又介、同谷村唯一郎、同小林俊三の少数意見があり、被告人Cの
密出国の罪(同被告人に対する第一審判決判示第六の(イ)(ロ)の事実)につい
ては、犯罪後の法令により刑の廃止があつたものでないとする裁判官田中耕太郎、
同斎藤悠輔、同本村善太郎の少数意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるも
のである。
 被告人等三名の前記関税法違反の罪については、犯罪後の法令により刑の廃止が
あつたから被告人等を免訴すべしとする裁判官真野毅、同小谷勝重同藤田八郎、同
河村又介、同谷村唯一郎、同小林俊三の少数意見は、前記昭和二八年(あ)第三七
一号同三〇年七月二〇日言渡大法廷判決、及び昭和二七年(あ)第四三四号同三〇
年二月二三日言渡大法廷判決(判例集九巻二号三四四頁以下)記載の右六裁判官の
少数意見のとおりである。
 裁判官小林俊三は、右の点に関し右昭和二七年(あ)第四三四号同三〇年二月二
三日言渡大法廷判決記載の同裁判官の意見と同一の意見を附加する。
 被告人Cの前記密出国の罪については、犯罪後の法令により刑の廃止があつたも
のでないとの裁判官田中耕太郎、同斎藤悠輔、同本村善太郎の少数意見は前記昭和
二七年(あ)第一五七〇号同二九年一二月一日言渡大法廷判決記載の右三裁判官の
反対意見のとおりである。
 裁判官霜山精一、同井上登は退官につき評議に関与しない。
 検察官 安平政吉、同竹原精太郎、同宮崎三郎、同神山欣治出席
  昭和三〇年九月二八日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    谷   村   唯 一 郎
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎
            裁判官    入   江   俊   郎

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