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平成25年3月25日判決言渡
平成24年(行ケ)第10155号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成25年2月6日
判決
原告エイディシーテクノロジー
株式会社
訴訟代理人弁護士水野健司
同弁理士衛藤寛啓
被告株式会社ソニー・コンピュー
タエンタテインメント
訴訟代理人弁護士熊倉禎男
同飯田圭
同弁理士谷口信行
同中村佳正
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2011-800190号事件について平成24年3月30日にし
た審決中,「特許第4644735号の請求項2ないし10に係る発明についての特
許を無効とする。」との部分を取り消す。
第2前提となる事実
1特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「サーバ,利用者装置,プログラム,及び,指標処理方法」
とする特許第4644735号(以下「本件特許」という。)の特許権者である。
本件特許は,平成13年9月18日に出願した特願2001-283242号の
一部を平成20年12月19日に新たな特許出願として出願(特願2008-32
4143号)され,平成22年12月10日に設定登録された。
被告は,平成23年9月30日付けで本件特許の請求項1~10に係る発明の特
許につき無効審判を請求し,原告は,同年12月26日付けで特許請求の範囲の請
求項10を訂正する訂正請求(以下「本件訂正請求」という。甲41)をした。
特許庁は,上記無効審判請求を無効2011-800190号事件として審理し,
平成24年3月30日,「訂正を認める。特許第4644735号の請求項2ないし
10に係る発明についての特許を無効とする。特許第4644735号の請求項1
に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」と
いう。)をし,同年4月7日,原告に審決謄本が送達された。
2本件訂正請求によって訂正された特許請求の範囲の記載(下線は,本件訂正
請求による訂正部分。)
「【請求項1】
番組の視聴操作及び録画予約が可能な利用者装置が用いられて視聴されている番
組であって放送中の番組を特定可能な情報である視聴状況情報を,複数の前記利用
者装置から受信する視聴状況情報受信手段と,
前記利用者装置において録画予約されている番組を特定可能な情報である録画予
約状況情報を,複数の前記利用者装置から受信する録画予約状況情報受信手段と,
前記視聴状況情報受信手段により受信された各利用者装置の前記視聴状況情報に
基づいて,現在放送中の番組の視聴者数の多少を把握可能な視聴指標を算出する視
聴指標算出手段と,
前記録画予約状況情報受信手段により受信された各利用者装置の前記録画予約状
況情報に基づいて,番組の録画予約数の多少を把握可能な録画予約指標を算出する
録画予約指標算出手段と,
地域を特定可能な情報である地域特定情報を,前記利用者装置から受信する地域
特定情報受信手段と,
前記利用者装置によって表示される番組表上の番組に対応づけられて表示される
ための前記視聴指標と前記録画予約指標とであって,前記地域特定情報受信手段に
より受信された前記地域特定情報に基づき特定される地域において現在放送中の番
組に対応する前記視聴指標と前記録画予約指標とを,前記地域特定情報を送信して
きた前記利用者装置へ送信する指標送信手段と,
を備えることを特徴とするサーバ。
【請求項2】
請求項1に記載のサーバにおいて,
前記利用者装置によって表示される番組表のための番組表データを送信する番組
表データ送信手段をさらに備えること,
を特徴とするサーバ。
【請求項3】
請求項2に記載のサーバにおいて,
前記番組表データ送信手段は,放送中の番組と同時に前記視聴指標,前記録画予
約指標及び前記番組表が表示可能なよう構成された前記番組表データを送信するこ
と,
を特徴とするサーバ。
【請求項4】
番組の視聴操作及び録画予約が可能な利用者装置であって,
放送中の番組であって現在視聴されている番組を特定可能な情報である視聴状況
情報をサーバへ送信する視聴状況情報送信手段と,
録画予約されている番組を特定可能な情報である録画予約状況情報を前記サーバ
へ送信する録画予約状況情報送信手段と,
利用者からの操作を受け付ける受付手段と,
前記受付手段を介して利用者により指定された地域を特定可能な情報である地域
特定情報を,前記サーバへ送信する地域特定情報送信手段と,
各利用者装置の前記視聴状況情報に基づいて前記サーバにおいて算出された現在
放送中の番組の視聴者数の多少を把握可能な視聴指標と,各利用者装置の前記録画
予約状況情報に基づいて算出された番組の録画予約数の多少を把握可能な録画予約
指標とを受信する指標受信手段と,
前記視聴指標と前記録画予約指標とが,番組表上の番組に対応づけて表示可能な
よう構成された番組表データをサーバから受信する番組表データ受信手段と,
受信された前記視聴指標と前記録画予約指標とが番組表上の番組に対応づけられ
た番組表であって,前記地域特定情報送信手段により送信された前記地域特定情報
に対応する地域において現在放送中の番組に対応する前記視聴指標と前記録画予約
指標とを含む番組表を出力する出力手段と,
を備えることを特徴とする利用者装置。
【請求項5】
請求項4に記載の利用者装置において,
前記出力手段は,放送されている番組の映像も出力することができ,利用者によ
り現在視聴されている番組の映像と同時に一画面において利用者が視聴可能なよう
前記番組表を出力すること,
を特徴とする利用者装置。
【請求項6】
請求項5に記載の利用者装置において,
利用者により現在視聴されている番組の映像と同時に出力されている前記番組表
上で,その視聴されている番組と異なるチャンネルの番組が前記受付手段を介して
利用者により選択されると,その選択された番組のチャンネルに切り替えて前記出
力手段に番組の映像を出力させるチャンネル切替手段をさらに備えること,
を特徴とする利用者装置。
【請求項7】
番組の視聴操作及び録画予約が可能なコンピュータである利用者装置に,
放送中の番組であって現在視聴されている番組を特定可能な情報である視聴状況
情報をサーバへ送信する視聴状況情報送信ステップと,
録画予約されている番組を特定可能な情報である録画予約状況情報を前記サーバ
へ送信する録画予約状況情報送信ステップと,
利用者からの操作を受け付ける受付手段を介して利用者により指定された地域を
特定可能な情報である地域特定情報を,前記サーバへ送信する地域特定情報送信ス
テップと,
各利用者装置の前記視聴状況情報に基づいて前記サーバにおいて算出された現在
放送中の番組の視聴者数の多少を把握可能な視聴指標と,各利用者装置の前記録画
予約状況情報に基づいて算出された番組の録画予約数の多少を把握可能な録画予約
指標とを前記サーバから受信する指標受信ステップと,
前記視聴指標と前記録画予約指標とが,番組表上の番組に対応づけて表示可能な
よう構成された番組表データをサーバから受信する番組表データ受信ステップと,
前記視聴指標,前記録画予約指標,及び,前記番組表データに基づいて,前記視
聴指標と前記録画予約指標とが番組表上の番組に対応づけられた番組表であって,
前記地域特定情報送信ステップにより送信された前記地域特定情報に対応する地域
において現在放送中の番組に対応する前記視聴指標と前記録画予約指標とを含む番
組表を出力する出力ステップと,
を実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項8】
請求項7に記載のプログラムにおいて,
前記出力ステップは,現在視聴されている番組の映像と同時に一画面において視
聴者が視聴可能なよう前記視聴指標と前記録画予約指標とを含む前記番組表を出力
すること,
を特徴とするプログラム。
【請求項9】
請求項8に記載のプログラムにおいて,
利用者により現在視聴されている番組の映像と同時に出力されている前記番組表
上で,その視聴されている番組と異なるチャンネルの番組が前記受付手段を介して
利用者により選択されると,その選択された番組のチャンネルへ切り替える指令を,
チャンネルを切り替える機能を有するチャンネル切替手段へ出力するチャンネル切
替ステップを,
さらに前記利用者装置に実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項10】
一又は複数のコンピュータシステムが行う指標処理方法であって,
番組の視聴操作及び録画予約が可能な利用者装置によって視聴されている番組で
あって放送中の番組を特定可能な情報である視聴状況情報を,複数の前記利用者装
置から取得する視聴状況情報取得ステップと,
前記利用者装置において録画予約されている番組を特定可能な情報である録画予
約状況情報を,複数の前記利用者装置から取得する録画予約状況情報取得ステップ
と,
前記視聴状況情報取得ステップにより取得された各利用者装置の前記視聴状況情
報に基づいて,現在放送中の番組の視聴者数の多少を把握可能な視聴指標を算出す
る視聴指標算出ステップと,
前記録画予約状況情報取得ステップにより取得された各利用者装置の前記録画予
約状況情報に基づいて,番組の録画予約数の多少を把握可能な録画予約指標を算出
する録画予約指標算出ステップと,
地域を特定可能な情報である地域特定情報を,前記利用者装置から受信する地域
特定情報受信ステップと,
前記利用者装置によって表示される番組表のための番組表データを送出する番組
表データ送出ステップと,
前記利用者装置によって表示される番組表上の番組に対応づけられて表示される
ための前記視聴指標と前記録画予約指標とであって,前記地域特定情報受信手段に
より受信された前記地域特定情報に対応する地域において現在放送中の番組に対応
する前記視聴指標と前記録画予約指標とを,前記地域特定情報を送信してきた前記
利用者装置へ送出する指標送出ステップと,
を含むことを特徴とする指標処理方法。」(以下,【請求項1】~【請求項10】
に係る発明を,それぞれ「本件発明1」~「本件発明10」といい,本件特許に係
る明細書及び図面を「本件明細書等」という。)
3審決の理由
別添審決書写しのとおりであり,本件訴訟に関連する部分の要旨は,本件発明2
~10に関して平成22年11月5日付け手続補正書による補正(以下「本件補正」
という。)は特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず,本件発明2
~10は,同項に規定する要件を満たしていない補正をした出願に対して特許され
たものと認められるから,同法123条1項1号の規定による無効とすべきである
というものである。
第3当事者の主張
1取消事由に関する原告の主張
(1)審決は,本件発明2~10に関し,本件特許の願書に最初に添付した明細書,
特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。甲15)には,「送信・受
信において,番組表データが視聴率等と離れて送信・受信されるという捉え方をす
る思想を読むことはできず」(審決82頁10行~12行等)と判断したが,誤りで
ある。当初明細書等には,送信・受信において,番組表データが視聴率等と離れて
送信・受信されるという捉え方をする思想を読むことはでき,本件発明2~10は,
当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係にお
いて,新たな技術的事項を導入しない。
よって,本件発明2~10は,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たし
ており,無効とされるべきではない。以下,詳述する。
(2)当初明細書等の記載
ア背景技術
当初明細書等(甲15)の【0002】には,通信回線を介して番組表を送信・
受信することが,背景技術として記載されている。なお,ここでの番組表は,視聴
率等が組み込まれていないものであることは明らかである。
イ課題を解決するための手段
当初明細書等の【0011】には,利用者側の番組表表示手段が,通信回線網を
介して,又は,CD-ROMなどの記録媒体から番組表データを取得することが記
載されている。
ウ第1実施形態
当初明細書等の第1実施形態の説明の【0037】,【0038】には,利用者側
端末20は,調査者側装置10に番組表の送信を要求し,その要求を受けて調査者
側装置10は,番組表を送信することが記載されている。そして,利用者側端末2
0は,通常の番組表(視聴率等の組み込まれていない番組表)を表示することが記
載されている。
エ第2実施形態
当初明細書等の第2実施形態の説明の【0071】には,第2実施形態は,第1
実施形態の全ての構成を含むことを前提に,第1実施形態とは,「後述する」相違点
があることが示され,【0073】,【0074】には,第2実施形態は,視聴率等の
指標が記載されていない番組表をハードディスクから読み出す技術,それと異なる
タイミングで視聴率等の指標をハードディスクから読み出す技術,及び番組表と視
聴率等の指標とを組み合わせる技術が開示されている。このことから,視聴率等の
指標データとチャンネル毎の番組表データとを別々に記憶し,これらを別の処理ス
テップ(異なるタイミング)で読み出し,これらを関連付けて指標の入った番組表
を作成する技術が開示されているといえる。
そして,【0075】には,視聴率を含む番組表(視聴率を含まない通常の番組表
に視聴率が対応付けられたもの)が,調査者側装置10から利用者側端末20へ送
信され,利用者側端末20でその番組表が表示されることが記載されている。
オ変形例
当初明細書等の変形例の説明の【0078】には,第1実施形態及び第2実施形
態以外にも,様々な形態で実施できることが積極的に記載され,【0079】には,
調査者側装置10が,複数のコンピュータシステムで構成されていてもよいことが,
【0081】には,利用者側端末20は,番組表を,調査者側装置10から取得し
てもよいし,自身がアクセス可能なCD-ROMなどの記録媒体から取得してもよ
いことが記載されている。
なお,利用者側端末20がCD-ROMから読み出す番組表は,視聴率等が組み
込まれていない番組表であることは明らかである。なぜなら,視聴率等が組み込ま
れた番組表がCD-ROMに記憶されているとすれば,その番組表の視聴率は実際
の視聴率が反映されたものではなく,不合理であるからである。また,視聴率等に
ついて利用者側端末20は,調査者側装置10から取得することは明らかである。
カ小括
以上から,次の事項が,当初明細書等に記載の技術的事項といえる。
(ア)技術的事項1
視聴率が組み込まれていない番組表を調査者側装置10が送信し,利用者側端末
20が受信して表示すること(第1実施形態)。
(イ)技術的事項2
視聴率を組み込んだ番組表を調査者側装置10が送信し,利用者側端末20が受
信して表示すること(第2実施形態)。
(ウ)技術的事項3
利用者側端末20において,視聴率が組み込まれていない番組表がCD-ROM
等の記録媒体から取得され,視聴率が調査者側装置10から取得されること(変形
例)。
(エ)技術的事項4
利用者側端末20において,視聴率が組み込まれていない番組表と,視聴率とが,
調査者側装置10から別々に取得されること。
(3)技術的事項4が当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれるこ

ア(ア)視聴率の入った番組表を送受信することの記載があること
上述したとおり,第2実施形態として記載されている。
(イ)視聴率のみを送受信することの記載があること
上述したとおり,変形例として記載されている。
(ウ)番組表のみを送受信することの記載があること
上述したとおり,背景技術や第1実施形態に記載されている。
(エ)視聴率と番組表とを別々に記憶すること,これらを別の処理ステップ(異な
るタイミング)で読み出すことの記載があること
上述したとおり,第2実施形態として記載されている。
(オ)様々な形態で実施することができることの記載があること
上述したとおり,変形例の欄に記載されている。
(カ)送信側の機能を複数のコンピュータシステムに振り分けて構成してもよいこ
との示唆があること
上述したとおり,調査者側装置10を複数のコンピュータシステムで構成しても
よいことが記載されており,このことは,調査者側装置10が有する機能を分解し,
その分解した機能を各コンピュータシステムに振り分けてもよいことの示唆である。
(キ)視聴率と番組表とを別々に送信・受信することは周知技術であること
特開2000-308035号公報(甲1。以下「甲1公報」という。)には,局
装置2は,番組表送信部35と,予想視聴率送信部43とを備え(図4),家庭装置
4は,視聴率受信部25と,番組表取得表示部26とを備える(図3)こと,すな
わち,番組表と視聴率とが独立して送受信されて,利用者側で表示されることが記
載され,特開平11-25541号公報(甲42。以下「甲42公報」という。)に
は,番組情報処理装置は,受信した番組情報を記憶する番組情報格納手段と,番組
表の属性情報(視聴率等)が入力される属性入力手段とを備える(【0039】,【0
040】,【0050】,図1,図4(b))こと,すなわち,番組表の基礎となる情
報である番組情報と,視聴率とが別々の手段で取得され,利用者に表示されること
が記載されている。
イ上記ア(ア)~(キ)から,当初明細書等の全ての記載を総合することにより導か
れる技術的事項として,利用者側端末20において,視聴率が組み込まれていない
番組表と,視聴率とが,調査者側装置10から別々に取得されること(技術的事項
4)が導かれることは明らかである。そして,このことは録画率についても同様に
いえる。
(4)したがって,視聴率等の送信・受信手段と番組表データの送信・受信手段と
が別々に存在する本件発明2~10について,当初明細書等の全ての記載を総合す
ることにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入すると
した審決には誤りがある。すなわち,本件発明2~10は,特許法17条の2第3
項に規定する要件を満たしており,無効理由はない。
よって,本件審決中,「特許第4644735号の請求項2ないし10に係る発明
についての特許を無効とする。」との部分は取り消されなければならない。
2被告の反論
原告主張の取消事由は,以下のとおり理由がない。
(1)本件補正
ア本件特許の請求項2~10における「前記利用者装置によって表示される番
組表のための番組表データを送信する番組表データ送信手段をさらに備えること,
を特徴とするサーバ」(請求項2,3),「番組表データをサーバから受信する番組表
データ受信手段」(請求項4~6),「番組表データをサーバから受信する番組表デー
タ受信ステップ」(請求項7~9)及び「番組表データを送出する番組表データ送出
ステップ」(請求項10)との記載事項は,本件補正により追加されたものである(以
下,上記記載事項をまとめて「補正事項6」という。)。
イ本件特許の請求項2~10における「前記利用者装置によって表示される番
組表上の番組に対応づけられて表示されるための前記視聴指標と前記録画予約指標
とであって……現在放送中の番組に対応する前記視聴指標と前記録画予約指標とを
……送信する指標送信手段」(請求項1を引用する請求項2,3),「視聴指標と,…
…録画予約指標とを受信する指標受信手段と……番組表データを……受信する番組
表データ受信手段と……前記視聴指標と前記録画予約指標とが番組表上の番組に対
応づけられた番組表であって……現在放送中の番組に対応する前記視聴指標と前記
録画予約指標とを含む番組表を出力する出力手段」(請求項4~6),「視聴指標と…
…録画予約指標とを……受信する指標受信ステップと……番組表データを……受信
する番組表データ受信ステップと,前記視聴指標,前記録画予約指標,及び,前記
番組表データに基づいて,前記視聴指標と前記録画予約指標とが番組表上の番組に
対応づけられた番組表であって……現在放送中の番組に対応する前記視聴指標と前
記録画予約指標とを含む番組表を出力する出力ステップ」(請求項7~9),「前記利
用者装置によって表示される番組表上の番組に対応づけられて表示されるための前
記視聴指標と前記録画予約指標とであって……現在放送中の番組に対応する前記視
聴指標と前記録画予約指標とを……送出する」(請求項10)との記載事項は,本件
補正により追加されたものである(以下,上記記載事項をまとめて「補正事項7」
という。)。
(2)補正事項6,7が新規事項の追加に当たること
当初明細書等の記載に接した当業者であれば誰もが,記載されているのと同然で
あると理解する事項の範囲は,視聴指標と録画予約指標とを送信・受信する手段,
手順一般のうち,番組表に記載された視聴指標と録画予約指標とを番組表と一体の
ものとして送信・受信する手段,手順にとどまり,番組表とは別体の視聴指標と録
画予約指標とをそれ自体として送信・受信する手段,手順には及ばないことが明ら
かである。また,当業者によって明細書又は図面の全ての記載を総合することによ
り導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものの範囲
も同様であることが明らかである。
したがって,補正事項6,7は,番組表とは別体の視聴指標と録画予約指標とを
それ自体として送信・受信する点において,新規事項の追加に当たる。
(3)当初明細書等には視聴率等の送信・受信手段,手順と番組表の送信・受信手
段,手順とが別々に存在するものは直接記載されていないこと
原告は,視聴率等について利用者側端末20は,調査者側装置10から取得する
ことは明らかであると主張し,当初明細書等には,技術的事項3「利用者側端末2
0において,視聴率が組み込まれていない番組表がCD-ROM等の記録媒体から
取得され,視聴率が調査者側装置10から取得されること(変形例)」が記載されて
いると主張するが,何らの具体的な根拠も示していない。当初明細書等の【008
1】には視聴率等についての記載は一切なく,その他の当初明細書等の記載を見て
も,「視聴率のみを送受信すること」は一切記載されていない。したがって,原告の
上記主張は,合理的な根拠を欠くものであることが明らかである。
なお,当初明細書等の【0081】の記載は,視聴率及び録画率の調査まで,す
なわちチャネルデータ及び録画番組データの収集及びそれらに基づく視聴率及び録
画率の算出までを行う実施形態(第1実施形態)に関する変形例を記載したもので
あって,視聴率及び録画率を記載した番組表の作成・送信を行う実施形態(第2実
施形態)に関する変形例を記載したものではない。
(4)視聴率等の送信・受信手段,手順と番組表の送信・受信手段,手順とが別々
に存在するものは,当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術
的事項でないこと
ア視聴率のみを送受信することは当初明細書等には直接記載されていない。
上記(3)で述べたとおり,「視聴率のみを送受信すること」は当初明細書等には直
接記載されておらず,技術的事項4が導かれることを主張するのに,これを根拠と
することは失当である。
イ視聴率と番組表とを別々に送信・受信することは周知技術であるとはいえな
い。
甲42公報には,番組表の基礎となる情報である番組情報と,視聴率とが別々の
手段で取得され,利用者に表示されることは記載されておらず,原告の主張に係る
技術の周知性が立証できていない。いずれにしても,特許文献を2つ挙げるのみで
は,原告の主張に係る技術の周知性を示すのに十分ではない。
ウ仮に視聴率と番組表とを別々に送信・受信することが周知技術であったとし
ても,技術的事項4は当初明細書等から自明な事項ではない。
すなわち,技術的事項4における送信・受信される「視聴率」は,「利用者装置に
よって表示される番組表上の番組に対応付けられて表示されるための」ものである
ところ,当初明細書等には,視聴率及び録画率のいずれか一方又は両方を組み込ん
だ番組表が,調査者側の番組表作成手段によって作成され,該作成された番組表が,
調査者側の番組表送信手段によって送信され,利用者装置によって受信され,表示
されることしか記載されておらず,番組表とは別体の視聴率や録画率自体が調査者
側装置から送信され,利用者装置によって受信されたり,及び/又は利用者装置に
おいて視聴率や録画率とは別体の番組表自体を特に調査者側装置以外から取得し,
更にこのような別体の視聴率や録画率と番組表に基づいて利用者装置において視聴
率や録画率を組み込んで番組表を作成し,表示したりする構成は,当初明細書等に
は一切記載されていないし,そのような構成を実施するための具体的な手法も,当
初明細書等の開示からは不明である。
この点に関して,番組表の送信側から視聴率が組み込まれた番組表が送信される
技術は知られているが,番組表とは別体の視聴率や録画率と番組表に基づいて利用
者装置において視聴率や録画率を組み込んで番組表を作成し,表示したりする技術
は周知でない。なお,甲1公報には,予想視聴率と番組表とを別々に送信・受信す
ることは記載されているが,受信された予想視聴率は,現在放送中の番組及び/又
はその各裏番組についてのものであって,TV画面の片隅に表示されるものであり,
番組表に組み込まれて表示されるものではない(【0035】,【0049】参照)。
よって,「利用者側端末20において,視聴率が組み込まれていない番組表と,視
聴率とが,調査者側装置10から別々に取得されること」(技術的事項4)は,当初
明細書等の現実の記載に接した当業者であれば誰もが,その事項がそこに記載され
ているのと同然であると理解するような事項ではない。
エ小括
以上により,視聴率等の送信・受信手段,手順と番組表の送信・受信手段,手順
とが別々に存在するものは,当初明細書等の記載に接した当業者に自明の事項でも
なく,さらには,当業者にとって当初明細書等の記載の全てを総合することにより
導かれる技術的事項でもない。
(5)以上に述べたとおり,本件特許の請求項2~10に関する補正事項6,7は,
特許請求の範囲の記載それ自体として,願書に最初に添付した明細書,特許請求の
範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものではなく,新規事項の追加
に当たるものであるから,この点に関する本件審決の判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断
1本件発明2,3,10について
(1)本件補正による補正事項
平成22年11月5日付け手続補正書(甲17)によれば,本件補正による補正
後の請求項2は,「請求項1に記載のサーバにおいて,」として請求項1のサーバを
引用しているところ,請求項1のサーバは,「前記利用者装置によって表示される番
組表上の番組に対応づけられて表示されるための前記視聴指標と前記録画予約指標
とであって,現在放送中の番組に対応する前記視聴指標と前記録画予約指標とを送
信する指標送信手段」を有するものである。その上で,請求項2は,「前記利用者装
置によって表示される番組表のための番組表データを送信する番組表データ送信手
段をさらに備える」と規定しているから,請求項2は,「前記利用者装置によって表
示される番組表上の番組に対応づけられて表示されるための前記視聴指標と前記録
画予約指標とであって,現在放送中の番組に対応する前記視聴指標と前記録画予約
指標とを送信する指標送信手段」とともに,「前記利用者装置によって表示される番
組表のための番組表データを送信する番組表データ送信手段」を更に備えることを
特定するものであり,番組表データの送信が視聴指標及び録画予約指標の送信と区
別されることを特定するものである(下線は判決において付加。以下同様。)。
また,同補正後の請求項3は,請求項2を引用しているから,同様に,番組表デ
ータの送信が視聴指標及び録画予約指標の送信と区別されることを特定するもので
ある。
本件補正後の請求項10は,指標処理方法について,「前記利用者装置によって表
示される番組表のための番組表データを送出する番組表データ送出ステップ」と「前
記利用者装置によって表示される番組表上の番組に対応づけられて表示されるため
の前記視聴指標と前記録画予約指標」であって,受信された地域特定情報に対応す
る地域において「現在放送中の番組に対応する前記視聴指標と前記録画予約指標」
とを「送出する指標送出ステップ」とを備えることを特定しているから,請求項2
と同様に,番組表データの送信が視聴指標及び録画予約指標の送信と区別されるこ
とを特定するものである。
そして,これらの視聴指標及び録画予約指標は,「前記利用者装置によって表示さ
れる番組表上の番組に対応づけられて表示されるため」のものであるから,視聴指
標及び録画予約指標を受信した利用者装置において,これらとは別に受信された番
組表データに基づいて,視聴指標と録画予約指標とが番組表上の番組に対応づけら
れた,現在放送中の番組に対応する前記視聴指標と前記録画予約指標とを含む番組
表を出力することを前提として,番組表データの送信が視聴指標及び録画予約指標
の送信と区別されることも特定するものである。
(2)当初明細書等の記載
ア当初明細書等(甲15)には,図面(別紙参照)とともに,以下の記載があ
る。
「【背景技術】
【0002】
現在,複数の番組を表形式に配列した番組表をインターネットなどの通信回線網
を介して提供することが行われている。この番組表には,各番組の詳細な内容を確
認したり,希望する番組を録画予約したりできるものがある。」
「【課題を解決するための手段】
……
【0007】
この視聴率調査システムにおいて利用者側の備える各手段は,例えば,コンピュ
ータシステム,携帯情報端末,携帯電話機などの端末装置に備えられるものである。
【0008】
また,番組表表示手段や視聴番組表示手段は,例えば,パソコンのディスプレイ,
携帯情報端末の表示画面,テレビ画面などの表示装置に番組表,番組の映像を表示
するための手段である。これらの各手段が表示する番組表または映像は,同一の表
示装置に表示すればよく,例えば,表示画面を分割して表示するように構成しても
よいし,いずれか一方を表示画面の全部に表示して両者の表示を任意に切り替えら
れるように構成してもよい。また,両者を別の表示装置に表示するように構成して
もよい。
【0009】
また,視聴番組指定手段は,番組表を構成する番組のうち少なくとも1の番組を
指定する手段であり,例えば,番組表と共に表示されたカーソルをマウスなどのポ
インティングデバイスによって移動させて,ポインティングデバイスのボタンで選
択操作を行うことによって番組を指定できるように構成すればよい。
【0010】
また,調査者側の備える各手段は,例えば,周知のコンピュータシステムに備え
られるものである。
【0011】
この視聴率調査システムでは,まず,番組表表示手段が番組表を表示する。番組
表は,例えば,電子番組ガイドで利用されているものであって,縦方向に時刻,横
方向に放送チャンネルをとって番組を配列した表形式のものである。この番組表は,
通信回線網を介して受信したデータや,CD-ROMなどの記録媒体から読み出し
たデータであって,このようなデータに基づいて番組表表示手段が番組表を表示す
る。」
「【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
次に本発明の実施の形態について例を挙げて説明する。
【0032】
[第1実施形態]
視聴率調査システム1は,図1に示すように,インターネット100を介してデ
ータ通信可能に構成された調査者側装置10と,利用者側端末20などによって構
成される。
【0033】
調査者側装置10は,CPU11,ハードディスク(以降,HDとする)12,
通信装置13,ディスプレイ14,キーボード15などを備えた周知のコンピュー
タシステムによって構成されるものであり,通信装置13を介してインターネット
100に接続されている。
【0034】
利用者側端末20は,CPU21,ハードディスク22,通信装置23,ディス
プレイ24,キーボード25,マウス26,テレビチューナー27などを備えた周
知のコンピュータシステムで構成されるものであり,通信装置23を介してインタ
ーネット100に接続されている。また,この利用者側端末20には,後述する番
組ガイド処理を利用者側端末20に実行させる番組ガイドプログラムが内蔵されて
いる。
【0035】
次に,利用者側端末20が実行する番組ガイド処理を図2に基づいて説明する。
この番組ガイド処理は,番組ガイドプログラムに従って実行される。
【0036】
まず,利用者側端末20は,変数sbcおよび変数ebcを初期化(「0」をセッ
ト)する(s11)。変数sbc,変数ebcは,以降の処理で,放送チャンネルを
示すデータをセットするために利用されるものである。
【0037】
次に,利用者側端末20は,調査者側装置10に番組表の送信を要求する(s1
2)。この処理では,番組表の送信を要求するためのデータと,要求する番組表の時
間帯および地域を示すデータとで構成される要求データが,調査者側装置10に送
信される。なお,このs12の処理が本番組ガイド処理において最初に行われる場
合,要求される番組表の時間帯は,s12の処理が実行された時刻以降の時間帯と
なるように構成されている。また,要求される番組表の地域は,利用者によりあら
かじめ設定された地域となるように構成されている。そして,この要求データを受
信した調査者側装置10からは,要求データで要求された時間以降3時間分の番組
表が送信されてくる。なお,ここで要求データを受信することによって番組表を送
信してくる調査者側装置10は,本発明における番組表送信手段として機能するも
のである。
【0038】
次に,利用者側端末20は,調査者側装置10から送信されてくる番組表を受信
してディスプレイ24に表示する(s13)。ここで表示される番組表は,縦軸に放
送時刻,横軸に放送チャンネルが配置された表形式のものであって,図3(a),(b)
に示すように,ディスプレイ24の表示領域を3分割したうちの第1領域A1内に
表示される。なお,この3分割した表示領域のうち,第2領域A2は,以降の処理
で,利用者が視聴する番組として選択した番組の映像が表示される領域である。ま
た,第3領域A3は,以降の処理で,メニュー画像,利用者が選択した番組の詳細
な内容,出演者,サブタイトルなどの情報が表示される領域である。
【0039】
次に,利用者側端末20は,番組表に対する操作が行われるまで待機状態となる
(s14)。s13の処理で番組表が表示された後,利用者は,キーボード25やマ
ウス26によって種々の操作を行うことができるようになる。
【0040】
例えば,ディスプレイ24の第1領域A1には,複数の地域から1の地域を選択
可能なプルダウンメニューM1,複数の時間から1の時間を選択可能なプルダウン
メニューM2が表示されている。利用者は,これらのメニューから地域または時間
を選択する操作を行うことによって,選択された地域または時間の番組表の再送信
を調査者側装置10に要求することができる。
【0041】
また,ディスプレイ24の第1領域A1には,番組表と共にカーソルフレームF
も表示されており,利用者は,このカーソルフレームFを移動させた後,決定キー
を押すといった操作によって,カーソルフレームFがある位置の番組を選択する操
作を行うこともできる。番組表中の各番組には,番組の放送チャンネル,放送開始
時刻および放送終了時刻を示すデータが対応づけられており,利用者が番組を選択
する操作を行うことによって,番組の放送チャンネル,放送開始時刻および放送終
了時刻をデータとして抽出できるように構成されている。
【0042】
また,本番組ガイド処理を終了するための操作を行うこともできる。
【0043】
このs14の処理において,番組表の再送信を要求する操作が行われた場合(s
15:YES),s12の処理に戻る。」
「【0071】
[第2実施形態]
視聴率調査システム2は,調査者側装置10が利用者側端末20から番組表の要
求を受けた際に,後述する番組表作成処理を実行するように構成されている点のみ
が第1実施形態と異なるものであって,以下の説明では,第1実施形態との相違点
のみを詳述する。
【0072】
調査者側装置10が実行する番組表作成処理を図4に基づいて説明する。この番
組表作成処理は,番組表の送信を要求する内容の要求データを利用者側端末20か
ら受信することによって開始される。
【0073】
まず,調査者側装置10は,要求データに基づいて要求された地域,時間の番組
表をハードディスク12から読み出す(s51)。この処理で読み出される番組表は,
要求データに基づいて要求された時間以降3時間分の番組表である。
【0074】
次に,調査者側装置10は,番組の視聴率が該番組に対応する領域に記載された
番組表を作成する(s52)。この処理において各番組の表示領域に記載される視聴
率は,ハードディスク12に記憶された視聴率から算出されたものであって,一定
時間毎に複数回算出された視聴率を番組の放送時間内における算出回数で平均した
平均視聴率である。なお,番組表中の番組が一定期間に複数回連続して放送される
番組である場合には,番組に対応する領域に前回の放送での視聴率および録画率が
記載されるように構成してもよい。また,番組の表示領域に記載される視聴率とし
て,例えば,対応する番組の放送時間となる視聴率のうち最大値となる最高視聴率
であってもよい。
【0075】
そして,調査者側装置10は,s52の処理で作成された番組表を利用者側端末
20に送信する(s53)。この番組表を受信した利用者側端末20は,図5に示す
ように,各番組の表示領域に視聴率および録画率が記載された番組表が表示される。
【0076】
なお,以上説明した視聴率調査システム2において,番組の視聴率が該番組に対
応する領域に記載された番組表を作成する調査者側装置10は,本発明における番
組表作成手段として機能するものである。
【0077】
このように構成された視聴率調査システム2によれば,放送が終了した番組の視
聴率や放送中の番組の視聴率を利用者が番組表上で簡単にチェックすることができ
る。また,番組の録画率を利用者が番組表上で簡単にチェックすることができる。
【0078】
[変形例]
以上,本発明の実施形態について説明したが,本発明は上記の具体的な実施形態
に限定されず,このほかにも様々な形態で実施することができる。
【0079】
例えば,本実施形態においては,調査者側装置10が1のコンピュータシステム
によって構成されたものを例示したが,複数のコンピュータシステムで構成されて
いてもよい。
【0080】
また,本実施形態においては,利用者側端末20が周知のコンピュータシステム
によって構成されているものを例示したが,利用者側端末20として,携帯情報端
末や携帯電話機などを利用することもできる。
【0081】
また,本実施形態においては,図2におけるs13の処理で,利用者側端末20
のディスプレイ24に表示される番組表が,調査者側装置10から送信されてくる
場合を例示したが,番組表は,CD-ROMなどの記録媒体から読み出されるもの
であってもよい。また,調査者側装置10から送信されてきた番組表を,利用者側
端末20のハードディスク22に記憶しておき,必要に応じて読み出せるように構
成してもよい。」
イ上記【0071】,【0072】,【0075】等の記載によれば,当初明細書
等における「第2実施形態」は,「調査者側装置10が利用者側端末20から番組表
の要求を受けた際に,後述する番組表作成処理を実行するように構成されている」
点において「第1実施形態」と異なること,第2実施形態における番組表は,利用
者側端末20から番組表の要求を受けた調査者側装置において作成されて利用者端
末に送信され,番組表の送信を受けた利用者端末がこれを表示することが示されて
いるから,第2実施形態においては,視聴率及び録画率を番組表の各番組に対応し
て記載する処理を行うのが調査者側端末であって,利用者側端末でないとされてい
るものである。
これに対して,上記【0011】,【0081】等の記載によれば,「変形例」等に
おいて,番組表はCD-ROMなどの記録媒体から読み出されるものでもよいこと
が記載されているものの,利用者側端末において視聴率及び録画率をCD-ROM
から読み出された番組表の各番組に対応して記載する処理を行うことやこれを行う
ために必要な技術的事項は記載されていない。調査者側装置と利用者側端末とは,
前者が各番組についての視聴率や録画率の集計を行う主体であるのに対して,後者
はそうでない点で異なっており,この違いに応じて,視聴率及び録画率を番組表の
各番組に対応して記載する処理等において異なる。したがって,前者が記載されて
いるからといって,後者が記載されていることにはならないし,他の記載を総合し
ても,後者が記載されているということはできない。
さらに,利用者側端末における視聴率及び録画率を番組表の各番組に対応して記
載する処理等が明細書等において記載を省略できる程度に周知な事項であると認め
るに足りる証拠はない。原告は,甲1公報及び甲42公報により「視聴率と番組表
とを別々に送信・受信すること」が周知であると主張するが,上記証拠から上記技
術的事項が周知であると認めるに十分とはいえない。
また,補正された事項が当初明細書等に記載した事項の範囲内においてするもの
と認められるには,当初明細書等に明示の記載がなくても,これに接した当業者で
あれば,出願時の技術常識に照らして,当該事項がそこに記載されているのと同然
であると理解する事項も含むものと解されるが,仮に「視聴率と番組表とを別々に
送信・受信すること」が周知技術と認められるとしても,「番組表データの送信が視
聴指標及び録画予約指標の送信と区別されること」及び「視聴指標及び録画予約指
標を受信した利用者装置において,これらとは別に受信された番組表データに基づ
いて,視聴指標と録画予約指標とが番組表上の番組に対応づけられた,現在放送中
の番組に対応する前記視聴指標と前記録画予約指標とを含む番組表を出力するこ
と」が,当初明細書等に記載されていると同然であると理解する事項とは認められ
ない。
以上検討したところによれば,当初明細書等の第2実施形態に関する記載内容に,
変形例に関する記載やその他の記載を総合しても,利用者装置が視聴指標,録画予
約指標とともにこれらとは別に受信された番組表データに基づいて視聴指標と録画
予約指標とが番組表上の番組に対応づけられた視聴指標と録画予約指標とを含む番
組表を出力することやその裏付けとなる技術的事項を導くことはできない。
(3)したがって,請求項2,3,10に係る本件補正は,当初明細書等に記載し
た事項の範囲内においてするものと認めることはできず,特許法17条の2第3項
に規定する要件を満たしていないとした本件審決の判断に,誤りはない。
2本件発明4~9について
(1)本件補正による補正事項
本件補正後の請求項4は,利用者装置について,「各利用者装置の前記視聴状況情
報に基づいて前記サーバにおいて算出された現在放送中の番組の視聴者数の多少を
把握可能な視聴指標と,各利用者装置の前記録画予約状況情報に基づいて算出され
た番組の録画予約数の多少を把握可能な録画予約指標とを受信する指標受信手段」,
「前記視聴指標と前記録画予約指標とが,番組表上の番組に対応づけて表示可能な
よう構成された番組表データをサーバから受信する番組表データ受信手段」及び「受
信された前記視聴指標と前記録画予約指標とが番組表上の番組に対応づけられた番
組表であって……現在放送中の番組に対応する前記視聴指標と前記録画予約指標と
を含む番組表を出力する出力手段」を備える旨の特定をするものである。
したがって,本件補正後の請求項4は,利用者装置が,視聴指標,録画予約指標
とともにこれらとは別に受信された番組表データに基づいて,視聴指標と録画予約
指標とが番組表上の番組に対応づけられた,現在放送中の番組に対応する前記視聴
指標と前記録画予約指標とを含む番組表を出力する旨の特定を含む。さらに,番組
表データの受信が視聴指標及び録画予約指標の受信と区別されているから,受信の
前提となる送信においても,番組表データの送信が視聴指標及び録画予約指標の送
信と区別されることを特定するものである。
また,本件補正後の請求項5,6は,請求項4を引用するものであり,請求項7
~9は,請求項4~6の内容に対応したプログラムであり,いずれも,同様の特定
をするものである。
(2)そして,当初明細書等の記載から,利用者装置が視聴指標,録画予約指標と
ともにこれらとは別に受信された番組表データに基づいて視聴指標と録画予約指標
とが番組表上の番組に対応づけられた視聴指標と録画予約指標とを含む番組表を出
力することやその裏付けとなる技術的事項を導くことができないことは,上記1(2)
に説示したとおりである。
(3)したがって,請求項4~9に係る本件補正は,当初明細書等に記載した事項
の範囲内においてするものと認めることはできず,特許法17条の2第3項に規定
する要件を満たしていないとした本件審決の判断に,誤りはない。
3結論
以上によれば,本件発明2~10について,特許法123条1項1号の規定によ
り無効とすべきであるとした審決の判断に誤りがあるということはできないから,
原告主張の取消事由は理由がなく,他に審決にはこれを取り消すべき違法はない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
芝田俊文
裁判官
岡本岳
裁判官
武宮英子
(別紙)
当初明細書等の図面
【図1】視聴率調査システムの実施形態を示す図
【図2】視聴率調査システムの処理手順を示すフローチャート
【図3】利用者側端末のディスプレイに表示される画像を示す図
【図4】調査者側装置の番組表作成処理を示すフローチャート
【図5】利用者側端末のディスプレイに表示される画像を示す図

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