弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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          主     文
      本件控訴を棄却する。
      当審における未決勾留日数中300日を原判決の刑に算入する。
          理     由
 本件控訴の趣意は,被告人及び弁護人A作成の各控訴趣意書に,これらに対する答
弁は,検察官有本恒夫作成の答弁書に記載されているとおりであるから,これらを引用
する。
Ⅰ 原判決認定の罪となるべき事実と被告人及び弁護人の論旨
1 原判決は,罪となるべき事実として,大要,次のとおり認定した。
 被告人は,「未常識経済理論」あるいは「買いの経済」なるものを提唱して平成7年5月
ころ発足させたB倶楽部(以下,「C」というが,これは後記「株式会社D」とほぼ一体のも
のであり,両者を併せ含む意味でも「C」ということがある。)の会長兼Cの事務処理代行
等を業務目的とする株式会社Dの代表取締役であったが,Cにおいては,その会員にな
った者が純金製の平成小判等の指定商品を購入することによって生じた利益は会員に
還元されるので高額の配当を得られるとして,多数の者から申込金名下に金員を受け
入れていたところ,Cの社員らと共謀の上,平成8年2月から同年5月までの間,真実
は,会員から受け入れた申込金は,先順位会員への配当,C傘下の区部・支部への手
数料及びCの運営経費等に費消され,他に早急に収益が得られる見込みもなかったこ
とから,会員に対し確実に約定どおりの配当の支払いや申込金の返還をすることはでき
なかったのに,これらの事情を秘し,ゴールドコース以上の会員になれば,短期間のうち
に,拠出した申込金に加えて,コースの種別等に応じて205万円等の配当を受けられる
かのように装って,ゴールドコース等の申込金名下に金員を詐取しようと企て,「ゴール
ドコースの場合は,100万円支払うと,純金製の小判の取引により利益が出て,結局,
登録日から20日ごとに現金41万円が5回にわたってもらえ,申込金も返還されるの
で,100日間で200万円以上の利益になる。解約にも応じて,即申込金を返還する」な
どとうそを言い,その旨誤信した36名から,現金合計1億7700万円を騙し取ったほ
か,1名から現金100万円の交付を受けたものの,同人に虚偽を看破されたため,詐欺
の目的を遂げなかった。
2 事実誤認の論旨
 被告人及び弁護人の論旨は,いずれも,要するに,被告人には詐欺の犯意がなく,ま
た共犯者らと共謀したこともないから,被告人を有罪とした原判決には,重大な事実誤
認がある,というのである。
Ⅱ 論旨の検討
 そこで,以下,検討する。
1 関係証拠によれば,以下の事実が認められる。
(1) 被告人は,平成7年5月ころ,自己が考案した「未常識経済理論」,又の名を「買い
の経済」なるものを提唱して,その実践の場としてCを発足させ,その代表者となるととも
に,かつてマルチ商法をしていた際に知り合うなどした,原判決が共犯者と認定した者ら
(以下,被告人とこれらの者を併せて,「被告人ら」という)を社員として引き入れ,これら
の者を指揮して,Cを管理,運営していた。
(2) Cにおいては,ベーシックコース,ゴールドコース,ダイヤモンドコース,プラチナコー
ス等,指定の商品を購入すれば,それによりC側に生じた利益を会員に順次配当すると
いうシステムを設定して,会員を募った。そのうち,会員数が最多であったゴールドコー
スは,申込金100万円を払い込んで会員となり,指定商品である純金製の平成小判を
購入すると,Cが決定した登録日から起算して20日ごとに5回にわたり,清算金の名目
で,1回当たり48万円の配当金の支払いを受け(但し,ある時期からは,「小判換金手
数料」,「平和基金」などと称して一定金額が差し引かれ,1回の配当金の額が43万円
あるいは41万円となった。),5回目の支払いが終了すると,申込金100万円も返還さ
れるというものであり,ベーシックコースは,ゴールドコースの5分の1の規模のもの,ダ
イヤモンドコース以上のコースは,ゴールドコースよりも申込金が100万円刻みで多くな
るもので,いずれのコースにおいても中途解約が可能であり,解約の意思表示をすれ
ば,いつでも申込金等の返還を受けられるとされていた。
(3) Cにおいては,入会希望者を集めてセミナーと称する説明会を催し,その場で被告
人らが前記の被告人の持論を展開し,平成小判等の商品を購入することによってCに生
じる利益を会員に還元している旨説明するとともに,「Cはいつまででも続く」「手元には6
0億円があるが,これはみなさんから預かったお金とは違う。Cが破綻しないのは,この
金があるからだ。この金で事業をやっている」などと,Cには十分な資産があり,各種事
業投資により莫大な利益を上げている旨述べ,中途解約についても,「キャンセルのキ
ャンと言うだけで,申込金を返す」などと述べるなどして,その旨参加者らを信用させ,多
数の会員を獲得し,申込金名下に金員を集めていた。
(4) しかし,Cは,中途解約は自由であるとする一方で,配当金を受け取らずにこれを上
位のコースの申込金に充当すると,そのコースにおける配当金の支払いについては登
録日制度の適用を受けず,最終的な受取額も大きくなるという「移行制度」等を設けて,
これを強く勧めていたことなどから,実際には,多くの会員が配当金,返還を受けるべき
申込金元本等の全部又は一部を受領しないで,これを原資に上位のコースへの移行を
申し込んでおり,原判決の認定する本件各申込者に対する勧誘行為のうち初めの勧誘
行為が行われた平成8年2月の,その末日時点における会員数は約5700人,C事務
所に対して捜索が行われた同年6月5日ころの時点における会員数は1万人を超えてい
た。
(5) Cは,その収入のほとんどすべてを会員から払い込まれる申込金に依存しており,
先順位会員に対する配当金等の支払いや,傘下の区部・支部への手数料の支払い,C
の運営経費,投資資金等は,この中から支出されていた。そして,原判決認定の本件各
申込者に対する勧誘行為の時期,すなわち平成8年2月から同年5月までの間の,Cの
資産状況は,原判決が「事実認定に関する補足説明等」の三,四で詳細に認定するとお
り,Cが会員に支払うべき月別の配当金,返還すべき申込金元本の総額が,その積極
資産の6倍を超えるのが常態であり,Cの会員に対する配当金支払いや申込金元本の
返還約束,解約時の申込金即時返還の約束を完全に履行することは,全く不可能な状
態であった(なお,所論は,当時,積極資産を十分保有していたかに主張するが,これが
是認できないことは,関係証拠上明らかである。)。また,Cは,その資金を,ビル建設事
業やテレビ,電話関係事業等に手広く投資し,また貸付けも行っていたが,本件当時に
おいて,利益の上がるような事業はなく,回収不能な貸付金も多額に上り,他に,手早く
収益が得られる見込みもなかった(被告人は,当審において,投資した事業は順調であ
ったかに述べるが,関係証拠に照らして,そのようには認め難い。)。
(6) 平成8年6月5日,Cの事務所に警察の捜索が入り,その後,Cは,会員に対する配
当金等の支払いが不能となり,同年11月15日,東京地方裁判所から破産宣告を受け
た。
 以上の事実が明らかであり,これらの事実については,被告人も基本的に争っていな
い。
2 上記の事実に照らすと,本件当時における,Cの収入のほとんどは会員からの申込
金であり,Cには会員に約束どおりの配当支払いや申込金の返還をするだけの資産が
なく,他に早急に収益が得られる見込みもなかったのに,被告人らは,その事情を秘し,
会員になれば,短期間のうちに多額の配当金を受けられるとともに,拠出した申込金も
確実に返還を受けられるかのように装って,応募者に対し,その旨虚偽を申し向けて欺
き,組織的に本件に及んだことが明らかである。
3 所論は,被告人が考案した「買いの経済」すなわち「買いのシステム」は,日差,月差
の時間差を利用し,登録日制度,移行制度などと,会員間の相互扶助と援助によって,
会員がCから離脱するような事態は起きないため,挫折することなく永続するものであ
り,更に,このシステムは,1解から10解までの10段階からなり,1解のベーシックコー
スが基本方式で,2解のゴールドシステムが宣伝効果を上げ,3解及び4解のコースが
宣伝効果を更に上げ,6解及び7解のコースで営業資金に余裕を持たせ,8解及び9解
の「マル優制度」がそれまでに生じた赤字を埋めていき,10解のコースに至って初めて
システムとして完成し,会員に永続的な利益を与えるもので,強制捜査を受けた当時
は,被告人らの活動は前記システムの2解段階を中心に展開中であったものであるとこ
ろ,被告人は,セミナーにおいて,応募者に対し,「お金はくるくる回って初めて価値があ
る。くるくる回す。回り出すと止まらない」というような表現で,後順位者の支払った申込
金等を先順位者に支払う日差・月差のシステムを十分説明していたのであり,システム
の展開途中の時点でCが収益を上げていなかったのは,やむを得ないことであって,C
が公然と多額の事業投資を行い,また多額の積極資産を保有していたのは,被告人が
真摯に自らの考案した「買いのシステム」を実践し完成させようとしていたことの証左で
あり,もし仮に,被告人に邪な詐欺の犯意があったのであれば,会員から払い込まれた
申込金を隠匿するなどしていたはずであって,Cが行き詰まったのは,警察の誤った見
込みによる強制捜査により,資産が差し押さえられ,Cが活動を停止せざるを得なくなっ
たことによるものであると主張し,被告人も,所論に沿う供述をしている。
 しかし,被告人の考案した「買いのシステム」は,結局のところ,会員から集めた申込
金に対する配当開始の基準日である「登録日」を先延ばしにしたり,配当金や返還を受
けるはずの申込金を上位コースの申込金に充当して移行すれば,より多額の配当を受
け取ることができるという「移行制度」を設けるなどして,巧みに,配当金の支払いや申
込金の返還時期を事実上遅らせて,Cに資金が留まる時間を稼ぐことにより,資金上の
破綻を先へ繰り延ばし,その間に事業投資等を行って収益を計るとともに,将来的には
配当額を低下させて,何とか収支の辻褄を合せようと目論むものであり,いったんCの
会員となった者の大部分が,離脱せずに次々と永続的に申込金を払い込み,しかもそ
の員数が増え続けるという,実際には成立し難い条件の下でしか存続できないシステム
であって,本件におけるように,警察の強制捜査が行われずとも,多数の会員が,「移行
制度」を利用せずに,配当金の支払いと申込金元本の返還を要求し,あるいは解約し
て,申込金返還を要求すれば,たちまちその支払いが不可能になることは必定であった
のである。
 会員応募者に対するセミナーにおいて,被告人が行った配当の支払い原資について
の説明は,前記1(3)掲記のとおりであり,セミナーの中で,被告人が,「お金はくるくる回
って初めて価値がある。くるくる回す。回り出すと止まらない」などの表現で,資金の動き
を説明したともみられる発言をしていたことは認められるものの,セミナー参加者らが,
そのような説明を受けて,Cの資金繰りの仕組みの実態を見抜くことは困難であり,本件
被害者らは,たまたまその仕組みの欺瞞性を看破していた可能性のある原判示第二の
被害者を除き,ほぼ満席の会場で,被告人の話術巧みな説明を聞き,冷静に判断する
余裕もないまま,被告人のいうとおり多額の収益が得られるように誤信してしまい,申込
金名下に多額の金員を騙し取られることになったものと認められる。また,Cが,E関係
事業,F関係事業,中国宜昌市でのビル建設事業等,数億円単位の事業投資を行って
いたことは確かではあるが,これらの投資は,その収益性について事前の十分な調査な
どを経た事跡はなく,極めて杜撰なものであり,本件当時において,近い将来の収益な
ど見込むべくもない状況にあったこと,また,当時のCの保有していた資産が多数会員
に対する配当金の支払いや返還すべき申込金元本の引き当てとして極めて不十分なも
のでしかなかったことは,関係証拠に明らかであって,所論指摘の事実があるからとい
って,これが被告人の詐欺の犯意を否定すべき証左となるものではない。
 更に,被告人の「買いのシステム」の最終段階で登場する,8解及び9解の「マル優制
度」は,被告人が考案した靴底用の補強材を販売することにより,10解の「販売店契約
システム」は,不良債権ビル等を買収して,そこに販売店契約をした会員を入居させるこ
とにより,当該コースにおける会員からの入金と,その事業からの収益により,高額の配
当を実現するというものであると理解されるが,これらも,結局のところは,高収益を謳っ
て応募者を巧みに勧誘して当該上位コースへ入会ないし移行入会するように仕向けて,
順次,申込金の払い込みを受け入れるとともに,その段階における事業収益も併せて,
高配当を実現しようとすることに帰するのであって,被告人の単なる皮算用の産物の域
を出ないのである。この点,被告人は,原審及び当審における各供述,陳述書におい
て,原価や差益など数字を挙げて,この持論が客観的に成立する旨の主張を展開して
いるが,これを子細に検討しても,現実的な根拠に基づく地に足のついた理論を形成し
ているとは到底認められない。
 Cにおいては,多くの会員が短期に離脱することなく,その取得する配当金等,返還を
受けるべき申込金の全部又は一部を,上位コースの申込金に充当して移行するなどし
ていた事実はある。しかし,このように多くの会員が離脱しなかったのは,「移行制度」と
いう,より大きな収益獲得へと会員を誘導するシステムを設けて,巧みな勧誘で欲心を
そそった結果であると認められる。
 いったん会員になった者は,将来の多大な収益を期待して絶対に解約せず,離脱しな
いという被告人の言い分は,高配当を餌に騙すことにより会員を必ず引留めておけると
いう仮定の上に成り立つ議論であって,Cが破綻せずに永続できることの根拠となり得
るものではない。警察の本件強制捜査が行われていなくても,早晩Cの運営が行き詰ま
ることは必定であったのであって,所論主張のように,警察の捜索差押があったがため
に破綻したものとはいえない。
4 このように検討してくると,被告人の詐欺の犯意及び共犯者らとの共謀の存在は明
らかである。その他,所論に照らし,関係証拠を子細に検討しても,原判決に所論指摘
の事実誤認は認められない。
 論旨は理由がない。
 よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとし,当審における未決勾留日
数の算入について刑法21条を,当審における訴訟費用の不負担について刑訴法181
条1項ただし書をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
  平成13年9月25日
    東京高等裁判所第4刑事部
   
        裁判長裁判官   高  木  俊  夫
             裁判官   高  麗  邦  彦
             裁判官   芦  澤  政  治

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