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平成12年(行ケ)第433号 審決取消請求事件(平成13年9月18日口頭弁
論終結)
判    決
  原      告      日晴金属株式会社
  訴訟代理人弁理士    大   西   孝   治
   同             大   西   正   夫
   被     告     アイ・エス・シー工業株式会社
   訴訟代理人弁理士      角   田   嘉   宏
   同             高   石       郷
   同             西   谷   俊   男
   主    文
     原告の請求を棄却する。
     訴訟費用は原告の負担とする。
事    実
第1請求
  特許庁が平成11年審判第35166号事件について平成12年9月12日
にした審決を取り消す。
第2前提となる事実(争いのない事実)
1特許庁における手続の経緯
被告は、別紙審決書の写し(以下「審決書」という。)の後掲「(1)本件商
標」記載のとおりの構成(「エアコンキャッチャー」の文字を横書きするもの)よ
りなり、指定商品を商品及び役務の区分第11類の「ルームエアコンディショナ室
外機用金属製据付架台」とする登録第4027303号商標(平成7年10月20
日商標登録出願、平成9年7月11日設定登録、以下「本件商標」という。)の商
標権者である。
 原告は、平成11年4月9日、本件商標について無効審判を請求し、特許庁は、
この請求を平成11年審判第35166号事件として審理した結果、平成12年9
月12日に「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年1
0月16日に原告に送達された。
 2 審決の理由 
 審決書のとおり、要旨、以下のとおり判断し、本件商標は、商標法4条1項10
号及び同11号に違反して登録されたものではないから、同法46条1項の規定に
より登録を無効とすることはできないとした。
  (1) 商標法4条1項10号該当の無効理由について
 本件商標は、「エアコンキャッチャー」の文字を同じ書体でまとまりよく一体的
に書してなるものであるところ、その構成文字は、本件商標の指定商品との関係か
らみれば、前半の「エアコン」の文字部分は「エアコンディショナ(空気調和装
置)」の略称として、後半の「キャッチャー」の文字部分は「捕手、捕らえるも
の」の意味を有する語を結合したものと想起させる場合があるとしても、両文字
(語)を一連一体に結合した本件商標からは、全体として特定の意味合いを表現し
たものといえるものでなく、かかる構成にあっては、一体に表現した一連の造語よ
りなるものとみるのが相当である。してみれば、本件商標は、構成文字に相応して
「エアコンキャッチャー」とのみ称呼されるものというべきである。
 一方、請求人(原告)が空気調和機の室外機用据付台に長年使用し著名性を有す
るとする商標「クーラーキヤッチャー」(以下「使用商標」という。)の構成態様
は、審決書の後掲「(2)引用商標」記載の如く書してなるものであるところ、前
半の「クーラー」の文字部分は「冷房装置」等の意味を有するものとして、一般に
よく知られる文字であり、後半の「キヤッチャー」の文字と結合したものである。
してみれば、使用商標は、構成文字に相応して「クーラーキャッチャー」と一連の
称呼が生ずるものであり、両文字を結合した一種の造語として看取させるものであ
る。
 そうとすれば、請求人(原告)提出の甲号証を見ると使用商標が請求人(原告)
の業務に係る「空気調和機の室外機用据付台」について使用され、需要者、取引者
の間に広く認識されていることは認め得るものであるとしても、両商標は、共に造
語よりなるものと認識されるものであるから、観念においては比較することができ
ない。また、本件商標から生ずる「エアコンキャッチャー」の称呼と使用商標から
生じる「クーラーキャッチャー」の称呼とは、その音構成に顕著な差異を有するも
のであるから、明瞭に聞き分けられることが明らかである。さらに、両商標の構成
文字の差異により両者は外観において区別し得るものである。
 したがって、本件商標と使用商標とは明らかに区別することができる差異を有す
る非類似の商標であって、出所の混同を生じさせるおそれはないから、前条項に該
当しない。
  (2) 商標法4条1項11号該当の無効理由について
 本件商標と、請求人が引用する審決書の後掲「(2)引用商標」記載のとおりの
構成(「クーラーキヤッチャー」の文字を横書きするもの)よりなり、指定商品を
平成3年政令第299号による改正前の商品区分(以下「旧分類」という。)第7
類の「金属製たな板、建造物組立てセット、その他本類に属する商品」とする登録
第1378845号商標(昭和50年6月16日商標登録出願、昭和54年5月3
1日設定登録、以下「引用商標」という。)とは、上記のとおり、その外観、観念
及び称呼のいずれにおいても相紛れることのない非類似の商標である。そして、引
用商標の指定商品に含まれる「建造物組立てセット」とは、特定の使用目的を有す
る簡易な組立式建造物の専用部材であって、一式のセットとして取引に供されるも
の(例えば、物置組立セット)であり、一方、本件商標の指定商品は「ルームエア
コンディショナ室外機」専用の附属品として、それぞれ解され取り扱われるもので
あるから、両者の指定商品の表示からは互いに類似するものということができな
い。
 したがって、本件商標は前条項に該当しない。
第3 原告主張の審決の取消事由の要点
審決の本件商標と使用商標との類否に関する認定、判断中、両商標の称呼、外観
に関する認定、判断部分は認めるが、観念に関する部分、すなわち、本件商標が全
体として特定の意味合いを表現したものといえるものではないとの認定部分、両商
標が観念においては比較することができないとの判断部分は争う。
 審決は、商標法4条1項10号の判断において、使用商標「クーラーキヤッチャ
ー」と本件商標「エアコンキャッチャー」とが、観念において類似する点を看過し
たために、非類似の商標であると判断し、また、商標法第4条1項11号の判断に
おいても、同様に、引用商標「クーラーキヤッチャー」と本件商標「エアコンキャ
ッチャー」とが非類似の商標であると判断し、さらに、引用商標の指定商品である
「金属製たな板、建造物組立てセット、その他本類に属する商品」と本件商標の指
定商品である「ルームエアコンディショナ室外機用金属製据付架台」とが非類似の
商品であると判断しているが、いずれの判断も誤っており、違法であるから、取り
消されるべきである。
 1 取消事由1(商標法4条1項10号の判断の誤り)
  (1) 原告の使用商標「クーラーキヤッチャー」の著名性の獲得と本件商標
の混同のおそれの存在について
    ア 審決は、原告が使用する商標「クーラーキヤッチャー」が、原告の業
務に係る商品「空気調和機の室外機用据付台」を表示するものとして、需要者の間
に広く認識されている点は肯定している。
 原告が、本件商標の商標登録出願時である平成7年10月20日までに、使用商
標について著名性を獲得した経緯は、以下のとおりであり、被告が空気調和機の室
外機用据付台の商品に、本件商標「エアコンキャッチャー」を使用していることに
よって、原告の出所に係る商品であるかのような混同が生じている。
    イ 原告は、昭和46年10月1日に設立され、主として空気調和機の室
外機を据え付けるための据付台やパラボラアンテナの据付台等の製造販売を主たる
業務とする会社である。原告は、前身の日晴金属工業所当時の昭和43年暮頃に、
日本で初めて空気調和機の室外機の据付台に「クーラーキヤッチャー」の商標(使
用商標)を付して販売を開始した。この当時、据付台という製品はまったく存在し
ない新規な製品であった(株式会社電波新聞社代表者作成の証明書(甲第5号証)
参照)。
 この原告製造に係る「クーラーキヤッチャー」は、昭和44年から現在に至るま
で、トップの市場占有率を有しており、原告は、この種の「空気調和機の室外機用
据付台」の商品分野において、少なくとも50%の市場占有率を有するガリバー的
企業である(甲第6号証の1、2)。
 原告は、このような市場占有率を確保するために、数多くの宣伝広告を行ってお
り、例えば、昭和44年から現在に至るまで空気調和機の室外機用据付台について
使用商標を使用したカタログを発行している(甲第7号証ないし第24号証)。こ
れらのカタログは、空気調和機を設置する電気工事業者や、この種の電気工事業者
に部品を納入する商社等に広く頒布されたものであり、少なくとも本件商標の商標
登録出願日である平成7年10月20日以前には、使用商標「クーラーキヤッチャ
ー」は、原告の空気調和機の室外機用据付台を示すものとして、需要者の間で、広
く認識されるようになった。原告は、カタログの頒布のほか、少なくとも平成元年
から、使用商標を使用した数多くの広告を電波新聞等に頻繁に掲載し(甲第25号
証ないし第83号証)、また、原告の使用商標が著名であることを示す新聞記事も
ある(甲第84ないし第88号証)。このように電波新聞等の業界紙に長期間にわ
たって継続的に広告が掲載され、記事に登載されたという事実は、原告の使用商標
「クーラーキヤッチー」が平成7年10月20日以前に、原告の空気調和機の室外
機用据付台を指し示す商標として著名になっていたことを示している。なお、使用
商標が著名であることについて、空気調和機の室外機据付台を取り扱う業界の者が
証明書を作成している(甲第96号証ないし第105号証)。
 以上のとおり、原告の使用商標「クーラーキヤッチャー」は、本件商標の商標登
録出願当時までに、商品「空気調和機の室外機用据付台」の需要者の間で、原告の
出所を示す商標として著名性を獲得していた。
    ウ 原告は、上記のとおり、空気調和機の室外機用据付台のパイオニア的
メーカーであり、業界において、標章「キャッチャー」は、原告の商品のラインア
ップを示す商標となっており、「○○○キャッチャー」という商標が付された商品
は、原告の業務に係る商品であると認識されている。
 すなわち、原告は、上記のとおり、昭和43年暮れころからの長期にわたって空
気調和機の室外機用据付台に使用商標「クーラーキヤッチャー」を使用し続けてい
る。そして、姉妹品として、衛星生放送用のパラボラアンテナ用据付具である「パ
ラボラキヤッチャー」、ソーラーパネルや太陽電池パネル等の据付具である「ソー
ラーキヤッチャー」、パッケージエアコン用の据付具である「PCキヤッチャー」
を送り出している。このように、原告の商品ラインアップの商品名は、基本的に
「○○○キヤッチャー」と命名され、「キヤッチャー」の語には、原告の長期間に
わたる使用による出所識別力が備わっており、需要者は、「キヤッチャー」の語が
付された空気調和機の室外機用据付台等の商品に接することによって、原告の製品
であると認識する。これは、甲第88ないし第91号証の新聞記事からも推認する
ことができる。
 原告は、かかる状況下で、空気調和機の室外機用据付台には、使用商標「クーラ
ーキヤッチャー」を使用している。
 これに対して、被告が、原告の使用商標の使用商品と同一の商品である指定商品
「ルームエアコンディショナ室外機用金属製据付架台」に、本件商標「エアコンキ
ャッチャー」を使用したために、原告の著名な使用商標と混同する事例が生じてい
る。
 すなわち、甲104号証は、昭和61年9月に原告である日晴金属株式会社に入
社し、平成7年4月に製造と販売とが分離されたことに伴って、原告の製造した空
気調和機の据付台の販売を担当する株式会社キヤッチャーに在職した者の陳述書で
あるが、これによると、被告の製造販売に係る据付機について、販売会社や据付業
者からの多数の問い合わせが長期間にわたって頻繁にあったとされている。この事
実は、株式会社キヤッチャーが販売した原告の製品「クーラーキヤッチャー」が需
要者である販売会社や据付業者にとって周知、著名であるために発生した混同であ
るといえる。また、株式会社キヤッチャーへの誤返品の事実も、同様のことを物語
っている。
 また、原告が空気調和機の販売業者等に対して行ったアンケートの結果(甲第1
27ないし第150号証)によると、回答会社24社中の12社(50パーセン
ト)が「エアコンキャッチャー」なる商標が付されたエアコン室外機用据付架台を
見聞きした場合に、「原告の商品であると感じられる」とし、4社(16.7パー
セントが「そのようには感じない」としている。一方、7社は、この点について回
答していないが、うち3社は、「被告のエアコン室外機用据付架台を原告の商品で
あると誤解したことがある」と回答している。このアンケートの結果は、本件商標
と使用商標との間で混同のおそれがあることを意味している。
  (2) 本件商標と使用商標との観念の類似について
    ア 審決は、本件商標と使用商標は造語であるから、観念を比較すること
ができないとしている。
 しかしながら、本件商標と使用商標とが造語であるにしても、「造語」には、需
要者が何らの観念を抽出して比較することができないものと、需要者が何らかの観
念を抽出して比較することができるものとがある。
 本件商標と使用商標とを構成する「クーラー」、「エアコン」、「キャッチャ
ー」の語は、通常の日本人にとっては、日常的に使用される語であり、周知の英単
語であるために、使用商標「クーラーキヤッチャー」は、一般的な需要者であれ
ば、周知の単語である「クーラー」と「キヤッチャー」とを連続的に書してなり、
本件商標は、同様に一般的な需要者であれば周知の単語である「エアコン」と「キ
ャッチャー」とを連続的に書してなるものであるため、需要者は、両商標から観念
を抽出して比較することができる。需要者は、商標が造語であっても、それが知っ
ている単語から構成される場合には、無意識のうちに観念を抽出し、その商標につ
いて何らかの意味付けを行うものである。
 すなわち、一般的な需要者は、使用商標「クーラーキヤッチャー」からは「クー
ラー(又はその部品)を受けるもの」という観念を無意識のうちに抽出することが
でき、本件登録商標「エアコンキャッチャー」からは「エアコン(又はその部品)
を受けるもの」との観念を無意識のうちに抽出することができる。そして、この観
念を比較するものである。なお、被告は、「キャッチャー」は、「捕らえる人」、
「野球の捕手」、「捕獲するためのもの」の意味を有するものと主張しているが、
「catcher」には「捕らえる器具」という意味合いもある(甲第111号証
参照)。また、「catcher」のもととなった英単語の動詞「catch」に
は、「(留金などを)留める、締める」という意味を有している。したがって、広
く知られている英単語「catcher」及び「キャッチャー」には、「なにかを
受けるもの」という概念が生じるものである。
 このように、本件商標「エアコンキャッチャー」からは、「エアコン(又はその
部品)を受けるもの」という概念が、使用商標「クーラーキヤッチャー」からは、
「クーラー(又はその部品)を受けるもの」という概念がそれぞれ抽出される。
 したがって、使用商標と本件商標とは、共に造語であるから観念を比較すること
ができないとした審決の判断は違法であり、この点をもってしても審決は取り消さ
れるべきものである。造語であるから観念を抽出して比較することができないとい
うことは、需要者にとって未知の外国語の単語を連ねた商標の場合や、いずれの言
語にあっても何らの観念を持たない、いわゆる純粋な造語商標に限られるのであっ
て、使用商標と本件商標は、格別の意味のない文字の結合からなる商標ではないの
で、観念の比較をすることができないとした審決の判断は誤りである。
 なお、被告が主張するように、「クーラー」と「キャッチャー」とが互いに何の
関係もない単語同士を結合したにすぎない造語商標であるとした場合でも、使用商
標は、上記(1)のとおり、原告が長期間にわたって繰り返して使用し、宣伝広告
されたことによって、新しい「単一の観念」が需要者の間に形成されているという
ことができる。
    イ これら両商標から抽出し得る観念のうち、「クーラー」と「エアコ
ン」の違いについてみると、「クーラー」には「冷却機」の意義があり、他方、
「エアコン」はエアーコンディショナの略称として、「空気調和機」の意義があ
る。
 しかしながら、「パーソナル版小学館ランダムハウス英和辞典」(甲第2号証)
には、「cooler」の語の意義について、「空気調和装置、冷房装置、クーラ
ー(air conditioner)」と記載されるように、「クーラー」と
「エアコン」とは、概念が実質的には同一のものとして認識されている。特に、現
在では、冷房の機能のみを有する「クーラー」はほとんど販売されず、冷暖房機能
を有する「エアコン」が販売されているが、需要者は、「エアコン」のことを「ク
ーラー」と称することが多いのが実情である。
    ウ 被告は、「クーラー」は冷却器を意味し、「エアーコンディショ
ナ」、「空気調和機」の略称である「エアコン」とは同一の概念の語ではなく、ま
た、電機製品、家電製品の取付工事等を行う専門業者間において、「クーラー」と
は「冷却器」または「保冷機」を示す語として使用されていると主張し、その根拠
として、JIS工業用語大辞典の記載を引用している。
 しかしながら、上記の専門業者であっても、常に必ずJIS規格で定められた用
語を使用するものではないことは周知の事実である。したがって、JIS規格に規
定されているからといって、「エアコン」と「クーラー」は、商品「空気調和機の
室外機用据付台」が取り扱われる業界において、全く別の商品を指し示すものであ
るとはいえない。
 また、確かに、「クーラー」の概念と「エアコン」の概念とは同一ではないこと
は認める。しかしながら、両概念は類似する概念である。このことは、「空気調和
機(器)」には、冷暖房を行う空気調和器と、パッケージ型冷房器と、ユニット形
(ユニットヒーター、ユニットクーラー)とがあるとされている点(甲第110号
証参照)からも明白である。すなわち、「空気調和機」の語義には、冷房機である
「クーラー」が含まれているのである。
    エ 以上によれば、本件商標「エアコンキャッチャー」と使用商標「クー
ラーキヤッチャー」とは、観念において類似していると認められるべきである。
  (3) 結論
 以上のとおり、本件商標の出願時において、原告に係る「空気調和機の室外機据
付台」の商品を示す商標として需要者の間に広く認識された使用商標「クーラーキ
ヤッチャー」があり、この使用商標と同一の商品を指定商品とする本件商標「エア
コンキャッチャー」は、使用商標と類似の観念が生じ、出所の混同を生じるおそれ
がある類似の商標であることは明らかであるので、本件商標は、商標法4条1項1
0号の規定に反して登録されたものであることは明白であり、この登録を有効とし
た審決は取り消されるべきである。
 2 取消事由2(商標法4条1項11号の判断の誤り)
  (1) 審決は、本件商標「エアコンキャッチャー」と引用商標「クーラーキ
ヤッチャー」とは、非類似の商標であると判断しているが、上記1のとおり、その
判断は誤りであるというべきであるが、そのほか、審決は、商標法4条1項11号
の判断において、本件商標と引用商標のそれぞれの指定商品について、類似しない
と判断している。
 しかしながら、引用商標の指定商品は、旧分類の第7類「金属製たな板、建造物
組立てセット、その他本類に属する商品」であり、「その他本類に属する商品」に
は、「建築または構築専用材料、セメント、木材、石材、ガラス」が含まれる。し
かも、「空気調和機の室外機用据付台」は、引用商標の出願当時では、まったく新
規な商品であったため、旧分類には具体的に列挙されていないものであった。そし
て、「空気調和機の室外機用据付台」は、室外機を乗せる点から「たな板」と、組
み立てて使用するという点から「建造物組立セット」とそれぞれ同一のものである
というべきであるから、旧分類の第7類に含まれるべき商品である。
 したがって、本件商標の指定商品である「ルームエアコンディショナ室外機用金
属製据付架台」は、現行の商品分類の第11類、すなわち旧第7類に含まれるべき
商品であり、原告の登録商標である引用商標の指定商品である「金属製たな板、建
造物組立てセット、その他本類に属する商品」に含まれるものである。
  (2) 「空気調和機の室外機用据付台」が、旧分類の第7類に含まれると解
すべきことは、次の原告の引用商標の更新登録の経過からも明らかである。
    ア 原告の登録商標である引用商標は、昭和63年12月9日に商標権存
続期間更新登録出願を行っている(甲第107号証)。
 この更新登録出願に添付した登録商標の使用説明書では商標の使用の事実を示す
書類として写真を提出しているが、この写真には、「空気調和機の室外機用据付
台」の包装容器及び据付台が写っている。
 このような商標権存続期間更新登録出願に対して、更新登録査定(甲第108号
証)が行われた結果、引用商標は、現在も有効に存続しているのである。
 かかる事実からすると、空気調和機の室外機用据付台は、引用商標の指定商品で
ある旧第7類の「金属製たな板、建造物組立てセット、その他本類に属する商品」
のうち、室外機を載せるという点から「たな板」と、組み立てて使用するという点
から「建造物組立てセット」とそれぞれ同一であり、旧第7類に属する商品である
と判断されたと考えられる。
    イ 被告は、引用商標の更新登録においては、単に「吊金具」について使
用されていることが認められるにすぎない旨主張している。
 しかし、原告の使用説明書の商標の使用に係る商品名に「吊金具」とあったとし
ても、これは、「空気調和機の室外機を据え付けるための据付台」という室外機を
吊るすための金属製の据付台という「吊金具」を指し示すものであり、被告の主張
が誤りであることは明白である。
  (3) 「空気調和機の室外機用据付台」は、この種の商品のメーカーである
原告、被告のみならず、その需要者である電気工事設備業者においては、独立して
商取引の対象になるものであるから、流通の最終段階において独立して商取引に供
せられるものであるか、付属品として商取引に供せられるかという点は、商品の類
否の判断の上で重大なポイントではない。それにもかかわらず、審決は、流通の最
終段階における商取引の実情をもって、両商標の指定商品が非類似であるとしてい
る点も誤りである。 
  (4) 結論
 以上のとおり、本件商標の指定商品は、引用商標の指定商品中に含まれないもの
として、本件商標を商標法4条1項11号に該当するものとすることはできないと
した点についても審決の判断は誤りであり、取り消されるべきである。
第4 被告の反論の要点
 1 取消事由1(商標法4条1項10号の判断の誤り)に対して
  (1) 原告は、審決が、使用商標「クーラーキャッチャー」は原告の業務に
係る商品「空気調和機の室外機用据付台」を表示するものとして需要者間に広く知
られている点を認めていると主張しているが、審決は、そのように判断したのでは
なく、仮に使用商標が広く認識されていたとしても、本件商標と使用商標は、観
念、外観、称呼のいずれも非類似であると判断したにすぎない。
 また、原告は、昭和43年暮れに日本で初めて空気調和機の室外機の据付台に
「クーラーキヤッチャー」の商標を付して販売を開始した旨主張し、昭和44年度
に配布したカタログであるとして甲第7号証を提出している。また、原告は、昭和
43年当時、据付台という製品はまったく存在しないまったく新規な製品であった
と主張している。
 しかし、甲第7号証のカタログには年度に関する記載はなく、何年度のものか不
明である。同様に、昭和45年度とする甲第8号証のカタログも何年度のものか不
明である。まして、原告は、会社設立は昭和46年10月1日であると主張してい
るのであり、甲第7号証のカタログには、原告の会社名「日晴金属株式会社」が明
記されているのであるから、甲第7号証のカタログは昭和46年度以降のものと考
えざるを得ない。
 つまり、原告が据付台について使用商標「クーラーキヤッチャー」を使用し始め
たのは、わずかに甲第9号証のカタログの記載から昭和51年度に使用していたこ
とを理解することができるにすぎないのである。
 他方、被告側では、昭和43年ごろには、空気調和機の室外機用据付台を製造販
売していたのであり、当時、据付台という製品はまったく存在しない新規な製品で
あったとの原告の上記主張も誤りである。室内機と室外機に分離した、いわゆるセ
パレートタイプのルームエアコンディショナが初めて販売されたのは昭和43年で
あり、その後初めて室外機据付台が必要となったのであって、被告は、この室外機
用据付台が市場に流通し始めた当初からその商品を販売してきたのである。すなわ
ち、「阪商家電営業部」(三菱電機株式会社大阪商品営業所家電営業部)から「東
商家電営業部」(三菱電機株式会社東京商品営業所家電営業部)に差し出された
「ルームエアコンセパレートタイプ用凝縮器据付台業者紹介」と題する昭和46年
4月24日付け書面(乙第1号証)によれば、「阪商に於いて、据付の簡素化を計
り且つ仕上がりのきれいな据付台として、3年間使用して来ている凝縮器据付台業
者を茲に紹介致します。」と記述して「I.S.C商事」を紹介している。この
「I.S.C商事」とは「有限会社アイ・エス・シー商事」のことであり、「有限
会社アイ・エス・シー商事」の営業は「株式会社アイ・エス・シー商事」に移転さ
れ、この「株式会社アイ・エス・シー商事」の商号が、被告の現在の商号である
「アイ・エス・シー工業株式会社」に変更されて今日に至っているのである。した
がって、原告が主張するように、原告がこの種商品のパイオニア的メーカーである
かは明らかでないというほかない。
 また、被告側である「有限会社アイ.エス.シー商事」は、証拠として提出する
ことができるカタログをみても、原告が据付台について使用商標「クーラーキヤッ
チャー」を使用し始めたことを確認し得る昭和51年当時、既に本件商標「エアコ
ンキャッチャー」を使用していたことが明らかである(乙第2号証)。乙第2号証
のカタログが昭和49年度のものであることは、三菱電機株式会社の昭和49年度
のカタログ(乙第3号証)に記載の機種記号と、乙第2号証のカタログに記載の適
用機種の記号とが一致している(例えば、MS(D).18.22(G・GⅡ)等)ことから、明
らかである(なお、乙第3号証の三菱電機株式会社のカタログが昭和49年度のも
のであることは、同カタログに記載の「お届け予定時期」の欄に昭和50年3月或
いは4月である旨の表示がみられることから判明される)。被告は、それ以降も商
品カタログに本件商標を使用しているところ、商品カタログについては、全て頒布
し終わるたびに旧デザインのサンプルを残すことなく新たなデザインのカタログを
印刷することが多かったので、被告が過去に使用していたカタログを全て提出する
ことはできないが、現存するものとして、乙第2号証、第8、第9号証、第12、
第13号証を提出する。なお、被告が本件商標を現在に至るまで使用していること
を示す取引関係書類等を提出する(乙第27ないし第34号証)。
 このように、被告側では、本件商標「エアコンキャッチャー」を、原告の使用商
標「クーラーキヤッチャー」よりも先に使用していた可能性もあり、その後も今日
まで使用を続けている。
 なお、原告が提出する甲第6号証の1の市場占有率推移を示すグラフは、昭和4
4年の原告の発売開始時に、原告以外の据付台は存在していないごとく作成されて
いるが、既に「I.S.C商事」の据付台は存在していた。このグラフや甲第6号
証の2の報告書は、作成者が原告であり、その内容を恣意的に作成することができ
るものであって、内容についての客観性は担保されていない。
 以上のとおり、本件商標「エアコンキャッチャー」と使用商標「クーラーキヤッ
チャー」は、いずれの商標が先に使用されたか判然としない状態で、今日まで平穏
に使用されてきているのである。
 そもそも、ルームエアコンディショナセパレートタイプを家電メーカーが製造し
始めてから室外機に据付台が必要となったのである。すなわち、据付台メーカーの
取引先は、ルームエアコンディショナ(とりわけセパレートタイプ)のメーカー
(その販売会社、営業所を含む)である。かかるメーカーは本件商標「エアコンキ
ャッチャー」と使用商標「クーラーキヤッチャー」の相違を識別しており、両商標
がルームエアコンディショナのメーカーの間で混同されることはない。
 また、原告は、被告が原告の使用商標の使用商品と同一の商品である指定商品
「ルームエアコンディショナ室外機用金属製据付架台」に、本件商標「エアコンキ
ャッチャー」を使用したために、原告の著名な使用商標と混同する事例が生じてい
る旨主張している。
 しかし、需要者である電気工事設備業者等が作成した報告書(乙第23ないし第
26号証)の記載内容から明らかなとおり、被告の本件商標「エアコンキャッチャ
ー」を付した商品「空気調和機の室外機用据付台」は、関西においては昭和44年
から、九州においては昭和49年から、関東においては昭和56年から販売されて
おり、報告書を作成した各社は、被告の業務に係る本件商標「エアコンキャッチャ
ー」が付された商品と、原告の業務に係る「クーラーキヤッチャー」が付された商
品とを誤認混同したことはないとしている。なお、被告の商品は、上記各社以外の
多数の会社も取り扱っているが、これまで被告の商品と原告の商品が誤認されたと
いう連絡を受けたことはない。
  (2) 原告は、使用商標「クーラーキヤッチャー」と本件商標「エアコンキ
ャッチャー」とは、観念において類似すると主張している。
    ア しかしながら、「キャッチャー」の語は、「捕まえる人」、「野球の
捕手」、「捕獲するためのもの」等の意味を有するが、「受けるもの」の意味はな
く、業界においてもそのような意味合いを示す語として使用されるものではない。
 したがって、本件商標「エアコンキャッチャー」のうち、「エアコン」から生じ
る意味合いの「空気調和機」と、「キャッチャー」から生じる意味合いの「捕まえ
る人」、「野球の捕手」又は「捕獲するためのもの」を比べてみても、両者は全く
意味観念を異にするものであり、世間一般にも、これらの意味観念を結合しただけ
の単一の観念は存在していない。使用商標「クーラーキヤッチャー」についても、
「冷却器」を意味する「クーラー」と、上記の意味を有する「キャッチャー」とい
う互いに何の関係もない単語同士を結合したにすぎない造語商標であるから、これ
から自然な単一の観念が生じることはあり得ない。
 このように、原告が主張するように「エアコン」、「クーラー」及び「キャッチ
ャー」が我が国において日常的に使用される語であるとしても、本件商標「エアコ
ンキャッチャー」からは「エアコン(又はその部品等)を受けるもの」という観念
は生じ得ず、また、使用商標「クーラーキャッチャー」からは「クーラー(又はそ
の部品等)を受けるもの」という観念が生じることもない。
 以上のとおり、本件商標と使用商標は、それぞれ個別に意味を持つ「エアコ
ン」、「クーラー」、「キャッチャー」の各語を結合した「エアコンキャッチャ
ー」、「クーラーキャッチャー」という構成からなるものであるが、全体として特
定の意味合いを表現したものといえるものではなく、いずれも造語商標であるか
ら、観念が類似することはあり得ない。
    イ また、原告は、甲第2号証の英和辞典の「cooler」の語の欄に
わずかに記載される事実のみをもって「エアコン」と「クーラー」とが一般的には
同一の概念であると考えられていると主張している。
 しかしながら、本件商標の指定商品「ルームエアコンディショナ室外機用金属製
据付架台」の主たる需要者である電気設備工事業者は、室内空気調和機であるエア
コンディショナを「エアコン」と略称こそすれ、「クーラー」と略称することはな
い。電機製品、家電製品の取付工事等を行う専門業者間において、「クーラー」と
は「冷却器」または「保冷機」を指す語として使用されるのである。機械製品に関
して専門的な用語を掲載した「JIS工業用語大辞典第4版」(平成10年7月1
5日財団法人日本規格協会発行)の第2028頁にも、「cooler」は「冷却
器」を指し示す語であると記載されている。
 このように、「エアコン」と「クーラー」は、商品「空気調和機の室外機用据付
台(ルームエアコンディショナ室外機用金属製据付架台)」が取り扱われる業界に
おいて、同一の概念の語でないばかりか、全く別の商品を指し示すものであること
は明らかである。
 ウ なお、裁判所からの求釈明に関して、本件商標と使用商標とに共通す
る「キャッチャー」の語について、出所識別力があることについて、被告は争うも
のではない。被告は、「キャッチャー」の商標につき、本件商標と同じく指定商品
を第11類の「ルームエアコンディショナ室外機用金属製据付架台」として登録第
4249549号の商標登録(平成9年6月19日商標登録出願、平成11年3月
12日設定登録)を受けている(乙第11号証)。
 (3) 以上のとおり、本件商標と使用商標とは、観念において類似しておら
ず、審決が認定するとおり、両商標は、称呼についても、その音構成に顕著な差異
を有するものであるから明瞭に聞き分けることができ、また、両者は、各構成文字
の差異により、外観において区別し得るものである。
 したがって、本件商標と使用商標は、明らかに区別することができる非類似の商
標であり、その商品の出所について誤認を生じさせるおそれはないから、本件商標
が商標法第4条1項10号に該当するものではないとした審決の判断に誤りはな
い。
 2 取消事由2(商標法4条1項11号の判断の誤り)に対して
  (1) 原告は、「空気調和機の室外機用据付台」が引用商標の出願当時(昭
和50年)において、まったく新規な商品であったと主張しているが、被告は少な
くとも昭和43年には、商品「ルームエアコンディショナ室外機用金属製据付架
台」を製造販売していた。確かに、旧分類において、商品「空気調和機の室外機用
据付台」は具体的に列挙されていなかったが、「空気調和機の室外機用据付台」は
引用商標の出願当時である昭和50年において既に市場に存在しており、新規な商
品ではなかったのである。
  (2) また、原告は、「空気調和機の室外機用据付台」は、室外機を載せる
点から「たな板」ということができ、組立て使用するという点から「建造物組立セ
ット」ということができるので、旧分類の第7類に属する商品である旨主張してい
る。
 しかしながら、商品「空気調和機の室外機用据付台」は、空気調和機を屋外に据
え付ける際にのみ使用されるものであり、その用途は商品「たな板」及び「建造物
組立セット」の用途と全く異なる。
 したがって、本件商標の指定商品が旧第7類に分類される引用商標の指定商品と
類似するという原告の主張は失当であり、この点に関する審決の判断に誤りはな
い。
 付言するに、仮に、原告が商品「空気調和機の室外機用据付台」について引用商
標を使用する目的で引用商標を出願したのであるならば、その商品が旧分類の第7
類に属するものであると独自に判断することなく、商品の表示を具体的に「空気調
和機の室外機用据付台」とすべきであった。そうすれば、引用商標は、旧分類の第
9類について登録されていたはずである。
  (3) 原告は、「空気調和機の室外機用据付台」は、メーカーである原告、
被告のみならず、需要者である電気工事設備業者においては、独立して商取引の対
象になるものであるから、流通の最終段階において独立して商取引の対象になるも
のであるか、附属品として商取引に供せられるかという点は、商品の類否の判断の
上で重大なポイントではないにも関わらず、本件審決は、流通の最終段階における
商取引の実情をもって両商標の商品が非類似であると判断しているので誤りである
旨主張している。
 しかしながら、審決は原告が主張するような判断はしていない。すなわち、審決
は、本件商標の指定商品は、「ルームエアコンディショナ室外機」専用の附属品と
して取り扱われ、一方、引用商標の指定商品中「建造物組立セット」は、特定の使
用目的を有する簡易な組立式建造物の専用部材であって一式のセットとして取引に
供せられるものであるから、両者の指定商品の表示から互いに非類似の商品であ
る、と判断しているのである。
 したがって、この点についての原告の主張は根拠がなく、本件審決の認定に誤り
はない。
  (4) 原告は、引用商標について、更新登録査定を受けたことを根拠の一と
して、引用商標の指定商品と本件商標の指定商品とが類似する商品である旨主張し
ている。
 しかし、引用商標の商標権存続期間更新登録願及び同商標の使用説明書(甲第1
07号証)からは、引用商標が、単に「吊金具」について使用されていることが認
められるにすぎない。商品「吊金具」は、旧分類の第7類に属する商品であるから
引用商標は更新登録されたのであり、原告は、本件商標の指定商品である「ルーム
エアコンディショナ室外機用金属製据付架台」について引用商標が使用されている
ことを証明したのではない。
 したがって、引用商標が更新登録されたことは、本件商標の指定商品と使用商標
の指定商品の類否の判断に一切影響するものではない。
  (5) 以上のとおり、商標法4条1項11号に関する審決の判断について争
う原告の主張はいずれも失当である。
  理    由
1 本件商標の構成及び指定商品等
 本件商標が、審決書の後掲「(1)本件商標」記載のとおりの構成よりなり、
「エアコンキャッチャー」の文字を横書きするものであり、指定商品を商品及び役
務の区分第11類の「ルームエアコンディショナ室外機用金属製据付架台」とする
ものであること、使用商標は「クーラーキヤッチャー」の文字を横書きしてなり、
その構成態様は審決書の後掲「(2)引用商標」記載のように書するものであり、
原告が商品「空気調和機の室外機用据付台」について使用するものであること、ま
た、引用商標が、審決書の後掲「(2)引用商標」記載のとおりの構成よりなり、
使用商標と同じく「クーラーキヤッチャー」の文字を横書きするものであること、
商品「空気調和機の室外機用据付台」の主たる取引者・需要者が電気工事設備業者
であることは、いずれも当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によると、本件商標
の指定商品「ルームエアコンディショナ室外機用金属製据付架台」と使用商標が使
用される商品「空気調和機の室外機用据付台」は、同じ商品を指すものであると認
められる(以下、この商品を「空気調和機の室外機用据付台」という。)。
2 本件商標と使用商標との類似性(原告の取消事由1)について
 (1) 本件商標は、「エアコンキャッチャー」の文字を同じ書体でまとまりよ
く一体的に書してなるものであり、構成文字に相応して「エアコンキャッチャー」
とのみ称呼されるものであり、一方、使用商標は、構成文字に相応して「クーラー
キャッチャー」と一連の称呼が生ずるものであること、本件商標から生ずる「エア
コンキャッチャー」の称呼と使用商標から生じる「クーラーキャッチャー」の称呼
とは、その音構成に顕著な差異を有するものであるから、明瞭に聞き分けられるこ
とが明らかであること、また、両商標の構成文字の差異により両者は外観において
区別し得るものであることは、審決が認定、判断するとおりであり、原告において
もこれを争っていない。
 (2) 原告は、審決が、本件商標「エアコンキャッチャー」及び使用商標「ク
ーラーキヤッチャー」とが、観念において比較することができないと判断したのに
対して、両商標は、観念において類似している旨主張し、両商標が造語であるとし
ても、「クーラー」、「エアコン」「キャッチャー」は、いずれも通常の日本人に
とっては、日常的に使用される語であり、周知の英単語であるから、本件商標「エ
アコンキャッチャー」からは、「エアコン(又はその部品)を受けるもの」という
観念が、使用商標「クーラーキヤッチャー」からは、「クーラー(又はその部品)
を受けるもの」という観念が生じる旨主張し、「クーラー」と「キャッチャー」と
が互いに何の関係もない単語同士を結合したにすぎない造語商標であるとしても、
使用商標は、原告が長期間にわたって繰り返して使用し、宣伝広告されたことによ
って、新しい単一の観念が需要者の間に形成されているということができる旨主張
している。その上で原告は、使用商標を構成する「クーラー」の語は「冷却器」を
意味し、他方、本件商標を構成する「エアコン」の語は、「エアーコンディショ
ナ」の略称として、「空気調和機」を意味するものであるが、需要者は、「エアコ
ン」のことを「クーラー」と称することが多いのが実情であり、また、「空気調和
機」の語義には、冷房機である「クーラー」が含まれているから、両者は類似して
おり、両商標から生ずる上記の観念は類似している旨主張し、このことを根拠とし
て、本件商標と使用商標とは類似の商標である旨主張している。また、空気調和機
の室外機用据付台の現実の取引において、本件商標と使用商標とは混同されている
旨主張している。
 (3) ところで、商標の類否の判断は、両商標の外観、観念、称呼を全体的に
考察すべきであり、かつ、その商品の取引の実情に基づいて判断するのを相当とす
るものである。そこで、使用商標及び本件商標について、両商標が使用されている
「空気調和機の室外機用据付台」の商品分野における使用状況等についてみると、
本件証拠(後記括弧内掲記のもの)及び弁論の全趣旨によると、以下の各事実が認
められる。
   ア 原告は、「日晴金属工業所」を前身として、昭和46年10月7日に株
式会社として設立され、主として空気調和機の室外機を据え付けるための据付台や
パラボラアンテナの据付台等の製造販売を主たる業務とする会社である。なお、平
成7年4月に原告から販売部門が分離され、「株式会社キャッチャー」が設立され
たため、それ以降、原告は、商品の開発、製造を行っている。(甲第104号証、
本件記録中の商業登記簿謄本)。
 被告は、昭和38年12月に設立された「有限会社アイ・エス・シー商事」の営
業の移転を受け、昭和53年5月26日に「株式会社アイ・エス・シー商事」の商
号で設立され、その後、現商号に変更され、空気調和機の室外機用据付台、空調換
気扇用アダプター等の製造販売を主たる業務とする会社である。(乙第9号証、乙
第10号証、本件記録中の商業登記簿謄本)。
   イ 昭和40年代初頭、空気調和機(エアコン)ないしクーラー(冷却機)
は、セパレートタイプとして室内機と室外機とに分けて製造、販売されるようにな
ったものであるが、原告は、昭和43年暮れころ、室外機用の据付台を開発し、こ
の商品に使用商標「クーラーキヤッチャー」を使用して、製造販売を開始した。
 他方、被告も、昭和41年ころに、室外機を現場で簡単に組み立てられる据付機
器を開発して販売を開始し、その後改良を加え、空気調和機の室外機用据付台の商
品として、昭和44年ころから、本件商標「エアコンキャッチャー」を使用して、
製造販売を開始した。(甲第5号証、第6号証の1、第91号証、乙第1ないし第
3号証、第10号証、第23号証、弁論の全趣旨)。なお、原告作成の市場占有率
推移表(甲第6号証の1)では、原告の空気調和機の室外機用据付台の商品の販売
開始時期につき昭和44年と記載され、翌昭和45年から他社が参入し始めたと記
載されている。
   ウ 「空気調和機の室外機用据付台」の商品分野では、本件商標の商標登録
出願時である平成7年10月20日当時、専業メーカーである原告、被告等のほ
か、エアコンメーカーである松下電器産業、日立製作所等を含めて十数社が競合し
ていた(甲第6号証の1、2)。
 原告製造に係る商品「クーラーキヤッチャー」は、その販売当初から本件商標の
出願時である平成7年にかけて、業界トップの50%を超える市場占有率を有して
おり(甲第6号証の1、弁論の全趣旨)、原告作成の市場占有率報告書(甲第6号
証の2)によれば、平成6年における市場占有率は、第1位が原告60.8%、第
2位が松下電器産業8.8%、第3位が被告8.3%となっており、平成7年で
は、第1位が原告65.4パーセント、第2位が被告、松下電器産業各7.3%と
なっている。
   エ 原告は、商品「空気調和機の室外機用据付台」について、発売当初か
ら、使用商標を使用したカタログを発行している(甲第7号証ないし第24号証。
なお、昭和51年度(甲第9号証)以降のものにつき、発行年度の記載があ
る。)。これらのカタログは、空気調和機を設置する電気工事設備業者等に広く頒
布されていた。
 また、原告は、遅くとも平成元年から、使用商標を使用した空気調和機の室外機
用据付台について数多くの広告を業界紙である電波新聞等に掲載しており、また、
電波新聞、空調タイムス等には、原告の業績を中心として原告代表者を紹介した記
事や使用商標及びこれを使用した据付台について紹介した記事も度々登載されてい
る(甲第25ないし第91号証)。これらのうち、電波新聞における業界各社ごと
に動向をまとめた記事において、原告の使用商標に関しては、例えば、「日晴金属
は、ルームエアコン、BSアンテナなどの各種据え付け部品の製造・販売のトッ
プ・メーカーとして君臨している。なかでも需要が拡大しているのが“クーラーキ
ヤッチャー”のネーミングがすっかり定着したルームエアコン部品」(平成4年2
月24日発行、甲第58号証)、「日晴金属は、ルームエアコン、パッケージエア
コンなどの各種据え付け部品の製造・販売のトップ・メーカー。ルーム、パッケー
ジエアコンでは“クーラーキヤッチャー”の愛称で業界に浸透している。」(同月
29日発行、甲第59号証)、「日晴金属は、エアコン、BSアンテナの据付け部
品の製造・販売の大手専門メーカー。“クーラーキヤッチャー”のブランドで親し
まれているのが、エアコンの据付け部品」(平成4年3月28日発行、甲第61号
証、同年5月28日発行、第65号証、同年7月5日発行、第67号証)、「日晴
金属は、エアコン、BSアンテナの据付け部品の製造・販売の大手専門メーカー。
“クーラーキヤッチャー”のブランドで好評を呼んでいるのが、エアコンの据付け
部品」(平成4年4月28日発行、甲第63号証)、「日晴金属は、エアコン、B
Sアンテナの据付け部品の製造・販売の大手専門メーカーである。“クーラーキヤ
ッチャー”のブランドが業界に浸透しているのが、エアコンの据付け部品」(平成
4年6月22日発行、甲第66号証)、「日晴金属は、ルームエアコン、パッケー
ジエアコンなどの各種据え付け部品の製造・販売の大手メーカー。ルームエアコ
ン、パッケージエアコンでは“クーラーキヤッチャー”の愛称で業界に浸透」(平
成4年7月19日発行、甲第68号証)、「日晴金属は、エアコン、BSアンテナ
の据付け部品の製造・販売の大手専門メーカーで二十年以上の歴史をもつ。エアコ
ンの据付け部品(台)は、業界に先駆け機種価格を明記、現在「クーラーキヤッチ
ャー」のブランドで親しまれている。」(平成6年1月13日発行、甲第71号
証)などと記載されていた。
 このようにして、本件商標の商標登録出願日である平成7年10月20日までに
は、原告の使用商標である「クーラーキヤッチャー」は、原告の空気調和機の室外
機用据付台を示すものとして、需要者である電気工事設備業者の間で広く認識さ
れ、浸透されるようになった(上記の他に甲第92号証ないし第101号証)。
   オ 他方、被告においても、商品「空気調和機の室外機用据付台」につい
て、発売の当初から本件商標「エアコンキャッチャー」を使用したカタログを発行
して、原告と同様、空気調和機を設置する電気工事設備業者等に広く頒布しており
(乙第2、第3号証、第7ないし第10号証、第12号証、第23ないし第26号
証、弁論の全趣旨)、原告の取引先である電気工事設備業者でも、被告の製造販売
に係る「エアコンキャッチャー」商標を使用した室外機据付台の商品の存在を知る
ものも比較的多くみられるなど(その記載内容から原告の取引先に宛てて送付され
回答を受けたものと推測することができる原告提出のアンケート調査の結果(甲第
127ないし第150号証)によっても、回答者24社中の8社が上記被告商品を
知っていると回答している。)、被告の本件商標「エアコンキャッチャー」は、空
気調和機の室外機用据付台の商品分野において、原告の商品と競業する被告の商品
を示す商標として、一定の認識を得ていたものと認められる(なお、甲第112な
いし第114号証及び弁論の全趣旨によれば、被告の商品のカタログとして「エア
コンキャッチャー」の商標の表示をしていないものも昭和62年ころまでの一時期
頒布されたことがあることが認められるが、その他の上記の各証拠によれば、それ
は短期間にすぎず、また、その時期においても「エアコンキャッチャー」の商標が
表示されたカタログと併用されて頒布されていたものと推測される。)。
 (4) 以上の認定事実を考慮に入れて、まず、引用商標「クーラーキヤッチャ
ー」及び本件商標「エアコンキャッチャー」の各語から生ずる観念の有無について
検討する。
 原告が主張するとおり、本件商標と使用商標とを構成する「クーラー」、「エア
コン」、「キャッチャー(キヤッチャー)」の語は、我が国の一般的な国民の間に
おいても日常的に使用される語であり、「クーラー」が「冷却機」ないし「冷房装
置」を意味し、「エアコン」が「エアーコンディショナ」の略称であり「空気調和
機」を意味するものであると一般的に認識、理解されていることは顕著な事実であ
る。
 他方、これらの語と結合されている「キャッチャー(キヤッチャー)」の語は、
「捕らえる人」、「野球の捕手」、「捕獲するためのもの」との意味を有し、原告
が主張するとおり、「捕らえる器具」との意味を有するものとしても広く使用され
ていることは顕著な事実である(甲第111号証参照)。
 本件商標及び使用商標は、審決が認定するとおり、これらの語を結合した造語か
らなるものであると認められるのであるが、「クーラー」、「エアコン」、「キャ
ッチャー(キヤッチャー)」の各語は、上記のとおりの意味をもつ用語として、我
が国の一般的な国民の間で日常的に使用される馴染みの深い語であることに加え
て、上記(3)に認定の事実によれば、本件商標の商標登録出願日である平成7年
10月20日までには、原告の使用商標である「クーラーキヤッチャー」は、原告
の空気調和機の室外機用据付台を示すものとして、需要者である電気工事設備業者
の間で広く認識され、浸透しており、また、被告の本件商標「エアコンキャッチャ
ー」も、被告の空気調和機の室外機用据付台を示すものとして、一定の認識を得て
いたものと認められるのであり、また、「キャッチャー」の語は、産業機械器具や
電気機械器具等の商品分野において、他の標章と結合して、「○○キャッチャー」
として商標として使用されることが比較的多いことが認められる(乙第14号
証)。
 以上の事情を総合して考慮すれば、本件商標「エアコンキャッチャー」及び使用
商標「クーラーキヤッチャー」が、商品「空気調和機の室外機用据付台」に使用さ
れた場合、需要者である電気工事設備業者は、両商標についてそれぞれ、「エアコ
ン(室外機)を捕らえ置く(据え付ける)器具」、「クーラー(室外機)を捕らえ
置く(据え付ける)器具」を表しているものであると認識し、理解することも少な
くないと推測することが十分に可能であり、この点で、審決が両商標について、共
に造語よりなるものと認識されるものであるから、観念においては比較することが
できないと判断した点には疑問があり、その限りでは誤りがあるものといわざるを
得ない。
 しかしながら、審決は、他方では、本件商標から生ずる「エアコンキャッチャ
ー」の称呼と使用商標から生じる「クーラーキャッチャー」の称呼とは、その音構
成に顕著な差異を有するものであるから、明瞭に聞き分けられることが明らかであ
り、さらに、両商標の構成文字の差異により両者は外観において区別し得るもので
あることを重視して、両商標の類似性を否定したものであることは、その理由の記
載上明らかである。そして、前判示のとおり、商標の類否の判断は、両商標の外
観、観念、称呼を全体的に考察すべきであり、かつ、その商品の取引の実情に基づ
いて判断するのを相当とするものであるから、審決の上記の判断の誤りが、審決の
結論に直ちに影響を及ぼすものと即断することはできない。
 そこで、以下、上記の観点を踏まえて本件商標と使用商標との類似性の有無を検
討する。
 (5) 本件商標と使用商標との観念、称呼、外観の類否等について
    ア 観念の類似性の有無、程度について
 上記(4)のとおり、本件商標と使用商標からは、それぞれ、「エアコン(室外
機)を捕らえ置く(据え付ける)器具」、「クーラー(室外機)を捕らえ置く(据
え付ける)器具」といった観念が生じ得るものと認められる。
 そこで、両者の観念の類似性の有無、程度についてみると、本件商標の構成中の
「エアコン」の語と、使用商標の構成中の「クーラー」の語は、原告が主張すると
おり「パーソナル版小学館ランダムハウス英和辞典」(甲第2号証)に、「coo
ler」の語の意義について、「空気調和装置、冷房装置、クーラー(air c
onditioner)」と記載されるように、「エアコン」と同じ装置を指すも
のとして用いられることがあり、また、両者が室内の温度を調整する機能を果たす
点で共通する装置を意味する点では近似性があるということができる。
 しかしながら、他方、上記(4)のとおり、「クーラー」は「冷却器」ないし
「冷房装置」を、「エアコン」は「エアーコンディショナ」ないし「空気調和機」
を意味し、両者は異なる装置を表すものと一般的には認識、理解されることが多
く、また、弁論の全趣旨及び公知の事実によれば、旧来は、冷房のみの機能を有す
る「クーラー」が製造販売されていたが、近年ではそのように冷房の機能のみを有
する「クーラー」はほとんど販売されず、本件商標の商標登録出願時である平成7
年10月の時点においては、冷暖房機能を有する「エアコン」が主に販売され、上
記(3)エに記載の電気新聞の記事内容にもみられるように、「エアコン」の語が
常用されて見聞される機会が多いのに比べて、「クーラー」の語は、あまり使用さ
れていないことが認められるのであり、「クーラー」の語は、その意味では懐古的
な意味合いを備えているともみることができるのであって、両者の観念の相違性は
決して小さいものでなく、類似性が顕著であるということはできない。
 また、本件商標と使用商標の各構成文字において、「キャッチャー(キヤッチャ
ー)」の文字部分が共通しているが、「エアコン」ないし「クーラー」の文字部分
と一連のものとして結合した場合に、該「キャッチャー(キヤッチャー)」の語か
ら生じ得る観念は、上記のとおり、「捕らえ置く(据え付ける)器具」といったも
のであり、これは、需要者である電気工事設備業者に対して、本件商標及び使用商
標が使用される商品である「据付台」を容易に想起させ得るものであることが明ら
かであること、また、上記(4)のとおり、「キャッチャー」の語は、産業機械器
具や電気機械器具等の商品分野において、他の標章と結合して、「○○キャッチャ
ー」として商標として使用されることが比較的多いものであることからすると、該
「キャッチャー(キヤッチャー)」の語から生ずる観念における自他商品識別力
は、本来的に弱いものであるといわざるを得ない。したがって、この観念が共通す
ることは、両商標の類似性を基礎づける要素としては弱いということができる。
イ 称呼、外観の相違性について
 前記2の(1)のとおり、本件商標は、「エアコンキャッチャー」の文字を同じ
書体でまとまりよく一体的に書してなるものであり、構成文字に相応して「エアコ
ンキャッチャー」とのみ称呼されるものであり、一方、使用商標は、構成文字に相
応して「クーラーキャッチャー」と一連の称呼が生ずるものであって、本件商標か
ら生ずる「エアコンキャッチャー」の称呼と使用商標から生じる「クーラーキャッ
チャー」の称呼とは、その音構成に顕著な差異を有するものであるから、明瞭に聞
き分けられることが明らかであり、また、両商標の構成文字の差異により両者は外
観において明確に区別し得るものと認められる。
ウ 商品取引の実情について
 本件商標と使用商標が使用される「空気調和機の室外機用据付台」の商品の分野
における取引の状況についてみると、上記(4)に認定したように、空気調和機の
室外機用据付台の製造販売業者である原告及び被告は、それぞれその商品の販売に
おいて、主たる需要者である空気調和機を設置する電気工事設備業者に、その商品
を掲載したカタログを広く頒布していることが認められるところ、該カタログに
は、空気調和機の室外機用据付台の各種の型式名等が記載されており(原告のカタ
ログにつき、甲第7号証ないし第24号証、被告のカタログにつき、乙第2号証、
第8号証、第12号証、第32号証)、電気工事設備業者は、これらのカタログ等
によって特定される商品型式名等によって、設置する空気調和機に適合する据付台
を発注することが多く、例えば、日常生活用品における一般的な需要者のように、
店舗において展示される商品を見て、記憶にある商標から生ずる観念に基づいて自
他商品を識別して、商品購入の有無を決定し、口頭のみで売買するといった取引を
することは少ないものと推認することができ、電気工事設備業者は、空気調和機の
室外機用据付台の購入決定及び発注の際には、その出所に関して相応の注意力をも
ってこれに当たるものと認められる。
 (6) 総合評価
    ア 本件商標と使用商標の類似性の有無について、上記(5)に判示し
た、両商標が使用される「空気調和機の室外機用据付台」の商品分野における取引
の実情を考慮して、両者の観念、称呼、外観を総合して判断すると、需要者である
電気工事設備業者は、本件商標と使用商標について、その称呼、外観が明らかに相
違しているため、両者を明確に区別することができ、両商標から生ずる観念におい
ても、類似する要素はあるものの両者を識別し得る相違点があるため、両者を区別
することが可能であり、かつ、商品取引に当たり、その商品の出所に関して相応の
注意を払うものと認められるから、本件商標をその指定商品である「ルームエアコ
ンディショナ室外機用金属製据付架台」に使用した場合であっても、これと使用商
標とを誤認するおそれはないものとみるのが相当であり、商品の出所について誤認
混同するおそれがあることを肯定することはできない。
 上記(3)で認定したとおり、原告は、昭和43年暮れころ、商品「空気調和機
の室外機用据付台」に使用商標「クーラーキヤッチャー」を使用して、製造販売を
開始し、他方、被告も、昭和44年ころから、商品「空気調和機の室外機用据付
台」に本件商標「エアコンキャッチャー」を使用して、製造販売を開始し、本件商
標の出願時である平成7年10月当時まで、それぞれの商品の製造、販売が継続さ
れており、原告の使用商標である「クーラーキヤッチャー」は、原告の空気調和機
の室外機用据付台を示すものとして、需要者である電気工事設備業者の間で広く認
識され、浸透されるに至っており、被告の本件商標「エアコンキャッチャー」も、
被告の空気調和機の室外機用据付台を示すものとして、一定の認識を得ていたもの
と認められるのであって、弁論の全趣旨によれば、この四半世紀に及ぶ長期間にわ
たり、原告と被告との間において、それぞれが使用する商標について異議等が出さ
れるなど特段の問題も生じることなく、それぞれの需要者との間で、平穏に取引が
されていたことが認められるのである。
 これらの事実は、本件商標と使用商標のそれぞれの使用に対して、「空気調和機
の室外機用据付台」の商品の分野における需要者である電気工事設備業者が、前判
示の両者の称呼、外観及び観念の相違点に着目して両商品の識別をしており、両商
標が付された各商品の出所の誤認、混同を現にしていないことを裏付けるものであ
ると評価することができる。
 以上によれば、本件商標と使用商標との間の称呼、外観の相違点を重視して、本
件商標について使用商標との間の類似性を否定した審決の判断に誤りはないと認め
られるのであって、審決を取り消すべき違法性を肯定することはできない。
    イ 原告は、業界において、商標「キャッチャー」は、原告の商品のライ
ンアップを示す商標となっており、「○○○キャッチャー」という商標が付された
商品は、原告の業務に係る商品であると認識されている旨主張している。
 原告が提出した業界紙の記事中には、「キャッチャー」の語に関して、原告のブ
ランド名であると記載しているものも見受けられるが(甲第69号証、第86号
証、第88号証、第90、第91号証)、前記(3)エに認定したとおり、原告が
製造、販売する商品「空気調和機の室外機用据付台」については、「クーラーキヤ
ッチャー」という一連の造語からなるブランド名として業界に浸透していたことが
認められるのであって、これと異なり、「キャッチャー」の語が独立して、原告の
一連の商品群を示すブランド名として周知著名性を獲得していたものと認めるに足
りる証拠はなく、原告の上記主張は採用することができない。
 また、原告は、「空気調和機の室外機用据付台」商品の現実の取引において、本
件商標と使用商標とは混同されている旨主張し、原告が実施したアンケート調査の
結果(甲第127ないし第150号証)を提出している。
 しかしながら、このアンケートは、その記載内容から原告がその取引先に宛てて
送付して回答を受けたものと認められるものであり、原告と利害関係がある会社の
回答であること、原告が送付した会社の総数、回収率が不明であることから、一般
的にみても、その評価に重きを置くことは困難であると認められる。また、その具
体的な内容をみると、アンケートにおける質問事項は、「2.アイ・エス・シー工
業株式会社のエアコン室外機据付架台である「エアコンキャッチャー」をご存知で
すか?」、「3.2において知っていると答えた方にお尋ねします。アイ・エス・
シー工業株式会社のエアコン室外機据付架台「エアコンキャッチャー」が、当社の
商品であると誤解されたことがありますか。」、「4.2において知らないと答え
た方にお尋ねします。「エアコンキャッチャー」という商標が付されたエアコン室
外機据付架台を見聞きした場合、当社の商品であると感じられますか?」というも
のであり、これに対する回答をみると(なお、3問と4問とは、選択的な質問であ
るにもかかわらず、両問に回答した者もおり、その回答内容の正確性に関して疑問
があるが、この点は措いて各回答内容をみると)、2問の回答として、被告の商品
を知ると答えた者が8社、知らないと答えた者が16社あり、3問の回答として、
誤解したことがあるとした回答が3社、誤解したことがないとした回答が8社あ
り、4問の回答として、原告の商品であると感じるとした回答が12社、感じない
とした回答が4社ある、というものである。しかしながら、この質問事項をみる
と、3の質問は、誤解したことのある時点を特定することなく包括的に質問したも
のであるから、本件商標の出願当時における取引状況を裏付けるものとはいえない
し、誤解したことが直ちに商品の選択の誤りに結びついたものであるのか、あるい
はいったんは誤解したが発注に至る取引経過において払った通常の注意によって誤
解に気付いたものであるかといった点が判然としていない。また、4問の質問につ
いては、「エアコンキャッチャー」という商標について、原告の商品と感じるか否
かという回答者の感想を問うものであって、現実に誤認して発注に至るおそれがあ
るものであるか否かを問うものではなく、いずれの質問も、上記(5)ウの取引の
実情を考慮したものとはいい難い。以上によれば、原告のアンケートの結果は、原
告の上記主張を裏付けるものであるとは評価することができない。
 また、原告は、原告及び原告の関連会社である株式会社キヤッチャーの従業員作
成の報告書(甲第104号証)を提出し、被告の空気調和機の室外機用据付台につ
いて販売会社や据付業者からの多数の問い合わせが長期間にわたって頻繁にあり、
また、原告への返品の中に被告の商品が誤って混在していたことがある旨主張して
いるが、甲第104号証の陳述内容をみると、それらの事態が生じたとする時期や
回数及び具体的態様等が必ずしも明確でなく、また、それらの事実を裏付けるに足
りる的確な証拠はないこと、及び上記アのとおり、四半世紀に及ぶ長期間にわたっ
て、原告と被告との間で、それぞれが使用する商標について異議等が出されるなど
特段の問題も生ずることなく平穏に取引がされてきたことに照らして、上記の証拠
をもって誤認混同のおそれについての前記判断を左右するものということはできな
い。
 他に、本件商標と使用商標との類似性や、本件商標をその指定商品に使用した場
合に、原告の出所に係る商品であるかのように混同を生じさせるおそれがあること
を肯定するに足りる証拠はない。
 (7) 小括
 以上のとおり、本件商標と使用商標とは明らかに区別することができる差異を有
する非類似の商標であって、本件商標をその指定商品に使用しても、出所の混同を
生じさせるおそれはないから、商標法4条1項10号に該当しないとした審決の判
断に誤りはなく、原告の審決の取消事由1の主張は理由がない。
3 本件商標と引用商標の類似性(原告の取消事由2)について
 (1) 上記2に判示したとおり、本件商標は、使用商標と類似するものとは認
められないから、使用商標と構成を同じくする引用商標と類似しているものという
ことはできない。
 したがって、本件商標の指定商品である第11類の「ルームエアコンディショナ
室外機用金属製据付架台」と、引用商標の指定商品である旧分類の第7類の「金属
製たな板、建造物組立てセット、その他本類に属する商品」との間における商品の
類似性の有無を検討するまでもなく、本件商標が商標法4条1項11号に該当しな
いことは、明らかである。
 (2) 以上によれば、本件商標について同条項に該当しないとした審決の判断
は正当であって、これが誤りであり違法であるとする原告の審決の取消事由2の主
張も、採用することができない。
4 結論
 以上の次第で、原告主張の審決の取消事由はすべて理由がなく、その他審決には
これを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
 よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり
判決する。
東京高等裁判所第18民事部
    裁判長裁判官 永  井  紀  昭
    裁判官 古  城  春  実
    裁判官 橋  本  英  史

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