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裁判例


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             主         文
1 被告知事が,被告破産者株式会社Y1破産管財人B及び被告破産者Y2破産
管財人Bに対し,金7846万6500円の支払を求める請求を怠る事実が違法で
あることを確認する。
 2 被告破産者株式会社Y1破産管財人B及び被告破産者Y2破産管財人Bは,
県に対し,各自金7846万6500円及びこれに対する平成12年2月2日から
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 
 3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
 4 訴訟費用中,原告に生じた費用の2分の1と被告破産者株式会社Y1破産管
財人B,被告破産者Y2破産管財人B及び被告知事に生じた費用はいずれもこれを
3分し,その1を原告の負担とし,その余を上記被告3名の負担とし,原告に生じ
た費用の2分の1と被告Y3,被告Y4及び被告Y5に生じた費用を原告の負担と
する。
事 実及 び理 由
第1 請求
 1 被告知事(以下「被告知事」という。)が,被告Y3(以下「被告Y3」と
いう。),被告Y4(以下「被告Y4」という。),被告Y5(以下「被告Y5」
という。),被告破産者株式会社Y1破産管財人B(以下「被告Y1破産管財人」
という。)及び被告破産者Y2破産管財人B(以下「被告Y2破産管財人」とい
う。)に対し,金1億1078万9000円の支払を求める請求を怠る事実が違法
であることを確認する。
 2 被告Y3,被告Y4,被告Y5,被告Y1破産管財人及び被告Y2破産管財
人は,県に対し,各自金1億1078万9000円並びにこれに対する被告Y3,
被告Y4,被告Y2破産管財人及び被告Y1破産管財人については平成12年2月
2日から,被告Y5については同月8日から支払済みまで年5分の割合による金員
を支払え。
第2 事案の概要
 本件は,徳島県(以下「県」という。)の住民である原告が,県の実施した公共
工事の指名競争入札について,Y2(以下「Y2」という。)の経営する指名業者
の株式会社Y1(以下「Y1」という。)が他の指名業者と談合して不当に高額な
価格で落札したものであり,県は,上記談合により損害・損失を被ったから,被告
Y1破産管財人,被告Y2破産管財人,県知事であった被告Y3並びに県職員であ
った被告Y4及び被告Y5に対して不法行為に基づく損害賠償請求権又は不当利得
返還請求権を有しているにもかかわらず,被告知事は,その行使を違法に怠ってい
るとして,地方自治法242条の2第1項(平成14年法律第4号による改正前の
もの。以下同じ。)3号に基づき,被告知事に対し,その怠る事実の違法確認を求
めるとともに,同項4号に基づき,県に代位して,怠る事実の相手方である前記被
告5名に対し,損害賠償又は不当利得返還を求める事案である。
1 前提事実(当事者に争いのない事実及び証拠により容易に認められる事実)
(1) 当事者
  ア 原告は県の住民である。
  イ被告Y3は,平成5年10月5日から平成14年3月15日まで県知事の職
にあったものである。
  ウ 被告Y4は,平成7年11月1日から平成10年10月31日まで県土木部
長の職にあったものであり,被告Y5は,平成9年4月1日から平成11年3月3
1日まで県農林水産部長の職にあったものである(以下,被告Y4と被告Y5を併
せて「被告職員」という。)(乙ロ3)。
  エ Y1は,建設・土木工事の請負等を業とする株式会社であり,県の実施する
公共工事の指名競争入札に参加していたものである。
    Y2は,長年にわたって県議会議員の職にあり,かつ,Y1の株式(登記
簿上の発行済株式総数5万株)を,妻とともに2万株づつ保有していたものであ
る。
    Y1は,平成14年1月15日に,Y2は,同年3月29日に,徳島地方
裁判所n支部において,それぞれ破産宣告を受け,その破産管財人として,いずれも
弁護士Bが選任された。
  (2)請負契約
 Y1は,県が平成10年度にn・o地区において実施した別紙公共工事目録記載1
ないし8の工事(以下「本件工事」という。)に係る指名競争入札(以下「本件入
札」という。)において,本件工事を落札し,県との間で本件工事の請負契約を締
結した。そして,Y1は,本件工事を施工し,県から本件工事代金(別紙代金及び
損害一覧表記載の代金額)の支払を受けた(甲17ないし24)。
 (3) 住民監査請求
  原告は,平成11年10月25日,県監査委員に対し,本件工事は,Y1が
他の指名業者と談合した結果,落札したものであるから,Y1等に対して上記談合
によって県の被った損害の賠償請求をなすよう求める旨の住民監査請求をしたが,
同委員は,同年12月22日,これを棄却した(甲1及び2)。
 2 争点
 本件の争点は,①被告職員の被告適格,②談合の有無,③Y1及びY2の責任,
④被告Y3及び被告職員の責任並びに⑤損害額である。
 (1) 争点①(被告職員の被告適格)
(被告職員の主張)
 本件工事のうち,土木部担当の工事(別紙公共工事目録1ないし3記載の工事)
は,被告Y4が県土木部長を退任した後になされたものであり,しかも,同工事に
係る入札の執行及び請負契約締結は,県事務委任規則(昭和42年3月28日県規
則第16号。以下「事務委任規則」という。)により,n土木事務所長に委任されて
おり,県土木部長であった被告Y4の権限外の事務であった。
 また,本件工事のうち,農林水産部担当の工事(別紙公共工事目録4ないし8記
載の工事)に係る入札の執行及び請負契約締結についても,事務委任規則により,n
農林事務所長に委任され,又は県事務決裁規程(昭和42年3月28日県訓令第1
60号。以下「事務決裁規程」という。)により,森林整備課長に専決権限が与え
られており,農林水産部長であった被告Y5の権限外の事務であった。
 したがって,被告職員は,本件工事に係る入札の執行,契約の締結の事務に関与
していないことになるから,本件入札における談合を理由とした不法行為による損
害賠償請求の相手方にはなりえず,被告適格を有しない。
(2) 争点②(談合の有無)
 (原告の主張)
本件入札に際し,Y1が中心となって入札に参加した全ての指名業者の間で,本件
工事を予定価格直下でY1に落札させるという談合がなされ,Y1は,かかる談合
によって本件工事を落札した。
(被告らの主張)
 Y1は,他の指名業者との間で,談合をしたことはない。すなわち,本件入札に
は,多数の業者が入札に参加しており,その中には,Y1やY2と敵対関係にある
業者も含まれていたのであって,このような状況のもとで,Y1が,全業者との間
で談合を成立させるのはあり得ないことである。
(3) 争点③(Y1及びY2の責任)
 (原告の主張)
 ア 談合行為は,競争入札の公正を害する違法行為であるから,Y1は,不法行
為に基づき,談合によって県が被った損害を賠償する責任を負う。また,談合によ
って落札された工事の請負契約は,私法上も無効であるから,Y1は,不当利得と
して,本件工事の請負契約によって得た利得を県に返還する義務を負う。
イ Y2は,妻とともにY1の発行済株式総数の5分の4を保有するなど,Y1の
経営を支配しているものであるが,県議会議員としての政治的地位と権力を利用し
て県から公共工事の受注を得るために,議員の関係諸企業への関与禁止を定める地
方自治法92条の2の規定を潜脱してY1を経営し,その法人格を濫用していたも
のである。
 したがって,Y2は,Y1の本件工事の受注につきY1と実質的に同一の人格を
有していたというべきであるから,Y1の談合による不法行為につき,損害賠償責
任を負うというべきである。
 (被告Y2管財人の主張)
Y2は,Y1から報酬等の金員を受領したことはなく,その経営を支配していたわ
けではない。
(4) 争点④(被告Y3及び被告職員の責任)
 (原告の主張)
 ア 被告Y3は,県知事として,被告職員は,入札担当職員として,いずれも本
件入札について談合があったことを容易に知り得たにもかかわらず,談合を防止す
る方策を講ずることなく,Y1らの談合を放任したものであるから,被告Y3及び
被告職員には重大な過失があったというべきである。
イ Y1は,前記のとおり,Y2が県議会議員の地位を利用して公共工事を得るた
めに経営していた業者である上,建設業営業許可に係る申請書類や商業登記簿に虚
偽の記載をして建設業を営んでいたものであるから,そもそも,指名競争入札に参
加する資格を有していなかった。しかるに,被告Y3及び被告職員は,Y1を本件
入札に参加させていたものであり,かかる措置は,その裁量権を濫用したものとし
て違法であるというべきである。
ウ よって,被告Y3及び被告職員は,指名競争入札を適正に執行すべき任務に違
背したものとして,Y1らの談合について,共同して不法行為責任を負う。
(被告Y3及び被告職員の主張)
ア 県知事であった被告Y3は,前記のとおり,事務委任規則及び事務決裁規程
に基づき,本件入札に係る事務をn土木事務所等の入札執行職員に委任し,又は専決
させていたものであり,同事務に直接関与していなかった。被告Y3は,知事在任
中,入札の談合を防止するための施策を尽くしており,入札執行職員及び入札参加
業者に対し,一般的な指揮監督を怠ったこともない。
   被告Y4及び被告Y5も,前記のとおり,本件入札に係る事務に全く関与し
ていなかった。
イ Y1は,長年にわたり県から指名を受け,公共工事を実施していた実績を有し
ていたものであり,談合を予期し得ない状況にあった。したがって,県がY1を本
件入札に参加させたこと自体に不適切な点はなかった。
(5) 争点⑤(損害額) 
(原告の主張)
 Y1は,談合により予定価格に近い高額な代金で本件工事を落札したのに対し,
自由競争によって入札が実施されていた場合には最低制限価格に近い価格で落札さ
れていたから,県は,談合により,落札価格と最低制限価格の差額に相当する金1
億1078万9000円の損害を被ったことになる。
(被告らの主張)
 争う。 
第3 当裁判所の判断 
 1 争点①(被告職員の被告適格)について
地方自治法242条の2第1項4号による怠る事実に係る相手方に対する代位請求
訴訟は,地方公共団体が怠る事実に係る相手方に対し,実体法上同号所定の請求権
を有するにもかかわらず,これを積極的に行使しようとしない場合に,住民が地方
公共団体に代位し,上記請求権に基づいて提起するものである。このような怠る事
実に係る相手方に対する代位請求訴訟の構造に鑑みれば,同訴訟の被告適格を有す
る者は,同訴訟の原告により訴訟の目的である地方公共団体が有する実体法上の請
求権を履行する義務があると主張されている者であると解するのが相当である。
本件訴訟において原告が県に代位して行使しようとする請求権は,被告職員の共同
不法行為により県に加えた損害について県が有する損害賠償請求権であり,被告職
員は原告により怠る事実に係る相手方として上記損害を賠償する義務を負うと主張
されているのであるから,被告職員に被告適格があることは明らかである。
 2 争点②(談合の有無)について
  (1) 前記前提事実に加え,証拠(甲2ないし5,甲17ないし52,甲57,
乙イ1ないし3,乙イ7及び8,証人C,証人G)及び弁論の全趣旨によれば,次
の事実が認められる。
ア Y1は,昭和26年ころ設立して以降,県の発注する公共工事の指名競争入札に
継続的に参加していたものであり,平成10年度n・o地区で実施された入札に参加
して,本件工事を落札した(本件入札における予定価格,最低制限価格,落札価格
並びに入札参加業者の各順位及び入札金額は,別紙公共工事目録記載のとおりであ
る)。
イ 平成10年当時,県の発注する公共工事の入札は,次の手続で執行されていた。
 (ア) 入札執行職員は,あらかじめ当該工事の最低制限価格及び指名業者の名前
を公表し,指名された業者は,事前に公表される最低制限価格及び工事内容を基に
入札金額を決定して応札していた。
 (イ) 入札執行職員は,予定価格(最高価格)と最低制限価格の範囲内において,
最低の価格をもって申込みをした指名業者に当該工事を落札させていた。
(ウ) 予定価格は,入札に当たり事前に公表されていなかったが,最低制限価格が
おおむね予定価格の3分の2とされていたため,継続的に入札に参加していた指名
業者は,最低制限価格から予定価格をおおよそ推測することができた。
ウ 平成10年度にn・o地区で実施された入札は,Y1が落札した本件入札を除
き,入札金額が最低制限価格付近に集中し,くじ引きで落札者を決定していた場合
が多かった。なお,このような傾向は県全体でみられたことから,県は,くじ引き
による落札業者選定の弊害をなくすため,平成13年5月1日から最低制限価格を
事前に公表しない運用に改めた。
エこれに対し,本件入札は,別紙公共工事目録記載のとおり,落札率(予定価格に
対する落札価格の割合)のほとんどが99パーセントを超えており,低いものでも
98パーセント台と極めて高く,予定価格の直下で落札されており,しかも,落札
したY1以外の指名業者のほとんどが,予定価格以上の金額で応札していた。
オ また,本件入札は,別紙公共工事目録記載のとおり,入札に参加した指名業者の
各入札金額が一定の幅で並んでいる傾向がみられるものが多かった。とりわけ,同
目録2記載の入札は,第8順位から第16順位までの入札金額が5万円の差額で均
等に並び,同目録3記載の入札も,第2順位から第17順位までの入札金額が10
万円の差額で均等に並んでいた。また,同目録8記載の入札も,第2順位から第1
2順位までの入札金額が10万円の差額で均等に並んでいた。
(2) 前記認定のとおり,本件入札は,入札金額が最低制限価格付近に集中していた
他の入札とは異なり,予定価格の直下の金額で落札されていたばかりか,指名業者
の各入札金額が一定の幅で整然と並んでいたことが認められるところ,このような
事態が指名業者間で相談もなしに偶然に生じたと考えるのは困難である。以上から
すると,本件入札は,指名業者の間でY1に予定価格直下で落札させる旨の談合が
あったことが強く推認される。
(3)ア ところで,本件入札に参加していた株式会社A(以下「A」という。)の代
表者であるC(以下「C」という。)も,次のとおり,本件入札について,談合が
あったことを認める旨の証言をし,同内容の陳述書(甲57)も提出した。すなわ
ち,Cは,「Y1の実質的経営者はY2であり,県議会議員であるY2の影響力は
大きく,Aも長年Y2やY1と親しくつきあっていた。本件入札に際し,Aは,Y
1の入札担当者から,事前に電話でY1に落札させてほしいとの依頼を受け,Y1
が予定価格直下で落札できるよう,Y1の指定した金額若しくはそれ以上の金額で
応札していた。Y1が万一入札書の記入の誤りなどで失格になった場合にも,Aが
落札してそのままY1に下請けに出せるように,Y1の次順位の金額で応札してい
たこともあった。なお,県の監査委員から質問を受けたときには,談合の事実を否
定したが,当時は,Aも県から指名を受けていたため,談合への関与を認めるわけ
にはいかなかった。その後,自分のほうからY1に談合をもちかけたが,断られ,
そのことが原因でAが倒産したため,正直に談合の事実を話す気持ちになった。」
旨証言した。
イ そこで,Cの前記証言内容の信用性について検討する。
  前記証言に至った経緯に照らせば,Cは,Y1に対して敵意を抱いていること
がうかがわれるものの,Y1の主謀した談合に関与していた事実のほか,自らもY
1に談合を持ちかけたことがあることなど自己に不利益な内容も包み隠さず供述し
ていることからすると,Y1を陥れるためにあえて虚偽の供述をしているとまでは
考えがたい。また,談合の方法に関するCの証言内容は,前記認定に係る客観的な
入札状況と一致し,何ら不自然,曖昧な点はみられない上,Y1が落札できなかっ
た場合の対処方法に関する証言内容も具体的であって創作によるものとは考えがた
い。
ウ 以上の事情を総合すれば,談合に関するCの証言は,十分信用することができ
る。
(4) これに対し,被告らは,n地区の指名業者の中には,D株式会社(以下「D」
という。)などY1と対立関係にある業者もおり(乙ホ1ないし3),このような
状況で談合を成立させるのは不可能であった旨主張する。しかし,被告らが対立業
者の例としてあげているDは,別紙公共工事目録記載のとおり,本件入札のいずれ
にも参加していなかった。むしろ,Dが参加していた他の入札については,入札金
額等に談合の存在を疑わせるような不自然な点はみられないこと(甲25ないし3
4,甲36ないし44,甲47)からすると,Y1は,Dのような対立業者の参加
していない入札を選んで談合をもちかけていたと推測することもできる。
(5) 以上で検討した本件入札の状況やCの証言内容に加え,当時Y1の代表者であ
ったEが本件訴訟で証人として呼び出しを受けながら,正当な理由なく出頭を拒絶
していることなどの事情を総合すれば,本件入札において,Y1が本件工事を落札
するために他の指名業者との間で談合したものと認めることができる。
 3 争点③(Y1及びY2の責任)について
(1) 談合行為は,競争入札の公正を害する違法行為であるから,Y1は,不法行為
に基づき,談合によって県が被った損害を賠償する責任を負う。
(2) また,Y2は,Y1の取締役には就任していなかったものの,妻とともにY1
の発行済株式総数の5分の4を保有していたものであり,Y1の経営を左右しうる
立場にあったところ,談合行為は,発覚した場合に刑事処分の対象になるほか,県
から指名回避措置を受けるなどの制裁を受けるおそれのある事柄であるから,Y1
の代表者が,大株主であるY2の指示を受けることなく,独断で談合行為を主謀し
ていたものとは考えがたい。むしろ,Bの前記証言に加え,弁論の全趣旨によれ
ば,Y1に落札させる旨の談合は,県議会議員であったY2の指名業者に対する影
響力の強さによって実現できたものとうかがわれる。これらの事情を総合すれば,
本件入札談合は,Y2がY1の代表者又は入札担当者と共謀してなしたものと推認
することができる。
 以上によれば,Y2は,本件入札談合について,共同不法行為責任を負うものと
いうべきである。
 4 争点④(被告Y3及び被告職員の責任)について
(1) 県では,事務委任規則(乙ロ1)9条に基づき,農林事務所の長に対して請負
対象額が1件5000万円以下の工事の施工,入札の執行及び請負契約の締結に係
る事務が委任され,また,土木事務所の長に対して請負対象額が1件1億円以下の
土木工事の施工,入札の執行及び請負契約の締結に係る事務が委任されている。ま
た,事務決裁規程(乙ロ2)7条に基づき,森林整備課長に対して請負対象額が1
件5000万円を超え1億円未満の工事の施工,入札の執行及び請負契約に係る事
務の専決権限が与えられている。
 かかる規定に基づき,本件工事のうち,別紙公共工事目録1ないし3記載の工事
については,n土木事務所長が,同目録4及び5記載の工事については,森林整備課
長が,同目録6ないし8記載の工事については,n農林事務所長が,それぞれ入札の
執行及び請負契約の締結事務を処理していたものである。
(2)ア 被告Y3は,県知事として,工事の請負契約締結権限を法令上本来的に有し
ているものであるが,前記のとおり,本件工事に係る入札の執行及び請負契約締結
の事務については,n土木事務所長等入札執行職員が,事務委任規則又は事務決裁規
程に基づいて,県知事より委任を受け又は専決権限を与えられた事務として処理し
ていたものであるから,県知事であった被告Y3としては,本件工事につき入札執
行職員の違法行為を阻止すべき指揮監督上の義務に違反した場合に限り,不法行為
責任を負うと解すべきである。
 イ しかし,本件入札において入札執行職員が指名業者の間で談合がなされてい
ることを知りながら入札を執行したなど,入札執行職員による違法行為の存在を認
めるに足りる証拠はない。また,県知事であった被告Y3が入札執行職員の違法行
為をあらかじめ認識し得たことを認めるに足る証拠もない。
 ウ 原告は,被告Y3には県知事として談合を防止する施策を講じるべき義務を
怠る過失があった旨主張する。しかし,一般的に地方公共団体の長が談合防止のた
めにいかなる施策を講じるべきか否かについては,長の広範な裁量に委ねられてい
るというべきであり,本件においても,被告Y3が談合防止のために講じていた施
策に著しい不備があったとまではいえないから,上記裁量の範囲を逸脱・濫用する
違法な点があったということはできない。
エ 原告は,県が県議会議員であるY2の支配するY1を公共工事の指名競争入札
に参加させていたこと自体,知事の裁量権の濫用にあたると主張する。しかし,県
議会議員のY2がY1の取締役として直接経営にあたっていたわけではないから,
県において地方自治法92条の2(関係諸企業への関与禁止)に違反するものとし
てY1を指名競争入札から排除しなければならない義務があったとはいえない。ま
た,Y1が建設業営業許可に係る申請書類や商号登記についてずさんな処理をして
いたとしても,その点については別に規制されるべき問題であり,Y1が建設業者
としての実態を有していた以上,これを指名競争入札に参加させていたこと自体に
違法な点があったとはいえない。
   オ 以上によれば,被告Y3は,県知事として,本件入札について指揮監督
上の義務を怠る過失があったものとは認められないから,不法行為責任は負わな
い。
  (3) また,土木部長であった被告Y4及び農林水産部長であった被告Y5は,
本件入札に係る事務について何らの権限も有していなかったものであり,事実上同
事務に関わったというような事情もみられない以上,本件入札における談合を理由
とする損害賠償責任は負わない。
 5 争点⑤(損害額)について 
(1) 公共工事の入札で談合がなされた場合,通常,現実の落札価格は,適正な競争
がなされたと想定した場合の落札価格より高くなるから,本件においても,談合に
よって形成された実際の請負契約金額(落札価格に消費税額を加えた額)と適正な
競争により形成されたであろう想定契約金額の差額相当額が県の被った損害になる
ということができる。もっとも,入札価格は,当該工事の内容,規模等多様な要因
が複雑に影響しあって形成されるものであることに鑑みると,適正な競争により形
成されるであろう金額を立証することは,その性質上極めて困難であるから,民事
訴訟法248条を適用して,相当な損害額を算定するほかない。
(2) 前記認定事実によれば,本件工事は予定価格の直下(約99パーセント)で落
札されたのに対し,公正な自由競争が行われていた他の入札については,おおむね
最低制限価格(予定価格の約67パーセント)付近の金額で落札されていた傾向が
あったとうかがわれるところ,このような傾向に鑑みれば,入札価格形成要因の複
雑・多様性を考慮しても,県の被った損害額は,契約金額の20パーセントを下回
ることはないものというべきである。そうすると,Y1らによる本件入札談合によ
って県が被った損害額は,別紙代金及び損害一覧表損害額欄記載のとおり,784
6万6500円となる。
(3) なお,原告は,不法行為に基づく損害賠償のほか,不当利得の返還も選択的に
求めているところ,本件工事の請負契約が談合により私法上無効となったとして
も,県は,Y1の工事施工によって前記想定落札価格に相当する利得を得ているか
ら,かかる利得と県が支払った代金(損失)について損益相殺すると,県の被った
損失額は,結局,上記損害額と一致することになる。
6 被告知事の怠る事実の違法性
  以上のとおり,県は,本件入札談合についてY1及びY2に対して不法行為に
基づく損害賠償請求権を有するから,被告知事としては,地方自治法240条2
項,同法施行令171条,171条の2第3号の規定に従い,上記被告両名に対
し,訴訟等により損害賠償請求をなすべき義務がある。しかるに,被告知事は,何
ら合理的理由なく,上記損害賠償請求権の行使を怠っているから,その怠る事実は
違法というべきである。
第4 結論
よって,原告の本件請求のうち,被告Y1管財人及び被告Y2管財人に対し,不法
行為に基づく損害賠償請求として,損害金7846万6500円及びこれに対する
不法行為の後である平成12年2月2日(訴状送達日)から支払済みまで民法所定
の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,被告知事に対し,上記
損害賠償請求権の行使を怠る事実の違法確認を求める限度で理由があるからこれを
認容し,その余は理由がないから棄却することとする。
徳島地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官    村  岡  泰  行
         裁判官古  田  孝  夫
         裁判官井  出  弘  隆
別紙       公 共 工 事 目 録
1(1) 工事名  緊急地方道路整備工事 
 (2) 路線名等・工事箇所 a・b~c(第2分割)
 (3) 入札日 平成10年12月3日
 (4) 予定価格  9250万円 
 (5) 最低制限価格 6240万円
(6) 落札額(落札比率)  9200万円(99.45パーセント)
 (7) 入札参加業者(18社)の順位及び入札金額
  ① Y1        9200万円
  ② イ         9270万円 
  ③ロ         9300万円
  ④ A         9305万円
  ⑤ ハ         9310万円 
  ⑤ ニ        9310万円
  ⑦ ホ         9315万円
  ⑧ ヘ         9320万円
  ⑨ ト         9325万円
⑩ チ         9330万円
  ⑪リ     9335万円
⑫ヌ         9340万円
⑬ル         9350万円
⑭ヲ         9355万円
⑮ワ         9360万円
⑯カ         9370万円
⑰ヨ         9380万円
⑱タ         9400万円
2(1) 工事名  河川特殊改良工事河川海岸維持修繕工事合併
 (2) 路線名等・工事箇所 d・e(第2分割)
 (3) 入札日 平成11年3月3日
 (4) 予定価格  1488万円 
 (5) 最低制限価格 1005万円
(6) 落札額(落札比率)  1470万円(98.79パーセント)
 (7) 入札参加業者(17社)の順位及び入札金額
  ① Y1        1470万円
  ② A         1500万円
  ③ ニ         1510万円
  ④ ヲ         1515万円
  ⑤ リ         1520万円
  ⑤ カ         1520万円
  ⑦ ト         1525万円
  ⑧ ワ         1535万円
  ⑨ タ         1540万円
  ⑩ レ         1545万円
 ⑪ソ         1550万円
  ⑫ ツ         1555万円
⑬ ネ         1560万円
⑭ ナ         1565万円
⑮ ラ         1570万円
⑯ ム         1575万円
⑰ ヨ         1600万円
3(1)工事名  通常砂防工事 
 (2) 路線名等・工事箇所 f・g
 (3) 入札日 平成11年3月24日
 (4) 予定価格  7870万円 
 (5) 最低制限価格 5260万円
(6) 落札額(落札比率)  7830万円(99.49パーセント)
 (7) 入札参加業者(18社)の順位及び入札金額
① Y1        7830万円
  ② イ         7850万円
  ③ ロ         7860万円
  ④ ハ         7870万円
  ⑤ ホ         7880万円
  ⑥ A         7890万円
  ⑦ カ         7900万円
  ⑧ ヲ         7910万円
  ⑨ リ         7920万円
  ⑩ ト         7930万円
  ⑪ ニ         7940万円
  ⑫ ヨ         7950万円
  ⑬ ワ         7960万円
  ⑭ タ         7970万円
  ⑭ ル         7970万円
  ⑯ ヘ         7980万円
  ⑰ ヌ         7990万円
  ⑱ チ         7995万円
         
4(1) 工事名  平成10年度林道開設事業
 (2) 路線名等・工事箇所 h・i
 (3) 入札日 平成10年5月22日
 (4) 予定価格  6545万円 
 (5) 最低制限価格 5377万1000円
(6) 落札額(落札比率)  6530万円(99.77パーセント)
 (7) 入札参加業者(11社)の順位及び入札金額
 ① Y1        6530万円
  ②A         6540万円
  ③ ニ         6545万円
  ④ ト         6550万円
  ⑤ リ         6560万円
  ⑥ タ         6570万円
  ⑦ レ         6580万円
  ⑧ ヲ         6600万円
  ⑨ ワ         6610万円
  ⑩ カ         6630万円   
  ⑪ ヨ         6650万円
5(1) 工事名  平成10年度復旧治山事業
 (2) 工事箇所 j
 (3) 入札日 平成10年7月29日
 (4) 予定価格  5450万円 
 (5) 最低制限価格 3700万円
(6) 落札額(落札比率)  5420万円(99.44パーセント)
 (7) 入札参加業者(17社)の順位及び入札金額
① Y1        5420万円
  ② A         5450万円
  ③ ニ         5470万円
  ④ ツ         5490万円
  ⑤ ト         5500万円
  ⑥ リ         5510万円
  ⑦ ヘ         5550万円
  ⑧ ル         5570万円
  ⑨ タ         5580万円
  ⑩ ワ         5600万円
  ⑪ ヌ         5610万円
  ⑫ ソ         5630万円
  ⑬ ヲ         5650万円
  ⑭ ヨ         5660万円
  ⑮ チ         5690万円
  ⑯ レ         5700万円
  ⑰ カ         5720万円
  
6(1) 工事名  平成10年度地すべり防止事業
 (2) 工事箇所 k
 (3) 入札日平成10年8月7日
 (4) 予定価格  2567万円 
 (5) 最低制限価格 1721万円
(6) 落札額(落札比率)  2550万円(99.33パーセント)
 (7) 入札参加業者(14社)の順位及び入札金額
① Y1        2550万円
  ② A         2570万円
  ③ ニ         2575万円
  ④ ラ         2578万円(無効)
  ⑤ リ         2580万円
  ⑥ タ         2585万円
  ⑦ ト         2587万円
  ⑧ カ         2590万円
  ⑨ レ         2592万円
  ⑩ ワ         2595万円
  ⑪ ヲ         2598万円
  ⑫ ソ         2600万円
  ⑬ ヨ         2610万円
  ⑭ ツ         2718万円 
7(1) 工事名  H9補広域m川中部3工区流末水路工事
 (2) 工事箇所 l
 (3) 入札日 平成10年12月21日
 (4) 予定価格   673万円 
 (5) 最低制限価格  457万円
(6) 落札額(落札比率)   665万円(98.81パーセント)
 (7) 入札参加業者(14社)の順位及び入札金額
① Y1         665万円
  ② ト          685万円
  ③ ニ          690万円
  ④ ワ          695万円
  ④ ヨ          695万円
 ⑥ カ          700万円
⑥ タ          700万円
⑥ レ          700万円
⑩ ソ          710万円
⑩ ツ          710万円
⑩ リ          710万円
⑬ ヲ          720万円
⑭ ラ          725万円
8(1) 工事名  平成10年度地すべり防止事業(3次補正)
 (2) 工事箇所 k
 (3) 入札日 平成11年3月24日
 (4) 予定価格  3724万円 
(5) 最低制限価格 2526万円
(6) 落札額(落札比率)  3700万円(99.35パーセント)
 (7) 入札参加業者(17社)の順位及び入札金額
① Y1        3700万円
  ② A         3720万円
  ③ カ         3730万円
  ④ ヲ         3740万円
  ⑤ リ         3750万円
  ⑥ ト         3760万円
  ⑦ ワ         3770万円
  ⑧ タ         3780万円
  ⑨ ニ         3790万円
  ⑩ ヨ         3800万円
  ⑩ ソ         3800万円  
⑫ レ         3810万円
⑬ ツ         3830万円
⑭ ヘ         3840万円
⑮ ヌ         3850万円
⑯ チ         3860万円
⑰ ル         3870万円

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