弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中控訴人Aに関する部分を除きその余を取消す。
     本件中控訴人Aに関する部分を除きその余の部分を名古屋地方裁判所に
差戻す。
     控訴人Aの本件控訴は之を棄却する。
     控訴人Aの控訴費用は同控訴人の負担とする。
         事    実
 第一、控訴人等代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求は之を棄却する。訴
訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は
控訴棄却の判決を求めた。
 第二、当事者双方の事実上の主張、提出援用の証拠書証の認否は左記に訂正又は
附加する外原判決事実摘示と同一であるからここに之を引用する。
 一、 控訴人等代理人は
 (イ) 控訴人Aを除く爾余の控訴人等(以下単に控訴人B等と称する。)の父
Cは昭和七年春頃本件土地を訴外Dから賃借しその地上に本件建物外数戸の建物を
建築して所有していたところ相続により本件土地所有権を取得したE等から引続き
之を賃借して来たものであり、C死亡後は同人の相続人たる控訴人B等が之を承継
して来たものである。その間地主との間は至極円満に打過ぎたため地上建物の登記
をなす必要を生じなかつたものなるところ昭和二十七年秋頃から控訴人B等の代理
人なる控訴人Aが本件土地買受の交渉をなして来たのであるが価格の点について意
見相違し遂に買受けるにまで至らなかつたものである。而して、被控訴人が仮に本
件土地を買受けたとしても本件土地が控訴人B等及その先代が二十数年来賃借し来
つた土地であること、控訴人B等において買受交渉中であることを知りながら地上
家屋に登記なきを奇貨として之を他に高価に転売せんとする意図の下に買受けたも
のであるから本件土地の明渡を求める被控訴人の本訴請求は権利濫用というべきで
ある。
 (ロ) 控訴人Fは本訴提起後当審第三回口頭弁論期日当時まで尚未成年者であ
つて控訴人Gが法定代理人として同控訴人を代理して来たが、控訴人Gは控訴人F
の継母であるから同人の親権者たることを得ないものである。従つて、Gは控訴人
Fの法定代理権を有しないものというべきであり控訴人Gが控訴人Fの法定代理人
として委任した訴訟代理人が原審及当審においてなした訴訟行為は一切無効であ
る。而して、本件は本件建物の収去並その敷地の明渡を求めるものであるが、本件
建物が控訴人B等の共有に属する以上本訴は控訴人B等について合一に確定すべき
必要的共同訴訟というべきである。従つて、控訴人Fに対する訴訟のみを分離する
ことは出来ないのであつて、訴訟の進行もすべて控訴人B等共有者全員と同一であ
るべきである。尚控訴人Gが控訴人Fの法定代理人としてなしたる訴訟行為の中本
件控訴の提起のみは之を追認すると述べ
 二、 被控訴代理人は控訴人等の右主張事実中Cの相続関係の点を除きその余の
事実を全部争う。本件土地については元Hが六分の二、E、I、J、Kが各六分の
一の共有持分を有していたところ、Kはその持分をEに譲渡したので、Eの共有持
分は六分の二となつた。被控訴人は之等の共有者から之を買受けその所有権を取得
するに至つたものであると述べた。
 三、 立証として被控訴代理人は甲第六号証を提出し乙号各証の成立を認め、被
控訴代理人は乙第一乃至四号証を提出し証人Eの尋問を求め甲第六号証の成立を認
めた。
         理    由
 一、 控訴人B等の関係
 控訴人Fが本訴提起当時から当審第三回口頭弁論期日当日に至るまで尚未成年若
であつたこと、同控訴人の訴訟行為は控訴人Gが法定代理人として原審においては
弁護士L、同Mに、当審においては同Nに夫々委任して進行せしめたことは記録上
明である。然しながら、控訴人Fは訴外C及O間の嫡出子であつて控訴人Gはその
継母に過ぎないことは記録編綴の戸籍謄本(写)に照し明である。されば、控訴人
Gは控訴人Fの親掛者ではなく従つてその法定代理権を有しないことも亦明である
から同控訴人が控訴人Fの法定代理人として弁護士に委任してなさしめた本件訴訟
行為は一切無効なること控訴人F主張の通りといわなければならない。只、本件控
訴の提起については控訴人Fが成年に達したる後同人自ら委任した弁護士提幸一が
之を追認しているから本件控訴の提起のみは有効とみなければならない。尤も訴訟
行為の追認は訴訟行為全体を一括してなすべきものであつてその内の個々の訴訟行
為の追認を許すことはいたずらに訴訟を混乱に陥れるものであるから之を許すべき
でないという<要旨>考方は一応成立ち得る。而も此の考方は一般的にいつて正当な
考方であるが、控訴の提起の如く原判決の誤謬の是正を求める行為はそれ自
体として他の訴訟行為から切り離しても独立の意味を持ち得るから控訴の提起のみ
の追認を認めたとしても訴訟の混乱を来すことがないと考えられるから控訴の提起
のみの追認も有効なものと考えなければならない。而して、本件の場合においては
右説明したところによつて明な如く控訴人Fは第一審以来当審第三回口頭弁論期日
に至るまで全く適法に代理せられなかつたもの、換言すれば同控訴人に関する限り
第一審の訴訟手続は同控訴人の関与なくして審理判決された訴訟手続上の違法があ
るものといわなければならないから原判決を取消すと共に控訴人Fが成年に達し自
ら訴訟行為をなし得る現在においては之を第一審裁判所たる名古屋地方裁判所に差
戻すのを相当と考える。而も、本件の如く建物の共有者に対し之を収去してその敷
地の明渡を求める訴訟は共有者全員本件の場合においては控訴人Fを含めて控訴人
B等全員について合一にのみ確定すべき必要的共同訴訟と解すべきであるから控訴
人Fの部分のみを分離すべきではなく訴訟の進行は控訴人Fを含む控訴人B等全員
について同一であるべきものと考えなければならない。従つて、控訴人B等中控訴
人Fを除く控訴人等についても原判決を取消すと共に事件を第一審裁判所たる名古
屋地方裁判所に差戻すべきものと考える。
 二、 控訴人Aとの関係
 成立に争のない甲第五、六号証原審証人P当審証人Eの各証言によれば本件土地
は元Dの所有であつたところ、昭和二十六年六月三十日H、E、I、K、Jが被控
訴人主張の如く共同相続したこと、Kがその持分をEに譲渡したこと、その後昭和
二十九年八月十七日被控訴人が本件土地を右E等から買受け本件土地の所有権を取
得し其の登記を為したことを認めることが出来、控訴人B等先代Cが本件家屋を所
有していたこと、控訴人B等が相続により本件家屋の所有権を取得し控訴人が右家
尾中西側の一戸に居住していることは当事者間に争がない。
 そこで控訴人の権利濫用の抗弁について判断する。原審における控訴人A同Gの
各供述当審証人Eの証言によれば訴外Cが本件土地をDから賃借し本件家屋を所有
していたことを認めることが出来E等が相続により本件土地の所有権を取得したこ
と前記認定の通りであるから同人等は本件土地の賃貸人たる地位を承継したものと
いうべく、又控訴人B等がCを相続したことも前記の通りであるから同控訴人等は
右土地賃借権を承継したものといわねばならない。而して、当審証人Eの証言によ
れば控訴人B等が本件土地買受の交渉をしていたが遂に買受けるに至らなかつた事
実を認めることが出来る。控訴人は被控訴人は控訴人B等が本件土地を適法に借受
居住し且買受の交渉をなしていることを知りながら本件家屋に登記なきを奇貨とし
て他に転売する目的のために買受けたものであり本件土地の明渡を求めるのは権利
濫用であると主張する。然しながら、控訴人主張の如き右事実はそれのみを以て権
利の濫用となすことが出来ないのみならず右事実を認めるに足る証拠もない。却つ
て原審証人Pの証言によれば被控訴人は本件土地をアパート建築の目的で買受けた
ものであることを認めることが出来るから控訴人の右抗弁はその理田がない。
 されば本件建物の登記がないことは前記の如く控訴人Aの自認するところであり
又本件土地につき控訴人B等の前記賃借の登記のあることについては何等の主張も
立証もないから控訴人B等は前記賃借権を以て前記E等から本件土地所有権を取得
した被控訴人に対抗することができず被控訴人に対し本件家屋を収去して本件土地
を明渡すべき義務があること明である。従つて被控訴人と控訴人B間の本件家屋使
用に関する契約関係如何に拘らず控訴人は之を以て被控訴人に対抗し得ず、控訴人
は本件家屋の西側の一戸から退去すべき義務があるものといわねばならない。 以
上の理由により原判決中控訴人B等に関する部分を取消し之を名古屋地方裁判所に
差戻し爾余の部分は右同旨に帰するから本件控訴は理由がないから之を棄却し民事
訴訟法第三百八十九条第三百八十四条第八十九条第九十五条を適用し主文の如く判
決する。
 (裁判長裁判官 県宏 裁判官 吉田彰 裁判官 奥村義雄)

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