弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を次のとおり変更する。
     控訴人は、被控訴人に対し金二一八、八三〇円を支払え。
     被控訴人のその余の請求を棄却する。
     訟訴費用は、第一、二審を通じてこれを一〇分し、その九を被控訴人
の、その余を控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は、「原判決中控訴人の敗訴部分を取消す。被控訴人の請求をいずれ
も棄却する。訟訴費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求
め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の主張、証拠の提出、援用、認否は、控訴人において、控訴人として
は原判決で認定された損害額については不服がなく、遅延損害金の点のみが不服で
あると述べたほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
         理    由
 控訴人は、原判決認定の損害額については不服がなく、遅延損害金の点のみが不
服である旨主張するので、遅延損害金の点のみについて判断することとする。
 <要旨>被控訴人は、自動車損害賠償保障法(以下自賠法という)第七二条第一項
後段の規定にもとづいて本訴請求をなすものであるところ、同条はその文言
からも明らかなように、自動車の運行によつて生命または身体を害された者がある
場合において、同事故がいわゆるひき逃げ事故のように保有者が明らかでなかつた
り、或いは本件のように加害車輌の保有者が自賠法に違反して責任保険を締結して
いなかつたため、自賠責保険による救済を受け得ない場合に、政府が政令で定める
金額の限度において、その損害をてん補して被害者の救済を図る趣旨のもとに定め
られたもので、同条による請求権は、被害者が本来有している私法上の損害賠償請
求権とは性質の異なる、同法条によつて新たに創設された保障請求権であつて、公
法上の請求権というべきである。
 しかも自賠法および関係法令中に、右請求権にもとづいて支払われる保障金の支
払期日についてのみならず、さらにそれを徒適した場合に損害金を附して支払う旨
を定めた規定はなんら存在しない。
 それらの点からするならば、自賠法は、七二条による保障金についてはもともと
遅延損害金を附して支払うことを予定していないものとみるべきである。
 そうだとするならば、自賠法第七二条にもとづく請求権者としては、国が故意ま
たは失によつて支払を遅滞した場合に損害賠償として損害金を請求することはとも
かくとして、当然にてん補金に遅延損害金を附して支払うことを求める権利はない
ものといわざるを得ない。
 以上の次第で、被控訴人は控訴人に対し、原判決認定の損害金二一八、八三〇円
の支払を求め得るにとどまるから、被控訴人の本訴請求は右の限度において正当と
して認容し、その余は失当として棄却することとし、これと一部見解を異にする原
判決を右のように変更し、訟訴費用の負担について、民事訟訴法第九六条、第九二
条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 渡辺一雄 裁判官 小川昭二郎 裁判官 山之内一夫)

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