弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告人株式会社A1代理人堤敏恭、上告人A2代理人加藤茂樹の上告理由一、二
について。
 所論指摘の点についての原審の証拠の取捨判断、事実の認定は正当であつて、所
論のごとき独善はない。実験則、条理、社会通念、経験法則ないしは採証原則の違
背をいう所論は、ひつきよう原審の専権事項について異見を述べるにすぎず採用で
きない。
 同三について。
 所論は、原審が証人Dの証言、上告人A2本人の供述や丙一号証、同三号証を排
斥した点の理由が通常人を納得せしめるに足る程度のものとは到底解しえない旨縷
説する。
 所論(1)は、原判決は書面審理の結果なされたと何ら択ぶところがないとし、
かつ、第一審と同一の証拠資料をもつて、第一審の事実認定を覆した原審は民訴法
四〇八条、刑訴法四〇〇条に対比し不当であるというが、記録上明らかなとおり、
原審は口頭弁論に基づいて判決しているし、同一の証拠資料により心証を異にする
ことに何らの違法もなく、民訴法四〇八条、刑訴法四〇〇条を引いて原審の不当を
いう論旨は、採るに足らない。
 所論(2)は、丙一号証、同三号証がたとえ契約後に作成されたものであるとは
いえ、基本契約書に匹敵する証拠価値を有するものであるとして、同書証により原
審が所論所有権留保の特約を認めなかつたことについて理由説示の不備をいうが、
右書証が所論のごとく基本契約書に匹敵するものであるとの事実は原審の認定しな
いところであり、論旨はひつきよう原審認定外の事実に基づいてその専権たる証拠
の取捨判断、事実の認定を非難するに尽き、採用の余地ないものである。
 所論(3)は、本件取引当時にあつては相当金額に達する機械類の割賦販売にお
いて所有権を売主に留保する特約を付する慣行があり、本件の如き織機等の製作業
者が売主の場合は殆んど例外なく右慣行に従つて取引が行われていたのであるから、
原審としては本件についても右特約の存在を推認するのが実験則上当然であり、こ
の推定を覆すには相当高度の反証がなければ合理的採証とはなし難いと主張するが、
原判決は、挙示の証拠関係に徴し、本件撚糸機の所有権は遅くとも原判示E製作所
とF間の売買契約に基づいてFにこれが引き渡された時にFに移転したものと事実
認定していて、所論所有権留保の特約のなかつたことを判示しているのであるから、
所論取引慣行の有無を論ずるまでもなく、論旨は採用の余地がない。
 所論(4)は、原審が所論G証人の証言を採用したことに異論を唱え、これを採
用するについては然るべき特別事情を判示するのが当然であると述べるが、証言の
採否は原審の専権に属する事項であり、その採否について具体的理由の判示まで必
要としないことは、すでに当裁判所の判例(昭和三〇年(オ)第八五一号昭和三二
年六月一一日第三小法廷判決、民集一一巻六号一〇三〇頁参照)であるから、所論
は上告理由として採るに足らない。
 所論(5)は、原審の認定しない事実を推知して原判決の認定判断を非難するか、
原審の専権に属する証拠の取捨について独自の異見を述べるにすぎず、上告理由と
して採用の限りでない。
 同四について。
 原審が所論契約書の立証を当事者に促さなかつた点に釈明権不行使の違法がある
とし、引いては採証法則の違背、審理不尽の違法、理由不備をいう所論は、いずれ
も独自の所見を述べるにすぎないものであつて採用できない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、
主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外

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