弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人野呂汎、同二村満、同大竹秀達、同佐伯仁、同萬場友章の上告理由に
ついて
 一 本件は、市立小学校の教諭であるDが児童のポートボールの練習試合の審判
として球技指導中に倒れ入院後死亡したところ、被上告人が、Dの妻である上告人
からの請求に対し、地方公務員災害補償法四五条一項に基づき、右死亡は公務外の
災害であるとする公務外認定処分をしたため、上告人がその取消しを求めるもので
ある。Dの死亡の経緯等に関し原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりであ
る。
 1 D(昭和一九年六月生)は、昭和四二年四月に教員として採用され、昭和五
三年四月から愛知県尾張旭市立E小学校教諭として勤務していたところ、同年一一
月に開催される市内の小学校の球技大会を目指したポートボールの練習を指導する
教諭の中で中心的立場に立ち、その練習指導の大部分を行ってきていた。Dは、同
年一〇月二八日、同市立F小学校体育館において行われたポートボールの練習試合
の審判として球技指導中、ハーフタイムに気分が悪いと言って倒れ、意識不明とな
って入院した。入院先で、Dは、特発性脳内出血と診断され、血腫除去の緊急手術
を受けて、一時意識状態が好転したが、同年一一月三日呼吸不全に陥り、同月九日
死亡した。
 2 特発性脳内出血とは、明らかな原因のない脳内出血の総称であるが、最近で
は、脳内微小血管に普通の血管撮影では発見されないような先天的な血管腫様奇形
等が存在し、そのため破裂しやすい状態になっているその血管部分が破裂して発生
する脳内出血であると考えられるようになっており、血管の破裂した箇所から微量
の血液が徐々に浸出するものであるため、出血が始まりその血腫量がある程度増大
した段階で頭痛、吐き気等の初発症状が出現し、血腫量の増大に伴い各種の症状が
現われ、やがて意識障害発生という事態に至るものである。Dについても、直接に
発見されてはいないが、脳内微小血管に血管腫様奇形等が存在し、その血管部分が
破裂して発症したものと推認することができる。
 3 Dは、意識不明となった当日である二八日は、午前七時四〇分過ぎころ出勤
し、直ちにポートボールの練習指導を行い、続いて朝の会に参加した後、時間割表
どおりに授業を行い、午前一一時三五分から五〇分まで清掃指導をした。その後、
Dは、F小学校で練習試合があり、他校の試合で審判もすることになっていたため、
午後一時ころ自家用車に児童を同乗させて市内のF小学校へ出発した。Dは、当日
出勤後間もないころから頭痛等の身体的不調を訴え、普通の健康状態にあるとは考
えにくい行動をとり、また、体調が悪いことから、昼ころとポートボールの試合の
審判の開始前の二回にわたり、同僚の教諭らに審判の交代を頼んだが、聞き入れら
れず、やむなく、午後二時ころに始まった他校の試合に審判として臨んだものであ
った。
 二 右認定事実を前提として、原審は、右Dの死亡につき、次のとおり認定判断
している。
 1 Dの脳内出血は、その意識障害発生の直前まで行っていたポートボールの試
合の審判中ではなく、それ以前の遅くとも当日の午前中に起こったと推認するのが
相当である。
 2 当日午前中までのDの公務遂行の状況及びこれによりもたらされたと考えら
れる精神的肉体的負荷の程度をもってしては、右負荷が相対的に有力な原因となっ
て同人の有していた脳内微小血管の先天的奇形が自然的経過を超えて破裂したと認
めるのは、いまだ困難である。
 3 当日午前中に始まった出血がいったん止まって、それがポートボールの試合
の審判によって再開したものと認めることはできないから、Dの死亡につき公務上
外の認定をするに当たって判断の対象となる公務は、当日の午前中までのものであ
って、その後におけるポートボールの試合の審判を行ったことによる負荷は同人の
死亡と無関係というべきである。したがって、Dの死亡につき公務起因性を認める
ことはできない。
 三 原審の右二の1及び2の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして是認
するに足り、その過程に所論の違法があるとはいえないが、同3の判断は直ちに是
認することができない。その理由は、次のとおりである。
  前記事実関係によれば、特発性脳内出血は、破裂した微細な血管部分から微量
の血液が徐々に浸出するもので、出血開始から血腫が拡大し意識障害に至るまでの
時間がかなり掛かるというのである。そして、記録に現れた関係医師の証言等によ
れば、血圧の変動が出血の態様、程度に影響を及ぼすことがあることがうかがわれ、
また、肉体的又は精神的負荷が血圧変動や血管収縮に関係し得ることは経験則上明
らかであるから、出血の態様、程度が、血管破裂後に当人が安静にしているか、肉
体的又は精神的負荷が掛かった状態にあるのかによって影響を受け得るものである
ことを否定することはできない。そうすると、出血開始時期がポートボールの試合
の審判をする以前であったとしても、右審判による負担やこれによる血圧の一過性
の上昇等が出血の態様、程度に影響を及ぼす可能性も本件証拠関係上は十分に考え
られるところである。また、午前中の段階で、Dは身体的不調を訴えていたのであ
るから、出血開始から血腫が拡大し意識障害に至るまでの時間がかなり掛かるとい
う特発性脳内出血の性質からして、直ちに診察、手術を受ければ死亡するに至らな
かった可能性ももとより否定し難い。結局、出血開始後の公務の遂行がその後の症
状の自然的経過を超える増悪の原因となったことにより、又はその間の治療の機会
が奪われたことにより死亡の原因となった重篤な血腫が形成されたという可能性を、
前記二の3のような説示のみをもって、否定し去ることは許されず、したがって、
原審が、これらの可能性の有無について審理判断を尽くさないまま、死亡と公務と
の間の因果関係の判断に当たっておよそ出血開始後の公務は無関係であるとしたの
は、早計に失するものといわなければならない。
 そして、前記事実関係によれば、Dは、当日朝、体調の異変に気付きながら、ポ
ートボールの練習指導や授業等を行っており、しかも、前記のように審判の交代を
二度にわたって申し出ながら、それが聞き入れられず、やむなくポートボールの試
合の審判を担当したというのである。右事実関係からすれば、Dは、ポートボール
の練習指導の中心的存在であり、他に適当な交代要員がいないため交代が困難であ
ったことから、やむを得ずポートボールの試合の審判に当たったことがうかがわれ
る。そうすると、仮に前記の可能性が肯定されるならば、Dの特発性脳内出血が後
の死亡の原因となる重篤な症状に至ったのは、午前中に脳内出血が開始し、体調不
調を自覚したにもかかわらず、直ちに安静を保ち診察治療を受けることが困難であ
って、引き続き公務に従事せざるを得なかったという、公務に内在する危険が現実
化したことによるものとみることができる。
 以上によれば、出血開始後の公務の遂行が特発性脳内出血の態様、程度に影響を
与えた可能性、死亡に至るほどの血腫の形成を避けられた可能性等の点について審
理判断を尽くすことなく、前記のような説示をしただけで出血開始後の公務は無関
係であるとして公務起因性を否定した原審の判断には審理不尽又は理由不備の違法
があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨はこの趣
旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。そこで、原判決を破棄
し、右の点について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。
よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見
で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    千   種   秀   夫
            裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    可   部   恒   雄
            裁判官    大   野   正   男
            裁判官    尾   崎   行   信

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