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○ 主文
一 原告の第一次的請求を却下する。
二 被告が原告に対し昭和五二年九月一三日付けでした原告の昭和五一年分所得税
についての更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の処分及び同年七月九日
付けでした同所得税についての過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消
す。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 (第一次的請求)
原告の昭和五一年分所得税について、昭和五二年六月二八日被告に対し原告名義を
もつてなされた修正申告が無効であることを確認する。
2 (第二次的請求)
主文二項と同旨
3 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 (本案前の答弁)
原告の第一次的請求及び第二次的請求のうち被告が原告に対し昭和五二年七月九日
付けでした原告の昭和五一年分所得税についての過少申告加算税の賦課決定処分の
取消しを求める部分をいずれも却下する。
2 (本案の答弁)
原告の第一次的請求及び第二次的請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 (第一次的請求)
(一) 原告の昭和五一年分の所得税について、昭和五二年六月二八日、被告に対
し、別表(一)の「(ハ)修正申告」欄記載のとおり、総所得金額を一億〇、九三
六万二、二九三円、納付すべき税額を三、三三八万円とする原告名義の修正申告書
が提出された。
(二) 右修正申告は、原告が確定申告書の提出を委託したA公認会計士事務所の
事務員であるBが、被告職員から度々修正申告書提出の督促を受けたので、原告と
の連絡がとれないまま、オリエント貿易株式会社の経理部長であるCと相談のうえ
作成提出したもので、原告の知らないものである。
(三) また、被告が右修正申告書の提出を督促した理由は、原告が福岡方面等へ
旅行した際に、サンライズ貿易株式会社(以下、サンライズ貿易という。)が原告
に支出した別表(二)の(1)及び(2)記載の旅費交通費名目の金員合計五二六
万三、七五九円のうちの五二四万八、七五九円(以下、単に、本件旅費という。)
を同社の業務のために必要とは認められないとして否認し、これを原告の給与所得
と認定した(名古屋国税局及び東京国税局はこれを原告に対する貸付金と認定し、
さらに、豊島税務署はこれを賞与と認定した。
)ことにあるが、原告は、被告が、修正申告書の提出を督促した理由が、本件旅費
の否認に基づくのであれば、右修正申告に応ずる意思はなかつたものである。
よつて、右修正申告には重大かつ明白な瑕疵があるから、その無効であることの確
認を求める。
2 (第二次的請求)
(一) 原告は、昭和五二年三月一五日、被告に対し、原告の昭和五一年分所得税
について、別表(一)の「(イ)確定申告」欄記載のとおり、総所得金額を一億
〇、五二五万二、六二八円、納付すべき税額を三、二五六万一、二〇〇円とする確
定申告をした。
(二) 原告は、昭和五二年六月二日、右所得税について、被告に対し総所得金額
を一億〇、四六三万八、四一〇円、納付すべき税額を三、二一一万五、七〇〇円と
する旨の更正の請求をしたが、この更正の請求はおおむね認められ、被告は、同月
一五日、別表(一)の「(ロ)更正処分」欄記載のとおり、総所得金額を一億〇、
四六三万八、四一〇円、納付すべき税額を三、二一四万六、四〇〇円とする更正処
分をした。
(三) ところが、同月二八日、前記1(第一次的請求)の(一)、(二)記載の
とおり、原告の関与しない間に、原告名義の修正申告書が提出された。
(四) 被告は、同年七月九日、原告に対し、右修正申告書の内容に対応する増差
税額一二三万三、六〇〇円について、過少申告加算税六万一、六〇〇円の賦課決定
処分(以下、本件(一)の処分という。)を行い、同処分は、同月一〇日、原告に
送達された。
(五) 原告は、同年八月一〇日、右修正申告書提出の事実を知り、総所得金額を
一億〇、四六三万八、四一〇円、納付すべき税額を三、二一四万六、四〇〇円とす
べき旨の更正の請求(別表(一)の「(ロ)更正処分」の金額と同じ)をしたが、
被告は、同年九月一三日、右更正の請求に対し、更正をすべき理由がない旨の処分
(以下、本件(二)の処分という。)をした。
(六) そこで、原告は、本件(一)及び(二)の各処分に対し、同年一一月一四
日、被告に異議申立てをしたところ、被告は、同五三年一月二〇日これをいずれも
棄却したので、さらに、同年二月二三日国税不服審判所に審査請求をしたところ、
同所は、同年一二月二五日、右審査請求のうち本件(二)の処分についての審査請
求を棄却し、本件(一)の処分にのついて審査請求を却下した。
(七) 被告が本件(一)及び(二)の各処分をしたのは、前記1(第一次的請
求)の(三)記載のとおり、原告が福岡方面等へ旅行した際サンライズ貿易が原告
に支出した本件旅費五二四万八、七五九円を同社の業務のために必要であつたとは
認められないとして否認(前記のとおり名古屋国税局及び東京国税局はこれを貸付
金、豊島税務署はこれを賞与とそれぞれ認定)し、昭和五一年三月に右金額が原告
に賞与として支給されたものとして、原告の昭和五一年分の給与所得金額を五、三
四九万七、三七四円と認定したことによるものであるが、原告の同年分の給与所得
は四、八七七万三、四九一円であつたから、被告の本件(一)及び(二)の各処分
には、原告の所得を過大に認定したうえでなした違法がある。
よつて、右各処分の取消しを求める。
二 被告の本案前の主張
1 (修正申告の無効確認を求める訴えの適否)
納税申告は、納税義務者が自己の納税義務の具体的内容を確認したうえ、これを税
務官庁に申告することによつて、その申告による納税債務の実現を図るものであつ
て、右申告行為自体は、納税義務者と課税権者との間に具体的租税債権債務関係を
発生させるための前提たる一つの法律要件該当事実に過ぎない。したがつて、納税
申告の無効確認を求める訴えは、法律関係そのものの存否(租税債権債務関係の存
否)の確認を求めるものではないから、訴えの利益を欠き不適法である。
なお、納税申告は、公法関係における行為ではあるが、私人の行う行為であつて、
行政事件訴訟法三条にいう行政庁の公権力の行使といえないことはもとより、右と
同視しうる場合にあたるともいえないから、納税申告の無効確認を求める訴えを同
条四項の無効確認の訴えとして適法とみることもできないことは明らかである。
したがつて、修正申告が無効であることの確認を求める原告の訴えは不適法であ
る。
2 (過少申告加算税の賦課決定処分の取消しを求める訴えの適否)
被告が昭和五二年七月九日付けでした原告の昭和五一年分の所得税についての過少
申告加算税の賦課決定処分(本件(一)の処分)に対する国税通則法七五条一項一
号の異議申立ては、同法七七条一項により、処分があつたことを知つた日の翌日か
ら起算して二月以内にしなければならないとされているところ、右処分は、昭和五
二年七月一〇日原告に送達されているのであるから、原告は、右処分に不服があれ
ば同年九月一〇日までに被告に異議申立てをすることを要したのである。にもかか
わらず、本件において、原告が被告に異議申立てをしたのは同年一一月一四日であ
るから、右申立ては、異議申立期間を徒過した不適法なものであり、国税不服審判
所は、翌五三年一二月二五日、そのことを理由として審査請求を同法七五条三項に
より不適法却下した。
国税通則法一一五条一項本文は、訴えの提起についていわゆる不服申立前置主義を
定めているが、この場合、訴え提起に先立つて経由することを要する裁決とは、実
体的に不服申立ての理由の有無について判断したものであることを要し、本件のよ
うに、不服申立てが不服申立期間経過後にされた不適法なものであつてそれを理由
に却下されたような場合には、不服申立前置の要件を具備したものということはで
きないというべきである。
したがつて、右処分の取消しを求める部分の訴えは、法律の定める訴訟要件を欠く
ことになり不適法である。
三 被告の本案前の主張2に対する原告の反論
本件(一)の処分に対する原告の異議申立てが異議申立期間を徒過してなされたこ
とは認めるが、加算税は、本税の課税が正当である場合に是認されるべき付随的性
質のものであるから、本件のように、本税についての計算根拠が争われており、本
税についての請求が認められれば、加算税もその根拠を失うような場合には、論理
の当然として右処分も取り消されるべきであるから、その取消しを求めることは適
法であるというべきである。
四 請求原因に対する認否
1 請求原因1(第一次的請求)の(一)の事実は認める。
2 同1の(二)の事実のうち、被告職員が修正申告書の提出を督促したことは認
めるが、原告の知らない間に修正申告書が提出されたとの点は否認する。その余の
事実は知らない。
3 同1の(三)の事実のうち、原告が福岡方面へ旅行したこと、被告がサンライ
ズ貿易の支出した本件旅費を否認して原告の所得と認定し、修正申告書の提出を督
促したことは認めるが、原告が右修正申告に応ずる意思を有していなかつたとの点
は争う。
4 請求原因2(第二次的請求)の(一)及び(二)の事実は認める。
5 同2の(三)の事実のうち、修正申告書の提出が原告の関与しない間になされ
たとの点は否認し、その余は認める。
6 同2の(四)、(五)、(六)の事実は認める。
7 同2の(七)の事実のうち、被告の各処分に原告の所得を過大に認定してなし
た違法があるとの点は争う。
五 被告の主張
1 原告は、昭和五一年分の所得税について、昭和五二年三月一五日、別表(一)
の「(イ)確定申告」欄記載のとおりの確定申告をしたが、同年六月二日、その申
告に誤りがあつたとして、総所得金額を一億〇、四六三万八、四一〇円、納付すべ
き税額を三、二一一万五、七〇〇円とすべき旨の更正の請求をしたので、被告は、
同月一五日、別表(一)の「(ロ)更正処分」欄記載のとおりの更正処分をした。
2 ところが、同月一三日東京国税局管内豊島税務署から回付されてきた通報によ
り、被告は、サンライズ貿易が原告に支出した本件旅費(別表(二)の(1)及び
(2)記載の金員合計五二六万三、七五九円のうちの五二四万八、七五九円)が原
告に対する賞与にあたると判断したので、同月二〇日、被告の職員が、右金員につ
いて所得の申告をするよう勧奨したところ、原告は、同月二八日、別表(一)の
「(ハ)修正申告」欄記載のとおり、給与所得に係る収入金額に本件旅費五二四万
八、七五九円を増額し、源泉徴収税額も二三〇万九、四五三円加算して三、〇六一
万五、九九〇円とする修正申告書を提出した。
3 そこで、被告は、同年七月九日、右修正申告に伴う増差税額一二三万三、六〇
〇円に対し、本件(一)の処分をした。
4 被告がサンライズ貿易の支出した本件旅費を原告の昭和五一年分の所得と認定
し、その申告を勧奨した理由及び原告の修正申告提出の経緯は次のとおりである。
(一) (サンライズ貿易の法人税調査について)
(1) 原告は、昭和四二年七月設立された朝日物産株式会社の代表取締役であつ
たが、同四六年八月同社が解散してサンライズ貿易(当時の商号は株式会社サンラ
イズ)に吸収合併された後は、経営の役職にはついていなかつた。
(2) ところが、サンライズ貿易の昭和四六年四月から同四七年三月までの事業
年度の法人税調査において、同社が原告に支出した本件旅費のうちの別表(二)の
(1)記載の金員二七七万四、二五九円について、名古屋国税局は、原告は同社の
株主ではあつたが、同社の取締役でも従業員でもなく、業務の委任を受けたもので
はなかつたこと、福岡には同社の支店出張所はなく、原告の出資する同業の株式会
社ゼネラル貿易及びオリエント貿易株式会社(以下、それぞれ、ゼネラル貿易、オ
リエント貿易という。)等があるたけであり、原告の旅行はこれらの会社のためで
あつたことなどを理由として、右旅費をサンライズ貿易の業務に関係のあるものと
認めず、その損金性を否認し、原告に対する貸付金と認定した。
(3) また、昭和四七年四月から同四八年三月までの事業年度の法人税調査にお
いて、同社が原告に支出した本件旅費のうちの別表(二)の(2)記載の金員二四
七万四、五〇〇円についても、東京国税局は、右(2)と同様の理由で、その損金
性を否認し、原告に対する貸付金と認定した。
(4) なお、本件旅費を原告に対する貸付金と認定するについては、サンライズ
貿易も自認了承しており、同社は、被告に対し、右金員を貸付金として原告から回
収する旨申し出たばかりでなく、その後の法人税申告書においては、直ちに帳簿外
の「貸付金」と表示する措置をとつたものである。
(二) (サンライズ貿易の源泉所得税調査について)
(1) 豊島税務署は、昭和五一年八月ころ、サンライズ貿易の源泉所得税調査を
行つたが、同社の原告に対する前記旅費否認に伴う貸付金(別表(二)の(1)及
び(2)記載の金員合計五二四万八、七五九円)について、長期間経つても原告か
らの返済が全くない、同社が長期間経つのに決算書に表示せず、帳簿外としてい
る、原告より利息を徴することもしていない、原告に対し返済を請求しうるにもか
かわらず、四年余りの間一度も請求をせず、また、請求する意思もなく回収を断念
している状態であることなどから、もはやその貸付金債権を放棄したものであり、
結局、同社が原告に債務免除の利益を与えたことになると判断し、原告に賞与が支
給されたのと同様であつて源泉所得税を課すべき場合にあたると認定した。
また、右の賞与の支給時期については、右調査時にすでに債権放棄の状態にあつた
ので、その時期に最も近く結了していた昭和五〇年四月から同五一年三月までの事
業年度期間中に支給されたものと認定すべきところ、支給日を確定できないため、
所得税基本通達の「支払確定日が不明の場合には事業年度末とする。」との取扱い
により、年度末の昭和五一年三月に支給されたものと認定したものである。
(2) なお、税法上の収入金額とは、経済的利益の価額を含むものであり、経済
的利益には債権の放棄に伴う債務の免除を含む(所得税基本通達)と解されるとこ
ろ、こうした債権の放棄がある場合に、一般的には、これを貸倒金と認めたり、贈
与と認めたりすることもあるが、本件のように、報酬または給与を受給している者
が別途右のような経済的利益を受けている場合には賞与と認定するのが相当であ
る。
(3) その後、豊島税務署は、サンライズ貿易に対し、右賞与の支給について原
告から源泉所得税二三〇万九、四五三円を徴収すべき旨の納税告知を行つたが、同
社もこの点については異論がなく、右源泉所得税の徴収、納付を済ませたものであ
る。
(三) (修正申告書提出の経緯について)
被告は、昭和五二年六月一三日、豊島税務署から回付されてきた通報により、原告
の昭和五〇年分及び同五一年分の所得税について修正申告をする必要を認めたの
で、同月二〇日、被告の職員である当時の所得税調査担当特別国税調査官付上席国
税調査官Dから原告の税務代理をしていたA公認会計士に電話を入れたところ、同
人は不在で、使用人のBが応対に出たので、同人に修正申告書の提出を勧奨したと
ころ、検討する旨の回答があり、その後、同調査官のもとに右Bが原告の関係会社
の使用人らしい者を同伴し来訪したので修正申告の必要がある旨説明し、同人らに
求められて修正申告の所定の用紙に修正した税額の計算をして手交したところ、同
月二八日、原告の記名捺印のなされた右修正申告書の提出がなされたものである。
5 原告は、右修正申告が誤りであつたとして更正の請求をしたが、以上に述べた
とおり、右修正申告の内容には何ら誤りはないのであるから、被告が原告の更正の
請求に対し本件(二)の処分をしたこと及び右修正申告に伴う増差税額について本
件(一)の処分をしたことは正当である。
六 被告の主張に対する原告の認否
1 被告の主張1の事実は認める。
2 同2の事実は、原告が修正申告書を提出したとの点を除き、認める。
3 同3の事実は認める。
4 同4の(一)の(1)、(2)、(3)の事実は認める。同4の(一)の
(4)の事実は争う。
同4の(二)の(1)の事実は認める。同4の(二)の(2)の事実は争う。同4
の(二)の(3)の事実は、サンライズ貿易に異論がないとの点を除き、認める。
同4の(三)の事実のうち、昭和五二年六月一三日豊島税務署から原告についての
通報が回付されてきたことは知らない。国税調査官Dが所得申告勧奨のため、同月
二〇日、A公認会計士事務所に電話を入れたところ、同会計士が不在であつたこ
と、同会計士の使用人Bが応対したこと、同月二八日に原告名義の修正申告書が提
出されていることはそれぞれ認めるが、その余は争う。
5 同5については争う。
七 被告の主張に対する原告の反論
1 原告がサンライズ貿易から支給を受けた本件旅費五二四万八、七五九円は、福
岡方面等に旅行した旅費交通費として現実に支弁されており、原告の財産を構成し
ていないのであるから、右旅費を原告の所得と認定するのは不合理である。
2 被告は、原告がサンライズ貿易から支給を受けた本件旅費を同社の業務に関係
がないとしてその損金性を否認したが、右認定は、次のような理由から不合理であ
る。
(一) 被告は、まず、原告がサンライズ貿易の取締役でも従業員でもなく、ま
た、業務の委任を受けたものでもないので、右旅費は同社の業務に必要なものであ
つたとは認められないと判断しているが、税法上損金扱いとする経費の対象として
いるのは、取締役とか従業員とかの形式的名称を有しているかどうかではなく、法
人税法二条一五号の「役員」に当たるかどうかであるから、原告が右「役員」に当
たるかどうかを検討することなく、被告が、形式的に取締役、使用人、業務委任者
のいずれにも当たらないとしてその損金性を否認したのは、法人税法の総則的定義
たる「役員」の解釈を無視したものである。すなわち、法人税法二条一五号によれ
ば、「役員」とは、「法人の取締役、監査役、理事、監事および清算人ならびにこ
れら以外の者で法人の経営に従事している者のうち政令で定めるものをいう。」と
規定されており、右の「法人の経営に従事している者のうち政令で定めるもの」と
は、純然たる法人の使用人以外の者でその法人の経営に従事している者すなわち相
談役、顧問、その他これらに類する者でその法人内における地位や職務等からみて
他の役員と同様実質的に法人の経営に従事していると認められる者が含まれると解
されるところ(法人税法施行令七条一項、法人税基本通達、なお、旧法人税通達で
は「総裁、副総裁、会長、副会長、理事長、副理事長、組合長、副組合長その他こ
れらの者に準ずる者で取締役または理事でないものが該当するとされていた。)、
原告は、「会長」または「オーナー」としてサンライズ貿易の実質的経営に従事し
ていたものであるから、右にいう「役員」に該当するというべきである。
なお、原告は、昭和四七年三月三一日現在及び同四八年三月三一日現在家族らの持
株と合わせてサンライズ貿易の全株式の過半数を所有していたが、このことは原告
が同社を実質的に支配していたことを示しているばかりでなく同社の経営上の重要
事項の意思決定が必ず原告の承認のもとに統轄されていたこと、外形的事実として
原告が執務するときは社長室を使用しており、また、乗用車も同社所有のリンカー
ンを使用していたことも、原告が同社の実質的経営に従事していた事実を裏付ける
ものである。
被告は、サンライズ貿易の昭和四八年四月一日から同四九年三月三一日までの事業
年度における同社に対する法人税額等の更正通知書においては、原告を「職制上会
長、法人税法施行令七条規定の役員に該当」と判定しているだけでなく、原告に使
用人部分があることを認め、その部分について比準者をE財務部長とする賞与の加
算もれの更正をしているが、このように、被告が原告に対する経済的利益たる賞与
認定をする際には原告を法人税法上の役員(または使用人)と認定しながら、他
方、その原告に対し、サンライズ貿易が旅費を支出しても同社の業務のためのもの
としては認めないというのは、ご都合主義の理論であつて、とうてい納得できな
い。
被告は、また、原告が同社から何らの業務委託を受けていなかつたと主張するが、
原告は、同社から毎月三〇万円の報酬の支給を受けて関係会社間の統轄を行つてい
たものである。
(二) さらに、被告は、福岡には、サンライズ貿易の支店出張所はなく、原告の
出資するゼネラル貿易等の関連会社があるだけであり、原告の福岡方面への旅行は
これら関連会社のためのものであつたことなどを理由として、サンライズ貿易が原
告に支出した本件旅費を業務に関係がないものとしたが、ゼネラル貿易、オリエン
ト貿易はいずれも商品先物取引業を営む同業者であり、商品先物取引業は、世界の
商品生産状況、投資家の動向等に大きく左右されるばかりでなく、国内にあつて
も、輸入状況、商品の生産状況、商品の市況荷動き、投資家特に仕手筋の動き、競
業者の動き、顧客の状況等、実に複雑な要素がからみ合うため、その営業を円滑に
行うためには、情報の収集、交換、人事交流等が必要であり、しかも、こうした活
動は、サンライズ貿易自身にとつて直接または間接に利益をもたらすものである。
そのため、同社は、ゼネラル貿易、オリエント貿易を含む国内八社、海外二社から
なる「朝日企業グループ」を組織し、右ゼネラル貿易、オリエント貿易とも、その
同じ構成員として不断に緊密な業務連携を行つていたほか、その営業資金を融通す
るなどその相互の発展を図つていたものであつて、これら関連会社への業務指導あ
るいはこれらの会社との業務上の連絡、情報交換等のために原告が福岡方面へ出張
するについて、サンライズ貿易がその旅費交通費等を負担したのは当然のことであ
つた。
にもかかわらず、被告が、福岡に同社の関連会社のあることを認めながら、これら
関連会社への原告の旅行を同社の業務に関係がないとして否認したのは、近代経済
社会の機構を無視し、営業者の営業に関連する社会的活動を否定するものであつて
不当である。
3 被告は、さらに、名古屋国税局及び東京国税局が本件旅費を原告に対する貸付
金と認定したことを是認しているが、右認定も、次のとおり不合理である。
すなわち、仮に、本件旅費がゼネラル貿易等の関連会社のためのものであるとして
も、サンライズ貿易は、前記のとおり、右関連会社とは同じ「朝日企業グループ」
の構成員として緊密な業務連携を行つているのであるから、関連会社のための費用
をサンライズ貿易がその経理から支出し、これを同社自身の損金としたとしても、
関連会社が右費用を損金として二重に計上しない限り国の租税収入全体としては何
らの損害も生じないはずであつて、その損金性を否認する必要はないと考えられる
ばかりでなく、仮に、そうした便宜的な処理を認めず、右費用については関連会社
との間で合理的に配分すべきであるとしても、その会計的処理としては、サンライ
ズ貿易の関連会社への立替金と認定してサンライズ貿易の行為計算上その損金性を
否認すれば足り、わざわざ原告個人に対する貸付金と認定する必要はなかつたはず
である。
また、もし、右旅費を貸付金と認定するにしても、それは、本来ゼネラル貿易等の
関連会社の負担すべき費用であるから、原告個人に対する貸付金ではなく、これら
関連会社に対する貸付金とするのが適切であつたというべきである。
さらに、被告が、本件旅費についてその損金性を否認し、原告の所得と認定するの
であれば、その所得の帰属年度は、否認年度である昭和四六年分及び同四七年分と
すべきであつて、昭和五一年分の所得として課税するのはその原因を欠き、違法で
ある。にもかかわらず、名古屋国税局及び東京国税局が、否認年度においては貸付
金というあいまいな形で処理し、結局は、豊島税務署が昭和五一年三月分の賞与と
認定するに至つたことは、行為計算否認についての適正を欠くものであるだけでな
く、原告に対する貸付金とした当初の認定が不合理であることを意味するものであ
る。
4 被告は、また、豊島税務署が右貸付金を賞与と認定したことを是認している
が、右賞与の認定も次のような点から不合理である。
(一) すなわち、被告は、サンライズ貿易の原告に対する本件旅費の損金性を否
認した理由として、原告が同社の取締役でも従業員でもなく、また、業務の委任を
受けたものでもなかつたことを挙げているが、右理由は、前記2の(一)に記載し
たとおり、本件旅費を原告に対する経済的利益供与として賞与認定する際には、原
告が法人税法施行令七条一項規定の役員に該当すると判定していることと理論的に
一貫性を欠くばかりでなく、こうした認定を認めることは、結局、本件旅費の損金
性を否認して右金員につきサンライズ貿易に課税すると同時に、さらに、これを原
告に対する賞与として原告に二重課税することを認める結果となり、不当である。
(二) また、被告が貸付金を賞与と認定するにあたつても、サンライズ貿易の代
表取締役の意思を確認することなく、債権の回収を長期間放置しているとか黙示に
よる債権放棄または債務免除があつたとかの独善的な判断をもつて経済的利益供与
があつたとしているのも不当である。
(三) 被告は、さらに、サンライズ貿易が原告に支出した本件旅費(昭和四六年
四月一日から同四七年三月三一日事業年度否認分二七七万四、二五九円、同四七年
四月一日から同四八年三月三一日事業年度否認分二四七万四、五〇〇円合計五二四
万八、七五九円)を同社の昭和五一年四月一日から同五二年三月三一日までの事業
年度の法人税額等の更正通知書の「翌期首現在利益積立金額欄」に、原口厚生に対
する貸付金三六三万円及びゼネラル貿易に対する貸付金五八〇万二、九〇〇円と合
わせた合計一、四六八万一、六五九円の貸付金として計上しているが、このこと
は、被告が昭和五二年三月三一日現在においても右旅費を原告に対する貸付金とし
て認めていることを意味するのであるから、右貸付金を同五一年三月分の賞与と認
定したことは矛盾しているというべきである。
被告が、もし、右貸付金を否認して賞与と認定するのであれば、賞与と認定した金
額を右積立金額の貸付金の金額から除外すべきであり、その場合、その計算の根拠
は法人税法によるものであるから、その手続が適正に行われておれば、法人税の更
正通知と同時に、積立金額欄の貸付金を変更すべき旨も通知されたはずである。に
もかかわらず、本件において、源泉所得税の納税告知がなされ、その徴収、納付が
終了した後になつても右貸付金がそのまま残存していたのは、源泉税調査官が右貸
付金の処理について、法人税法上の適正な手続を踏まず、安易に所得税法を根拠と
する源泉所得税の納税告知のみを行つた違法があるからである。
八 原告の反論に対する被告の再反論
1 原告は、サンライズ貿易の原告に対する旅費支給の正当性の理由として、イ、
原告は法人税法上の「役員」とみなされる「会長」または「オーナー」であるこ
と、ロ、原告及びその親族の持株が多いこと、ハ、サンライズ貿易の重要事項の意
思決定は原告のもとに統轄され、原告は、執務は社長室を用い、乗用車も同社の最
高級車を使用していること、ニ、同社から毎月高額の報酬を受けていること、ホ、
本件旅費交通費の支給は、その出張先に関連会社があり、業務連携上の種々の用務
があつたこと、などを挙げているが、これらの理由のうち、イないしニは、原告が
実質的にサンライズ貿易の経営に従事していたことを裏付ける事実であるにとどま
り、右旅費の支給が同社の業務のために必要であつたことを直接裏付けるものでは
ない。このことは、原告がサンライズ貿易の経営に従事していたことをもつて、原
告のすべての旅行を同社の業務に必要な旅行ということができないことからも明ら
かである。
また、ホのような理由が実際に存在したのであれば一応合理的な説明といえるが、
原告の主張する関連会社たるゼネラル貿易及びオリエント貿易は、原告にとつては
大株主としての深いつながりがあるにせよ、サンライズ貿易とは単に同じ大株主を
もつ同業社にすぎないものであつて、これら関連会社の業務指導等のための諸費用
を同社が負担する筋合いはないというべきである。特に、オリエント貿易は、昭和
四七年一二月にその前身である株式会社豊栄の株式を原告ら個人がFから買収し、
その後昭和四八年一月五日オリエント貿易株式会社に商号変更したものであり、少
くとも昭和四七年一二月までの同社についての指導及び買収の用務は、サンライズ
貿易にも同社の関連会社にも関係のない原告個人の会社株式買収のための用務と考
えられるから、これらの費用はサンライズ貿易を含む関連会社が負担すべきもので
はない。
2 また、原告は、本件旅費を否認するとしても、原告個人に対する貸付金とする
のは妥当ではなく、関連会社に対する立替金として処理すべきであつたと主張する
が、仮に、サンライズ貿易にとつて同社を含む関連会社間の経営に関する打ち合
せ、統轄、連絡等が必要であり、原告の本件旅費がそのためのものであつたとすれ
ば、同社においてその証拠を示すなり実情を話すなりして同社の業務のために必要
であつた旨を合理的に説明し、右旅費を関連会社に対する立替金として処理したい
旨申し出ることも可能であつたにもかかわらず、同社の経理部長らは、そうした説
明も申し出もせず、原告個人に対する貸付金として処理する旨を申し出たのであつ
て、このことは、同社が本件旅費を検討した結果、同社とは無関係の費用であり、
原告個人が負担すべきであると判断したからにほかならない。
また、同社が本件旅費について貸付金として処理することを選択した以上、右金額
を昭和四六年及び同四七年度において原告の所得とすることは妥当とは考えられな
い。
なお、右旅費がサンライズ貿易を含む関連会社のために必要であつたとしても、そ
の費用を同社一社が負担することは不合理であり、関連会社間で合理的な方法によ
り配分すべきところ、本件においても、もし、そうした費用であれば、いつたんは
原告に対する貸付金とし、その後関連会社からその負担分を徴収して右貸付金を精
算することも可能であつたと考えられるにもかかわらず、同社がそうした措置をと
らずに放置していたことは関連会社への立替金処分もできない事情が存在したので
はないかと考えられる。
3 原告は、また、貸付金と認定された本件旅費五二四万八、七五九円がサンライ
ズ貿易の法人税額等の更正通知書の「翌期首現在利益積立金額」欄に昭和五二年三
月三一日現在まで計上されたままになつている点をとらえて、右貸付金を賞与と認
定したことの合理性を攻撃するが、被告が右貸付金を賞与と判断した理由は、サン
ライズ貿易と原告との実質的な関係すなわち原告が実質上同社の経営に従事してい
たとの点及び実質的にみて貸付金の放棄がなされたとの点にあるのであるから、貸
付金放棄後の同社の積立金額欄に貸付金が計上されていたとしても、右貸付金の放
棄を賞与と認定した判断に直接関係するものではない。確かに、賞与認定がなされ
源泉所得税の納税の告知がなされた後は、サンライズ貿易の積立金計算からは原告
に対する右貸付金は除外されるべきものではあるが、申告納税制度の建て前からす
れば、同社において右貸付金を除外する旨の申告をすべきものである。
第三 証拠(省略)
○ 理由
第一次的請求について
被告は、本案前の主張として、修正申告の無効確認を求める原告の第一次的請求は
訴えの利益を欠き不適法である旨主張するので、まず、この点について判断する。
1 原告の昭和五一年分の所得税について、昭和五二年六月二八日、被告に対し、
別表(一)の「(ハ)修正申告」欄記載の金額を内容とする原告名義の修正申告書
が提出された事実は、当事者間に争いがない。
2 ところで、右修正申告が原告の知らない間に提出されたものであるかどうかの
点についての判断はさておき、そもそも、修正申告は、既に納税申告書を提出をし
た納税義務者が、その申告に係る税額が過少であることを理由として当該税額を修
正するためにする納税申告の一種であつて、右申告により、新たに納付することに
なつた税額に係る納税義務を確定させ、その申告による納税債務の実現を図るもの
ではあるが、その申告行為自体は、納税義務者と課税権者間の具体的租税債権債務
関係を発生させるための前提たる一つの法律要件該当事実に過ぎず、右修正申告に
よつて当然に最終的な租税債権債務が決定されるものではない。
したがつて、右修正申告の無効確認を求める訴えは、法律関係そのものの存否の確
認を求めるものではないから訴えの利益を欠き不適法というべきである。
なお、修正申告を含めた納税申告は、被告の主張するとおり、いわゆる私人の公法
行為といわれるものであつて、行政庁の公権力の行使といえないことはもとより、
これと同視しうる場合にあたるともいえないことが明らかであるから、その申告の
無効確認を求める訴えを、行政事件訴訟法三条四項に規定する「無効等確認の訴
え」として適法なものと認めることもできないというべきである。
したがつて、右修正申告の無効確認を求める原告の第一次的請求は、その余の点に
ついて判断するまでもなく、不適法な訴えとして却下すべきである。
二 第二次的請求について
1 被告は、同じく本案前の主張として、原告の第二次的請求のうちの過少申告加
算税の賦課決定処分(本件(一)の処分)の取消しを求める部分が国税通則法一一
五条一項に定める不服申立前置の要件を欠き不適法である旨主張するので、この点
について検討する。
(一) 原告の昭和五一年分の所得税について、昭和五二年六月二八日、原告名義
の修正申告書が提出され、被告が、同年七月九日、右修正申告書の内容に対応する
増差税額一二三万三、六〇〇円について、本件(一)の処分を行い、同処分が同月
一〇日原告に送達されたこと、原告が右処分に対し正式に異議申立てをしたのは、
同年一一月一四日であつて、国税通則法七七条に定める異議申立期間(原則として
処分があつたことを知つた日の翌日から起算して二月以内)を既に経過していたこ
とは、いずれも当事者間に争いがない。
(二) ところで、国税通則法一一五条一項本文によれば、国税に基づく処分で不
服申立てをすることができるものの取消しを求める訴えは、異議申立てをすること
ができるものにあつては異議申立てについての決定を、審査請求をすることができ
る処分にあつては審査請求についての裁決をそれぞれ経た後でなければ、提起する
ことができないとされており、本件(一)の処分は、右の異議申立てのできる処分
に該当することが明らかであるから、一般的には、その取消しを求める訴えが適法
であるためには、右処分に対し適法な異議申立てを行い、それについての決定を経
たことを要するのはいうまでもない。したがつて、本件(一)の処分についても、
その処分だけを独立に訴訟で争うのであれば、その処分についての異議申立てを右
の異議申立期間内に適法に行う必要があり、それに違反して、後日、右処分の取消
しを求める訴えを提起したとしても、その訴えは不服申立前置の要件を欠くものと
して不適法といわなければならない。
(三) ところが、本件においては、原告は、右処分の基礎となつた修正申告それ
自体に対し、その申告が自己の知らない間になされたものであること等を理由に更
正の請求をしており、その請求は、前記異議申立期間内である昭和五二年八月一〇
日になされていること、その後、右更正の請求については同年九月一三日被告によ
り更正をすべき理由がないとの処分(本件(二)の処分)がなされたが、原告は、
同年一一月一四日、右処分に対し適法に異議申立てをするとともに、同日、前記本
件(一)の処分についても合わせて異議申立てをしたこと、がそれぞ認められ(こ
れらの点はいずれも当事者間に争いがない。)、こうした経過に鑑みると、原告
は、本件(一)の処分の基礎たる修正申告自体についての更正請求をしたことによ
り、納税申告が適正になされなかつた場合に課せられる制裁税の一種たる本件
(一)の処分についても合わせてその是正を期待したことが推認されるから、同処
分自体について事前に適法な異議申立てを経由しなかつたとしても、そのことをも
つて直ちに国税通則法一一五条一項の不服申立前置主義に違反するものとはいえ
ず、むしろ、同条一項三号後段の「決定又は裁決を経ないことに正当な理由がある
とき」に該当するものと認めうるというべきである。
したがつて、本件(一)の処分の取消しを求める訴えが不適法であるとの被告の本
案前の主張は、本件については採用することができず、同処分は、結局、その基礎
たる修正申告に対する本件(二)の処分とともにその正当性の有無が判断されるべ
きである。
2 そこで、次に、被告が昭和五二年七月九日に行つた本件(一)の処分及び同年
八月一〇日に行つた本件(二)の処分が正当であるかどうかについて検討する。
(一) まず、請求原因2(第二次的請求)の(一)、(二)、(四)、(五)、
(六)の各事実は当事者間に争いがない。
また、同2の(三)の事実のうち、昭和五二年六月二八日に原告名義の修正申告書
が提出されたこと及び同2の(七)の事実のうち、被告が本件(一)及び(二)の
各処分を行つた根拠が、サンライズ貿易の原告に対する本件旅費五二四万八、七五
九円を同社の業務に関係がないとして否認し、結局原告の昭和五一年分の所得(給
与所得)と認定した点にあることも当事者間に争いがない。
(二) ところで、被告は、被告の主張4の(一)の(2)記載の理由により、本
件旅費をサンライズ貿易の業務に関係がないとして否認し、右旅費に相当する金員
を原告の昭和五一年分の給与所得と認定したが、原告が本件旅費支出の原因となつ
た福岡方面への旅行をしたこと自体は当事者間に争いがない事実であるところ、成
立に争いのない甲第八、九号証、第一〇号証の一ないし八、第一一号証の一ないし
四、第一二号証の一ないし五、第一三号証の一ないし六、第一四号証、第一五号証
の一、二、第一六号証の一ないし三、第一七号証の一、二、第二一号証、証人G、
同Hの各証言及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告がサンラ
イズ貿易の単なる株主にとどまらず、同社の「オーナー」または「会長」としてそ
の実質的な経営に従事しており、同社から毎月三〇万円位の報酬を支給されていた
こと、福岡方面に同社の支店出張所はなかつたが、福岡には同社を含む国内八社、
海外二社からなる「朝日企業グループ」の構成会社であるゼネラル貿易、オリエン
ト貿易等の関連会社があり、原告の福岡方面への旅行は、サンライズ貿易とこれら
関係会社との連絡、関連会社の業務指導等のためのものであつたこと、サンライズ
貿易とこれら関連会社は、一応、別個の会社ではあるが、同じ「朝日企業グルー
プ」の構成員として、営業に必要な情報の交換、人事交流等を行つていたばかりで
なく、資金の融資関係もあつたから、原告の関連会社への右のような用務は、単に
関連会社の利益のためというだけではなく、サンライズ貿易にとつても直接または
間接に利益をもたらすものであつたこと、がそれぞれ認められるから、これらの事
実を総合すると、サンライズ貿易が原告に支出した右旅費は、一応、同社の業務に
必要なものであつたと推認するのが相当であり、被告がその点についての判断を異
にしてこれを原告の給与所得としたのは、旅費の必要性についての判断を誤り、原
告の昭和五一年分の所得を過大に認定した違法があるというべきである。(もつと
も、本件旅費の中には、昭和四七年一〇月一八日に支出された海外旅費四五万七、
五〇〇円が含まれており、この旅費がサンライズ貿易にとつて業務上必要なもので
あつたかどうかは必ずしも明確でないが、本件弁論の全趣旨によれば、被告は、右
旅費についても、福岡方面への旅費と同様、原告が同社の取締役または従業員でな
いことを主たる理由としてその業務との関連性を否認したことが推認されるから、
既に判示したとおり、原告が同社の「オーナー」または「会長」としてその経営に
従事していたことが認められる以上、被告が右のような理由に基づいてのみ右海外
旅費を否認したのであれば、その認定はやはり不十分というべきであり、福岡方面
への旅行に支出された金員と同様、右旅費を当然には原告の所得と認定することは
でぎないというべきである。)
なお、被告は、本件旅費が業務上必要なものであつたとすれば、サンライズ貿易に
おいて実情を話すなどしてその必要性についての合理的な説明をすべきであつたの
に、同社がそうした説明をせず、原告に対する貸付金として処理する旨を申し出た
のは、右旅費が同社の業務と無関係のものであつた証左であると主張するが、仮
に、サンライズ貿易がそうした処理を申し出た事実があるとしても、右のような申
し出のなされたこと自体は、同社自身が貸付金としての処理を承諾していた事実を
推認させるにとどまり、原告に対する関係においてまで右のような処理をしたこと
が当然適法視されるわけではない。したがつて、この点に関する被告の主張は採用
できない。
3 以上の事実によれば、前記2の(二)に記載のとおり、本件旅費五二四万八、
七五九円は、サンライズ貿易の業務に必要な旅費として支給されたと認めるのが相
当であつて、その余の点について判断するまでもなく、右旅費を原告に対する貸付
金とした名古屋及び東京国税局の判断並びに賞与とした豊島税務署の判断をそのま
ま是認し、原告の昭和五一年分の給与所得とした被告の認定には、原告の同年度の
所得を過大に認定した違法があるというべきである。
したがつて、右認定を前提として行つた被告の本件(一)及び(二)の各処分が違
法であることは明らかであり、右各処分の取消しを求める原告の第二次的請求は理
由がある。
三 結論
よつて、原告の本訴請求のうち、第一次的請求は不適法としてこれを却下し、第二
次的請求は理由があるものとしてこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき
行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 柴田和夫 寺尾 洋 亀田廣美)
別表(二)(省略)

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