弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件再抗告を棄却する。
         理    由
 再抗告の理由は末尾添付の再抗告理由書記載のとおりである。
 第一点について、
 民事訴訟法第二百七条において決定及び命令にはその性質に反しない限り判決に
関する規定を準用する旨定めていることは所論のとおりである。しかし民事訴訟法
第百九十一条において判決につき事実及び争点並びに理由の記載を要求しているの
は、判決が当事者の主張する事実に基き争点につき判断を与えその権利義務を終局
的に確定するものであることによると解されるのであるから、これとその重要性に
おいても審判の方式においても必ずしも同じでない決定及び命令につき右規定がそ
のまま準用されるべきものと解することはできないのであり、本件のような確定さ
れた権利関係の実現のための執行手続の段階における異議申立に対する裁判におい
て事実及び争点の記載をしなくても必ずしも違法とはいえず、またその理由につい
ても事案に応じ簡略に記載するを妨げないものと解すべきである。本件において第
一審横浜簡易裁判所の決定には事実及び争点の記載がなく、また異議申立却下の理
由として「申立人からなされた異議申立は理由なきものと認め」と記載されている
に過ぎないことは記録により明らかであるけれども、同時に記録によれば同裁判所
は再抗告人主張の事由はすべて執行文付与に対する異議の事由となり得ないものと
して各事由につき逐一判断を加えることなくこれを排斥したものと解することがで
きるので、上来説示したところに照し右決定を違法とすべきではなく、これ同趣旨
の原決定は相当であり、民事訴訟法第二百七条を無視したものとはいえず、また、
もとより憲法第三十二条に違反するものでもない。所論はすべて採用の限りでな
い。
 第二点及び第三点について
 所論は、不作為を命ずる債務名義に基き不作為義務に違反した物的状態を除去す
る強制執行において、右不作為義務違反の事実の存することは民事訴訟法第五百十
八条第二項の条件にあたるとの前提に立つて原決定を非難するものである。しかし
いわゆる不作為を命ずる債務名義においては債務者に不作為を命じているだけであ
り、その内容上義務の履行が条件にかかるものとされているとは解することができ
ず、ただ不作為義務違反の事実の生じない限り債務名義に表示された義務の不履行
は存せずその義務は履行されているといい得るのであるから執行を開始すべき要件
が具備しないという関係にあるとみるのが相当である。もつとも右の不作為義務違
反の事実の存否は一般の執行開始の要件とされているもののようにその存否の判断
が必ずしも容易であるといえない場合のあることは所論のとおりであり、所論はこ
の点からしてこれを執行開始の要件として執行機関の判断に委ねるのは相当でな
く、民事訴訟法第五百十八条第二項、第五百二十条第一項により裁判長の命令<要
旨>を得て執行文を付与する手続においてこれを審査すべきものというのである。し
かし不作為を命ずる債務名義に基く強制執行につき規定した民法第四百十四
条第三項、民事訴訟法第七百三十三条によれば、この場合執行機関を第一審受訴裁
判所とし不作為義務違反の事実の有無は右規定によるいわゆる授権決定を発する要
件として右裁判所において審査すべきものとされていることが知られるのであり、
不作為義務違反の事実の有無につき実体上の判断を要することからこれを民事訴訟
法第五百十八条第二項の執行文付与の条件と解すべきものという所論はあたらない
といわざるを得ない。
 従つて右不作為義務違反の事実の存否についての判断の当否を争うのは右のいわ
ゆる授権決定(本件においては建物取毀命令)に対する不服申立の方法によりこれ
をなすべきもので執行文付与に対する異議の事由となし得ないというほかない。よ
つて右と異る前提に立つて原決定を非難する所論はすべて採用の限りでない。
 以上述べたとおり本件再抗告は理由がないからこれを棄却すべきものとし主文の
とおり決定した。 (裁判長判事 岡崎隆 判事 室伏壮一郎 判事 安岡満彦)

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